11月13日 結核病巣が肺にとどまる理由:感染症の面白さ(11月9日 Cell  オンライン掲載論文)
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11月13日 結核病巣が肺にとどまる理由:感染症の面白さ(11月9日 Cell オンライン掲載論文)

2022年11月13日

医学部卒業後、臨床医として働いていた7年間は、外来で結核患者さんを見ることは普通だった。ただ、重症のケースはほとんどなく、7年間で一人だけ胸水貯留を示した患者さんが外来に来たことはあったが、残りの患者さん達の病巣は肺に限局されていた。

元々結核菌は気道感染し、また感染後マクロファージ内にとどまるので、肉芽形成によりマクロファージが限局することが、肺に病巣が限局する理由だと考えてきた。

今日紹介するデューク大学からの論文は、結核菌によるマクロファージ遊走能の調節が、病巣の広がりを決めること、そしてそのメカニズムを明らかにした論文で、感染症研究が私たちに面白いドラマを見せてくれることを示す研究だ。タイトルは「An ancestral mycobacterial effector promotes dissemination of infection(先祖方抗酸菌が持つ分子が感染の伝搬を決める)」で、11月9日 Cell にオンライン掲載された。

このドラマは、最初、一人のベトナム人から拡がった結核患者さんのほとんどが、通常の結核と違い、肺以外の臓器に拡がっているという発見から始まっている。

おそらくこれは結核菌の違いによるのではと考え、分離した結核菌のゲノム解析を行うと、現代主流になっている L2-L4 とは別の、L1 と呼ばれる系統に属していることを特定する。この株は、他の抗酸菌との関係から、「先祖型」と呼ばれる系統に属している。

そこで、ゲノム解析データから、先祖型と現代型を分ける違いを探すと、結核菌から分泌され病原性に関わるESAT-6の類縁遺伝子esxMが先祖型では完全長が分泌されるのに対し、現代型ではストップコドン変異により短い形に変化していることを明らかにする。

幸い、ゼブラフィッシュに感染するM.marinumもこの完全超分子を持っており、ゼブラフィッシュに感染すると、感染したマクロファージの遊走速度が高まり、身体全体に拡がること、そしてこの現象がesxMを欠損した菌では見られないことを確認する。すなわち、結核菌から分泌されるesxMがマクロファージを活性化し、体中に結核菌を運ぶことが、病巣の広がりに関わることを示している。

そこで、esxMのみをマクロファージに発現させる実験を行い、最終的にアクチンの調節因子Arpc2の機能を高めることで、遊走能を高めていることを明らかにする。

また、結核菌のゲノムと感染力を調べた疫学研究を再検討し、esxMを持つタイプのL1結核菌感染者では、骨髄炎の発症率が高いことを示している。

以上、珍しい症例から、結核菌が体内に広がるメカニズムまで、面白いドキュメンタリーを見ることが出来た。残念ながら、esxMによる遊走能の違いがホスト免疫能にどう影響するかについての検討はないが、もし遊走能が高いと免疫が上がるとすると、ワクチンのアジュバントとして利用できる可能性があるし、そもそもアジュバントとして有名なBCGは祖先型に近いはずなので、ドラマの第二幕につながる可能性がある。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月12日 ガンのゲノム・遺伝子発現・組織学を統合する(11月9日 Nature オンライン掲載論文)

2022年11月12日

現在のガン研究の一つの焦点は、ガン組織の中で発生する多様性と、その転移や浸潤といった生物学的意義を特定し、ガンの治療抵抗性を防ぐ手段を開発することだと思う。私たちが現役の頃は、この重要性はよくわかっていても、それを調べる手段が限られており、ガンの中の多様性を見つけることすら困難だった。

しかし、DNAシークエンスパワーが上がり、同じサンプルを高いカバレージでシークエンスすることで、変異のリストを作成することが容易になり、また single cell RNA sequencingの登場で、変異とその転写に対する影響が詳しくわかるようになってきた。後は、組織というガンの究極情報とそれらを統合することになるが、ここでも多くの技術革新が進み、やる気と資金があれば誰もがこの課題にチャレンジできるようになっている。

