3月30日 アルタイ山地のネアンデルタール人の歴史(3月23日 米国アカデミー紀要 オンライン掲載論文)
AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ

3月30日 アルタイ山地のネアンデルタール人の歴史(3月23日 米国アカデミー紀要 オンライン掲載論文)

2026年3月30日
SNSシェア

久しぶりにネアンデルタール人ゲノムについての研究を紹介する。それも、この分野を開拓してノーベル賞を受賞したペーボさんの研究室からの論文だ。タイトルは「A high-coverage Neandertal genome from the Altai Mountains reveals population structure among Neandertals(アルタイ山地からのネアンデルタール人の高いカバー率のゲノム解析によりネアンデルタール人の集団構造が明らかになる)」だ。

アルタイ山地のデニソーワ洞窟から出土した11万年前のネアンデルタール人のゲノムを解析した研究で、最近紹介してきた多くのゲノムを同時に調べる研究と比べると、一体の解析をこれまで解析された他のゲノムと丁寧に比べていく極めてアカデミックな研究で、ある意味でネアンデルタール人研究もここまで来たかと感慨が深い。

ペーボさんたちの地道な努力の結果、古代ゲノム解析が当たり前の技術になり、10万年前の骨から37回以上のカバレージのDNA配列解析が出来るのは本当に驚きだ。今回解析された骨(denisowa17:D17)が出土した場所は、ネアンデルタール人、デニソーワ人、そしてホモサピエンスが、時代ごとに交代で使っていたデニソーワ洞窟で、同じ場所からのネアンデルタール人としてはさらに古い12万年前の女性のゲノムが解析されている (D5) 。

まず、D5ととも、high coverageで解析されたネアンデルタールゲノム、一つは中央ヨーロッパ (Vinja) 、及びアルタイ山地の他の洞窟 Chagyskaya (Cha8) と比較すると、D5、D7と残りの2つは全く異なる人種と言えるぐらい離れており、例えとしてパプア人とアフリカ人ぐらいの差があることがわかった。Cha8は地域的にはデニソーワ洞窟に極めて近いのに、D5、D17とは全く異なっており、Vinjaと同じグループになる。この論文では、Vinja、Cha8を西のネアンデルタール人 (WNE) 、D5、D17を東のネアンデルタール人 (ENE) と分けている。WNEのCha8が何故アルタイにいるのかだが、7万年前の出土なので、中央ヨーロッパからアルタイ山地に移動してきたネアンデルタール人で、そのときにはD17と同じグループは死に絶えていたと想像される。

D5、D17では、対立染色体の多様性が少なく、特に新しく見つかったD17が最も多様性が少ない。すなわち、極めて小さなグループで生活していたと考えられる。面白いのは、Cha8は同じWNEのVinjaと比べても多様性が低い。即ち、アルタイに移ってきた後は、D5、D17と同じで小さなグループで暮らしていたことが想像される。

デニソーワ人からの遺伝子フローをしらべると、D5、D17ともに、比較的新しい交雑が示唆される。即ち、デニソーワ人と分離してからも交雑が起こっていた。この地域ではデニソーワ人とネアンデルタール人の両親を持つ混血ゲノムも見つかっていることから、両方が近接して生活し、交雑が行われていたと考えられる。

面白いのはCh8で、Vinjaと同じでほとんど新しい交雑の跡が見られない。従って、アルタイ山地に移ってきたばかりで、デニソーワ人との交流がなかったと考えられる。

一方で我々現存のホモサピエンスとの交雑は、VinjaのようなWNEと比べると低い。例えば我々のゲノムの中に存在するWNEゲノム量と比べると、1/4ほどにとどまっている。

以上が結果で、おそらくアルタイ山地のネアンデルタール人は、大きなグループが形成できない条件だったため、自然淘汰されたと考えられる。ただVinjaでもその傾向が見られるため、小グループに分かれてグループ間の交流が少ないのが、ホモサピエンスとネアンデルタール人を比較するとき、重要なポイントになると結論している。

ペーボさんの論文はいつも簡潔でわかりやすい。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月29日 腫瘍随伴性自己免疫性神経症候群の実験モデル(3月25日 Nature オンライン掲載論文)

2026年3月29日
SNSシェア

免疫チェックポイントガン治療の副作用として様々な自己免疫病が発生し、その中には天疱瘡のような抗体による免疫病も存在することが明らかになることで、我々の免疫トレランスは微妙なバランスの上に存在することがわかってきた。同じような例が、腫瘍発生に伴い急に様々な自己抗原に対して抗体が形成され、腫瘍とは関係のない部位の異常が誘導される腫瘍随伴性自己免疫症候群だ。自己抗体の中にはグルタミン酸受容体 (NMDAR) に結合して、神経興奮の閾値を下げ、てんかんなど重篤な神経刺激症状を示すケースの存在が知られている。これは、NMDARが急に腫瘍に発現することで自己免疫を誘発すると考えられているが、脳内ではNMDARが多く発現しており、さらに一部の血液細胞でも発現が認められるのに、何故抗体が産生されるのか、また抗体がNMDARの反応をどのように促進しているのか等は不明な点が多い。

