7月9日 Covid-19ワクチン副反応4:ワクチンにより誘導されるPF4抗体の性質(7月7日 Nature オンライン掲載論文)
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7月9日 Covid-19ワクチン副反応4:ワクチンにより誘導されるPF4抗体の性質(7月7日 Nature オンライン掲載論文)

2021年7月9日

新規感染者数が再度増加し始めた今、政府もワクチン以外に頼る術はないようだが、ワクチンの効果を示す多くの論文がで始めた昨年秋でも、ワクチンの安全性評価には長い年月がかかるなどと、慎重論が優勢だった。この慎重論は、マスメディアを通じて報道された結果、もともとワクチン慎重論の厚生労働省と政府の動きを鈍らせ、さらに報道された慎重論が、現在もワクチンを忌避する人たちの根拠になっていることは否めない。ポジティブな見解を表明していたメディアも存在はするが、大半のメディアは非難を恐れて慎重論を優先し、今の状況を作ったことも間違いない。結果論と不問にするのだろうが、政府もメディアも、科学との付き合い方をどうするのかについて、もう一度反省しないと、進歩はないだろう。その意味で、昨年春ぐらいからの各国の政府や専門家の対応をしっかり比較する研究は重要だと思う。

今回のワクチン開発がこれまでと全く異なるのは、ワクチンの開発過程が逐一論文としてほとんどリアルタイムで発表されてきたことだ。モデルナのワクチンについて言えば、マウス、サル、人間を用いた抗体誘導治験、高齢者の抗体誘導治験、そして第三相の発症抑制治験など、全てトップジャーナルに掲載されてきた。また、中身もほぼ完全に開示されていることから、認可プロセスなどをさらに早い段階で動かすことは可能だったと思う。

このように、全てを開示するということが信頼性と、決断を後押しする。その意味で、ワクチンの副作用についても、リアルタイムで迅速に開示され、これまで紹介したように、それぞれに対する医学的対応が示されている。学生さんに21世紀のキーワードとして、ゲノム、コホート、IT、そしてコレクティブインテリジェンス、の4つを提示して講義しているが、まさにコレクティブインテリジェンス(多くのインテリジェンスが一つの課題を解決する)が目の前で展開しているのが新型コロナ研究だと思う。

副作用に関しても、なるべく紹介するようにして、すでに3回紹介してきたが、今日の論文は2回目に紹介したアデノウイルスワクチンによるVITT(vaccine induced immune thrombotic thrombocytopenia)を引き起こす抗体についての研究で、昨日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Antibody epitopes in vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia(ワクチンにより誘導される免疫性血栓性血小板減少症の抗体エピトープ)」だ。

すでに副作用2回目に紹介したように、アデノウイルスワクチンを用いると、極めて稀だが、接種後2週間目ぐらいから、血栓性血小板減少症が起こることが知られ、これがヘパリン投与時に起こる血栓(HIT)と同じように、血小板の膜に存在するPF4に対する自己抗体が産生されることにより誘導されること、そして濃縮グロブリン注射で対応が可能であることを紹介した(https://aasj.jp/news/watch/15740)。

この論文では、5人のVITT患者さんの血清と、10人のHIT患者さんの血清を用いて、PF4への結合性を比べている。モノクローナル抗体と異なり複数の異なるPF4結合抗体がそれぞれの血清に含まれていることから、ピュアな生化学実験は困難なため、例えばPF4の突然変異体を多く用意して、血清総体としての反応部位を特定するなど、いろいろ工夫が行われている。

結論としては、

  • VITTで誘導されるaPF4抗体はHITのaPF4抗体とは異なる特異性を持っており、5例全てでPF4のヘパリン結合部位周辺の領域に反応する。HITの場合、ヘパリンが存在しないと PF4に結合できない血清が半数に見られるが、VITTの場合、ヘパリンは抗体の結合を阻害する。(この結果は重要で、ヘパリンで治療というわけにはいかないと思うが、血栓ということでヘパリン投与してしまっても、それ自体が状態を悪化させることはないことを意味する。また診断にもヘパリン添加は必要ないことも意味する)。
  • 血清総体のPF4との結合性でみると、VITTで誘導される抗体はHITの場合と比べてもかなり高い。

残念ながら、なぜPF4に対する抗体が、アデノウイルスベクターを用いたワクチンで誘導されるのかはわからない。ただ、ワクチン接種後2週間して誘導される抗体は、HITで誘導される抗体とはかなり異なっており、ワクチンによりなんらかの特異的機構が働いて誘導されていることが示唆される。そして、高い結合力でPF4と結合するとともに、抗体のFcγIIaを介して血小板と結合、この凝集体により、血小板が活性化され、血栓性血小板減少症が起こるという話だ。

なぜアデノウイルスベクターでVITTが起こるのかについては、ドイツのグループが、スパイクDNAが間違ってスプライシングを受け、可溶性のスパイクタンパク質が合成されることが、抗体誘導および血栓の引き金になるという可能性を示唆する論文を発表しているが、抗体誘導の仕組みが明らかになった時点でまた論文を紹介する。

