今日紹介するユタ大学からの論文は、この可能性を検証し、Arcと呼ばれる分子がTauを小胞体に詰め込むための鍵となる分子で、これによりTau伝搬が加速することを示した研究で、6月29日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Arc mediates intercellular tau transmission via extracellular vesicles(Arcは細胞内Tauを細胞外小胞に詰めて伝搬する過程に関わる)」だ。
次に、胚外中胚葉の役割を調べるため、胚外中胚葉の長期培養方法を確立した後、ES細胞と共培養する実験系で、胚外中胚葉は原条から由来する中胚葉を惹きつける働きがあることを確認している。そして、それぞれの相互作用により誘導される分化細胞が、胚に存在する細胞とほとんど同じであることを single cell RNA sequencing で確認した後、胚盤の原条形成を再現する実験システムの構築に進んでいる。
この実験系では、長期培養が可能なES細胞の回りにトロフォブラスト細胞、そして胚外中胚葉を配置し、その上にこれは胚由来の羊膜細胞を貼り付けたトランスウェルをかぶせている。それ以外に全く増殖因子などは加えていない。すると24時間ぐらいから美しい原条が形成され、T遺伝子の発現が誘導されていること、また原条から中胚葉がこぼれて、胚外中胚葉の方へ惹きつけられることを明らかにする。そして、この系で発生する様々な細胞はほとんど実際の胚に存在する細胞と同じであることを single cell 解析で確認している。
今日紹介するフィラデルフィアにあるモネル化学感覚研究所からの論文は、マウスはグルコースと果糖を区別して脳の食欲中枢に伝える回路を有していることを示す研究で、マウスレベルでもこれほど果糖とブドウ糖が複雑に処理されているのかと驚いた。タイトルは「Attenuated hypothalamic response to fructose via a dedicated gut-brain pathway(特別な腸脳回路を介する果糖の視床下部反応抑制)」だ。
何度も紹介してきたが、Agouti related protein (AGRP) を分泌する視床下部にある細胞が我々の飢餓感を調節しており、食後上昇する脂肪細胞由来のレプチン、様々な消化管ホルモンなどの刺激により抑制されることで食欲を落として摂食を制限している。
昨日のCART標的選択の評価を汎用LLMに相談するといいことを主張した論文は、ネガティブな意味で驚いた Cell 論文だが、今日は本当に真面目な Cell にふさわしい論文を紹介することにした。スタンフォード大学からの論文で、ALSで最もよく使われるSOD1変異モデルマウスの運動神経の変化を、single cell level で丹念に調べた結果で、何か画期的な治療方法が提案されたわけではないが、今後、ALS研究にとっては重要なデータを提供した好感の持てる研究だ。タイトルは「An emergent disease-associated motor neuron state precedes cell death in ALS(ALSでは神経細胞死の前に病気に特徴的な運動神経の状態を定義できる)」で、6月16日 Cell にオンライン掲載された。
このような個人的ポリシーから見たとき、今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、これまでの医学データの解析が使えるかどうか、一般のビジネスマンと同じようにLLMに相談するという研究で、このような論文を Cell に採択してもいいのか気になったので紹介することにした。タイトルは「AI-driven discovery of GPNMB CAR T cells as a multi-cancer therapy(AIによりGPNMBを標的にするCAR-T細胞が様々なガンに対する治療に使えることがわかった)」で、6月25日号 Cell に掲載された。
ペンシルバニア大学は CAR-T 研究のメッカと言える。多くの研究者が新しい標的を求めて研究を行っているに違いない。この研究の目的は、メラノーマなどの皮膚に発生するガンの CAR-T 治療に使える細胞表面抗原を探すことで、特に皮膚の様々なガンの single cell RNA sequencing データから、ガン細胞で高発現で、正常細胞で低発現分子を探す。次に、データベースから標的候補のアノテーションを行い、これに良い抗体が得られるなど臨床開発しやすいかを調べる。
この過程は CAR-T 設計時に行われるルーチンと言えるだろう。特に、現在では single cell データが得られるため、ガンや正常細胞の遺伝子発現の多様性についてもデータが得られる。最初タイトルを見たとき、データベースから候補を探し出すLLMを構築したのかと思っていた。ところが全く期待は裏切られた。
