4月4日 サルの脳発生過程をヒトに近づける方法(4月15日発行予定 Cell 掲載論文)
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4月4日 サルの脳発生過程をヒトに近づける方法(4月15日発行予定 Cell 掲載論文)

2021年4月4日

サルの惑星で描かれた様にチンパンジーやゴリラの脳が人間と同じレベルに達するためには、脳神経細胞数を人間と同じレベルにまず増やすか、あるいは限られた脳神経細胞のネットワークを鍛えるかしかない。しかし、人間の脳神経細胞数はゴリラのそれと比べると、実に3倍もあり、この方向での実験は難しい。このため、サルの人間化作戦はもっぱら訓練を通して、人間の持つ機能をサルの持つ回路の中で再現することに集中してきた。

今日紹介する英国MRC研究所からの論文は、試験管内であれば、発生過程でゴリラの脳神経細胞数を増やす可能性があることを示した面白い論文で、4月15日発行予定のCellに掲載された。タイトルは「An early cell shape transition drives evolutionary expansion of the human forebrain(早期の細胞形態の移行がヒトの前脳拡大の進化の原動力になった)」だ。

もちろん個体内でサルの脳神経細胞数を増やす実験が可能になったとしても、頭蓋内に収まりきらずに残酷な結果に終わるだろう。脳の進化は体の進化と協調して初めて可能になる。代わりにこの研究では、亡くなった笹井さんが開発したiPSから脳のオルガノイドを形成させる方法を用いて、発生途上で脳上皮での神経細胞増殖と分化を、人間とゴリラと比べている(チンパンジーを用いる実験も行っている)。まさに、iPSとオルガノイドが可能にした全く新しい分野だ(このような論文を読むにつけ、山中さんと笹井さんのタッグが我が国で続いていたらと悔やむ)。

iPSからスタートして脳のオルガノイド形成を種間で比べる実験が難しいのは、近縁といえども条件が違いすぎて、本当に同じ条件で比べているのかわからない点だ。おそらくこの研究でも、サルと人間で同じプロセスを誘導できるという確信を持てる培養法に多くの時間を割いたのだと思う。この培養法がこの研究の前提なので、素直に信じることにする。

オルガノイド培養というと一年近く培養を続けることもある様だが、この研究では神経誘導を始めてから大体10日ぐらいまで、すなわち上皮形態をとる神経上皮細胞 (NE)から、神経前駆細胞として働くradial glia細胞(RG)までの過程を対象とし、ここで脳の大きさの基礎が決まると考えている。実際、同じスケジュールで培養条件を変化させた場合、5日目まではほとんどオルガノイドの大きさはサルも人間も変わらないのだが、10日目になると人間の方が2−3倍大きくなる。すなわち、人間とサルの脳のサイズはこの時期の違いで決まると結論している。

あとはこの原因を形態学的に探ると、NEが中間段階tNEを経てRGへと変化するタイミングが人では遅れること、またtNEの期間が長いことを発見する。当然ながら、発現遺伝子もこの変化と呼応しており、例えば細胞周期に関わる遺伝子群や、上皮間葉転換に関わる遺伝子群など、それぞれの種で発現は同じだが、発現のタイミングが人間では遅れる。この遅れは培養5日目前後で見られるちょっとした違いなのだが、人間では最も未熟なNEの増殖が長く続いて、その結果オルガノイドが大きくなる。

最後に、この変化の元となるマスター遺伝子を検索して、最終的に上皮間葉転換のドライバーの一つとして知られているZEB2がゴリラでは神経上皮培養を始めて2日目ぐらいから発現して、5日目ではピークになる一方、人間では5日目に始めて発現して10日目にピークになることを発見する。また、発現レベルもゴリラの方が高い。

この結果から、ZEB2こそが発生初期でNEからtNE、RGへの転換を促す、脳の大きさを決めるマスター遺伝子であると結論し、このZEB2の発現量をDoxで誘導できるiPSを用いてZEB2を早く発現させて、ヒトのオルガノイドが、ゴリラ型に変化するかどうかを調べ、期待通り早くZEB2を誘導すると、大きさから細胞骨格まで、ゴリラ型に変化することを確認している。

では最後に、ZEB2の発現を遅らせてゴリラを人型に変えられるかだが、この実験は簡単でない様で、代わりにZEB2がBMPシグナル下流のSMADに結合してシグナルを抑制する点に注目し、ZEB2の機能を、過剰なBMP4添加で抑える実験を行っている。おそらく細胞数が大きく変化するところまではいかない様だが、しかし上皮構造が壊れるのが遅れることを確認している。

詳しくは述べなかったが以上の結果は、発生初期、神経管を形成するNEでZBE2が発現すると、BMPシグナルが抑制され、上皮間葉転換が誘導され、神経管内のアピカル側の上皮構造が壊れ、RGへの分化転換が誘導されることを示している。そしてこのタイミングを遅らせることでNEの数を調節できるという可能性を示唆された。この細胞骨格変化による極性変化が、この転換の主役であることを示すために、最後に細胞骨格動態を変化させるLPSを用いて、同じ様にゴリラオルガノイドを人間型に変換できることも示している。

