12月4日 RNA分解産物により自然免疫が誘導される経路(11月27日号Cell掲載論文)
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12月4日 RNA分解産物により自然免疫が誘導される経路(11月27日号Cell掲載論文)

2019年12月4日

私が免疫学に強い興味を持った頃、自然免疫という概念はなかった。しかし動物を免疫するとき、あるいはワクチン接種により高い免疫反応を誘導するには必ずアジュバントが必要なことはわかっていた。その後、このアジュバント効果こそが、自然免疫により誘導される局所炎症であることがわかった。この概念を最初に私に教えてくれたのは脳腫瘍で亡くなったJannewayだが、その後この経路に関わるメカニズムの解明は急速に進み、阪大の審良さんや、東大の三宅さんなどを中心に、我が国はこの研究分野をリードしてきた。特にこの二人は、自然免疫システムが刺激される入り口、TLRやMyd88の機能研究で大きな貢献をしており、私も自然免疫というと、これらの分子から、NFkBへの経路をすぐに頭に浮かべることができる。

しかしそれぞれのTLRがどのようにリガンドを認識するのか、これは難しい問題だ。特にRNAウイルスなどを認識するシステムの場合、細胞の中に存在するRNAとどう区別するのか理解する必要がある。また、これが理解されると、新しいアジュバントを開発することができる。

今日紹介するドイツ・ミュンヘンのルードビヒ・マクシミリアン大学からの論文はTLR8を刺激する条件について明らかにした研究で11月27日号のCellに掲載された。タイトルは「TLR8 Is a Sensor of RNase T2 Degradation Products (TLR8はRNaseT2の分解産物のセンサーとして働く)」だ。

RNAが分解された産物を認識するシステムにはTLR7とTLR8が知られているが、TLR7に比してTLR8については研究は進んでいなかったようで、確かに私もあまり論文を読んだ記憶がない。この研究では両方のTLRを発現する白血球細胞株を選んで、それぞれの分子をノックアウトし、まずオリゴヌクレオチド(ON)RNA40がTLR8特異的刺激を誘導できることを確認する。

次に、多くのRNaseを検討し、ついにRNaseT2がRNA40を分解した時だけTLR8が活性化されることを発見する。この発見が研究のハイライトで、あとはTLR8を刺激できる分解産物の特定を行い、刺激に至るプロセスを一歩一歩生化学的に解明している力作といえる。

詳細なデータ紹介は省いて、現れてきたシナリオだけを紹介すると次のようになる。

例えばバクテリアが細胞内に侵入すると細菌はリソゾームで分解されるが、それが合成しているRNAはリソゾーム内のRNaseT2により、プリンとウリジン(U)の配列部位で切断し、5‘端にUを持つオリゴヌクレオチドと反対側の3’プリン基に環状フォスフェートを持つオリゴヌクレオチドを生成する。

この環状フォスフェートを持つオリゴヌクレオチドがまずTLR8に結合するが、これだけでは刺激としては不十分で、これにウリジンが供給されるとスイッチが入るという仕組みだ。このとき必要なウリジンも、RNaseT2により切断されたもう一方のオリゴヌクレオチドの端末から供給されるので、結局RNaseT2はTLR8の刺激に必要なすべてのリガンドを供給することになる。

以上がシナリオだが、RNAの生化学の高い能力と免疫学が合体して可能な、面白い研究で勉強したという気になった。このRNaseの遺伝変異によりウイルスに対する抵抗の欠如とともに、これと相反する自己免疫性炎症が発生するという面白い現象も存在するようで、私たちがアジュバントとして片付けていた現象が、本当に大きな世界へと広がっていることを感じさせる。

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12月3日 糸球体濾過率測定にはシスタチンC測定の方が優れている(11月号Nature Medicine掲載論文)

