2026年6月3日
誕生日に際してのご報告
78歳の誕生日を迎えますが、6月15日に唾液腺ガンの手術をすることになりました。5cmは優に超える大きな腫瘤が右耳下腺にあり、リンパ節転移も認められます。医学のプロが何をしていたのかと馬鹿にされそうですが、昨年の4月から40年間付き合っていたワルチン腫の一つが徐々に大きくなってきたのに気づきました。もちろん気になって、10月MRI検査を行い、12月にはアスピレーションバイオプシーによる細胞診も行ったのですが、悪性なしで8月まで切除を待つことにしました。ところが4月中旬、急にCEAが上昇、5月に入って消化器などを全て調べるとともに、耳下腺も再検査したところ、間違いなく悪性転化でリンパ節転移と診断されました。この結果を聞いたのは先週で、そのとき手術日が6月15日になりました。
耳下腺ガンは様々なタイプがあり、手術して組織を見るまで最終的な予後はわかりません。最近の大きくなり方から、かなりアグレッシブだと覚悟しています。ただ、自分がガンになったら、これまで皆さんに伝えてきたように、ゲノムも含めて徹底的に調べようと決めており、検査や治療の可能性について多くの友人に相談し、多くのあたたかい協力の申し出を得ております。もちろん精神的には落ち込んでおりますが、このような友情に支えられて、主治医と患者だけでなく、病理やゲノム検査が統合されることで得られるデータに基づいて自分のがんを知り、納得して戦える新しい医療に貢献できたらと思っています。
今後の活動ですが、もちろんこれまで通り論文ウォッチは続けます。ただ、摘出に際して顔面神経切除・再建も覚悟する必要があり、そうでなくてもある程度顔面神経麻痺は必死なので、Zoomや講演は当分中止しますのでご理解ください。
最後になりましたが、論文ウォッチは、妻の里美の検閲を受けており、彼女の助けなしにはこの活動は不可能でしたが、これからはこれまでの何倍も助けが必要になるとおもいます。ただただ感謝の気持ちを述べて終わります。論文ウォッチはもう少しで5000回に到達します。そこまでは二人三脚で頑張ろうと話しています。今後ともよろしく。
2025年1月1日
皆さん明けましておめでとうございます。 さて、2024年はAIに明け、AIに暮れた一年でした。私の2024年一押しは、2月ScienceにNew York大学のBrenden Lakeさんの研究室から発表された論文で、子供の視覚と聴覚経験を60時間分記録してTransformerに学習させると、人工ニューラルネットに言語理解が生じたという驚くべき研究でした。もちろんそのまま我々の脳が同じように言語を処理していると結論できませんが、人間の脳とAIの比較研究が加速するのではと予感しています。 まちがいなく2025年も多くの素晴らしい発見の論文を読めると確信して、今からわくわくしています。昨年読んだ論文から感じる個人的意見ですが、変異RASに対する治療薬、新しいモダリティーのアルツハイマー治療薬、そして様々なガンワクチンの開発が進む一年になるのではと予想しています。 我が国の科学の凋落が問題になっていますが、論文を読んでいると、我が国でも若い世代のオリジナルな論文にも出会うようになってきており、今後は良い方向に向かうのではと期待しています。 最後に、反科学をあおるトランプがアメリカ大統領に就任し、科学的解決を目指す様々なグローバルな運動は厳しい状況に置かれるでしょう。しかし、そんなときこそ科学を伝える重要性が増します。 今年も私たちAASJはわくわくする科学ニュースを、シンボルのフンボルトペンギンとともに皆様にお届けする予定ですので、是非ご期待ください。 皆様にとって2025年が素晴らしい年であることを祈ります。
2024年1月1日
2023年1月1日
皆様、明けましておめでとうございます。AASJも今年で節目の10周年を迎えます。それだけ私たちも年をとったと言うことですが、事務所の維持を支援していただける間は、老体にむち打ってでも続けていきたいと思っています。
