1月9日:クリスパーシステムを細菌ゲノムデータから見つけ出す(Nature オンライン版掲載論文)
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1月9日:クリスパーシステムを細菌ゲノムデータから見つけ出す(Nature オンライン版掲載論文)

2017年1月9日
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    おそらく今年予想される科学ニュースはブロード研究所とカリフォルニア大学の間で争われているCRISPR/CASシステムの裁判の判決だろう。基本を発見したダウドナさんか、応用可能性を示したチャンさんなのか、これまではチャンさん有利と聞くが判決を見るまではわからない。
   しかし、CRISPR/CAS研究の面白さは応用可能性にとどまらないことは確かだ。発表されてからこの分野の研究は、アイデアがアイデアを生むという、百花騒乱の様相を示している。私にとっては裁判などより、こちらのほうがよほど面白く、今年も多くの論文を紹介することになるだろう。
   今日紹介するカリフォルニア大学バークレー校からの論文は、積み上げられた細菌のