2025年1月26日
Cationic peptide (陽イオン性ペプチド)は、正電荷を持つアミノ酸を多く含むペプチドで、抗菌ペプチドディフェンシンは有名だが、様々な機能を持つことが知られている。
今日紹介するカリフォルニア大学アーバイン校からの論文は、陽イオン性ペプチド全般にシナプスでの受容体クラスター形成を抑制して記憶を消す効果を持つことを示し、そのメカニズムや臨床的意義について議論した研究で、1月15日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Cationic peptides cause memory loss through endophilin-mediated endocytosis(陽イオン性ペプチドはエンドフィリンによるエンドサイトーシスを介して記憶消失の原因になる)」だ。
現在のようにペプチド創薬に大きな期待が集まっているとき、陽イオン性ペプチドにより記憶が失われるというタイトルを読むと「エ!」と驚いてしまうが、この研究はもともと2006年に発表された記憶を消すペプチド ZIP の作用を調べることに始まっている。
発見以降 ZIP は細胞シグナルへの特異的作用として研究されてきたが、このグループは ZIP が正電荷を持つアミノ酸が46%も含まれていることに気づき、ペプチド自体の特異的作用ではなく、陽イオン性ペプチドが一般的に持っている作用ではないかと着想し、ZIP とともに、細胞内にペプチドが取り込まれる陽イオン性ペプチドTAT を用いて記憶消去効果を調べると、TAT も同じように記憶消失を誘導できることを発見する(実際にはこの実験は論文の後の方で示されている)。
そしてこのメカニズムとして、陽イオン性ペプチドが神経シナプスで神経刺激により誘導されるグルタミン酸受容体やGABA受容体の数の上昇及び、それに伴うクラスター形成素阻害することを発見する。そして、この阻害が神経刺激によってシナプス膜に新たに集められてきた受容体を、エンドサイトーシスの一つ Macropinocytosis を介して細胞内に取り込んでしまう作用であることを突き止める。
脳のスライス培養を行い、刺激によりシナプスの活性が高まる長期効果を指標に調べると、ZIP も TAT も同じように長期効果誘導を抑える。さらに、正電荷のアミノ酸の割合を変えて実験を行うと、アミノ酸配列ではなく、正電荷アミノ酸の割合に応じて、シナプスの長期増強を抑える作用が高まることも確認している。
最初に述べてしまったが、マウスの脳にペプチドを注射する実験から、ZIP だけでなく TAT も恐怖体験時に音を聞かせる実験で調べる記憶の成立を抑えることを明らかにしている。ただ、これだけでなく、TAT のように細胞内にペプチドをデリバーする目的で用いられるペプチドは、全身投与でも記憶の成立を抑えてしまうことを明らかにしている。
現在、TAT がペプチドデリバリーの方法として使われることを考えると、大量に投与された場合、記憶消失という問題が起こる可能性がある。また、様々なペプチド薬開発についても、この点は考慮する必要があるだろう。
ただ、この研究は陽イオン性ペプチドの問題を指摘しただけではない。脳損傷による記憶の喪失が、単純に回路が壊れるだけではなく損傷部に分泌される陽イオン性ペプチドの作用もあるのではと考え、陽イオン性ペプチドにより誘導されるグルタミン酸受容体の Macropinocytosis を抑える薬剤を脳損傷マウスに投与する実験を行っている。その結果、カリウム保持性の利尿薬として用いられるアミロライドを脳損傷前にマウスに投与しておくと、記憶の喪失を防げることを示している。
実際の臨床でどのように使えるのか、まだまだ検討が必要だが、ZIP の研究から、記憶維持に関わる介入可能なメカニズムを示した面白い研究だと思う。
2025年1月25日
昨年のノーベル物理学賞を受賞した Hopfield さんは、エピソード記憶を可能にするニューラルネットワークを開発したが、Hopfieldネットワークの記憶できるパターン数はネットワークを形成するニューロンの数で決められ、これを超えるパターンを入力すると、記憶全体が崩壊することが知られていた。この限界を超えるために様々なモデルが提案されているが、ICメモリーと違って、ニューラルネットでエピソード記憶を実現するのは今でも簡単でない。
今日紹介する MIT からの論文は、我々の脳で空間やエピソード記憶に関わる嗅内野、海馬、感覚野の構造を参考にしたネットワークを構築することで、Hopfieldネットワークが抱える N-Clif と呼ばれている限界を超えて記憶が可能であることを示した研究で、1月15日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Episodic and associative memory from spatial scaffolds in the hippocampus(海馬の特別な空きゃフォールドから生まれるエピソード記憶及び連合記憶)」だ。
