11月23日 子供に起こった遺伝子変異が原因の神経発達障害に対するコモンバリアントの影響(11月20日 Nature オンライン掲載論文)
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11月23日 子供に起こった遺伝子変異が原因の神経発達障害に対するコモンバリアントの影響(11月20日 Nature オンライン掲載論文)

2024年11月23日
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今年の9月、医学部時代の同級の門眞一郞君のFaceBook で、学生時代京大精神科の助教授をされていた高木隆郎先生が亡くなられたことを知った。学生時代進路についていろいろ悩んでいた時期高木先生が主催されているユングの読書会に参加して、発達を考える精神医学に惹かれたこともある。ユーモアに富む率直な先生だったが、当時統合失調症などの精神疾患に遺伝性があると発言され、遺伝性を否定するグループから暴行を受けたという話を聞いたことがある。現代のゲノム研究から考えると今は昔の話だが、高木先生を思い出しながらゲノム研究半世紀の成果を実感した。

知能発達障害の場合、子孫を残す確率が低いことから例えば代謝病と比べて単純な遺伝形式で説明できない。最近では生殖細胞発生過程で発生した変異が病気発症に大きな働きをしていると考えられている。とすると、発達障害は遺伝性がないという結論になってしまうが明らかに存在する。おそらく、コモンバリアントの集まりが子供に伝わってレアバリアントと合わさって病気を作ると考えられるが、コモンバリアントの役割についてまだ研究が必要だ。

今日紹介する英国サンガー研究所からの論文は、親に異常がないのに子供が脳の発達障害になった1万人近い家族の GWAS を調べ、コモンバリアントが病気発症に関わるメカニズムを探った研究で、11月20日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Examining the role of common variants in rare neurodevelopmental conditions(希な神経発達障害に関わるコモンバリアントの役割を調べる)」だ。

研究は徹底的にゲノム相関研究で、これまで蓄積された様々な性質に対するコモンバリアントを集合させたリスク係数が、病気を発症した家族と正常児家族で差があるかを調べている。

まず、polygenic score (PG) と呼ばれる係数と病気の発症を比べると、発症した家族では学業や認知機能と関わるコモンバリアントの PG は明確に低下している。リスクスコアが低いというのは直感に反するように思えるが、おそらくレアバリアントを持つ人は、コモンバリアントのリスクスコアが低くても、病気へのハードルを越えてしまうと考えられる。しかし、これだと子供に伝わるポジティブな遺伝性がないことになってしまう。

コモンバリアントは両親から伝わるので、両親から直接伝わったリスク要因を調べると、確かに学業や認知機能などの一般的な PG は低く、子供のデータと一致しているが、統合失調症や神経障害などに関わるリスクなどはかなり高いことがわかる。ここでは議論されていないが、おそらく遺伝性変異が起こりやすいリスクなど他にも遺伝性にかかわるコモンバリアントは存在するので、今後はこれらも含んだ検討が必要だと思う。

最後に、子供にはなくて親にだけ高い PG が存在するか調べている。これは、コモンバリアントリスクが高い親によって作られる環境が子供の発症を促す可能性を考えている。母数がさらに増えることで異なる結果になる可能性はあるが、例えば学業などに関わる PG はほとんど影響がない。すなわち、親のリスクバリアントが子供に間接的に関わる可能性はほとんどないことがわかった。

一方で、同じ性格や環境同士がペアになる確率が高いとされており、この結果が子供の発達異常に関わる可能性も指摘されている。これについては、一定の相関が認められるが、もちろん原因についてはさらに大規模研究が必要と思われる。

以上、高木先生が暴行を受けた時代と比べると、患者さんや家族の協力のもとこれほど詳しい発達障害のゲノム研究が進んでいることに感慨を覚える。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月22日 網膜血管異常増殖を抑制する抗ROBO抗体(11月20日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2024年11月22日
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基本的に私の教室に在籍したことのある研究者の論文は、どれほど素晴らしい論文でもこのブログでは取り上げないと決めているのだが、今日は例外として、極めて個人的な理由で論文を選んだ。

熊大から京大に移った頃、突然発生学の大御所 Nicol Le Douarin から、おまえの友達の娘を日本に送るからニワトリの Flk1 に対するモノクローナル抗体作成を教えてほしいとメールが来た。友達とはドイツ留学時代の同門の Klaus Eichmann で、やってきたのが Anne Eichmann だった。それから半年、彼女は見事にモノクローナル抗体を完成させ、それをきっかけに第一線の血管生物学者として今も活躍している。

