Happy New Year, 2024
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Happy New Year, 2024

2024年1月1日

新年のご挨拶

2023年1月1日
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皆様、明けましておめでとうございます。AASJも今年で節目の10周年を迎えます。それだけ私たちも年をとったと言うことですが、事務所の維持を支援していただける間は、老体にむち打ってでも続けていきたいと思っています。

さて今年も伊藤カヲスさんにデザインしてもらった素晴らしい年賀状を添付します。AASJのシンボル、フンボルトペンギンと、今年の干支ウサギが、目の前で起こっている現象について議論しているところです(なぜアリかというと、アリや長い足のイメージを繰り返し使っているサルバトーレ・ダリから、この絵のヒントを得たからだそうです)。メンバーの里美は今年は年女になりました。論文ウォッチでは、この絵のように二人三脚で様々な情報を皆様に伝えていきたいと思います。

  さて、新しい年を迎えたとは言え、ウクライナ戦争、コロナ禍と、昨年からの課題は2023年にそのまま重くのしかかっています。プーチンの起こしたウクライナ戦争を見ると、「道徳的判断は理性から引き出されるのではない」と18世紀に看破したヒュームを思います。確かにロシアの言い分を聴けば聴くほど、この認識は当たっていることがわかります。おそらく最近の脳科学も同じ意見ではないでしょうか。このように理性による道徳が存在しないなら、人類は滅亡の淵に立たされているのではと暗澹たる気持ちになります。ただ希望もあります。ヒュームは、少し前にガリレオから始まった科学が、全く新しい人類共通の理性を獲得する可能性があることには思い至らなかったようです。私は、人類滅亡が防げるとすれば、それは科学が示す人間の理解を起点にするしかないと思います。

幸い、昨年のノーベル賞はドイツ・マックスプランク人類進化研究所のペーボさんが受賞しました。ペーボさんの研究により、私たちは生殖を通してゲノムに残される人類交渉の歴史を知ることになりました。特に論文ウォッチで紹介したReichらの論文は、ロシア語も含むインドヨーロッパ語のルーツがアルメニアで、そこからウクライナ地方にわたった後、ロシアも含めヨーロッパ全体に伝搬したこと、そしてこの過程にウクライナ地方ヤムナの人たちのゲノムが、ヨーロッパ全体に拡がったことを見事に示しました。このように、世界は皆兄弟ということが、科学により実感できる時代が来ています。この科学的事実を起点に、ヒュームやスピノザが夢見た自然道徳の手がかりが得られれば、本当の平和が実現できるかも知れません。その時、おそらくペーボさんは世界を救った科学者の一人として名を残すのではと思っています。
 今年は、このような視点も交えて、毎日科学論文の紹介に励みますので、よろしくお願いします。

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京都大学野生動物センター・熊本サンクチュアリーの寄付活動に応援メッセージを寄せました。まだ募集中なので、是非皆様もご寄付お願いします。

2022年3月8日
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寄せた文章は以下のサイトでご覧になれます。

https://readyfor.jp/projects/ks_kyoto-u/announcements/206571

ここにも書いた文章をそのまま再掲しておきます。

21世紀の科学から熊本サンクチュアリーを思う

熊本大学・三浦恭子さんからのFBで京大野生動物研究センター・熊本サンクチュアリーで、動物の飼育条件を維持するための寄付を集められていることを知りました。幸い目標は達成され、多くの皆様の温かい言葉が寄せられて本当に良かったと胸をなで下ろしており、私や妻も寄付者の一人に加われたことは本当に光栄に思っています。しかし、半生を生命科学に関わった私から見た時、皆様の寄付は、サンクチュアリー維持にとどまらず、21世紀の新しい科学への投資の意味を持つと思って、寄付を機会に文章を寄せることにしました。

わたしが熊本サンクチュアリーのことを知ったのは、2016年10月で、熊本サンクチュアリーの平田先生、狩野先生が、ドイツライプチヒマックスプランク研究所のトマセロさん達と一緒にScienceに発表された論文を読んだ時です。

この論文は、Theory of Mind として知られている能力、わかりやすくいうと「他人は決して心のないゾンビではなく、自分と同じ心を持っている」と理解する能力を、チンパンジーやボノボが持っていることを証明した素晴らしい研究でした。日本の科学力が問題にされ始めた時でしたから、このような重要な貢献が我が国から生まれたことは本当に誇りに思いました。

