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3月19日 肺ガン組織のミトコンドリアマップ(3月15日 Nature オンライン掲載論文)

2023年3月19日
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ミトコンドリアは、細胞の代謝の要求性に応じて活性や形態を変化させることがわかっており、その分子基盤の理解は急速に進んでおり、ミトコンドリアを知ることがガン治療を考えるときの最も重要なファクターの一つになっている。

今日紹介するカリフォルニア大学ロサンゼルス校からの論文は、肺ガンをモデルにミトコンドリアの活性をガン組織内のミトコンドリアマップとして表現しようとした研究で、3月15日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Spatial mapping of mitochondrial networks and bioenergetics in lung cancer(肺ガンでのミトコンドリアのネットワークとエネルギー代謝の空間的マッピング)」だ。

非小細胞性肺ガンは組織学的に大きく腺ガンと扁平上皮ガンに分けられるが、このグループはこの違いをミトコンドリアの活性から分類できるか調べて、細胞レベルで腺ガンはミトコンドリアの参加的リン酸化反応が高く、逆に扁平上皮ガンでは低いこと、一方でブドウ糖の取り込みと分解活性は逆の関係にあることを明らかにしていた。

この研究ではまず、この違いを指標に、生体内でガンの鑑別が可能か調べている。このために、酸化的リン酸化の指標になるミトコンドリア膜の電位を調べるPET試薬、およびブドウ糖の取り込みを調べるPET試薬を用いて、肺ガンを移植したマウスのPET検査を行うと、見事に腺ガンは酸化的リン酸化が高く、ブドウ糖の取り込みが低く、扁平上皮ガンは逆であることが明らかになった。すなわち、生体内の組織レベルでミトコンドリアの活性が違っていることが確認された。

こうしてPET検査を行なった腫瘍を取り出し、今度はミクロレベルのCTで腫瘍内の細胞レベルの構造の断層写真を撮影、それぞれの断層に対応する組織切片を作成し、今度は電子顕微鏡で細胞内のミトコンドリアの位置や形態、さらには他のオルガネらとの関係を明らかにし、最終的にガン組織全体のミトコンドリアマップを作っている。言ってみれば都市全体のエネルギーステーションマップを作っている。

このマップを酸化的リン酸化が高い腺ガンと、低い扁平上皮ガンで比較すると、いくつかの面白い特徴が見えてくる。

  • まず、ミトコンドリア自体の形態に大きな違いが見られる。腺ガンでは融合型で長いミトコンドリアが中心だが、酸化的リン酸化活性が低い扁平上皮癌では分裂した小さなミトコンドリアが中心になっている。
  • 腺ガンではミトコンドリアが細胞全体に分布しているが、扁平上皮ガンでは核の周辺に分布している。
  • 腺ガンではミトコンドリア 内の突起、システルナの数が多く、形態的にも正常だが、扁平上皮ガンではシステルナの数は少なく、形態的にも異常が認められる。
  • ミトコンドリアの酸化的リン酸化活性が上がると、脂肪代謝も上昇するが、これを反映して腺ガンミトコンドリアに接して多くの脂肪液滴が認められるが、扁平上皮ガンではこのような構造は存在しない。
  • 扁平上皮ガンで見られる核周囲のミトコンドリア分布はブドウ糖の取り込みを抑制すると解除され、細胞全体に分布する。すなわち、ミトコンドリアの分布はブドウ糖代謝に合わせて調節されている。

以上が結果で、皮肉な見方をすると、全組織のマップまで作る必要はないのではと思ってしまうが、しかし今回作成されたマップのおかげで、今後見えてくることもあるのではと期待される。しかし、腺ガンと扁平上皮ガンでこれほど大きな差があることに驚くとともに、今更ながら形態の重要さを実感した。

  1. okazaki yoshihisa より:

    細胞レベルで腺ガンはミトコンドリアの酸化的リン酸化反応が高く、逆に扁平上皮癌は低いこと、一方でブドウ糖の取り込みと分解活性は逆の関係にある。
    imp.
    生検なしで、機能画像だけから組織診断が可能になるかも?

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