2025年12月25日
昨日に続いて新しい培養法確立論文を紹介する。今回はなんと別々に培養した子宮内膜の上皮と間質からなる3次元組織を作成して、この上にヒトの胚盤胞を乗せて、着床から胚発生までを再現できないかというチャレンジだ。米国スタンフォード大学、スペイン・ラフェ保健研究所、そして英国バブラハム研究所が共同で Cell に発表した論文で、タイトルは「Modeling human embryo implantation in vitro(ヒト胎児の着床を試験管内でモデル化する)」だ。
胚盤胞は子宮に戻すと着床して発生するが、をそのまま試験管内で培養すると、最終的には構造が失われ、培地の組成に応じて様々な細胞が増殖してくる。ES細胞はこの時、内部細胞塊だけをつまみ上げて培養することで樹立している。胎児の構造を保った発生過程は、着床過程を再現することでしか達成できない。即ち、着床する相手の子宮内膜構造を再現する必要がある。
この研究では健康女性の子宮内膜をバイオプシーで採取、まず上皮と間質を別々に培養する。次に子宮内膜の間質層をハイドロゲル内に間質細胞を閉じ込め、これをトランスウェルト呼ばれる、底の膜を通して栄養分が浸透する特殊な器に入れて培養する。このハイドロゲルには様々なコラーゲンなどマトリックスが加えられて、できるだけ子宮に近い環境を形成させている。この上に、オルガノイド培養で維持している子宮内膜上皮を撒くと、上皮にカバーされた間質層からなる立体構造ができあがる。
子宮内膜はエストロジェンとプロゲステロンに反応して着床の準備を行うが、この時子宮内膜に見られるほとんどの形態的変化(例えば上皮に繊毛が発生し、ピノポードと呼ばれる上皮の突起が発生する。また、子宮内ミルクと呼ばれる着床に必要な分泌分子の全てが合成されるのを観察できる。
さていよいよ胚の着床が可能かだが、数少ない胚と共培養する前に、ヒトiPS細胞由来の胚盤胞に似たブラストイドを加えて、着床と同じような強い接着を形成し、最終的に特徴的な分化細胞が発生することを確認した後、実際のヒト胚盤胞を加えて着床と発生を追跡している。この時、従来用いられてきた2次元培養法や、マトリックスとの培養などと、人工子宮内膜を用いる培養と比べている。
結果だが、半数が完全に着床し、その半数が構築を保ったままの発生が起こる。最も重要なイベントは、胚盤胞を包むトロフォブラスト内部にハイポブラストと呼ばれる卵黄嚢や羊膜を形成する細胞がエピブラストから発生してくることだ。これにより、トロフォブラストの分化が始まり、胎盤を形成する栄養膜が形成され、細胞が集まった合胞体栄養膜の形成へと発展する。そして、栄養膜は人工子宮内皮を突き破って人工内膜の中へと侵入する。
この栄養膜の活動により胚も人工子宮内膜内に完全に包み込まれ、構造を保ったまま発生する。とは言え、この条件では例えば幻聴形成が起こり、3胚葉が発生するというわけではなく、これを実現するためにはまだまだ研究が必要だ。しかし、栄養膜の発生を誘導でき、胚の着床過程をほぼ完全に再現できたことは重要で、例えばAXLと呼ばれるキナーゼをブロックすることで着床が完全に阻害されるといった実験的検討が可能になることから、着床異常の研究が進む様に思う。
このように、地道なトライアンドエラーを繰り返して、正常過程を再現する培養法の確率を目指す研究の伝統は力強く続いているようだ。
2025年12月24日
肝臓の美しい組織学的構造を試験管内で再現する研究が加速している。私たちも経験があるが、培養方法の開発は地道なトライアンドエラーなので、研究者からは毛嫌いされるのではと思うが、粘りの必要な研究を進める人たちがいることは心強い。これまで、ヒトiPS細胞から肝臓を再現する研究では我が国の武部さんたちの研究が進んでいるが(例:Nature:https://doi.org/10.1038/s41586-025-08850-1)、今日紹介するドイツド レスデンのマックスプランク分子細胞学研究所からの論文は、ヒト成人の摘出肝臓組織から得られる細胞を用いて、長続きするヒト肝臓の再現を試みた研究で、12月17日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Human assembloids recapitulate periportal liver tissue in vitro(ヒトのアッセンブロイドは門脈周囲の肝臓組織を再現する)」だ。
このグループは、今年5月、マウスを用いて肝臓組織の再現を試みた論文を Nature に報告している(Nature: https://doi.org/10.1038/s41586-025-09183-9)が、そこで培った様々な技術をヒトに移したのがこの研究だ。
基本的には、門脈周囲の構造を、胆管細胞、肝細胞、そして肝臓間質細胞を合わせて作成することがゴールになっているが、それぞれの細胞を長期に維持する培養法の確率から始める必要がある。これまでiPS細胞や胎児肝での培養法は報告されているが、成人の肝臓はハードルが高い。
