1月14日 炎症性腸疾患での線維化メカニズム(1月7日 Nature オンライン掲載論文)
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1月14日 炎症性腸疾患での線維化メカニズム(1月7日 Nature オンライン掲載論文)

2026年1月13日
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炎症性腸疾患 (IBD) の研究で最近特に目立った研究者の一人がハーバード大学の Ramnik J Xavier だ。このブログでも何度も紹介してきたが、論文は新しいアイデアが満載で読んでいて面白い。例えば2024年11月に紹介した Nature の研究では、細菌叢の研究でほとんど調べられてこなかった、細菌叢と直接触れる消化管全体の細胞の変化を統合するというチャレンジングな研究はその例だ(https://aasj.jp/news/watch/25676)。

今日紹介するXavier研究所からの論文は、IBDの結果起こってくる腸の線維化を誘導するメカニズムについての研究で、腎臓や肺と異なりあまり線維化が取り上げられてこなかったIBD研究に新しい視点を切り開いていると思う。タイトルは「Bidirectional CRISPR screens decode a GLIS3-dependent fibrotic cell circuit(両方向のクリスパースクリーニングによりGLIS3依存性の線維が細胞回路が解読される)」で、1月7日 Nature にオンライン掲載された。

研究は最初からIBDで起こる線維化に焦点を当てている。そしてどう攻めるかを決めるために、クローン病や潰瘍性大腸炎患者さんのデータベースから single cell RNA sequencing や組織DNA解析のデータを集め、線維芽細胞を分類、最終的に炎症により誘導され、炎症や線維化に深く関わる線維芽細胞IAFを特定している。この細胞は線維化に関わる様々なコラーゲンやタンパク分解酵素、炎症細胞を誘導するケモカインに加えて、これまであまり注目されなかった分子を発現している。個人的には、通常リンパ球で発現しているIL-7Rが発現しているのが気になったが、この研究ではIL-11に注目した。

IL-11を抑制すると老化を抑制できるという論文を以前紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/24856)、老化を進める細胞の一つが線維芽細胞で、肺線維症や腎硬化症が老化リスクと連結していることを考えると、IL-11を選んだことはうなずける。事実、IL-11を炎症誘導前にノックアウトしておくとIAFの出現を強く抑制し、線維化を抑えることができる。

次にIL-11発現を指標に線維芽細胞を刺激する細胞やサイトカインを探索すると、マクロファージから分泌されるTGFβやIL-1βが線維芽細胞を刺激し、IL-11のみならず線維化に関わる多くの遺伝子を誘導していることがわかった。

そこでこの線維化プログラムを調節しているマスター遺伝子の探索に進むが、この時タイトルにある双方向性のCRISPRスクリーニングを行っている。双方向とは、Cas9により遺伝子ノックアウトによるスクリーニングに平行して、CRISPRシステムで遺伝子発現を誘導するVP64を作用させる、即ちオンとオフの両方から線維芽細胞活性化刺激に反応する遺伝子を調べている。

このスクリーニングから線維化プログラムのマスター分子として見つかったのがGLIS3だが、他にも予想されるTGFβシグナルや、IL-1βシグナル分子、そしてYAP/TAZと言ったシグナルが関与することも明らかになっている。期待通り、GLIS3を線維芽細胞でノックアウトすると、線維化を強く抑えることができる。また、GLIS3が線維化プログラムに関わる多くの遺伝子の上流に結合していること、さらにはGLIS3がYAP下流のTEADやIL-1β及びTGFβの共通の下流にあるFOSL/JUNと結合することで、遺伝子発現を調節していることを示している。

人間のIBDとの関わりもデータベースで検討しており、GLIS3の発現とIBDの重症度が相関することを示している。

腸管での線維化というあまり研究の進んでいなかった領域に踏み込み、細胞から分子までXavierならではの包括的研究が行われている。この研究は腸にとどまっているが、肺や腎臓でもIL-11やGLIS3の可能性は調べる価値があると思う。

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1月12日 tRNAを切断するCRISPR/Casの発見(1月7日 Nature オンライン掲載論文)

2026年1月12日
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久しぶりに CRISPR/Cas についての論文を取り上げることにした。この領域の研究は今もアクティブで多くの論文が発表されているが、中心は臨床応用へ進んでいる。昨年には一人の酵素欠損患者さんを、誕生直後の遺伝子診断から lipid nanoparticle を用いた CRISPR/Cas 遺伝子導入で治療するという、究極のテーラーメイド医療が可能なことを示した画期的な論文が発表されている(N engl j med 392;22,2025)。また prime editor のような様々な操作が可能なシステムの開発も進んでいる。しかし、なんとなく新しさを感じることが出来なくて、この分野の紹介がおろそかになっていた。

