11月8日 形質細胞の分化と維持の動態から将来のワクチンを探る(10月28日 Nature Immunology オンライン掲載論文)
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11月8日 形質細胞の分化と維持の動態から将来のワクチンを探る(10月28日 Nature Immunology オンライン掲載論文)

2022年11月8日

ワクチンにより誘導される免疫反応研究は、様々な制限からどうしても末梢血についてモニターされているが、抗体産生細胞は極めてダイナミックな挙動を示す。まず、抗原が入ってくると所属リンパ節の樹状細胞に抗原が取り込まれ、胚中心が形成される。この胚中心では、抗原がとどまる限りB細胞が刺激され続け、クラススイッチや突然変異が蓄積したB細胞が作り続けられる。これが、一定期間抗体産生が続く理由になる。この時、次の刺激に反応する記憶細胞も作られ、抗原刺激が止まると静止期に入って刺激を待つ。このおかげで、2回目以降の刺激に対する反応は早い。そして、これに加えて胚中心から出た抗体産生細胞は、抗体を作ることに特化した形質細胞へと最終分化を遂げると、骨髄で抗原刺激にかかわらず抗体を作り続ける。従って、この成分を維持できると、血中抗体価を刺激にかかわらず維持することが出来る。

今日紹介するオーストラリア・モナーシュ大学からの論文は胚中心から骨髄の形質細胞のリクルート動態を調べた研究で、データはシンプルだがなかなか面白い研究だ。タイトルは「Long-lived plasma cells accumulate in the bone marrow at a constant rate from early in an immune response(長い寿命の骨髄形質細胞は免疫反応の最初から定常的な割合で蓄積する)」で、10月28日 Nature Immunology にオンライン掲載された。

形質は細胞表面に抗原受容体を発現していないため、抗原特異性は細胞を固定して細胞質の抗体を調べる必要があり、解析が困難だ。この研究では、私のドイツ留学時代利用していた、NPハプテンを抗原とした免疫反応を用いることで、B細胞の分化に応じた様々な変異を容易にモニターできるようにした系をそのまま使って、突然変異の解析などを容易にしている。しかし、40年前のシステムがそのまま使われているのを見ると懐かしい。

骨髄中の形質細胞は1年以上の寿命があることが知られており、形質細胞の動態を調べるとき最も重要なのが、新しくリクルートされる細胞による置き換わり速度になる。この研究では、形質細胞特異的に細胞をラベルした後、タモキシフェン注射により分化したばかりの形質細胞をラベルする方法を組みあわせて、抗原刺激後いつ胚中心からリクルートされたのかをモニターできるようにしている。

この方法を用いることで、抗原刺激後初期から抗原特異的形質細胞が骨髄にリクルートされはじめ、その数は増え続け、2ヶ月ぐらいでプラトーに達することがわかった。

様々なモデルを立ててこの動態に関わる要因を分析すると、胚中心からコンスタントに形質細胞がリクルートされ、骨髄で生存できるニッチを奪い合うことで、それ以前に存在していた形質細胞を置き換えていくことがわかった。

また、胚中心で蓄積する抗体遺伝子の突然変異を調べると、抗原刺激後時間がたつごとに突然変異の数が蓄積し、40日ぐらいで最も高い親和性に対応する変異で絞められるようになることがわかる。

結果は以上で、

  1. 骨髄中の形質細胞は一日1.7%の割合で置き換わること。
  2. 少なくとも60日まで胚中心からコンスタントに抗原反応性形質細胞がリクルートされること、
  3. 骨髄での形質細胞は平均700日の寿命をもつこと、

などが計算されている。地味な仕事だが、胚中心から骨髄への形質細胞の動態がよくわかる研究だ。この結果から判断すると、胚中心で長期間抗体産生細胞や記憶細胞を作り続けられるようにする工夫とともに、抗原刺激後の形質細胞ができるだけ多く新しいニッチにたどり着ける工夫を組みあわせることが、ワクチン開発に重要な課題であることもよくわかる。

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11月7日 統計現象の背景に因果性を探る:細菌叢研究もここまでやると面白い(11月1日 Cell オンライン掲載論文)

2022年11月7日

細菌叢は何千もの細菌が形成するエコシステムなので、ゲノム技術のおかげでその変化を捉えることが出来るようになったが、その変化がなぜ起こるのか明確に理解することが難しい。このため、言ったもの勝ちという状況が生まれ、善玉菌を増やすとか、悪玉菌を除くといったコマーシャルが溢れることになる。