エピソード記憶とは経験したイベントを時間や空間に即して記憶し、呼び出せることで、連合記憶とは異なるイベントを関連させて記憶することを意味する。我々の脳ではこれらのタスクは海馬で行われていることはよく知られているが、2014年にノーベル症を受賞した場所細胞とグリッド細胞の発見以来、空間だけでなく、エピソード記憶も同じ海馬の構築を用いて行われることがわかってきた。
Moser さんたちのグリッド細胞の発見の意義は、私たちの脳の中に、基本的には変化しない物理空間の表象が形成されていることを示したことだ。すなわち、カントが構想した経験の認識に必要な先験的な枠組みが実際に脳に形成されていることが示された(実際ノーベル賞の受賞理由にカントとMoserさんたちの発見の関係が書かれている)。
ネットワーク的にさらに説明すると、グリッド細胞は経験とは関係なく、しかし互いに刺激し合う結果、嗅内野上の厳密な座標に沿って発生初期に形成される。そして、感覚野から来る刺激に合わせて形成される場所細胞は、グリッド細胞が形成している不変の座標を参照して決められる。
研究では、インプットにより変化する感覚野と海馬のネットワークに、嗅内野の不変のグリッド細胞ネットワークを統合させた新しい Vector-HaSH と呼ぶモデルを作成し、空間記憶、エピソード記憶、連合記憶に関するパーフォーマンスを、Hopfieldネットワークと比べている。
ただ具体的実験の詳細については全く門外漢で、殆ど理解できていない。しかし、脳のグリッド細胞と同じ機能を導入することで、Hopfiekdネットワークでは崩壊していたニューロン数以上のパターンの記憶が成立できることを示していることはよくわかった。
そして、このメカニズムについての解析から、空間認識で海馬の場所細胞がグリッド細胞と連合することで、場所細胞の複雑性が、グリッド細胞が形成される2次元空間に展開し直され単純化されると同じように、複雑なエピソードがグリッド細胞ネットワークに2次元展開して単純化されることで、ニューロン数を超えるエピソードが記憶できるようになることを示している。すなわち、連合記憶に必要な参照相手をグリッド細胞ネットワークが提供している(全く個人的解釈で、間違っておればごめんなさい)。
以上が結果で、繰り返すが特にニューラルネットでの処理については理解できていないことを断っておく。ただ、我々の脳の構築、特にネットワーク活動を反映してシナプスが変化する海馬/感覚ネットワークと、経験に殆ど影響されないグリッド細胞ネットワークが統合されている機能的意味がニューラルネットにより示されたのは感慨深い。
現在カントのアプリオリを現代の脳科学と対比させるために論文を読んでいるが、中でもグリッド細胞の機能に興味が引かれていた。そんな中で今日紹介した研究はグリッド細胞の機能を全く異なる視点から教えてくれ、人間の脳とAIを比較する新しい研究領域の重要性を再認識した。
2025年1月24日
研究者にとって独立した自分の研究室を持つことが最も重要なゴールだ。現在では大学も若手に独立ポジションを提供する様々な仕組みを備えてきたが、私たちの時代は教室の教授の理解を得て独立で研究することはあったが、基本は教授=独立だった。また、様々な独立ポジションが設定されたとしても、各大学で最も大事なのは教授選考であることに変わりはない。
今日紹介するアイルランドコーク大学を中心とする国際コンソーシアムからの論文は、教授選考に限ってどのような指針で行われているかを、世界中の大学に在籍するコンソーシアムのメンバーから集め、比較を行った研究で、1月22日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Regional and institutional trends in assessment for academic promotion(アカデミックプロモーションのための評価に関する地域的、機関間のトレンド)」だ。
メンバーに呼びかけて、公式な選考指針だけでなく、各選考時の非公式な指針も集めて、教授選考に何が重視されるかを調べている。ただ、公式であれ、非公式であれ、書かれた指針がどれほど重視されているのかと考えると、この研究のデータ集めの手法自体に問題があるように感じた。というのも、熊本大学、京都大学、理化学研究所と3機関で何回も教授選考に関わったが、書かれた指針を熟読して人事に当たったという記憶は全くない。コンプライアンスに欠けると言われるかもしれないが、特に選考委員会のメンバーとして選ばれた場合は、大学のレベルを少しでも上げたいという強い意志の元、公募だけにとらわれず、いい人に来てもらうためのあらゆる努力をした。それを考えると、書かれた指針を集めても本当の実態は見えてこないように思う。できれば、実際の選考過程をヒアリングなどを通して調べないと選考の基準は見えてこない。
結局この研究での結論は、教授選考の指針としては、論文などの業績、社会での認知度、キャリア、影響力などが重要な要素だが、
論文などの業績はグローバルノース各国と比べると、グローバルサウスの方で重視される傾向がある。すなわち、研究でリードしている国ほど業績だけで決めない。