今日紹介するウェルカムトラスト・サンガー研究所、ストックホルム大学、そしてドイツ ガン研究所からの論文は、3年前「組織学のバーコード革命」としてYoutubeで解説した(https://www.youtube.com/watch?v=k4YMvL46ksQ)、新しい in situ hybridization法を用いて、ガンの変異や遺伝子発現の変化を組織上にマッピングした研究で、11月9日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Spatial genomics maps the structure, nature and evolution of cancer clones(ガンの構造、性質、そして進化についての空間的ゲノムマップ)」だ。

この研究では乳ガン組織の凍結連続切片を作成し、一部を全ゲノム配列解析に回し、組織中に存在する突然変異を特定している。この特定した変異について、変異をカバーするプライマー、正常をカバーするプライマーを用いて組織上で増幅、そのプライマーのバーコードを利用して、組織上に様々な遺伝子について、変異細胞のマップを形成している(詳しくは上で紹介したYoutubeを見て欲しい)。

そして、残った組織切片を組織学や、やはりバーコードを用いた多数の遺伝子発現を同時解析する方法を組みあわせて、変異マップに重ねることで、形態や遺伝子発現の変化を組織上で統合している。

勿論厳密に言えば、同じ細胞を追いかけているわけではないが、連続切片は病理検査で普通に行われており、十分統合的データが得られているのではないだろうか。いずれにせよ、方法自体はずいぶん前に開発されていても、それを使いこなしてデータをとるためには何年も時間がかかるのがわかる。

では統合されて何がわかったのか?率直に言うと、示された結果は既に指摘されてきたことだが、それが実際にデータとして示されたことが重要だと思う。

例えば、乳ガンの場合、上皮様構造を持つガン組織と浸潤性のガン組織に加えて、良性の増殖像など様々な組織像が組み合わさっている。それぞれ、遺伝子発現に差が認められるが、浸潤性の細胞に認められるPTEN遺伝子変異をたどって見ると、既に上皮様構造組織で見られており、細胞形態と必ずしも一致するわけではない。

また、Ki67など増殖マーカーの発現やクローン解析と統合すると、ガンの進化を追いかけることが出来る。すなわち、増殖性が獲得されたあとでも、上皮様ガン組織には様々なクローンが混在することがわかる。そして、その中の一部が特定のクローンに占拠される様子が、一つの組織の上で視覚化される。

最後にリンパ節転移についてみると、クローンによりリンパ節内での形態が大きく異なり、さらに周りの細胞を見ると、リンパ球に取り囲まれるクローンと、白血球により取り囲まれるクローンに分かれることが示されている。

以上、ガンは極めて多様で、周りの組織と相互作用して、形態的にも遺伝子発現でも、ゲノム変異を超えた多様性を示すというのが結論になる。

おそらくこれは手始めで、例えば前立腺ガンのように、急激な悪性転換が起こるようなガンを調べることで、これまで予想しなかった話も生まれるような気がする。

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11月11日 ポンペ病に対する胎児期の酵素置換療法成功例(11月9日 The New England Journal of Medicine オンライン掲載論文)

2022年11月11日

蛋白質に加えられたマンノース6リン酸修飾を利用して体外から投与した酵素をリソゾームに送り込み、リソゾーム病と呼ばれる様々な酵素欠損の酵素置換療法が開発され、既に30年が経過している。この治療が成功するためには、できるだけ早く遺伝子スクリーニングで患者さんを見つけ出し、不可逆的変化が軽度のうちに治療を始める必要がある。親が保因者であることがわかっている場合は良いが、そうでない場合は、診断確定が最も高いハードルかも知れない。

ただ、病気によっては保因者であることがわかっていて、生後まもなく診断が可能でも手遅れの病気が存在する。その一つが乳児型のポンペ病で、αグルコシダーゼ(GAA)活性が完全欠損するため、グリコーゲンが筋肉に蓄積するため、生まれたときから拡張性心肥大を持っており、生後まもなく治療を始めても、生後2年以内に死亡する確率が高い。

このような胎児期に発生するリソゾーム病の酵素置換療法を、胎児発生の早くから行う方法がマウスで開発されていたが、この治療を乳児型ポンペ病に対して行ったのが、今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文だ。タイトルは「In Utero Enzyme-Replacement Therapy for Infantile-Onset Pompe’s Disease(幼児期発症ポンペ病の子宮内酵素置換療法)」で、11月9日 The New England Journal of Medicine にオンライン掲載された。