まずEPICAM陰性の肝細胞を精製してこれをマトリゲルの中で培養する条件を検討し、一般的に肝臓培養に使われる様々な増殖因子カクテルに加えて、Wntと同じ働きのある人工タンパク質Wntサロゲート及びYAPを活性化させるための薬剤TRULIを加えることで、長期にわたる肝臓のオルガノイド培養が可能であることを示している・・・等と気楽に書いてしまったが、この過程が最難関で、様々なトライアンドエラーが重ねられている。WntサロゲートやTRULI添加は誰もが考えると思うが、ビタミンの一つニコチンアミドを培地から除去することが増殖を促進するという結果は、大変な努力が行われたことを物語る。
ただ、こうして完成したオルガノイド増殖培養では加えた増殖因子などの効果で、分化が進まないことが、遺伝子発現などから明らかになった。そこで、TRULIとFGFを除いた培養を行うことで、細胞を分化させると、極性を持った肝細胞からできる胆汁小管をもった構造が出来、遺伝子発現でもほぼ正常肝臓と同じになる。実際、様々な解毒機能をもち、遺伝的肝不全のマウスの肝臓に移植すると肝臓機能を復活させることも確認した正真正銘の肝臓細胞が出来た。
このようにヒト肝臓細胞から肝臓細胞を増殖させることが可能になったことは極めて大きなブレークスルーだと思う。おそらくバイオプシー程度の肝臓細胞からも培養が可能になると思うので、肝疾患の研究が進むだろう。この研究でも、肝臓培養を行った患者さんの肝臓オルガノイドの遺伝子発現を個別に調べ、それぞれのオルガノイドが患者さんの個性を発揮していることも示しており、期待を持たせる。
ただ、研究はこれで終わっていない。次は機能的胆管も含めた肝臓組織の再現にチャレンジしている。この目的で、胆管細胞のオルガノイド、そして肝臓間質細胞の培養にチャレンジしている。特に後者は間質細胞の表面抗原の定義から始めて、純粋な肝臓特異的間質細胞培養に成功している。これも大変な努力だと思う。
こうして出来た3種類の細胞を細胞の凝集を促進する培養プレートに共培養することで、アッセンブロイドとよぶ胆管と肝臓細胞が混じったオルガノイドが形成され、形態や遺伝子発現から実際の肝臓に極めて近いことを示している。その上で、間質細胞の量を増やすことで、原発性胆汁性胆管炎と同じ病態を誘導できるところまで示している。
結果は以上で、目的に応じた様々な肝臓組織を試験管内で再現し、さらに病気のモデルを試験管内で誘導できたことは素晴らしい成果で、昔培養を行っていた身としては、頭が下がる。
2025年12月23日
卒中など脳に障害を受けても、リハビリテーションにより機能を回復する可能性があるのは、我々の神経回路に可塑性があるからだ。しかし、この可塑性は成長するとともに失われていく。失われると言ってしまうとネガティブになってしまうが、実際には神経回路を安定化して同じ反応を得られるようにするためには、可塑性を抑えることが重要だ。面白いことに、成長した後でも可塑性を取り戻す様々な方法が知られており、これらの研究から神経を守る細胞アストロサイトがこの安定性に重要な働きをしていることが知られている。
今日紹介する米国ソーク研究所からの論文は、アストロサイトが組織修復に関わるとして知られるCCN1を分泌して、神経回路の安定性を保っていることを示した研究で、12月17日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Astrocyte CCN1 stabilizes neural circuits in the adult brain(アストロサイトのCCN1は成人の脳で神経回路を安定化する)」だ。
神経の可塑性を調べるとき、ocular dominance、即ち2つある目のどちら側に反応しやすいかが神経細胞レベルで決まっていくが、特にマウス1次視覚野では ocular dominance が強い。そこで生後28日目と120日目のマウス視覚野に存在するアストロサイトの遺伝子発現の違いをリストし、その中から ocular dominance の可塑性を変化させる様々な実験での遺伝子発現の差を手がかりに可塑性に関わる遺伝子を探索し、回路が安定化するに従い発現が上昇し、暗い部屋で育てることで安定化を遅らせると発現が低下し、さらに片方の目を潰したときに特に反対側の視覚野で発現が低下する、即ち回路を安定化させる分子としてCCN1を特定した。
あとはアストロサイトにこの分子を強発現させたり、あるいはノックアウトしたときに、1次視覚野の神経反応を調べ、可塑性があるかどうかを調べる。このために、片方の目を潰して4日後の視覚野の反応を調べocular dominanceの安定性を検証している。
生後28日目のマウスで、片方の目を塞いで4日目には両眼に反応する領域で残っている目に反応する神経の数が上昇するリモデリングが起こるが、CCN1を強発現させるとこれが消失する。一方で、アストロサイトのCCN1を生後1ヶ月目にノックアウトさせ、4ヶ月待ってから片方の目を塞いで ocular dominance がリモデリングされるかどうかを単一神経細胞レベルで追跡すると、CCN1がないと視覚野をリモデリングする可塑性が残っていることがわかる。逆に両眼視力の安定性がないため、高低の差がある飼育環境で行動させると、深さの感覚が安定していないため、何度も下に落ちる。