しかし、現象の記述で論文が採択された時代はずっと昔の話で、まともな雑誌の場合、なぜその現象が起こるのかを問われることになる。しかし、無菌動物に限られた種類の細菌を移植して、個々の細菌の機能的影響を調べる研究は別として、人間の細菌叢を統計学的に調べる研究から、その背景にある因果性を探るのは簡単でない。

今日紹介するハーバード・ブロドー研究所と、スイス・ネッスル社研究所からの論文は、人間で起こっている統計学的現象の背景を調べるという点では学ぶところの多い研究で、11月1日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「A distinct clade of Bifidobacterium longum in the gut of Bangladeshi children thrives during weaning(ロンガム・ビフィズス菌の特別の系統がバングラデシュの子供の離乳期に増加する)」だ。

多様な生活様式による変化をなるべく減らすため、この研究ではバングラデシュの発達期の子供に焦点を絞り、なるべく生活様式が揃うようにしている。そして、母親のミルクから離乳期、細菌叢が大きく変化する時期に焦点を当て、細菌叢の変化を調べている。

また、細菌叢とともに、便の代謝物を調べるメタボローム解析を徹底的に行うことで、細菌叢やその影響の変化を、より直接的代謝物の変化と対応させられるように計画している。

これ以外はほとんどこれまでの細菌叢研究と同じだが、この2つの工夫のおかげで、研究はずいぶん面白くなっており、以下に箇条書きにする。

  1. まず、生後から2歳まで、細菌叢の量と多様性はコンスタントに上昇するが、これに伴い便中の代謝物の量と多様性が増加し、細菌叢と代謝物が一体化していることがわかる。
  2. 生後は母親のミルクが主食になるので、これまでの報告通りビフィズス菌が細菌叢の大半を占める。このロンガム・ビフィズス菌も、今回特定された系統を含め、大きく3系統に分かれ、離乳期前から徐々に増加する2系統のビフィズス菌が特定される。
  3. この移行期のビフィズス菌が離乳期前から上昇するのは、バングラデシュの子供だけで、これまで報告された他の国での発達期細菌叢データを調べると、他の8カ国には全く認められない現象であること。また、メタボロームの解析から、これはバングラデシュ特有の離乳食が含む特有のグリカンへの適応であることがわかる。
  4. また移行期のビフィズス菌と相関する様々な代謝物が、子供の成長に大きな役割を果たすことが、伸長や体重の増加から特定できる。
  5. 重症の下痢は、好気性菌の増殖を契機として起こってくるが、これによりロンガム・ビフィズス菌は消失する。この時免疫を活性化する様々な代謝物も強く抑えられる。このように、好気性菌と免疫に関わるフェニル化乳酸の量を下痢のサインとして使うことが出来る。

以上が面白いと思った点で、発達期ではプロバイオとプレバイオを組みあわせて、細菌叢に介入する可能性が高いことが示された。また、メタボロームと同時解析をすることで、統計現象の背景の因果性をより理解できる可能性もよくわかった。アカデミアとの共同とは言え、こんな論文がネッスル研究所から出てくるのは、21世紀の食の科学の重要性を物語っている。我が国の食品業界からも、是非このレベルの研究が発表されることを期待する。

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11月6日 Innate Lymphoid cell 2 の機能からわかる免疫反応の分業制(11月2日 Nature オンライン掲載論文)

2022年11月6日

現役時代は、1型(ウイルス、細胞内細菌抵抗性)、2型(寄生虫抵抗性)免疫反応というと、T細胞の機能分化で済んでいた。ところが、その後の研究の進展で、T細胞だけでなく異なるタイプの Innate lymphoid cell (ILC) がそれぞれの反応に大きく関わっていることがわかってきた。

このILCも、現役時代はリンパ組織誘導細胞 LTi と呼んでおり、京大時代、現在、OIST理事長の P.Gruss研究室から移ってきた横田さんや、熊本大学から移ってきた吉田さん、そして大学院生だった現慶応大学教授の本田さんなどによって、Id2、IL7、Lymphotoxin などで調節される分化経路が明らかにされた。しかしその時、Id2依存性に分化してきた ILC前駆細胞から、1、2、3型免疫に対応する ILC1、ILC2、ILC3が分化するとは想像も出来なかった。

しかし、CD4T、CD8T、そして ILC とそれぞれの免疫反応にセットで関わることで、免疫システムは複雑化し、Covid-19の様に、病気の経過が極めて複雑な状況が生まれてしまう。