2019年12月3日

慢性の腎臓病を総称してCKDと呼んでいるが、その指標として重要なのは腎臓の濾過率で、現在ではeGFRとして血中クレアチニン濃度から計算している。私も年齢とともに低下し、ちょうど60ぐらいになっており、少し気にしている。実際、45を切ると、心血管障害や腎不全に陥る確率がぐんとあがる。ただ、クレアチニンは筋肉由来のため、どうしても筋肉の状態に左右されるため、完全に腎臓の濾過率を反映するのは難しいと考えられていた。

これを解決する検査として開発されたのがシスタチンCの濃度をクレアチンの代わりに使う方法で、体のすべての細胞から産生されるため、安定した指標になると考えられ、保険も適応になっている。ただ、クレアチニンと比べると検査料は高い。

今日紹介するグラスゴー大学からの論文はUKバイオバンクに登録された人の検査記録と死亡率、あるいは心血管系の発作や腎不全の発生を追跡し、シスタチンCを用いる検査の優位性を示した研究でNature Medicine 11月号に掲載された。タイトルは「Glomerular filtration rate by differing measures, albuminuria and prediction of cardiovascular disease, mortality and end-stage kidney disease (糸球体濾過率測定方法、タンパク尿、そして心血管病、死亡率、腎不全の予測)」だ。

研究ではUKバイオバンクから44万人を抽出し、クレアチンによるGFR算出、シスタチンによるGFR算出とともにタンパク尿の有無などを調べ、その結果と心血管病の発症頻度、末期の腎不全の発症頻度、および理由を問わない死亡率を調べ、それぞれの検査がこれらのリスクをどの程度予測できるか調べている。

さて結果だが、もちろんクレアチニンによるeGFR数値は死亡率や、心臓病の発生率と逆比例し、検査自体は有効であることがわかる。しかし、綺麗に逆比例するというより、カーブは蛇行している。

一方、シスタチンCを用いて同じように死亡率、心臓血管病の発症率、そして末期の腎不全発症率との相関を調べると、ほぼ直線の逆比例関係が見られ、正確にリスクを予想するには圧倒的にシスタチンCを用いる方がいいことが明らかになった。

他にも、両方の検査方法を合わせてみた時、あるいは蛋白尿を合わせてみた時、よりリスク計算が正確になるかも調べているが、あまり効果はない。

以上の結果から、シスタチンCの検査はコストが高いが(実際我が国では1200円ほどで、クレアチニン検査より10倍高い)、それに見合うだけの正確性があるという結論になる。 この結果はすでに何度も指摘されてきたが、UKバイオバンクという驚くべきダータベースのおかげで、間違いないことが完全に確認されたと思う。臨床医にとっては重要な研究で、おそらく健康診断でも標準になっていくような気がする。

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12月2日 胚選択で優れた子供を選択するのは難しい(11月27日号Cell掲載論文)

2019年12月2日

先日ゲノム情報からデニソーワ人の骨格を推察する研究を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/11407)、本当に可能かという疑問は残るにしても、メンデル以来続いてきた遺伝学が全く新しい方向に進み始めたことを感じる。

これはイスラエルの仕事だったが、ゲノムから形質を予想する情報処理法の開発にイスラエルが力を入れているなと感じさせる研究が同じヘブライ大学から発表された。タイトルは「Screening Human Embryos for Polygenic Traits Has Limited Utility(複数の遺伝子が関わる性質を胚選択で達成するには限界がある)」で、夫婦が少しでも優れた子供を産むため、10個の胚の中から一番いい形質を持った胚を選ぶことができるかという問題を扱っている。

はっきり言って、この問題をシミュレーションで調べようと思いついた着想がこの研究のすべてで、あとは情報処理といってCellに掲載されるほどの新規性はほとんどないのではないかと思う(といっても数理については私は全く理解できていないので、そのつもりで読んでいってほしい)。

現在米国でなんらかの遺伝子解析を受けた人が2000万人を越したそうだが、100万を越すデータが集まり始めると、ゲノムから身長やIQを推察するための方法開発が加速している。この計算のために最もよく用いられるのがpolygenic score(PS)で、NBAのバスケットプレイヤーの一人の身長の高さが遺伝要因であることを示すことができている。また、掛け合わせのつがいを自由に選べる育種でも、PSは重要な指標として用いられている。