あとはCCN1により回路の安定性が維持されるメカニズムを調べ、
- CCN1は細胞接着を調節するピニンの量を介在神経の周りで上昇させることで、介在神経の成熟を促進し、回路を安定させる。この時CCN1はインテグリンの結合を通してミクログリアの貪食機能を変化させ、ピニン量を調節している。
- CCN1からインテグリン結合部位のアミノ酸を変異させると、回路安定か機能は消失する。
- CCN1はオリゴデンドロサイトの分化を誘導し、神経軸索のミエリン化を誘導する。
等を通して回路の安定性に寄与していることを明らかにしている。
結果は以上で、ocular dominance を実験系として用いているが、ノックアウトすると可塑性が回復する点は重要で、神経損傷後のリハビリテーション効率を上げるといった新しい実験系で調べると面白いのではないだろうか。
2025年12月22日
CAR : 抗原受容体キメラというと、ガン抗原特異的抗体とT細胞刺激分子のキメラ分子をT細胞に導入してガンを傷害させる方法を指し、ガンに対する免疫をよりコントロールしやすい治療法として臨床応用が進んでいる。
これに対し今日紹介するスイスローザンヌ工科大学からの論文は、CARを樹状細胞に導入してガンの抗原により活性化されるようにし、ガンが排出するエクソゾーム (EV) を取り込んでガン免疫の成立を助けるCAR-樹状細胞 (CAR-DC) の可能性を追求した研究で、12月17日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Coordinate tumor-antigen uptake and dendritic cell activation by chimeric antigen receptors(キメラ抗原受容体を用いて抗原の取り込みと樹状細胞の活性化を強調させる)」だ。
この研究の前提は、ガン細胞からガン特異的抗原を発現したEVが排出され、この中には他にもガン由来タンパク質やRNAが詰まっていることだ。従って、ガン由来EVをアクティブにDCに取り込ませることが出来ればガン特異的免疫反応の誘導効率を上げることができると着想した。
そこで、CAR-Tにも利用されるHER2に対する抗体を、様々なシグナル分子とキメラにしてDCに導入し、CD86の発現を指標にDC活性化を誘導できるCARを探索、最終的にCD40の細胞内領域と、Fc受容体の細胞内受容体を合わせたCARを、DC活性化効率の高いCARとして確立する。
次にメラノーマをガンモデルとして利用する目的でHER2抗体の代わりにGD2に対する抗体に変えて、GD2を発現するメラノーマ由来EVをCAR-DCに加える実験を行い、活性化型のDCに変化して炎症性サイトカインを分泌、また貪食能が高まり、MHC抗原の発現も上昇して、免疫刺激型のDCに変化することを明らかにする。
卵白アルブミンを発現するメラノーマを用いて、GD2-CAR-DCによってガン抗原に対するT細胞を誘導できるか調べると、期待通りGD2-CAR-DCは卵白アルブミンを含むメラノーマに対する免疫反応を誘導出来ることを確認している。
次に、メラノーマをマウスに移植、4日後、あるいは1週間後にGD2-CAR-DCをPD-1に対する抗体とともに静脈注射する実験を行うと、いずれの場合も完全ではないがガンの増殖を抑えることを確認している。ただ、効果が弱いので、効果を上げるために細胞内ドメインのアミノ酸を変化させ、分解されにくいCARに変えると、より抗ガン効率が上がることを示している。
DCはガン局所でT細胞を刺激する運び屋としても研究が進んでいるが、この研究ではさらに活性化されたときだけIL-12が分泌される遺伝子コンストラクトを導入したGD2-CAR-DC-IL12も作成し、これを使うことでさらに強いガン抑制効果があることを示している。
この方法の利点は、一つのガン抗原に縛られないことで、DCのT細胞刺激能を高めることで、様々なガン抗原に対するT細胞反応を誘導できることだ。実際、反応するT細胞を調べると、CAR-DC-IL12により多くのT細胞クローンが反応することが確認されている。
最後に、ヒトの血液から精製したDCを同じように改変し、EVによって活性化されることを確かめ、臨床にも使えることを示している。
以上が結果で、DCを使うことで、免疫チェックポイント治療に抗原特異性を付与して、本来のがん免疫療法に転換できることを示している。おそらくこの実験で行われたDCの静脈注射の代わりに、ガン局所へのDC注射が最初の治療としては現実的だと思うが、CAR-Tと比べるとホストの免疫反応を信じる必要がある。個人的には魅力的方法だと思う。
2025年12月21日