今日取り上げるのは、現在はイェール大学で研究している Anne Eichmann 研究室からの論文で、ROBO1/2 に対する抗体が酸素誘導網膜症 (OIR) など異常血管増生を伴う病理に対し抑制効果があることを示した研究で、11月20日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Monoclonal antibodies that block Roundabout 1 and 2 signaling target pathological ocular neovascularization through myeloid cells( Robo1 と Robo2 シグナルに対するモノクローナル抗体は骨髄球により媒介される病的網膜血管新生を抑制する)」だ。

研究ではまず、ヒトROBI1、ROBO2 の細胞外ドメインを抗体の Fc と融合させ、これを抗原に使ってモノクローナル抗体を作成している。抗体の作り方は、ファージディスプレーと呼ばれる全く動物を使わない方法で作成しているが、抗原の調整法は私の研究室で習った方法をまだ使っていることを知ってうれしかった。結果、ヒト及びマウスの ROBO1/ROBO2 両方のシグナルをブロックできる抗体を作成して研究に使っている。

OIR に ROBO とそのリガンド SLIT が関わることはすでに知られている。この研究では、まず作成した抗体を OIR マウスに注射すると、血管新生を強く抑制すること、現在治療に用いられている抗 VEGFA 抗体と組み合わせると、さらに効果が高まることを示し、ROBO に対する抗体治療が、網膜異常血管形成症の治療法として期待できることを示している。

ただ作用のメカニズムに関しては ROBO シグナルの場合一筋縄ではいかない。というのも網膜ではROBO は様々な細胞で発現が見られ、最終的な効果がどの経路で起こるかを決めかねる点だ。この問題を single cell RNA sequencing と、そこで発現している遺伝子の量の比較から明らかにする試みを行っているが、多くの細胞でシグナルが誘導されていることがわかり、どの細胞と決めるのは難しい。

結局、ROBO1/2 を各細胞でノックアウトして OIR による異常血管新生を調べ、マクロファージ特異的にROBO がノックアウトされると血管新生が抑えられ、さらに ROBO 下流の PI3Kγ がマクロファージでノックアウトされた場合も血管新生を止められることから、マクロファージが SLIT で刺激を受けると、M2 型マクロファージに変化し、血管新生をサポートする VEGFA、IL-10、IL-12 などのサイトカインを発現する過程が抗体の標的であると結論している。

最後に、OIR だけではなく、加齢に伴う黄斑変性症モデルでもこの抗体が有効であることを示し、現在特効薬として用いられる BEGFA に対する抗体に加えて、ROBO に対する抗体を併用できることを示している。

結果は以上で、抗体とマクロファージ特異的ノックアウトの合わせ技一本といったところだが、もし ROBO 抗体が加わることで、血管新生抑制効果の長期持続が可能になることが見えると、新しい治療として確立する可能性はある。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月21日 ケトン体研究2題(11月12日 Cell オンライン掲載論文他)

2024年11月21日
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皇帝ペンギンは子供を守るために何ヶ月も絶食をし、さらにパートナーが運んできた餌も胃の中で留め置くことで自分の栄養にせずに子供に与えると言われている。すなわち、この間のエネルギーは体脂肪を β酸化して合成したアセチルCoA を使うが、同時にアセチルCoA から合成したケトン体をエネルギー源として使っている。どこかで読んだが、コウテイペンギンは子育てが始まると2ヶ月ぐらいまでは血中ケトン体が上昇を続けグルコースのようなエネルギー源として働く。ただケトン体の効果はエネルギー源にとどまらず炎症を抑えたり筋肉機能を上昇させたりすることが知られているが、特に脳神経に対する様々な作用は実際の臨床にも使われている。

ケトン体の脳神経への機能を調べた論文を2編読む機会があったので今日はそれを紹介することにした。最初のスタンフォード大学からの論文は、ケトン体の一つ βhydrooxybutyrate (BHB) が、アミノ酸と結合したあと脳の摂食中枢に働くメディエーターになることを示した研究で、11月12日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Ab-hydroxybutyrate shunt pathway generates anti-obesity ketone metabolites( β-hydrooxybutyrate シャント経路は抗肥満活性のあるケトン代謝物を生成する)」だ。

BHB やアセトンなどのケトン体は、それ自体の作用が研究されてきたが、この研究では BHB をフェニルアラニン (Phe) などのアミノ酸と結合させる酵素が存在し、ケトンが上昇するとこれが働いて BHB-Phe を腎臓腸で合成し、これが摂食中枢に働くことを示している。

このアミノ酸に BHB を添加する酵素を、腎臓と腸に主に発現している carnosine dipeptidase (CNDP2)であることを特定し、血中の BHB が上昇すると、BHB-Phe も上昇することをマウスで明らかにしている。