日本でこのような話題は、あまり一般では議論されませんが、例えば米国では、人気哲学者(ジョン・サールやダニエル・デネットなど)の本を読むと、人間の心や脳を理解するために最も重要な能力として議論されています。さらに、自閉症の子供ではTheory of Mind 能力の発達が遅れることも知られており、臨床的にも重要な概念なのです。

かくいう私ですが、以前京都大学医学部、分子遺伝学の教授をしていましたが、脳研究に関しては全く素人です。ただ、公職を退いてから、21世紀の科学はどのように進んでいくのだろうと、分野を問わず論文や本を読みながら思いを馳せています。この作業については、私たちが運営するNPO、オール・アバウト・サイエンス・ジャパンのHPに逐一報告していますので(www.aasj.jp)是非ご覧ください。

そしてこの作業を通して、これまで科学があまり出る幕のなかった心の問題が、21世紀の大きなテーマとして、研究が始まっていることを実感しています。例えば、エモリー大学のドゥ・ヴァールさんが書かれた”The Bonobo and the Atheism”(ボノボと無神論)という本は、道徳という人間にとって最も重要な問題を、宗教ではなく、科学の立場から迫ろうとする意気込みが伝わってきます。わざわざ「無神論:Atheism」という単語がタイトルに使われているのも、この意気込みの表れだと思います。

もちろん21世紀の研究は行動観察だけにとどまりません。世界では、山中さんのiPS技術を使って全ての類人猿のiPSが作成され、脳の構築や機能を人間と比べることができるようになっています。そして、類人猿に止まらず、多くの哺乳類の遺伝情報は完全に解明されています。

ただ、このような試験管内での研究と比べると、これらの過程が統合された行動を調べるための研究施設の維持が最も大変です。その意味で、サンクチュアリーは、世界の「心」の研究を担うためには最も大事な施設の一つだと思っています。

今後も皆さんと一緒に、この施設を支援したいという気持ちで、この文章もサンクチュアリーのスタッフの皆様に捧げたいと思います。

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新年のご挨拶

2022年1月1日
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皆様、明けましておめでとうございます。

今年も元旦からAASJは発信を続けることが出来ました。これも活動を支えていただいている様々な皆様のおかげと感謝しています。

今後も、患者さんと、未来を担う若手研究者の両方に、知識を通して貢献するための幅広い活動を展開したいと思っています。

特に患者さんたちとの勉強会を活動の中心に据えて行きますので、遠慮なく勉強会やジャーナルクラブのリクエストをお寄せください。

これだけでなく、様々な学問分野の今を発信していく企画も続けていきます。

まず最初は、友人で九大名誉教授の信友浩一さんの自宅を訪ねて、言語の起源について語り合う会をYoutubeで発信しますので、ご期待ください。

では今年もAASJをよろしくお願いします。

AASJ代表理事

西川伸一

伊藤かをすさんが制作してくれた2022年賀状も掲載します。

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2020年度、2019年度決算報告書

2021年5月28日

梅北2期、参加型ヘルスケアの活動として収録したビデオを公開します。

2021年5月20日
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梅北二期開発事業の中で、阪急阪神不動産の呼びかけに応じて、「参加型ヘルスケア」プロジェクトを立ち上げ、専門知識を一般の人にどのように伝えればいいか考えてきていますが、今回はリクエストに応じて、新型コロナワクチンの違いについて、メンバーで話し合い、収録しました。西川伸一のジャーナルクラブにもアップロードしたのでご覧ください。

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新年のご挨拶

2021年1月1日
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皆様、明けましておめでとうございます。

昨年は、高々30Kbのウイルスに全人類の活動が狂わされた暗い1年だったと思います。

私(西川)自身も2月NYに旅行した以外は完全に日本に閉じ込められ、計画していたウガンダ・バードウォッチングも諦めざるを得ませんでした。

しかし昨年1年間、9万に及ぶ論文から生まれたこのウイルスについての研究を学べば学ぶほど、たった30KbのRNAは全世界を震撼させるに足る(不謹慎を承知で表現すると)惚れ惚れする情報で満ち溢れているのが理解できました。

特に夏に入ると、本当に面白い論文が続々発表される様になり、毎日毎日インパクトの高い情報に溺れたために、夏以降私の学びのペースがすこし乱れてしまいました。結果、「自閉症の科学」と「生命科学の目で読む哲学書」も夏からは新しい記事が書けていません。