今日紹介するドイツ・ヴュルツブルグにあるヘルムホルツ感染研究所からの論文は、なんとtRNAを特異標的として切断するCasが存在することを発見した研究で、1月7日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「RNA-triggered Cas12a3 cleaves tRNA tails to execute bacterial immunity(RNAにより活性化される Cas12a3 は tRNA の 3’tail を切断してバクテリアの免疫に関わる)」だ。

CRISPR はバクテリアのウイルスやプラスミドに対する免疫システムだが、備わっている核酸切断酵素は二本鎖DNA が標的になっている。しかし一本鎖DNAやRNAを切断できる Cas12 や Cas13 も存在し、様々な仕組で外来遺伝子に対応しているのがわかる。この研究ではDNAとRNAを切断するCas12ファミリーの系統樹の比較からDNA切断に必要な部位が存在しない分子に着目し、Cas12a3 と名付け、その標的の検索を始めている。

実験の詳細は全て省くが、Cas12a3 は

  • CRISPRシステムとしてウイルスに対する免疫システムとして働いている。
  • RNAは切断するが、一本鎖DNAは全く切断しない。
  • 標的はウイルスゲノムやmRNAではなく、ホストのtRNAで、3’tailに存在するACC配列を切り離す。

ことがわかった。即ち、侵入者を対象にするのではなく、侵入者の増殖を止めるために、自分のtRNAを切断して翻訳を止める。即ち、自己犠牲の下にウイルスの伝搬を防ぐシステムと言える。

元々バクテリアには、トキシン / アンチトキシン系と呼ばれる、ファージ感染により活性化されてtRNAを分解するシステムが存在し、tRNAのアンチコドンを認識してウイルスが必要とするtRNAをより選択的に分解することで、ウイルス増殖を抑えるシステムが存在している。ただ、これと比べると、Cas12a3 は選択性がなく、ほとんどのtRNAを標的にする。

クライオ電顕を使って様々な条件での Cas12a3 構造解析を行い、この分子がまずガイドRNAとの結合による構造変化の結果、tRNAをテール側からくわえ込んで ACCAtail を切断、そのtRNAは結果 Cas12a3 から離れるが、ACCAtail はそのまま残り、新しいtRNAを呼び込みやすくしていることを明らかにする。

tRNAを切断するCasが発見されただけでも面白いのだが、最後に応用として、この特異性を切断特異性の異なるCas13と組み合わせることで、3種類のRNA基質を標識として用いることが出来、3種類の異なるRNAの存在を同時に検出することが出来る、マルチプレックスなRNA検出系の開発が可能なことを示している。即ち、3種類のCasとそれぞれに対するRNA基質が共存する試験系が構築でき、ガイドさえ選べば例えばインフルエンザ、Covid-19、そしてRSウイルスを同時に検出することが可能になることを示している。

遺伝子編集もそうだが、CRISPRは臨床検査も大きく変化させていることがよくわかる。

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1月11日 気になる治療法3題(1月8日 Nature Medicine 他)

2026年1月11日
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少し気になった治療方法の論文を立て続けに目にしたのでまとめて紹介する。

まず最初のケンブリッジ大学を中心とする論文は、狭心症発作や心筋梗塞など急性冠動脈症候群に見られる炎症を、低容量のIL-2で抑制できるか調べた第2相治験で、1月8日 Nature Medicine に掲載された。タイトルは「Anti-inflammatory therapy with low-dose IL-2 in acute coronary syndromes:a randomized phase 2 trial(急性冠動脈症候群に対する低容量のIL-2を用いる抗炎症治療:無作為化第2相治験)」だ。

坂口さんのノーベル賞で有名になったと思うが、他のT細胞と比べて制御性T細胞 (Treg) はCD25を強く発現していることから低い濃度のIL-2にも反応できる。従って低い濃度のIL-2を投与することでTreg全般を高め、免疫による炎症を抑えることが期待される。そこで狭心症発作の頻発する患者さんや心筋梗塞の患者さんで、PETで冠動脈の炎症がはっきりしている人を選び、無作為化後、IL-2あるいは偽薬を最初5日間は毎日、その後14週まで1週ごとに皮下注射している。

結果だが、治験を途中で止めざるを得ないようなケースは1例だけで、冠動脈の炎症を抑制し、2年の経過で重大な冠動脈の再発を抑えることができている。また期待通り、血中のTregの数は治療直後から20%程度上昇し、その後も維持されるが、他のT細胞には大きな変化がなかった。