今日紹介するコールドスプリングハーバー研究所からの論文は、トリプルネガティブ乳ガン (TNBC) でNMDARに対する自己抗体の産生機構と神経症状のメカニズムを明らかにするためのマウスモデルを構築し、腫瘍随伴性自己免疫性神経症 (ANRE) の発症機序をかなり解明できた論文で、3月25日 Nature にオンライン掲載された。

研究ではまずANRE症状にかかわらずTNBCの遺伝子発現を調べ、腫瘍の1−2%がNMDARの構成成分である GluN1 及び GluN2 を発現していることを確認している。

次に実験モデルの構築で、マウスTNBC細胞の GluN1 & GluN2 の発現を誘導出来るようにしてマウスに注射、ガンが増殖したところで GluN1/N2 を誘導すると、例外なくNMDARに結合する抗体が誘導されてくる。即ちNMDARに対するトレランスはそれほどしっかりしていない。

そこでどんな抗体が出来ているのか、腫瘍内に存在する抗原反応性B細胞を集め、single cell RNA sequencing で抗体遺伝子を始め様々な発現遺伝子を調べている。すると、抗体遺伝子では4種類のクローンが検出され、突然変異からもともとゲノムに存在していた抗体遺伝子 (germ line) が、徐々に変異を積み重ねて進化していることを発見する。Germ line 自己抗体遺伝子はB細胞の中でもB1細胞と関連付けられているが、今回得られたク4ローンでもB1タイプのB細胞が発見されている。ただB2タイプも混在していることから、B1/B2 が一つのクローンから発生したと考えられる。

それぞれの遺伝子から抗体を再構成してNMDARへの結合力を調べると、germ line から変異を重ねて結合力が大きく高まる、affinity maturation が起こっていることが観察された。このことは、NMDARに対する自己抗体が簡単にできてしまう理由は、変異のないgerm line抗体遺伝子ですでにNMDARへの結合が見られ、おそらくT細胞はほとんどトレランスが成立していないため、リンパ節内ですぐにB細胞の affinity maturation やクラススイッチが誘導されると考えられる。

次に、それぞれの抗体がNMDARと結合する領域を調べると、N末のアミノ酸への結合に集約される。ただ、クライオ電顕的に結合部位の構造を調べると、結合様態はまちまちで、様々なクローンがNMDARに反応する自己免疫B細胞として現れてくることがわかる。さらに詳しい検討から結合によりおこるNMDAR受容体変化から、刺激閾値を変化させる抗体とそれ以外を区別できることも明らかにしている。

ただ、機能を促進させる自己抗体が出来ただけでは脳症状は現れない。しかし、その抗体を直接脳室に注射すると、体温が上昇し多動になり、体重が低下するとともにてんかん症状も現れる。すなわち、病気の成立には脳血管関門の破綻がもう一つ重要な要素としてあることがわかる。

これだけだと自己抗体は悪い話だけになってしまうが、実際にはNMDARの自己抗体を持っているTNBC患者さんの再発は、持っていない人と比べて圧倒的に良い。事実、2倍NDMARの活性を上げるマウス自己抗体を注射するだけで免疫がなくてもガンの増殖を止めることができる。

以上が結果で、germ line遺伝子が最初からNMDARに緩く結合すること、そしてT細胞のトレランスが本来NMDARには成立していないことで、ガンがエピジェネティックな変化などでNMDARを発現してしまうと、速やかに様々な自己抗体が誘導され、何らかのきっかけで脳血管関門が壊れたときに、脳症状が出るというシナリオは十分納得できる。あとはT細胞側の反応メカニズムを明らかにすれば、完璧だと思う。また、新しいガン治療の方法までおまけでついてきた。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月28日 全ゲノム解析をルーチンにするオランダガンセンターの画期的取り組み(3月20日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2026年3月28日
SNSシェア

最近友人が相次いで肺ガンになってアドバイスを求められた。切除する場合は少なくともオンコパネル検査をお願いするようアドバイスしたが、がん研有明病院で見て貰っている友人は最初から遺伝子検査(オンコパネルかどうかはわからないが)を勧められたらしいが、東京の中規模病院で見て貰った友人は手術をしたあとオンコパネル検査について聞いてみたところ、あまり良い返事はなく、数十万円が自己負担になり、時間もかかると言われたようだ。折しも昨日厚生労働省がゲノム医療推進機構をスタートさせたという報道を目にしたが、20年前にスリップした錯覚に陥るほどだ。我が国でゲノムに基づくガン治療が行き渡るのはいつになるのだろう。

