1月19日 頭蓋骨髄中の白血球に脳へ薬剤を運ばせる(1月16日 Cell オンライン掲載論文)
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1月19日 頭蓋骨髄中の白血球に脳へ薬剤を運ばせる(1月16日 Cell オンライン掲載論文)

2026年1月19日
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この10年中国の研究力は急速に高まっており、毎日論文を読んでいるとそのことを強く実感する。論文を読んでいて、中国研究の一つの特徴は、なかなか考えつかない発想を基盤とするチャレンジ精神だと思う。と言っても、これまではこのチャレンジ精神は、例えばiPS細胞やTregと言ったオリジナルな発想ではなく、あくまでも普通考えない可能性で、結果はそれまでの考え方の枠内でとどまっていた。しかしこのチャレンジ精神こそ新しい実用には重要で、中国技術躍進の核になっていくように思う。

このことを如実に語る例が DeepSeek で、まず昨年の9月、Nature にアーキテクチャーを開示した点で驚いたが、論文を見ると他の大規模言語モデルが出来るとわかっていてもやれなかったチャレンジ、即ちLLMの学習に強化学習を導入して人間の関与を大きく減らすというチャレンジが行われていた。我が国では Deppseek を ChatGPT や Gemini との性能比較だけで議論されることが多いが、強化学習を導入したモデルであることこそ評価されるべきだと思う。このチャレンジを続けていけば、例えば Transformer を過去のものにするイノベーションも可能になる予感がする。

大きく脱線したが、今日紹介する中国精華大学からの論文は、新しく発見された頭蓋骨髄から脳へ直接移動する白血球を利用して脳損傷を治療する可能性をマウスから始めて臨床まで進めた研究で、1月16日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Nanoparticles hijack calvarial immune cells for CNS drug delivery and stroke therapy(頭蓋免疫細胞をハイジャックしたナノ粒子を脳卒中の薬剤デリバリーに使う)」だ。

2018年9月、頭蓋骨髄から直接脳へつながる血管ルートが存在し、それを通って白血球が脳卒中部位に移動することを示したハーバード大学からの論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/8894)。この事実に着目し、移動する白血球に薬剤を運ばせる方法開発にチャレンジしたのがこの研究だ。

方法だが、ペンシルバニア大学から2022年に発表されたアルブミンをクロスリンクしたポリエチレングリコールで形成されるナノ粒子が選択的に白血球に取り込まれ,肺での炎症を抑える薬剤デリバリーに使えることを示した(file:///Users/snishikawa/Downloads/s41565-021-00997-y.pdf)ナノ粒子を用いている。

即ち、ハーバードとペンシルバニア大の技術を融合させただけと言えばそれだけだが、ナノ粒子を頭蓋骨髄に注射することで、骨髄内の白血球にナノ粒子をロードすることが出来、その白血球は卒中による脳損傷部位に選択的に移動することを確認した後、マウスを用いて卒中治療の前臨床研究に進んでいる。

使った薬剤はカナダのバイオベンチャーにより開発された Tat-NR2B9c と呼ばれる薬剤で、PSD-95に結合してグルタミン酸受容体の過興奮を抑えて脳を保護する薬剤で、現在第三相治験が行われている。

これをナノ粒子に詰め込んで、中大脳動脈を結紮して起こした脳卒中マウスの頭蓋骨髄内に注射すると、ナノ粒子を使わない静脈注射や、頭蓋骨髄内注射と比べ、何よりも脳の萎縮が起こらず治療が可能で、死亡率も低く、さらに回復後の機能も他のグループと比べ改善程度が高い。

そしてこの方法をそのまま、悪性中大動脈梗塞患者さんに使っている。ただ、Tat-NR2B9c はまだ許可されていないので、中国で許可されている脳細胞保護剤を用いている。1/2相試験なのでまず安全性が重要だが、保存治療に比べて死亡率が2割から3割に上がっているのは気になる。ただ、注射による直接の副作用はないと結論している。

その上で、90日目での最終結果を見ると、寝たきりのままの状態を5割から1割へと大きく減らすことができる。さらに、歩行器で歩けるようになる確率が2割から5割へ上昇するので、素晴らしい結果だ。

以上が結果で、いくつかの技術をまとめて素晴らしい治療に仕上げるという、私が今中国の研究に感じているチャレンジの典型論文だと思う。確かに基本技術はまだ他から集めてきているかもしれないが、この延長に本当の大きな発見があるのは、我が国のノーベル賞受賞者を見るとわかる。今後は、他の病気も視野に入れた研究を進めてほしい。

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1月18日 肥満で自然炎症が亢進するメカニズム(1月15日 Science 掲載論文)

2026年1月18日
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Covid-19パンデミックで広く知られるようになったが、肥満の人は重症化しやすい。特に感染により様々な炎症性サイトカインが分泌されるサイトカインストームが起こりやすいことから、これが重症化の一因とされている。しかしなぜ肥満の人は炎症性サイトカイン分泌が亢進しているのかについては、理解できているわけではない。