ただ、人間の場合子供は子供のために自由に生殖相手を選ぶというわけにはいかない。そのため、夫婦からできるだけ多くの受精卵を採取してゲノムを解析、その中でPSができるだけ高い胚を選ぶ方法が考えられる。この研究では、この方法でどの程度の期待する形質が得られるか、完全にゲノム解析が行われている102組の夫婦のコホートデータを用いてシミュレーションした研究だ。

通常体外受精の場合3−4個の胚が作られるが、この研究では10個の胚から選択するという状況で、身長とIQについて胚選択でどこまで高い子供を選択できるか計算している。

これは各夫婦がどPSに関わる多型をどれだけ持っているかに関わるが、多くの多型を選ぶことができて10個の胚を選択する場合でも、身長で3cm、IQで3ポイントあがるのがやっとであることを示している。さらに、選べる胚をさらに増やした場合の計算もしているが、だいたい15個でプラトーに達する。

結論はこれだけだが、これが正しいかどうかすでに子供が成長した28組の大家族で調べて、身長の違いを予測することは難しいことを示している。

もちろんさらに予測に使える多型が増えていくことも考えられるが、結局望む形質を選ぶ目的に胚選択は意味がないという結論になる。なるほどと納得する研究だが、考えてみると当たり前の話で、一般の人たちの倫理観の隙間をうまく利用して論文に仕上げただけの研究だと思う。とはいえ、このようなしたたかさの研究を繰り返す中で、ゲノムから形質を正確に予測する方法が開発されていく。研究にはコンピュータ以外必要ないので、ぜひ多くの若者にチャレンジしてほしいと思う。

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12月1日 ちょっと意外なジョギングの効果 (Nature Medicine11月号掲載論文)

2019年12月1日

最近報告されたバージニア大学からの論文は、身に着けるセンサーを用いて毎日の運動を測定し、運動と死亡率を調べたコホート研究だが、日常の運動量が長生きに重要なことを明確に示している (Smimova et al, Journal of Gerontology: doi:10.1093/gerona/glz193 )。しかし、なぜ動脈硬化を防ぎ、長生きにつながるのか、代謝システムのリモデリングを誘導するという以外にメカニズムを創造することは簡単でない。

今日紹介するハーバード大学からの論文はマウスを用いて運動が血液幹細胞の増殖を調節することで慢性炎症を防いでいるという意外な結果を示した論文でNature Medicine 11月号に掲載された。タイトルは「Exercise reduces inflammatory cell production and cardiovascular inflammation via instruction of hematopoietic progenitor cells (運動は血液前駆細胞を調節することで炎症細胞の産生と心臓血管系の炎症を抑える)」だ。

この研究ではマウスの飼育環境にホリールランニングをおいて、自由に楽しんで運動を促している。すると、6週間後には食事の量は増えても体重は低下する。この条件で、炎症に関わる様々な条件を調べると、なんと血液幹細胞の数が低下し、その結果炎症に関わる白血球の数が低下することを発見する。

この原因を突き詰めていくと、脂肪細胞が運動で低下することで、脂肪細胞が分泌するレプチンが低下し、これが血液細胞の微小環境に働いて血液幹細胞を静止期に止めることを突き止める。また、レプチンは血液微小環境のケモカインCXCL12の発現を高めることでこの効果を発揮していることも確かめている。

運動、脂肪細胞減少、レプチン減少、微小環境でのCXCL12発現上昇は、血液幹細胞に一時的な変化だけではなく数週間続く変化を誘導するが、これは多くの遺伝子のプロモーターのクロマチン構造が閉鎖型に変化することによることを示している。

こうして生まれた白血球のリクルート率の低下の効果を調べるため、まず急性の敗血症を誘導する実験を行うと、白血球の動員が少ないおかげでマウスの生存が維持される。またレプチンのシグナルを遺伝的にブロックして血液の産生を低下させると、動脈硬化になりにくく、また心筋梗塞の程度が低くなることを示している。