以上が結果で、免疫性の炎症を抑える効果は証明されたが、CRPがほとんど正常化しないことからIL-6など他の炎症はそのままになっていると考えられる。確かに効果はあるが、がん免疫の抑制など見えない効果もあると考えると、高容量スタチンなど、これまでの方法の方が安全に思える。

次のノバルティスからの論文は、脊髄筋萎縮症の薬剤として開発された Branaplam をハンチントン病に使おうと行われた第2相治験で、1月5日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Oral splicing modulator branaplam in Huntington’s disease: a phase 2 randomized controlled trial(経口スプライシングを変化させる薬剤 branaplam のハンチントン病への効果:無作為化対照第2相治験)」だ。

Branaplam は脊髄筋萎縮症の原因遺伝子 SMN2のmRNA のエクソン7スプライス調節領域に直接結合し、エクソン7がスキップされるのを抑制する薬剤として開発された。ただ、同じ時にロッシュグループにより開発された SMN2mRNA により特異性がある Risdiplam と比べると特異性が低く、神経毒性があるとして脊髄性筋萎縮の治療薬として認可されなかった。

ただ、脊髄性筋萎縮症の治験中に、ハンチントン病原因分子ハンチンティン (HTT) の脊髄液中の濃度が低下することが観察されたので、ハンチントン病に使えるのではと治験が行われたのがこの研究になる。結果は以下のようにまとめることができる。

  • まずHTTを抑えるのに有効量を投与した患者さんのほとんどで末梢神経症を中心に副作用が発生し持続する。
  • 神経が全般的に傷害されたことを示すニューロフィラメントが急速に上昇し、正常細胞にも影響があることをうかがわせる。ただこの上昇は30週ぐらいで正常化する。
  • 脳脊髄液中のHTT分子は30%低下する。
  • 脳室が拡大し、脳の萎縮が見られる。

以上が結果で、経口薬とは言え使うかどうか悩ましいデータだ。現在髄腔内にmiRNAを投与してHTTを抑制する治験が第3相へ進んでいるので、手技が必要とはいえ、miRNAが第一選択になる気がする。

最後のテキサス大学ガルベストン校からの論文は、アフリカで毎年5000人の死者が出ているラッサ熱を、経口摂取可能なRNAアナログ 4fluorouridine (4FU) で治療する可能性を示す、サルを使った前臨床研究で、1月7日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Oral 4′-fluorouridine rescues nonhuman primates from advanced Lassa fever(4-fluorouridineの経口摂取は進行したラッサ熱の治療薬になる)」だ。

まずアフリカミドリザルを用いた致死的ラッサ熱感染実験システムを確立し、致死量のウイルス感染6日後から投与を始めている。結果は明確で、全てのサルが死亡する実験系で、全てのサルが生存する。また、血中ウイルス量も、4FU投与後すぐから低下してほぼ2-3週間で完全に検出できなくなる。これと交代に、ウイルスに対する抗体が12日ぐらいから上昇し、免疫が成立する。

他にも病理や遺伝子発現を調べているが割愛する。核酸アナログなので副作用の方は覚悟する必要があるが、短期治療で済むことから治験が行われると思う。

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1月10日 骨に直接投射する感覚神経は骨折後の修復を調節する(1月8日号 Science 掲載論文)

2026年1月10日
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神経細胞は身体の隅々にまで張り巡らされており、筋肉や腱に投射する神経は身体の動きを脳に伝える深部感覚として、触覚や痛覚とともに重要な体性感覚を形作っている。

今日紹介するジョンズホプキンス大学からの論文は、体性感覚を構成する後根感覚神経の中には直接骨に投射している神経があり、骨の痛覚や機械刺激感覚に関わるとともに骨の再生に重要な役割を演じていることを示した研究で、1月8日号 Science に掲載された。タイトルは「Mapping somatosensory afferent circuitry to bone identifies neurotrophic signals required for fracture healing(求心性体性感覚回路の骨への投射を特定することで、骨折後の治癒に関わる神経シグナルが特定された)」だ。

この研究ではまず骨に投射している神経を逆行的にラベルする方法を用いて、後根神経の一部が骨に直接投射することを確認した後、ラベルされた感覚神経を single cell 遺伝子発現解析を行い、骨に投射する神経を特定するとともに、特徴的な遺伝子発現セットを明らかにしている。

遺伝子発現から、カルシトニン関連ペプチドを発現し、低閾値の機械受容体を備えたミエリンでシールドされないCファイバー型神経であると特定できる。面白いのは、このような感覚神経の特徴だけでなく、FGF、Wnt、BMPといった増殖分化に関わる遺伝子を発現していることで、このパターンから神経や骨の修復にも関わるのではと着想している。