こうしてケトン体が上昇すると BHB-Phe が合成されることを明らかにした上で、BHB-Phe を直接投与する実験を行い、BHB-Phe が摂食を抑制し、体重増加を抑えること、逆に CNDP2 ノックアウトマウスではマウスが肥満になることを示し、新しい摂食抑制分子として利用できることを示している。

驚くことに、BHB-Phe を投与すると視床下部の一部の神経が c-Fos を発現する、すなわち刺激を受けること、また同じ CNDP2 で合成される Lactate-Phe も視床下部に直接働くが、作用する神経は別であることを示している。残念ながらこれ以上の解析がないため、BHB-Phe がシナプスに働くのか、あるいは細胞質内で反応を変化させているのかはわからないが、レプチン系も働いている接触中枢神経細胞に作用して食欲を抑えるという結果は、食欲調節を目指した創薬を活性化させる気がする。

もう一編はチリ・サンチアゴにある老化研究所からの論文で、老化マウスの脳に対するケトン体の効果を調べた研究で、ちょっと古いが Cell Reports Medicine の6月号に掲載された。タイトルは「Ketogenic diet administration later in life improves memory by modifying the synaptic cortical proteome via the PKA signaling pathway in aging mice(生涯の後期でケトンダイエットを行うことで、老化マウス神経細胞の PKA シグナル経路を介するシナプス機能を変化させ記憶を開戦する)」だ。

この研究では従来のケトン体研究の延長で新しいメディエーターの発見ではない。ただ、20-23ヶ月例の比較的高齢のマウスを用いてケトンダイエットを接種させ、認知機能への影響を調べている。ケトンダイエットを一ヶ月おきに繰り返すと、コントロールと比べて体重は増え気味になる。しかし、血糖は低下するので代謝改善ははっきりしている。

そして何よりも、運動機能や認知機能が高まり、生理学的には海馬での長期増強が見られ、神経細胞レベルで樹状突起やシナプスが上昇している。 この原因をプロテオーム解析を用いて探ると、cAMP/PKA シグナル経路が高まった結果、シナプス小胞の移送や細胞骨格などが活性化され、これが樹状突起などの長期変化につながると考えられる。そしてこの変化が持続することで、BDNF など神経増殖因子の分泌促進につながることで、認知機能の低下が抑えられると結論している。

以上、最初の論文はケトン体から新しいメディエータが合成され摂食を抑え、あとの論文ではケトン体自体が脳神経を活性化して認知を防ぐという結果なので、高齢でもケトンレベルをある程度維持することの重要性がわかる。これまで高齢者についてケトン体の効果の研究はあまり行われてこなかったが、重要な課題だと思う。

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11月20日 リボザイムを用いて大きな遺伝子も分割して細胞導入できる(11月15日 Science 掲載論文)

2024年11月20日
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遺伝子治療にはアデノ随伴ウイルス (AAV) などのベクターが必要なため、詰め込める遺伝子サイズに限界がある。例えば筋ジストロフィー治療に必要な Dystrophin 遺伝子などは大きすぎてベクターが使えない。今日紹介する米国・ロチェスター大学からの論文は、詰め込む遺伝子の方を分断して細胞に導入し、細胞の中で転写された RNA を再結合して大きな遺伝子の導入を可能にする方法の開発で、11月15日号 Science に掲載された。タイトルは「Ribozyme-activated mRNA trans-ligation enables large gene delivery to treat muscular dystrophies(リボザイムにより離れた mRNA の結合を活性化することで大きな遺伝子を導入して筋ジストロフィーを治療できる)」だ。

この研究が目指したのは、大きな遺伝子を半分に分けて別々に RNA に転写させたあと、一本の RNA がスプライシングされるように RNA を再結合させる方法の開発だ。ただ、スプライシングとは異なり別々に転写された RNA を結合する必要がある。

この研究では、一部の特殊な RNA のスプライシングに関わる RtcB 酵素の働きを利用して別々に転写された RNA を一本の RNA にまとめたあと、それぞれに組み込んだスプライス標識を使ってスプライシングさせ、完全なmRNAに仕上げることが可能かにチャレンジした。

そのために、まず別々に転写されたRNAを、スプライスドナー、スプライスアクセプターの二つの標識配列が露出した2本の RNA として並べる必要がある。この目的に、発現させたい遺伝子に転写が起こると自らを切断するリボザイム( RNA でできた酵素)を組み込み、RtcB で切断部位をまとめたあとスプライシングさせ、完全長な mRNA ができるようにしている。

RtcB が発現している細胞なら、全てこの方法で1つの遺伝子を半分に分け、細胞に導入してから細胞の中で一本の完全 mRNA になることを確認し、またこの過程でスプライシングを受けなかった異常タンパク質がほとんどできないこと(リボザイムで切断されると、融合できないと自然に分解される)を確認したあと、大きな遺伝子の代表、DysferlinとDystrophin を AAV ベクターを用いて筋肉に発現させる治療が可能か、マウスで検討している。

