1月7日:恐竜の卵の孵化期間(米国アカデミー紀要掲載論文)
AASJホームページ > 2017年 > 1月 > 7日

1月7日:恐竜の卵の孵化期間(米国アカデミー紀要掲載論文)

2017年1月7日
SNSシェア
嬉しいことに、多くの方が「論文ウォッチ」を読んでいただいているのだが、「専門」と印がついていなくても、なかなか理解するのが難しい解説が多いと最近お叱りを受けることが多い。よくわかるのだが、1日1報、平日は朝6時半から書き始めて7時半まで(休日や旅行中はこれには当てはまらない)に書き上げようと思うと、どうしても生命科学科の専門家向きの文章になってしまう。これを改めるのは簡単ではないので、代わりに、病気についてのわかりやすい論文や、生物についてのおもしろ知識になりそうな論文も紹介して、ある程度批判をかわせたらと思っている。ただ、どんなに「おもしろ知識」でも、原則として(たまにそうでない場合もあるが)レフリーによる審査を通って掲載された論文に限って紹介することにしている。
   今日紹介するフロリダ大学からの論文は恐竜の卵が孵化するまでどれぐらい日数がかかるかについての研究で、一般の人にも理解しやすく楽しめる研究だ。また孵化期間だけでなく、様々な知識を得ることができる論文で、私にとっても大変勉強になった。タイトルは「Dinosaur incubation periods directly determined from growth line counts in embryonic teeth show reptilian grade development(胚の歯に現れる成長線の数から直接決定される恐竜の孵化期間は爬虫類型の発生を示す)」だ。
   様々な証拠から、恐竜は現存の爬虫類より鳥類に近いとされている。ただ、中生代から白亜紀の恐竜の化石はあまりに古すぎて、DNAレベルで比較することはもはやできない。もっぱら恐竜の化石の特徴を、現存の鳥や爬虫類、あるいはその化石と比較することが研究の中心になる。
   この研究では発見された恐竜の卵の中に見つかる胚から、卵の孵化期間を推定しようと試みている。もちろんこれまでも同じような研究が行われ、現存の鳥類と同じで、孵化期間は短かったというのが通説になっていた。この通説にももちろん根拠があり、卵の大きさの比較、成体と孵化したばかりの個体のサイズの比較、あるいは成体と孵化時点での爪の大きさの比較などがその根拠になっていた。しかし、産卵後ずっと卵や子供の世話をやく鳥には短い孵化期間は適しているが、恐竜は爬虫類と同じように卵を産みっぱなしでなかったという説もあり、より正確な孵化期間推定が求められてきた。
   著者らは、カルシウムの沈着により骨が形成されるとき、夜と昼の代謝の違いを反映する骨成長スピードの差が線として現れるvon Ebner成長線が、歯の成長に必要な期間を教えてくれることに着目し、体長2mぐらいのプロトケラトプスの胚(卵の大きさは230ml)と9mの身長を持つピパクロサウルスの胚(卵の大きさは3900ml)の中で、歯の発生過程が終えるケースについて成長線の数を数え、これに同じ個体に見られる生え変わり用の歯の発達状況を加味して(現存の爬虫類の中には孵化中に歯が生え変わるものがいるとは全く知らなかった)などから、歯の形成にプロトケラトプスで48日、ピパクロサウルスで約100日と計算している。これに、全孵化期間のうち歯の形成に様する期間を42%と仮定し、最終的にそれぞれ83日、171日という孵化期間をはじき出している。
   結果はこれだけで、このために貴重な歯の切片を作って成長線を数えており、博物館の協力の賜物と言える。ただ、今回の結果を鵜呑みにしていいかどうかは疑問だ。詳しくは述べないが、まだまだ多くの仮定が導入されており、より総合的な算定方法が必要だろう。
   いずれにせよ、もともと恐竜は爬虫類に近いと考えてしまう私たちの直感とフィットしており、楽しんで読める論文だ。
カテゴリ:論文ウォッチ