さて今年も伊藤カヲスさんにデザインしてもらった素晴らしい年賀状を添付します。AASJのシンボル、フンボルトペンギンと、今年の干支ウサギが、目の前で起こっている現象について議論しているところです(なぜアリかというと、アリや長い足のイメージを繰り返し使っているサルバトーレ・ダリから、この絵のヒントを得たからだそうです)。メンバーの里美は今年は年女になりました。論文ウォッチでは、この絵のように二人三脚で様々な情報を皆様に伝えていきたいと思います。
さて、新しい年を迎えたとは言え、ウクライナ戦争、コロナ禍と、昨年からの課題は2023年にそのまま重くのしかかっています。プーチンの起こしたウクライナ戦争を見ると、「道徳的判断は理性から引き出されるのではない」と18世紀に看破したヒュームを思います。確かにロシアの言い分を聴けば聴くほど、この認識は当たっていることがわかります。おそらく最近の脳科学も同じ意見ではないでしょうか。このように理性による道徳が存在しないなら、人類は滅亡の淵に立たされているのではと暗澹たる気持ちになります。ただ希望もあります。ヒュームは、少し前にガリレオから始まった科学が、全く新しい人類共通の理性を獲得する可能性があることには思い至らなかったようです。私は、人類滅亡が防げるとすれば、それは科学が示す人間の理解を起点にするしかないと思います。
幸い、昨年のノーベル賞はドイツ・マックスプランク人類進化研究所のペーボさんが受賞しました。ペーボさんの研究により、私たちは生殖を通してゲノムに残される人類交渉の歴史を知ることになりました。特に論文ウォッチで紹介したReichらの論文は、ロシア語も含むインドヨーロッパ語のルーツがアルメニアで、そこからウクライナ地方にわたった後、ロシアも含めヨーロッパ全体に伝搬したこと、そしてこの過程にウクライナ地方ヤムナの人たちのゲノムが、ヨーロッパ全体に拡がったことを見事に示しました。このように、世界は皆兄弟ということが、科学により実感できる時代が来ています。この科学的事実を起点に、ヒュームやスピノザが夢見た自然道徳の手がかりが得られれば、本当の平和が実現できるかも知れません。その時、おそらくペーボさんは世界を救った科学者の一人として名を残すのではと思っています。 今年は、このような視点も交えて、毎日科学論文の紹介に励みますので、よろしくお願いします。
2022年3月8日
ここにも書いた文章をそのまま再掲しておきます。
21世紀の科学から熊本サンクチュアリーを思う
熊本大学・三浦恭子さんからのFBで京大野生動物研究センター・熊本サンクチュアリーで、動物の飼育条件を維持するための寄付を集められていることを知りました。幸い目標は達成され、多くの皆様の温かい言葉が寄せられて本当に良かったと胸をなで下ろしており、私や妻も寄付者の一人に加われたことは本当に光栄に思っています。しかし、半生を生命科学に関わった私から見た時、皆様の寄付は、サンクチュアリー維持にとどまらず、21世紀の新しい科学への投資の意味を持つと思って、寄付を機会に文章を寄せることにしました。
わたしが熊本サンクチュアリーのことを知ったのは、2016年10月で、熊本サンクチュアリーの平田先生、狩野先生が、ドイツライプチヒマックスプランク研究所のトマセロさん達と一緒にScienceに発表された論文を読んだ時です。
この論文は、Theory of Mind として知られている能力、わかりやすくいうと「他人は決して心のないゾンビではなく、自分と同じ心を持っている」と理解する能力を、チンパンジーやボノボが持っていることを証明した素晴らしい研究でした。日本の科学力が問題にされ始めた時でしたから、このような重要な貢献が我が国から生まれたことは本当に誇りに思いました。
日本でこのような話題は、あまり一般では議論されませんが、例えば米国では、人気哲学者(ジョン・サールやダニエル・デネットなど)の本を読むと、人間の心や脳を理解するために最も重要な能力として議論されています。さらに、自閉症の子供ではTheory of Mind 能力の発達が遅れることも知られており、臨床的にも重要な概念なのです。