最後に心筋梗塞経験者のコホート研究の参加者の好中球の数と、レプチン濃度を調べ、週に2−5時間の運動を続けている人の白血球数やレプチン濃度が、運動しない人より低いことを示して、マウスの結果が人にも当てはまることを示している。

以上が結果で、少なくとも私にとっては意外なメカニズムだった。私もできるだけ歩くように心がけてはいるが、もし運動の効果がレプチンを介しているとすると、運動しても内臓脂肪が落ちていない私では、この研究で示されたメカニズムは動いていないと思った方が良さそうだ。

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11月30日 GPR146は動脈硬化防止の標的になるか?(11月27日号 Cell掲載論文)

2019年11月30日

20世紀の終わり、ヒトゲノムが解読されつつある時、様々な病気と相関がある遺伝子多型のリストが急速に拡大した。このトレンドは、最近の公的バンクの整備により100万を超える対象を調べられるようになると、さらに加速している。ただ問題は、多型を分子機能と対応させるためには、動物実験も含めた丹念な実験が必要で、多型解析の成果を臨床に生かすまでの道は長い。

今日紹介するハーバード大学からの論文は高脂血症に相関づけられていたGタンパク質共役型受容体GPR146がコレステロールの分泌に関わることを突き止めた研究で11月27日のCellに掲載された。タイトルは「GPR146 Deficiency Protects against Hypercholesterolemia and Atherosclerosis(GPR146の欠損は高コレステロール血症と動脈硬化を防止する)」だ。

この研究は血中コレステロールの濃度と関連するrs11761941の下流に存在する遺伝子が薬剤の開発が可能なGタンパク質共役型の受容体GPR146であることに気づき、これが高脂血症治療の治療標的になるのではと着想する。

この可能性を確かめるため、まずGPR146が欠損したマウスを作成すると、HDL, IDL/LDL,及びVLDLと全てのコレステロールレベルが低下することがわかった。すなわち、コレステロールを下げるという意味では、新しい創薬ターゲットになる。

あとはメカニズムを詳しく調べているが、簡単に想像される経路はほとんどノックアウトで影響されず、解明に結構時間がかかったようだ。しかしともかく、細胞レベル、及び個体レベルで納得いく経路を特定している。それをまとめると次のようになる。

まずこの受容体が刺激されると、ERK1/2分子を介して細胞内のコレステロールを感知する転写因子SREBP2を活性化、SREBP2が核に移行してコレステロール代謝酵素などの転写を高め、最終的にVLDL分泌上昇、高コレステロール血症が起こるというシナリオだ。すなわち、コレステロールの代謝経路に関わる分子の転写調節の核と言えるSREBP2の活性をさらにチューニングするシステムであることを明らかにしている。

またLDL受容体が欠損したマウスで起こる動脈硬化を防止できることも示しており、この受容体が高脂血症治療の重要な標的になりうることを示唆している。

結果は以上で、多型解析の結果を創薬などと結びつける研究がようやく進み始めたことを実感させる研究だ。ただ、結局この下流にスタチンのターゲットであるHMGCRも存在しており、これを超える安全な化合物を開発できるかはまだまだ予想できないように思える。少し様子を見よう。

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11月29日 胆汁由来代謝物が免疫系を調節する(11月27日号Natureオンライン掲載論文)

2019年11月29日

免疫システムの調節に関わる腸内細菌の重要性は、無菌マウスに特定の細菌を丹念に移植して免疫を調べる研究からかなり明らかになっている。この細菌の中には、自ら発現する分子や構造で直接ホストの細胞に作用を及ぼすものもあるが、腸内で様々な代謝物を生成し、これを通してホストの免疫系に作用するものもある。なかでも、脂肪の消化を助ける胆汁酸はコレステロール由来の分子で、これが細菌により変化させられると、様々な生理作用が生まれることが知られている。