しかしご安心ください。特に「・・・哲学書」の方は、近代科学誕生の時代を作った、デカルト、ライプニッツ、スピノザの人部像が自分の頭に焼き付くまで何度も何度も著書を読み返し、彼らを友人の様に身近に感じられるところまで来ました。今年早々には、「デカルト君」からはじめ、近代科学とは何かを議論するつもりです。

でも溺れることも時には大事だと思います。なによりも、Covid-19についての論文に目を通すことで、ミレニアムに際して目指したトランスレーショナルメディシンが力強く実現していることを実感できました。特にRNAワクチンの科学とその応用については本当に目を見張りました。

「有効で安全なワクチン開発には通常何年もかかる」とお題目を繰り返す、不勉強なマスメディアを尻目に、ウイルスゲノムのDNA配列が報告されてから3日でRNAの設計を終え、次の日にはGMP生産が行われ、なんと7月までに前臨床、1/2相治験を終了して、第3相開始、12月にはワクチンの臨床接種開始という超高速で、有効性の高いワクチンの供給を達成しています。

ワクチンを接種するかどうかは個人の自由でしょうが、私たちはこのワクチンの科学を正確に伝えることができていたでしょうか?元科学者として今回最も感銘を受けたのは、提供までの一部始終が、逐一論文として発表されたことです。例えば、なぜワクチンに使われたmodified Uridineが重要なのか?なぜわざわざスパイク遺伝子に突然変異を導入しているのか?さらには、なぜ強い免疫が速やかに成立できるのか?といった基礎データが臨床治験とともにすべて査読を受けた論文として発表されています。この基礎データのおかげで、報告されている臨床治験データについても、副反応も含めかなりのことが科学的に推定可能になったと思っています。

もちろんワクチンに止まりません。毎日毎日Covid-19に対して戦うための、「希望のチャート」が着々と完成しつつあるのです。

問題は、この様な科学的知識を、専門家と一般の人が共有するための方法がよくわからないことです。専門家がマスメディアやSNSを通して上から目線で知識を伝えるというスタイルが、様々な分断を産んだことを、Science誌の昨年の10大ニュースにあげて反省を促しています。

そこでAASJは本年を、一般の方と共有できる医学知識とは何かを真剣に考える元年として取り組むことを決意しました。特に、うめきた2期まちづくりプロジェクト「参加型ヘルスケア」を重要な場として活動を進めたいと考えています。そのために、AASJのHPを見ていただいている皆様方と、もっともっと直に話し合う機会を持ちたいと考えています。

どうかよろしくお願いします。

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うめきた2期町づくり「参加型ヘルスケア」始動

2020年12月17日
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2028年完成予定で、JR大阪駅北側の再開発が始動しましたが、私たちAASJは町づくり計画の一つとして、阪急阪神不動産とともに、科学知識を共有するため一般市民からアカデミアまで、階層なしに集まるネットワークを目指す「参加型ヘルスケア」を提案し、採択されています。今年初めには、推進のための委員会も発足し、これから始動という時に、新型コロナ感染によりあらゆる活動をストップせざるを得なくなりました。

ただ、10月より何回かのウェッブ会議を経て、私たちが考える科学知識の共有とは何かについて理解してもらうために、委員会のメンバーの対談を、コンテンツとして配信しようと言うことになりました。

その最初として、参加型ヘルスケアの趣旨を紹介するとともに、今注目の新型コロナウイルスに対するRNAワクチンの科学知識を例に、私たちの目標を理解してもらうための座談会を行い、アップしました。是非多くの方にご覧いただきたいと思っています。

新型コロナウイルスに対するワクチンが主題になっていますが、ここでお話ししたことは、私たちの判断を決して押し付けるものではなく、あくまでも科学的知識をわかりやすく共有していただいて、皆さんの決断に役立ててほしいと思って作成していることをご理解ください。

ビデオは https://umekita2nd-isk.com/symposium/webinar/ をご覧ください。

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2020年8月17日
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令和2年度 施設長研修会 

西川伸一先生講演「コロナ現象を俯瞰する」抄録

 Webにより開催:令和2年7月29日

・初めてのWeb研修

・ざくっと話しして、質問に答えていきたい

・若いころは臨床医(肺)、京大から神戸理研に移って、再生医学をやっていた。

・Medlineというサイトで検索すると、今、Corvid-19の論文が3万5千も出ている。

 皆さんがメディアで知る報道より、研究はすごく進んでる。

・いろんな不安に対してきっちり答える様々なしくみも出来てきている。

[時間経過]