それぞれの地域でも、指針は極めて多様。
専門領域間で、選考基準の違いはあまり大きくない。
など当たり前の結果で終わっている。その意味で、Nature に採択されているからと、この論文を基盤に世界のトレンドを図るのは問題があると思う。
そこで、今日は論文紹介はこれぐらいにして、教授選考に関する個人的経験を述べて終わる。
現在どうなっているかわからないが、京大医学部教授会の人事では、選考委員会で最終結論を出さずに、2-3人の候補者に絞り、後は徹底的に議論するという方法だった。従って、専門外の教授でも勇気をふるって説明がよくわからないと表明して、選考を差し戻すことができた。もちろんこのような例は殆どなかったが、それでも専門外をとことん理解するため、議論は深夜に及ぶのが普通で、人事のある日はサンドイッチが出た。どの学部でも様々な専門が存在するが、他の領域を理解して教授会の一体感を維持するためのいい方法だと思う。一方、熊本大学では説明を聞いて少しの質問の後投票を行った。
より目的のはっきりした小さい組織の中核人事を行うときは、時間がかけられないが目的がはっきりしているので、人事はさらに重要になる。私自身は、熊本大学では遺伝発生医学研究所、京都大学では再生医学研究所、健康科学科、そして理研・発生再生研の立ち上げに関わった。このような場合、当時は候補者の名前付きで文科省に申請するので、方向性を明確にして、一番ビジブルな人を選ぶ必要がある。また、最初の人事で組織の方向性を世間に示す必要がある。これによって、その後の組織の成功が決まる。
いずれにせよ、教授選考の殆どは選考委員会の目利きとしての努力にかかっていると思う。選考委員会のメンバーのレベルが低いと、レベルの低い人事しかできない。そのためにも、教授には専門業績だけでなく、深い知識と人を見る目が要求されると思う。
今日本の研究力低下が問題にされている。ただ、論文を読んでいると、我が国からも素晴らしい論文を書く若手が出始めている。このような若手を一人でも多くサポートするのが大学や研究所、そして人事を担う選考委員会の役割だと思う。
2025年1月23日
DNAシークエンサーの発展とともに発展した領域の一つは腸内細菌叢の研究で、最初はリボゾームなど一部の配列のみを使って調べられていた細菌叢も、今や全ゲノムレベルで配列を決め、さらにはほぼ完全なゲノムを再構成して、腸内で起こっている変化を捉えることが可能になっている。
これに対し、今日紹介するイスラエルワイズマン研究所からの論文は、質量分析器を用いるペプチド解析の結果を腸内のゲノム解析と対応させて解釈し直した後、特定されたタンパク質の種類をベースに腸内の変化の把握を目指した研究で、1月20日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Metagenome-informed metaproteomics of the human gut microbiome, host, and dietary exposome uncovers signatures of health and inflammatory bowel disease(メタゲノム情報を用いたメタタンパク質解析を用いて、健康あるいは炎症性腸疾患のホスト、細菌叢、そして食事由来タンパク質を網羅的に解析する)」だ。
網羅的タンパク質解析(プロテオーム)の技術が進んでも、あまり腸内細菌叢の解析に用いられなかったのは、タンパク質の分解が把握しきれないことと得られたプロテオームデータの由来を特定することが難しかったことによる。
この問題を、腸内の内容物あるいは便のDNA解析とプロテオーム解析を統合した Metagenome-informed metaproteomics (MIM) を行うことで、存在するタンパク質を由来も含めて徹底的に解析し、メタゲノムに変わる指標を確立しようとしたのがこの研究だ。要するに、解析は一手間も二手間も多いが、タンパク質を用いることで、ホスト由来タンパク質、細菌由来タンパク質、そして食事に含まれるタンパク質まで特定することでゲノムとは異なる現象を把握できると、大変な実験を行っている。
まず、存在する細菌叢や、ホストの反応、そして食べた食物を MIM で正確に把握できるか、マウスやヒトを用いて徹底的に検証している。細菌叢は、メタゲノム情報が存在することで、ほぼ正確にタンパク質の由来を調べることができる。もちろん、種類が限られるホスト側のタンパク質は問題なく特定できる。また、食べ物については動植物のデータベースから特定することができる。この結果、マウスでは2656種類のバクテリア由来タンパク質、631種類のホスト由来タンパク質、そして23種類の食物由来タンパク質を特定できる。
プロテオームを用いると、胃から十二指腸、そして小腸を経て大腸へと、検出できるタンパク質の多様性が拡大していくことが見事にわかるが、便になってしまうと、タンパク質での多様性の検討は難しくなる。とはいえ、何を食べたかなどは便のプロテオーム解析からかなり正確に特定できる。
では、ここまで手間をかけて、従来のゲノム解析以上に何が明らかになったのか?