我が国ではアデノウイルスワクチンを利用する可能性はますます減ってはきているが、稀に起こったとしても、治療法は確立していることから、医療側でもしっかり準備をしておくことが重要になる。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月8日 抑制性T細胞による自己反応性T細胞抑制についての革新的組織学(7月22日 Cell 掲載論文)

2021年7月8日

成熟後の免疫暴走を抑制性T細胞(Treg)が抑えてくれていることは、今や疑う人はいないと思うが、抑制のメカニズムについては、それに関わる分子の名前は上がってくるが、それらがどう働いているのか自分の頭の中でももう一つ明確ではない。例えば、Tregが抗原によるT細胞の活性化を抑えているのか、逆に活性化された後のT細胞を抑えているのか、あるいは両方に働いているのか、よくわかっていない。

今日紹介する米国NIHからの論文はこの問題に対して、ほとんど生体の免疫組織での細胞動態を解析することでアプローチした、少なくとも私にとっては眼から鱗とも言うべき素晴らしい研究で、7月22日号のCellに掲載される。タイトルは「A local regulatory T cell feedback circuit maintains immune homeostasis by pruning self-activated T cells (局所的なT細胞のフィードバック回路が自己抗原に反応したT細胞を剪定し免疫ホメオスターシスを維持する)」だ。

ヘルパーT細胞やTregについては、発現している分子からシグナルまで、かなり詳しくわかっている。ただ、これら複数の因子を組織上で測定し、それを自動的にPCで解析することは、意外と行われていない。実際これによって付け加わるのは、空間情報だけなので、どうしてもsingle cell RNAseqなどと比べて情報価値が少ないと思ってしまいがちだ。

もう一つ重要なのは、組織=顕微鏡=見るという話になって、どうしてもバイアスのかかった自分の目と脳で見てしまうと、見落とすものは多い。これに対し、この研究では、基本的に全てのデータをPCにインプットして、それを様々な視点で解析することで、組織学の問題を解決しようとしている。

最後に、機械に測定を任せるとしても、解析や課題の設定は研究者が決める必要があり、この点でこのグループは素晴らしい。まず、成熟無菌個体に存在する、自己反応性T細胞に注目し、これをTregが抑制するプロセスに絞り、自己抗原により活性化されたT細胞がIL-2を産生し、そのIL-2が周りのTregが、同じ抗原反応性のTregを近くに集めて、自己反応性T細胞を除去していることを示している。

書くと簡単だが、実際には様々な遺伝子改変マウスや抗体によるシグナル抑制を駆使した課題を設定し、その結果をPCで読み取り、ThとTregの空間的関係、および数や、増殖、アポトーシスなどの状態を、組織上で再展開できるようにして出された結論だ。例えば、活性化したThからTregの距離が10μに近くなどのデータは、観察しているだけではなかなか気づけない。

この結果、胸腺で自己反応性が選択された後も、自己反応性の細胞は常に存在することを明確に示したこと、そして自己抗原は、外来抗原と比べると弱い刺激しか受けないが、そこから分泌されるIL-2を介したフィードバックループ、すなわちTregの活性化されたTh周辺への集積、それがTcR、CTLA4等を介して、時間はかかるが自己反応性のThの細胞死を誘導することが示されたことは重要だ。

もう一つ、この論文を読んで、IL-2という単純なサイトカインに対して、様々な受容体が存在し、TregとThがわざわざ異なるシグナル経路を用意していることもよくわかった。すなわち、分泌されるIL-2の濃度に合わせた競合がThとTregの間で起こりやすいようになっている。

あとは、この中心ループに、これまでわかっているCTLA4やTcRのシグナルを組み入れたモデルを形成し、このモデルを元に、様々なセッティングでの実データを機械学習させ、極めて予測性の高い、Tregによる反応抑制システムモデルの構築に成功している。

しかも、このモデルから想定される可能性、例えばCTLA4が片方の染色体で欠損した人では自己免疫が起こりやすく、またIL-2のシグナルにIL-2βが関わっていても、その欠損では自己反応性細胞の活性化が抑制されたままであるといった予想を、実験的に確かめている。

あまりにも内容が豊富で紹介はこの程度にしておくが、組織学的な空間情報を取り込み、そのデータを一度コンピュータに預けることで、Tregについてこれほど理解が深まるのか、感激は大きい。しかも、モデリング嫌いの私にも、ビッグデータから見えないものが本当に見えることがよくわかった。

免疫学を志している人たちにはぜひ読んでほしい論文だ。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月7日 糖尿病性腎症の腎不全への進行を抑える分子(6月30日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年7月7日

進行する腎機能障害は、糖尿病の最も重要な合併症の一つで、急速に高齢化する我が国の医療システムを脅かす重要な要因になるのではと考えられている。ただ、糖尿病の患者さんが同じような経過で腎不全へと進行するのではなく、糖尿病自体の状態で揃えても、急速に進行する人から、進行が遅い人まで、個人差が大きい。