いずれの遺伝子の場合も、2つに分けた遺伝子をそれぞれ AAV ベクターに詰めて腹腔注射することで、遺伝子がノックアウトされ病気を発症したマウス筋肉がこのような大きな遺伝子を正確に発現し、機能が回復することを示している。

以上が結果で、大きな遺伝子に限る話だが、一つの遺伝子を2つに分けても、最初から完全な遺伝子を導入した場合と比べ8割程度の効率で遺伝子発現が誘導できているので期待が持てる。Dystrophin 遺伝子の場合は2つに分けても大きすぎるので、機能が確認されるより短いフォームの Dystrophin 遺伝子を用いて治療実験を行っている。しかしひょっとしたらスプライシングのように、数個の部分をつなぎ合わせることもリボザイムを用いると可能になり、導入できる遺伝子の大きさの制限はなくなるかもしれない。

また、この研究ではもう一つの利用法としてこれまで AAVベクターでは導入が難しかった次世代型遺伝子編集技術 Prime-Editor も AAV ベクターで利用でき、作用時間を制限した遺伝子編集が可能になることも示している。このように、ベクターの制限を超える必要のある場合は数多く存在する。

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11月19日 頭の骨では歳をとっても若々しさを保ちうる(11月13日 Nature オンライン掲載論文)

2024年11月19日
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我々の骨髄は歳とともに脂肪で置き換わり、骨髄造血のキャパシティーは低下する。また、自然炎症が誘導され、この結果クローン性造血が起こることも知られている。ただ、これらは全て軟骨内骨化と呼ばれる方法で形成される腸管骨での話で、膜内骨化と呼ばれる方法で形成される頭蓋骨での造血についてはほとんど調べられていない。

今日紹介するドイツ・ミュンスターのマックスプランク分子生物医学研究所からの論文は、軟骨内骨化で形成される腸管骨と、膜内骨化で作られる頭蓋骨の造血は全くことなり、特に高齢者でも頭蓋骨の造血能は若々しいことを示した驚くべき研究で、11月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Adult skull bone marrow is an expanding and resilient haematopoietic reservoir(成人の頭蓋骨骨髄は年齢とともに拡大し回復力の高い造血細胞の供給源だ)」。責任著者の Ralf Adams は血管生物学を通して交流があったが、この仕事は彼のセンスの良さを物語る。

研究ではまず頭蓋での血管の発生をつぶさに観察し、腸管骨の逆で、生まれたばかりではほとんど血管が発達していないのに歳とともに発達し、老化マウスでもしっかりと血管毛が構築され散ること、そして骨髄の特徴である静脈叢が形成されていることを明らかにする。しかも、老化後の頭蓋骨髄静脈叢はマウスでもヒトでも見られ、女性の方が発達している。

この理由の一端は妊娠期に急速に頭蓋骨髄静脈叢が発達するためかもしれない。実際、頭蓋の静脈叢の形成は、脳卒中など様々な刺激状態で誘導され、副甲状腺からでるパラトルモンの刺激でも誘導されるように、かなり機動的にできている。

この頭蓋骨骨髄では完全な造血が起こるのだが、面白いことに血管の発達は頭蓋由来の造血幹細胞を移植したときに最も強く誘導され、おそらく造血幹細胞が発現している血管増殖因子 VEGFA の作用によると考えられる。実際、腸管骨では年齢とともに VEGFA の量は低下するが、頭蓋骨では逆に上昇する。

また、老化マウスでは頭蓋骨で若々しいバランスのとれた造血が行われるため、血液細胞の供給源としては優れていることも示している。すなわち、頭蓋あるいは腸管骨の骨髄をシールドして放射線照射すると、頭蓋をシールドした方が造血回復力が高く、照射後のマウスの生存率を上昇させられる。また、頭蓋由来の造血細胞と腸管骨由来の造血細胞を追跡すると、頭蓋由来造血細胞の数が他の造血細胞を凌駕することがわかる。

しかも、頭蓋では炎症性のサイトカインの発現が低く、老化に伴う骨髄球への造血バランスの変化も見られない。

以上が結果で、これまでこの事実が全く知られなかったことが驚きで、様々な現象を観察して気づく力の重要性がよくわかる論文だと思う。また、我々高齢者にとっても、若さを維持している臓器があることはうれしい結果だ。

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11月18日 人間の長い成長期はいつ進化してきたのか(11月13日 Nature オンライン掲載論文)