例えば腸炎が起こった場合、食べ物のタンパク質の量が消化不良を反映するだけでなく、炎症がどのレベルにあるかも食べ物の消化の程度を調べられるのでわかる。また、詳細は省くが、ゲノム=すなわち細菌の種類だけではわからない、細菌の活動状況の変化を捉えることができる。例えば、炎症が始まると、バクテリアも環境変化に対応するが、これを特定することができる。
さらに、ホストの反応を同時に調べることで細菌叢の変化との相互作用のメカニズムまで知ることができる。例えば抗菌ペプチドの変化と細菌叢の変化は相関する。また、メタゲノムと参照しながらプロテオームを行ったおかげで、新しい抗菌ペプチドを特定することができている。
この研究から生まれた重要な発見の一つは、炎症性の変化に伴う腸上皮の変化を把握できることで重要なマーカーをいくつか特定していることだ。他にも、ELISAで検出できる腸炎マーカーの発見も報告されている。
これまで困難とされてきたプロテオームにチャレンジすることで、細菌叢研究の新しい領域が生まれたように思う。
2025年1月22日
哺乳動物の2本あるX染色体からの転写は、片方だけに起こる X染色体不活化という現象で、量の調節が行われている。これは X染色体で転写される Xist と呼ばれる RNA が、染色体全体に広がってクロマチンの構造変化の核になり、染色体を閉じてしまうからだ。一方で、もう片方では Tsix と呼ばれる Xistアンチセンスによって Xist転写を抑えてクロマチンをオープンに保っている。
こう説明されるとわかった気になるのだが、しかしうまい具合に Xist が片方の染色体だけに広がって行くのか考えてみると、この説明だけでは本当は理解できていないことを思い知る。この点について GPT-4 に聞いても、満足いく答えは得られない。
今日紹介する中国精華大学とハーバード大学からの共同論文は、Xist が結合する HNRNPK分子が相分離の物性の調節を通してこの謎のチャレンジした面白い論文で、1月16日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「A biophysical basis for the spreading behavior and limited diffusion of Xist(Xistが片方の染色体に広がり他に拡散しない生物物理的基盤)」だ。
この研究はもともと相分離して核内に散在する HNRNPK分子が Xist と結合することで物性が変化することが、Xist の染色体全体への移動とともに他の染色体への拡散を抑制するのではと着想し、主に相分離体の物性を調べる極めてエレガントな方法を駆使して、この可能性を証明している。その上で、相分離に必要な部位が欠損した HNRNPK分子を持つ ES細胞を用いて、この過程が実際の X染色体不活化過程で起こっていることを証明している。ただ、実験が極めてプロフェッショナルなので、全て割愛して最終的に見えてきた染色体不活化過程について以下に説明する。
HNRNPK が欠損すると不活化が行われないことは知られているが、HNRNPK自身は相分離体を作り、核内全体に散らばっている。従って HNRNPK相分離だけでは染色体選択制は説明できない。
HNRNPK は Xist の repeatB (RepB) 部分と結合する。従って、Xist の転写が始まった方の染色体では Xist が HNRNPK相分離体に侵入する。
この反応により、それまで比較的剛性が高い HNRNPK相分離体が柔らかく広がりやすくなる。また、Xist と HNRNPK はそれぞれで引っ張り合う力があり、この相互作用が柔らかくなった HNRNPK相分離体を、染色体にできている隙間を通って全体に広げる。
Xist は、ポリコム分子など閉鎖型染色体を形成する様々な分子溶け都合するが、このとき相分離体はこれら分子を統合するトラップの役割を果たす。
また、この過程で核内で形成されていた染色体の立体構造も変化し、不活化される染色体各部位が混じり合って染色体をコンパクトな塊に仕上げる。
以上がシナリオで、よくまあここまでうまくできているなと言う印象だ。しかし、これだけの複雑な相互作用が突然できてきたわけではないので、哺乳動物進化での X染色体不活化のメカニズムのルーツを探る研究はこれからも続いていくと思う。
相分離は外界からシステムを独立させてくれるし、分裂することも可能な存在で、その理解は分子進化とともに、おそらく太古の昔 RNAワールドを理解する鍵になると想像している。その意味で、この研究は示唆に富む。
2025年1月21日
腫瘍細胞に選択的に感染して細胞死を誘導できる腫瘍溶解ウイルスは、100%の感染率到達が難しいことやホスト側の免疫反応でウイルスが抑えられることから、アイデアはいいのだが根治には繋がらないとして一時廃れていた。しかし、ガンに対する免疫のパワーが認識されるようになった今、一部の腫瘍を溶解して免疫を誘導し残りを抑えるという戦略が示され、再評価されるようになっている。