このような個人差を指標に病気の進行に関わる分子を特定する可能性があるが、そのためには患者さんの長期の追跡で経過を把握した上で、指標となるバイオマーカーを検索する必要がある。糖尿病でこのようなコホートが成功した例は、1型糖尿病で50年以上合併症もなく過ごした人(ジョスリン金メダルとして知られている)の糸球体では、ピルビン酸キナーゼM2が活性化されているという研究だろう。

今日紹介する、同じジョスリン研究所から発表された論文は、腎不全への進行速度に関わる分子の探索から、進行を抑えていると考えられる3種類の血中分子を特定したという研究で、6月30日号のScience Tranlational Medicineに掲載されている。タイトルは「Circulating proteins protect against renal decline and progression to end-stage renal disease in patients with diabetes(糖尿病患者さんで末期的腎不全へ進行する腎機能低下を防ぐ末梢血タンパク質)」だ。

この研究では1型糖尿病コホート、2型糖尿病コホート参加者を、7−15年間追跡し、eGFR(濾過率)やACR(クレアチニン/アルブミン比)などの腎不全マーカーとともに、SOMAscanと名付けている方法を用いて、1129種類の血中タンパク質を検査し、この中から腎機能低下カーブと相関するタンパク質を検索している。

79種類のタンパク質が相関ありと特定され、まずその中から腎機能を守る方向に働いているタンパク質を18種類特定している。この中にはピルビン酸キナーゼも含まれる。

この中から各タンパク質間の相関性から、異なるメカニズムで働いていると思われる3種類のタンパク質を特定し、その代表として血管リモデリングに関わるAngiopoietin 1,炎症に関わる TNFSF12、そして腎臓の発生と幹細胞システムに関わるFGF20を選び出している。

次に、この3つの数値を組み合わせて、それぞれの分子のレベルが、1)全て高い、2)2種類が高い、3)1種類だけ高い、4)全部低い、のグループに分け腎機能の低下を調べると、全項目で高いグループ1の人で腎不全が進行しないのに対し、全部低いという人では末期状態へと急速に進行することがわかった。

結果は以上で、メカニズムや治療可能性についてはこれからの研究になる。しかし、アンジオポイエチンに関しては、私たちの研究室に所属していた植村さんが、網膜の血管で、ペリサイトが遊離してもアンジオポイエチンにより血管の構築を守ることを示しているし、FGF20はネフロンの発生と維持に関わることを考えると、なるほどと納得できる結果だ。唯一、炎症誘導性のTNFSF12が機能を守るという結果は意外で、今後の研究が重要だと思う。

以上、目的を持ったコホート研究の重要性がよくわかる論文だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月6日 ダイエットと腸内細菌叢(6月23日 Nature オンライン掲載論文)

2021年7月6日

腸内細菌叢が、生活環境や食事により大きく変化することはよくわかっているが、コントロールされたダイエットの効果については、今まで論文を目にしたことがなかった。

今日紹介するドイツ・ベルリンにあるシャリテ大学病院からの論文は、肥満の治療目的で、1日800kcalという、過酷な制限食(ネスレ社から販売されているOptifastを持ちいている)を2ヶ月続けた80人の更年期女性について、ダイエットの効果と共に、腸内細菌叢の変化を調べた研究で、6月23日のNatureにオンライン出版された。タイトルは「Caloric restriction disrupts the microbiota and colonization resistance(カロリー制限は腸内細菌叢を破壊し、細菌侵入抵抗性が低下する)」だ。

さて、このぐらい徹底してコントロールすると体重が13Kg近く低下し「(といっても対象者は90−100Kgの巨漢だが)、同時に体脂肪が低下、そしてグルコース代謝の改善が見られている。

これと並行して、腸内細菌叢の量と内容も大きく変化する。しかし、元の食事に戻ると、体重は維持されていても細菌叢は元に戻る。細菌叢の変化の原因を探るため、細菌叢全体が発現している遺伝子を調べると、利用したダイエット食品に合わせて、グリカンを代謝できるAkkermansiaが上昇し、植物性炭水化物を代謝する細菌が低下していることがわかる。また、メタゲノム解析でも、Akkermansiaだけでなく、グリカン代謝に関わる酵素が上昇、CAZymesと呼ばれる植物性炭水化物分解酵素が低下する。

通常の研究は、このような解析を繰り返して、なるほどという結論を出して終わるのだが、この研究ではさらに進んで、無菌動物への便移植を行い、細菌叢の変化がホストの代謝に影響するかを調べている。

  1. 体重減少率の高かった人のダイエット後の便を移植したマウスは、ダイエット前の便、あるいはコントロールの便を移植したマウスより体重が低くなる。
  2. これと並行してブドウ糖代謝能も高まり、体脂肪も低下する。
  3. 便移植による体重減少に関わる最も重要な要因は、病原性で知られたクロストリジウム菌で、他の菌とともにクロストリジウム菌を移植すると、体重の低下が強くなる。
  4. クロストリジウム菌といっても、このとき増加するのは病原性のトキシンの発現はなく、下痢などの症状は誘導しない。
  5. しかし、病気を誘導するところまではいかないが、クロストリジウム菌が持っているトキシンが、腸内での好中球浸潤を誘導し、体重減少に関わっている。
  6. クロストリジウム菌の現象は、単純の分泌低下と相関している。