そこで、マウスの大腿骨に投射している神経をラベルしたあと骨折させ、その後の神経内での転写を調べている。大変美しい結果で、骨折後1日目、14日目、56日目とそれぞれの段階で誘導される遺伝子を特定することに成功している。例えば炎症と相関する分子は骨折後すぐに神経でも誘導される。一方、再生に関わるような Shh や FGF 等は14日目に強く発現している。即ち、骨折後の治癒過程に合わせて神経細胞も変化している。

そこで骨に投射する神経を外科的に切断して骨折させると、骨折部位に出来るカルス内の細胞の増殖が抑制され、修復過程が強く抑制される。この時にカルスを形成している間質細胞と神経細胞の相互作用に関わる分子を探索し、最終的に神経から分泌される FGF9 が修復に関わる可能性を突き止めている。

最後に、後根神経にアデノ随伴ウイルスベクターを注射する系で神経細胞のFGF9をノックアウトする実験を行い、神経切除を行ったのと同じように、骨の修復が抑制されることを確認している。

結果は以上で、ノックアウト実験も量的な変化にとどまりはするが、骨にまで神経が張り巡らされており、組織の修復に関わっていることがわかる。イモリの四肢再生での神経系の役割はよく研究されているが、我々でも同じような機能が違った形で備わっていることは面白い。

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1月9日 ホモサピエンスの直接の祖先を探す(1月7日 Nature オンライン掲載論文)

2026年1月9日
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我々ホモサピエンスと、ネアンデルタール/デニソーワ系統は65万年前後に分岐し、ネアンデルタール系統はユーラシアに展開し、ホモサピエンスは10万年ぐらい前まで、現代のイスラエルを中心に北アフリカに分布したと考えられている。即ち、共通祖先が生まれた後、北アフリカで進化したのがホモサピエンス、共通祖先がユーラシア、おそらくスペインあたりで進化したのがネアンデルタールだと考えられている。特に、モロッコから30万年前のホモサピエンスの骨が見つかり、この考え方が強く支持されている。

今日紹介するフランスのコレージュフランスからの論文は、やはりモロッコから発見された77万年前の骨が、ホモサピエンスとネアンデルタールの分岐点に近い特徴を有していることを示した研究で、1月7日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Early hominins from Morocco basal to the Homo sapiens lineage(モロッコで発見された初期ヒト属の骨はホモサピエンス系統の基部にあたる)」だ。

責任著者の一人 Hublin はモロッコで最古のホモサピエンスの骨を発見した研究者で、このホモサピエンスにつながる先祖の骨を探していたところ、250kmほどはなれた Thomas Quarry I から発掘されていたヒト属の下顎、歯、脊椎の骨に着目した。

発掘される石器からこのヒト属 (TQI) はアシューリアン文化、即ち直立原人の仲間に属しており、また石器の磁気の配向から Matsuyama-Brunhes 反転時期に近いことが明らかになり、75万年前、即ちネアンデルタール系統とホモサピエンス系統が分岐した時点に近いヒト属の骨であることがわかった。

そこで、下顎、そして最も異なるヒト属の特徴を反映する歯について、数量形態学を用いて様々なヒト属と比較し、期待通り TQI がネアンデルタール系統とホモサピエンス系統から少し離れたしかしエレクトスなどの直立原人からは離れた特徴を持つまさに両者の共通祖先と行っても良い形態をとっていることを発見する。

比較に用いた指標から、ネアンデルタールに近かったり、ホモサピエンスに近かったりしているが、スペインで発見されたホモ・アンテッサーと比べると、ネアンデルタールとは少し離れていることから、よりホモサピエンス系統の先祖に近いホモエレクトスから進化してきたヒト属の系統だと結論している。これまで、アシューリアン文化を持つヒト属はユーラシアだけでなく、アフリカでも発見されるようになっているが、北アフリカでは TQI が最初に見つかったヒト属のようだ。

以上が結果で、Hublin が発見していた最古のホモサピエンスの近くで、ユーラシアのホモ・アンテッサーに近いヒト属の骨が見つかったことから、ホモサピエンス系統とヒト属の共通祖先に近いと考えられ、ネアンデルタールとホモサピエンスの進化過程を調べる上で、モロッコとジブラルタル海峡を挟んだスペインの重要性を示す重要な貢献だと思う。今年も人類進化を探る論文を紹介する機会が多いと思うが、さてどんな驚きが待っているのか楽しみだ。

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1月8日 脊髄損傷修復を促進する新しい可能性(1月5日 Cell オンライン掲載論文)

2026年1月8日
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神経損傷後の修復は起こりにくいと言われているが、末梢神経では修復が起こる。従って、末梢と中枢の神経を比較する研究はこれまでも行われてきた。