私が医学部を卒業した頃は、ガンの中では胃ガンが男女ともにトップだった。しかしピロリ菌の感染率の低下とともに罹患率は低下し、現在では男女とも4番目に多いガンになっている。それでも頻度の高いガンだが、研究に目を移すと研究人口は少ないように思う。実際、既に5000回に近づいているこのブログで紹介した胃ガンの研究論文は、数えるほどしかなく、紹介した大腸ガンの研究論文の数とは比較にならない。
今日紹介するシンガポール A*STAR からの論文は、マウスの実験胃ガンモデルとヒトの胃ガンを比べながら胃ガンの幹細胞を探った研究で、珍しいので紹介することにした。タイトルは「AQP5: A functional gastric cancer stem cell marker in mouse and human tumors(AQP5:マウスとヒトの胃ガンの機能的な幹細胞マーカー)で、12月18日号 Science に掲載された。
胃上皮の難しさは、Wntシグナルが増殖の中心にある腸上皮と違って、Wnt以外にEGFR、Notchi、Hippo/Yap 等様々なシグナルが、しかも領域依存的に働いている。加えてピロリ菌感染による炎症や消化管ホルモンなどが加わるため、発ガンにいたるドライバーも単純でない。
ガンを単一の細胞の集団ではなく、正常組織のように幹細胞から増殖前駆細胞、そして分化細胞までの階層性を持った集団と考えるのが常識になってきたが、胃ガンでは腸のガンで使えるWntシグナルに関わるLgr5が使えないため、階層構造を定義することが難しかった。
このグループは水分子のチャンネル aquaporin5 (AQP5) をガン幹細胞のマーカーとして使えるのでは着想し、この可能性をマウス実験胃ガンモデルや、ヒト胃ガンで調べている。そのため、AQP5遺伝子に蛍光標識など様々な遺伝子が導入できるようにしたマウスを作成し、まず正常の胃でAQP5の発現パターンを調べている。この研究では基本的に幽門を対象としているが、基底膜上部の幹細胞領域に発現が認められる。このマウスに大腸ガンと同じ遺伝子セットを誘導するとガンが発生するが、ガン細胞は初期からAQP5を発現している。人間の胃ガンでもAQP5発現を調べ、様々なタイプでガン細胞がAQP5を発現していることを確認している。
重要なのはガンといえどもAQP5陽性と陰性に分かれることで、上皮を培養するオルガノイド培養を行うと、AQP5陽性陰性を問わずオルガノイドは形成されるが、AQP5陽性細胞のみが増殖を続ける。またマウスの幽門部に移植すると、AQP5陽性細胞のみガン増殖を示す。同じ実験をヒト胃ガンサンプルを用いて行うと、オルガノイド増殖及び移植でのガン増殖能力がAQP5陽性細胞で高いことから、AQP5はガン幹細胞のマーカーになると結論している。
では、オルガノイドや移植実験でAQP5陽性細胞を途中で除去すると、増殖は抑えられるだろうか?この問題を調べるため、AQP5陽性細胞をジフテリアトキシンで除去する実験系で調べ、増殖が始まった後でもAQP5を除去することでガン全体を除去できることを示している。
水分子チャンネルAQP5が直接ガンのドライバーになることはないが、AQP5をノックアウトするとガンの増殖は低下する。これはヒト胃ガンオルガノイド、マウス胃ガンモデル、肝臓転移マウス胃ガンでも認められるので、AQP5は増殖を促進する効果があることは間違いない。例えばAQP5ノックアウトすると、マトリックスを分解する酵素の発現が低下し、また様々な増殖シグナル分子の活性化が低下することから、水分子チャンネルと増殖因子の間に重要なシグナル経路があることがわかった。
以上が結果で、これで胃ガンの標的薬が見つかったという話にはならないが、標的細胞がはっきりしたこと、AQP5の役割もはっきりしたことから、水分子チャンネルを標的に出来なくても、これに関わる標的を特定して、胃ガン共通の標的薬を発見できる可能性はある。
2025年12月20日
遺伝的共通部分が半分あるとは言え、胎児は母親にとって異物と言える。その異物を妊娠中に拒絶なく維持するために、何重もの安全システムが出来ており、胎盤という免疫バリアに加えて、免疫反応や炎症を抑える仕組みが存在する。
今日紹介するコーネル大学からの論文は、胎児への免疫反応抑制に母親の腸内細菌叢が深く関わることをモデルマウスで示した研究で、12月17日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Gut microbiota promotes immune tolerance at the maternal-fetal interface(腸内細菌叢は母親と胎児のインターフェースで免疫トレランスを促進する)」だ。
この研究は無菌マウスで胎児発生異常が起こりやすく、胎生16.5日目では多くの胎児が流産し吸収されることに気づいたことに始まる。すなわち、免疫反応抑制が不十分である可能性が高く、調べてみると母親の胎児に対する抗体が上昇し、さらに胎盤や子宮内のインターフェロン分泌性のCD4細胞やCD8T細胞の数が上昇している。
母親の細菌叢が胎児へのトレランスを作っていることは、母親の腸内細菌、特にグラム陽性細菌を除去する抗生物質を飲ませると、流産が増加し、胎盤や子宮での胎児への反応が高まることからわかる。