今日紹介するハーバード大学とニューヨーク大学からの論文は胆汁由来の化合物をスクリーニングして炎症に関わるTh17と免疫制御にかかわるTreg細胞の機能を調節する化合物を発見した研究で11月27日号のNatureオンライン版に掲載された。タイトルは、「Bile acid metabolites control T H 17 and T reg cell differentiation (胆汁酸の代謝物はTH17とTreg細胞分化を調節する)」だ。 

もともと共著者の一人でこの分野の第一人者Dan Littmanは2011年に強心剤として知られるジゴキシンがTh17の発生を調節するRORγ分子を阻害するという発見を報告していた。今回の研究はジゴキシンが胆汁酸と同じようにステロール核を持つ化合物であるということから、胆汁酸由来代謝物が腸内の免疫反応を変化させているのではと着想したことに始まる。

全部で30種類の胆汁酸由来代謝物をあつめ、CD4T細胞がTh17 及びTregへと分化する培養系に加える実験を行い、3-Oxo-lithocholic acid(LCA)とisoalloLCAがそれぞれ、Th17分化抑制、Treg細胞分化促進活性があることを発見する。この発見がこの研究のハイライトで、胆汁酸が代謝物を通して重要なT細胞サブセット分化を強く変化させられることを示した。

あとはメカニズムと、生体内での機能を調べるだけだが、まずOxoLCAはRORγ分子機能を直接阻害し、Th17分化を抑えることを示している。

一方isoalloLCAの作用メカニズムは簡単ではなく、Foxp3分子の転写を促進してTregを増やすが、作用はミトコンドリアの活性化酸素の合成を高め、これがFoxP3のエピジェネティックな調節を介してFoxP3の発現量を上昇させ、Treg分化を促進すると結論している。

最後に、これらの代謝物が実際に腸内の免疫機能を直接変化させられるかどうかをマウスに炎症を誘導する実験系で調べ、期待通り、

1)3-oxo-LCAはTh17の分化を抑制し、炎症を抑える。

2)3-oxo-LCAとisoalloLCAを同時投与するとTreg の量を高められること。

を示している。

以上が結果で、胆汁酸由来の代謝物のちょっとした変化で、免疫システムのバランスが変化してしまう可能性を示している。今後、これらの物質と腸内での免疫状態との相関が明らかになると、検査の指標や治療に役に立つ可能性が出てくると思う。特に重要なのは、この効果には、腸内細菌叢は必要ないことで、Th17、Tregという最も重要な細胞を直接操作する方法が開発できるのではと期待される。

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11月28日オメガ脂肪酸は前脂肪細胞の増殖を誘導する(11月27日号Cell掲載論文)

2019年11月28日

オメガ脂肪酸は発生期の神経発達に欠かせない脂肪酸で、さらに脂肪へのブドウ糖の吸収を高めてインシュリン感受性を上昇させる重要な物質で、ポピュラーなサプリメントの一つだ。しかし、これが脂肪細胞の数を増やすと言われると「え!」と驚いてしまうが、実際にはどうなんだろう。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、オメガ脂肪酸が繊毛に発現しているFFAR4受容体を刺激し白色脂肪細胞を増やすことを示した研究で11月27日号のCellに掲載されている。タイトルは「Omega-3 Fatty Acids Activate Ciliary FFAR4 to Control Adipogenesis (オメガ3脂肪酸は繊毛のFFAR4を活性化して脂肪生成を制御する)」だ。

この研究は最初からオメガ脂肪酸の作用を調べるというより、意外なことに脂肪細胞に分化する前脂肪細胞に繊毛を持っていることに気づいた著者らが、繊毛の機能を調べようと始めた研究のように思う。私たちも前脂肪細胞株を樹立し、長く付き合ったが、繊毛が生えているとは考えもしなかった。前脂肪細胞株を繊毛のみに発現する分子マーカーで染色すると、8割ほどの細胞に繊毛が認められ、増殖中、あるいは白色脂肪細胞へと分化が進むと繊毛は失われる。

