2月19日 GLP-1受容体アゴニストについての気になる研究(2月16日 The Journal of Clinical Investigation オンライン掲載論文)
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2月19日 GLP-1受容体アゴニストについての気になる研究(2月16日 The Journal of Clinical Investigation オンライン掲載論文)

2026年2月19日
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GLP-1受容体アゴニスト (RA) や、GLP-1/GIPRA は糖尿病だけでなく、肥満からアルツハイマー病まで様々な病気への適用が試され、2025年の売上高が630億ドル、即ち9兆7千億円になっている驚くべきブロックバスターだ。個人的にも興味津々で論文に目を通しているが、最近目にした GLP-1RA のネガティブな側面を調べた研究を紹介することにした。

まず最初はオーストラリア アデレード大学から2月16日 The Journal of Clinical Investigation にオンライン掲載された論文で、GLP-1RA の副作用についてこれまでの研究をまとめた総説だ。タイトルは「The science of safety: adverse effects of GLP-1 receptor agonists as glucose-lowering and obesity medications(安全の科学:血中グルコースを低下させ肥満を軽減する薬剤GLP-1受容体アゴニストの副作用)」だ。

これまで一例報告も含めて GLP-1RA の副作用が数多く報告されているが、その一つ一つについてメカニズムも含め著者らが感じる結論を明確に示している総説で役に立つ。

まず、この薬剤の最も多い副作用は吐き気、嘔吐、下痢で、偽薬と比べ吐き気(19.3vs6.5%)、嘔吐(7.6vs2%)、で下痢も含めると実に半数近い頻度で起こり、治療中止の最も多い理由になる。現在のところ、ゆっくり量を上げる以外に抑える方法はない。と言うのも、この副作用が GLP-1RA の持つ食欲中枢への直接作用なので、もちろん効果の重要な要素にもなっている。

これ以外の消化器症状として、胃内容物の十二指腸への移行が遅れるという報告があるが、これについては実際に内視鏡で調べた結果では問題がない。

最も重大な副作用の可能性として、胆管炎が指摘されているが、これまで報告されたような胆嚢炎や膵炎のリスクはほとんど上がらない。問題は、ほとんどの患者さんで血中アミラーゼやリパーゼが上昇する事で、これが膵炎などの診断につながっている。

甲状腺ガンのリスクについてもレポートがあるが、正常の甲状腺細胞には GLP-1R は発現されていない。しかし、遺伝性の内分泌腫瘍など前ガン状態に入ると GLP-1R が発現するので、この場合は甲状腺ガンへの進展を後押しする。実際北欧でのコホート研究ではリスク比は0.93と逆に低い。

網膜炎も GLP-1RA の副作用として報告されているが、このほとんどは基礎にある糖尿病による物で、GLP-1RA の直接作用で起こるわけではない。他にも、non-artertic anterior ischemic optic neuropathyと呼ばれる希な病気のリスクも報告されているが、頻度が少ないのであまり問題にならない。

うつ病を誘導するという報告もあるが、大規模コホートでは逆に頻度が下がるということがわかってきた。

あと最も問題になる高齢者のサルコペニアだが、これも本当に筋肉量が低下するかどうかは結論できないとしている。機能的には大規模コホートで筋力が上昇したという報告もあるので、高齢者に使っていいかはさらに検討が必要という結果だ。

以上、全体の雰囲気はほとんど問題がないという結論になっており、消化器症状さえ問題にならなければ長期に使えるという結論だ。

もう一つ紹介したいのは昨年暮れに Journal of Marketing Research にコーネル大学から発表された論文で、GLP-1RA を使い始めた過程での消費動向を調べた面白い研究だ。タイトルは「The No-Hunger Games: How GLP-1 Medication Adoption is Changing Consumer Food Demand∗(おなかが空かないことの影響:GLP-1薬剤は消費者の食を変化させるか)」だ。

この研究では GLP-1RA を使い始めた患者のいる家庭の消費動向を1年にわたって詳しく調べている。まず驚くのは、米国では家庭に GLP-1RA を使っている家族がいる率が2023年で16%を超えていることで、人口比率で見ると8.3%にも達する。肥満が40%の国と考えると当然だが、医療費も考えると大変なことだ。コクラン調査によると、米国では1月のコストが1400ドル近くになる。

これらの家庭では、食料品の購買額が驚くなかれ、8%近く低下する。特に高所得者ほどその傾向が強い。ただ、食品の内容を調べると、GLP-1RA を使い始めることで、食は健康指向が強まり、ケーキやチップスの消費はどんと低下し、逆にヨーグルト、果物の消費は高まっている。

結果は以上で、この雑誌は Marketing の雑誌なので、食品業界に深刻な影響を及ぼす可能性があることを強調している。

以上、おそらく高齢者も使える治療法として定着しそうで、個人的にはその結果食生活が改善されるのなら言うことはない。

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2月18日 膵臓ガンのマトリックスとオートファジー(2月16日 Cell オンライン掲載論文)