かくいう私ですが、以前京都大学医学部、分子遺伝学の教授をしていましたが、脳研究に関しては全く素人です。ただ、公職を退いてから、21世紀の科学はどのように進んでいくのだろうと、分野を問わず論文や本を読みながら思いを馳せています。この作業については、私たちが運営するNPO、オール・アバウト・サイエンス・ジャパンのHPに逐一報告していますので(www.aasj.jp)是非ご覧ください。
そしてこの作業を通して、これまで科学があまり出る幕のなかった心の問題が、21世紀の大きなテーマとして、研究が始まっていることを実感しています。例えば、エモリー大学のドゥ・ヴァールさんが書かれた”The Bonobo and the Atheism”(ボノボと無神論)という本は、道徳という人間にとって最も重要な問題を、宗教ではなく、科学の立場から迫ろうとする意気込みが伝わってきます。わざわざ「無神論:Atheism」という単語がタイトルに使われているのも、この意気込みの表れだと思います。
もちろん21世紀の研究は行動観察だけにとどまりません。世界では、山中さんのiPS技術を使って全ての類人猿のiPSが作成され、脳の構築や機能を人間と比べることができるようになっています。そして、類人猿に止まらず、多くの哺乳類の遺伝情報は完全に解明されています。
ただ、このような試験管内での研究と比べると、これらの過程が統合された行動を調べるための研究施設の維持が最も大変です。その意味で、サンクチュアリーは、世界の「心」の研究を担うためには最も大事な施設の一つだと思っています。
今後も皆さんと一緒に、この施設を支援したいという気持ちで、この文章もサンクチュアリーのスタッフの皆様に捧げたいと思います。
2022年1月1日
皆様、明けましておめでとうございます。
今年も元旦からAASJは発信を続けることが出来ました。これも活動を支えていただいている様々な皆様のおかげと感謝しています。
今後も、患者さんと、未来を担う若手研究者の両方に、知識を通して貢献するための幅広い活動を展開したいと思っています。
特に患者さんたちとの勉強会を活動の中心に据えて行きますので、遠慮なく勉強会やジャーナルクラブのリクエストをお寄せください。
これだけでなく、様々な学問分野の今を発信していく企画も続けていきます。
まず最初は、友人で九大名誉教授の信友浩一さんの自宅を訪ねて、言語の起源について語り合う会をYoutubeで発信しますので、ご期待ください。
では今年もAASJをよろしくお願いします。
AASJ代表理事
西川伸一
伊藤かをすさんが制作してくれた2022年賀状も掲載します。
2021年5月28日
2021年5月20日
梅北二期開発事業の中で、阪急阪神不動産の呼びかけに応じて、「参加型ヘルスケア」プロジェクトを立ち上げ、専門知識を一般の人にどのように伝えればいいか考えてきていますが、今回はリクエストに応じて、新型コロナワクチンの違いについて、メンバーで話し合い、収録しました。西川伸一のジャーナルクラブにもアップロードしたのでご覧ください。
VIDEO
2021年1月1日
皆様、明けましておめでとうございます。
昨年は、高々30Kbのウイルスに全人類の活動が狂わされた暗い1年だったと思います。
私(西川)自身も2月NYに旅行した以外は完全に日本に閉じ込められ、計画していたウガンダ・バードウォッチングも諦めざるを得ませんでした。
しかし昨年1年間、9万に及ぶ論文から生まれたこのウイルスについての研究を学べば学ぶほど、たった30KbのRNAは全世界を震撼させるに足る(不謹慎を承知で表現すると)惚れ惚れする情報で満ち溢れているのが理解できました。
特に夏に入ると、本当に面白い論文が続々発表される様になり、毎日毎日インパクトの高い情報に溺れたために、夏以降私の学びのペースがすこし乱れてしまいました。結果、「自閉症の科学」と「生命科学の目で読む哲学書」も夏からは新しい記事が書けていません。