では前脂肪細胞がなぜわざわざ繊毛を発現しているのか。この機能を確かめるため、前脂肪細胞で繊毛が形成できなくしたマウスを作成すると、体重の伸びが早い段階で頭打ちになり、調べるとほとんどが脂肪組織の量が減るためであることがわかった。すなわち、繊毛が前脂肪細胞の増殖と脂肪組織の形成に必須であることがわかる。とはいえ、脂肪代謝自体は大きく変化はないので、悪性の脂肪組織生成とは異なっている。

では繊毛にはどのような分子が発現しているのか?遺伝子発現と繊毛の有無を関連させて、FFAR4が繊毛特異的に発現しているGタンパク質共役型受容体であることを発見する。この受容体は、オメガ3脂肪酸で活性化されることがわかっているので、前脂肪細胞株をオメガ脂肪酸で刺激すると、期待通り前脂肪細胞の増殖が高まり脂肪生成が起こる。また、高脂肪食とオメガ脂肪酸を投与された若いマウスの体重は高脂肪食だけを与えた群と比べると30%以上増加する。このことから、繊毛のFFAR4を介してオメガ脂肪酸は前脂肪細胞の増殖を誘導し、これが高脂肪食に反応すると肥満を起こすことがわかった。

ただ、オメガ脂肪酸は直接脂肪の蓄積には関わらないようで、実際このシグナルではPPARなどの脂肪蓄積に関わる分子の発現はあまり上昇せず、実際には染色体の構造化に関わるCTCFの発現制御を通して、遺伝子をオープンにすることがオメガ脂肪酸の作用であることを示している。

以上が結果だが、ではオメガ脂肪酸を摂取すると太るのか?答えはYes/No(ドイツ語ではJainという)で、前脂肪組織の増殖を促すという点では太る可能性をあげるが、脂肪蓄積のスイッチを入れるのは高脂肪食など別の経路で、オメガ脂肪酸自体はインシュリン抵抗性も軽減するので、やっぱり健康には大事という結論になる。ご安心を。

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11月27日 ピロトーシスと神経変性(11月20日Natureオンライン版掲載論文)

2019年11月27日

11月23日にカスパーゼ8がピロトーシスのスイッチとして働いていることを示す論文を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/11765)、ピロトーシスに最も熱い視線が注がれているのが、アルツハイマー病などの神経変性性疾患だろう。すなわち、アミロイドもTauも凝集するとミクログリアのピロトーシスを誘導し、この結果さらに神経細胞死が誘導される悪循環が始まるという可能性が2015年ぐらいから報告されるようになってきた。事実、マウスモデルでピロトーシスの核になるシグナル系であるNLRP3やカスパーゼ1をノックアウトすると神経変性が抑制される。

今日紹介するドイツ、ボン大学からの論文は、この機構をもう少し詳しく調べた研究で11月20日発行のNature オンライン版に掲載された。タイトルは「NLRP3 inflammasome activation drives tau pathology (NLRP3を核とするinflammasomeの活性化がtauによる神経変性を駆動する)」だ。

βアミロイドの蓄積から始まるアルツハイマー病でも、アミロイドの影響が神経細胞内のTauタンパク質のリン酸化に及ぶと神経変性が起こるという2段階で進むと考える人は多い。すなわち神経変性にはTauの病理、Taunopathyが必要であるとする考え方だ。

この研究ではTauのリン酸化が起こる過程に、ミクログリアのピロトーシスが普遍的に関わることを示そうとしている。まずアミロイド沈着のないtaunopathyから始まる前頭側頭型認知症の患者さんの脳を調べ、NLRP3を介するピロトーシス型炎症が起こっていることを確認し、あとはTauの変異を導入したマウスを用いて、Taunopathyの進行とミクログリアでのNLRP3を介するピロトーシスが一致することを示している。また、NLRP3やASC分子欠損マウスとかけ合わせるとTauのリン酸化が抑えられ、神経変性が抑えられることを示している。すなわち、これまで考えられていたように、Tauが神経内で沈殿するとそれが吐き出されてミクログリアに取り込まれ、ピロトーシスが起こり、それによる炎症でTauリン酸化が起こって神経細胞が死ぬというシナリオを確認している。