今回胎児酵素置換療法の対象になった子供は、7番目の子供で、それ以前に生まれた兄弟姉妹のうち3人が幼児型ポンペ病で死亡しており、また1人は流産している。このため、ポンペ病の可能性を絨毛採取と呼ばれる出生前診断法を用いて、遺伝子診断を行い、グルコシダーゼ分子が全く作られないポンペ病と診断している。

診断後、妊娠24週目から臍帯静脈に2週ごとに酵素製剤が投与され、出生後も2週間隔で投与を続けている。この患者さんでは、グルコシダーゼが全く作られないので、抗体により投与酵素の吸収が阻害される可能性があるため、免疫抑制療法と、それを補う意味で免疫グロブリン注入も合わせて行っている。

この患者さんについては、これまで同じ病気で死亡した兄弟姉妹のデータがあるので、それと比べることで効果を判定している。

結果だが、なんと言っても24週からの投与で、拡張性心肥大が全く抑えられている。また、胎盤の組織を調べるとグリコーゲンの蓄積像が全く見られない。

また、生後の成長も順調で、筋力低下はほとんどでみられず、患者さんは11.5ヶ月目に自立歩行することに成功している。

以上、基本的には今後も置換治療を続ける必要があり、また免疫抑制も続ける必要があるが、治療が成功したと結論している。

今後の課題だが、おそらく免疫抑制治療と酵素置換治療を生涯続ける必要がある点だろう。胎児治療により酵素に対する免疫トレランスが誘導できる可能性が期待されているが、残念ながら酵素に対する抗体が低いとはいえ生産されている。従って、今後は胎児治療時に免疫トレランスを誘導するとともに、酵素の体内での合成分泌が起こるような細胞治療や、遺伝子治療を組みあわせ、完全に静脈注射から解放された治療法を目指すことになるだろう。いずれにせよ、完治のための方策が明確になったことが大きい。

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11月10日 Tau蛋白質の神経間播種を助ける分子を探る(11月7日 Nature Neuroscience 掲載論文)

2022年11月10日

リン酸化され凝集した Tau蛋白質が、あたかもプリオンのようにシナプス結合を介して神経から神経へと伝搬することを知ったときには驚いた。Tau が PET で見られるようになりわかってきたアルツハイマー病(AD)の進行経過もこれを裏付けている。

今日紹介するインディアナ大学からの論文は、Tauと結合して安定化させ伝搬を助ける役割を持つ蛋白質Bassoonを特定した研究で、11月7日 Nature Neuroscience にオンライン掲載された。タイトルは「Bassoon contributes to tau-seed propagation and neurotoxicity(BassoonはTauの播種と神経毒性に関わる)」だ。

Tau の生化学の論文はあまり読んでいないので、この論文の位置については評価できないが、研究では変異型Tau を導入したマウス神経を用いて Tau と結合している分子の特定を行っている。

方法は一種の力仕事で、プロ凝集型Tau が集まると FRET と呼ばれるエネルギー伝達システムが働いて光を発するアッセイ系に、神経抽出物を大きさで分画し、それぞれの分画をこの系でトランスフェクションし、光を発する分画を、播種型Tau として特定する方法で、Tau と結合する分子コンプレックスのサイズをまず決定している。

かなり大きな分子分画が得られ、その中には様々なシナプス小胞輸送に関わる分子が特定されてきたが、この研究ではこれまでも Tau との関わりが指摘されていた Bassoon(BSN) に注目して、これが Tau播種に関わるかを様々な系で調べている。結果だが、

  1. AD患者さんの神経細胞でも、同じ分画が播種能を持っており、また BSN は変異型Tau と細胞内で結合している。
  2. ショウジョウバエの視神経を用いる方法で、BSN が過剰発現し、変異型Tau を持つハエでは、視神経の変性が起こる。
  3. アデノウイルスを用いた遺伝子ノックダウンを新生児脳でおこない、成長後変異型Tau を導入する方法で調べると、Tau の播種が BSN発現を抑えることで強く抑制できる。
  4. BSN は変異型Tau の安定性を保ち、蛋白分解酵素から守ることで、その播種を助ける。
  5. BSN をノックダウンしたマウスでは、認知機能が改善し、また海馬の神経興奮機能の低下を抑えることが出来る。