他にもあるとは思うが、主な結果は以上のようにまとめていいだろう。独断を交えて解釈すると、厳しいカロリー制限によって腸内細菌叢が変化し、それが体重減少を助けることは間違いなさそうだが、この影響は単純な代謝だけを介するのではなく、病原性はないにせよ、クロストリジウム菌のトキシンを利用した変化で、炎症が起こることから、注意が必要だということになる。

この研究ではOptifastが用いられているが、例えば胆汁量を維持するための成分を加えるなど、まだまだ改良の余地があると思う。さらに、炎症が起こることを考えると、若い妊婦さんが間違ってもこのような方法を用いることがないよう周知も必要かと思った。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月5日 スプライシング阻害剤を用いてガン免疫を高める。(7月22日号 Cell 掲載論文)

2021年7月5日

チェックポイント治療は、ガン免疫が成立するかどうかにかかっている。ガン細胞といえども、自己細胞由来であり、通常免疫トレランスがかかっている。幸い、ガン自体様々なストレスを跳ね返して増殖している結果、正常細胞にはない多くの突然変異が蓄積し、それが新しいガン抗原として働く。メラノーマや肺ガンでチェックポイント治療の効果が見られる人が多いのは、これらのガンでは紫外線やタバコなどにより、多くの突然変異が存在する確率が高いからだ。

とすると、ガン抗原として働く変異ペプチドをできるだけ多く作らせることができると、チェックポイント治療の確率を高めることができる。ゲノムレベルの変異以外で、これを可能にする方法として、当然スプライシングを阻害して、新しいペプチドを合成させることが考えられる。ただ、ガンでより依存性が高まっているとはいえ、スプライシングはガン特異性が期待できないことから、試みられてこなかったようだ。

今日紹介するスローンケッタリング ガン研究所からの論文は、ガンの免疫療法を高めるためのスプライシング阻害剤利用の可能性について詳しく検討した研究で7月22日号のCellに掲載された。タイトルは「Pharmacologic modulation of RNA splicing enhances anti-tumor immunity (RNAスプライシングを薬理的に変化させることで抗腫瘍免疫を高める)」だ。

スプライシングが失敗すると、イントロンが翻訳されたり、フレームの変わったペプチド断片が翻訳されたり、通常存在しないペプチドが細胞内で合成されることはわかっている。ただ、これが正常細胞の生存を脅かすと元も子もない。

この研究では、スプライシングに関わるRBM39を特異的に分解する薬剤や、スプライシング機能に必要なタンパク質のアルギニンメチル化を阻害する化合物を用いて、ガン細胞の試験管内の増殖には影響がないがガンを移植したときの免疫反応が高まる処理方法を探し、indisulam及びMD-023を特定している。

次に、免疫機能をはじめ、様々な生体機能が保持される濃度を決めたあと、ガンを移植したマウスをanti-PD1抗体で治療するとき、同時にそれぞれの薬剤を投与して、スプライシング阻害によりガン免疫を高められるか調べている。結果は期待通りで、いずれの薬剤も完全ではないが、明らかにPD1抗体治療の効果を高めることがわかった。

あとは、それぞれの薬剤が実際にスプライシングを変化させて、新しいガン抗原を誘導しているかどうかを、様々な方法を用いて調べ、

  • それぞれの薬剤は、イントロンをはずし損ねたり、あるいはエクソンを飛ばしてしまうというスプライシングの異常を誘導し、正常にはないペプチドを合成する。また、人間、マウスを問わず、共通の新しいペプチドが多く合成される。Indisulamはスプライシングの効率を下げることで前者の異常が多く、一方MS023は後者の異常が高まる。
  • こうして生成した異常ペプチドはMHCと結合できる能力があり、実際indisulam処理した細胞のMHC Iを免疫沈降して、結合しているペプチドを質量分析で調べると、スプライシングミスで生成したペプチドが多く同定される。例えばIndisulam 処理により、H-2D結合ペプチド518種類、H-2K結合ペプチド366種類発見している。
  • こうした発見したペプチドの中から、MHCとの結合性の高いペプチドを39種類選び、それぞれに対してT細胞免疫ができるか調べると、11種類がガン免疫を誘導することがわかった。
  • ペプチドとMHCのテトラマーを用いて抗原反応性T細胞を定量する方法を用いると、indisulam処理、あるいはindisulam+aPD1処理により、ガン抗原となるペプチド反応性のCD8T細胞が上昇する。

以上、様々な角度からスプライシング阻害剤を免疫チェックポイント治療と組み合わせると、効果が期待できることを示している。この2種類の薬剤は、少なくともマウスでは全身影響を許容できるようなので、チェックポイント治療の適用を高める意味でも、臨床治験の進展に期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月4日 線維筋痛症は自己抗体により誘発される(7月1日号 The Journal of Clinical Investigation 掲載論文)