今日紹介する米国テキサス大学からの論文は、肥満による自然炎症亢進の原因の一つにマクロファージのミトコンドリア核酸代謝の変化が存在することを示した研究で、1月15日 Science に掲載された。タイトルは「Nucleotide metabolic rewiring enables NLRP3 inflammasome hyperactivation in obesity(核酸代謝回路の書き換えが肥満でのNLRP3インフラマゾームの過剰活性化を可能にする)」だ。

タイトルにあるNLRP3分子は、細胞内での炎症反応を組織化しているインフラマゾームと呼ばれる複合体の核になる分子で、活性化により炎症性サイトカインIL-1βが分泌され、このブログで何度も取り上げたピロトーシス(https://aasj.jp/?s=%E3%83%94%E3%83%AD%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9&x=0&y=0)が起こる。この研究では肥満の人や肥満マウスからのマクロファージを取り出し、NLRP3を刺激したとき、肥満個体からのマクロファージでIL-1βの分泌が高まることを確認し、この実験系で肥満がNLRP3を活性化させるメカニズムを探っている。

ミトコンドリアから発生するDNAがNLRP3を活性化することが知られているので、この過程に絞って研究を進めているが、まず肥満個体由来マクロファージでは、ミトコンドリア由来のDNAが上昇していることを突き止める。元々ミトコンドリアには、CMPK2と呼ばれる核酸を再利用する経路が備わっており、これによりミトコンドリア独自の核酸を合成し、増殖に使っているが、肥満で上昇しているのはこの経路とは異なる経路であることがわかった。

肥満個体由来マクロファージでは細胞質の核酸の上昇も見られるので、この核酸がミトコンドリアに取り込まれて利用されているのではと考え、細胞質で核酸を分解しているSAMHD1と言う酵素の活性を調べると、肥満によりこの分子のリン酸化が起こって酵素活性が低下している。また、この分子をマクロファージでノックアウトすると、肥満がなくても炎症を亢進させることがわかった。すなわち、SAMHD1の酵素活性が肥満によるリン酸化で低下して、細胞質の核酸が上昇し、これが取り込まれることで、ミトコンドリアDNA合成上昇、その結果としてミトコンドリアからのDNAの排出が高まり、NLRP3の活性化を亢進させていると考えられた。

この可能性を確認するため、NLRP3が活性化されやすいSAMHD1欠損マクロファージで、ミトコンドリアへの核酸の移行を媒介するチャンネルをブロックする実験を行い、細胞質からの核酸の移行が起きないと、ミトコンドリアでのDNA合成や排出は上昇せず、その結果NLRP3の活性化による炎症の亢進が起こらないことを示している。

この経路が体内でも働いていることを示すため、マクロファージのSAMHD1をノックアウトしたマウスを作成すると、肥満とは無関係にLPSによる反応が高まり死亡率が上昇する。さらに、血中のIL-1βの上昇、インシュリン抵抗性、脂肪肝も見られることがわかった。

以上が結果で、おそらく肥満により発生する脂肪や死細胞の処理を高めるため、ひとつのマクロファージを活性化機構として、通常のミトコンドリア核酸代謝経路に加えて、細胞質での核酸分解を抑える回路が備わっており、それに肥満によるSAMDH1のリン酸化が関わっている。しかし、感染などの炎症シグナルでNLRP3が活性化されると、この機構はミトコンドリアから排出されるDNAが上昇させ、活性化されたNLRP3の活性を亢進させてしまい、肥満によってウイルス感染が重症化しやすい原因となっている。幸いSAMDH1は全身でノックアウトしてもそれほど大きな影響はないので、感染時にこの酵素を阻害して重症化を防ぐ可能性は十分あると思う。

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1月17日 多発性硬化症とEBウイルス研究3題(1月13日 Cell オンライン掲載論文)

2026年1月17日
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このブログでも紹介してきたが、多発性硬化症はEBウイルスにより引き金を引かれることはほぼ間違いがない。しかし、EBウイルスはB細胞に感染し神経に感染するわけではないことから、EBウイルスの感染から多発性硬化症の発症までの過程を説明する必要がある。これについての最も有力な説が、EBウイルス感染により誘導される抗体やT細胞が、ミエリンや神経細胞発現分子と交叉反応をするという考えだ。1月13日オンライン掲載された論文の中に、3編もこの問題を扱った論文があったので、まとめて紹介する。通常同じ課題についての論文がまとまって発表される場合、同じ結論というのが普通だが、今回はEBウイルスにより自己抗原に対する反応が起こるという点では同じだが、それぞれ異なるメカニズムを扱っているので3編とも紹介する。ただ、詳細はかなり省くことにした。

最初はバーゼル大学からの論文で、ミエリンに対する受容体を発現するB細胞がEBウイルスで生存増殖し、これが自己免疫T細胞を誘導する可能性を示した研究で、タイトルは「Myelin antigen capture in the CNS by B cells expressing EBV latent membrane protein 1 leads to demyelinating lesion formation(中枢神経内でEBウイルスのlatent membrane protein 1を発現するB細胞に取り込まれたミエリン抗原は脱ミエリン化を誘導する)」だ。

