ネアンデルタール人の全ゲノムを解読し、我々のゲノムの中にネアンデルタール人のゲノムが5-6万年前以降に起こったネアンデルタール人との交雑の遺産として残っていることを明らかにしたのはライプチヒ・マックスプランク研究所のペーボさんの業績だ。このとき、サハラ以南のアフリカ民族にはネアンデルタール人ゲノムは存在しないことが強調されたが、その後のネアンデルタール人のゲノムとアフリカ人ゲノムとの比較から、10万年以上前に現生人類からネアンデルタール人への遺伝子流入があったことが示唆されている。
今日紹介するプリンストン大学からの論文は、全ゲノム解析が終わっている3種類のネアンデルタール人と1000人ゲノムプロジェクトで得られた2000人という大規模なゲノム配列を比較して、ペーボさんたちが特定した遺伝子流入以前の交雑史を詳しく解析した研究で、7月12日 Science に掲載された。タイトルは「Recurrent gene flow between Neanderthals and modern humans over the past 200,000 years(ネアンデルタール人と現生人類の間の遺伝子流入は20万年以上に渡って繰り返し起こっている)」だ。
遺伝子多様性は時間とともに発生し、蓄積される遺伝子変異と考えると、我々の先祖の多様性を反映している。ただ、他の集団との交雑があると、当然その多様性も取り込むことになる。多様性は我々が2本持っている染色体のヘテロ接合性の度合いを計算していくことで、交雑の結果としての多様性を追跡できる。この結果、ネアンデルタールゲノムのヘテロ接合性の高い領域で現生アフリカ人のゲノムと一致しているが、アジアやヨーロッパ人とは一致しない領域がネアンデルタール人で100カ所以上特定できるが、デニソーワ人では見つからないことがわかった。すなわち、Out of Africa より前に現生人類からネアンデルタール人への遺伝子流入が間違いなくあったことが確認される。
そこで、最近開発された IBDmix と呼ばれる流入した遺伝子断片を見つける方法を使って特定された遺伝子断片の歴史的由来を探って、例えばアフリカ人に発見されるネアンデルタール遺伝子断片の由来を調べると、最初にネアンデルタール人へ流入した遺伝子領域が、今度は現生人類へと流入し、それが現生人との交流でアフリカに戻るという歴史を特定できる。
これまで古代人の人口はゲノムの多様性から計算していたが、多様性が他の人類から、即ちネアンデルタール人への現生人類ゲノムの流入によりもたらされるとすると、これによる多様性を計算して人口を推定する必要がある。この研究では、この影響を算定し、これまで推定されていたネアンデルタール人の人口が2割程度低くなることを示している。これは、その後のネアンデルタール人の絶滅を考える上でも重要な情報になる。
最後に近似ベイズ計算を用いて、シミュレーションを何度も繰り返しベイズ計算を行う方法で、遺伝子流入の歴史についての様々なモデルを検証し、最終的に現生人類からネアンデルタール人への遺伝子流入がまず20万年から25万年前に起こり、その後10万年から12万年頃にも同じように起こっていること、そしてあとの交雑の遺産はアルタイネアンデルタールには見られず、その後シャギルスカヤやヴィンジャネアンデルタールには見られること、そしてその後6万年以降2回に渡ってネアンデルタール人から現生人類への遺伝子流入が起こったという歴史が推定されている。
重要な問題は、20万年前の遺伝子流入がどこで行われたかだ。ネアンデルタール人は40万年前にはアフリカから出ていたことを考えると、これまで知られていた場所とは違う場所で現生人類とネアンデルタールの交雑があったことになる。この研究では、ギリシャやサウジアラビアが候補とされているが今後の研究になる。今後この新しいスキームに基づいて古代ゲノム解析が進むことで、これまで特定されている遺伝子流入が一方向性なのかなど、様々な疑問に答えが得られるように思う。また、ネアンデルタール絶滅史もこれからの重要なテーマになると思う。
1:Out of Africaより前に現生人類からネアンデルタール人への遺伝子流入が間違いなくあったことが確認される。
2:ネアンデルタール人へ流入した遺伝子領域が、今度は現生人類へと流入し、それが現生人感の交流でアフリカに戻るという歴史!
Imp:
現生人類とネアンデルタール人の交雑