2021年7月4日

線維筋痛症(fibromyalgia: FM)は全身に痛みが生じる病気で、症状は激烈なのに、原因が全く特定されていないだけでなく、確定診断に必要な検査もないため、それが余計に患者さんの不安を増強させてしまう、医学に残された重要な課題の一つだ。

今日紹介する英国キングズカレッジからの論文は、この難しい病気の解明と治療に大きな変革がもたらされるのではと期待される研究で7月1日号のThe Journal of Clinical Investigationに掲載された。タイトルは「Passive transfer of fibromyalgia symptoms from patients to mice (線維筋痛症の症状を患者さんからマウスに移行させる)」だ。

このHPでもFMについては既に2回紹介しているが(https://aasj.jp/news/watch/9681)(https://aasj.jp/news/watch/10184)、内容といえば「診断が難しいが、痛みの閾値が低下していることから、メトフォルミンなどでこれを上げることで改善できるかもしれない」といった、ある意味では慰め程度の論文しか紹介できなかった。

しかし今回紹介する研究は、これまでとはレベルが違う。研究は、FMの原因が神経端末に存在して興奮の閾値を決めている何らかの分子に対して抗体ができることで、この自己抗体が痛みの閾値を下げて、全身の痛みを誘導している、という仮説に基づいて計画されている。この仮説が正しければ、自己抗体を他の個体に投与すれば、当然同じ症状が起こることになる。ただ、もちろん他の人に患者さんの血清を投与することは許されない。代わりに、この研究では患者さんの血清からIgGを精製して、それをマウスに注射した。

すると、注射して次の日から、足の裏の刺激を用いたテストで見られる痛み感受性の上昇が見られるようになる。しかも、投与した全ての患者さんの血清で同じ症状を誘導できるが、健康な人の血清では何も起こらない。

痛みを誘導する方法を変化させて調べる実験で、様々な痛みに対する反応を調べ、痛み受容体が関わる興奮であれば、ほぼ全ての種類の痛みの感受性が高まることを明らかにした。さらに、この抗体を注射された個体では、活動性が低下するという点でもFMの患者さんに酷似している。そして、これがIgG、すなわち抗体によることも確認している。

どうして今までこの着想が生まれなかったか悔やまれるが、極めて古典的な方法で、FMが神経細胞膜に作用して痛みを増強させる生理学的抗体による免疫病であることを明らかにしたことになる。

あとは、神経細胞上のどの分子に結合して閾値を下げているのかが問題になる。この研究では、患者さんのIgGが、病的疼痛に関わると考えられている後根神経節のサテライトグリア細胞と神経細胞に結合していることまで確認しているが、残念ながら分子の同定にまでは至っていない。ただ、結合して直接神経興奮が誘導されるような分子ではない。また、炎症を介して閾値が下がっているということも否定している。

あと少し頑張って分子を特定すればホームランだったとは思うが、患者さんにとっては大きな朗報だと思う。全力をあげて、分子の特定を行うとともに、自己抗体を低下させる方法を確立して欲しい。まだまだ乱暴な検査だが、動物の後根神経節を患者さんの血清で染めるという方法も、確定診断法になる可能性が高い。大きな期待を抱かせる研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月3日 皮膚細菌叢による炎症には内因性のレトロウイルスが関わる?(7月8日号 Cell 掲載論文)

2021年7月3日

昨年紹介したが、皮膚の難治性の炎症には内在性のウイルスの再活性化が関わることがある(https://aasj.jp/news/watch/12272)。日本語での総説がワンクリックして貰えばダウンロードされるので、是非私の友人の橋本・愛媛大名誉教授のDiHS(薬剤過敏症症候群)の総説を読んでいただきたいが 、皮膚の炎症が一つの原因だけで語るのを難しくしている。

今日紹介する米国衛生研究所からの論文は同じラインの研究で、皮膚のように細菌が繁殖しにくい環境でも、内在性のレトロウイルスが活性化され、自然免疫が誘導されると、強い炎症になることを示した研究で7月8日号のCellに掲載された。タイトルは「Endogenous retroviruses promote homeostatic and inflammatory responses to the microbiota(内因性レトロウイルスが細菌叢に対する定常的・炎症性反応を促進する)」だ。

研究は比較的単純で、Cellによく採択されたなという印象はあるが、意外性のある結果なので、本当なら新しい視点が開ける。皮膚細菌の代表として表皮ブドウ球菌をマウス皮膚に移植したとき、炎症はそれほど強くないのに様々なT細胞の浸潤が起こることに注目し、皮膚ケラチノサイトの反応を調べている。すると、炎症反応は強くないのに、1型インターフェロンの強い反応が誘導され、結果抗ウイルスに関わる分子が強く誘導されている。

炎症の助けなしに強いT細胞反応が誘導できる理由をさらに探索すると、表皮ブドウ球菌により数種類の内在性のレトロウイルスが活性化され、これが逆転写されることで、途中で転写が止まった短いcDNAが細胞内で蓄積し、これがTLR2等の自然免疫シグナル系を介して、T細胞誘導性のサイトカイン分泌を誘導していることを突き止める。