当然、T細胞、ILC それぞれをノックアウトした動物で免疫反応を調べることが望ましいが、ILC に関してはそれぞれのタイプを欠損させることは簡単ではなかった。今日紹介するドイツ・ベルリンのシャリテ医科大学からの論文は ILC2分化に Neuromedin U受容体シグナルが必須であること特定し、ILC2 を選択的に除去したマウスでその機能を調べた研究で11月2日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Non-redundant functions of group 2 innate lymphoid cells(グループ2 innate lymphoid cellの代換えが効かない機能)」だ。

ILC2 の最終分化は T細胞と同じで GATA3 とされてきたが、この研究は Neuromedin U受容体(Nmur1)の発現が、完全に ILC2 特異的であることを発見し、この遺伝子を Id2 陽性細胞でノックアウトしたマウスを作成し、このマウスが2型免疫反応の重要なサイトカイン IL5 が欠損したのと全く同じ形質を示すことをまず明らかにする。

IL5 欠損マウスは白血球の中でも好酸球の分化に必須だが、Numr1 ノックアウトマウスでも、好酸球の最終分化が完全に抑制されている。以上の結果は、これまで Th2 の役割とされてきた組織での IL5 分泌や好酸球分化促進のほとんどは ILC2 がになっていることがわかる。

また、ILC2 の遺伝子発現から、好酸球だけでなく、上皮など様々な細胞を刺激し、2型免疫の場を作る主役であることも明らかになった。

最後に、2型免疫反応が受け持つ寄生虫感染が ILC2 欠損によりどう影響されるか調べ、回虫感染実験を行い、

  1. 回虫の増殖は ILC2 除去で著しく高まる。
  2. 好酸球の感染局所へのリクルートは完全に阻害される。
  3. Th2 細胞は正常にリクルートされる。
  4. 白血球全体の浸潤も低下し、また寄生虫に対する上皮の反応も低下する。

などを明らかにしている。

少し飛ばして紹介したが、要するに寄生虫免疫や喘息反応では、ILC2 が Th2 より大きな役割を演じている可能性を示す論文で、特に喘息では新たな治療法の開発、例えば Numer1 阻害などが期待できるような気がする。

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11月4日 興奮細胞のみを標的にするオンデマンド型遺伝子治療の可能性(11月4日 Science 掲載論文)

2022年11月5日

てんかんは抑制性神経の働きが弱った部位で始まる神経の過興奮が周りへと伝播する病気で、大小様々な発作を引き起こし、日常生活が著しく阻害される。これを抑える薬剤もあるが、脳の興奮を抑える治療なので副作用も多く、そもそも30%以上の人が、薬剤に反応しない。このため、てんかんが始まる場所の特定できるケースでは、皮質電極を設置して場所を特定し、その部位を取り除く治療が行われる。また、てんかん部位を切り取ってしまう代わりに、神経興奮を抑制する分子を導入する遺伝子治療の開発も進んでいる。

今日紹介するUniversity College Londonからの論文は、遺伝子治療で導入した遺伝子の影響を、実際のてんかん発作に参加する細胞だけに限定するための方法を模索した研究で、11月4日 Science に掲載された。タイトルは「On-demand cell-autonomous gene therapy for brain circuit disorders(脳内回路以上に対するオンデマンドで細胞自発的な遺伝子治療)」だ。

発想はシンプルだ。これまでも紹介している様に、神経興奮は Fos など転写因子を急性に誘導することがわかっており、これらを immediate early gene (IER:最初期遺伝子) と呼んでいる。この IER の発現に関わるプロモーターを用いると、てんかんで興奮した細胞だけで神経興奮を抑制する遺伝子を発現させ、その後続く発作を抑えることができるというアイデアだ。実際、IER プロモーターに蛍光分子を結合させ培養細胞に導入し、薬剤でてんかん発作を誘導すると、GFP が6時間で誘導され48時間程度は続くことから、その間発作を抑えることが期待できる。

次に、この IER プロモーターに遺伝子操作で活性を高めたカリウムチャンネル (EKC) を繋いで神経細胞に導入すると、神経興奮を強く抑えることが確認した上で、マウスを使った実験に進んでいる。