今日紹介する英国王立ロンドン大学からの論文は、後根神経と呼ばれる感覚神経が、末梢に投射する軸索は再生できるのに、中枢に投射する軸索が再生できないことを利用して、神経再生を支える新しい代謝経路を発見した研究で、1月5日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「A glycolytic shunt via the pentose phosphate pathway is a metabolic checkpoint for nervous system sensory homeostasis and axonal regeneration(5単糖リン酸化経路を介した解糖系のシャントが感覚のホメオスターシスと軸索再生の神経システムチェックポイントとして働いている)」だ。

研究ではレーザーを当てて分子を蒸発させ質量分析を行う方法を用いて、後根神経の末梢投射軸索と中枢投射軸索を比較し、一つの重要な違いとしてペントースリン酸化経路が末梢投射軸索で強く発現している一方、中枢投射軸索では発現が弱いことを発見する。

五単糖リン酸化酵素 (PPP) はATPによるエネルギーのやりとりをスキップして、グルコースからNADPHや核酸を合成する重要な経路で、NADHやGSH合成により活性酸素の作用を抑え、またRNAやDNAの原料となるリボースを合成する働きがある。実際、末梢投射軸索では活性酸素が高いことから、末梢の軸索が刺激により常にストレスにさらされ活性酸素を発生させていることがわかる。これに対応するため、メカニカルストレスによりPPPが活性化されていることもわかった。

次にメカニカルストレスの極致と言える脊髄損傷で後根神経の代謝変化を調べ、同じように末梢投射軸索だけでPPPが活性化されることを発見する。この結果はPPP活性化が末梢投射軸索の再生能の基盤である可能性を示唆している。そこでグルコースからリン酸化リボースへの代謝経路の律速酵素トランスケトラーゼ (Tkt) 遺伝子をアデノ随伴ウイルスを用いて導入すると、活性酸素が抑えられ、核酸の合成が高まり、中枢側の軸索の再生も促進することを明らかにしている。

大事なのは、この作用は決して感覚神経にとどまらず、運動神経でも見られることがわかった。即ち、脳の運動野にTkt遺伝子を導入したあと脊髄を損傷すると、通常は切断部位から退縮する軸索が、切断部位へと軸索を伸ばしていることが観察される。

PPPは核酸の合成にも重要なので、次に核酸材料としてリボースだけを全身投与して脊髄損傷治癒を調べている。すると、Tkt遺伝子投与と同じ切断部位への軸索の投射が観察され、機能的にも回復を促進することを示している。

以上が結果で、リボース投与だけでは得られない効果も多いので、最終的にはTktを導入するという治療法が望ましいと思うが、活性酸素の抑制、リボースの合成だけでここまでの効果があるとすると、急性期の治療としては是非チャレンジする価値はあると思う。おそらくこの研究で調べられた以上の効果、例えばエピジェネティックな変化を誘導することも十分考えられる。しかし、軸索の方向性でこれほど代謝が変わっているメカニズムも是非知りたい。

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1月7日 形質理解のためのゲノム解析の重要性(1月1日 Science 掲載論文)

2026年1月7日
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想像を超える多様性の存在が自然を観察する楽しみだ。多くの多様性の背景には遺伝系が対応しており、このブログでも何度も紹介した。例えばずいぶん昔、ヨーロッパに済む2種類のカラス(一つは真っ黒、もう一つは黒と灰色の2色)は交雑可能だが、見た目の違いを形成する遺伝系に加えて、それを認識する視覚系の変化により、交雑が起こらず、種分化が進行中であることを示す研究を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/1735)。しかし形質の多様性は全てゲノムだけで決まるわけではない。例えばオス・メスが環境で変わる生物は多い。

今日紹介するカリフォルニア大学バークレイ校からの論文は、ゲノムと形質のさらに複雑な関係を示すアメリカの砂漠に生息するワキモンユタトカゲの3種類のタイプが、ゲノムと発生の可塑性の両方が合わさって決まっていることを解明した研究で、1月1日号の Science に掲載された。タイトルは「The genetics, evolution, and maintenance of a biological rock-paper-scissors game(生物学的グー・チョキ・パーゲームの遺伝学、進化、そして維持)」だ。