・感染したか、してないかという話ではなく、大事なのはどれぐらいのウィルス量に感染しているのかということ。動物実験では少ない量で感染すると症状はほとんど出ないが、免疫はちゃんとできる。多くのウィルス量で感染し潜伏期間中にウィルスが細胞の中で増えて発症する。医療従事者の方は濃厚感染しやすい。

・症状が出るとPCR検査をするが、これも今、陰性陽性ばかり話題になっているが、実はウィルス量もPCRでわかる。いちがいに感染といっても状態は様々である。

・発症はだいたい5日だが、ではいつまで感染力があるのかという話。重症化した人のPCR検査では、長くウィルスが出続ける。しかも体のいろいろな所から出る。重症の人が家に居続けるのは危険。治療開始から陰性になるにはかなり時間がかかる。症状が軽い場合は一週間から10日で陰性になるのではないか。

[IgG、IgM 図]

・ウィルスが増えて免疫ができるのにどれくらいかかるか、抗体がどれくらいで出てくるかというと、中国のデータでは、症状が出始めてからほぼ2週間すれば、ほとんどの人に抗体が出てくる。

・1週間で出てくる人が7割くらい。このあたりが、鼻風邪で終わってしまうか、症状が進むかの違いではないかなと思う。無症状・鼻風邪の人は症状が出てから一週間で感染力はなくなる。従って、ほぼ10日くらいで安全と思う。

・コロナウィルスは、たった10個の遺伝子でできたウィルス。太陽のコロナのような形をしている。この10個の遺伝子を調べるのは現代医学ではあっという間である。実際、いつ頃からコロナが広がり始めたのかはよくわかっていないが、昨年12月には、遺伝子配列は完全にわかっていた。コロナが体のどこで、どうやって増えるのかもわかっていた。わかってないのは、僕らの免疫の状態、基礎疾患など体の状態。これらは人により違う。

[細胞の中で…増え、細胞は死ぬ]

・ウィルスはそれ自身で増えることはできない。体の中、細胞の中に入って増える。ウィルスが細胞に勝手に入ってくるということはない。細胞の中に入るために、コロナやSERSは、ACE2という分子を使っている。これは何かというと、施設の高齢者にも高血圧の方は多いが、そういう方の治療によく使われているのが、アンジオテンシン転換酵素に対する薬がいくつかある。アンジオテンシン転換酵素は血圧を上げる物質で、ACE2はそれを切断し血圧を下げる物質をつくる。また、メタボの人にもアンジオテンシン転換酵素は多い。これがわかって、循環器系の医者はACE2の薬は使えないのではないかと心配した。しかし、現在では、その種のお薬がウィルスの侵入に手を貸しているわけではないということがわかってきた。

・ウィルスが細胞にとりつく時の目印であるACE2という分子だが、今開発中の多くの薬がここを狙っている。しかし、このような細胞への入口を狙う以外にもたくさんのやり方がある。

・ウィルスは僕らの細胞のメカニズムを借りて増殖し、外へ出ていく。ウィルスの膜も細胞の中の膜も使っている。ヤドカリみたいなもの。下手に薬を使おうとすると、細胞も殺してしまう心配があるので薬が非常に作りにくい。しかし、20世紀後半からタミフルとかゾフルーザ、AIDS薬といった、いい薬が出てきた。AIDSも80年代にはかかれば必ず死ぬ病気だったが、現在はもう死ぬことはなくなった。完全にコントロールされている。

・ウィルスが働く場所を叩くという考え方で、このような薬が作られている。ウィルスがタンパク質を作ろうとするところに効く薬や、アビガンやレムデシビルといった、ウィルスが自分のRNAを複製するところに効く薬ができてきた。それ以外にも標的となるウィルスの分子があって、今、徹底的に研究されている。これらの薬は実際にはコロナウィルスに対して作られたものではなくて、タンパク質酵素阻害剤はAIDS、アビガンは新型インフルエンザ、レムデシビルはエボラウィルスに対して作られた薬である。しかし、間違いなく秋くらいには、もっとはるかに良く効く薬が出てくる。ただ、一般の方に安全に使えるかということになるとどうしても今のしくみでは時間がかかる。そういった薬の認可が進めば、最後は、かかるかもしれないけどちゃんと病気として対応できるということになる。製薬会社にとっても大チャンス。