以上、ゴリラも試験管内では、人間型に発展させられるという話だが、これが高次機能につながるかどうかはわからない。いずれにせよ、iPS とオルガノイドの組み合わせは、今や精神疾患から、高次脳昨日研究に欠かせないツールになっているのをみると、笹井さんを失ったのは残念だ。

カテゴリ:論文ウォッチ

4月3日 植物から昆虫への水平遺伝子伝搬(4月1日号 Cell 掲載論文)

2021年4月3日

遺伝子組み換え食品に反対する人たちの最も大きな懸念は、人工的生物が生態系を乱す心配で、この問題は解決できているわけではない。一方、組換え食品を忌避する最も強い理由は、組み換えた人工遺伝子が我々のゲノムに組み込まれるのではないかという懸念だが、これについては私もありえないと笑って済ませている。

確かに細菌と共生する昆虫では、細菌からの水平遺伝子伝搬が観察されている。しかし、これらの場合細菌が直接生殖システムに住みつくなど(アブラムシとボルバッキア)、生殖系列のゲノムに遺伝子が伝搬しやすい生態が前提になっている。しかし、消化管で消化した核酸が、生殖系列のゲノムに伝搬されることは、私の頭の中ではありえない可能性だ。ただ、40億年前に無生物から生物が誕生してきたことを考えると、長い進化の中では、確率的にありえないことが起こっても不思議はない。

今日紹介するスイス ヌーシャテル大学と、中国農業科学院からの論文は、少なくとも昆虫では、植物の遺伝子の昆虫ゲノムへの水平遺伝子伝搬が起こりうることを示した研究で、4月1日号のCellに掲載された。タイトルは「Whitefly hijacks a plant detoxification gene that neutralizes plant toxins(コナジラミは植物の解毒遺伝子を取り込んで植物毒素を中和する)」だ。

この研究が対象にした昆虫はBemisia tabaci(シルバーリーフコナジラミ)で北アメリカ原産のアブラムシの仲間だ。我が国では、1989年に初めて存在が確認されたが、トマトをはじめ様々な植物の害虫として日本全体に広がりつつある。害虫としてのこれほど高い能力の理由の一つが、Bemisia tabaciが、食物が出す毒素phenolic glycosides(PG)を解毒でき能力を持つからで、この仕組みを解明するための研究が行われている。

この研究では、Bemisia tabaci のPG解毒分子をゲノムデータから探索し、マロニルトランスフェラーゼ(MT)遺伝子を特定する。そしてこのMT遺伝子を他の種と比べる過程で、なんと植物由来のMT遺伝子と系統的に近縁で、植物のMTが水平伝搬したとしか考えられないことを発見する。もともとMTは植物自身が自分の毒素を解毒するために持っている分子なので、Bemisia tabaciは進化の過程で植物のMTを自分のゲノムに取り込むことで、PGを解毒できる、最強の害虫へと進化したことになる。

あとは、実際にこの遺伝子一つを取り込むことが、PG耐性獲得につながったのかを確かめる実験を行い、

  • 解毒できない量のPGはBemisia tabaciに毒性を発揮する、
  • RNAiでMTを抑制すると、一部のPGに対する耐性が消失する、
  • リコンビナントMTはPGを分解できる、

などを明らかにしている。すなわち、この分子一つでBemisia tabaciが、植物の防御網の一つPGを破れることを示している。

最後に、トマトにMTに対するRNAi配列を挿入した組み換えトマトを作成して、葉っぱを食べたBemisia tabaciのMTを不活化して、PGに対する抵抗力を弱められるか調べ、期待通りRNAiを組み込んだ組み換えトマトはBemisia tabaciを撃退することに成功している。このグループとしては、今世界で問題になっているBemisia tabaciから農産物を守れることを示している。

結果は以上で、水平遺伝子伝搬が起こる過程については全くわからないままだが、生物の世界では何が起こってもおかしくないことが再認識できた。だからといって、体に危険だからを理由に遺伝子組み換え食物を避ける理由にならないと私は確信するが、水平遺伝子伝搬が絶対起こらないと、笑って済ませることはもうできない。

カテゴリ:論文ウォッチ

4月2日 吸入型コロナ感染予防薬(3月26日号 Science 掲載論文)

2021年4月2日

新型コロナウイルス(CoV2)の細胞内侵入を阻止する予防目的で利用できるのは、現在のところワクチンと、感染前から投与することができるスパイクに対する抗体だが、ワクチン接種を着実に進める先進各国と比べると、我が国ではまだ医療従事者についても終わっていないという寂しい状況だ。ただ予防には免疫だけではなく、他にも開発段階の様々な方法が存在する。例えば、TMPRSS2阻害剤のナファマモスタットを吸入剤として用いる方法が第一三共で治験段階に入ったと報じられており、スピード感がない様な気もするが個人的には期待している。