今日紹介する中国広西医科大学を中心とする研究施設からの論文は、鳥類には致死的なのに人間には殆どかからないニューカッスル病ウイルス (NDV) を用いて、末期のガンの進行が抑えられることを示した研究で、中国臨床研究のダイナミックな力を感じさせた。タイトルは「Hyperacute rejection-engineered oncolytic virus for interventional clinical trial in refractory cancer patients(超急性拒絶をエンジニアした腫瘍溶解ウイルスを通常の治療に反応しないガン患者さんの治療に用いる)」で、1月17日 Cell にオンライン掲載された。
NDV は鳥に感染すると致死的なウイルス感染症だが、養鶏家で暴露しても症状は殆ど出ない。これは、NDV 感染に必要な αGal の発現に関わる酵素が欠損しているからだが、この酵素がなくてもガン細胞では糖鎖の発現が高まりさらにNDV増殖を抑えるインターフェロン応答が抑えられているため、NDV が増殖し腫瘍溶解することが発見された。ただ、これまでに行われた治験では、思ったような効果が得られていない。
この研究では NDV にヒトが失った α1,3GT 遺伝子を導入して、ガン細胞だけに αGal を発現させて持続的にウイルスにかかりやすくするだけでなく、αGal に対する私たちの自然抗体を利用してガン細胞を補体依存的に殺してしまえるのではと考えた。というのも、私たちは腸内細菌などを通して αGal に対する抗体を高いレベルで維持している。従って、腫瘍で増える NDV によりついでに αGal が発現すると、すぐに抗体と補体が作用して、短時間に腫瘍を溶解することが期待される。そして、これにより局所に血小板活性化因子が遊離され、塞栓症が起こり、局所の腫瘍の崩壊を高めるとともに炎症を通して最終的にホストのガン免疫を高めると期待される。すなわち、時間単位の反応からウイルスによる溶解、さらに組織の再編成、そして最後にホスト免疫という何十もの攻撃軸を構築できると考えた。
以上はもちろん絵に描いた餅だが、これを証明するため、なんとサルの肝臓細胞を CRISPR/Cas を用いた遺伝子ノックアウトでガン抑制遺伝子を壊し、ガンを発生させるモデルを作成し、これを GT 導入 NDV (NDV-DT) で治療できるか調べている。すなわち、人間に近いサルの肝臓ガンの治療実験を行うという、極めてストレートなアプローチだ。
結果は、サルに発生した肝臓ガンは NDV だけで一時は良くなるが必ず再発する。しかし、NDV-DT を投与すると、完全に治療できることがわかった。しかも期待通り、最初の溶解や血栓を含む組織反応から免疫細胞の増加まで期待通りのコースをたどる。ただ、ガン免疫については、抗原特異性まで調べていないが、ともかくガンが長期に抑えられているのでよしとしている。
その上で、様々な、治療が難しい末期ガンの患者さんに投与する治験へストレートに進んでいる。この治療は、ガン患者さんの静脈に NDV-DT を週1回3ヶ月にわたって投与するだけで、他の治療は行っていない。
結果だが、90%のヒトに一時的にもガンを抑える効果が見られている。また、40%近くはガンの縮小が見られ、残りは病気の進行を抑えることができている。最終的に半数は再発したが、3割以上の患者さんが2年以上生存しており、大きな効果が得られたと言える。
他にも完全にガンが消えた症例など、いくつかの臨床例が示されているが、要するに絵に描いたように結果が得られたと言える。
最初からサルのガンモデルを用いるなど、中国の臨床研究の力強さが感じられる研究だと思う。
2025年1月20日
初めてのアフリカ旅行で里美が足を骨折して手術を受けたので、やむなくヨハネスブルグに少し長めに滞在した。そのときせっかくの機会なのでどこか行くところはないかと考えたが、ヨハネスブルグは観光客には危険ということで浮かんできたのが、アウストラピテクスが最初に発見されたスタルクフォンテインだった。タクシーを借り切って、里美を車椅子に乗せて洞窟に着くと、さすが車椅子は無理ということで、里美にはドライバーさんとレストランに残ってもらって、私一人洞窟ツァーに参加した(写真はオルドワン型石器と洞窟入り口)。
そこで展示されていたオルドワン型の石器は、骨を割ったりするのに使われていたとされているが、今日紹介するドイツ・マインツにあるマックスプランク研究所からの論文は、歯のエナメルに残っている窒素から、アウストラピテクスは基本的に草食だったことを示した研究で、1月17日号 Science に掲載された。タイトルは「Australopithecus at Sterkfontein did not consume substantial mammalian meat(シュタークフォンテインのアウストラピテクスは哺乳類の肉を多く食べてはいなかった)」だ。
当時の動物が何を食べていたかは考古学的にも最も重要な課題で、アウストラピテクスは犬歯があり、オルドワン型石器を使っていたことから、肉食ではなかったかと個人的には思っていた。ただ、専門家の間では議論が行われていたが、現在肉食か草食かを区別するために使っている窒素同位元素を使う方法は、骨の中のコラーゲンが急速に消失するため難しかった。
