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血液・脳関門を破る(1月8日Neuron誌掲載論文)

2014年1月11日
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炎症やがんの特異的抗体による治療が急速に拡がっている。しかし、この方法を脳内の病変の治療に利用する事は困難だった。何故なら、脳の血管が特殊な構造を持つため、投与した抗体が脳内に移行しないからで、この現象は血液・脳関門と呼ばれていた。今日紹介する論文はスイスの製薬会社Rocheの研究所からの研究で、この関門を突破する方法の開発についての報告だ。今月号のNeuron誌に掲載され、「Increased brain penetration and potency of a therapeutic antibody using monovalent molecular shuttle (一量体分子シャトルを利用した治療用抗体の脳内への移行と治療応用への可能性)」がタイトルだ。
   これまで血液・脳関門の突破のために、トランスフェリン分子を細胞の表から裏へと運ぶシャトルとしてのトランスフェリン受容体が使えるのではと予想されていた。このこのシャトルに抗体を乗せることが出来れば、関門は突破できる。しかし、残念ながらこれまで開発された方法ではうまく行かなかった。トランスフェリン受容体シャトルに抗体を乗せるための方法を改良したのがこの研究のポイントだ。受容体に乗せる目的で使う受容体結合抗体の部分をこれまでの2価から1価にして運びたい抗体に結合させると抗体が脳内に移行する事を発見した。細胞レベルの実験から、あららしい方法でシャトルに乗せた抗体は一度リソゾームに取り込まれ、その後細胞外へと放出される事で細胞外へ移行する事も示された。理由はわからないが、懸念されていたリソゾーム内での抗体の分解も最小限にとどまるようだ。これまで不可能とされて来た技術がついに開発された。この方法を、βアミロイド物質が蓄積するマウスアルツハイマー病モデルで試すと、トランスフェリン受容体に結合出来る構造を与えた抗体だけが脳内に移行し、アミロイドの蓄積により形成されるアミロイド斑の成長を抑える事を示している。もしこの方法がヒトでも使えるようになれば、脳内病変を抗体により治療できるだけでなく、脳内病変の状態をPETなどで診断する事も可能になる。勿論脳内の炎症抑制や、がんの抑制にも応用できる期待の大きい画期的技術へと発展する。ロッシュ社は抗体薬の草分けだが、またあたらしい抗体の可能性を開発したようだ。

  1. 村山康二 より:

    明けましておめでとうございます。
    本日初めてAASJのホームページを拝見し、大いに感心させられたました。特に科学報道ウオッチは科学者でなくても
    多くのサイエンスに興味を持つ人達に重宝される事を確信
    しました、今までの先生の膨大な知識を元に、最新の科学情報を一般の人に解りやすく紹介していただける企画は大いに歓迎です。今後を期待するとともに感謝です。

    1. nishikawa より:

      コメント有り難うございます。文章でわかりにくい所はニコニコ動画で解説して行きますのでそちらも見ていただければと思います。

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