このトレランスの破綻の細胞学的原因を探すと、腸内で炎症を抑えることで知られる顆粒球系の細胞が無菌マウスでは大きく低下していることがわかる。様々な操作実験を行い、この細胞が腸内の細菌叢をTLR等の自然免疫系で感知し、それが胎盤へと移行する事で炎症や免疫反応を抑えていることがわかった。実際、この細胞を取り出して妊娠無菌マウスに移植すると、流産を抑えることができる。
これに加えて、従来から胎児へのトレランス維持に関わるとされている、今や一般の人にも多く知れ渡った制御性T細胞Tregも細菌叢により胎盤や子宮で増加していることがわかった。特に腸内で免疫反応のバランスをとっているRORγ分子を発現したTregが選択的に増加しており、これが免疫を抑制していると考えられる。またこのRORγ陽性Tregを、同じくRORγ陽性樹状細胞が刺激し、免疫抑制を維持していることも示している。腸内での細胞をラベルする実験から、RORγ陽性Tregは腸管内で細菌叢の刺激を受けた後胎盤へと移行してトレランスを維持することもわかった。
Tregの刺激サーキットは直接細菌叢に反応することはないことから、細菌叢から出る代謝物を調べて、トリプトファン代謝物のインドールなどがAhRと呼ばれる受容体を介して働いて、RORγ陽性Treg刺激システムを活性化していることを発見する。これを証明するために、インドールを無菌マウスに経口投与すると、流産を防げる。さらに、このトリプトファン代謝物を合成する細菌を探索し、L.murinusと呼ばれる乳酸菌がインドールを分泌して胎児への免疫トレランスを維持していることを示している。
最後に人間でも同じことが言えるか調べる目的で、習慣流産の母親が流産したときの脱落膜の single cell RNA sequencing や代謝物のデータベース(こんなデータがパブリックに存在することに本当に驚くが)を探索し、確かに炎症を抑える顆粒球、RORγ陽性Tregが低下しており、インドールなどのトリプトファン代謝物量も低いことを示している。
Tregや炎症を抑える単球が働いていることを知っていたが、ここまで細菌叢が重要な働きをしているとは想像しなかった。面白い研究だと思う。
2025年12月19日
アルツハイマー病 (AD) を特徴付ける主な病理は、アミロイドβからなるアミロイドプラーク形成と神経細胞内でリン酸化されたTauが凝集して起こる神経細胞死だが、これを診断するためには脳脊髄液の検査やPET検査など一般検査としてのハードルが高いため、なかなか早期診断は難しかった。そんな中で、リン酸化Tau (pTau) の凝集が始まるより何年も早く、可溶性で血中に出てくる pTau217(Tauの217番目のアミノ酸がリン酸化されている)が、神経病理を反映する検査として使われ始めている。さらにpTau217はTau病理だけでなく、アミロイドβ病理と早期から相関しており、最近では抗体薬を使うための補助診断としても期待されている。
今日紹介するノルウェーの Stavanger 大学からの論文は、58歳から90歳までの11486人の痴呆の発生を調べるコホート研究で、血中の pTau217 を調べ、痴呆症状との相関を調べた研究では、pTau217 についての最も大規模な研究だ。空恐ろしいタイトル「Prevalence of Alzheimer’s disease pathology in the community(病理学的アルツハイマー病はコミュニティーに蔓延している)」で、12月17日 Nature にオンライン掲載された。
異常値を0.63pg/mlとしているが、異常値を示す割合は60歳代では7%程度だったのが、70歳代を超すと急に20%以上に跳ね上がり、80-85歳で44.1%、85-89歳で57.9%、90歳代を超すと65%になり、pTau217 が病理的なADを反映するとすると、80歳を超すと半数以上にADの原因になる病理的変化が存在していることになる。さらに、痴呆、軽度認知障害 (MCI) 、正常認知機能に分けて調べると、どの年齢でも痴呆と診断された人で pTau217 は最も高く、次いでMCIになるが、認知正常でも、90歳代では62%、85歳−89歳では45%で pTau217 が異常値を示しており、個人差はあってもTau病理はほとんどの人で進んでいくと覚悟する必要があることを示している。
もちろん pTau217 が低いに越したことはなく、これを上昇させない様々な方法が今後検討されると思うが、異常値を示しても認知機能正常の人が一定の割合で存在することは重要で、これまで強調されてきたようにADの発症を様々な方法で抑える可能性が存在することを意味している。
この研究では、高等教育を受けたグループでは pTau217 が正常値の確率が高いことも示しており、ただ認知機能が保持されるだけではなく、高等教育を受けることにより pTau217 に反映される病理過程を遅らせられることを示している。