2024年11月18日
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他の動物と比べたとき、長い成長期と、長い生殖期後の生が人間の特徴で、生物論的だけでなく、文化論的にも研究が続いている。文化論的な研究で最も有名なのはフランスの歴史学者フリップ・アリエスの「子供の誕生」で、子供を小さな大人として見ていた中世から子供を子供として育てる近代への歴史を分析した。とはいっても、人類誕生以来人間の子供を授乳期を超えてケアする必要があり、種としての大きな負担を背負っても脳をはじめとする人間の特徴を獲得したことが人類の繁栄をもたらしたことを物語る。

今日紹介するスイスチューリッヒ大学とフランスグルノーブルのヨーロッパシンクロトロン施設からの論文は、グルジアで発掘された約180万年前の直立原人ドマニシ原人について、若くして死亡した個体の歯をシンクロトロンで分析して、サルや我々人間歯の成長と比較した研究で、11月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Dental evidence for extended growth in early Homo from Dmanisi(ドマニシ原人も長い成長期を持っていたことが歯の分析からわかる)」だ。

ドマニシ原人はおそらくヨーロッパでは最も古いエレクトスにあたり、185-177万年前に生息していたと推察される。多くの完全な頭蓋が出土し、例えば歯が全くないのに生きていた老人や今日紹介する成長期の子供など、人類の社会構造を知る重要な遺跡と考えられている。

この研究で選ばれたのは歯が完全に残っている11歳の子供で、永久歯が生え替わったあと成長が終わる前に死亡しており、歯が成長して乳歯と置き換わり成長しながら使用される歴史を調べることができる。もちろん貴重な化石なので歯を傷つけることはできない。代わりに、大規模シンクロトロンからの放射光を用いた立体断層分析で全ての歯の内部を調べている。

方法の詳細は割愛するが、この検査により生後すぐに形成される歯冠を起点に成長期に起こる縞やストレスによる線など、実際には週単位での成長の様子が分析できる。その結果、ドマニシ原人の歯全体の成長軌跡は類人猿とは異なりほとんど我々と一致する。一方、これまで分析されたアウストラピテクスの歯の軌跡はチンパンジーやボノボに近い。

ただ、乳歯に生え替わるまでの成長は人間と比べると早く、我々より早く永久歯に置き換わり、大体12-13.5歳で歯の成長が止まったと考えられる。また我々と同じで、臼歯の成長が最も遅い。いずれにせよ、生後すぐに成長が鈍化し始める類人猿とは異なり5歳まで緩やかに成長が続き、その後成長が遅くなる人間型の軌跡が確認された。

以上が結果で、歯からも直立原人から様々な人類の特徴が獲得されたことの新しい証拠になる。おそらく食物を石器で処理するようになったことも重要な要因だったと考えられるが、ドマニシ原人はまだオルドワン型の石器を使っており、また人間の歯形が残っている動物の骨が見つかっていることから、人間の食が大きく変化する時期に当たると考えられる。特に歯が完全に抜け落ちている老人の生存が確認されていることから、今後歯の研究と生活に関する考古学を統合して調査が進むことで、エレクトスがどのように人間の特徴を獲得したのか、またそれが人類進化にどのようなインパクトを及ぼしたのか、などが明らかになるのではと期待される。

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11月17日 DNA 言語による生成 AI (11月15日 Science 掲載論文)

2024年11月17日
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人間が利用する情報メディアは、生命誕生以後進化の結果生まれた生物学的なメディア(DNA, RNA, epigenome)から、人間の脳活動から生成された言語をはじめとする様々な人工メディアまで多種多様だが、最近の生成 AI では、DNA と自然言語の二つの流れに集約している。今年のノーベル賞が示すように DNA に情報を集約する生成 AI は大きな成功を収めているように思うが、ゲノムのような大きな情報の全体までカバーできているかと考えるとまだまだで、現在のところ個々の遺伝子というレベルで解析がとどまっている。これは原核生物のゲノムでも自然言語で書かれた本と比べても長く、現在のトランスフォーマー/アテンションでは注目すべきトークンを決めるアテンションの扱える長さに限界があるため、開発が遅れていた。

今日紹介するスタンフォード大学と Arc 研究所からの論文は、トランスフォーマーの代わりに最近開発された StripedHyena を用いることで、13万トークン(この場合1トークンが一塩基部分に対応するため、130Kbの配列に当たる)をアテンションできるモデルを用いて、原核生物ゲノム3000億塩基対を学習させた Evo と呼ぶモデルを作成している。

まず同じデータをトランスフォーマーなど他のモデルに学習させ、処理スピードなどを比べ、期待通り StripedHyena が他のモデルを凌駕することを確認した上で、ゲノム全体のコンテクストを Evo がどこまで抽出できるか様々な角度から調べている。