以上が結果で、Tau の播種と言っても、その背景には様々な分子が関わっていることがよくわかった。おそらくノックアウト実験を行えば他の分子も播種に関わっている可能性が出てくるだろう。このプロセスが明らかになると、AD の全く新しい治療法につながるかも知れない。

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11月9日 自閉症スペクトラム脳遺伝子発現の変化(11月2日 Nature オンライン掲載論文)

2022年11月9日

これまで「自閉症の科学」では、自閉症スペクトラム(ASD)に関わる様々な遺伝子変異、遺伝するコモンバリアントとASD独自に発生するレアバリアントの役割、などを詳しく紹介してきた。ところが、振り返ってみると、遺伝子発現に関する研究を紹介したことがない。遺伝子変異の差は、発現した遺伝子機能の差として現れること、そして多くのコモンバリアントが遺伝子発現に関わるバリアントであることを考えると、全く片手落ちの自閉症ゲノムの紹介をしてきたことになる。

そこでまずこれまでのASD脳の遺伝子発現についてざくっとまとめておくと、シナプス機能など神経細胞自体の機能に関わる遺伝子の発現は低下し、グリア細胞が発現する炎症やストレス応答遺伝子が上昇することがわかっていた。

今日紹介するカリフォルニア大学ロサンゼルス校からの論文は、49人のASDと54人の典型人の死後脳の各部分を採取、遺伝子発現を部分ごとに比べることで、より精度の高いASD遺伝子発現の変化を調べた研究で、11月2日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Broad transcriptomic dysregulation occurs across the cerebral cortex in ASD(ASDの大脳皮質全体にわたって、広範な遺伝子転写の異常が見られる)」だ。

大脳11カ所から大脳皮質をサンプリングし、その遺伝子発現を調べた研究で、基本的には得られたデータを、部分ごと、ASDと典型人で比べていくデータサイエンスになる。従って、何か特定の遺伝子の変化に注目しているわけではない。その結果、

  1. ほとんどの大脳領域で、典型人とASDでの遺伝子発現の変化を認めることが出来る。また、典型人で大脳各部の遺伝子発現も、領域ごとに違いが見られる。
  2. 領域ごとにASDと典型人の違いの大きさを調べていくと、前方から後方に差が大きくなり、最も大きな差が見られるのは後頭部の視覚領域。
  3. この変化の性質を探ると、典型児で見られている脳各領域の遺伝子発現の差が、ASDでは消失して、領域間の差がなくなることがわかる。
  4. この差の元になる遺伝子を、発現調節から50程度のもヂュールに分けると、発現の差が大きい遺伝子の多くは、これまでコモンバリアントやレアバリアントとして指摘された遺伝子を含んでいる。
  5. これまでASDでは指摘されてこなかった、シャペロンなど細胞ストレスに関わる遺伝子を含むモデュールの発現が高まっており、細胞のストレスが認められる。
  6. 視覚領域の遺伝子発現の変化から、第3/4層の興奮神経に強く変化が出ていることがわかる。
  7. ただ、single cell RNA sequencingで調べると、第3/4層の神経細胞数は低下していても、大きな変化ではなく、基本的には細胞ごとの遺伝子発現の変化が、ASDと相関することがわかる。

まとめると以上になる。勿論、これを発生時の遺伝子ネットワーク形成や、神経機能と対応させることは今後の課題になる。ただ、思っている以上に、遺伝子発現レベルで変化が見られ、しかも領域間の差が解消される方向に変化が起こっていることは、ASD理解にとって重要な結果だと思う。

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11月8日 形質細胞の分化と維持の動態から将来のワクチンを探る(10月28日 Nature Immunology オンライン掲載論文)

2022年11月8日

ワクチンにより誘導される免疫反応研究は、様々な制限からどうしても末梢血についてモニターされているが、抗体産生細胞は極めてダイナミックな挙動を示す。まず、抗原が入ってくると所属リンパ節の樹状細胞に抗原が取り込まれ、胚中心が形成される。この胚中心では、抗原がとどまる限りB細胞が刺激され続け、クラススイッチや突然変異が蓄積したB細胞が作り続けられる。これが、一定期間抗体産生が続く理由になる。この時、次の刺激に反応する記憶細胞も作られ、抗原刺激が止まると静止期に入って刺激を待つ。このおかげで、2回目以降の刺激に対する反応は早い。そして、これに加えて胚中心から出た抗体産生細胞は、抗体を作ることに特化した形質細胞へと最終分化を遂げると、骨髄で抗原刺激にかかわらず抗体を作り続ける。従って、この成分を維持できると、血中抗体価を刺激にかかわらず維持することが出来る。

今日紹介するオーストラリア・モナーシュ大学からの論文は胚中心から骨髄の形質細胞のリクルート動態を調べた研究で、データはシンプルだがなかなか面白い研究だ。タイトルは「Long-lived plasma cells accumulate in the bone marrow at a constant rate from early in an immune response(長い寿命の骨髄形質細胞は免疫反応の最初から定常的な割合で蓄積する)」で、10月28日 Nature Immunology にオンライン掲載された。

形質は細胞表面に抗原受容体を発現していないため、抗原特異性は細胞を固定して細胞質の抗体を調べる必要があり、解析が困難だ。この研究では、私のドイツ留学時代利用していた、NPハプテンを抗原とした免疫反応を用いることで、B細胞の分化に応じた様々な変異を容易にモニターできるようにした系をそのまま使って、突然変異の解析などを容易にしている。しかし、40年前のシステムがそのまま使われているのを見ると懐かしい。

骨髄中の形質細胞は1年以上の寿命があることが知られており、形質細胞の動態を調べるとき最も重要なのが、新しくリクルートされる細胞による置き換わり速度になる。この研究では、形質細胞特異的に細胞をラベルした後、タモキシフェン注射により分化したばかりの形質細胞をラベルする方法を組みあわせて、抗原刺激後いつ胚中心からリクルートされたのかをモニターできるようにしている。

この方法を用いることで、抗原刺激後初期から抗原特異的形質細胞が骨髄にリクルートされはじめ、その数は増え続け、2ヶ月ぐらいでプラトーに達することがわかった。

様々なモデルを立ててこの動態に関わる要因を分析すると、胚中心からコンスタントに形質細胞がリクルートされ、骨髄で生存できるニッチを奪い合うことで、それ以前に存在していた形質細胞を置き換えていくことがわかった。

また、胚中心で蓄積する抗体遺伝子の突然変異を調べると、抗原刺激後時間がたつごとに突然変異の数が蓄積し、40日ぐらいで最も高い親和性に対応する変異で絞められるようになることがわかる。

結果は以上で、

  1. 骨髄中の形質細胞は一日1.7%の割合で置き換わること。
  2. 少なくとも60日まで胚中心からコンスタントに抗原反応性形質細胞がリクルートされること、
  3. 骨髄での形質細胞は平均700日の寿命をもつこと、

などが計算されている。地味な仕事だが、胚中心から骨髄への形質細胞の動態がよくわかる研究だ。この結果から判断すると、胚中心で長期間抗体産生細胞や記憶細胞を作り続けられるようにする工夫とともに、抗原刺激後の形質細胞ができるだけ多く新しいニッチにたどり着ける工夫を組みあわせることが、ワクチン開発に重要な課題であることもよくわかる。

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11月7日 統計現象の背景に因果性を探る:細菌叢研究もここまでやると面白い(11月1日 Cell オンライン掲載論文)

2022年11月7日

細菌叢は何千もの細菌が形成するエコシステムなので、ゲノム技術のおかげでその変化を捉えることが出来るようになったが、その変化がなぜ起こるのか明確に理解することが難しい。このため、言ったもの勝ちという状況が生まれ、善玉菌を増やすとか、悪玉菌を除くといったコマーシャルが溢れることになる。

しかし、現象の記述で論文が採択された時代はずっと昔の話で、まともな雑誌の場合、なぜその現象が起こるのかを問われることになる。しかし、無菌動物に限られた種類の細菌を移植して、個々の細菌の機能的影響を調べる研究は別として、人間の細菌叢を統計学的に調べる研究から、その背景にある因果性を探るのは簡単でない。

今日紹介するハーバード・ブロドー研究所と、スイス・ネッスル社研究所からの論文は、人間で起こっている統計学的現象の背景を調べるという点では学ぶところの多い研究で、11月1日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「A distinct clade of Bifidobacterium longum in the gut of Bangladeshi children thrives during weaning(ロンガム・ビフィズス菌の特別の系統がバングラデシュの子供の離乳期に増加する)」だ。

多様な生活様式による変化をなるべく減らすため、この研究ではバングラデシュの発達期の子供に焦点を絞り、なるべく生活様式が揃うようにしている。そして、母親のミルクから離乳期、細菌叢が大きく変化する時期に焦点を当て、細菌叢の変化を調べている。

また、細菌叢とともに、便の代謝物を調べるメタボローム解析を徹底的に行うことで、細菌叢やその影響の変化を、より直接的代謝物の変化と対応させられるように計画している。

これ以外はほとんどこれまでの細菌叢研究と同じだが、この2つの工夫のおかげで、研究はずいぶん面白くなっており、以下に箇条書きにする。

  1. まず、生後から2歳まで、細菌叢の量と多様性はコンスタントに上昇するが、これに伴い便中の代謝物の量と多様性が増加し、細菌叢と代謝物が一体化していることがわかる。
  2. 生後は母親のミルクが主食になるので、これまでの報告通りビフィズス菌が細菌叢の大半を占める。このロンガム・ビフィズス菌も、今回特定された系統を含め、大きく3系統に分かれ、離乳期前から徐々に増加する2系統のビフィズス菌が特定される。
  3. この移行期のビフィズス菌が離乳期前から上昇するのは、バングラデシュの子供だけで、これまで報告された他の国での発達期細菌叢データを調べると、他の8カ国には全く認められない現象であること。また、メタボロームの解析から、これはバングラデシュ特有の離乳食が含む特有のグリカンへの適応であることがわかる。
  4. また移行期のビフィズス菌と相関する様々な代謝物が、子供の成長に大きな役割を果たすことが、伸長や体重の増加から特定できる。
  5. 重症の下痢は、好気性菌の増殖を契機として起こってくるが、これによりロンガム・ビフィズス菌は消失する。この時免疫を活性化する様々な代謝物も強く抑えられる。このように、好気性菌と免疫に関わるフェニル化乳酸の量を下痢のサインとして使うことが出来る。

以上が面白いと思った点で、発達期ではプロバイオとプレバイオを組みあわせて、細菌叢に介入する可能性が高いことが示された。また、メタボロームと同時解析をすることで、統計現象の背景の因果性をより理解できる可能性もよくわかった。アカデミアとの共同とは言え、こんな論文がネッスル研究所から出てくるのは、21世紀の食の科学の重要性を物語っている。我が国の食品業界からも、是非このレベルの研究が発表されることを期待する。

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11月6日 Innate Lymphoid cell 2 の機能からわかる免疫反応の分業制(11月2日 Nature オンライン掲載論文)

2022年11月6日

現役時代は、1型(ウイルス、細胞内細菌抵抗性)、2型(寄生虫抵抗性)免疫反応というと、T細胞の機能分化で済んでいた。ところが、その後の研究の進展で、T細胞だけでなく異なるタイプの Innate lymphoid cell (ILC) がそれぞれの反応に大きく関わっていることがわかってきた。

このILCも、現役時代はリンパ組織誘導細胞 LTi と呼んでおり、京大時代、現在、OIST理事長の P.Gruss研究室から移ってきた横田さんや、熊本大学から移ってきた吉田さん、そして大学院生だった現慶応大学教授の本田さんなどによって、Id2、IL7、Lymphotoxin などで調節される分化経路が明らかにされた。しかしその時、Id2依存性に分化してきた ILC前駆細胞から、1、2、3型免疫に対応する ILC1、ILC2、ILC3が分化するとは想像も出来なかった。

しかし、CD4T、CD8T、そして ILC とそれぞれの免疫反応にセットで関わることで、免疫システムは複雑化し、Covid-19の様に、病気の経過が極めて複雑な状況が生まれてしまう。

当然、T細胞、ILC それぞれをノックアウトした動物で免疫反応を調べることが望ましいが、ILC に関してはそれぞれのタイプを欠損させることは簡単ではなかった。今日紹介するドイツ・ベルリンのシャリテ医科大学からの論文は ILC2分化に Neuromedin U受容体シグナルが必須であること特定し、ILC2 を選択的に除去したマウスでその機能を調べた研究で11月2日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Non-redundant functions of group 2 innate lymphoid cells(グループ2 innate lymphoid cellの代換えが効かない機能)」だ。