以上、今後病理的変化があっても認知機能を保存する方法と、pTau217 で見られる病理変化を遅らせる方法が研究されていくと期待したい。論文自体は、ADに至る病理変化は想像以上に頻度が高い、生理的老化過程の一つだという恐ろしい結果だが、指標が明確になることで、多くの予防研究が進むように思う。
以上のように、ADを防ぐ生活習慣は重点項目として研究する必要があるが、そんな例として、なんと高脂肪乳製品が痴呆のリスクを下げるというスウェーデン ルンド大学からの論文を短く紹介して終わる。タイトルはずばり「High- and Low-Fat Dairy Consumption and Long-Term Risk of Dementia(高脂肪の乳製品は長期的痴呆のリスクを下げる)」だ。
この研究は1991-1996年に始まった食生活と健康に関するコホート研究で、参加時に一週間にわたっての食事のデータを詳しくとっている。その後25年経った後にADと血管性の痴呆の発症率を調べ、リスクと関連する食物を調べているが、この研究ではもっぱら乳製品について相関を調べている。
結果は、脂肪分が高いチーズやクリームを食べるほど痴呆のリスクが減るという結果で、チーズ好きにはうれしい結果だ。個人的に驚いたのは、ADリスクの高い APOE4 を持つ人で高脂肪チーズのリスク軽減効果が高いことで、この話がある程度信頼できることを示している。
要するに、身体に悪いと考えられる高脂肪乳製品が痴呆についてはリスクを下げるという話で、タバコがADリスクを下げるという研究と同じカテゴリーに入るような気がするが、このような直感に反する結果も pTau217 等を指標として検討し直すと面白いことがわかる気がする。
2025年12月18日
コロナパンデミックでは様々なワクチンのモダリティーが試されたが、間違いなくmRNAワクチンに軍配が上がった。これが実現したのはノーベル賞を受賞したKarikoさんとWeissmanさんがmRNA中のウリジンを化学的に修飾した pseudouridine (PU) に置き換えることで、mRNAが本来持つ劇的な炎症誘導作用を抑制し、mRNAの翻訳効率も格段に上げられることを示したからだ。
しかし抗原特異的免疫反応を誘導するためには一定の自然免疫反応は必要で、Karikoさんたちの最初の論文では自然免疫がほとんど誘導されない方が強調されているが、おそらくいい塩梅の自然免疫が誘導できているのではと想像されていた。
今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、mRNAワクチンを構成するPU-mRNAとそれを包む脂質ナノ粒子 (LNP) の自然免疫誘導能力を個別に検証して、mRNAワクチン大成功の秘密を探った本来ならワクチン開発前に行われていても不思議ではない重要な研究で、12月16日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Distinct components of mRNA vaccines cooperate to instruct efficient germinal center responses(mRNAワクチンのそれぞれの構成成分は胚中心の免疫反応の効率を上げるように協調する)」だ。
全てマウスモデルで行われているが、ワクチン効果の細胞学的基礎を注射した抗原が移動する所属リンパ節で濾胞型T細胞 (Thf) が誘導され、胚中心と呼ばれる抗原特異的B細胞を刺激するための場が形成されること決めて、この過程にPU-mRNAとLNPがそれぞれどのような機能を保つか、徹底的に調べている。詳細は省くが、免疫細胞のダイナミックスを調べるためのあらゆる方法を取り込んだ実験で、久しぶりに抗原特異的反応へのプロフェッショナルなアプローチを読んだ気がした。
まず最初に行っているのは、PU-mRNAが自然免疫を誘導してくれるかどうかを調べているが、自然免疫に関わるインターフェロン受容体や様々な分子をブロックしたときに、PU-mRNAの効果を調べることでこの問題にアプローチしている。結論的に言うと、PU-mRNAといえども主にインターフェロンを介する自然免疫を誘導しており、この背景にはPU-mRNAが細胞内でTLR3/7センサーに感知されるからだということを明確に示している。生のmRNAと比べると反応するセンサーは少なく反応も低いが、間違いなくインターフェロン誘導を中心とする自然免疫が誘導され、これがThf及び胚中心形成に必須であることがわかる。さらに、まだよくわからないセンサーを介して自然免疫に関わるIL-1シグナルも動員して、バランスのいい免疫反応を誘導していることも示している。一方で、激烈な反応に関わるRIG-1やMDA5センサーには引っかからない。
次に、動員される樹状細胞をLipsticと呼ばれる反応するT細胞によって樹状細胞側の分子がビオチン化されるというテクノロジーを用いて調べ、ヘルパーT細胞を誘導するDC2である事を特定するとともに、こうしてラベルしたDC2がThfや胚中心を誘導するための様々な分子を誘導することを示している。