この研究は抗原刺激を受ける前のB細胞が体中を循環し、そこで抗原に出会った時、ヘルプするT細胞が存在しないとそのまま細胞死に陥るという説を前提として、ミエリンに対するB細胞をマウスで調べている。B細胞は中枢神経系にも進入し、細胞表面の蛍光色素ラベルした抗原に結合、さらに抗原を細胞内に取り込むが、通常はそのまま死んでしまう。ただ、T細胞によるCD40刺激が加わると、生存増殖して抗原提示細胞として自己抗原に対するT細胞を誘導する。

この研究ではミエリンと反応したB細胞がEBウイルスに感染していると latent membrane protein1 の作用でCD40シグナルがなくても細胞死を免れ、ミエリン由来ペプチドをT細胞に提示し、T細胞性自己免疫反応を誘導することを示している。

以上をまとめると、EVウイルスは、自己反応性のB細胞の細胞死を防ぐことで自己抗原をT細胞に提示し、自己免疫を起こしているということになる。とすると、当然他の自己免疫疾患にもおなじ機構が働く可能性がある。

次は中国科学技術大学と、スイスチューリッヒ大学からの論文で、EBウイルス感染によりB細胞が発現しているミエリンを処理して抗原提示する能力が獲得され自己免疫を誘導することを示す研究で、これも交叉反応ではなく自己抗原がEBウイルスにより提示されるという話になる。タイトルは「EBV infection and HLA-DR15 jointly drive multiple sclerosis by myelin peptide presentation(EBウイルス感染とHLA-DR15は協調してミエリンペプチドを提示し多発性硬化症を発生させる)」だ。

EBウイルス感染過程は極めて複雑で、抗原刺激B細胞と同じで感染後、Latency III を経てリンパ節の胚中心 dark zone へ移動した Latency I 、その後リンパ節を離れて完全に潜在化する Latency II から Latency 0 へと進んでいく。

この研究では初期感染時にB細胞を増殖させリンパ球へ移動させるためEBウイルスの持つ全ての遺伝子が動員される Latency III でB細胞に起こる大きな変化の結果、B細胞が異所的に発現している Golli-myelin タンパク質を処理してHLAに提示するという仮説を考えた。

そこで試験管内でB細胞にEBウイルスを感染させ Latency III の状態を作って調べると、多発性硬化症の最大のリスク分子HLA-DR15を持つB細胞で、自己抗原として知られているミエリン由来ペプチドが提示されていることがわかった。また、このB細胞によりCD4T細胞の反応が誘導できることも示している。

以上から、EBウイルスの感染、特に Latency III と呼ばれる初期では、B細胞自身がミエリン反応性T細胞を刺激できるペプチドを合成して、MHC-R15にロードすることが、自己免疫の引き金になっていることを示している。

最後のスウェーデンカロリンスか大学からの論文は、B細胞ではなく自己反応性のT細胞に着目し、EBウイルス分子に対するT細胞が、神経細胞などが発現する Anoctamin-2 を認識して脳の炎症を進行させることを示した研究だ。タイトルは「Anoctamin-2-specific T cells link Epstein-Barr virus to multiple sclerosis(Anoctamin-2特異的T細胞がEBウイルスと多発性硬化症を結びつける)」だ。

Anoctamin-2 に対する自己抗体は多くの多発性硬化症患者さんで検出できる。この研究では、多発性硬化症の患者さんのコホート研究で得られた末梢血細胞を用いて、この分子に対するCD4T細胞が誘導されていることを発見し、ミエリンだけでなく、この分子に対するT細胞反応も多発性硬化症に関わっていることを明らかにしている。

マウス多発性硬化症モデルは通常ミエリンで免役して誘導するが、Anoctamin-2免疫でも同じような脳炎を誘導できることから、多発性硬化症を考えるときの重要な自己抗原であることが証明された。

これを確認した上で、Anoctamin-2 に対するT細胞を、EBウイルスが持つEBNA1抗原を発現したB細胞でも誘導できることを示したのがこの研究のポイントになる。即ち、EBNA1を発現し、HLA-DR5を発現したB細胞は、Anoctamin-2 に対するT細胞を誘導する。さらに、患者さんが発現する自己抗体が結合したAnoctamin-2 がB細胞へと取り込まれると、同じ抗原の他の部分に対するT細胞まで誘導されることを示している。

以上、EBウイルスは自己抗原と交叉性を示す抗原を持つが、ミエリンではなくAnoctamin-2 であるという結論になる。Anoctamin-2 は血管にも発現していることから、同じT細胞は血管内皮を傷害して、炎症を増強させる可能性も示されている。

以上3編を改めて振り返ると、多発性硬化症がいかに複雑な病態かがよくわかる。ただ、EBウイルスが全ての元にあるので、パピローマワクチンと宮ガンのように、ワクチンで予防するのがいいのかもしれない。

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1月16日 腸内細菌によるガン免疫活性化の極めつけメカニズム(1月14日 Nature オンライン掲載論文)

2026年1月16日
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腸内細菌、特にセグメント細菌 (SFB) と呼ばれる分節した繊維状形態をとる細菌が、ガンに対する免疫の活性化に重要な役割を持っていることが知られており、PD-1に対する抗体を用いたチェックポイント治療に細菌の力を借りる臨床研究が行われている。