2026年2月18日
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このブログでも紹介してきたように、膵臓ガンは細胞内の不要物を再利用するオートファジーを活性化させて増殖していると考えられている。しかし、オートファジー阻害剤の効果は期待されたほどではない。

今日紹介するニューヨーク大学からの論文は、膵臓ガンのオートファジーレベルは極めて多様で、増殖には確かにオートファジーは効果があるが、抗ガン剤の感受性にとってはオートファジーは逆の効果があることを示した研究で、2月16日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Extracellular matrix sensing regulates intratumoral heterogeneity of autophagic flux(細胞外マトリックスのシグナルは腫瘍内のオートファジーの多様性を調節している)」だ。

この研究では、膵臓ガンを2次元培養するとオートファジーが低い均質の細胞として増殖するが、マトリックスを含むマトリゲル3次元培養にするとオートファジーレベルが極めて多様になることに気づき、膵臓ガンが単純にオートファジーが高いというより、マトリックスに応じてオートファジーレベルを調節していることを明らかにする。

後は、膵臓ガンでオートファジーに必要な分子の転写因子をポジティブに調節しているのが神経線維腫症の原因遺伝子NF2で、逆にネガティブに調節しているのがYAP分子である事を、クリスパースクリーニングにより突き止める。

NF2とLAT2は通常細胞内の栄養状態を感知してオートファジーを活性化するが、YAPは相方のTEADと協力してレプレッサーとしてオートファジー関連遺伝子を転写レベルで抑制していることになる。またマトリゲル内での3D培養の結果から、YAPを活性化するのはマトリゲルに含まれる様々なマトリックスの可能性が高い。

そこで、YAPを活性化するマトリックスを探索し、最終的にラミニンとそれを感知するインテグリンα3がYAP活性化に関わることを明らかにする。

膵臓ガンは周囲に線維芽細胞が密集し、線維化が進んでいることが特徴とされ、これが膵臓ガンが悪性である重要な要因として考えられてきた。ところがこの研究では、ラミニン・インテグリン・YAPはオートファジーを抑制する方向に働くことから、ガンの増殖にとってはネガティブな作用を持つことになる。とすると、膵臓ガンのマトリックスも単純にガンの悪性化を助けていると言えなくなる。

この問題に対して、膵臓ガン細胞株や膵臓ガン患者さんから採取した膵臓ガン細胞のオルガノイド培養を行い、インテグリンをノックアウトしても細胞の増殖に全く影響がないが、オートファジーを抑制するクロロキンで処理した時に、インテグリンの膵臓ガン抑制効果が見られるようになることを示している。即ち、インテグリン/YAPを抑制してオートファジーを高めることでよりクロロキンへの感受性が高まることになる。ただ、オートファジーだけを膵臓ガン治療の標的にすることはないので、より臨床に近い、クロロキンとゲムシタビンによる治療実験系でインテグリンノックアウトの効果を調べると、ゲムシタビンの抗腫瘍効果をインテグリン/YAPによるオートファジー抑制が促進することを発見している。

この実験はデータもそれほど明確ではなく、そのまま真に受けられるかはよくわからないがオートファジーは増殖を助ける一方、ゲムシタビンなどの感受性を下げる効果があり、これが膵臓ガンの治療を難しくしていることになる。

結果は以上で、膵臓ガンを単純な細胞集団として捕らえるのではなく、周りの環境に応じて多様化して、異なるストレスに集団として対応しているやっかいな集団とみることの重要性を示した研究と言える。ただ、その分実験はわかりにくい。

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2月17日 ゾウの鼻ヒゲの解剖学を突き詰める(2月12日 Science 掲載論文)

2026年2月17日
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毎日目を通す論文のほとんどは、名の知れた雑誌が中心で、専門誌に目を配ることはコンサルテーションで必要なとき以外ほとんどない。論文紹介のために専門誌を読むのは、紹介する論文を選んだ後、その仕事の背景を調べるときに限られる。このように名の知れた雑誌しか目を通していないにもかかわらず、よく論文が採択されたなと思える変わった論文に出会うことがある。すなわち、ほとんどの人が選ぶとは思えない課題に、真面目に徹底的に取り組んでいる研究で、その真面目さが微笑ましい。

今日紹介するドイツ シュトゥットガルトのマックスプランク情報システム研究所からの論文もそんな一例で、象の鼻ヒゲを、感覚毛であるという仮説の下に、ただ真面目に調べた研究だが、なんと2月12日 Science に掲載された。タイトルは「Functional gradients facilitate tactile sensing in elephant whiskers(ゾウの鼻ヒゲに見られる機能的購買が触覚を高める)」だ。

触覚というタイトルを見て、当然、神経科学の研究かと思ってしまう。実際マウスでは、一本一本のヒゲ由来に対応する、解剖学的に特有な神経配置をとるバレル構造が存在し、生後にヒゲを抜いたりするとばれる構造は消失する。ゾウではどんなバレル構造が見られるのかと読み進むと、この研究では全く神経や毛根の話は出てこず、もっぱらゾウの鼻に分布するヒゲの構造解析に終始している。しかし面白い。