このmRNAワクチンに対する反応には当然LNPの貢献も存在すると考えられるので、次はLNP有り無しでのワクチン接種実験を行い、LNPの標的になると考えられるDC2の反応を調べている。面白いことに、LNPが存在するときだけ樹状細胞にIL-2と結合してT細胞シグナルを弱めて免疫を適正化できるCD25が発現すること、及びEbi1と呼ばれる脂質に反応するシグナルがオンにることを示している。そしてこれらの作用でThf反応が高まり、胚中心が形成される。
最後にLNPに包んだPU-mRNAワクチンのリンパ節への移動についても調べ、筋肉注射によりリンパ管を通って直接リンパ節内の樹状細胞。それもDC2により選択的に取り込まれること、この移動に組織に常在する樹状細胞は必要無いことを示している。
以上が結果で、我々が身をもって効果を経験したmRNAワクチンの秘密を改めて教えて貰った面白い研究になる。
2025年12月17日
今日の気になる臨床研究は3編の変な論文を紹介して、このような研究もあるのだと知ってもらおうと思っている。
最初はドイツ ビュルツブルグ大学からの論文で、厳密に臨床研究とは言えないが、インフルエンザの感染の新しい検査法の開発と言える。ただ通常の検査ではなく、陽性、陰性を自分の舌で感じて診断させる可能性を追求した研究で ACS Central Science 11月号に掲載された。タイトルは「A Viral Neuraminidase-Specific Sensor for Taste-Based Detection of Influenza(ニューラミダーゼ特異的センサーを用いて味によってインフルエンザウイルスを検出する)」だ。
この研究はインフルエンザウイルス検査としては完成していないが、アイデアはむちゃくちゃ面白い。インフルエンザウイルスはニューラミニダーゼ酵素を持っており、この酵素活性を用いて検出することができる。ただ、体外に取り出したサンプルで酵素活性を図るのではなく、ウイルスが感染した口の中でニューラミダーゼを反応させ、酵素で切断された生成物を舌で感じて診断させるという面白いアイデアだ。
ニューラミダーゼの基質 N-acetylneuraminic acid にタイム由来の化合物で舌を刺激する thymol を結合させ、インフルエンザのニューラミニダーゼ特異的に thymol が切り離される化合物を合成している。あとは、インフルエンザに感染した患者さんの唾液で thymol が切り離せるか、この基質はインフルエンザウイルスのニューラミダーゼ特異的かを徹底的に調べ、ウイルス特異的で診断に十分使える感受性を持っていることを確認している。研究はこれだけで、実際に診断に使えるかを調べてはいない。しかし、インフルエンザかなと思ったときこの基質を含むガムを噛んで苦みを感じたら自己隔離をして他の人に感染させないといった対応が可能になると、公衆衛生上でもかなり有望だと思う。
次のノースカロライナ大学からの論文は、家の中のゴキブリがエンドトキシンをまき散らして喘息の原因になっている可能性を検証した研究で、The Journal of Allergy and Clinical Immunology の来年1月号に掲載予定論文だ。タイトルは「Indoor allergens and endotoxins in relation to cockroach infestations in low-income urban homes(都市の低所得層でのゴキブリ蔓延が室内のアレルゲンとエンドトキシンの発生元になる)」だ。
ノースカロライナ、Raleigh の低所得者向けに立てられたタウンハウス型集合住宅コミュニティーを対象に被検37家族を集め、ゴキブリトラップを含むゴキブリ生息状況調査を行い、29軒でゴキブリが蔓延していることを確認、ゴキブリが見つからなかった8軒と、エンドトキシンやアレルゲンのテストを行っている。
一匹のゴキブリが糞として排出するエンドトキシンの量は、特にメスので5000EU(注射薬として許されるのが0.25EU/ml)にも達する。ゴキブリが蔓延すると診断され家のキッチンには6ヶ月の観察期間のうち50匹がトラップで捕獲されたが、これは家中にゴキブリ駆除の殺虫剤の入った餌を設置し、3ヶ月後にもう一度トラップを仕掛けてゴキブリが駆除されたことを確認している。この処置により、ゴキブリから発生するアレルゲンの量は低下する。また特にキッチンのエンドトキシン量が低下する。
結果は以上で、これにより喘息が防げるかについては検討されていないが、写真付きでゴキブリの蔓延が示され、エンドトキシンやアレルゲンの量と相関させている研究は、かなり実感がある。
最後は英国ロチェスター大学からの論文で、2017年から始まった農家と都会の子供の成長を記録するコホート研究で、食物アレルギー発生状況と免疫状態を調べている。タイトルは「Farm exposure in infancy is associated with elevated systemic IgG4 , mucosal IgA responses, and lower incidence of food allergy(農家で幼児期を過ごすことで血中IgG4と粘液IgAが上昇し、食物アレルギーが低下する)」で、12月10日 Science Translational Medicine に掲載された。