細菌の効果については、SFBが腸粘膜を刺激してTh17型T細胞を誘導するアジュバント活性によると言う考えと、これに加えて細菌が発現している抗原がガン抗原と交叉反応を示す結果ガン特異的免疫が誘導されるからだという考え方がある。実際、腸で活性化されたT細胞が、抗原とは無関係にガン局所に浸潤すると考えるのはあまりにナイーブに思える。しかし、ガン抗原と交叉する抗原を見つけることは簡単でない。

今日紹介する腸の免疫学の大御所、ニューヨーク大学 Littman 研究室からの論文は、SFBがガン抗原と交叉する抗原を発現することがSFBのガン免疫促進効果の重要な基盤であることを示した研究で、1月14日号 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Microbiota-induced T cell plasticity enables immune-mediated tumour control(細菌によるT細胞の可塑性が免疫によるガンのコントロールを可能にする)」だ。

「交叉抗原が必要かどうかを解決するためには、SFBにガン抗原を発現させれば良い」と思ってしまう。実際、S.epidermidis皮膚細菌にガン抗原を導入してガン免疫が高まることを示した研究はある。しかし、SFB等のバクテリアを遺伝子改変することは簡単でない。Littman はこの難問を、SFBの抗原を腫瘍細胞に導入するという、まさにコロンブスの卵で解決したモデルを作った。

SFBを経口摂取させた後、普通のメラノーマとSFB-3340分子を導入したメラノーマをマウスに移植し、腫瘍が大きくなってからチェックポイント治療を行うと、SFBを摂取しSFB3340分子を導入したメラノーマの組み合わせだけがガンを抑えることができる。即ち、SFBの場合、ガン細胞と共通の抗原を発現していないとガン免疫を促進する効果が得られないことがわかった。

この実験系で最後の免疫反応の場である腫瘍組織を見ると、Th1型のサイトカインやキラー活性が普通よりブーストされたCD4及びCD8T細胞が腫瘍に強く浸潤していることがわかる。また、抗原がわかっているので、抗原特異的T細胞を調べるとSFB3340と同じ抗原を発現するT細胞が腫瘍組織で増加していることを示しているが、CD4T細胞は腸内で誘導されるTh17型ではなくインターフェロンを強く発現したTh1型であることがわかった。

この腸管から腫瘍までの過程を明らかにするため、抗原に対する受容体とTh17を除去したり、またその発現の歴史を追跡できるシステムを用いて解析し、SFBが腸管内で抗原特異的T細胞を誘導し、これがガン局所に浸潤して強い炎症を誘導できるTh1型へと変化することを明らかにしている。

一方、CD8T細胞は腫瘍内で誘導されるが、この時腸管でSFBにより誘導された抗原特異的T細胞が存在すると、抗原特異的キラー活性をさらに高めることが可能になる。もちろん、この時キラー細胞の活性維持にPD-1に対する抗体によるチェックポイント阻害は必要になる。

最後に、同じような実験をヘリコバクターで行うと、ガン免疫が増強するどころかFoxP3陽性のTregが選択的に誘導され、腫瘍免疫を抑制することも示している。

以上が結果で、バクテリアの抗原をガンに導入するというアイデアで、これまでの問題を解決したプロの仕事だと思う。今後SFBの遺伝子操作を発展させられれば、今度はガン抗原をSFBに導入して免疫を誘導する治療が可能になる。期待したい。

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1月15日 eGENESIS社のブタ腎臓に対する免疫反応:1報告(1月8日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2026年1月15日
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昨年注目された医学の進歩の一つは、69種類の遺伝子改変を加えたブタ腎臓を移植された67歳の男性が、拒絶反応を乗り越え退院するまでに回復したというニュースだ。残念ながら、6ヶ月目に拒絶反応とは無関係思われる心臓発作で亡くなるが、このブタ腎臓を確立した eGENESIS社は腎臓移植を待つ患者さんの希望の星になっているという。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、この患者さんの移植後の血液及び組織の免疫反応を詳しく調べた研究で、さらなる改良の方向性を知るために極めて重要な研究だ。タイトルは「Immune profiling in a living human recipient of a gene-edited pig kidney(遺伝子改変ブタ腎臓を移植された患者さんの免疫プロファイル)」で、1月8日Nature Medicineに掲載された。

研究では移植前、移植後7、13,20,26,33,51日目に採決を行い、single cell RNA sequencing も含め、徹底的に様々な免疫学指標を調べている。また、必要に応じてバイオプシーも行い、拒絶反応の可能性を調べている。膨大なデータなので詳細は省いて、読んでいて興味を引いた点をいくつか箇条書きにしていく。

  1. 拒絶反応に備えて、患者さんには胸腺細胞抗体、CD-20抗体、大量ステロイド、抗C5抗体をまず投与、その後TNF抑制抗体、タクロリムス、ミコフェノール酸、プレドニンを維持療法として使っている。この結果、投与1週目にはB細胞、CD8、CD4細胞の数は減少し、またケモカインやTNF等も期待通り抑制されている。
  2. 一方で、自然免疫反応は、白血球やNK細胞の増殖と、それを誘導するTLR刺激によるNFkBシグナル、IL-6等の炎症性サイトカインの活性上昇、同じくインターフェロンシグナルの上昇がみられる。すなわち、獲得免疫反応は抑制できるが、自然免疫は移植後持続し、レベルも増大する。
  3. TやB細胞に対する免疫を抑制し、その効果が末梢血でも見られるにもかかわらず、8日目に典型的移植拒絶反応が発生している。これは、ブタ腎臓から末梢血へ放出されるDNAからもはっきり診断でき、拒絶反応が見られる間はDNAの放出が1000倍近く上がる。幸い、通常の免疫抑制を続けることで、この反応を抑えることに成功している。
  4. 末梢血のリンパ球は抑えられているにもかかわらず、拒絶反応が起こったときの腎臓バイオプシーではCD4、CD8T細胞や、M1マクロファージの上昇が観察できることから、リンパ節などに持続していたリンパ球が浸潤したと考えられる。面白いのは、脳死の患者さんを対照にブタ腎臓を移植した場合、免疫拒絶が見られない点で、患者さんの状態や、免疫抑制の強さなどの違いを反映しているのかもしれない。いずれにせよ、初期の拒絶反応は抑えられる可能性が十分ある。
  5. サルを用いた研究では、ブタ抗原に対する抗体が拒絶の主役になっていることが報告されているが、この反応は人間では認められていない。

以上が面白いと思った点だ。残念ながら、この研究ではTregについてはほとんど検討できていない。今後新しい免疫抑制法を開発していくことが重要であることがわかる。そして何よりも、自然免疫刺激は69種類の遺伝子改変でも起こっている。この刺激がブタ組織のどの分子によるのか、これが明らかになると、拒絶の問題の解決に近づくと思う。

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1月14日 時差調整の複雑性(1月7日 Nature オンライン掲載論文)

2026年1月14日
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進化が環境の同化である事が最もよくわかる例は、概日周期だ。他の惑星の生物を調べるとわかると思うが、地球の場合バクテリアから人間まで、24時間サイクル、即ち地球の自転を織り込んだメカニズムを進化させている。しかも、夜と昼の調整を可能にしてしている光による調整メカニズムも存在する。

今日紹介する米国衛生研究所からの論文は、光による概日周期調節が従来考えられていた以上に複雑で、逆に言うと様々な時差調整法が可能であることを示す研究で、1月7日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「ipRGC properties prevent light from shifting the SCN clock during daytime(光を感知する網膜ガングリオン細胞は視交叉上神経時計を昼までもシフトさせられる)」だ。

私たちは、視覚に直接関わる桿体細胞や錐体細胞以外に、光を感じる網膜ガングリオン細胞 (ipRGC) が存在し、視交叉上神経を刺激して概日周期を光に合わせて調整している。例えば光のない夜に光にさらされると、概日周期を遅らせる。この論文を読むまであまり考えたことがなかったが、この光の効果は夜には効果があるが、昼には効果がない。と言っても昼に光があるのが当たり前で、当然と言えるが、実際一日中暗くして生活しているとき、自覚的な昼に光を当てても概日周期が変化しないことから、光の調整は体内に備わっている概日周期のフェーズによるとされてきた。

この研究では光ではなく、ipRGCを光ではなく遺伝学的操作で化学物質により興奮するようにすると、本来感受性のない概日周期フェーズでも周期を遅らせることを発見する。この発見がこの研究のハイライトで、後は何故普通に光を当てたのでは周期が変化しないのに、化学物質による刺激では周期が変化するのかの原因を探っている

一つの原因は、これまで知られていたグルタミン酸作動性の回路の他に、RACAPを伝達物質とする別の回路が存在し、これが同時に刺激されることで、昼までも周期を遅らせることがわかった。またこのipRGC神経は、視交叉上神経だけでなく、視床の外側膝上核へと投射する回路を形成しており、これが昼間の概日周期シフトを誘導していることがわかった。さらに面白いことに、この回路は周期の短い紫の光で選択的に誘導されることがわかった。化学物質で誘導するのと比べると周期の変化は大きくないが、昼間に紫の光を当てると1時間近く周期をずらすことができる。

この原因を生理学的に追求すると、通常の回路は普通は光に満ちている概日周期の昼にはipRGCの脱分極ブロックがかかるようになっており、これが光のないときでも概日周期が昼であれば周期が変化することを抑えている。しかし、通常の光以外の刺激や紫の光は、この脱分極ブロックが起こらないため、視交差上核回路に備わった周期の変化を防ぐ機構の影響を受けずに周期を変化させることができることがわかった。

結果は以上で、光による概日周期のメカニズムも複雑な回路形成になっていることがわかる研究だ。考えてみると、動物の多くは夜行性で、昼間寝ている。寝ていても強い昼の光はipRGCによる感じられているはずで、この結果周期がずれてしまうと生活リズムが成立しない。これを防ぐ為には視交叉回路でipRGCの脱分極ブロックは必須だと言える。また、この研究は我々が昼間に時差を調整したいとき、紫の光を使うと効果が上がるかもしれないことを示している。この分野は十分わかっていると思っていたが、まだまだ面白い発見がある。