グー・チョキ・パー(rock-paper-scissors)とは混乱してしまうタイトルだが、このじゃんけんゲームこそがこのトカゲを有名にしている。オスは、喉の色でオレンジ、ブルー、そしてイエローに分かれる。オレンジが一番強く、多くのメスのハーレムを作っている。ブルーやイエローは腕力ではオレンジにかなわない。それでもブルーは一匹のメスとペアを作り小さな縄張りで生きている。ただし、オレンジが来るとメスは略奪される。イエローは基本的には常に一匹で生活するが、縄張りが大きくなりすぎたオレンジの縄張りに忍び込んでメスと交雑する。この関係が何百万年も続き、おそらく3種類の形質は維持されてきたと考えられる。もちろん、それぞれのタイプの比は変化する。イメージとは異なるが、これをじゃんけんゲームとして捉えている。

この研究ではブルーとオレンジそれぞれ40匹あまりのゲノムを調べ、3種類の形質の形成過程を調べている。最初に明らかになったのは、形質の違いはSPRと言う遺伝子の上流の違いによることを特定した。

この違いは一塩基変異等ではなく、大きな領域の違いで、ブルーにしかない領域とオレンジにしかない領域が、両者共通に存在する領域に挟まれて存在している。これらの領域は、いくつかのトランスポゾンが飛び込んで形成しており、遺伝子発現調節に関わると思われる。それぞれの遺伝系をOとBに分けることができる。

3種類の形質について遺伝系を調べると、オレンジは全てOOで、一方ブルーはBBかBOがほとんどだ。ただ、OOでも3匹ほどブルーが存在することから、完全に遺伝系で形質が決まっていないのがわかる。これがイエローになるともっと極端で、BB、OB、OOが存在する。とすると、イエローやブルーへの可塑性を説明する遺伝型が存在する可能性があり、探索しているが相関する遺伝子は見つからない。

そこで遺伝系で系統樹を書いてみると、基本的にはOとBは完全に分かれているが、2つの間でしばしば交雑が起こる結果、O系統にBが少し見られ、逆にB系統にO が少し見られることがわかる。

ではOとBの遺伝系でどのように3種類の形質を説明するのか? これまで、イエローがメスとペアリングした結果ブルーになったことが観察されており、おそらくイエローは発達途中でメスとペアリングできない結果発生する可塑的形質と考えられる。

またこの謎を解く鍵はSPR分子にある。この酵素が関わる経路には、ドーパミンやアドレナリンなどのホルモンとともに青い色素形成にも関わる基質がある。そして、Bタイプの上流はより強い遺伝子発現に関わる。

これらを総合すると、SPR発現が強いと青い色素が出来るだけでなく、少し穏やかな行動をとるようになる。逆にオレンジはSPRの発現が低めで、結果青の色素がなくなり、行動がアグレッシブになる。これらは発達途中でメスとの関係で決まるが、メスとペアできないと、より環境の影響を受けて、イエロー形質が発生する。即ち、色と行動がリンクし、それが環境で変化できることで、3種類の形質がじゃんけんゲームを繰り返し、何百万年も維持されたことになる。ゲノムがわかって初めて理解できる多様性だが、自然の多様性は興味が尽きない。

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1月6日 脳へ移行できる酵素を用いたライソゾーム病治療(1月1日号 The New England Journal of Medicine 掲載論文)

2026年1月6日
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ライソゾーム病はムコ多糖症とも称され、ライソゾーム内に存在するグリコサミノグリカンを分解する酵素の欠損により起こり、分解できなかった物質が全身に沈着し、様々な臓器障害を起こす。欠損する酵素によって様々なタイプに分かれ、発見した人の名前がついている。現在可能な治療法は酵素補充療法で、リソゾームに選択的に取り込まれる酵素を投与することで、リソゾーム内の酵素活性を復活させることができる理にかなった極めて有効な方法だ。

しかしながら、リソゾーム病の多くは脳でもムコ多糖類蓄積が起こり神経を強く傷害するが、酵素は脳内に移行しないために、身体症状は改善しても中枢神経系には届かず、神経症状を改善することは出来ない。この問題を解決するためには、脳に遺伝子を導入する遺伝子治療と、脳血管関門を通れるように改変した酵素の開発が行われている。

今日紹介するノースカロライナ大学からの論文は、X染色体上にコードされている iduronate-2-sulfatase酵素の欠損を原因とするリソゾーム病・ハンター症候群に、トランスフェリン受容体結合ドメインを付加した酵素を静脈注射することで脳内へ移行できるようにした薬剤:tividenofusp alfa の第1/2相治験の報告で、1月1日 The New England Journal of Medicine に掲載された。タイトルは「An Intravenous Brain-Penetrant Enzyme Therapy for Mucopolysaccharidosis II(脳に移行する酵素を静脈注射するムコ多糖類症IIの治療)」だ。

tividenofusp alfa は、iduronate-2-sulfase (IDS) にヒト免疫グロブリンFcを結合させ、このFc部分にトランスフェリン受容体結合部位と、リソゾームに取り込まれる糖修飾を加えて合成されており、相物実験で中枢に取り込まれて神経細胞、アストロサイト、そしてミクログリアに取り込まれて、リソゾームの酵素活性を回復させることが確認されている。

