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2月16日 ガン免疫も色々:低分化型漿液性卵巣ガンのケース(2月3日 Nature オンライン掲載論文)

2021年2月16日

以前エール大学岩崎さんから発表された、血中に流れる抗体は膣内には浸透できないが、局所にB細胞が移動すると抗体が膣内に分泌されるという、常識的な研究者なら見落としてしまう驚くべき研究を紹介したことがあるが(https://aasj.jp/news/watch/10382)、免疫反応の複雑性、多様性を我々に教えてくれる素晴らしい例だと思う。このことは最近の新型コロナウイルスに対する免疫反応の論文を見ていてもつくづく感じる。

今日紹介する米国フロリダにあるLee Moffittガンセンターからの論文は、ガンに対する免疫反応も同じ様に極めて多様で、例えばガン抗原を見つけてキラー細胞を誘導すれば良いとする一つの方向性だけでガン免疫を見ることの難しさを物語る例だ。タイトルは「IgA transcytosis and antigen recognition govern ovarian cancer immunity(IgAのトランスサイトーシスと抗原認識が卵巣ガンの免疫を調節している)」で、2月3日Nature にオンライン掲載された。

この研究は、我が国では比較的頻度が高い、極めて悪性で、チェックポイント治療に反応しにくい低分化型漿液性卵巣ガンの組織中に抗体を分泌するプラズマ細胞やB細胞の浸潤が認められる場合、生存期間が長いという臨床的観察から始まっている。

この観察結果をより詳しく確認するためにB細胞を発現している免疫グロブリン(Ig)クラスで分けて見直すと、B細胞やプラズマ細胞の大半がIgAを発現していること、さらにかなりの数の上皮性ガン細胞がIgAと結合していることを発見する。そして、ガン細胞上でIgAは細胞を通した輸送トランスサイトーシスに関わるPIGR分子と結合して、細胞のアピカル側からベーサル側へと細胞内を通って輸送されることを発見している。ガン全体から見ると、ガンの内部へとIgAが輸送されることになる。そして、IgAがガン内部の細胞を覆っていることが、予後と創刊する。

次の問題は、腫瘍内部へと輸送されたIgAによって、なぜ腫瘍増殖が抑えられるかだが、この点に関しては少し実験がバタバタしてクリアでない。例えば、卵巣ガン細胞をIgAと培養して細胞内へのIgAの移行が進むと、それ自体で増殖シグナルが低下し、一方で炎症性の反応が高まる。えっ、なんで!と思ってしまうが、よく読んでいくと、この効果は免疫系とNKが欠損した動物では見られない。すなわち、ガン抗原認識には関わらず、IgAとPIGRとの結合体に対するキラーT細胞による細胞障害も認められることを確認している。

この効果は特にガン特異的抗体でなくても認められるが、ガンに浸潤しているB細胞の遺伝子から再構成した抗体の方が強い活性がある。おそらくIgA抗体が腫瘍に濃縮されやすいこともあるが、さらにガンに結合したIgAが強い貪食作用を誘導して、ガンを殺す可能性。

以上の結果を私なりに総合すると、漿液性卵巣ガンでは、ガンとPIGRを介して、あるいはガン抗原を介して結合したIgAがあれば、ガンをT細胞で障害することができるということになる。要するに、特殊なタイプのADCCが起こっていることになる。

PIGRをもたない他のガンでも、ガンに結合すればIgAの方がADCC を誘導しやすいのかどうかなど調べる必要があるが、漿液性卵巣ガン特異的な現象なら、ガン免疫も様々という面白い例だと思う。

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