また、逆転写されたcDNAが細胞浸潤を誘導していることを明らかにするため、逆転写酵素阻害剤を投与する実験も行い、これによりT細胞の浸潤が強く抑制されることも明らかにしている。加えて、この内在性レトロウイルス誘導に、細菌側のLPSとタイコ酸が関わることも明らかにしている。

この他にも、cDNAがSTING/GASにより感知されていることや、損傷治癒との関わり、さらには肥満による慢性炎症の影響まで、いろいろ実験が加わっているが、割愛してもいいだろう。

まとめ直すと、表皮ブドウ球菌の場合、LPS/タイコ酸刺激により、内在性のレトロウイルスが活性化されることで、特異的に抗ウイルスの主役、1型インターフェロンが誘導され、ある意味で今流行のサイトカインストームを抑えながらも、T細胞を主役とする細胞浸潤を誘導し、細菌に対する免疫が成立する、になるだろう。

ヘルペスウイルスのケースと比較すると、ウイルスの関与の仕方も様々で大変面白い結果だが、内因性レトロウイルスとなるとあらゆる細胞に、大量に存在すると考えられるので、皮膚だけの話か、あるいは肺や腸まで拡大できる話なのか、少し気になる。

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7月2日 新型コロナウイルスの抗体回避を網羅的に定量してmRNAワクチンに対する免疫を評価する(6月30日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年7月2日

現在我が国でも急速にワクチン接種を受けた集団が増えている。そのほとんどが完全に同じpre-fusion formのスパイク抗原を安定に形成できるmRNAワクチンであることを考えると、日本人の免疫機能を調べるためのまたとない機会が、研究者の前にあることを示唆している。しかし、抗体反応は様々な抗原反応B細胞の集まりで形成され、その全体像を定性的、定量的に検出するのは簡単でない。

この問題に酵母の細胞膜にウイルスの受容体結合ドメインを発現させて、抗体との相互作用を網羅的に調べようとしたのが、昨年9月、フレッドハッチソン・ガン研究所からCellに発表された論文で、RBDに理論的に可能な点突然変異をあらかじめ網羅的に導入して、FACSを用いてACE2と変異RBDを発現した酵母との反応を解析し、ACE2結合性が上昇or 下降した変異を全て特定するのに成功した。それまでウイルスの変異は、forward geneticsで調べられていたのが、この方法のようにreverse geneticsを利用することで、変異体の出現を予測する方法に道を開いた点で画期的だ。

当然ウイルス変異で心配になるのは、ACE2との結合活性だけでなく、ウイルスに対する抗体を回避する変異だが、今年1月、このグループは、網羅的に変異を導入した酵母と、ウイルス感染後の抗体との反応を調べ、抗体回避変異は、患者さんの抗体というダーウィン選択圧存在下で現れることを明らかにした。

そして今回、私たちの最大の関心事であるワクチン接種により誘導される抗体から回避するウイルス変異について検討し、6月30日、ScienceTranslational Medicineに掲載した。タイトルは「Antibodies elicited by mRNA-1273 vaccination bind more broadly to the receptor binding domain than do those from SARS-CoV-2 infection (mRNA-1273(モデルナワクチン)により誘導された抗体は、ウイルス感染により誘導された抗体より広範囲に受容体結合ドメインと結合できる)」だ。

繰り返すが、この研究ではスパイクのRBD遺伝子をとりだし、それぞれのアミノ酸をあらかじめ可能な限り変異させ、最初の研究でACE2に結合性があることを確認した2034種類の変異体を作成し、全てを酵母の表面上に発現させたライブラリーを作成し、抗体との反応性を見ている。

このライブラリーを患者さんの血清と混合すると、RBDに対する抗体がある場合、酵母は抗体で染色されFACSで検出できるが、抗体との反応性が低い変異RBDを持った酵母は、染色性が低下する。すなわち、抗体回避変異体を、FACSで可視化し、それをソーティングすることができる。こうして回収した酵母のRBD配列をシークエンスすれば(バーコードでもできるようになるだろう)、どの変異が抗体回避するか予測できる。しかも定量性が高い。

ただ、この方法が抗原決定基を調べる方法でないことには注意が必要だ。抗原抗体反応の立体構造を見ると、抗体ごとに抗原と接触する範囲は異なる。したがって、抗原上に存在する抗体反応領域を単純に1個、2個と数えることができない。一方この方法だと、血清中に存在する抗体の総体がどの変異に対応しているのか、明確に定量できる。

これまでスパイクに対する抗体の研究から、中和活性の複雑性が議論されており、RBDの変異だけで全てを網羅できるかという問題はあるが、最初にRBDで血清を吸収する実験を行い、中和抗体の90%はRBDに対応していることを確認して、その後の研究の妥当性を示している。しかし驚くのは、感染により誘導された抗体はRBDだけで吸収しきれない点だ。すなわち、感染ではRBDだけでなく、多くのエピトープに対して抗体ができていることを示唆している。