まず EKC をマウス海馬に局所的に導入、一度薬剤でてんかん発作を誘導した後、脳を切り出すスライス培養で電気生理学的にモニターしながら発作を誘導すると、過興奮を完全に抑制でき、また興奮の閾値を上げることができる。次に、スライス培養ではなく、マウスに薬剤によるてんかんを誘導する実験を行うと、24時間までは完全に発作を抑えることができるが、2週間経つとこの効果が失われる。アデノウイルスベクターでの遺伝子発現は続いていると考えられるので、この結果は最初の発作による IER の発現が消失したためと考えられる。

また、自然発作が誘導されるてんかんモデルを用いて、てんかん発作が始まった後から遺伝子導入する実験を行い、始まった発作も局所に IER プロモーター / EKC 遺伝子を投与することで発作を強く抑えられることを明らかにしている。

もちろん、IER は活動する脳で常に発現することから、いくらオンデマンドの遺伝子発現と言っても、脳の正常活動に対する影響が心配されるが、一般的行動試験では異常が認められないことから、副作用はないと結論している。おそらく局所への遺伝子投与であること、そして IER の活性が一般神経興奮では長く続かないことなどから、副作用が抑えられていると考えられる。

最後に、ヒト前頭葉細胞のオルガノイド培養を用いて発作抑制実験を行い、将来ヒトでも利用可能になると結論している。

以上が結果で、オンデマンド型の遺伝子発現をうまく使うと、てんかんだけでなく、様々な過興奮に基づく病態を制御できる可能性が生まれたと思う。

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11月4日 相分離は高浸透圧に細胞が耐えるための鍵になっていた(10月31日 Cell オンライン掲載論文)

2022年11月4日

死海で泳ぐと言うより浮かんだことがあるが(実際泳ぐなと言われた)、そんなとき私たちの皮膚細胞は強烈な高浸透圧に晒される。この時細胞は瞬時に縮んだあと、細胞の体積を上昇させるメカニズムを働かせるが、この時 WNK-SPARK/OSR1 経路が活性化され、細胞のイオンポンプの活性化が起こることがわかっている。すなわち、高浸透圧により WNK (キナーゼ) が活性化され、この分子が引き金を引くリン酸化カスケードの結果、イオン全体を取り込むポンプが活性化し、またイオンを排出するポンプが低下する。

このようにキーとなる分子カスケードはわかっていたが、WNK 活性化が高浸透圧ショックで誘導されるメカニズムについては、まだコンセンサスは得られていなかった。

今日紹介するピッツバーグ大学からの論文は、細胞が縮んだ際に起こる蛋白質濃度の上昇が、WNKの相分離を誘導し、これが WNKキナーゼ 活性を高める可能性を示した研究で、10月31日号 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「WNK kinases sense molecular crowding and rescue cell volume via phase separation(WNK キナーゼは分子の混雑を感知し相分離を起こすことで細胞のボリュームを調節する)」だ。

これまで高浸透圧の感知については、細胞膜上のイオンセンサーが関与するという説と、細胞内の変化を感知するという考えが存在していた。このグループに限らず、後者の考えに立つグループは、細胞内の分子濃度が変化することから相分離がセンサーになっているのではないかと狙っていた。例えば東大の一條グループは低浸透圧似反応する ASK3 が相分離で不活化されることが、WNK の活性化を促す可能性を示している。

これに対し、WNK 独自の相分離が下流のリン酸化シグナルを活性化することを示したのがこの研究だ。研究では、WNK が高浸透圧ストレスの細胞で相分離を起こすこと、その結果下流のシグナル分子も WNK 相分離体に集まること、さらにこの相分離が蛋白分子の濃度が上昇することで誘導されることを、細胞内にフィコールを注入する実験で示している。

後は、WNK 自体が外部からのシグナルなしに相分離出来る分子基盤について、部分的に構造を改変した様々な WNK 分子について調べ、C末端の無構造なドメインが相分離に必須の部位で、これを分子内のcoiled-coil ドメインと呼ばれる場所が促進する役割を持つことを示している。

面白いのは、WNK はほとんどの動物で保存されており、アミノ酸配列は多様化しているとはいえ、相分離する性質は完全に一致していることを示し、このメカニズムの進化は古いことを示している。

最後に、WNK が欠損した細胞に、様々な WNK を導入する実験を行い、WNK の相分離が高浸透圧に対応したイオンポンプの活性化や抑制に関わることを確認している。

以上が結果で、高浸透圧に対して、様々な分子が相分離を起こすことで、細胞内のイオン変化に影響されず分子活性化カスケードのスイッチを入れることが出来るという納得の話だと思う。