今日紹介するオランダ・ガンセンターからの論文は、オンコパネルやエクソーム検査をとび超えて、ガンの全ゲノム解析を2021年から必要な場合ルーチン検査として行える体制を整えた後、約2年間の経験をまとめた報告で、3月20日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Real-world clinical utility of tumor wholegenome sequencing in solid cancers(固形ガンの全ゲノムシークエンシングの実臨床での有用性)」だ。

この研究では2021年1月から必要と医師が判断しコンセントがとれれば全ゲノム検査をガンセンター内で行って、レポートも発出できる体制をとり、レポートに基づいて治療を行っている。1052人に全ゲノム検査を提案し、最終的に888人に全ゲノム検査を行っている。 試料の問題などで、ゲノム検査を完遂できたのが798人 (89%) で、このぐらいの歩留まりは覚悟する必要がある。

さて、全ゲノム検査の結果、現行医療、あるいは治験中の治療も含めて、ゲノムに基づく治療が可能と判断されたのが73%で、今後薬剤が利用できるようになればかなりの患者さんで、ガンの特徴に合わせて治療することができるようになると期待できる。オランダで用いられている、523遺伝子についてのオンコパネルと比べると、ゲノム解析で見つかる中の9割は523種類の遺伝子変異を調べるオンコパネルでも検出可能である事が示されている。この研究でシークエンシングはガンセンターで行われているので、コストについては言及がないが、コストが見合えば、全ゲノム解析の方が遺伝子変異の数を調べてガンの出来方を考えたり大きな変異を見つけたり、更には将来のガン抗原の探索など、大きなアドバンテージがある。

オランダガンセンターには難しい症例が多いようで、原発不明のガンも123/723存在していた。期待通り、このような困難なケースでは、原発ガンの特定や、治療法の決定にゲノム検査の貢献度は大きいことも示されている。また原発不明のガンの場合、原発がわかっている場合と比べ変異数も多い。

次は治療方針決定に役立ち、またその結果患者さんの生存を伸ばせるかが問題になる。治療方針決定に役立つかどうかについてはガンによってまちまちで、肺ガン、乳ガン、前立腺ガンなどは治験中も含めて多くの薬剤が利用できるようになっている。一方、中皮腫や腎がんではゲノム解析がまだ役に立つ段階ではない。

最後に解析に基づく薬剤を使った場合と、そうでない場合を比べると、全く治療を受けない場合は生存期間が3倍に伸びるが、通常の臨床で使われるガン治療と比べたときの差は小さい。とすると、わざわざ全ゲノム解析などしない方がいいという結論になるが、今回対象になった患者さんは既に標的薬も含めて様々な治療を行っている。そこで、ガンセンターに来る前に標的治療や化学療法をうけていない人と既に受けていた人に分けると、受けていなかったグループだけゲノム解析の大きな効果が出たことを示している。すなわち、ゲノム検査は最初の治療の際に行うべきである事が明確に示された。

以上が結果で、患者さんのためにもオンコパネルでいいので、最初からゲノム検査が安価に受けられるようにしてほしいと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月27日 患者さんから取り出した乳ガン細胞をマウスで増殖させる新しい方法の開発(3月18日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2026年3月27日
SNSシェア

変異ガン遺伝子などの明確な標的がわかっている場合でも、薬剤が効果を示さないことはしばしばある。当然細胞の増殖機構を標的にする治療法が効くかどうかは使ってみるまでわからないことがある。これが抗ガン治療の患者さんの不安と不満につながっていると思う。もし、薬剤の効果を患者さんから取り出した細胞であらかじめ確かめることが出来れば、不安や不満に答えることができる。

この目的のために様々な方法が開発されてきた。一つは3次元オルガノイドを中心とした培養法の開発で、多くのガンでかなりの確率で細胞培養が成功するようになってきた。しかし、時間とコストの面から、個々の患者さんの治療前にこの方法で細胞を培養して薬剤効果を確かめるには、時間とコストの壁が立ちはだかる。これに代わる方法として、免疫不全マウスに移植して増殖を見る方法で、乳ガンの場合脂肪組織に移植してエストロジェンを投与するという方法が用いられるが、成功率が低い。

今日紹介するオランダ ガン研究所からの論文は、乳ガン細胞をマウス乳腺の乳管内に注入する方法が、長期維持という点では3-4割の成功率でガン細胞を増殖させることが出来、移植マウスでの抗ガン治療の結果が患者さんの成績とほぼ一致することを示した研究で、3月18日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Patient-derived xenograft models of primary breast cancer for preclinical evaluation of neoadjuvant therapies(患者さん由来乳ガンの他種移植モデルはネオアジュバント治療の前臨床評価に使える)」。

マウスの乳管に細胞を注射するのがどれほど難しいかはわからない。しかし、乳ガンなら乳管から乳腺に戻せば最も自然に近い形で増殖させられるのではと着想したことがこの研究のハイライトだ。先日紹介した子宮内のマウス胎児の皮膚損傷手技にチャレンジしたのと同じラインの研究で、我々古い時代の研究者にはグッとくる物がある。