直接ACE2とウイルスの結合を標的にする薬剤も開発が進んでいる。中でも論理的で期待できるのがコロナスパイク分子に結合して細胞への感染を防ぐペプチドだ。なんと、50%阻害が50pMレベルのペプチドが開発され、例えばゲルに混ぜて鼻への感染を防ぐ可能性が考えられていることを昨年10月紹介した(https://aasj.jp/news/watch/14170)。

今日紹介するオランダ エラスムス大学と米国 コロンビア大学からの論文は、やはりペプチドを使って感染阻害を目指すが、ポリエチレングリコールやコレステロールを付加して、細胞膜からエンドゾームに取り込まれ、ウイルス粒子と細胞膜との融合を阻害する様工夫を凝らした分子構造になっている。タイトルは「Intranasal fusion inhibitory lipopeptide prevents direct-contact SARS-CoV-2 transmission in ferrets (経鼻的に投与した細胞との融合を阻害するリポペプチドはフェレットモデルでのSARS-CoV-2感染を防ぐ)」だ。

前回紹介した論文ではペプチドをスパイクが結合するACE2を基に設計して、ACE2とスパイクの結合を阻害する戦略をとったが、このグループはウイルスのスパイクタンパク質のHeptad repeat(HR)と呼ばれる領域そのものを用いて、スパイクがACE2に結合してから大きな構造変化を行い、細胞膜同士の融合が起こる過程を阻害するリポペプチドを設計し、用いている。この方法だと、CoV2のみならず、SARSやMERSなど近縁のコロナウイルス全てに効果を示す可能性がある。

基礎的な条件検討の結果、最終的に2個のHRをポリエチレングリコールとコレステロールで結合させた分子が、培養細胞へのウイルス感染を抑制する効果が最も高いことを確認し、リポペプチドをその後の研究で用いている。

期待通り、このリポペプチドを用いると、MERSウイルスに対する阻害効果は低下するものの、CoV2であれば、現在問題になっている3種類の変異型全てに効果を発揮する。

次に、この分子をDMSOや蔗糖に溶かして鼻からエアロゾルではなく液滴を点加する方法で投与して、生体内での分布を調べると、24時間経ってもほとんどが肺に止まって、血中にはほとんど入らない。

最後にフェレットを用いて、ウイルスを鼻から感染させる実験、および感染したフェレットと同じケージで同居する実験を行い、このリポペプチドを鼻から投与しておけば、24時間はほぼ感染が防げることを示している。

結果は以上で、今後実際の臨床により即した投与方法などが決まれば臨床治験に進めるのではと期待できる。懸念があるとすると、RNAワクチンと同じポリエチレングリコールが含まれているため、アナフィラキシーが起こるかもしれないこと、ペプチドに対する抗体ができてしまう懸念、そしてコストだが、これらがクリアされれば、街に出る前に、あるいは会食前にスプレーで予防するといった使い方も可能になる。

さらに以前紹介したスパイクとACE2の結合を阻害するデザインペプチドは阻害メカニズムが違うので、併せて使うことも可能だ。

今ワクチンだけが一縷の望みといった状況が生まれてしまっているが、ナファモスタット吸入も含めて、この様な予防薬の開発を、以前紹介した新しい治療薬開発とともに加速させることが重要だ。また、臨床治験のあり方も根本的に考え直してもいいかもしれない。要するに常識に囚われずに、新しい可能性を支援することが求められている。

ちょうど一年前、ワクチンの話が出た時、ワクチン開発には10年もかかるという常識論を専門家すら口にしていた。しかし蓋を開けると、RNA ワクチンでは3相試験までに6ヶ月、実用化が10ヶ月というスピード開発で、今や専門家もワクチン一色に染まっている。有事に際して、常識ほど厄介なものがないことを思い知らされたこの一年だった。

カテゴリ:論文ウォッチ

4月1日 最小生物を用いて生命の条件を解く(4月29日発行予定 Cell 掲載論文)

2021年4月1日

このホームページでは、毎日論文を紹介するだけでなく、授業や講演の準備として書きためた文章を残している(https://aasj.jp/lifescience-current.html)。書いた後はアップデートしていないが、40億年前に無生物から生物が誕生する過程を想像した「38億年前地球に生物が誕生した:Abiogenesis研究を覗く(https://aasj.jp/?s=Ventor&x=15&y=3)や、「言葉の誕生」(https://aasj.jp/news/lifescience-current/10954)は、今も十分通用すると思っている。

生命誕生を考えるとき、有機物が無機物から形成され、それが環境から自立した生命へと形成されるための条件を調べる方向の研究と、逆に今ある生物を一度分解して再構成する合成生物学的研究が必要だが、後者の代表がCraig Ventorらにより進められている、マイコプラズマ遺伝子を削ぎ落として最小自立生物(Minimal Cell)に必要な遺伝子を定義、それを合成してマイコプラズマのゲノムと置き換えた人工生命を完成させた(これについてはhttps://aasj.jp/?s=Ventor&x=15&y=3 の後半に詳しく記載している)。