ただ相分離研究には欠かせない試験管内での相分離実験が示されておらず、最終的に WNK の相分離だけがシグナル活性化に十分なのか、あるいは一條グループのような他のシグナルが必要なのかは、今後研究が必要になるだろう。

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11月3日 サリドマイド結合ユビキチンリガーゼ複合体分子セレブロンの本来の機能がついに解明された(10月19日 Nature オンライン掲載論文)

2022年11月3日

サリドマイド薬害が明らかになったのは1957年からで、安全な睡眠薬として服用した妊婦さんから生まれた子供が、四肢発達障害など、様々な臓器の発達不全を示したことから大騒ぎになった。その後、サリドマイドやその誘導体が、骨髄腫などに効果を示すことが明らかになり、骨髄腫や骨髄異形成症候群の特効薬として新たな利用が始まる。しかし、その作用機序がわかったのは、2010年のことで、東京工業大学のグループにより、サリドマイドが Fgf8 遺伝子転写に関わる分子ににユビキチンリガーゼ複合体分子セレブロンをリクルートし、その結果転写因子が分解され、Fgf8 発現がうまくいかず、四肢などの発達異常が起こることが明らかになった。また、骨髄腫ではイカロス転写因子が同じようにセレブロンによりユビキチン化され分解されることが明らかになった。

現在セレブロンを用いて標的分子を分解する分子治療は精力的に研究されており、既に BRD4 阻害剤はその代表で、さらに対象が拡大すると期待されている。

しかし、よく考えてみると、セレブロンがサリドマイドなどの治療薬と結合したのは運命のいたずらで、本来自然に発生する標的分子をユビキチン化する機能が存在するはずだ。すなわちセレブロンの通常の機能は何かという問題にチェレンジしたのが今日紹介するハーバード大学からの論文で、筆頭著者は市川さんという日本の方だ。タイトルは「The E3 ligase adapter cereblon targets the C-terminal cyclic imide degron(E3リガーゼアダプター分子セレブロンはC末の環状イミドを分解シグナルとする)」だ。

生化学のプロの仕事と言えるが、この研究ではサリドマイドや BRD4 阻害剤のセレブロンの結合部位を参考に、人工的なディペプチドを合成、それを BRD4 結合 JQ1 と合体させて BRD4 分解を誘導できるか調べることで、セレブロン結合に必要な条件を調べ、グルタリミドにアミノ酸が結合したディペプチドであれば、相性に差はあるが、アミノ酸の種類にかかわらずセレブロンに結合し、蛋白質をユビキチン化することを発見する。

この結果は、セレブロンは自然状態でもサイクリックイミド基をC末端に持つペプチドであればユビキチン化し、分解することを示している。そこで、サイクリックイミドがセレブロンの基質であることを確認した上で、C末にサイクリックイミドを有するペプチドが細胞の中に存在するか網羅的に調べている。

結果6800種類の蛋白質が分解されたときに生まれる2万種類の分解部位にサイクリックイミドが発生すること、これらが蛋白質分解や、脱アミノ酸過程の産物であることを明らかにしている。

そしてセレブロンノックアウト細胞を用いて、このように細胞内で発生したサイクリックイミドをC末端にもつペプチドが、セレブロンにより分解されることで、傷ついて必要なくなった蛋白質の細胞内での蓄積が抑えられていることを明らかにしている。

かなり省略して紹介したが、セレブロンが傷ついた蛋白質の清掃システムであることを示した力作だと感心する。また、サリドマイドからガン治療、そして新しい分子標的治療までの過程を見てきた老兵にとっては極めて印象深い論文で、この研究により、セレブロンをもっと上手に利用して様々な分子標的を分解する薬剤の開発も夢でないと期待している。

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11月2日 新しい抗うつ剤を設計する(10月28日号 Science 掲載論文)

2022年11月2日

何度も紹介したように、うつ病に対してはケタミンやシロシビンなど、他の目的で使われてきた向精神薬が効果を示すことがわかり、実際の臨床でその効果も確かめられつつある。しかし、他の目的で使われてきたと言うことは、抗うつ剤としての効果以外も存在すると言うことで、今後どのような問題が起こるのか注意深く観察が必要だ。

では、これまでの抗うつ剤はどうなるのか?これまで最も重要な抗うつ剤はセロトニン再吸収阻害剤で、気分を調節するセロトニンを取り込むポンプ(SERT)を抑制して、局所のセロトニン濃度を高め、うつ状態を回復させる薬剤で、生理学的にも納得できるし、高い効果を示すことが知られている。ただ問題は、セロトニンを合成している縫線核の細胞自体もセロトニンに反応し、この自己刺激によりセロトニンの分泌が抑えられることで、セロトニン再吸収阻害剤服用直後は、逆に症状が悪化し、この時期に自殺が高まる。

今日紹介する南京医科大学からの論文は、縫線核に特異的な SERT の細胞表面発現を調節する仕組みを解析し、この過程を操作できる薬剤を開発した面白い研究で、10月28日号 Science に掲載された。タイトルは「Design of fast-onset antidepressant by dissociating SERT from nNOS in the DRN( SERT と nNOS を分離させて抗うつ剤の効果を早める薬剤のデザイン)」だ。

この研究では、縫線核のセロトニン合成神経では nNOS が発現しており、セロトニンの作用で SERT と細胞内で結合することで、細胞膜での SERT 発現を抑えており、これにより縫線核が興奮して、セロトニン合成が低下することを明らかにしている。さらに、SERT と nNOS の結合を高める化合物を発見し、これによりうつ状態が高まることを示している。

この結果は、縫線核で SERT と nNOS との結合を阻害してやると、SERT が細胞表面に出て、セロトニンの細胞外濃度を低下させ、興奮が静まり、セロトニンが供給され、前頭葉などでの SERT 阻害剤の効果がすぐに現れることが期待される。

そこで、SERT と nNOS との結合部位を解析し、この結合に関わるポリペプチドを特定、これを細胞内に発現させることで、確かにこの結合阻害がうつ状態改善に効果があることを確かめている。

その上で、nNOS が SERT と結合する PDZ ドメインに入り込むディペプチド薬を開発し、これと SERT 阻害剤を組みあわせると、SERT 阻害剤の効果が投与直後から現れ、これまで問題になっていた効果の遅れと、投与初期のうつ状態の悪化がなくなることを示している。

この分野の研究はフォローできていないので、nNOS-SERT 結合と縫線核のセロトニン分泌の関係などの神経生物学から薬剤の開発まで、このグループがトップを切っているのかわからないが、そうだとすると中国の底力を示すいい例だと思う。

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11月1日 ガンのゲノムとエピゲノム同時解析の重要性(10月26日 Nature オンライン掲載論文)

2022年11月1日

ガンはゲノムに蓄積する突然変異を主因とするゲノムの病気と言えるが、同じガン組織にも様々な組織像が見られることは、多くのエピジェネティックな変化がゲノム変異に重なってガン細胞の性質を決めていることがわかる。従ってガンを理解するには、ゲノムと同時にエピゲノムについても調べることは重要だが、それを達成するのは簡単ではない。

今日紹介するロンドンのガン研究所からの論文は、大腸ガンでゲノムとエピゲノム同時解析にチャレンジした研究で、結果の多くは予想通りとは言え、方法論的にもよく考えられた力作で、10月26日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「The co-evolution of the genome and epigenome in colorectal cancer(大腸ガンに見られるゲノムとエピゲノムの共進化)」だ。

最近、ガン領域でも single cell technology 一色になってきており、遺伝子発現から染色体の状態まで、解析が進んでいる。中にはゲノムと遺伝子発現、あるいはクロマチンと遺伝子発現の両方を同時に見ることにチャレンジしている論文まで報告されるようになってきた。なぜ single cell テクノロジーが個々までのインパクトがあるのかというと、同じ組織でも細胞ごとにエピゲノムが違っているという認識があるからだ。とはいえ、ゲノム、エピゲノムを single cell level で同時解析して信頼性のあるデータを得るためのハードルはまだまだ高い。

この研究では single cell と従来のガン組織全体の解析の間で、ゲノム・エピゲノム同時解析に適した組織サンプルを検討し、大腸ガンをクリプトごとにサンプリングすることで、基本的には single cell 由来で、ゲノム・エピゲノム同時解析に十分な細胞数を得ることが出来ることを示している。これまで、ガン組織を異なる部位で分け解析することも行われていたが、それよりはもう少し精度がいい。

この方法で、なんとか全ゲノム解析から、エピゲノム、遺伝子発現まで調べることが出来たサンプルをなんと243も集めている。これだけの数になると、ソフトのパワーも重要になる。いずれにせよ、ゲノム・エピゲノム同時解析の条件を満たす組織を集め、データベースを作ったことがこの研究のハイライトだ。