まず、ゲノム上に突然変異が起こったとき、バクテリアが生存できるかどうか、実際の実験データのあるバクテリアについて調べると、もちろん完璧ではないが他のモデルと比べてパーフォーマンスは高い。他にも、タンパク質に翻訳されない noncoding RNA の必要性や、プロモーターの必要性など、それ専用に開発されたアプリに匹敵できるパーフォーマンスを示す。すなわち、長いゲノムのコンテクストの中で突然変異や各領域の意味を予測できる。

そこで、生成 AI として新しい意味のある配列を精製できるか調べる目的で、ガイド RNA などの領域と、DNA 切断する Cas9 が一体となってコードされている CRISPR-Cas を学習させ、そのあと11種類の Cas9 配列をプロンプトとして用いてファインチューニングすることで、新しい Cas9 とクリスパーセットを生成させている。もちろん生成された配列の中には全く機能を発揮できないものも存在するが、EvoCas9-1 と名付けた新しい配列は知られている Cas9 とは70%程度の相同性しかないが、十分機能することを実験的に確かめている。すなわち、機能的タンパク質とノンコーディング RNA をセットとして新たに生成することができる。

同じように、トランスポゾンのように遺伝子組み換えに使えるユニットを新たに精製できるかも調べ、相同性が60%程度でもトランスポゾン活性を持つ配列を予測できることを示している。

また、ゲノムがコードするどの遺伝子が細菌の生存に必要かについても、実際のノックアウト実験にかなり近い予測が可能であることを示している。

その上で、独立した細菌に必要なゲノムを予測させる実験を行い、生成された新たなゲノムに細菌が生きるために必要な遺伝子やノンコーディング領域が実際の細菌と同じような構造を示して並んでおり、予測された遺伝子の構造もアルファフォールドで予測できることを示している。すなわち、現存しない生命を新たに設計する可能性に近づいたことを示している。ただ、こうして予測したゲノムには tRNA は揃っていてもリボゾーム RNA が3種類しかなく、生命の設計図からはほど遠い。

以上が結果で、確かにまだまだ完全とはいえず原核生物に限られたモデルだが、生成AIの常で GPT-1 が大きなパラメータを扱えるサイズに高めて GPT-4 になると、予想以上の完全性を発揮するのと同じで、今後生命情報の設計が可能になる可能性は十分ある。

この論文のサプリメントには倫理と安全性についても議論が行われており、著者自らもその可能性に驚いた結果だと思う。

この論文を読んで最も印象に残ったことは、我々素人はトランスフォーマーが全てと思ってしまうが、すでにこの限界を破るべく新しいモデルが続々開発されていることで、先月紹介したグーグルからの論文では新しいチンチラと呼ばれるパラメーターを減らして同じパーフォーマンスを得るモデルが使われていたし、今回の StripedHyena はアテンションできるトークンの長さ伸ばすモデルで、すさまじい競争が進んでいるのを実感する。このような新しいモデル開発での我が国の実力についても是非知りたい。

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11月16日 日本人集団の多様性を決める縄文ゲノム(11月12日 Nature Communication 掲載論文)

2024年11月16日
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ゲノムデータから日本人集団の共通性と多様性を解析する研究は、日本人の古代ゲノムデータが少ないこと、従来の考古学と古代ゲノム研究の共同が進まないこと、さらには皇国史観などゲノム研究を阻む要因などから、かなり遅れている気がする。ただ、この遅れの最大の要因は、人類学をゲノムに基づいて推し進めていく若い人材が少ないことだろう。しかし、外国で研鑽を積んだ新しい世代が育っているようで、これまですでに2編の論文を紹介したダブリン大学・金沢大学の中込さんなどには期待を寄せている。

今日紹介する論文はこの中込さんと大阪大学の岡田さんのグループが、日本のバイオバンクに登録された日本人の GWAS データを、縄文人ゲノム、北東アジア人ゲノム、東アジア人ゲノムの3系統から見直した論文で、個人的には初めて日本人のゲノム構成のイメージを得ることができた面白い研究で、11月12日 NatureCommunication にオンライン掲載された。タイトルは「Genetic legacy of ancient hunter-gatherer Jomon in Japanese populations(古代縄文の狩猟採取民の日本人集団への遺産)」だ。オープンアクセスの論文なので是非元の論文を読んでほしいと思う。

中込さんたちは2021年の論文(https://aasj.jp/news/watch/17944)で、日本人集団を、南からの縄文人と農耕を導入した北東アジア人、そして古墳時代の東アジアの3系統から見ると、集団構成がよく理解できることを示していた。