4種類の乳ガン、1)Her2陰性ER陽性のluminal A type、2)Her2陰性ER陽性 luminal B type、3)Her2陽性type、そして4)トリプルネガティブtypeを乳管に25000個注入している。エストロジェンの投与方法などいくつかの検討を経た上で、増殖能の高くないHer2陰性のluminal A 腫瘍でも12.3%の確率、アグレッシブなlumonal B腫瘍では32%、Her2陽性typeで33%、最も悪性のトリプルネガティブtypeでは67%の成功率で持続的に増殖する細胞株が樹立できる。

さらに、継代は難しいが移植した後ホストで一定の増殖を示すガンを含めると、全てのグループで6割を超す。少し面白いのは、トリプルネガティブtypeは継代可能なガンの比率が圧倒的に高いが、初代でも増えない細胞の比率は4割近い。今後この理由がわかると、乳ガンの多様性の理解も深まる気がする。

詳細は割愛するが、マウス内で増殖、継代可能な腫瘍の組織型、遺伝子発現、ゲノム変異など、ほぼ元のガンと同じである事を詳しく調べている。

以上のことから、免疫不全マウスを用いる個々の乳ガンに効く薬剤スクリーニングも夢ではない可能性が出てきたと思う。ただ、この研究ではテーラーメイド治療というより、免疫不全マウスへ移植可能な様々な乳ガンタイプを用いて、薬剤の効果検定が可能かどうかを乳ガン治療に使われる代表的な薬剤を用いて調べている。

例えばHER2陽性ガンでは、現在ネオアジュバント治療に使われている trastuzumab が移植ガンでも同じように著効を示すこと、ER陽性の腫瘍には最初からER阻害剤とともにCDK4/6阻害剤を併用した方が高い効果が得られることを示している。さらにBRACA変異で組み換え遺伝子修復に異常が見られるトリプルネガティブtypeは、現在ネオアジュバント治療に用いられている抗ガン剤は効果を示すが、これにPARP阻害剤を加えても効果が上がらないと、ちょっと予想外の結果も示している。

以上が結果で、切除したばかりの乳ガンを、比較的安価な方法でマウスで継代できる乳管注射を確立したことがこの研究の全てだ。この方法は間違いなく普及し、最終的には個別のガンについての薬剤テストにも使われるようになるのではと期待している。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月26日 パーキンソン病の遺伝子治療(3月24日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2026年3月26日
SNSシェア

パーキンソン病 (PD) のほとんどは孤発性で、シヌクレインが細胞内で異常凝集することで細胞が傷害される結果、ドーパミンの分泌が低下して起こる。ただ、明確な遺伝子変異により起こるPDも知られている。よく知られているのは Parkin 及び Pink で、傷害されたミトコンドリアを除去するマイトファジーに関わる。これらの遺伝子が欠損すると、傷ついたミトコンドリアが蓄積して、細胞死に陥る。同じように、細胞のゴミを処理するリソゾーム活性が低下することもPDの原因になることが知られており、その典型が遺伝的PDの中でも最も多いLRRK2遺伝子変異によるPDだ。もちろんプライマリーの異常はシヌクレインの蓄積だが、このストレス処理の異常は、PDの発症を早める。

Parkin や Pink 変異は機能が低下する変異だが、LRRK2 は変異によりそのキナーゼとしての機能が異常に高まることで、リソゾームによるミトコンドリアの除去を抑えることが知られている。重要なのは、LRRK2遺伝子変異がないPDでも脳脊髄液中の LRRK2 のキナーゼ活性が上昇している点で、このことからLRRK2遺伝子を抑えることでPDを治療するアイデアが生まれ、Biogen と Dinali により開発された阻害剤が現在第三相試験に進んでいる。

今日紹介する論文は、阻害剤を開発した Biogen が、今度は髄膜注射の必要な LRRK2 に対する anti-sense RNA (ASR) 治療の第1相試験結果で、第3相まで進んでいる同じ会社が異なるモダリティーの治療を行っているのかと驚いた。タイトルは「LRRK2-targeting antisense oligonucleotide in Parkinson’s disease: a phase 1 randomized controlled trial(LRRK2を標的とするアンチセンスオリゴヌクレチドによるパーキンソン病治療:第一相無作為化対照治験)」だ。

研究では対照群にも髄腔注射を行っており、PD患者さんを無作為化した後、0-150mgまで7段階に分けて様々な容量のASRを12週まで4回注射して、体内動態、副作用を中心に、最終的には運動機能への効果を見ている。

結論としては、髄腔注射で脳全体に広がり、注射後末梢血にも多く出てくる。ただ、どこかの器官にトラップされるということはない。

次に、脳脊髄液中の LRRK2タンパク質を調べると、注射を中止してからも36週までレベルが低下している。さらに、LRRK2 の標的分子 Rab10 のリン酸化型も、少しづつは上昇するが36週まで抑制されている。また、リソゾームの活動を反映するカテプシンも24週までは低下したまま維持される。

重要なのは副作用と効果だが、一人もドロップアウトはなく、当然髄腔注射時の痛みなどは存在するが、重篤な副作用は全くないと言っていい。MDS-UPDRS という運動指標で測る効果のほどだが、患者さんごとのばらつきは大きいが、一定の効果はあるようだ。ばらつきが大きいのは、細胞死でのLRRK2の関与の程度の差かもしれない。

以上が結果で、あとは次の段階へ進むかどうかになるが、このASRの場合、同じバイオジェンから同じ効果を持つ経口薬が開発されており、しかも第三相に進んでいる。多くの患者さんは、細胞死を防ぐ経口薬の開発として期待されているのではないかと思う。そんなとき、同じ会社から異なるモダリティーの治療法論文が出ると、例えば経口薬はダメだろうかと心配になると思う。

脊髄性筋萎縮症ではスプライシング核酸医薬、遺伝子治療、そして化合物という3種類のモダリティーが共存する状態だと思う。しかし今回の論文は、何が本命なのかと私も混乱する。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月25日 大規模言語モデルと患者さんのインターフェース(3月12日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2026年3月25日
SNSシェア

希少疾患の場合、専門家の数は極めて少ないため、患者さんは最先端の情報を得ることがなかなか出来なかった。ところが ChatGPT をはじめとする膨大な量のテキストを学習した大規模言語モデルの登場で、ある程度知識があれば最新の研究情報にアクセスすることができるようになった。即ち、我々のように頼まれて文献を調べ、そこから信頼できる情報を提供するという役目はほぼ終わりに近づいていると実感している。

まさに LLM により専門家の必要がなくなる例と言えるが、逆に人手が足りないという悲鳴が上がっている分野では LLM が状況を変えてくれる可能性がある。そんな領域が精神科領域で、うつ病でも、自閉症スペクトラムでも、訓練を受けて患者さんのメンタルケアを請負い、また様々な行動療法を実際に行う医療スタッフは世界中で足りていない。ただ GPT-4 や Gemini といった LLM をそのまま患者さんの相談相手にするのは問題が多い。

今日紹介する Limbic というベンチャー企業からの論文は、うつ病などを対象に、患者さんの言葉をまず受け取って感情や安全性を考慮した新しいプロンプトに変えてから、一般LLM にインプット、更にはLLM からのアウトプットも治療に適した安全な物かを検閲し、そうでない場合は治療に適した指針が出るまでこのループを繰り返すことの出来るAIを設計し、臨床的に検証した研究で、3月12日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「A cognitive layer architecture to support large-language model performance in psychotherapy interactions(精神療法時に、大規模言語モデルのパーフォーマンスをサポートする認知レーヤの構築)」だ。

通常 LLM を特定の目的に合わせるには、ファインチューニングやプロンプトチューニングが行われるが、この研究ではローカル AI を用いて一般LLM と患者さんのインターフェースに用いることで、臨床からの要求を包括的に満たす方向を選んでいる。

実際には53448種類のラベルのついたデータを学習させた AI を確立し、患者さんの言葉をこのモデルを通すことでまず LLM にインプットしたとき異常な答えが出ないような問いに変換し、これに薬剤や精神治療のレコード、また患者さんの感情など精神行動的パターンを統合して、500ワードほどの専門家の言葉に変換出来るようにしている。これを一般LLM にインプットするが、そのときも LLM に私は精神療法の専門家であるというカスタム指示を行った上で、インプットしている。

こうして得られた LLM のアウトプットを、やはり危険性がないか、現在行っている治療に即しているかなどをチェックして、もし問題があるともう一度プロンプトを書き直してLLMに戻すサイクルが出来るようにし、最終結果をメッセージとして患者さんに戻している。まさに医療に即したローカルAI を完成させている。

この研究では特に精神疾患の患者さんをリクルートしたわけではなく、このシステムが精神治療として使えるかどうかをテストする意味で集めており、例えば気分が安定したなどのウェルビーイングの感覚を評価して貰っている。

研究では、1)精神療法士へのコンサルテーション、2)GPT-4、Gemini、Llama等の LLM と直接対話、そして、3)ローカルAI を LLM に統合したモデルの3グループに被検者を分け、答えを評価して貰っている。さらに、専門家にも3者の答えを評価させている。

驚くのは、専門家が評価した場合、CLAと名付けられた新しいモデルが圧倒的に高い評価を得ただけでなく、直接 LLM に聞いた場合も、専門の精神療法士の答えより優れていると評価された点で、現在のLLM のレベルの高さを示している。

しかし、一般の被検者に評価させた場合、新しいCLAと精神療法士への評価は大体同じで、特に人間的絆を感じるかという点ではやはり精神療法士のほうが信頼感が持てるようだ。

最後にウェッブ上で利用して貰う形で、精神のコンサルテーションを希望する人に使って貰い評価して貰う大規模テストを行い、実際の精神的問題にも対応できることを示している。