まず鼻ヒゲと言ってもゾウの鼻は長く、定義は難しい。鼻に生えている毛と定義すると、ゾウには1000本の鼻ヒゲがあるらしい。

構造の最大の特徴は、毛が平べったいことで、このおかげで曲がる方向が薄い側に決められる。この構造は生まれてすぐには存在せず、成長とともにわざわざ平べったくなることから、ゾウを特徴付ける重要な構造と考えられる。毛根で作られたばかりの根の部分は他の動物と同じで丸いが、中程になるほど平べったくなる。また、同じ鼻でも物をつかんだりする鼻先ほど平べったい構造がはっきりしていることから、感覚を支える重要な特徴としている。しかし、平べったい毛を形成するメカニズムを知りたいものだ。

次は構造で、他の動物では毛の中心に孔が通っているのが見られるが、ゾウの場合中心の孔はない代わりに、毛全体に数多くの小さな穴が分布している。また、外側にうろこ状の構造がないのも特徴になる。この構造は毛というより、角やひずめに似た構造で、物理学的特性をシミュレーションすると、固有振動数が上昇した結果、外部の振動に強く共振できることが想像される。

このように成分や構造からゾウの鼻ヒゲは基部が固く先に行くほど柔らかい構造を持っているが、ヒゲの感度が高いとされる猫も同じような構造を持つらしい。その結果、フレキシビリティーが増大し、壊れにくが感受性の高い感覚毛が出来ている。さらに、感覚のダイナミックレンジも広い。

以上が結果で、構造の解析と、様々な物理学的テスト、そしてシミュレーションから、鼻先で食べ物をつかんで口に入れるという複雑な行動がゾウで可能になっている秘密のほとんどは、この鼻ヒゲの構造にあると結論している。とは言え、生理学的には少し言い過ぎの気がする。解剖額や発生学的には、元々丸く固かった毛がと中で大きく変化するメカニズムが知りたい。

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2月16日 Oncolyticウイルスによる免疫活性化(2月11日 Cell オンライン掲載論文)

2026年2月16日
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腫瘍細胞にウイルスを感染させて殺してしまう治療法補開発は、20世紀後半からずっと進んできた。腫瘍細胞ではよく増殖し、正常細胞では増殖しにくいように細工したウイルスが使われ、多様なOncolyticウイルスが開発されている。ただ、いくら腫瘍特異的と言っても、全てのガン細胞に感染し全て殺してしまうことは至難の業と言える。そのため、一時開発は停滞したが、その後ガン免疫のパワーが再認識されると、ガン免疫を誘導するきっかけとしてOncolyticウイルスを用いる可能性が生まれ、結果現在では400種類以上の臨床治験が行われる大ブームになっている。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、まさにこのトレンドを科学的にバックアップするための研究で、ヘルペスウイルスを用いたグリオブラストーマ治療により腫瘍局所で起こる免疫反応を、CODEX及び Xenium として知られる最先端の組織学テクノロジーを使って調べ、Oncolyticウイルスがガンに対する免疫を強く誘導していることを明らかにしている。タイトルは「Persistent T cell activation and cytotoxicity against glioblastoma following single oncolytic virus treatment in a clinical trial(一回oncolyticウイルス感染を感染させるグリオブラストーマの臨床治験から持続的な腫瘍に対するT細胞活性化と細胞障害性が明らかになった)」だ。

研究では16人の再発性のグリオブラストーマの主要部位に直接ガン特異的に増殖する単純ヘルペスウイルスを感染させる治験を行っている。この時治療前のバイオプシーと治療後の腫瘍切除標本を集め、これをこのブログでも以前紹介した(https://aasj.jp/news/watch/8803)CODEXと呼ばれる同時に何種類もの抗体を用いる分子発現検査と、Xeniumと呼ばれる拡散プローブを用いた多重分子発現検査を組み合わせて、腫瘍と様々なリンパ球との関係を調べ上げている。組織をバラバラにして調べる single cell テクノロジーと異なり、空間的情報が全て保持されているため高いレベルの情報が得られる。

まず、ほとんどの症例で腫瘍内へのCD8及びCD4T細胞の浸潤は10倍近く上昇し、しかも9ヶ月以上維持されている。それぞれのリンパ球の遺伝子発現から、キラー活性に関わるグランザイムが腫瘍近くのT細胞で発現していることも確認でき、間違いなく腫瘍に対するキラー反応が発生している。

腫瘍とT細胞の空間的関係を調べると、キラー活性を発揮するエフェクターは腫瘍内に潜り込んで反応している。また腫瘍内で新たなキラーT細胞を呼び込むケモカインを発現しており、新たなT細胞をリクルートする構造ができあがっている。面白いのは、新しいT細胞を供給するリザーブとも言える集団は、腫瘍から離れたところに存在して、そこからT細胞を腫瘍に供給している点だ。腫瘍内にはマクロファージの浸潤があるので、これが移動してリザーブを刺激していると考えられる。