しかしご安心ください。特に「・・・哲学書」の方は、近代科学誕生の時代を作った、デカルト、ライプニッツ、スピノザの人部像が自分の頭に焼き付くまで何度も何度も著書を読み返し、彼らを友人の様に身近に感じられるところまで来ました。今年早々には、「デカルト君」からはじめ、近代科学とは何かを議論するつもりです。
でも溺れることも時には大事だと思います。なによりも、Covid-19についての論文に目を通すことで、ミレニアムに際して目指したトランスレーショナルメディシンが力強く実現していることを実感できました。特にRNAワクチンの科学とその応用については本当に目を見張りました。
「有効で安全なワクチン開発には通常何年もかかる」とお題目を繰り返す、不勉強なマスメディアを尻目に、ウイルスゲノムのDNA配列が報告されてから3日でRNAの設計を終え、次の日にはGMP生産が行われ、なんと7月までに前臨床、1/2相治験を終了して、第3相開始、12月にはワクチンの臨床接種開始という超高速で、有効性の高いワクチンの供給を達成しています。
ワクチンを接種するかどうかは個人の自由でしょうが、私たちはこのワクチンの科学を正確に伝えることができていたでしょうか?元科学者として今回最も感銘を受けたのは、提供までの一部始終が、逐一論文として発表されたことです。例えば、なぜワクチンに使われたmodified Uridineが重要なのか?なぜわざわざスパイク遺伝子に突然変異を導入しているのか?さらには、なぜ強い免疫が速やかに成立できるのか?といった基礎データが臨床治験とともにすべて査読を受けた論文として発表されています。この基礎データのおかげで、報告されている臨床治験データについても、副反応も含めかなりのことが科学的に推定可能になったと思っています。
もちろんワクチンに止まりません。毎日毎日Covid-19に対して戦うための、「希望のチャート」が着々と完成しつつあるのです。
問題は、この様な科学的知識を、専門家と一般の人が共有するための方法がよくわからないことです。専門家がマスメディアやSNSを通して上から目線で知識を伝えるというスタイルが、様々な分断を産んだことを、Science誌の昨年の10大ニュースにあげて反省を促しています。
そこでAASJは本年を、一般の方と共有できる医学知識とは何かを真剣に考える元年として取り組むことを決意しました。特に、うめきた2期まちづくりプロジェクト「参加型ヘルスケア」を重要な場として活動を進めたいと考えています。そのために、AASJのHPを見ていただいている皆様方と、もっともっと直に話し合う機会を持ちたいと考えています。
どうかよろしくお願いします。
2020年12月17日
2028年完成予定で、JR大阪駅北側の再開発が始動しましたが、私たちAASJは町づくり計画の一つとして、阪急阪神不動産とともに、科学知識を共有するため一般市民からアカデミアまで、階層なしに集まるネットワークを目指す「参加型ヘルスケア」を提案し、採択されています。今年初めには、推進のための委員会も発足し、これから始動という時に、新型コロナ感染によりあらゆる活動をストップせざるを得なくなりました。
ただ、10月より何回かのウェッブ会議を経て、私たちが考える科学知識の共有とは何かについて理解してもらうために、委員会のメンバーの対談を、コンテンツとして配信しようと言うことになりました。
その最初として、参加型ヘルスケアの趣旨を紹介するとともに、今注目の新型コロナウイルスに対するRNAワクチンの科学知識を例に、私たちの目標を理解してもらうための座談会を行い、アップしました。是非多くの方にご覧いただきたいと思っています。
新型コロナウイルスに対するワクチンが主題になっていますが、ここでお話ししたことは、私たちの判断を決して押し付けるものではなく、あくまでも科学的知識をわかりやすく共有していただいて、皆さんの決断に役立ててほしいと思って作成していることをご理解ください。
ビデオは https://umekita2nd-isk.com/symposium/webinar/ をご覧ください。