以上が結果で、今後は特定の患者さんを対象にして治験を行うことになるが、現場の目的に合わせたローカルAI の開発が、医療の人手不足を多くク改善する可能性を持っていることがよくわかった。日本でも医療系の LLM を作成したと言ったニュースを見かけるが、LLM 自体を作り直すだけが重要ではないことがよくわかる論文だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月24日 皮膚器官の完全再生を神経細胞が押さえている(3月20日 Cell オンライン掲載論文)

2026年3月24日
SNSシェア

火傷の治療でもわかるように、大人になると時間がたてば残っている皮膚上皮が再生して、徐々に上皮化は進むが、毛根や汗腺と言った皮膚器官は全く再生できず、皮膚の本来持つ機能が強く抑制される。このため、機能的皮膚の再生は皮膚再生研究の最も重要な課題だと言える。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、皮膚器官の完全再生を抑制する要因の一つは再生時に発生する線維芽細胞が分泌する CXCL12 をはじめとする分子によって誘導される末梢神経の過剰な神経分布であり、生後5日目までなら神経の活動を抑制することで皮膚器官の再生を誘導出来ることを示した面白い研究で、3月20日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Hyperinnervation inhibits organ-level regeneration in mammalian skin(過剰な神経分布は哺乳動物皮膚の器官形成を阻害する)」だ。

イモリでなくとも、新生児期の哺乳動物には一定の再生機能が備わっていることが知られている。即ち、発生が進むとともに、何らかの形で再生能が抑制されると考えられ、抑制分子の探索は再生研究の重要分野になっている。皮膚の場合、生後すぐに損傷を加えた場合、限定的だが毛根の再生は見られる。しかし、生後2日目には上皮が回復しても皮膚器官は全く再生できない。それなら、生後すぐと2日目を比べればいいのだが、この研究の素晴らしい点は、生後すぐの再生はかなり限定的なので完全に器官再生が起こる時期に損傷を加える実験を行う必要があると考えたことだ。とはいえ、この実験を可能にするには、発生前の胎児に損傷を加え皮膚再生を調べる必要がある。この研究のハイライトは、なんと子宮内にいる胎生16.5日目の胎児の皮膚を手術的に損傷して、発生・出産させた後、皮膚再生を調べる方法を開発したことだ。Method に簡単に述べられているプロトコルを読んでみると、なかなか大変な手術である事がわかる。そしてこの苦労が実り、16.5日目に皮膚を深く切り取っても、毛根は言うに及ばず、リンパ管も含む皮膚の全ての器官が完全に回復しており、回復した毛根には立毛筋が分布し、寒さに対して毛を逆立てるところまで回復していることを示している。

次に、再生中の細胞を取り出し、single cell RNA sequencing で解析し、生後5日目の再生時のみ再生時特有の線維芽細胞が現れることを発見する。そして、この再生時の線維芽細胞が分泌する分子をリストして、これらの遺伝子をアデノ随伴ウイルスをベクターとして16.5日目胎児の再生時に注射すると、Cxcl12、CCL7、そしてTimp1遺伝子を加えると、器官再生が抑制されることが明らかになった。

これらの分子は白血球やマクロファージの損傷部位への遊走に関わると考えられたので、他の方法で再生部位への白血球の遊走を誘導する実験を行い、再生を抑制しているのが炎症や白血球の遊走ではないことを発見する。そして、特に Cxcl12 による損傷部位への神経分布が、再生を抑制している要因である事を突き止めている。

最後に、再生部位での神経活動を抑えることで、生後の再生過程の抑制を解除できるかいくつかの方法で検討している。もちろん、Cxcl12 の線維芽細胞からのノックアウト、あるいはその受容体の神経細胞でのノックアウトにより、再生能は回復する。しかし、おそらく一番重要な発見は、ボツリヌストキシンで神経のシナプス活動を抑制すると、それだけで器官再生が回復することで、現在用いられているボトックスの様々な効果を考えると、むちゃくちゃ面白い。

結果は以上で、生後5日以降の再生も同じように回復させられるかどうか(おそらく難しいと思うが)などは示されていないが、ともかく神経活動が初期の皮膚器官再生を抑制する最も重要な原因である事が明らかになったのは素晴らしい。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月23日 T細胞受容体と抗原のメカニカル結合力を上げる(3月19日 Science 掲載論文)

2026年3月23日
SNSシェア

CAR-T治療は抗体の抗原認識をT細胞に移植する方法だが、ガンの抗原ペプチドとMHCを認識するT細胞の抗原受容体 (TcR) 遺伝子を患者さんのT細胞に導入してガンを殺す方法の開発も行われている。この場合、特定の組織抗原を持つ患者さんに対象が限られるが、43%の転移性滑膜肉腫患者さんで効果が見られたことから、2024年FDAが迅速承認され、この分野がさらに活性化された。