さて、ワクチンによる免疫は変異体に対して抵抗性を持っているのか? 研究では14人のワクチン接種者(普通の量より2.5倍高い量を注射した第一相試験の参加者:ただ現在用いられている量を接種したグループでも同じ結果であることは確認されている)を、接種後1ヶ月、4ヶ月目で調べている。

既に述べたように、これまでの免疫学で考えるのとは全く異なる検査方法なので、結果をうまく表現するのは難しい。しかも、抗体回避性と言っても、そのまま変異体が拡大することを意味するわけではない。言ってみれば、抗体総体の反応性が少しでも低下する抗原表面上の変異が、FACSソートされる頻度で表現されている。それをあえてわかりやすく翻訳し直すと、結果は次のようにまとめられる。

  1. ワクチン接種を受けると、できてきた抗体の総和は、多くのRBD変異に影響を受けるが、特に強く影響される変異があるわけではなく、様々な変異が低いレベルで抗体結合性を低下させる。
  2. しかし、4ヶ月になると、その中でいくつかの変異が特に強く抗体回避能を獲得するようになる。これが反応クローン数とどう関係するか分からないので、結論はできないが、免疫が成熟すると、一定エピトープに対するクローンが増えるという状況になるのかもしれない。
  3. 一方、感染によって誘導された抗体の場合、最初から抗体回避を強く起こす特定の変異体が優勢になる。多くの患者さんで同じようなパターンが見られるので、おそらく以前紹介したように、中和抗体の場合、最初から生まれついて持っている抗体遺伝子が対応しているのかもしれない。(https://aasj.jp/news/watch/13476
  4. 以上の結果、少なくともモデルナワクチンを接種した場合は、様々な変異をうまくカバーして抵抗力のある抗体が誘導される。

先に述べたように、これまでの免疫学的方法を頭に、この結果を読むと間違うと思う。しかし、reverse geneticsを用いて、全く違う視点で眺めたことで、新しいものが見えてきている。今後、これまでの免疫学での結果(例えば反応抗体クローン数)などと対応させることで、表裏が揃った素晴らしい検査に発展すること必至だ。もっと予測性をあげたいなら、スパイク全体をしかもpre-fusion formで発現させ、網羅的変異を導入することも可能だ。

今でも遅くないから、この方法を導入して日本人でも調べてほしい。

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7月1日 MECP2とうつ病がつながった (6月28日 Nature Neuroscience オンライン掲載論文)

2021年7月1日

6月26日、「MECP2研究の新時代が来た」と題して、これまでメチル化されたCG(シトシン、グアニン)結合タンパクとされてきたMECP2が、実際には(全てでないにしても)メチル化されたCA(シトシン、アデニン)に結合して、DNAがヒストンによりヌクレオソームにまとまるのを阻害する役割があること示したフランスストラスブール大学からの研究を紹介した。

内容的にはおそらく医学部大学院生でも難しい論文なので、説明がよくわからないとお叱りを受けた。そこで、7月13日火曜日 朝11時から、MECP2重複症患者家族会の方に参加していただいて、この論文の意義について納得してもらうまで説明しようと考えている。もし平日の朝でも、参加可能な人は、連絡していただければ、zoom アカウントを送ります。

このとき、もう一つ紹介したい論文が、今日紹介するテキサス、バンダービルド大学から発表された論文で、うつ病治療に使われるケタミンやスコポラミンの作用がMECP2を介している可能性を示唆した研究だ。タイトルは「Sustained effects of rapidly acting antidepressants require BDNF-dependent MeCP2 phosphorylation(一過性作用しか持たない抗うつ剤が長期効果を持つにはBDNF依存性のMeCP2リン酸化が必要)」で、6月28日号Nature Neuroscienceに掲載された。

現在うつ病の治療として使われている薬剤の中に、NMDA受容体阻害剤ケタミンがあるが、ケタミンは麻酔剤として知られるように、受容体抑制効果は一過性でしかない。なのに、ケタミンを一回投与しただけで、抗うつ作用が1週間以上続くことから、より持続的な細胞変化が関わることが想定され、ケタミンで誘導される神経細胞過程が徐々に明らかにされてきている(https://aasj.jp/news/watch/14546)(https://aasj.jp/news/watch/3687)。

このケタミンはうつ病だけでなく、なんと介在神経の活動を抑える目的でレット症候群への治験が進む薬剤として期待が持たれている。

そのケタミンがMECP2の機能調節に直接関わっていることを示したのがこの研究で、まずケタミンを注射すると、海馬で神経増殖因子BDNFが一過性に上昇し、その後1週間目にリン酸化されたMECP2が上昇することを発見している。

この上昇がケタミンの抗うつ作用に直接関わることを示すために、MECP2遺伝子を操作して、リン酸化を受けられないようにしたマウスを用いて、泳ぎを強要することで誘導されるうつ状態をケタミンで治療する実験を行うと、リン酸化できないMECP2では、ケタミンの効果がないことがわかった。