こうして再構成されたminimal cell (MC)は473個の遺伝子を持っているが、ここまで削ぎ落としても、このうち149個の遺伝子は何をしているのかわからないというのは驚きだ。

今日紹介するCraig Ventor研究所からの論文は、MCが自力で分裂するために必要な遺伝子を特定した研究で、4月29日発行予定のCellに掲載されている。タイトルは「Genetic requirements for cell division in a genomically minimal cell(最小ゲノムを持つ細胞分裂に必要な遺伝的条件)」と素っ気ないが、MCの重要性がよくわかる面白い論文だ。

MCはギリギリのところで生きているため、一つ遺伝子を欠損させても生命が維持できないとすると、機能のわからない149個の遺伝子の機能を調べるのは簡単ではない。一方、MCにはできないことを調べるのはまだやさしい。今日紹介する論文では、900個の遺伝子を持つ、最初の世代のMC-V1と現在のMC-V3を機能的に比べて、473個の遺伝子だけでは難しい生命過程を明らかにしている。

まずMCをバイオリアクターの中で物理的ストレスに晒すと、V1では正常に分裂するにもかかわらず、V3ではゲノムの複製は進んでも、細胞質の分裂がうまくいかず、フィラメント状に核が連なった細胞ができる。また、そこから細胞がちぎれてきても、形が多様になることに気づく。

そこでV3確立の過程で作成した、V1から様々な遺伝子を除去した中間段階の性質を調べ、デザインして再構成したRGD6と名付けた76遺伝子を含むセグメントをV1から除去すると同じ分裂異常が現れることを特定する。さらにこれらの遺伝子をもとに戻す実験を行い、最終的に7種類の遺伝子を特定している。

特定された遺伝子の中で最も注目できるのはFtsZ遺伝子で、原核生物として特定された最初の細胞骨格タンパク質で、この量が上昇すると分裂することが知られている。後の3種類は機能が想像できるが、残り3個の遺伝子は全く機能がわからない。

残念ながら、一つの遺伝子でもとに戻るという結果ではないので、今後はこれら遺伝子セットの動態を調べて一つ一つの機能を特定することが必要になる。幸い、全ての遺伝子は他の原核生物に存在しているため、このように見るべき対象さえ明らかになれば、最初の細胞分裂機構にも迫れるように思う。

進展はゆったりしているという印象だが、いつ読んでもワクワクする。

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3月31日 アルツハイマー病治療の新しい標的(3月17日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年3月31日

ほとんどの会社が撤退する中で、アルツハイマー病(AD)がアミロイドβ(Aβ)の蓄積をトリガーとして進むとするAβセオリーに賭けたバイオジェントエーザイの抗体薬、アヂュカヌマブがようやく承認申請にこぎつけたようだが、早速今度はEli LillyからAβに対する抗体薬の有効性を示した論文がThe New England Journal of Medicine に発表された。

早速競争が激化しはじめたという印象があるが、Aβを減らすことの重要性はこれらの結果からよくわかる。もちろん、これを達成するためには、アミロイド前駆体タンパク質からAβを切り出すガンマセクレター ゼによるγ切断とBACEによるβ切断をブロックすれば良いのだが、こちらの開発は遅れているようだ。

今日紹介するジョンズホプキンス大学からの論文はAβが切り出される過程にもう一つの介入ポイントが存在しうることを示した研究で3月17日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「GDE2-RECK controls ADAM10 α-secretase–mediated cleavage of amyloid precursor protein(GED2-RECKはADAM10 αセクレターゼを介するアミロイド前駆体タンパク質の切断を調節している)」だ。

実はAβを切り出す可能性のサイトがアミロイド前駆体にはα切断サイトとして知られる切断箇所がもう一つ存在し、この切断に関わるのがADAM10であることが知られている。そして、α切断を受けたAβは凝集しにくいことも知られている。従って、ADAM10の脳内での活性を高めてやることでも、Aβの凝集を抑えることができる。

この研究では、ADAM10の活性を抑えるGPI結合膜タンパク質RECKと、RECKを膜から遊離させるGDE2がAD治療の標的にならないかを検討している。

ADAM10を抑制するRECKを膜から切り離すGDE2は、ADAM10の活性を上げる働きがあるはずだが、RECKもGDE2も発現レベルで見るとADでも一定している。そこで、GDE2の膜上への移行が阻害されているのではと着想して、GDEに対する抗体を作成AD患者の脳を調べると、予想通りAD患者さんの神経では細胞質内に蓄積して、膜上に移行できないこと、またその結果として、膜上のADAM10阻害分子RECKの発現が上昇していることを発見している。