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1月13日 炎症性腸疾患での線維化メカニズム(1月7日 Nature オンライン掲載論文)

2026年1月13日
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炎症性腸疾患 (IBD) の研究で最近特に目立った研究者の一人がハーバード大学の Ramnik J Xavier だ。このブログでも何度も紹介してきたが、論文は新しいアイデアが満載で読んでいて面白い。例えば2024年11月に紹介した Nature の研究では、細菌叢の研究でほとんど調べられてこなかった、細菌叢と直接触れる消化管全体の細胞の変化を統合するというチャレンジングな研究はその例だ(https://aasj.jp/news/watch/25676)。

今日紹介するXavier研究所からの論文は、IBDの結果起こってくる腸の線維化を誘導するメカニズムについての研究で、腎臓や肺と異なりあまり線維化が取り上げられてこなかったIBD研究に新しい視点を切り開いていると思う。タイトルは「Bidirectional CRISPR screens decode a GLIS3-dependent fibrotic cell circuit(両方向のクリスパースクリーニングによりGLIS3依存性の線維が細胞回路が解読される)」で、1月7日 Nature にオンライン掲載された。

研究は最初からIBDで起こる線維化に焦点を当てている。そしてどう攻めるかを決めるために、クローン病や潰瘍性大腸炎患者さんのデータベースから single cell RNA sequencing や組織DNA解析のデータを集め、線維芽細胞を分類、最終的に炎症により誘導され、炎症や線維化に深く関わる線維芽細胞IAFを特定している。この細胞は線維化に関わる様々なコラーゲンやタンパク分解酵素、炎症細胞を誘導するケモカインに加えて、これまであまり注目されなかった分子を発現している。個人的には、通常リンパ球で発現しているIL-7Rが発現しているのが気になったが、この研究ではIL-11に注目した。

IL-11を抑制すると老化を抑制できるという論文を以前紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/24856)、老化を進める細胞の一つが線維芽細胞で、肺線維症や腎硬化症が老化リスクと連結していることを考えると、IL-11を選んだことはうなずける。事実、IL-11を炎症誘導前にノックアウトしておくとIAFの出現を強く抑制し、線維化を抑えることができる。

次にIL-11発現を指標に線維芽細胞を刺激する細胞やサイトカインを探索すると、マクロファージから分泌されるTGFβやIL-1βが線維芽細胞を刺激し、IL-11のみならず線維化に関わる多くの遺伝子を誘導していることがわかった。

そこでこの線維化プログラムを調節しているマスター遺伝子の探索に進むが、この時タイトルにある双方向性のCRISPRスクリーニングを行っている。双方向とは、Cas9により遺伝子ノックアウトによるスクリーニングに平行して、CRISPRシステムで遺伝子発現を誘導するVP64を作用させる、即ちオンとオフの両方から線維芽細胞活性化刺激に反応する遺伝子を調べている。

このスクリーニングから線維化プログラムのマスター分子として見つかったのがGLIS3だが、他にも予想されるTGFβシグナルや、IL-1βシグナル分子、そしてYAP/TAZと言ったシグナルが関与することも明らかになっている。期待通り、GLIS3を線維芽細胞でノックアウトすると、線維化を強く抑えることができる。また、GLIS3が線維化プログラムに関わる多くの遺伝子の上流に結合していること、さらにはGLIS3がYAP下流のTEADやIL-1β及びTGFβの共通の下流にあるFOSL/JUNと結合することで、遺伝子発現を調節していることを示している。

人間のIBDとの関わりもデータベースで検討しており、GLIS3の発現とIBDの重症度が相関することを示している。

腸管での線維化というあまり研究の進んでいなかった領域に踏み込み、細胞から分子までXavierならではの包括的研究が行われている。この研究は腸にとどまっているが、肺や腎臓でもIL-11やGLIS3の可能性は調べる価値があると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月12日 tRNAを切断するCRISPR/Casの発見(1月7日 Nature オンライン掲載論文)

2026年1月12日
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久しぶりに CRISPR/Cas についての論文を取り上げることにした。この領域の研究は今もアクティブで多くの論文が発表されているが、中心は臨床応用へ進んでいる。昨年には一人の酵素欠損患者さんを、誕生直後の遺伝子診断から lipid nanoparticle を用いた CRISPR/Cas 遺伝子導入で治療するという、究極のテーラーメイド医療が可能なことを示した画期的な論文が発表されている(N engl j med 392;22,2025)。また prime editor のような様々な操作が可能なシステムの開発も進んでいる。しかし、なんとなく新しさを感じることが出来なくて、この分野の紹介がおろそかになっていた。

今日紹介するドイツ・ヴュルツブルグにあるヘルムホルツ感染研究所からの論文は、なんとtRNAを特異標的として切断するCasが存在することを発見した研究で、1月7日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「RNA-triggered Cas12a3 cleaves tRNA tails to execute bacterial immunity(RNAにより活性化される Cas12a3 は tRNA の 3’tail を切断してバクテリアの免疫に関わる)」だ。