これらのマウスでの結果をさらに確認するため、試験管内で活性化されたミクログリアの分泌液を神経細胞に加えるとTauとCaMKIIのレベルが上がると同時に、tauのリン酸化が上昇していることを確認する。また、変異型tauを発現している脳の抽出液や、βアミロイド繊維でミクログリアのピロトーシスを誘導できることも示している。

以上の結果から、アミロイドの存在にかかわらず、taunopathyが起こる場合は、必ずミクログリアのピロトーシスが関わっており、これが治療の標的になるというのが結論になる。さて、どこまで臨床にトランスレートできるのか、期待したい。

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11月26日 Y染色体が体の細胞から失われていく理由(11月28日号 Nature掲載論文)

2019年11月26日

私たちのゲノムは全細胞の平均値で見ると生まれた時から変わることはないが、一個一個の細胞を取り出すと多くの変異が蓄積している。これがあるレベルを超えるとガンとなって現れるが、ここまでの道のりは遠いので心配することはない。しかし、ガンでなくても変異によって周りの細胞よりちょっと生存や分裂が高くなることがある。この老化に伴う細胞の競争については東京医科歯科大学の西村栄美さんたちの論文で可視化してくれているが(Nature 568:344)、同じような細胞の競争の例として古くから研究されているのが体細胞のY染色体欠損だ。ほとんどの場合血液で調べられており、血液細胞の中でY染色体が欠損する率が老化とともに上昇していく現象だ。この原因については、Y染色体がない方が細胞が増殖しやすいため徐々に増えるという考えと、細胞が増殖しやすい変異の蓄積がY染色体の欠損につながるという考えに分かれていた。言い換えるとY染色体欠損が原因か結果かという問題だ。

今日紹介するケンブリッジ大学を中心とした国際チームの論文はUKバイオバンクの20万人規模の男性についてY染色体喪失とそれに関連する遺伝子多型を調べた論文で11月18日号のNatureに掲載された。タイトルは「Genetic predisposition to mosaic Y chromosome loss in blood (血液中のY染色体欠損モザイクの遺伝的素因)」だ。

まずこの論文を読むと、改めて50万人のバイオデータが集まっているUKバイオバンクのすごさがわかる。また、我が国の10万人規模のバイオバンクも利用されているので、少しほっとする。

さて、これまでY染色体欠損というと染色体検査で染色体の数を数えることが中心になっていたが、この研究では多型解析に用いるアレーを用いて、SNPポジションの増減を精密に調べることでY染色体の欠損を判断している。この方法で見ると、Y染色体欠損が見られる確率は45歳ぐらいから上昇を始め、70歳で40%近くに達しており、老化のマーカーであることがよくわかる。

SNPアレーを用いると、同じサンプルの人の他の遺伝子多型も同時に測定でき、これを利用するとY染色体欠損が起こりやすい背景になる遺伝子多型が特定できる。その結果なんと156種類の遺伝子多型がY染色体欠損と相関することが明らかになった。この多型の多くは、細胞分裂に直接関わる様々な分子が多く含まれており、Y染色体の欠損は、様々な遺伝子変異の結果起こりやすくなっていることが考えられる。

ではこれらの多型は細胞の増殖と関わり、Y染色体欠損細胞がより増殖しやすい状況を作っているのか調べる目的で、Y 染色体欠損に関わる多型とガンとの関連を調べると、前立腺癌、精巣がん、脳のグリオーマ、腎臓がんなどにこれらの多型が関わることが明らかになり、Y染色体欠損につながる多型が明らかに細胞の増殖に関わっていることを示している。

またY染色体自体ではなく、これに相関する多型が女性の閉経後の健康状態にも関わることを示している。

そして最後に、Y染色体欠損を含む血液のsingle cellトランスクリプトーム解析を行い、B細胞で白血病に関わる遺伝子TCL1Aの発現が高い細胞ではY染色体が高率に欠損していることを明らかにした。