ただ、人間での検討はここまでで、あとはGDE2遺伝子ノックアウトマウスを用い、このマウスでは脳内のAβが蓄積しやすくなっていること、その結果として脳神経のシナプス結合が低下することを示している。また、RECKを過剰発現させる実験も行い、GDE2ノックアウトと同じようにAβの蓄積が起こりやすいことを示している。

最後に、アミロイド前駆タンパク質、ADAM10、RECK、GDE2全ての遺伝子を導入したCos細胞で、ADAM,GDE2,RECKそれぞれをノックダウンしてAβの生成を調べ、最初に着想したADAM10経路の調節が、ADの標的になる可能性を示している。

以上が結果で、実際の介入手段は明確ではないが、一種搦手からADを責める方法としては、検討の価値があるように感じる。患者さんから見たら遅すぎるということになるとは思うが、少しづつではあっても治療法開発へ近づいていることは確かだ。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月30日 新型コロナウイルスにナノモルレベルで効果を示すプロテアーゼ阻害剤の開発(3月26日号 Science 掲載論文

2021年3月30日

新型コロナウイルス(CoV2)のRNAは細胞内に進入すると、ホストリボゾームに取りついて、まず2本のペプチドを合成し、これをプロテアーゼで裁断して、その後のRNA複製やホストの免疫抑制などに必須のnsp群を調達する。このことから、細胞内でのCoV2の増殖を止める最も有効なチャンスは、リボゾームに取り付く過程か、最初のプロテアーゼによるnsp調整過程と言える。実際、インフルエンザでは塩野義のゾフルーザはCap修飾過程に必要なヌクレアーゼを標的として、他の抗インフルエンザ薬と比べると、高いウイルス抑制効果を示している。もちろん、この過程をCoV2でも模索している論文は見かけるが、CoV2の場合、なんと言ってもプロテアーゼ阻害剤開発に焦点が当たっている。

というのも、C型肝炎やエイズウイルスで大きな成功を収めており、実際Lopinavir-ritonavirは最初の頃covid-19にも使われた。残念ながら、効果が限られていたため、早くからCoV2特異的な薬剤の開発競争が始まっていた。

幸い、世界中がプロテアーゼの構造を詳しく解析した。実際4月には中国上海のグループが構造解析を報告し、既存薬のスクリーニングまで行っている。ただ、一つだけ1μMを切る薬剤が見つかった程度で終わっている。

この後も論文は発表され続けており、トップジャーナルに発表され自分が目を通したものを拾ってみると、

などがいい例だが、いずれもμMレベルの親和性で終わっている。

ただ、10月にファイザー社から発表された論文では、ついにsub nanomolarレベルの薬剤が開発され、これは現在第1相の治験に進んでいるという。

重要なことは、これら全ての論文では、化合物の大規模スクリーニングではなく、プロテアーゼの構造に基づいて、様々な手法で化合物を設計している点だ。その結果、ファイザーの阻害剤は、CoV2プロテアーゼに対して0.27nM。一方、人間のカテプシンに対してはその500倍低い阻害活性しか示さない化合物を合成するのに成功している。

今日紹介する中国四川大学からの論文は、CoV2のプロテアーゼと、C型肝炎のプロテアーゼ阻害剤として開発されたboceprevir, telaprevirが結合した分子構造を出発点にして、新しい化合物を設計し、合成したという研究で、3月25日号Scienceに掲載された。タイトルは「SARS-CoV-2 M pro inhibitors with antiviral activity in a transgenic mouse model(トランスジェニックマウスモデルで抗ウイルス活性を示す SARS-CoV-2プロテアーゼ阻害剤)」だ。

おそらく、2種類のC型肝炎ウイルスプロテアーゼ阻害剤を出発点としたのが良かったのだろう、nMレベルの阻害剤をいくつか得ることに成功している。このあたりの実験はまさにmedicinal chemistryの話で、実は私も完全にフォローできているわけではない。しかし、試験管内では1nMレベルの阻害剤MI-09、MI-30を合成し、ヒトACE2遺伝子を導入されたマウスの感染実験で、MI-09の場合は経口投与でもウイルスの増殖を抑え、肺の炎症を抑えることを示している。

まだ効果を示す投与量がKgあたり50mg-100mgと多く、そのまま臨床に移行できるかどうかわからないが、世界中で着々とプロテアーゼ阻害剤の開発が期待通り進んでいることがよくわかった。

日本のメディア報道を見ていると、正攻法の創薬の話は全く出ずに、専門家が見れば眉をひそめる研究内容の紹介が平気でレポートされているが、ファイザー社のディペプチドをはじめ、このように本命に迫る研究が進んでいることを読者もぜひ理解してほしい。ギリアドサイエンスをはじめ、多くのベンチャーが感染症分野で成功するのも、このように対象になる本命の分子がはっきりしているからだ。その意味で、この分野の中国のプレゼンスはますます高まっていることもこの論文を読んで実感した。我が国の研究者も、バカな報道に惑わされることなく、ぜひ日本でもCoV2阻害薬の開発が進むことを期待している。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月29日新型コロナウイルスの口内感染(3月25日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2021年3月29日

