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5月11日 フェロトーシスを誘導する新しい化合物の設計(5月7日 Nature オンライン掲載論文)

2025年5月11日
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昨日に続いて、ガンの治療に使えるかもしれない新しい化合物についての研究を紹介する。

今日紹介するフランス・キューリー研究所からの論文は、細胞膜脂質が酸化されることでオルガネラやミトコンドリア膜の破壊が進むフェロトーシスの詳しいメカニズム解析を通して、フェロトーシスを促進してガン細胞を殺す薬剤開発にチャレンジした研究で、5月7日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Activation of lysosomal iron triggers ferroptosis in cancer(リソゾーム内の鉄の活性化によりガンのフェロトーシスが誘導される)」だ。

フェロトーシスは細胞内か酸化水素と鉄イオンが反応して発生するヒドロキシラディカルにより細胞膜のリン脂質などが酸化されることで起こる細胞死で、この反応が酸性条件で起こることからリソゾーム内の鉄を利用して起こる反応ではないかと考えられていた。

この研究ではリソゾームでフェロトーシス反応が起こる可能性をまず調べている。このために、フェロトーシスを抑える作用のある化合物Lip-1に蛍光分子を結合させ、Lip-1の局在を調べると、最初リソゾームに集中し、そこで鉄と結合して鉄の還元作用を低下させてフェロトーシスを抑えることを明らかにしている(と書いてしまったが、実際には化学反応を詳しく調べるプロの研究だが、わかりにくいので割愛した。すなわち、結論は単純だが、それを明らかにするためには多くの実験が必要になる。)

この結果は、これまで想定されてきたリソゾームの鉄イオンがフェロトーシスに関わっていることを明確にした点で重要だ。そこで、今度はこの結果を利用してフェロトーシスを促進する化合物の設計にチャレンジしている。即ち、リソゾーム膜に鉄イオンを活性化して周りの脂質を酸化することができる化合物が設計できればフェロトーシスを誘導できるはずだ。

この目的で、細胞膜脂質と結合してエンドサイトーシスでリソゾームに移行する化合物マルマイシンと鉄を活性化するChen-Whiteリガンドをリンカーで結合させた化合物Fento-1を作成し、フェロトーシスの誘導を調べている。結果は期待通りで、Fento-1はすぐにリソゾーム膜に取り込まれ、リソゾーム膜のリン脂質を酸化すること、そしてフェロトーシスを増強することを明らかにしている。

どのガンでもフェロトーシスガ誘導できるわけではないが、膵臓ガンや肉腫のような鉄イオンの取り込みの高まったガン細胞のではFento-1で細胞死を誘導することができる。鉄イオンの取り込みが高い腫瘍は、リソゾームへの取り込みに関わるCD44の発現で特定することができるので、CD44の高い腫瘍はこの治療の対象になり得る。また、CD44発現が低いガンでも、DNA損傷を誘導するdoxorubicinのような抗ガン剤で処理すると、CD44の発現が上昇し、Fento-1によるフェロトーシスが誘導されやすくなる。

以上が結果だが、これまでの研究から、ガン細胞は鉄イオンを取り込んで脱メチル化酵素の活性を高めることでエピジェネティックプログラムを変化させることが知られている。即ち上皮間質転換が起こる時には、CD44発現を上昇させ鉄イオンの取り込みを高める必要がある。従って、形質転換を進めてより悪性化していくガン細胞は鉄依存性が高まり、フェロトーシスを誘導しやすいと考えられることから、このような薬剤の開発は転移の抑制にも重要になると思う。フェロトーシス誘導薬剤の開発研究というより、フェロトーシスそのものの理解を深めてくれる論文だと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    リソゾーム膜に鉄イオンを活性化して周りの脂質を酸化することができる化合物が設計できればフェロトーシスを誘導できる!
    Imp:
    ICIの薬効は素晴らしいです。
    キートルーダ+DCワクチンだけでstageⅣのTMB(+)膵癌が綺麗に壊死した症例を経験しております。
    腫瘍の免疫原性が高まれば、ICIの薬効は更にupするはずです。
    今日の論文は大変興味深いです。

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