ウイルス遺伝子を調べると、腫瘍が壊死に陥った部分にウイルスが存在するが、T細胞からは離れていることから、これまで議論されていたようなウイルスに対する免疫反応が腫瘍を傷害しているとは考えにくい。実際、T細胞のレパートリーを調べると、ウイルスに対する反応はほとんどないと考えられる。即ち、最初からガンに対するT細胞がウイルスにより細胞障害が始まることで急速な増殖を行い、残っているガンを傷害していることがわかる。

だとすると、全ての患者さんが免疫のおかげで治ることになる。実際、腫瘍内でT細胞が増殖しているほど予後は良さそうだが、しかしグリオブラストーマに対しては免疫も完全ではない。T細胞が存在しない腫瘍ゾーンを調べると、特に線維芽細胞様の形態をとり、低酸素により誘導される遺伝子が発現している領域からT細胞が完全に排除されている。この結果、免疫から逃れるガンが発生する結果、免疫治療が限定されることになる。

以上が結果で、実際には様々な情報が得られた研究だが、免疫の可能性とともに新しいガンのしたたかさが明らかになった。このガンのしたたかさを狙った治療を開発することが次の段階になるが、グリオブラストーマも徐々にではあっても治療が可能なガンになりつつある。

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2月15日 DNAとタンパク質のクロスリンクと老化(1月29日号 Science 掲載論文)

2026年2月15日
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反喫煙の社会的取り組みがそろそろ一段落してきたところで、最近は反アルコールの様々なキャンペーンが医学界を中心に進んできたように感じる。タバコについてはキャンペーンのおかげでやめることが出来たが、現在の生活スタイルから考えて、アルコールをやめるのはおそらく難しい気がする。ただ、量を問わずアルコールが身体に良くないことはよく理解している。アルコールの毒性の要因の一つは、アルコールデハイドロゲナーゼにより生成するアセトアルデヒドがタンパク質同士やタンパク質と核酸をクロスリンクさせることにある。これを防ぐ為に、我々はADH2分子でアセトアルデヒドを分解するが、加えてクロスリンクされたタンパク質と核酸の複合体を分解するSPRTNと呼ばれる分解酵素を備えている。

SPRTNの変異はルイイス-アールフス症候群 (RJAKS) と呼ばれる早老症の原因になるが、今日紹介するドイツ・フランクフルト大学からの論文は、SPRTNの異常がRJAKSの様々な症状を示すメカニズムを明らかにした研究で、1月29日 Science に掲載された。タイトルは「DNA-protein cross-links promote cGAS-STING–driven premature aging and embryonic lethality(DNA-タンパク質のクロスリンクは cGAS-STING による早老症と胎児死亡の原因になる)」だ。

まず細胞株の遺伝子操作でSPRTNを自由に分解する実験系で、SPRTN が除去されるとS期とM期でクロスリンクが蓄積すること、またSPRTNと結合するタンパク質を調べ、M期ではトポイソメラーゼやKI67、S期ではHMGA1やHMGA2など、細胞周期に応じたタンパク質がクロスリンクされSPRTNの標的になっていることを明らかにする。

もちろんDNA上にタンパク質が居座ってしまうと、細胞分裂に大きな問題が生じる。特に分裂期の異常が起こり、その結果分裂中に染色体がちぎれて出来る小核形成が起こる。また、ヒトRJAKSの変異に相当する変異を誘導したマウスから肝臓ガン細胞株を樹立し、同じように細胞分裂期での停止が起こり、小核が形成されること、そして特にこの小核で修復されないで残存するDNA損傷が蓄積することを明らかにする。

このように、核外に小核というかたちでしかもDNA損傷が起こったままのDNAが存在すると、cGAS-STINGを刺激して自然免疫が誘導されることが予想される。実際、突然変異型SPRTNを持つRJAKSモデルマウスでは強く自然免疫反応が誘導され、インターフェロンレベルが上昇することを確認している。また、同じような異常は変異がないマウスでも、メタノールを摂取させてクロスリンク作用の強いフォルムアルデヒドを生成させるだけで起こることも示している。

これらを総合すると、RJAKSはSPRTN変異による細胞の分裂異常と、その結果起こる損傷を残したままのDNAによる炎症が症状を形成していることになる。ただRJAKSではどちらの要因が早老症に強く影響しているかを調べるため、変異マウスをcGASノックアウトマウスと掛け合わす実験を行い、炎症を止めると早老症をある程度抑止できることを示している。

また、変異マウスは胎児期に死亡するケースが多く、8%しか生まれてこない。ところがcGASノックアウトやSTINGノックアウトと掛け合わせることで、胎児期の死亡率も減らすことができる。以上から、RJAKS変異では、分裂異常は起こっても(実際ガンの発生率が高い)なんとか様々な方法で処理できているが、cGAS-STING 刺激による自然炎症の亢進が、胎児期から身体を老化させる主原因である事が明らかになった。