この研究では、これをもとに、いくつかのバイオバンクのゲノムデータを解析し直し日本人集団の構造を明らかにしている。

いろいろな解析が行われているが、やはり圧巻は最初の図で、北海道、東北、関東、中部、近畿、九州、そして沖縄と、今でも明確な集団の違いを認めることができる。以前英国人について行われた2015年の論文を紹介して、現代のように人が移動する時代にも各地方のゲノム構成が異なっていることに驚いたが(https://aasj.jp/news/watch/3088)、まさに日本でも同じだと認識した。

さらに驚いたのは、縄文のゲノム割合の多い沖縄奄美地方のゲノム構成で、宮古島、沖縄本島、沖永良部、与論と、そして奄美と、各島々で沖縄本島を中心に異なるゲノム構成を持つ集団が維持されていることだ。特に与論島で縄文ゲノムの比率が最も高いのは興味を引く。どのような交流の結果なのか、今後考古学との共同が進むと面白い分野になると思う。

いずれにせよ、日本人の集団を考えるときに、縄文ゲノムからの遺産が重要な要因であることは明らかで、例えば北海道のアイヌと琉球に縄文が分かれていった歴史や、特に交雑がはっきりしている集団の歴史など、是非今後進めてほしいと思う。

この研究では、GWAS の SNP の中から縄文人の標識に使える多型を132種類特定し、そのうえで現代人の健康と明確に相関する多型を探索し、いくつかの多型を総合した縄文人のスコアが現代人の BMI と明確な相関を示すことを明らかにしている。ただ、これらの多型は、集団の遺伝的アドバンテージになるとして選択されたことが明らかで、BMI と関わるようになったのは、我々が飽食の時代に生きるようになってからのことになる。

こうして発見した多型が確かに BMI と相関することをUK バイオバンクのデータまで使って詳しく解析しおり実力を感じるが、日本人の我々にとってやはりこの研究のハイライトは図1に集約している。この研究に参加した研究者は国立科学博物館の篠田さん世代と比べても新しいダイナミズムが感じられ、今後ますます面白い日本の歴史を明らかにして行ってくれることを期待する。

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11月15日 ApoE アイソフォームとアルツハイマー病リスクを脂肪代謝から説明する(11月11日 Cell オンライン掲載論文)

2024年11月15日
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希なバリアントを無視すると、ApoE には E2、E3、E4 の3種類のアイソフォームがあり、E2 はアルツハイマー病 (AD) 発症を抑える方向に働き、一方 E4 は AD のリスク要因であることがわかっている。ApoE の正常の機能は脂肪代謝で、血中の脂肪運搬機構の一端を担っており、脂肪が詰まったリポタンパク質粒子に他のアポタンパク質と一緒にロードされ、LDL 受容体を介して脂肪の各組織間の運搬に関わっている。従って、AD の発症を ApoE による脂肪代謝調節と絡めて考えるのが正当な気がするが、実は ApoE に結合する受容体が LDL 受容体だけではなく、他にも存在することから、脂肪代謝の枠内だけで説明することができていなかった。

その意味で今日紹介する NICO Therapeutics と Denali Therapeutics 、2つのベンチャー研究所から発表された論文は、レアバリアントも含め ApoE アイソフォームと AD の関係を純粋に LDL 受容体を介する脂肪代謝の枠内で説明した面白い研究で、11月11日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Decreased lipidated ApoE-receptor interactions confer protection against pathogenicity of ApoE and its lipid cargoes in lysosomes(脂質が付加された ApoE と受容体の相互作用の低下が ApoE と脂肪カーゴのリソゾーム内での病理性を低下させる)」だ。

タイトルを見ると複雑そうな印象だが、内容は明確でわかりやすい。まず、E2、E3、E4 それぞれのアイソフォームを持った脂肪が付加されたリポタンパク質を調整し、これらと LDL 受容体の結合を様々な系で調べると、E3、E4 の結合と比べ E2 では極めて低い親和性でしか反応しない。その結果、ApoE や付加された脂肪の細胞内への取り込みが E2 ではほとんど見られない。

LDLR とリポタンパク質はエンドサイトーシスにより細胞内小胞を形成し、一部はリソゾームと融合、一部は膜へとリサイクルされ、LDL 受容体が細胞表面で再利用されるが、E3、E4 を取り込んだ場合ほとんどがリソゾームに移動して、そこでトラップされた結果、LDL 受容体の発現が低下する。一方で、E2 を持つリポタンパク質はほとんど細胞内に取り込まれず、さらに LDL 受容体の細胞表面の発現が上昇する。

LDLR はアストロサイトの Aβ の取り込みにも関与が示唆されており、E3/E4 と比べると E2 は細胞表面の LDL 受容体量を高めることで AD のリスクを低減しているといえる。ただ、この結果だけでは E3 と比べ E4 の AD リスクが高くなることは説明できない。