この研究のハイライトは、開発が進んだ微量の N15 と N14 を区別する方法を、通常の骨コラーゲンの代わりに安定にマトリックスが残っている歯のエナメル質の有機物測定に使ったことで、これにより200万年以上前のアウストラピテクスの食べ物を調べることができるようになった。
シュタークフォンテーンでは今も発掘が進んでいたが、決して人類の化石だけではなく、同じ時代に生息していた多くの動物の化石も収集されている。これら動物の歯も同時に調べて、アウストラピテクスの N15 の割合は、草食動物と同じレンジで同じ時期に生息している肉食動物と比べると、遙かに低いことが明らかになった。
重要なのは、他の草食動物と比べると N15 の比率が極めて多様な点で、これは現存の類人猿と比べても大きい。従って、現在のチンパンジーのように、哺乳動物の肉を食べることもあったが、基本的には様々な植物の葉や実を食していたと考えられる。
この方法の信頼性は、乳歯のテストでも明らかになっている。早い段階では母乳で育つため、N15 の値が上昇すると予想されるが、出土した乳歯の一本は、殆ど肉食動物並みの値を取っており、信頼性を裏付けている。
さらに、炭素13を調べることでも草食動物と同じであることが確認されている。
もちろん他の地域ではどうなのかなど、これからの研究が必要だが、現在のチンパンジーが基本は草食でたまに狩りをして肉を食べているのに似ていると思う。ただ、動物性タンパク質を多くとることで脳の発達が促されたとされているが、実際にはどうだったのかなど知りたいことは多い。いずれにせよ、食べ物を知るためのパワフルな方法が出てきた。
2025年1月19日
ノーベル化学賞の講演を YouTube でゆっくり聞いたが、最初に登場した David Baker さんは、ペプチドデザインの前置きはさっと切り上げて、最も新しい RFdiffusion を使って何が可能かを様々な例を挙げて紹介していた。生み出されるタンパク質の広さと深さは圧倒的で、これからも論文が次々と生まれることを予感させる。これは未来の話ではなく現実の話で、実際講演の中で取り上げられていたTNF受容体の阻害ペプチドについては、講演が行われるより前 Science に発表されていたし(Science 386, 1154-1161, 2024)、またペプチドブロックを組み合わせたナノケージに関する Nature 論文は昨年暮れに紹介した(https://aasj.jp/news/watch/25825 )。
ノーベル賞講演で Baker さんが最初に紹介していたのがヘビ毒を中和するペプチド設計の話だったが、1月15日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「De novo designed proteins neutralize lethal snake venom toxins(新たにデザインしたタンパク質が致死的なヘビ毒を中和する)」だ。
これほど続々新しいタンパク質のデザインが発表されるのは、必要な全ての方法が Baker さんの研究室に揃っているからだ。タンパク質の設計は、まず標的分子の構造を知ることから始まる。現在は結晶構造が完全にわかっている分子が標的にされているが、当然 Rosetta や AlphaFold も将来は使っていける。
構造と機能から標的部位を決めると、次は Baker さんたちが2023年8月に Nature に発表した RFdiffusion と呼ぶ画像生成に使われるDiffusionをペプチドの設計に利用する方法の登場だ(Nature, 620, 1089, 2023)。Diffusion を用いたモデルは AlphaFold3 や最新版 Rosettaに も使われている(https://aasj.jp/news/watch/24442 )。
こうして構造が決まると、Bakere さんたちが2022年に Science に発表した構造からアミノ酸配列を抽出できる ProteinMPNN が登場して、アミノ酸、そして遺伝子配列が決まる。ただ、現段階では100点のデザインはまだできない。そのため、Rosetta や AlphaFold を用いて構造を至適化している。
この研究ではアセチルコリン受容体への作用を阻害するヘビ毒と、細胞膜を引きちぎるヘビ毒両方に対してペプチドを設計しているが、神経毒では44種類のペプチドに絞った後、実際に大腸菌でタンパク質を作り、ヘビ毒への結合を調べている。この結果出来てくる阻害ペプチドは842nMの結合係数なので、まだまだ結合力は弱い。
そこで、できてきたペプチドの一部だけをやはり RFdiffucion で至適化する方法で設計し直し、最終的に0.9nMという実用範囲のペプチドを作成している。こうしてできたペプチドとヘビ毒との相互作用は、結晶解析が行われて今後のデータとなっていく。この方法で、細胞膜を引きちぎるサイトトキシンに対しても、通常では考えられない部位を標的にするペプチドデザインに成功している。