以上が結果で、自然炎症を遺伝的にうまくコントロールすることで長生きするハダカデバネズミを見るにつけ、老化における自然免疫の役割の重要性を実感する。もちろんハダカデバネズミでもSPRTNはしっかり働いていると思うが、さらにcGAS変異でDNA修復効率まで上がっているのを見ると、早老症を知ることが長寿を知ることだと確信する。

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2月14日 卵子とメカニカルストレス(2月5日号Science Translational Medicine、及び1月16日PNASオンライン掲載論文)

2026年2月14日
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今年に入って卵子の活性化とメカニカルストレスについての論文を2報続けて目にしたのでまとめて紹介することにした。

まず前置きとして、卵子の活性化についてざっと見ておこう。卵子の活性化の不思議は、一部の卵子だけが活性化され、残りは休止期を維持することで、このメカニズムの鍵を握るのがFoxo3転写因子だ。この分子が欠損すると、全ての卵子が活性化される早発性閉経に陥る。休止期の卵子ではFoxo3が核内に局在し、活性化を防いでいる。一方活性化のためには、Kit受容体からPI3K/AKTを介するシグナルがFoxo3をリン酸化することで核移行を防ぐ必要がある。これでわかったような気になるが、これだけでは休止期と活性化を分かつシグナルについては理解できず、まだまだ知るべきメカニズムがある。

この難しさを割り切って、卵子の活性化異常の患者さんで、卵子を取り巻く顆粒細胞でKitを刺激するSCFの発現を挙げてやれば異常を治療できるのではと仮説を立て、卵巣細胞を用いてSCFを上昇させる化合物を、なんとPCRでスクリーニングし、臨床で利用されているフィネレノンが卵子活性化誘導活性があることを示したのが、香港大学からの論文で、2月5日号の Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Antifibrotic drug finerenone restores fertility in premature ovarian insufficiency(抗繊維化薬剤フィネレノンは早発卵巣不全の不妊を治療する)」だ。

正直に言ってしまうと「乱暴な仮説のもとで、ともかく実験したら、臨床に使えそうな薬剤が見つかった」とまとめられる。と言うのも、もし全ての顆粒細胞のSCFが強く発現してしまうと早発性閉経と同じような状況になるはずだ。それでも、SCFが少し上昇するフィネレノンを投与すると、老化した卵巣の活性化が可能になるが、受精能や発生といった卵子そのものの機能は保全されることから、早発卵巣不全の治療に使えると結論している。

ただ、活性化のメカニズムを single cell RNA sequencing で探ると、最終的にフィネレノンが細胞外マトリックスの形成を抑えることで、卵子を刺激するという最初の仮説とは異なる結果に行きついている。事実、フィネレノンだけではなく線維化を抑えることが知られている薬剤は、卵子の活性化を誘導する。

この前臨床研究を元にすぐにフィネレノンの早発卵巣不全の治験に進んでおり、観察研究だが排卵が超音波診断で観察でき、その中から12個の卵子を採取して受精実験を行い、試験管内で卵割を確認している。この結果がなければ論文は採択されなかったと思う。

結果は以上で、最初の仮説とは異なる結果だが、マトリックス形成が抑えられると卵子が活性化しやすくなることを示している。臨床実験も計画性を感じさせない、結果オーライの研究で、メカニズムに至ってはFoxo3の染色もほとんどされず、全くわからない。

ところが、この結果を新しい観点で説明できる論文が1月16日、九大の永松、浜田、木村、及び阪大の林さんたちから米国アカデミー紀要に発表されている。タイトルは「The intrinsic impact of mechanical stress on the maintenance of oocyte dormancy(休止期卵子に対するメカニカルストレスのインパクト)」だ。

永松さんは私がプログラムディレクターをしていたさきがけメンバーで、林さんは卵子分化の世界をリードする研究者で、この研究はプロの研究と言っていい。最初から、Foxo3の局在に注目して、Foxo3が核局在する卵胞を試験管内で維持するために、外部からメカニカルストレスを加える必要があることを発見する。そして、顆粒細胞に守られない試験管内分化した卵子でも、KitシグナルでFoxo3を細胞質に留められること、しかしこれにメカニカルストレスをかけると、核局在を誘導できることを明らかにする。

長い話を短くしてメカニズムを説明すると、メカニカルストレスはダイネインの活性化を誘導し、細胞膜上のc-Kitを細胞質内に取り込むことで、Kitシグナルを弱める。その結果、Foxo3のリン酸化シグナルた低下し、Foxo3が核内に移行、休止期を維持するというシナリオが、多くの実験を行って納得できる形で示されている。

この研究ではメカニカルストレスが何かについては明確に示されていない。しかし、香港大学の仕事では、コラーゲンなどのマトリックスがこのシグナルに関わり、Kitシグナルが存在してもFoxo3の核内局在を誘導し休止期を維持していることになる。