[おそらく最初は鼻から始まる]

・実際には、まず鼻に感染する。防御も鼻が中心となる。ウィルスの侵入に関するACE2を多く持っているのが、鼻の粘液を出す細胞で繊毛がある細胞。間違いなく鼻風邪からおこる。一方、肺入口あたりのACE2はそんなに多くない。あとで問題化することが多い肺に広がっていくためには、鼻や上気道で十分増えて、肺のほうに移っていくということだろうと考えている。防御のためのマスクの意味はここにある。

(司会)ほとんどの人は鼻風邪で終わる、無症状で終わる。ということだが、私たち福祉施設で働くものにとって心配なのは、無症状の職員が施設の利用者に運んで行ってしまう、媒介してしまうことだ。無症状の場合どの程度の感染力があって、何に気をつけたらいいのか?

・上部気道から出てくるウィルスが一番怖い、無症状であっても抗体が出るまではウィルスを作っている。また、その人がウィルスを持っているかは検査しないとわからない。そうなると行政の問題とかいろんな問題が絡んでくる。もう少し別の次元で議論する必要がある。

感染症というのは基本的にはヒトからヒトにしかうつらない。例外的には中東型のMERSは最初はラクダからで、次の段階でヒトヒト感染であるが、新型コロナの場合は必ずヒトヒト感染。ヒトと会わなければ絶対にうつることはない、しかし我々は社会の中で生きており、そこを遮断するというのは、医学とは違う行政とか公衆衛生問題として対応策を考える。そこは協力できると思う。今は検査するしかない。しかし検査しても必ず擬陽性というのはある。

(司会)無症状者が感染させるのを防ぐには、布マスクかサージカルマスクどちらがいいのか?

・マスクの論文も出ているが、布マスクは、かなり性能は落ちる。施設の中にうつさないということだけを考えれば、施設の中に入るときには全員防護服を着るか、中の人が全員防護服を着るかどちらか。まあそれはできないので、うつさないという意味でマスクが必要。また、感染者がウィルス単体をばらまくことはなくて、必ず唾液・粘液を介して外に出す。エボラは汗で出てくる。体液を通して外に出るときに中心になるのは上気道だから、マスクでブロックする必要がある。

(司会)マスクには、自分にうつらないという効果はあるか?

・うつらないという効果は、はっきりいって無い。それよりも、ウィルスがついた手で体のあちこちを触るのが危険。マスクより手洗い。厚労省サイトには詳しく出ているが、もっと詳しいのは米国EPAのサイトに、Covid-19 Disinfectants というのがあって、次亜塩素酸等も含めいろいろな消毒薬の除染効果を、各社の製品単位で詳しく評価している。米国ではこれくらいのデータベースがもうできていて、日本ではこういうものを活用促進するしくみがない。保健所などがPCR検査で忙しすぎて、本来ならこういった啓発をやっていかねばならない。市民の質問にきっちり答えていくことのほうが大事だと思う。

(司会)お年寄りや職員が自然免疫を高めるにはどうしたらいいか

・運動などがいいだろうけど、いろんな方がおられるので一律には言えない。やはりウィルスを入れないようにする、特に家族が持ち込ませないようにする。家族の理解を得ることが大事。来所禁止というのを今は緩めてるわけですが、家族といえどもマスクを外すといったことが絶対ないように、協力をお願いすることが大事。

[ウィルスにかかるとどうして病気になるの?]

・ウィルスは細胞を殺していくが、いずれ免疫が勝って細胞が再生されていく。問題になるのは神経細胞の場合で、神経細胞は再生されない。小児麻痺とか脳炎はこれである。しかしコロナの場合、細胞を殺すのが問題ではない。

[サイトカインストームとは?]