後はこのデータベースから何がわかるかだが、面白いと思った点を以下に列挙しておく。

  1. この研究では同じクローンと思われるガン組織をさらに部分に分けてエピゲノムを調べており、ガンのエピゲノムが極めて安定に伝えられることを明らかにしている。当然と言えばそうなのだが、しっかり確認できることは重要だ。
  2. 大腸ガンとポリープの両方を同じように解析すると、これまで言われていたように、ポリープの段階でガン化に必要な遺伝子変異が蓄積しているのが見られるが、エピゲノム変化を見るとポリープではあまり大きくないが、ガンになると大きなエピゲノム変化が起こることを確認している。すなわち、実際にガン化を促すシグナルになるのはエピジェネティックな変化である可能性もある。
  3. エピジェネティックな変異は、ガン化に関わる遺伝子の発現を調整していることが多い。
  4. ガン化過程で共通に見られるエピジェネティックな変化は、a)免疫回避に関わるインターフェロン遺伝子発現抑制、b) ゲノムトポロジーを決める CTCF 結合部位、c) そして Hox など発生のプログラムがある。
  5. ガンの突然変異の入り方は様々な原因があり、mutation signature としてガンの成因を考える上で重要だが、これもエピゲノムのパターンに影響する。

他にも重要な結果が示されていると思うが、私が面白いと思った結果だけ紹介した。特に、ガンの引き金はエピジェネティックな変化かも知れないという話は面白いし、実験モデルで確かめられるのでさらに追求して欲しいと思う。

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10月31日 トキソプラズマのホスト潜伏戦略(10月28日 Cell Host & Microbe オンライン掲載論文)

2022年10月31日

2年以上にわたる Covid-19 パンデミックは、それまであまり勉強しなかったウイルスについて詳しく学ぶ機会になった。その時最も驚いたのが、たかだか30種類程度のウイルス分子が、複製や免疫回避のためにホスト細胞を操作する巧妙な仕組みを進化させていることだった。

今日紹介するストックホルム大学とグルノーブル大学からの論文は、人間への感染が比較的多い原虫トキソプラズマのホスト細胞操作術について学ぶいい機会になる論文で、10月28日 Cell Host & Microbe にオンライン掲載された。タイトルは「The Toxoplasma effector GRA28 promotes parasite dissemination by inducing dendritic cell-like migratory properties in infected macrophages(トキソプラズマの分子 GRA28 は感染マクロファージが樹状細胞様の移動能力を発揮して体内に伝搬するのを促進する)」だ。

猫を飼っていたり、あるいは生肉を食べたりすると、トキソプラズマに暴露されるチャンスは多く、現代でも感染率の高い原虫だ。ただ、マラリア原虫のように悪さをすることが少ないので、免疫が抑制されたり、妊娠期以外は問題にならない。

母親から胎児というケースをのぞくとトキソプラズマは消化管を通して侵入し、身体全体に拡がり、筋肉や脳では安定な嚢胞を形成する。昔は、原虫が血液を通して拡がると思っていたが、今ではまずマクロファージに取り込まれ、マクロファージに乗って体中に拡がると考えられている。この時、例えば GABA 反応性のシグナル分子を変化させて脳への侵入を果たすことが以前報告されていた。

今日紹介する研究では、消化管でマクロファージに感染し、それに乗って全身に広がる過程に焦点を当てている。

現象的には、組織マクロファージにトキソプラズマを感染させると、リンパ節や脾臓への移動が促進される。すなわち、トキソプラズマはマクロファージに感染すると、その運動性を高め、またケモカインに惹かれて他のリンパ臓器へと移動するように再プログラムされる。

感染マクロファージの遺伝子発現を調べると、移動型の樹状細胞に似た遺伝子発現を示す。特に、CCL19 ケモカインの受容体 Ccr7 の発現が高まるので、これを指標に研究を進めている。

これまでの研究で、トキソプラズマがマクロファージの機能をハイジャックする2種類の方法がわかっており、一つは ROP 分子によるSTAT3活性化、もう一つは MYR1 分子を介する経路だ。これらの遺伝子をノックアウトしたトキソプラズマの感染実験から、CCR7 上昇を誘導するのは MYR1 であることを確認して、このメカニズムについて調べている。