この治療にはガン抗原に対するTcRを選ぶことが最も重要で、多くの場合親和性を上げるなどの様々な遺伝子改変が行われる。今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、前立腺特異的に発現しているPAP由来ペプチドと HLA-A*02:01 に対するTcRのアフィニティーではなく、メカニカルストレスに対する結合力の強さを獲得させ、治療に使えるRcRを設計するという面白いアイデアを追求した研究で、3月19日 Science に掲載された。タイトルは「Overcoming T cell tolerance to tumor self-antigens through catch-bond engineering(腫瘍の自己抗原に対するトレランスをCatch-bond 操作で克服する)」だ。

タイトルの catch-bond というのは、剪断力のような機械的力を利用して、分子結合時間が伸びる現象で、血液が流れている血管内で白血球が血管内皮とセレクチンを介して接着する時に見られる。研究では、PAP/MHC に対して結合する TcR156 に様々な変異を導入して、剪断力がかかったとき、結合力が高まるが親和性は変化しない変異体を見つけるところから始めている。親和性が特異性を決めるので、親和性を変えないことはガンへの特異性を保証するためには重要になる。

実際には、PAP/MHC と結合するTcRの抗原結合部位だけに変異を導入する。ただランダムな導入ではなく、メカニカル力を上げると期待できる極性を持ったアミノ酸(ヒスチジン、アスパラギン、グルタミン酸)に置き換え、反応が高まる変異を集め、最後にランダムな突然変異も加えて、最終的にTcRの活性化が強いTcR156変異体を選んでいる。これを、剪断力がある状態で結合力や結合時間を測る方法で調べると、もとの TcR156 では0.2秒しか結合できなかったのが5秒近く結合していることがわかる。

次にこの変異TcRの生物活性を調べると、特異性は全く変化しないが、キラー活性、増殖活性、インターフェロン分泌活性が数倍高まったT細胞を作成することができる。さらに、抗原刺激後に起こる細胞の疲弊が起こらず、機能を維持することも示されている。アフィニティーを変えずに、反応持続を高めるだけでこれだけの効果があるのは驚きで、生物学的にも面白い。

あとは変異TcRを導入した免疫不全マウスに、変異TcRを導入したT細胞を移植する実験で、腫瘍をほぼ完全に抑えること、そして生体内でも疲弊が起こりにくいことを確認している。

最後に変異TcRの構造解析と、分子結合のコンピュータシミュレーションを行って、導入した極性を持つアミノ酸と接触する抗原側のアミノ酸の解析から、catch-bond ホットスポットの反応により結合部位の水分子の再構成が起こることで、抗原とTcRの結合力が高まることを示している。

以上が結果で、抗原とTcRの結合を理解する上で生物学的には面白いと思った。一方臨床応用を考えると、抗原/MHCごとにTcRを分離し、変異導入を行い、TcRを至適化する必要があるが、一度出来ると同じMHCを持つ人に利用できる。価格の問題は常につきまとうが、様々な抗原とMHCの組み合わせに対して一度変異TcRを作成すれば多くの人をカバーできるようになるのだろう。ただ、最初から catch-bond 現象に絞ることで、将来はAIでの変異予測技術も確立するだろう。特異性の心配なく、ガン特異的治療の一つとしては十分可能性が高い。競争が進むことでコストも下がることを期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月22日 新皮質の進化を探る(3月18日 Nature オンライン掲載論文)

2026年3月22日
SNSシェア

我々哺乳動物には大脳表面を覆う6層構造を持つシート状の構造が存在しており、このおかげで高度の認知機能を発達させてきた。カラスのように鳥類でも高い脳機能を示す種が存在するが、これは新皮質ではなく Nidopallium と言う領域を発達させている。これらについてはChatに図を作成させたので、少し難しい今日の論文紹介を理解する助けに使ってほしい。

今日紹介するイェール大学からの論文は新皮質の進化発生学研究で、3月18日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Adaptive evolution of gene regulatory networks in mammalian neocortex(哺乳動物新皮質での遺伝子調節ネットワークの適応進化)」だ。

久しぶりにオーソドックスな進化発生学の論文を読んだ気がする。もちろん専門誌には多く掲載されていると思うが、そこまで目を通すことができない。しかしこのブログを始めた頃は、一般紙にも多く掲載されていた

新皮質進化の過程を探るには、新皮質発生過程を調節する遺伝子の探索から始める。そして多くの場合それは様々な遺伝子の転写を調節する転写因子になる。この研究でも新皮質2-4層と5-6層の細胞を別々にラベルして、遺伝子発現とヒストンマークによるエンハンサー探索を行い、最終的に新皮質形成時に全ての細胞で最も高く発現している転写因子Zbtb18を特定する。そして、これにより調節される遺伝子が、鳥類やは虫類の脳の発生に関わる遺伝子とは大きく異なることを確認し、Zbtb18を中心とする遺伝子ネットワークが哺乳類特異的である事を明らかにしている。