ILC2 の最終分化は T細胞と同じで GATA3 とされてきたが、この研究は Neuromedin U受容体(Nmur1)の発現が、完全に ILC2 特異的であることを発見し、この遺伝子を Id2 陽性細胞でノックアウトしたマウスを作成し、このマウスが2型免疫反応の重要なサイトカイン IL5 が欠損したのと全く同じ形質を示すことをまず明らかにする。

IL5 欠損マウスは白血球の中でも好酸球の分化に必須だが、Numr1 ノックアウトマウスでも、好酸球の最終分化が完全に抑制されている。以上の結果は、これまで Th2 の役割とされてきた組織での IL5 分泌や好酸球分化促進のほとんどは ILC2 がになっていることがわかる。

また、ILC2 の遺伝子発現から、好酸球だけでなく、上皮など様々な細胞を刺激し、2型免疫の場を作る主役であることも明らかになった。

最後に、2型免疫反応が受け持つ寄生虫感染が ILC2 欠損によりどう影響されるか調べ、回虫感染実験を行い、

  1. 回虫の増殖は ILC2 除去で著しく高まる。
  2. 好酸球の感染局所へのリクルートは完全に阻害される。
  3. Th2 細胞は正常にリクルートされる。
  4. 白血球全体の浸潤も低下し、また寄生虫に対する上皮の反応も低下する。

などを明らかにしている。

少し飛ばして紹介したが、要するに寄生虫免疫や喘息反応では、ILC2 が Th2 より大きな役割を演じている可能性を示す論文で、特に喘息では新たな治療法の開発、例えば Numer1 阻害などが期待できるような気がする。

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11月4日 興奮細胞のみを標的にするオンデマンド型遺伝子治療の可能性(11月4日 Science 掲載論文)

2022年11月5日

てんかんは抑制性神経の働きが弱った部位で始まる神経の過興奮が周りへと伝播する病気で、大小様々な発作を引き起こし、日常生活が著しく阻害される。これを抑える薬剤もあるが、脳の興奮を抑える治療なので副作用も多く、そもそも30%以上の人が、薬剤に反応しない。このため、てんかんが始まる場所の特定できるケースでは、皮質電極を設置して場所を特定し、その部位を取り除く治療が行われる。また、てんかん部位を切り取ってしまう代わりに、神経興奮を抑制する分子を導入する遺伝子治療の開発も進んでいる。

今日紹介するUniversity College Londonからの論文は、遺伝子治療で導入した遺伝子の影響を、実際のてんかん発作に参加する細胞だけに限定するための方法を模索した研究で、11月4日 Science に掲載された。タイトルは「On-demand cell-autonomous gene therapy for brain circuit disorders(脳内回路以上に対するオンデマンドで細胞自発的な遺伝子治療)」だ。

発想はシンプルだ。これまでも紹介している様に、神経興奮は Fos など転写因子を急性に誘導することがわかっており、これらを immediate early gene (IER:最初期遺伝子) と呼んでいる。この IER の発現に関わるプロモーターを用いると、てんかんで興奮した細胞だけで神経興奮を抑制する遺伝子を発現させ、その後続く発作を抑えることができるというアイデアだ。実際、IER プロモーターに蛍光分子を結合させ培養細胞に導入し、薬剤でてんかん発作を誘導すると、GFP が6時間で誘導され48時間程度は続くことから、その間発作を抑えることが期待できる。

次に、この IER プロモーターに遺伝子操作で活性を高めたカリウムチャンネル (EKC) を繋いで神経細胞に導入すると、神経興奮を強く抑えることが確認した上で、マウスを使った実験に進んでいる。

まず EKC をマウス海馬に局所的に導入、一度薬剤でてんかん発作を誘導した後、脳を切り出すスライス培養で電気生理学的にモニターしながら発作を誘導すると、過興奮を完全に抑制でき、また興奮の閾値を上げることができる。次に、スライス培養ではなく、マウスに薬剤によるてんかんを誘導する実験を行うと、24時間までは完全に発作を抑えることができるが、2週間経つとこの効果が失われる。アデノウイルスベクターでの遺伝子発現は続いていると考えられるので、この結果は最初の発作による IER の発現が消失したためと考えられる。