最後は試験管内での実験を経て、マウスにヘビ毒を注射した後、15分後、30分後それぞれデザインペプチドで中和できるか実験を行い、30分後でも、ほぼ100%の生存を可能にするペプチド作成に成功している。効果としては現在利用できる抗血清より高い活性がある様で、明日からでも使える可能性があるのでノーベル賞講演の最初に持ってきたのではと思う。
以上が結果で、全ての方法論が独自に用意されているとは言え、何サイクルも検討を加えた大変な実験だと思う。Baker さんたちがこれまで発表してきたデザインペプチドの特徴は、全て大腸菌で作れるという点だ。すなわち、糖鎖などの修飾は必要なく、安価に作れる。これは進化を経て形成されるのと、ペプチドデザインはかなり異なる経路でできてきたことを意味する。
いずれにせよ、安価に作成できるということは、薬剤としては素晴らしく、ヘビ毒中和剤のように開発途上国で使われることを考えると誰もが中和剤を携帯することができる時代が来ることを示している。また、抗体の場合免疫原性が低い分子に対しては作成が難しいが、ペプチドデザインはそれを克服できる。2025年、Baker さんの研究室からいくつの論文とデザインペプチドが発表されるのか、想像ができないぐらいの数になる様に思う。
2025年1月18日
昨年はレカネマブの登場でアルツハイマー病(AD)を Aβ 除去により治療する臨床研究が一段と進んだが、AD 発症には Tau 凝集、そして ApoE の機能などが複雑に関わっており、今年はこの領域の研究も臨床応用されていくのではと期待している。
そこで今年になって発表された2編のアルツハイマー病研究論文を紹介する。最初のバイオベンチャー Denail Therapeutics からの論文は、ApoE アロタイプがなぜアルツハイマー病の重要なリスク要因になるのかについての研究で、1月9日号 Cell に掲載された。タイトルは「Decreased lipidated ApoE-receptor interactions confer protection against pathogenicity of ApoE and its lipid cargoes in lysosomes(脂質負荷された ApoE と受容体の相互作用が ApoE と脂肪カーゴのリソゾームでの病理過程を抑制する)」だ。
アルツハイマー病リスクに大きく寄与する ApoE4 が、Aβ の除去を遅らせ、炎症を高めることが知られているが、この現象の背景となるメカニズムは意外とわかっていない。この研究では、ApoE の本来の機能、すなわち LDL 受容体(LDLR)と結合することで、脂肪カーゴを細胞内に取り込ませるという反応をアロタイプ別に再検討することからはじめ、AD の低リスク要因の ApoE2 がほとんど LDLR と結合しない一方、ApoE3 と ApoE4 は LDLR と結合して脂質の取り込みを高めることを発見する。実験の詳細は省くが、この発見から研究を進め以下の結論を得ている(実験の詳細は省略する)。
LDLR と ApoE の関係は当然の話なのに、なぜこれまでこのような研究が行われなかったかを考えると、通常は ApoE4 のリスクを説明しようとどうしても ApoE3 と比較する研究が行われ、低リスク要因の ApoE2 の機能に注目が集まらなかったためではないかと思う。
さて、結論だが、
ApoE3 と ApoE4 は同じ強さで LDLR と結合し、脂質の取り込みに関わる。ただ、この結果 LDLR のリサイクルが低下し、Aβ の除去が遅くなる。一方、ApoE2 はほとんど LDLR に結合しないため、ミクログリアの LDLR はフリーのまま Aβ 除去に関わることができる。
ミクログリアだけでなく、アストロサイトや神経でも脂質の取り込みが高まると、細胞炎症が高まって、障害が起きる。
さらに、長いコレステロールエステルをリソゾームへ取り込むことで、リソゾーム内でのリポフスチン形成を促す。リソゾームへ移行するまで ApoE3nとbApoE4 の違いはないが、リソゾーム内の低い pH での凝集は ApoE4 が高く、これが ApoE4 がさらに AD の高いリスクとなる要因になる。
最後に、ApoE3 も ApoE4 も、クライストチャーチ型変異を導入すると LDLR と結合するプロテオグリカンとの結合が低下し、LDLRのりサイクリングを維持し、脂質の取り込みを抑制することでリスクを防ぐ。
以上が主な結果で、この結果に基づく様々な介入可能性が生まれたと思う。期待したい。
もう一編はハーバード大学からの論文。キセノンを一日一回吸入するだけで Aβ や Tau による神経細胞障害を抑えることができるという研究で、1月15日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Inhaled xenon modulates microglia and ameliorates disease in mouse models of amyloidosis and tauopathy(キセノン吸入はミクログリアを変化させてアミロイドや Tau のマウスモデルの AD 進行を抑える)」だ。