そこで、取り込まれたとき細胞の自然免疫系を活性化する、コレステロールエステルの取り込みを調べている。コレステロールも他の脂肪酸と同じでリポタンパク質カーゴに乗って細胞間を移動する。他の脂肪と同じで、E3、E4 リポタンパク質カーゴにロードされたとき、コレステロールエステルは細胞内リソゾームに取り込まれるが、E2 では取り込みが少ない。

ところがコレステロールによる自然炎症刺激を調べると、E3 の方が E4 より炎症刺激能力が高い。従って、これだけでは E4 で AD リスクが高くなることを説明できない。

そこで AD や老化の指標として考えられているリポフスチンの蓄積に焦点を当てて、E3、E4 を比べている。リポフスチンが由来するポリ不飽和脂肪酸を含むコレステロールエステルは E3、E4 は同程度に取り込む。しかし、pH が低いリソゾーム内でリポフスチンが形成される量はE4により取り込まれたときの方が E3 により取り込まれるより遙かに高い。この原因はリソゾーム内で E4 リポタンパク質の方が凝集しやすく、これがリポフスチン形成を高めていると考えられる。

一方、E2 と同じで、E3、E4 もクライストチャーチ型変異が入ると、LDL と結合せず、その結果脂肪やコレステロールの取り込み、そしてリポフスチンの形成も全く起こらない。

以上の結果から、ApoE アイソフォームの AD への関わりは、E3、E4 が LDL 受容体の再利用を妨げることで、Aβ の取り込みが低下すること、そして E4 が取り込んだポリ不飽和脂肪酸を含むコレステロールからリポフスチンへの転換を高めることの2種類の経路を通して AD の発生に関わると結論している。

ApoE と LDL 受容体を中心に脂肪代謝だけで ApoE と AD の関係を説明しきったことは重要だ。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月14日 お腹の概日周期と脳の概日周期の調整(11月8日 Science 掲載論文)

2024年11月14日
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私たちの細胞は地球の自転に適応してほぼ24時間周期の概日リズムを刻んでおり、このメカニズムについてはよく研究されている。ただ、時計のように個体の事情とは独立に周期が刻まれると時差のような問題が起こるので、脳の場合日照時間、肝臓の場合摂食行動などで調整が効くようになっている。

今日紹介する米国・ペンシルバニア大学からの論文は、肝臓の概日周期が狂った時、脳にどのような影響が及ぶかを調べた研究で、11月8日号の Science に掲載された。タイトルは「Hepatic vagal afferents convey clock-dependent signals to regulate circadian food intake(肝臓の迷走神経求心路が概日周期依存的なシグナルを弓状核に伝えて摂食を調整する)」だ。

これまで脳の概日周期の変化を身体の細胞に伝えるという研究は見たことがあるが、肝臓の概日周期が脳の特に摂食行動に伝わるかという研究はあまりお目にかかっていない。この研究では、肝臓細胞で概日周期を調節している ERBα 、ERBβ をノックアウトしたマウスを作成し、まず摂食を調べると、摂食量が大きく上昇することを発見する。

ただ、肝臓の概日周期が変化しても、脳弓状核の概日周期が壊れるわけではなく、また先日紹介したレプチン反応性のホルモン、Agrp やメラノコルチンの発現も変化しない。ところが、もう一つのレプチン反応性神経の Pomc の発現が低下する。紹介したようにこの細胞は食べ過ぎを抑える神経で( https://aasj.jp/news/watch/25555 )、この発現が低下すると摂食が高まる。

面白いことに、脳の概日周期は維持されていても、肝臓から脳への迷走神経や、脳の弓状核の遺伝子発現は大きく変化している。このパターンから、迷走神経の変化を介して弓状核の変化が起こっている可能性が高いので、次に肝臓の迷走神経を外科的に切除して同じ実験を行うと、今度は摂食量の上昇を抑えることができる。また、遺伝子操作で肝臓から脳への求心神経だけを除去しても、同じように摂食を抑えることができる。

最後に、肝臓の概日周期を変化させることがわかっている高脂肪食を与えたマウスの摂食行動を調べると、やはり摂食量が上昇し、その結果体重も上昇するが、迷走神経切除で摂食行動を元に戻すことができる。

以上が結果で、要するに摂食という生きるためのリズムに合わせて脳を調整し、特に摂食を抑えるメカニズムを抑制することがわかった。残念ながら先日紹介した食に飛びつく運動を抑制する BDNF 経路( https://aasj.jp/news/watch/25547 )については調べられていないが、おそらく同じように抑制されているのではないだろうか。

食べ過ぎないように身体に合わせる仕組みがいかに重要かよくわかる研究だった。

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