おそらくインテグリンのシグナルを調べることで、今後もっと面白い可能性が生まれてくる気がする。実際休止期の卵巣は扁平顆粒細胞でぎゅっと締め付けられたような構造をしている。これが何らかのきっかけで、しかも確率論的に緩んで休止期から解放されるのでは等、想像が巡る。ともかく、さきがけのメンバーが面白い研究を続けていることはうれしい。

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2月13日 リンパ浮腫に関する新メカニズムと治療(2月11日 Nature オンライン掲載論文)

2026年2月13日
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例えば乳ガンで腫瘍切除とともにリンパ節の郭清を行うと、切除側のリンパ管が機能しなくなりリンパ浮腫が起こる。リンパ管の再生も起こるはずなのに、リンパ浮腫の治療は難しく患者さんたちを苦しめる。下肢に起こる重症のリンパ浮腫では、ゾウの足のようになってしまい、単純に体液の循環が悪いという以上に、局所の組織の不可逆的なリプログラミングが起こる。

今日紹介する国立シンガポール大学からの論文は、リンパ浮腫をコレステロール蓄積という観点で見直し、コレステロール除去により症状を改善させることが可能であることを示した重要な研究で、2月11日Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Targeting excessive cholesterol deposition alleviates secondary lymphoedema(過剰なコレステロール蓄積を標的にすることでリンパ浮腫を改善できる)」だ。

病院で働いていたときリンパ浮腫の患者さんの受け持ちになったこともあるが、今回リンパ浮腫の患者さんの組織像を見て、単純に体液が溜まると言った話でないことがよくわかった。ステージが進むと皮下脂肪細胞の肥大が進み、上皮下の強い線維化と肥厚が起こっている。そして、自然炎症が高まるというより、脂肪細胞分化に関わる遺伝子の発現がほとんど消失して、要するに脂肪細胞のリプログラミングが起こっている。炎症の観点から見ると、線維芽細胞の刺激とTh2反応が誘導されている。

この研究では、リンパ浮腫の患者さんで組織にコレステロールが沈着していることに着目し、まず外科的処置でリンパ浮腫が改善した患者さんを調べ、コレステロールの沈着が軽減していることを発見、リンパ浮腫の主要原因がコレステロールがリンパ管に沈着し、組織液のリンパへの灌流を妨げるからではないかと考えた。

そこで高コレステロール症が発症するApoEノックアウトマウスの皮下組織を調べると、コレステロールがリンパ管に沈着し、特に皮下脂肪組織の肥大と線維化が進んでいること、すなわちリンパ浮腫と同じ組織像を示すことが明らかになった。

このマウスにコレステロールを下げる目的でHDLやApoA-Iを注射すると、コレステロールが下がることでリンパ浮腫が軽減する。ただこの治療法はリコンビナントタンパク質合成などコスト面での問題があるので、この代わりにコレステロールに巻き付いて排出する効果を持つシクロデキストリン (CD) の皮下投与でリンパ浮腫を改善できないか、ApoEノックアウトマウス、外科的に誘導した下肢リンパ浮腫、他様々なリンパ浮腫モデルを用いて試している。

結果は期待通りで、完全に元に戻るわけではないが、コレステロールの組織への沈着が押さえられ、浮腫を抑えることができることがわかった。さらに、長期的に経過を追うと、CD投与を受けることでリンパ管新生も促進され、組織に開いたリンパ管端末の数が2倍に増加することがわかった。すなわち時間がたてば、さらに浮腫は軽減していく可能性が大きい。結果は以上で、CDが食品に広く使われ、さらにリソゾーム病の治療に髄腔内投与が行われていることを考えると、人間への臨床応用もそう遠くないと思う。

この研究は、リンパ浮腫を新しい観点―即ち過剰コレステロールがリンパ管の入り口に沈着することが主要原因であるという観点―から見直し、これを証明するとともに、安価な治療法まで提案した重要な貢献で、臨床研究のお手本になると思う。この考えに立つと、外科的にリンパ管を除去してしまった場合でも、時間がたてば浮腫からの回復を期待できる希望が生まれたと思う。

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2月12日 表皮突起の発生(2月4日 Nature オンライン掲載論文)

2026年2月12日
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ほとんどの読者にとって表皮突起は聞き慣れない言葉だと思うが、毛の少ない哺乳動物にとって上皮を身体にしっかりと貼り付けて皮膚の強度を守るための重要な構造物で、上皮が真皮に向かって突起の様に伸びた構造をとり、イルカやクジラ、ブタ、人間で発達している。進化の系統樹より、体毛の多さに関係して出来ており、人間に近いサルでも表皮突起はほとんど存在しない。また、体毛の多い動物でも、指先のような毛の少ない領域には表皮突起が見られる。

体毛の少ない動物がどうして生まれたのかは今も謎だが、体毛の量と反比例する表皮突起の形成は、長年の問題を解く鍵になるのではと、表皮突起の発生メカニズムを研究したのが、今日紹介するワシントン大学からの論文で、2月4日号 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Rete ridges form via evolutionarily distinct mechanisms in mammalian skin(哺乳動物の表皮突起は進化的に独自のメカニズムで発生する)」だ。