すなわち、ケタミンにより一過性にNMDA受容体が抑制されると、細胞内のシグナル変化でBDNFが誘導され、途中まだはっきりしない細胞内過程を経て、MECP2がリン酸化され、その結果うつ症状に関わる細胞変化を長期間維持することができることを示している。

他にも、ムスカリン受容体の阻害剤スコポラミンでも、抗うつ剤として長期効果が知られている薬剤は、同じようにBDNFを介してMECP2リン酸化へと収束すること、また同じ刺激は、前シナプスだけでなく、後シナプスレベルのリプログラミングも誘導できることを示しているが、割愛していいだろう。

要するに、MECP2がリン酸化され、その機能が高まることで、うつ病に関わる遺伝子群の発現の変化を誘導できることをはっきり示したことが重要だ。この研究では、どの分子が変化したのかについては探索すらしていない。しかし、これらの分子が明らかになり、それをMECP2についての新しい視点、すなわちヌクレオゾームの調節から見直すことで、新しい可能性が開けるのではないかと期待する。

これについても7月13日(火)11時より、とことん解説してみたい。

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6月30日 新型コロナウイルスを発見するマスク(6月28日 Nature Biotechnology オンライン掲載論文)

2021年6月30日

ちょうど1年前、中谷医工計測技術振興財団の理事会で、我が国の新型コロナ研究の緊急助成を提案したら、承認いただき、最終的に45人の研究者に200万円−600万円の助成を行うことができた。最初、本当に応募する研究者がいるのかについても心配したが、短い公募期間にもかかわらず多くの方に応募いただいた。

このようなテーマが決まった助成審査の場合、一番ワクワクするのは申請書を読むときだ。どれだけ常識を超えた、ぶっ飛んだ申請が出てくるのかと期待して読み始める。特に今回は世界が苦しんでいる感染症だ。しかし、期待は裏切られ、読み終わったとき、正直完全にガッカリしてしまった。すなわち、1人でも常識外れの研究者が出ればと期待した今回の努力も、残念ながら普通の研究助成に終わってしまったことを実感した。

このときぶっ飛んだ申請として頭に描いたのは、例えば全く新しい技術の開発といったものではない。短期間に仕上げる必要があることから、既存の技術をいかに新型コロナ向に仕上げるかというアイデアの競争になる。

あれから1年経ったが、今日紹介するMITからの論文は、ウイルス検出システムを組み込んだマスクの開発で、一見馬鹿げて聞こえるが、なんでもやってみるという意味では感心する研究だと思う。タイトルは「Wearable materials with embedded synthetic biology sensors for biomolecule detection(生体分子検出のための合成生物学的バイオセンサーを組み込んだ、ウエアラブル素材)」だ。

このグループの目的は試験管内用に設計された生体分子検出反応システムを、ウエアラブルにして、体内、体外からの分子を検出できるようにするユニバーサルなシステムの開発で、技術自体に目新しいものはない。

しかし、現在利用できる様々な技術についての広い知識と、実際の使用状況想定したシステム開発についてのアイデアが必要で、この研究では、

  1. 全ての反応液が凍結乾燥され、ウエアラブルのプラスティックレイヤーにはめ込んだ反応システムを用いて、チェンバーに入ってくる飛沫内の分子を検出するようにしている。
  2. 最も重要なのは、一旦反応が始まった後、多くの水分で薄まりすぎたり、逆に乾いてしまわない工夫で、最終的に1時間の乾燥により失われる水分が20%以下になるように設計している。
  3. 基本的には、反応が始まると、DNAが転写される過程、転写されたRNAが翻訳される過程を、様々な分子で調節可能にして、チェンバーに入ってきた標的分子を検出できるようにしている。
  4. これまでの研究で、Toehold法や、リボスイッチなどのRNA テクノロジーを用いて、タンパク質から核酸まで多くの標的を検査可能にしている。
  5. それぞれのチェンバーにオプティックファイバーを設置して、蛍光などの分子も検出できるようにしている。
  6. そして圧巻は、以前紹介したCas12などの1本鎖を切断するクリスパーシステムを用いたSHERLOCK((https://aasj.jp/news/watch/14464)を組み込んで、RNA調整から反応までの全てをマスクに組み込んで、体外からあるいは体内からの新型コロナウイルスを、高感度で検出できるシステムを作り上げている。おそらく、抗原検査も同じプラットフォームで可能なら、もっと簡便なウイルス検出システムも可能かもしれない。

以上が結果で、ジャケットからマスクまで、全て実際に完成品を仕上げている。またマスクにより100万粒子が検出できることを示して、現実性があることを強調しているが、個人的には、ぶっ飛んだとまではいかないが、マスクでウイルスを検出しようとしたことを評価したい。

このような話を紹介すると、費用はどうか、現行の方法が優れているとか、評価は慎重になどとアドバイスする、したり顔の専門家が必ず出てくる。しかし、馬鹿げていると思えることにチャレンジすることが重要で、意味があるかどうかなど後から議論すればいい。したり顔は、一般の人に対する説教にはいいが、若い研究者には似合わない。何でもやってみよう。

カテゴリ:論文ウォッチ