新型コロナウイルスが様々なエントリーサイトを用いて細胞内に感染することは何度も紹介してきた(https://aasj.jp/news/watch/15109 、https://aasj.jp/news/watch/13302 )。とはいえ、今もメインの侵入口はACE2と融合に必要なTMPRSSを揃って発現している細胞で、その代表が鼻粘膜細胞になる。ただ、鼻からウイルス検出できない時でも唾液にウイルスが存在する例も多く報告されているし、これほど飛沫が感染源として恐れられる以上、鼻粘膜だけでなく、口内、特に唾液線にもウイルスは感染できると考えてきたが、口内のどの細胞が実際に感染しているのかについては徹底的な調査が行われてこなかったようだ。

今日紹介する英国サンガー研究所や米国NIHを中心にした国際研究グループからの論文は、口内に存在する細胞の種類をsingle cell RNA seq解析を用いて特定した後、それぞれのACE2とTMPRSSの発現を調べて、感染可能性を調べるとともに、実際の患者さんのサンプルを用いて、ウイルスが感染しているか丹念に調べた研究で、3月25日 Nature Medicineにオンライン発表された。タイトルは「SARS-CoV-2 infection of the oral cavity and saliva(口内と唾液線でのSARS-CoV-2感染)」だ。

この研究では、これまで集めた口内と唾液腺の単一細胞RNA sequencing (scRNAseq)を解析し直し、唾液腺では22種類、口内では28種類の異なる細胞を特定するとともに、様々な免疫細胞も特定できることを示している。

これらを12種類の上皮、7種類の間質、そして15種類の免疫細胞に整理した上で、それぞれのACE2,TMPRSSの発現を調べ、またその結果を実際の組織でのin situ hybridizationと照らし合わせて、それぞれの細胞がウイルスに感染する可能性を検討している。基本的には、唾液線、歯肉、舌の全ての上皮細胞には、多い少ないはあるが、一定の割合で両方の分子が発現しており、感染できることを示している。

その上で、この結果を確かめるために、実際のcovid-19感染患者さんのバイオプシーや、解剖標本を用いて、in situ hybridizationや免疫組織学を用いてウイルス感染を確かめ、予想通りほとんどの上皮細胞と一部の免疫細胞で感染がみられることを確認している。

また、口内でも他の組織と同じように、免疫細胞の浸潤を伴う炎症が誘導されるし、抗体も唾液中に出てくる。面白いのは、口内感染の多い人は、味覚障害を訴える確率が高く、炎症が広がっていることを示している。また、ウイルス排出期間も長くなる。

以上、結局口内のほとんどの上皮で、一定の割合で初期感染が起こる可能性があり、鼻粘膜とともに、ウイルスの含まれる飛沫を生産し続けることが明らかになった。誰もが当たり前と考えていたことが、はっきりと示されたという結果で、無症状者でも長く(3ヶ月近く)口内でウイルスが作り続けられるケースがあることを示されると、厄介な感染症であることを改めて認識する。

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3月28日 自閉症ゲノムと細菌叢の関係(4月1日号 Cell 掲載論文)

2021年3月28日

自閉症スペクトラム(ASD)の症状に、ゲノム上の変異だけでなく、腸内細菌叢が関与しており、例えばASDの子供から得られた腸内細菌叢をマウスに移植すると、それだけで社会性が低下するとか(https://aasj.jp/news/watch/10310)、逆に健康人の便からクロストリジウムを除去した後、ASD児に移植すると、消化管症状とともに、ASDの症状も改善すること(https://aasj.jp/news/watch/10036)など多くの論文が発表されている。

中でもテキサスベーラー大学から発表された、ロイテリ菌が腸内で迷走神経に作用して、中脳でのオキシトシン分泌を促し、子供の社会性を改善するという結果は(https://aasj.jp/news/watch/10036)、オキシトシン投与に変わる方法として高い期待が寄せられていると思う。

今日紹介する同じグループの研究は、これまで人間とマウスモデルの間で行われてきた実験を、全てマウスの遺伝的モデルに移すことで、ゲノムと細菌叢の関係を整理して、これまでの研究結果を再検討した論文で、4月1日号のCellに掲載された。タイトルは「Dissecting the contribution of host genetics and the microbiome in complex behaviors (ホストの遺伝と細菌叢が持つ複雑な行動に対する関与を分析する)」だ。

ヒトのASDの細菌叢をマウスに移植して同じ行動異常に移行させられることは驚くべきことだが、しかし様々なゲノム上の変異が重なって起こることが明らかなASDの発症に細菌叢がどう関わるかは、遺伝的背景を揃えて調べる必要があり、ヒトからマウスへの便移植では解析しきれない部分が出てくる。そのため、この研究では、一度全てをマウスで調べることで、ゲノムと細菌叢との関係を整理しようとしている。