この研究が対象にした農家はOld Order Mennoite (OOM) と呼ばれる文明を拒否して自給自足をおこなうコミュニティーに生まれた子供で、これを都会の子供と比較している。2歳時点で、都会の子供は35%がアトピー性皮膚炎と診断されているのに、OOMの子供はたった3%しかアトピー性皮膚炎にならない。この免疫学的原因を探るのがこの研究で、2年にわたった血液と便について調べている。通常このタイプの研究は腸内細菌叢についても記述するのだが、この研究では全く細菌叢は無視している。
この研究からわかったことをまとめると、
- 血中のB細胞のうち、メモリー型やIgGにスイッチしたB細胞の数は、OOMの子供で高い。
- これと呼応して、OOMの子供は血中IgGとIgAが高い。
- 卵白やカゼインなど食物アレルゲンに対する免疫グログリンを調べると、OOMの子供はIgG4とIgA の値が高い。
- 便中(おそらく粘膜免疫を反映)のIgAはOOMの子供が高い。
- OOMの母親も同じように食物アレルゲンに対するIgG4, IgA値が高い。
これらの結果から、農家の子供の食物アレルギーが抑えられているのは、胎生後期から母親を通して免疫刺激を受けて、母親と同じIgG4抗体やIgA粘膜免疫を発展させることで、アレルギー性の免疫を抑えている結果だと結論している。今年のトピックスTregの話も全く気にせず我が道を行く研究だが、結果は面白い。
2025年12月16日
腸内細菌叢の研究論文はこれまでも数多く紹介してきたし、多くの研究は我々の身体の代謝との関係で細菌叢を調べた論文だったが、代謝のプロの目から細菌叢を調べるという論文は紹介したことがなかった。たまたま勉強会の材料探しで最近の Cell Metabolism を見直していたら、なんと糖尿病研究の大御所 Ronald Kahn さんの細菌叢研究論文を見つけたので、少し古くなってはいるが紹介することにした。タイトルは「Portal vein-enriched metabolites as intermediate regulators of the gut microbiome in insulin resistance(門脈に濃縮される代謝物は腸内細菌叢によるインシュリン抵抗性の中間調節因子だ)」で、10月7日 Cell Metabolism に掲載されている。
糖尿病研究のプロから見ると、腸から肝臓への循環系になる門脈血は、全身を流れる心臓循環血とは区別して考えるべきということになる。即ち、代謝に対する細菌叢の影響を見るとき、肝臓に直接働いて代謝を変化させる細菌叢由来代謝物は門脈で一番高濃度になるが、肝臓で代謝された後で他の全身の組織に作用する代謝物は、心臓循環血で濃度が高くなる。
このアイデアに基づいて、メタボになりやすいマウス系統、メタボ抵抗性のマウス系統に、高脂肪食を与えたとき、腸内で起こる細菌叢の変化と、門脈と心臓循環血で濃度の違う代謝物をリストしている。多くの代謝物が扱われており話が複雑になるのでかなり省略して話をまとめてしまう。
まず期待通り、門脈は質的にも量的にも心臓循環血と異なっている。これは腸内細菌叢及び腸上皮の代謝物を門脈が反映しているからだが、その内容はホストの食べ物と同時に遺伝的違いにも大きく影響される。また逆に言うと、細菌叢の違いが門脈の代謝物の違いに反映していると考えることができる。
例えば糖尿病になりやすい系統では N-acethylated アミノ酸、シトルリン、そしてTCAサイクル由来の代謝物が門脈に濃縮されるが、これは悪玉の細菌叢と相関しており、インシュリン抵抗性と明確な相関がある。
一方、糖尿病リスクの低いマウス系統の門脈では phosphocholin 、アセチルチロシン、カルニチン、メサコン酸などの代謝物が濃縮されており、インシュリン感受性と強く相関している。この中にはメサコン酸や、クエン酸、フマル酸などのTCAサイクル由来分子も存在しているが、糖尿病ハイリスクマウスで濃縮されている分子とは異なる。
そこで、TCAサイクル内のアコニット酸から派生するイタコン酸やメサコン酸の培養肝臓細胞への作用を調べると、期待通り脂肪合成を抑え、逆に脂肪燃焼を高めることがわかる。またマウスに直接これらの代謝物を腹腔注射すると、同じように脂肪燃焼を高めるとともに、ミトコンドリアの呼吸活性を高めることも明らかにしている。
最後に、糖尿病リスクマウスに高脂肪食を与え、代謝が大きく変化した肝臓細胞を取り出し、これにイタコン酸やメサコン酸を加えると、脂肪合成と脂肪燃焼のバランスが正常に戻ることを示している。
以上、インシュリン抵抗性を誘導する肝臓の役割に焦点を当てて、これに直接関わる細菌叢代謝物を門脈と心臓循環血の比較で見つけるという、まさに糖尿病研究のプロの細菌叢を見る視点を勉強することが出来た。