・なんで病気になるかというと炎症を起こすから、といえる。ウィルスが肺の病気を作っているのではなくて、いろんな炎症反応が病気をつくっている。ウィルスに侵された細胞を体が感知して、その細胞を叩きにかかる。だから熱が出たり、いろんな症状が出る。これが行き過ぎるとどんどん悪くなっていく。だから行き過ぎるかどうかというところで病気の形が変わってくる。

[時間経過]

・一番最初に、感染して症状が出てから、軽症者はだいたい9日くらいで治る。ところがウィルスを殺しきれなかったり、ウィルスを運ぶ細胞が全身に回ったり、炎症が強すぎたりすると、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)という強い炎症になり、呼吸困難を引き起こし、血管を通って全身病となる。10日の段階ではどちらに転ぶかわからない。しかし、もう何百万という事例がたまってきているので、ある程度、治療法も見えてきている。例えば初期段階で血が固まらない処置をする等である。最初のころは何もわからなかったので、人工呼吸器にかかる患者さんが続出した。今では重症者であっても治療の方法が確立してきている。

[SnapShot:COVID-19]

・症状は、軽症、肺炎、全身に回るという3段階に分かれる。臨床的にもいろいろわかってきたので、人工呼吸器までいくケースは減ってきている。薬の使い方についても徐々にわかってきて、効果のある薬を早くから使うことが可能になってきた。病気ということであれば医者マターなので、マニュアルができ、診断さえされれば適切な治療が受けられるようになってきている。しかし病院が機能してないとダメ。行政とも相談して、どういうしくみで病院と施設が連携していくのか考えていければいいのかなと思う。

[ウィルスの生活サイクル]

・細胞への入り口をブロックする抗体さえできれば、ウィルスは二度と侵入できない。こういう治療法は抗体さえあればよい。今、たくさんの製薬会社が、回復した患者さんから取ってきた抗体を使って治療法を確立している。さらには大量生産ができるモノクローナル抗体を使った治療を目指し、秋から冬にかけ、モノクローナル抗体の治験が終わりそうで、これは間違いなく効くと思う。皆さん自分で抗体を作れる、それが免疫である。そのためにはワクチンを打つのであるが、皆さん一人一人の体がワクチンにどういう反応を示すかはわからない。インフルエンザワクチンも、Aさんはいい抗体が作れた、Bさんはうまく作れないなど予想ができない。

ところが、よく効くということが分かった人からとってきた抗体、あるいはそれを培養した抗体であれば、これは誰にでも使える。そういう意味では血清療法というのは有望そうである。

ほとんどの人が、感染後2週間もすれば抗体ができている。しかしなんで重症の人もいるのか?単純な話ではない。

[Days after symptoms onset]

発症してから2週間で抗体ができるが、なんと重症化した人のほうがたくさん抗体を作っている。どういうタイプの抗体ができてくるのかということが肝心。感染して起こることとワクチンで起こることは同じ、要するに人によって違いが出てくる、重症化する場合もあるということを覚悟しないといけない。また、重症と軽症を比べた場合、肺の中に出てくるリンパ球を見ると、炎症にかかわるT細胞とがん細胞などを殺すキラーT細胞があるが、これはがん細胞だけでなくウィルスに感染した細胞も殺してくれる。しかし重症化した人の肺の中にはなぜかキラーT細胞が少なく、炎症にかかわるヘルパーリンパ球が多い、つまり重症化した人は、たくさん抗体は作るけれど、キラーT細胞は少ないということがわかった。一方、軽症の人にはキラーT細胞はたくさんある。ウィルスに対する抵抗力があるかどうかということには、キラー細胞を作れる能力にかかっている。ということがわかってきた。

[例えば抗体だけでなくT細胞の免疫が大事]

 感染した人ではリンパ球はちゃんとコロナに反応し、細胞性の免疫はできる。米国人でも、感染していない人の半分くらいはコロナに対しリンパ球が反応できる、そこで更にキラー細胞を作れるかどうかが肝心である。シンガポールの研究ではSARSにかかった人は新型コロナに対しても免疫力が強いとか、また、動物由来のコロナに感染した人は新型コロナに対してもちゃんとした抵抗力を持っているし、キラー細胞も持っている。

 もうちょっと先の話であるが、抗体をつくるというだけのワクチンであれば間違いなくできる。但し、人間一人一人はこれまでコロナに似たウィルスにかかった履歴もあり、かかり方も違う。リンパ球が反応するためには移植抗原というのが重要だ。一人一人違う、だから臓器移植をしても他の人の組織を拒絶する。つまり、免疫反応はヒトにより違う。 そういう意味で、今後、ワクチンは効く人と効かない人が出てくる。

コロナに対し、いい抗体というのはヒトは生まれつき持ってるのではないかという考え方がある。普通、外からいろんな物質が来ると、リンパ球は突然変異を繰り返してより強い抗体を作るが、生まれつき持っている抗体の働きもすごい。ほとんどの人が鼻風邪で終わるというのも、人間は新型コロナに対してうまくできていると考えられる。一番大事なのはいい治療法をきちんと開発して、風邪と変わらないという状態にするのが、医学の務めであると思う。