皮膚の研究というとどうしてもマウスになるので、ほとんど表皮突起の研究は行われていないように思う。この研究では、まず人間とブタの表皮の発生を調べ、どちらも毛根や汗腺などの付属組織の発生が終わった段階で生後に発生し、一生涯維持されることを確認している。基本的にはブタも人間も同じ発生過程をたどるので、分子生物学的検討は主にブタで行っても問題ないことを確認している。

論文の圧巻は、イルカ、hairlessブタ、domesticブタ、毛の多いMangalitsaブタ、人間、グリズリー、アカゲザル、ハダカデバネズミ、マーモセット、マウスの皮膚を比べた組織図で、大まかには毛の密度が減ると、表皮突起が発達し、最も発達したのがイルカである事、サルはほとんど表皮突起が見られないので進化とは関係ないことがわかる。面白いところでは、ハダカデバネズミのような毛のない齧歯類だから表皮突起が出来るわけではなく、退化で毛がなくなっても表皮突起は出来ないこともよくわかる。

後は発生のメカニズムだが、皮膚の付属組織に関わるLEF-1-Wnt及びEDA-EDARはノックアウトして付属組織が消失しても表皮突起は形成される。即ち、毛の密度と反比例するように進化するが、一旦出来た発生の仕組みは、毛がなくなってもそのまま維持される。これは人間の頭皮にも表皮突起があるのと同じメカニズムと考えられる。

主にブタ皮膚発生過程で Single cell RNA sequencing 、組織学的細胞動態の観察などを組み合わせて表皮突起形成に必要なシグナルを探ると、重要なシグナルとしてBMPとNOTCHが特定されてきた。もちろん他にも PDGFC など真皮側の細胞に関わるシグナル分子も特定できる。そして、細胞の増殖を調べると、表皮突起形成は細胞増殖層の異なる分布により、増殖して深く真皮に入り込む山の部分と谷の部分が形成されていることを示している。

ただ、これらのシグナルの関与を全て機能的に検討するのは実験的にも難しい。代わりに、BMPシグナルに関しては、マウスの指の皮膚に表皮突起が見られるのを利用して、皮膚でBMPシグナルを抑制する実験を行い、表皮突起の形成が阻害されることを示している。

結果は以上で、表皮突起も一種の独立した皮膚付属物として考える必要があること、また毛根や汗腺と言った他の付属物の発生原基の形成が終わった後で、BMPなど様々なシグナルを動員して、表皮突起と同時に、表皮突起のないポケットへの血管新生などを協調して進めるのが表皮突起形成であることを示している。出来れば、毛根などの付属組織のないイルカでの進化や発生がわかると、我々人間が体毛を減らした原因もわかるかもしれない。

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2月11日 言葉を理解するボノボ Kanzi は反実仮想能力を持っている(2月5日号 Science 掲載論文)

2026年2月11日
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毎年4月、できるだけ入学式に近い日を選んで京大医学部の新入生に early exposure としての講義を行っている。3年前からは「生命誕生からChatGPT38億年」というタイトルで、生成AIがDNAと自然言語の世界を統合しつつある今を伝え、新しい未来に彼らがコミットするよう励ましている。いつもある程度の反応は感じているが、昨年講義直後に質問に来た学生さんから「チョムスキーの生成文法は間違っているのでしょうか?」と質問され、講義をして良かったと心底感じた。というのも、生成文法が統語規制として最初から必要だという考えは、我々の脳がAIと同じように教師なしの学習で確率的共起を可能にする言語空間を形成できるとすると間違っていることになる。この点を短い講義の間に感じた入学したばかりの若者がいることは、新しい人間の教育こそが我が国の生きる道である事を確信させる。

大規模言語モデルと同じように我々が言語を処理しているとすると考えると、何故人間だけが言語を話すのかについて答えるのが難しくなる。即ち、脳に統語力が生まれたから言語が出来たと考えるとわかったような気になるが、ニューラルネットを学習させれば確率共起的言語空間を形成できるなら、サルでも成長期に言語を学習することで言語を獲得できていいはずだ。

この考えをサポートするのがある程度の文を理解し300以上のシンボルを獲得したボノボ Kanzi で、他の言語を教えられたチンパンジーやボノボとの最も大きな違いは、言葉を学習していた母親の訓練の場にいることで、幼児期から言語インプットがあったことが挙げられる。

この Kanzi に、実在しない物があたかも存在するように振る舞って遊ぶ、即ち反実仮想能力あるかどうかを調べた論文が英国スコットランドのセントアンドリュース大学から2月5日号の Science に発表された。タイトルは「Evidence for representation of pretend objects by Kanzi, a language-trained bonobo(実在しないが、あたかも実在するように想像する物を表象することが、言語を学習したボノボ Kanji には出来る)」だ。