また、自然発作が誘導されるてんかんモデルを用いて、てんかん発作が始まった後から遺伝子導入する実験を行い、始まった発作も局所に IER プロモーター / EKC 遺伝子を投与することで発作を強く抑えられることを明らかにしている。

もちろん、IER は活動する脳で常に発現することから、いくらオンデマンドの遺伝子発現と言っても、脳の正常活動に対する影響が心配されるが、一般的行動試験では異常が認められないことから、副作用はないと結論している。おそらく局所への遺伝子投与であること、そして IER の活性が一般神経興奮では長く続かないことなどから、副作用が抑えられていると考えられる。

最後に、ヒト前頭葉細胞のオルガノイド培養を用いて発作抑制実験を行い、将来ヒトでも利用可能になると結論している。

以上が結果で、オンデマンド型の遺伝子発現をうまく使うと、てんかんだけでなく、様々な過興奮に基づく病態を制御できる可能性が生まれたと思う。

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11月4日 相分離は高浸透圧に細胞が耐えるための鍵になっていた(10月31日 Cell オンライン掲載論文)

2022年11月4日

死海で泳ぐと言うより浮かんだことがあるが(実際泳ぐなと言われた)、そんなとき私たちの皮膚細胞は強烈な高浸透圧に晒される。この時細胞は瞬時に縮んだあと、細胞の体積を上昇させるメカニズムを働かせるが、この時 WNK-SPARK/OSR1 経路が活性化され、細胞のイオンポンプの活性化が起こることがわかっている。すなわち、高浸透圧により WNK (キナーゼ) が活性化され、この分子が引き金を引くリン酸化カスケードの結果、イオン全体を取り込むポンプが活性化し、またイオンを排出するポンプが低下する。

このようにキーとなる分子カスケードはわかっていたが、WNK 活性化が高浸透圧ショックで誘導されるメカニズムについては、まだコンセンサスは得られていなかった。

今日紹介するピッツバーグ大学からの論文は、細胞が縮んだ際に起こる蛋白質濃度の上昇が、WNKの相分離を誘導し、これが WNKキナーゼ 活性を高める可能性を示した研究で、10月31日号 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「WNK kinases sense molecular crowding and rescue cell volume via phase separation(WNK キナーゼは分子の混雑を感知し相分離を起こすことで細胞のボリュームを調節する)」だ。

これまで高浸透圧の感知については、細胞膜上のイオンセンサーが関与するという説と、細胞内の変化を感知するという考えが存在していた。このグループに限らず、後者の考えに立つグループは、細胞内の分子濃度が変化することから相分離がセンサーになっているのではないかと狙っていた。例えば東大の一條グループは低浸透圧似反応する ASK3 が相分離で不活化されることが、WNK の活性化を促す可能性を示している。

これに対し、WNK 独自の相分離が下流のリン酸化シグナルを活性化することを示したのがこの研究だ。研究では、WNK が高浸透圧ストレスの細胞で相分離を起こすこと、その結果下流のシグナル分子も WNK 相分離体に集まること、さらにこの相分離が蛋白分子の濃度が上昇することで誘導されることを、細胞内にフィコールを注入する実験で示している。

後は、WNK 自体が外部からのシグナルなしに相分離出来る分子基盤について、部分的に構造を改変した様々な WNK 分子について調べ、C末端の無構造なドメインが相分離に必須の部位で、これを分子内のcoiled-coil ドメインと呼ばれる場所が促進する役割を持つことを示している。

面白いのは、WNK はほとんどの動物で保存されており、アミノ酸配列は多様化しているとはいえ、相分離する性質は完全に一致していることを示し、このメカニズムの進化は古いことを示している。

最後に、WNK が欠損した細胞に、様々な WNK を導入する実験を行い、WNK の相分離が高浸透圧に対応したイオンポンプの活性化や抑制に関わることを確認している。

以上が結果で、高浸透圧に対して、様々な分子が相分離を起こすことで、細胞内のイオン変化に影響されず分子活性化カスケードのスイッチを入れることが出来るという納得の話だと思う。

ただ相分離研究には欠かせない試験管内での相分離実験が示されておらず、最終的に WNK の相分離だけがシグナル活性化に十分なのか、あるいは一條グループのような他のシグナルが必要なのかは、今後研究が必要になるだろう。

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