これを最終的に43人の患者さん(平均年齢5歳)を対象に、様々な量を投与する治験を行っている。第1/2相治験なので、最も重要なポイントは安全性の確認になる。実際には5年投与し続けて経過を見ており、最終的に41人が治療を続けていることから、様々な副作用はなんとかマネージできることを示している。

最も頻度が高く深刻な副作用は、投与した酵素に対するアナフィラキシーで、既に酵素補充療法を受けた経験のある患者さんでは高い頻度で起こる。ただ、予想可能でステロイドをあらかじめ投与するなど対策を打っておけば、ほとんどの患者さんで治療を5年間継続できる。また、死亡例は観察されていない。

もう一つ予想できる副作用がトランスフェリン受容体をトランスフェリンと競合する結果、鉄の取り込みを抑え、鉄欠乏性貧血が生じることで、特に治療開始11週目までに25%の患者さんで貧血が起こる。

次は効果だが、全身だけでなく脳内の酵素活性が回復できたことが、脳脊髄液中の Heparan Sulfate が90%減少することからわかる。また、神経障害を示すニューロフィラメント分子の量も大幅に減少する。

この結果、適応行動、認知を調べる様々なスコアが改善し、また聴力の改善も見られることが明らかになり、確かに脳内で働くことが確認された。

結果は以上で、現役の頃開発が進んでいた脳血管関門を通す技術が実現しつつあることをがよくわかった。、幸い懸念された貧血やアナフィラキシーもマネージできそうなので、今後例えば抗アミロイド抗体など様々な分子を脳内に移行させる方法として定着できるのではと期待する。

(追記:愛知ガンセンターの堀尾先生から指摘を受けて、ほぼ同じ薬剤が日本のJCRにより開発され、日本では発売されていることを知りました。JCRは芦屋にある会社で、個人的にも以前は一緒に読書会をしたりしており、またBBBを通る独自のテクノロジーで抗体治療などに取り組んでいるのは知っていたのですが、IDSの脳内移行薬剤を開発していたのは知りませんでした。もしほとんど同じ結果なら、この論文がNEJMに採択されるのは少しフェアでない気がします。)

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1月5日 二型糖尿病とアミロイド(1月2日 Cell オンライン掲載論文)

2026年1月5日
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二型糖尿病はインシュリンが効きにくくなるインシュリン抵抗性と呼ばれる時期に、それに対抗するためインシュリンを過剰に分泌するため膵臓のβ細胞が頑張りすぎて、最終的に力つきて死んでしまう結果と考えられている。これに対し、インシュリンと一緒にβ細胞から分泌されるアミリンという小さなタンパク質が、アミロイド線維を形成し、これが細胞死の原因になるという考えもある。事実、2型糖尿病では経過とともにアミロイドの蓄積が見られ、これを抑制することでβ細胞を保護する研究も進んでいる。一方、β細胞が自己免疫で傷害される一型糖尿病ではアミロイド形成は起こらない。

今日紹介する上海交通大学からの論文は、2型糖尿病で膵臓の腫瘍を併発した患者さんの外科的に切除した膵臓からアミロイド線維を抽出し、その構造を解読し、アミロイド線維もβ細胞変性に十分関わる可能性があることを示した研究で、1月2日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Structure of pancreatic hIAPP fibrils derived from patients with type 2 diabetes(膵臓の2型糖尿病患者さん由来のhIAPP線維の構造)」だ。

タイトルのhIAPPとはアミリンのことで、ここではアミリンとする。これまでアミリンが膵島でアミロイド線維として沈着しており、抗体も開発されていたが、実際のアミロイド線維を抽出することは出来ていなかった。この難関を克服したのがこの研究だが、抽出方法の詳細は全て割愛する。

こうして得られたアミロイド線維の構造をクライオ電顕で解読し、

  1. 一つのアミリンがΩ型の平べったい構造をとり、2個のアミリンが相補的に2量体を形成している。
  2. この結果極めて安定的な平面ユニットが縦に重なって線維が形成される。
  3. これまで試験管内でアミリンからアミロイド線維を形成することが可能だったが、実際の組織から抽出したアミロイド繊維と比べると、21番目から37番目のアミノ酸で、線維形成の分子同士の重合のインターフェースは構造が一致するが、他の部分は大分異なっている。ただ、7-18番目の構造は、組織由来の線維を加えて線維化させることで、構造が似る。すなわち、組織内に存在するまだわかっていないリガンドの助けを得ることで、今回示された構造が形成されることになる。
  4. また、組織内のアミロイド線維は正常アミリンを線維型に変化させる播種効果があることが構造からもわかるが、アルツハイマー病でのβアミロイドと構造を比べると、構造的にはよく似ているので、ひょっとしたらこれまで言われてきたように、膵臓のアミロイドがアルツハイマーアミロイドを誘導する可能性があるかも知れない。