Zbtb18はSTAB2、ROBO1など新皮質形成に重要な分子を調節すると考えられるが、その中のCux2遺伝子を指標に、Zbtb18がCux2上流のエンハンサーに結合して、特に2-4層の神経細胞の発生を調節することを明らかにしている。特に神経細胞分裂が終了した後の細胞分化や、神経ネットワーク形成を調節していることを実験的に明らかにしている。

また選択的にZbtb18遺伝子ノックアウト実験から、Zbtb18が下流の様々な遺伝子の発現調節を介して、層構造の形成に必要な神経連絡とともに大脳内の様々な領域との神経結合を軸索進展を介して調節していることを、詳しく調べている。例えば、Zbtb18はRobo1の発現を介して大脳の反対側への軸索形成に必須である事も示している。他にも様々な実験が行われているが割愛する。

要するに発生初期からZbtb18は新皮質ネットワーク形成のマスター遺伝子として働いているという発見と、これと協調するようにCux2、Satb2、Robo1など神経発生に関わる様々な遺伝子の調節領域にZbtb18結合領域が進化してきたことを示したのがこの研究のハイライトだ。

そして、この研究で発見されたZbtb18とその下流の分子は、自閉症などの遺伝子多型が見られる遺伝子として知られており、自閉症のリスク多型を解する点でも重要なヒントとなることが示されている。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月21日 ミトコンドリアを赤血球膜に包んで細胞内に届ける(3月18日 Cell オンライン掲載論文)

2026年3月21日
SNSシェア

言うまでもなく、ミトコンドリア異常症の治療方法の一つは、異常細胞にミトコンドリアを移植することだ。細胞内でミトコンドリアは独立して存在しているので、異常ミトコンドリアが存在しても、移植ミトコンドリアも増殖できる。ヘテロプラスミーという現象で、うまくいくと異常ミトコンドリアが淘汰され、移植したミトコンドリアが優勢になることも期待できる。

問題は細胞の中に移植する必要があることで、卵子への注入例を除くとほとんど試験管内の方法でとどまっている。今日紹介する中国科学アカデミー、広州生物医学健康研究所からの論文は、細胞から取り出したミトコンドリアを赤血球から調整した細胞膜成分を用いて包んでしまい、これを体内に注射することで様々な細胞にミトコンドリアを移植出来、脳に注射することでパーキンソン病の治療も可能である事を示した研究で、3月18日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Transplantation of encapsulated mitochondria alleviates dysfunction in mitochondrial and Parkinson’s disease models(カプセルで包んだミトコンドリアの移植はミトコンドリア病やパーキンソン病モデルでの症状を改善できる)」だ。

方法は実にシンプルだ。ミトコンドリアを細胞の破砕と遠心分離を組み合わせた一般的ミトコンドリア抽出キットを用いて調整。これをヒトやマウスの赤血球を壊して残る赤血球膜と合わせて自然に小胞を形成させると、2-3割の小胞内にミトコンドリアが含まれている。電子顕微鏡写真で見ると、小胞はミトコンドリアの約2倍の大きさを持っている。

試験管内でミトコンドリア自体も細胞内に移行する事が知られているが、カプセルに包むことで効率は高まり、試験管内で正常細胞に加えて2日目で70%以上のミトコンドリアがドナー由来になり、最終的に35%ぐらいで維持される。また、ミトコンドリアを除去した細胞に加えると、移植されたミトコンドリアは球状から桿状に変化し、細胞内で正常に機能することを示している。また、重症ミトコンドリア症 Leigh 症候群の患者さん由来の細胞に移植すると、移植された細胞では正常ミトコンドリアに置き換わって、ミトコンドリア機能を正常化できることを示している。

次にマウス静脈に注射する実験を行い、肝臓を中心に様々な臓器の細胞に取り込まれることを示している。そして、Leigh 症候群モデルマウスへ注射すると、平均48日ぐらいの寿命を74日まで延ばせることを示している。

最後に仕上げの実験としてドーパミン神経に取り込まれてミトコンドリア呼吸系を阻害してパーキンソン病を誘導する実験系で、静脈注射、あるいは線条体への局所投与でパーキンソン症状を改善することが出来ることを示している。

論文を読んでいて驚いたのは、ミトコンドリア自身でも静脈注射である程度細胞内に取り込まれることだが、これと比べても遙かに効率の高いミトコンドリア移植法が開発されたことになる。一応安全性については問題がないことを示しているが、抽出やカプセルに包み込む過程で傷がつくと、マイトファジーや、自然免疫誘導などなど様々な過程が誘導される可能性が考えられるので、慎重に臨床応用を進めることが重要だと思う。また、パーキンソン病発症にミトコンドリア異常は深く関わっているが、例えばパーキン変異のようにマイトファジー機能不全が存在すると、逆にストレスを高める心配もある。期待できるので、Leigh 症候群のような重症ミトコンドリア症を中心に治療研究を進めてほしいと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
2026年3月
« 2月  
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031