このため、ヒトでも変異によりASDが生じることが知られている、神経シグナルを調節する可能性がある接着因子CNTNAP2ノックアウトマウス(KO)をASDモデルとして用いている。実際、正常マウスと比べると、他の個体や新しいことに対する興味が低下する、社会性欠如とともに、多動が見られる。そして、腸内細菌叢を調べると、正常マウスの細菌叢とは大きく異なる構成でできている。

これらの結果は、KO、正常とも完全に分離して育てているので、親から遺伝要因と細菌叢を共に受け継ぐことになる。そこで、行動的には正常のヘテロマウスを掛け合わせて生まれ育てられた、KOマウスについて調べると、多動については異常を示すが、社会性の指標は全く正常化している。また、細菌叢も、KO、正常とも差がない。すなわち、細菌叢が正常化すると、社会性は元に戻るが、多動の方は遺伝的要因が強いという結論になる。

この研究ではさらに進んで、ヘテロマウスから生まれ、社会性のみ正常化したKOマウスを掛け合わせて得られる次世代のKOマウスについてまで調べ、この場合、他のマウスへの好奇心の程度で調べる社会性は異常になる一方、新しい環境への好奇心で見る社会性では異常が見られないことを示している。そして、細菌叢も正常とはかけ離れた構成へと移行することも示している。

これらの結果は、社会性の中でも細菌叢に強く影響される他の個体への好奇心と、新しい環境への好奇心を指標にする社会性では、細菌叢への依存性が全く異なること、また細菌叢自体、最初は同じスタートでも、世代を重ねると遺伝的背景に影響された構成に変化していくことを示している。

最後に複雑な掛け合わせと飼育実験から得られる結果が、著者らがこれまで発表してきたオキシトシンルートを介しているのかどうか明らかにするため、ロイテリキンを投与する実験を行い、KOマウスの社会性の異常と中脳でのオキシトシン分泌異常が、ロイテリキン投与により改善することを示している。

最後に、マウスモデルの利点を生かし、正常マウス、KOマウス、そしてロイテリ菌を投与したKOマウスの細菌叢を比べ、

  • ロイテリ菌を投与したときにBiopterinおよびDihydrobiopterinが大きく上昇する。
  • Dihydrobiopterin投与実験で、他の個体に対する社会性が改善する。
  • Dihydrobiopterinの合成を阻害すると、ロイテリキンの社会性改善作用や、正常細菌叢の社会性改善作用が失われる。

ことを示し、これまで明らかにしてきた作用がDihydrobiopterinの作用であった可能性をついに突き止めている。

結果は以上で、このグループの研究が一つの到達点にたどり着いたことを示す重要な研究だと感心した。

このグループの研究については、明後日(3月30日火曜日午後7時に西川伸一のジャーナルクラブで紹介する予定(https://www.youtube.com/watch?v=zxCdlUtsA0M)にしている。また、このグループの研究をもう一度振り返って、自閉症の科学として紹介することにしている。

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3月27日 炎症を抑えることに特化した改変IL10の設計(3月19日号 Science 掲載論文)

2021年3月27日

IL-10は炎症が起こると、マクロファージやリンパ球により産生され炎症を鎮める抗炎症サイトカインとして知られている。実際、この遺伝子をノックアウトしたマウスは、重症の炎症性腸炎になる。当然、リコンビナントIL-10を用いて、炎症を鎮める薬剤にしようと誰もが考えるが、現在もなお実現していない。その理由の最大のものは、IL-10は炎症で浸潤したマクロファージに働いてサイトカインストームを抑えると同時に、エフェクターT細胞に働いてインターフェロンγやキラー活性を誘導してしまう2面性を持っているからで、実際IL-10 を投与するとインターフェロンγが上昇する。従って、以前IL-2で紹介した様に(https://aasj.jp/news/watch/9537)、 IL-10を改変して抗炎症作用だけを持つサイトカインに変換できれば、その可能性は大きく開ける。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文はIL-10と受容体の構造解析をもとに、受容体への親和性を変化させることで、マクロファージにより選択的に働く、改変IL-10を実現した研究で、3月19日号のScienceに掲載された。タイトルは「Structure-based decoupling of the pro- and anti-inflammatory functions of interleukin-10 (IL-10の炎症誘導作用と、抗炎症作用を構造に基づいて切り離す)」だ。

IL-10はIL-10受容体α、およびβ(αR,βR)と結合して下流シグナルSTAT3を活性化するが、この研究ではまず、βRに対する親和性が異なるIL-10を、突然変異導入法を用いて作成し、これとクライオ電顕を用いた構造解析と組み合わせ、最終的にβ受容体と高い親和性を有するスーパーIL-10と、逆にβ受容体との親和性が50%に低下した10DE(改変IL10)を開発する。

これまで、マクロファージはIL-10受容体を強く発現しており、逆にエフェクターT細胞は受容体の数が少ないことが知られていた。従って、スーパーIL-10はCD8T細胞も含め、全ての細胞に強い刺激を誘導できる一方、10DEは受容体を多く発現するマクロファージをより特異的に刺激すると期待される。