以上が結果で、実際の線維をクライオ電顕で解析できるまでに組織内から抽出したことが最も重要な研究だ。構造を見て、2型糖尿病もアミロイド病である可能性をかなり受け入れる気になった。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月4日 血液のクローン性増殖を防ぐ遺伝子の発見(1月1日 Science 掲載論文)

2026年1月4日
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血液幹細胞の一部が普通より少し高い増殖能を獲得すると、クローン性造血という状態が発生する。白血病のように、他の正常クローンを完全に圧迫するほどではないが、この状態に他の遺伝的あるいはエピジェネティックな変化が付け加わると、骨髄異形成症候群や白血病へと発展する。クローン性造血を誘導する遺伝子変異も研究が進んでおり、JAK2のように直接増殖に関わる変異もあるが、DNMT3a、TET2、ASXL1のようなエピジェネティック過程、即ち結果として様々な遺伝子の発現を変化させる変異によるケースが多い。

今日紹介するハーバード大学とスローンケッタリングガン研究所からの論文は、UKバイオバンクの大規模データを用いて、クローン性造血を抑制する一塩基変異 (SNP) を特定し、クローン性造血を抑えるメカニズムをヒト血液幹細胞を用いて示した研究で、クローン性増殖を考える上でも重要な研究だ。タイトルは「Inherited resilience to clonal hematopoiesis by modifying stem cell RNA regulation(クローン性造血に対する遺伝的耐性は幹細胞のRNA調節を変化させることで達成できる)」だ。

UKバイオバンク及び Geisinger health study に登録された人たちの中から5万人のクローン性増殖を示す人を特定し、発生率と相関する遺伝子座をゲノムチップで探索し、17番染色体のSNP、rs17834140を特定する。このSNPを持っていると、原因となる変異を問わずクローン性増殖を抑えることができる。

このSNPが存在するゲノム領域を調べると、MSI2遺伝子のイントロン領域にあることがわかり、クロマチンはオープンで血液幹細胞の転写に関わる様々な遺伝子が結合するエンハンサー領域であることがわかった。そしてこのSNPではGATA2結合が低下することも明らかになった。これはドンピシャの当たりで、MSI2 (Musashi-2) は慶応の岡野さんが若い時代にショウジョウバエで発見した幹細胞維持に関わることが知られているRNA結合タンパク質で、白血病のリスク遺伝子として知られていることから、クローン性造血と相関したことは納得できる。

MSI2ノックアウトマウスは筋肉、骨、生殖細胞の発達低下が見られるが、正常に生まれてくる。逆に、この研究の結果と同じで、欠損マウスは白血病にかかりにくいことが知られている。

人間の臍帯血幹細胞を用いてMSI2をノックアウトすると、幹細胞の自己再生が低下するが、完全に消失するわけではない。またSNPに相当するエンハンサー領域だけノックアウトすると、自己再生の低下の程度はずっと緩やかになり、2割程度の低下で終わる。

この研究ではこの遺伝子が過剰発現したヒト血液幹細胞と、MSIノックアウトやエンハンサーノックアウトで変化するRNAを調べ、MSI2結合RNAにより強く調節を受けている208種類のRNAを特定し、これらの多くが協調して血液幹細胞の自己再生を助けるネットワークを形成していることを明らかにしている。即ち、MSI2のエンハンサー機能異常により、このネットワーク全体の活性が少し低下することが、クローン造血を抑えていることを示唆している。

これを証明するため、ASXL1変異を導入したヒト幹細胞を作成し、これにMSI2ノックアウト、あるいはエンハンサーノックアウトを組み合わせる実験で、クローン性造血を強く抑えることを示している。また、ヒトでの実際の効果を確かめるため、クローン増殖が認められたヒトの5年後の状態を調べると、このSNPを持つ人ではクローン性造血の進展がほとんど見られないことも確認している。最後にマウスモデルも作成して、同じ結果が見られることを示している。

以上が結果で、自己再生を少し低下させることで正常の造血は維持したままクローン性造血を減らせること、また血液細胞の自己再生がRNAレベルの調節でマイルドに調節されていることが明らかになり、今後クローン性造血だけでなく、白血病発生を理解するにも重要な貢献だと思う。

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