CRISPR はバクテリアのウイルスやプラスミドに対する免疫システムだが、備わっている核酸切断酵素は二本鎖DNA が標的になっている。しかし一本鎖DNAやRNAを切断できる Cas12 や Cas13 も存在し、様々な仕組で外来遺伝子に対応しているのがわかる。この研究ではDNAとRNAを切断するCas12ファミリーの系統樹の比較からDNA切断に必要な部位が存在しない分子に着目し、Cas12a3 と名付け、その標的の検索を始めている。

実験の詳細は全て省くが、Cas12a3 は

  • CRISPRシステムとしてウイルスに対する免疫システムとして働いている。
  • RNAは切断するが、一本鎖DNAは全く切断しない。
  • 標的はウイルスゲノムやmRNAではなく、ホストのtRNAで、3’tailに存在するACC配列を切り離す。

ことがわかった。即ち、侵入者を対象にするのではなく、侵入者の増殖を止めるために、自分のtRNAを切断して翻訳を止める。即ち、自己犠牲の下にウイルスの伝搬を防ぐシステムと言える。

元々バクテリアには、トキシン / アンチトキシン系と呼ばれる、ファージ感染により活性化されてtRNAを分解するシステムが存在し、tRNAのアンチコドンを認識してウイルスが必要とするtRNAをより選択的に分解することで、ウイルス増殖を抑えるシステムが存在している。ただ、これと比べると、Cas12a3 は選択性がなく、ほとんどのtRNAを標的にする。

クライオ電顕を使って様々な条件での Cas12a3 構造解析を行い、この分子がまずガイドRNAとの結合による構造変化の結果、tRNAをテール側からくわえ込んで ACCAtail を切断、そのtRNAは結果 Cas12a3 から離れるが、ACCAtail はそのまま残り、新しいtRNAを呼び込みやすくしていることを明らかにする。

tRNAを切断するCasが発見されただけでも面白いのだが、最後に応用として、この特異性を切断特異性の異なるCas13と組み合わせることで、3種類のRNA基質を標識として用いることが出来、3種類の異なるRNAの存在を同時に検出することが出来る、マルチプレックスなRNA検出系の開発が可能なことを示している。即ち、3種類のCasとそれぞれに対するRNA基質が共存する試験系が構築でき、ガイドさえ選べば例えばインフルエンザ、Covid-19、そしてRSウイルスを同時に検出することが可能になることを示している。

遺伝子編集もそうだが、CRISPRは臨床検査も大きく変化させていることがよくわかる。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月11日 気になる治療法3題(1月8日 Nature Medicine 他)

2026年1月11日
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少し気になった治療方法の論文を立て続けに目にしたのでまとめて紹介する。

まず最初のケンブリッジ大学を中心とする論文は、狭心症発作や心筋梗塞など急性冠動脈症候群に見られる炎症を、低容量のIL-2で抑制できるか調べた第2相治験で、1月8日 Nature Medicine に掲載された。タイトルは「Anti-inflammatory therapy with low-dose IL-2 in acute coronary syndromes:a randomized phase 2 trial(急性冠動脈症候群に対する低容量のIL-2を用いる抗炎症治療:無作為化第2相治験)」だ。

坂口さんのノーベル賞で有名になったと思うが、他のT細胞と比べて制御性T細胞 (Treg) はCD25を強く発現していることから低い濃度のIL-2にも反応できる。従って低い濃度のIL-2を投与することでTreg全般を高め、免疫による炎症を抑えることが期待される。そこで狭心症発作の頻発する患者さんや心筋梗塞の患者さんで、PETで冠動脈の炎症がはっきりしている人を選び、無作為化後、IL-2あるいは偽薬を最初5日間は毎日、その後14週まで1週ごとに皮下注射している。

結果だが、治験を途中で止めざるを得ないようなケースは1例だけで、冠動脈の炎症を抑制し、2年の経過で重大な冠動脈の再発を抑えることができている。また期待通り、血中のTregの数は治療直後から20%程度上昇し、その後も維持されるが、他のT細胞には大きな変化がなかった。

以上が結果で、免疫性の炎症を抑える効果は証明されたが、CRPがほとんど正常化しないことからIL-6など他の炎症はそのままになっていると考えられる。確かに効果はあるが、がん免疫の抑制など見えない効果もあると考えると、高容量スタチンなど、これまでの方法の方が安全に思える。

次のノバルティスからの論文は、脊髄筋萎縮症の薬剤として開発された Branaplam をハンチントン病に使おうと行われた第2相治験で、1月5日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Oral splicing modulator branaplam in Huntington’s disease: a phase 2 randomized controlled trial(経口スプライシングを変化させる薬剤 branaplam のハンチントン病への効果:無作為化対照第2相治験)」だ。