この研究は言語に長けた Kanzi でないと出来ない。課題は簡単で、二つの透明なコップを机に置き、それにやはり空のピッチャーから水を注ぐふりをする。この時、Kanzi Look と言葉で指令を行う。その後、もう一度コップからピッチャーに水を戻すジェスチャーを見せた後、Kanzi どちらを選ぶ?と聞いて、実際には水がなくても、ピッチャーに戻すふりをしなかったコップに水があるように振る舞うかを調べた。結果は100%ではないが、チャンス以上の確率で、実在しない物をあたかも実在するように振る舞うゲームを遊べることを証明した。

同じような実験を、かごにブルーベリーを入れるという反実仮想実験を行い、同じようにこの能力を証明している。他にも、実験結果が本当に実在しない物を実在するように表象できているのか確かめる実験を行い、少なくとも Kanzi にはこの能力があると結論している。

結果は以上で、褒美を与えたり条件付けを行わなくても、ある程度言葉でコミュニケーションできる Kanzi でないと出来ない実験だが、この結果は様々なことを考えさせる。

言語誕生の最も大きなインパクトは、実在しないことを語れるようになったことだ。その結果、実在しない未来を語り、見たこともない世界を語る宗教もうまれた。科学も同じで、今実在しない物を求める作業といえる。ただ、これが言葉の誕生によるのか、逆に実在しないものを表象する能力が先に発生して言葉が可能になったのか、決めるのは難しい。Kanzi を用いた実験でも、Kanzi だけが言葉を獲得したサルだと考えると、この実験だけでは言語が先か、反実仮想能力が先かは決められない。いずれにせよ、深層ニューラルネットで確率共起的言語空間形成が可能なので、これが出来ない学習条件を考えていくことで、この問題に答えが出るかもしれない。

しかし Kanzi も今や44歳だ。新しい Kanzi は育っているのだろうか?

追伸、Kanzi は昨年3月に死亡しているようです。これが最後の論文でしょうか。

カテゴリ:論文ウォッチ

2月10日 パーキンソン病の運動障害回路の新しい考え方(2月4日 Nature オンライン掲載論文)

2026年2月10日
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パーキンソン病 (PD) の運動障害は運動の調節に関わる基底核回路の異常がドパミン欠乏により起こると考えられており、ドパミン補充療法に加え、症状に応じて視床下核や淡蒼球内節等に電極を挿入し、深部刺激を行うことでこの回路を抑制する治療が行われている。

今日紹介する北京大学を中心とするチームからの論文は、深部刺激治療の様々な困難を解決する目的で、これまで基底核回路を特定するために行われてきた拡散テンソルイメージングの代わりに、安静時の機能的MRIによる結合性検査を用いてPD回路を検討し直し、身体と認知を統合する皮質-皮質下SCAN回路の結合亢進がPD運動異常の原因である新しい可能性を提案し、深部刺激や経頭蓋磁場刺激の標的を定義し直した研究で、2月4日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Parkinson’s disease as a somato-cognitive action network disorder(パーキンソン病は身体と認知機能をつなぐネットワークの異常)」だ。

AASJのメンバーでPD患者でもある中井さんが動画投稿しているように(https://www.youtube.com/watch?v=WbG0vW1d1g0) PD運動異常は運動から気をそらすことで改善する。このよく知られた事実から、PDを身体と認知機能をつないでいる皮質-皮質下回路(SCAN回路)の異常と考えたらどうかと着想し、安静時の機能的MRIで脳領域間の結合性を推定する方法でPD患者さんを調べ、SCANの結合性が過剰に上昇しているのがPDで広く認められることを発見している。

ではこれまでの深部刺激の結果をどう位置づければいいのか。そこで深部刺激が効果を示した患者さんで電極が挿入された視床下核が運動野ではなくSCANと結合しており、これを電極刺激で抑えていることがわかった。事実、深部刺激をオンにするとSCANとの結合性が低下することも確認している。また、ドパミン治療でもSCANの過剰結合性を抑えることも明らかにし、PDでの症状改善はSCANを変化させることだと結論している。

さらに、震えの治療としてマイクロウェーブで経頭蓋的に視床中間複素区画を焼く治療を受けた患者さんを調べ治し、焼却場所がSCANのホットスポットに近いほど効果があったことを明らかにしている。

以上の結果から、PDの機能的な最も重要な指標はSCANの過剰結合性であると結論し、この場所を経頭蓋的磁場照射で抑制できないか36人の患者さんを用いて調べ、SCANを標的にした群でだけ1-2週間、症状の持続的改善が見られることを明らかにしている。

結果は以上で、これまでの通説を覆すというより、新しい観点から捉え直し、皮質-皮質下の身体・認知行動ネットワークを治療標的として登場させたことは、今後のPD治療に撮って重要な進歩だと思う。特に浅い領域を標的にしても回路を抑制できるとすると、機能的治療の適用が拡大すると思う。3月のジャーナルクラブは中国の創薬や臨床研究を取り上げようと思っているが、この論文も中国臨床医学の力を示すいい例だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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