ワクチンは安価だが、抗体薬となると例えばオプジーボは、100mgが10万円を超える。レムデシビルは、5日間投与して30万円かかる。どこの国でも使える医療は難しいが、少なくとも日本のような先進国では、抗体を組み合わせたような完璧な治療法を作り出せるはずだ。

まあ、あと半年頑張ってもらえればなんとかなるんじゃないかと思う。どれまでの間どうするのかというと、行政などのシステムが大事で、県老協のような組織もちゃんとできてるんだから、対応を共通化しておくとか、しっかりしたマニュアルを作っておくべき。医学としては、そう心配することはないと思っている。

(司会)もし職員、利用者、利用者家族の感染がわかったら、どんな対応をすればいいのか?

・今多分、入居されている人はまず感染してない。外側からしか来ようがない。接触が一番多いのは、職員だろうけど、症状をベースにするしかなくて、濃厚接触されたという認識がある場合、症状が出た場合。この二通りしかない。このときはPCRの結果が出るまでは、施設に来てもらっては困る。外からくる人にはすべて抗原検査がきればいいのだが、日本ではできない。それを前提としてどういうマニュアルを書くのか、それがつらいところ。

(司会)職員の家族が感染した場合、職員は施設に来てはだめなのか。

・今の状況であれば、来てはいけない。必ずPCR検査をやってもらわないといけない。そこで兵庫県がどれくらいの能力を持っているかだ。兵庫県にはシスメックスをはじめ、いい医療系の企業がある。そういうところに、「お年寄りのためにひと肌脱いでもらえないか」と、持ち掛けて、ちゃんと検査ができるような体制を独自で作れないか。施設長さんが、まず保健所に相談に行くのではなく、そういうルートがちゃんとある、そういう迅速なしくみを構築されるのがいいのではないか。Jリーグではそういう体制ができている。

 やはり社会が、どう高齢者を見守っていくのかというしくみを作る、ひょうごモデルを作るのが大事ではないか。費用も問題。今だと健康保険でいけばPCR検査は16000円くらいかかるが、もっと安価にはなっていくだろう。また、唾液で検査するならもっと迅速にできるし、そういう工夫もすべきだ。そういう会社に、別枠の検査体制をつくるためにボランティアでやってよ、と言いにいったらどうか?中継ぎはします。

(質問)職員の家族の関係者がPCR検査結果待ちの場合、職員の出勤をどう考えるか?

・何人規模の会社なのか?濃厚トレーシングができなければ、PCR検査をやるしかない。可能性ゼロでないときにどういう判断をするのか。トレーシングの結果がわかるまでは来てもらっては困る。医学としては、怖くない病気にしていくしかない。

(質問)施設内で発熱者が出た、さあ検査だ、となった場合、防護服はどうすればいいのか?

・防護服を着て病院と同じ体制をとるというのが理想だが、難しい。訓練しないと装着もできない。県老協で、感染させない方法だけじゃなく、病院搬送の優先順位とかも考えたうえで、今あるリソース前提で、感染したら、というマニュアルをつくるべき。例えば38度が4日続いたら優先的にいれてくれる病院はあるのか? 細かいところまで決めて提案していく話し合いをしたらどうか。

(記録:森田拓也)

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ホームページのSSL暗号化に伴うお知らせ。

2020年1月18日
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AASJのホームページは、お陰様で毎日多くの方々が訪問されるサイトになってきました。そこで、訪問される皆様に迷惑がかからない様、私たちのサイトをSSL暗号化をすることに決めました。この作業のため、今月21日朝9時半から25日夜12時まで、こちらで新しい記事をアップロードできなくなります。またひょっとしたら、皆さんからの書き込みが制限されるかもしれません。ただホームページの閲覧自体は問題ありませんので、この期間もこれまで通り訪問していただければ幸いです。

ただ、新しい記事がアップロードできないと、せっかく1日も欠かさず続けてきた論文ウォッチが途切れてしまいます。そこで、今日18日から21日朝9時まで、実際の時間は無視して、25日までの記事をアップロードすることにしました。このため、例えば今日は1月18日と、1月119日の2日分の記事がアップロードします。「え!今日は18日なのに19日になっている」と思われるかもしれませんが、サイトの安全性のための苦肉の策だとご理解ください。

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