Branaplam は脊髄筋萎縮症の原因遺伝子 SMN2のmRNA のエクソン7スプライス調節領域に直接結合し、エクソン7がスキップされるのを抑制する薬剤として開発された。ただ、同じ時にロッシュグループにより開発された SMN2mRNA により特異性がある Risdiplam と比べると特異性が低く、神経毒性があるとして脊髄性筋萎縮の治療薬として認可されなかった。

ただ、脊髄性筋萎縮症の治験中に、ハンチントン病原因分子ハンチンティン (HTT) の脊髄液中の濃度が低下することが観察されたので、ハンチントン病に使えるのではと治験が行われたのがこの研究になる。結果は以下のようにまとめることができる。

  • まずHTTを抑えるのに有効量を投与した患者さんのほとんどで末梢神経症を中心に副作用が発生し持続する。
  • 神経が全般的に傷害されたことを示すニューロフィラメントが急速に上昇し、正常細胞にも影響があることをうかがわせる。ただこの上昇は30週ぐらいで正常化する。
  • 脳脊髄液中のHTT分子は30%低下する。
  • 脳室が拡大し、脳の萎縮が見られる。

以上が結果で、経口薬とは言え使うかどうか悩ましいデータだ。現在髄腔内にmiRNAを投与してHTTを抑制する治験が第3相へ進んでいるので、手技が必要とはいえ、miRNAが第一選択になる気がする。

最後のテキサス大学ガルベストン校からの論文は、アフリカで毎年5000人の死者が出ているラッサ熱を、経口摂取可能なRNAアナログ 4fluorouridine (4FU) で治療する可能性を示す、サルを使った前臨床研究で、1月7日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Oral 4′-fluorouridine rescues nonhuman primates from advanced Lassa fever(4-fluorouridineの経口摂取は進行したラッサ熱の治療薬になる)」だ。

まずアフリカミドリザルを用いた致死的ラッサ熱感染実験システムを確立し、致死量のウイルス感染6日後から投与を始めている。結果は明確で、全てのサルが死亡する実験系で、全てのサルが生存する。また、血中ウイルス量も、4FU投与後すぐから低下してほぼ2-3週間で完全に検出できなくなる。これと交代に、ウイルスに対する抗体が12日ぐらいから上昇し、免疫が成立する。

他にも病理や遺伝子発現を調べているが割愛する。核酸アナログなので副作用の方は覚悟する必要があるが、短期治療で済むことから治験が行われると思う。

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1月10日 骨に直接投射する感覚神経は骨折後の修復を調節する(1月8日号 Science 掲載論文)

2026年1月10日
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神経細胞は身体の隅々にまで張り巡らされており、筋肉や腱に投射する神経は身体の動きを脳に伝える深部感覚として、触覚や痛覚とともに重要な体性感覚を形作っている。

今日紹介するジョンズホプキンス大学からの論文は、体性感覚を構成する後根感覚神経の中には直接骨に投射している神経があり、骨の痛覚や機械刺激感覚に関わるとともに骨の再生に重要な役割を演じていることを示した研究で、1月8日号 Science に掲載された。タイトルは「Mapping somatosensory afferent circuitry to bone identifies neurotrophic signals required for fracture healing(求心性体性感覚回路の骨への投射を特定することで、骨折後の治癒に関わる神経シグナルが特定された)」だ。

この研究ではまず骨に投射している神経を逆行的にラベルする方法を用いて、後根神経の一部が骨に直接投射することを確認した後、ラベルされた感覚神経を single cell 遺伝子発現解析を行い、骨に投射する神経を特定するとともに、特徴的な遺伝子発現セットを明らかにしている。

遺伝子発現から、カルシトニン関連ペプチドを発現し、低閾値の機械受容体を備えたミエリンでシールドされないCファイバー型神経であると特定できる。面白いのは、このような感覚神経の特徴だけでなく、FGF、Wnt、BMPといった増殖分化に関わる遺伝子を発現していることで、このパターンから神経や骨の修復にも関わるのではと着想している。

そこで、マウスの大腿骨に投射している神経をラベルしたあと骨折させ、その後の神経内での転写を調べている。大変美しい結果で、骨折後1日目、14日目、56日目とそれぞれの段階で誘導される遺伝子を特定することに成功している。例えば炎症と相関する分子は骨折後すぐに神経でも誘導される。一方、再生に関わるような Shh や FGF 等は14日目に強く発現している。即ち、骨折後の治癒過程に合わせて神経細胞も変化している。

そこで骨に投射する神経を外科的に切断して骨折させると、骨折部位に出来るカルス内の細胞の増殖が抑制され、修復過程が強く抑制される。この時にカルスを形成している間質細胞と神経細胞の相互作用に関わる分子を探索し、最終的に神経から分泌される FGF9 が修復に関わる可能性を突き止めている。

最後に、後根神経にアデノ随伴ウイルスベクターを注射する系で神経細胞のFGF9をノックアウトする実験を行い、神経切除を行ったのと同じように、骨の修復が抑制されることを確認している。

結果は以上で、ノックアウト実験も量的な変化にとどまりはするが、骨にまで神経が張り巡らされており、組織の修復に関わっていることがわかる。イモリの四肢再生での神経系の役割はよく研究されているが、我々でも同じような機能が違った形で備わっていることは面白い。

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