今日紹介するドイツマックスプランク進化人類学研究所を中心とした国際チームからの論文は、ホモサピエンスのヨーロッパ進出時、ベルギー・マース川沿いに棲息していたネアンデルタール人のゲノムについて新しいゲノムも含めて検討し直し、滅亡の原因を探ろうとした研究で、6月24日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Genetic diversity of late Neanderthals in northwestern Europe(北西ヨーロッパの後期ネアンデルタール人の遺伝的多様性)」だ。
6月23日に続いて、脳内設置クラスター電極を用いた言語処理の論文を紹介する。テキサス・ベイラー医科大学からの論文で、6月24日 Cell に掲載された。タイトルは「Shared neural geometries for bilingual semantic representations in human hippocampal neurons(バイリンガルの意味表象の共通の神経的幾何学が人間の海馬に存在する)」だ。
これまでならこの結果で終了だったが、LLM 時代で、単語の意味を与える文章のコンテキストを多言語 BERT に、今回記録された2カ国語の文章をインプットして、ベクター化している。使ったのは700次元ぐらいのトークンを、12層のニューラルネットワークで処理している。このぐらいの大きさだと、各層でのインプットされた2カ国語の文章がどう処理されているか分析が出来るが、この結果最終層に一つ前、11層で2カ国語はよく似た潜在空間での分布を示すことがわかった。即ち、dog と perro はほとんど同じ位置にあり、また他の単語との距離、例えば cat と wolf を比べると wolf の方が dog に近い関係が、スペイン語でも見られることを示している。即ち、11層で意味空間が単語同士の距離の幾何空間を形成していることになる。
そして、それぞれの文章を聞かせたとき反応した神経細胞を相関させると、神経細胞が形成する2カ国語共通の意味空間が形成できたと結論している。重要なポイントは、最初単語レベルで神経細胞に対応できる結果を紹介してしまったが、実際には dog に反応しても perro にほとんど反応しない細胞の方が多い。しかし、ニューロン全体の形成する潜在空間で見ると、dogvs wolf, perro vs lobo と言ったように各単語の関係性は極めてよく保存されており、ほぼ同じ意味空間が神経細胞により形成されていると結論している。
ガンのペプチドワクチンは、通常樹状細胞のクラスII MHC ( MHC II ) に提示される。従って、CD4T細胞を抗原特異的に活性化する。一方で、ガンを直接殺す細胞はCD8キラーT細胞で、これはガン特異的なネオ抗原と MHC I との結合体を認識する。とすると、ペプチドワクチンではガンを殺せないことになる。これに対して、キラー活性を持ったCD4T細胞の存在、あるいはクロスプレゼンテーションと呼ばれる小胞体輸送システムによる MHC I へのロード、更にはトロゴサイトーシスト呼ばれるガンの膜成分を樹状細胞の膜成分に取り込むメカニズムなど、複雑なメカニズムが提案されてきた。
これに対し今日紹介する米国国立衛生研究所からの論文は、ガン抗原に反応するが、ガンを直接殺すことのないCD4T細胞によるガン抑制機構を、ともかく徹底的に単純化した実験系で明らかにした研究で、6月18日 Science に掲載された。タイトルは「CD4 + T cells impair tumor growth through IL-3 and TNF-dependent vascular damage(CD4T細胞はガンの増殖をIL-3とTNFによる血管損傷を通して抑える)」だ。
今日紹介するデンマーク コペンハーゲン大学、カナダ アルベルタ大学、そして英国 オックスフォード大学からの論文は、ペスト菌が仮性結核菌から別れてすぐ、主に子供を襲う致死的感染症として流行を繰り返していた可能性を示す研究で、6月17日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Lethal plague outbreaks in Lake Baikal hunter-gatherers 5,500 years ago(5500年前のバイカル湖の狩猟採取民に見られる致死的ペストの流行)」だ。
ALS患者さんの言語支援の研究を皮切りに、クラスター電極を用いて人間の脳神経活動を記録する研究を紹介してきたが、最後の今日は我々の話している言語を脳内の神経細胞興奮と相関させて、言語とはなにかを調べようとした、かなりチャレンジングなハーバード大学からの論文で、6月17日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Mapping the neuronal building blocks of human language with language models(人間の言語の神経的ビルディングブロックを言語モデルを用いてマッピングする)」だ。