キセノンはこれまでもグルタミン酸受容体のシグナルを変化させることが知られており、神経の病気に使われていたようだ。従って、この研究は理屈抜きにキセノンが AD に効果があるという仮説を検証している。そして、キセノンを吸わせると、ミクログリアに大きな変化が誘導されることを発見している。実験の詳細を省いて結論をまとめると、
キセノン吸入は AD により活性化されたミクログリアの炎症反応を抑えるとともに、インターフェロン γ に反応して、貪食能などマクロファージとしての機能を高める。
この変化は、キセノンがおそらく CD8T細胞に働くことでインターフェロンの分泌が高まり、これがミクログリアの貪食処理能力を高めていると考えられる。実際、インターフェロンの活性を抑えると、キセノンの効果は見られなくなる。
他にもグルタミン酸受容体など、様々な効果が AD を守る方向に働いている。
結果、Aβ 蓄積モデルでも、Tau 異常モデルでも、キセノン吸入により神経細胞ロスを抑え、認知症の侵攻を防ぐ。
以上が結果で、本当のところの分子メカニズムの理解は難しいが、臨床治験がすぐ始まると思える研究だ。
以上、AD 制圧のための多様な研究が着々進んでいる。
2025年1月17日
我が国でも魏志倭人伝に書かれた卑弥呼のように、女性が社会的に高い地位を占めていたこともあるようだが、残念ながらそれを支える社会についての記述がほとんど得られないため、一般的に女性の強い社会が存在したのかどうかほとんどわかっていない。
一方、ギリシャ神話のアマゾネスのモデルになった中央アジアでは女性が戦士として闘った記録がある。さらに明確な記録として残っているのはローマ時代のケルトの女性で、財産相続権を持ち離婚や再婚の自由もあったこと、さらに場合によりアマゾネスのような戦士としてローマと闘ったことが書かれている。
ケルト人は、アイルランドから英国南部、さらには一部ヨーロッパにも分布していたが、今日紹介するダブリン・Trinity College からの論文は、南イングランド領域のケルト人の墓に埋葬された人たちのゲノム解析から、家族構成や大陸民族との交流について調べ、少なくとも英国のケルトが女系社会であったことを突き止めた研究で、1月15日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Continental influx and pervasive matrilocality in Iron Age Britain(鉄器時代の英国の大陸からの影響と広く分布する母系社会)」だ。
この研究ではまず南イングランド Winterborn Kingston (WBK) 地域の後期鉄器時代の墓地から出土した55体の骨の DNA を解析している。実際には40体で十分な解読ができている。その結果、極めて希なミトコンドリア型が 2/3 の人たちに見られる一方で、Y染色体は極めて多様化していることがわかった。すなわち、この地域では女性の系統が限られている一方、男性は多様な系統が存在していることで、女性は地域に残り、男性が様々な地域から夫としてやってくる典型的母系社会が形成されていることがわかった。
ただ、女性だけの村に、男性が通ってくるタイプの母系社会ではなく、外から夫を迎え家族を形成する母系社会が形成されていることがわかった。まさに、ローマ時代の記録の正確性を物語っている。
母系社会では母親のゲノム多様性が低下するが、これは母親から受け継ぐミトコンドリアゲノムの多様性に反映される。そこでこれを指標として様々な時代の英国のミトコンドリア多様性を調べると、青銅器時代までは多様性が維持されていたのに、鉄器時代に入って急速に多様性が消失しているのがわかり、おそらく英国の広い範囲で同じような母系社会が形成されていたことがわかる。
以前紹介したが青銅器時代のドイツの村では、埋葬されている男子は遺伝的関係があるが、女子はほとんど関係がない。すなわち、男子が地域に残り、成人した女性は地域から出ていく。代わりに、他の地域から嫁として女性が来るという男系社会が形成されていた。ミトコンドリアゲノム多様性から、おそらく英国でも同じだったと考えられるが、鉄器時代に入って男系から女系へと移行が進んだと考えられる。
この原因として考えられるのは、この時期大陸との交流が特に南イングランドを中心に始まっていたことで、これはエトルリアを起原とする農耕民族ゲノムの拡大と一致する。実際、青銅器時代の英国ゲノムがどの程度維持されるかを調べると、南イングランドを中心に大きく大陸からのゲノム流入による英国ゲノムの低下が見られる。
結果は以上で、この要因からなぜ母系社会が形成されたかを考える必要がある。一つの可能性は、戦争が多発したため、男は地域に定住できず戦線に派遣された結果このような社会構造が定着したという考え方だ。また、南イングランドがローマの圧力で移ってきた人たちのコロニーとして形成されたとすると、戦争の日常化は余計現実味を帯びる。今後、同じ時代の大陸のゲノム解析が進むと、さらに正確な結論が得られるようになるだろう。
しかし、ローマの記録はかなり正確なことがわかる。我が国の卑弥呼についても同じレベルの解析が生まれるのはいつのことだろう。