メバルは100歳まで生きると何かで読んで驚いたことがある。以前紹介したキルフィッシュのように(https://aasj.jp/news/watch/4519)、寿命が5ヶ月ぐらいの短命の魚は観察するだけで寿命を特定しやすいが、長寿の魚となると、いくら耳石や鱗で年齢が推定できるとしても、サンプリングを繰り返して統計学的に調べる必要があり、地道な努力の積み重ねでわかってきたことだと思う。
今日紹介するカリフォルニア大学バークレー校からの論文は、この長寿で有名なメバルの仲間、88種類のゲノムを解読し、長寿の秘密を探った研究で11月12日号のScienceに掲載された。タイトルは「Origins and evolution of extreme life span in Pacific Ocean rockfishes(太平洋のメバル属の驚くべき長寿の起源と進化)」だ。
100歳のメバルにも驚いていたが、この論文を読んで我が国でアラメヌケと呼ばれている魚に近いS.Aleutianusではなんと200歳を超える長寿を誇る。この研究では、メバル科88種類のゲノムを解読しているが、各種で寿命は大きく異なり11年から200年まで、驚くほど多様だ。しかし解読されたゲノムのおかげではっきりとした系統関係が描ける。面白いことに、系統関係と寿命はある程度相関しているが、一方向への進化ではなく、それぞれの属の中でも多様性はある。また、系統的に長寿の多い属と離れていても、独自に長寿を獲得している種も存在する。
そこで、寿命が100年以上の種と、20年以下の種を分けてゲノムを比べ、長寿とともに選択されてきた遺伝子をリストすると、長寿とともに選択された遺伝子だけでなんと800種類近く存在し、また選択された、遺伝子は種ごとに異なっている。実際、2種類以上の種でリストされる遺伝子はたかだか15%にとどまっている。すなわち、特定の遺伝子で長寿が達成されるのではなく、それぞれの種で独自に長寿をもたらす遺伝子の進化が起こっていることがわかる。
ではどのような遺伝子が選択されているのか調べると、多くの長寿種で必ず選択される最も効果がありそうなのはDNA2重鎖切断修復に関わる遺伝子群だ。また、これ以外の長寿により選択される遺伝子には、期待通りテロメア、除去修復などに関わる遺伝子がリストされている。これらは長寿との関わりが指摘されており、北極鯨やゾウガメで特定されている遺伝子も含まれている。
もちろん他にも、代謝や炎症に関わる遺伝子もある。そこで、これら長寿遺伝子としてリストされた遺伝子を、体のサイズや、生息深度など、他の進化と関わる遺伝子との関連を調べると、ほとんどはこれらの形質とも相関していることから、生息環境に適応し様々な形質を獲得する中で長寿が達成されていくことがわかる。とはいえ、インシュリンシグナルのように、長寿特異的に残っている遺伝子も10種類ほど特定できている。
こうした中で、寿命とともに遺伝子コピー数が増大する遺伝子も特定されている。免疫チェックポイントに関わるB7と同じファミリーに属するbutyrophilinで、遺伝子コピー数と寿命が見事に相関している。
遺伝子の多様性から計算される個体数や世代時間についても調べ、長寿とともに個体数は大きく低下し、世代時間も延びることを示している。すなわち、長寿のメバルを乱獲してしまうと、取り返しのつかないことになることがわかる。
結果は以上で、ざくっといってしまうと、遺伝子レベルで見ても、長寿は一つの要因で達成できるのではなく、様々な要因が集まった結果としてあることがわかる。今回示された、DNA修復、テロメア、butyrophilinなどの炎症、mTorなどの代謝、低酸素反応などの寿命との関わりは何度も指摘されてきた。しかし、同じファミリーの魚の多様性を利用して比べた結果を見たのは初めてで、機能の確認が全くなくても十分説得力が高い、面白い論文だった。私たちも、長寿遺伝子のデパート:メバルから学ぶことは多い。
1:特定の遺伝子で長寿が達成されるのではなく、それぞれの種で独自に長寿をもたらす遺伝子の進化が起こっている。
2:長寿とともに個体数は大きく低下し、世代時間も延びることを示している。
Imp:
自然による“長寿達成”の仕組み。
人類が切望する“人工の長寿”は、この摂理を破って達成できるのか?
達成できたとき、ホモサピエンス種への想定外の“副作用”はないのか?