ホストシグナルに直接影響する ROP と異なり、MYR1 はやはりトキソプラズマ分子である GRA28 をホスト核内に移行させる働きがあるが、シグナルには直接関わらない。そこで、なぜ GRA28 が CCR7 などの転写を変化させるか研究史、思いがけないメカニズムを提案している。

GRA28 はほとんど構造を持たない液体のような蛋白質なので、ホストの染色体にまとわりついてクロマチン構造を変化させるのではと狙いをつけ、GRA28 結合タンパク質を探索すると、NuRD を中心とするクロマチンを閉じる働きを持つ分子群、及びクロマチンを活性化する SWI/SNF 複合体と結合することを確認している。

メカニズムが完全にわかっているわけではないが、クロマチンにまとわりついて、クロマチンリモデリングに関わる分子をリクルートし、自分に都合のいい遺伝子を発現させ、都合の悪い遺伝子を抑えているようだ。不思議なメカニズムなので、おそらくクロマチン調節機構として研究が進展すると期待できる。

ここでは詳しく紹介しなかったが、GABA シグナルを利用したり、STAT3 シグナルを変化させたり、そして今回の GRA28 と、それぞれ極めてユニークなホスト操作法を開発し、トキソプラズマの場合は密かな居候として自分を全うしようとしているのがよくわかった。

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10月30日 一種類の細菌がリュウマチ性関節炎を誘導する(10月26日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2022年10月30日

このHPでも取り上げてきたが、リュウマチ性関節炎(RA)の原因を特定することは難しい。症状や自己抗体など臨床所見は似ていても、様々な原因で起こってくると考えていいと思う。とはいえ、一つ一つRA を誘導する原因を特定することが予防や治療に大事なことは言うまでもない。

今日紹介するコロラド大学からの論文は、臨床所見から遡って RA を起こす細菌を特定した論文で、10月26日号の Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Clonal IgA and IgG autoantibodies from individuals at risk for rheumatoid arthritis identify an arthritogenic strain of Subdoligranulum(RA リスクの高い患者さん由来の IgA と IgG 自己抗体産生クローンは関節炎を誘導する細菌種 Subdoligranulum を特定した)」だ。

タイトルにある IgA/IgG クローン自己抗体というのは、これまでの RA 研究から生まれた概念だ。RA は様々な自己抗体出現がその特徴だが、末梢血中に現れる IgA/IgG 発現プラズマブラストが自己抗体を産生しているのではないかと考えられている。

この研究では、RA リスクの高い人、あるいは初期 RA 患者さんの末梢血からプラズマブラストを分離し、それが発現する抗体を96種類再構成して結合を調べるところから始めている。期待通り、こうして再構成した多くの抗体が、RA で見られる様々な自己抗原と反応することから、プラズマブラストの出現が RA の初期段階にあることを示唆している。

これらの抗体を誘導する原因が腸内細菌にあるのではと着想し、再構成した抗体で腸内の細菌を染めてみると、多くの抗体が細菌叢と相互作用し、さらに一部の細菌は、抗体に強く反応する。そこで、これらの細菌の全ゲノム解析から細菌種を絞っていくと、Subdoligranulum didolesgii にたどり着いている。

細菌が特定できると様々な実験が可能で、一番重要なのはこの細菌を移植するだけで RA が誘導されるか確かめる実験だ。この目的で、無菌マウス腸内に Subdoligranulum を移植すると、驚くなかれこれだけで RA が誘導された。またこうして出来る RA では自己抗体とともに IgA も上昇、さらにこの細菌により刺激される Th1 や Th17 細胞が高まっている。

組織学的には、Subdoligranulum の移植により腸のリンパ濾胞が形成され、Th17 細胞が集まることも確認できる。

これまで RA に関わることが示唆されたバクテリアについても対照として検討しており、この細菌でも少しは炎症が誘導され、軽い関節炎に発展することがあるが、程度は全く異なることを示している。

最後に、RA のリスクが高い方の便中に Subdoligranulum が存在するか調べると、正常人には全く存在せず、一方 RA リスクの高い群では16%の人に発見されている。

以上が結果で、Subdoligranulum が全てを説明できるわけではないが、一種類の細菌を移植して RA が起こることがあることを示したことが重要だ。今後は他にも同じような細菌が特定されるかも知れない。いずれにせよ、Subdoligranulum が正常人に存在しないとすると、この細菌は常在菌と言うより病原菌といった方がいいかもしれない。そして、RA の中には感染症として捉えるべき(コロナだって重症化すると同じだ)ケースがあることも示唆している。

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