以上の結果は、Y染色体欠損はおそらく、私たちの遺伝子に積み重なった様々な変異の結果起こり、その細胞が他の細胞より少し良く増殖するという状態を反映すると考えられる。データサイエンスの重要性を示す面白い論文だと思う。

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11月25日 音楽の普遍性と多様性(11月22日号Science掲載論文)

2019年11月25日

最近バロックオペラが演奏される機会が増え、しかもかなり現代的な演出で聴衆と舞台の一体感が感じられるように努力がはらわれているのがよくわかるのだが、なかなか成功していない。ところが、最近パリで見たバロックの作曲家ラモーのオペラIndes Galantesでは、アフリカ系のラップダンサーに自由に踊らせることで、ヨーロッパのバロック音楽でラップダンスが踊れることを示し(https://www.youtube.com/watch?v=TfQJZ76WR0U)音楽の普遍性を強調するだけでなく、客席との一体感を演出するのに成功していた。

このように私たちは、音楽が多様であることを知っているが、一方で必ず普遍性が存在し、民族を超えて理解できると信じている。この問題を研究するための「歌」を集めたデータベースについて音楽の都ウイーン大学のグループが11月22日のScienceに掲載している。タイトルはズバリ「Universality and diversity in human song(人間の歌の普遍性と多様性)」だ。

この研究はデータベースを作ったということが最も重要で、データの解析については今後さらに深めることが必要だと思う。さて、データベースだが2つの柱からできている。歌のデータベースというとどうしても録音をデジタル化して、簡単な説明をつけるという形式で行われてしまうが、この研究では記述型のデータベースを重要視しており、世界60地域に存在する315の小さな伝統が生きているコミュニティーから、4079種類の歌を集め、それを民俗学的に解析して記述したデータベースを作っている。これにより、解釈のバイアスはあるとはいえ、歌の内容や歌われる背景を容易に検索できるようにしている。

このデータを、宗教性、興奮性、儀式性の程度でプロットすると、例えば愛の歌と、ダンスの歌、子守唄、さらにはヒーリングの歌と、見事に分離する。すなわち、民族を超えて同じ特徴を持つことがわかる。このグループだけでなく、これまでの研究でも音楽を持たない民族は見つかっていないことから、音楽は人間に普遍的な活動であると結論できる。

この記述的データベースをバックアップするため、これらの歌をレコーディングしてデジタル化するとともに、楽譜にも書き写したデータベースを作成している。また、音や楽譜とともに、その地域の人にその歌を聴いた時の様々な感情を、そして音楽の専門家による音やリズムの解析も加えて、検索がしやすいようにできている。

この音源を用いると、歌の内容を他の文化の人が理解できるかを調べることで音楽の普遍性をはかることができる。この結果、文化が異なっていても、また伝統音楽を聴き慣れているかどうかにかかわらず、歌の背景をある程度推察することが可能で、歌の意味がわからなくても音楽には普遍的な構造があることがわかる。

また歌を専門家に聞かせてその調性の中心音の複雑さなどを歌の構造解析も行わせている。専門家による分析でほぼ同じ構造が示されることから、音楽の構造上も普遍性があることがわかるとしている。

また同じカテゴリーの歌の多様性はリズムの複雑さと、メロディーの複雑さでプロットすると、カテゴリーによるクラスターは存在せず、どのカテゴリーでも、その構造を保ったまま、単純から複雑まで、リズムとメロディーで多様性が生まれることを示している。すなわち、カテゴリーは音の調性や強さ、音素の数など構造的に決まるが、その範囲で多様な表現がリズムとメロディーで可能なことを示している。

またこのリズムやメロディーの複雑性が高いほど、そんな歌が歌われることはなくなっていることから、なぜ複雑化していくのかは重要な今後の問題になる子をと示している。

このように解析は始まったばかりで、面白いデータベースが作成され、公開されたということが重要だ。しかも、デジタル化され機械学習などコンピュータによる解析が可能になっていることが重要だと思う。音楽の都ウイーンから世界への贈り物が届いたとまとめておく。

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