これを確かめるため、様々な細胞にそれぞれのIL-10 を作用させてSTAT3の反応を見ると、スーパーIL-10は、T、B、NK、そしてマクロファージ全てのSTAT3を誘導することができるが、10DEはマクロファージのみ高い反応を誘導し、他の細胞の反応は50%以下に低下することがわかった。

また、エンドトキシンショックを誘導する実験系で、10DEは強い抑制効果を発揮し、抗炎症作用は十分高いレベルを維持しているが、エフェクターT細胞の炎症性サイトカインの発現の誘導を高める程度は低いことを明らかにしている。

結果は以上で、10DEはマクロファージにより選択的に作用することで、抗炎症作用が強く、炎症惹起作用が低いIL-10として使える可能性を示唆している。

改変IL-2の場合と比べると、受容体システムが比較的単純で、結局細胞表面上の受容体の数に応じて刺激が変わるという仕組みであるため、投与量などまだまだ検討の余地が多いが、もし抗炎症作用のみ発揮できるIL-10が実現すると、その意義は大きい。期待したい。

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3月26日 Rett症候群の神経症状は発症前の訓練で軽減するかもしれない(3月24日 Nature オンライン掲載論文)

2021年3月26日

3月5日、テキサス・ベーラー大学のZoghbiさんの研究室から、より人間に近づけたMECP2重複症モデルマウスを使って、アンチセンス・オリゴヌクレオチド治療を実施するにあたっての問題点を調べた論文を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/15105)、一ヶ月もしないうちに、今度はRett症候群の発症前の訓練が、神経機能を回復させられるかも知らないという論文をNature に発表した。タイトルは「Presymptomatic training mitigates functional deficits in a mouse model of Rett syndrome (発症前の訓練がRett症候群のマウスモデルの機能的欠陥を改善する)」だ。

この論文を読んで、Zoghbiさんたちが、MECP2重複症や、MECP2機能不全によるRett症候群の治療方法開発のために、あらゆる方面から取り組んでいることがよくわかった。すなわち、現在全力をあげて遺伝子治療の開発に注力しているZoghbiさんたちが、遺伝子治療とは別に、早期診断後の訓練により、神経機能を取り戻すためのメカニズムの研究も行っていることを知り、あらゆる手を尽くしてなんとか治療したいという気持ちが伝わり感銘を受けた。

研究は単純だ。マウスRett症候群モデルで症状が検出できるのは十二週かららしいが、8週間目から水迷路で訓練を行うと、同じ水迷路試験テストの記憶力低下を抑えることができることを実験的に示している。一方、発症後から訓練を行っても、その効果は全く見られない。ただ、この効果は水迷路試験能力だけで、他の記憶テストについては、水迷路訓練は効果がない。すなわち、Rett症候群の場合、訓練すれば、訓練した能力については維持することができることがわかった。

あとは、神経科学的に、これが訓練で一度活性化した神経が生理学的にも、解剖学的にも、訓練による変化を維持できているからであることを、光遺伝学や、細胞学、生理学的テストを駆使して明らかにしているが、一般の人にとってはメカニズムの詳細は問題ないだろう。ただ、神経レベルの実験で、行動実験の結果がしっかり裏付けることができることは知っておいて欲しい。

具体的実験だが、訓練で一度活性化した神経細胞を、一過性に発現するFos遺伝子座を利用して、標識したり、遺伝子発現させたりする、Fos-Trapと呼ばれるシステムを用いて、

  • 水迷路で訓練した神経細胞が、水迷路試験でも再活性化され、またその数は訓練することで増加する。
  • 水迷路訓練で活性化した細胞を特異的に抑制すると、水迷路試験の記憶は失われる。ただ、正常マウスではその後の訓練で記憶を回復させられるが、Rettマウスの場合は、最初の訓練で活性化した細胞が抑えられると、その後新しい記憶細胞を生成することは難しい。
  • Rettマウスでも、一度活性化した神経を光遺伝学的に刺激することで、記憶を維持できる。
  • 訓練により、シナプスの形態変化が誘導され、さらに抑制性、興奮性のポストシナプス興奮が高まる。
  • 重要なことは、これらはMECP2が欠損している神経でも認められることで、訓練がMECP2の機能とは無関係に効果を示すことを明らかにした。

以上の結果は、Rett症候群の子供を、できるだけ早く診断し(Zoghbiさんは生後すぐに遺伝子を調べるべきと主張している)、早くから様々な訓練を続けることで、様々な機能を保全できる可能性を示している。ぜひ、我が国でも早期診断に基づく訓練プログラムを作成して欲しいと思う。

また、初期の訓練がMECP2の発現に関わらず効果を持つなど、神経科学的にも極めて重要な結果が示されており、今後の治療戦略にも多くの示唆を与える重要な力作だと思う。

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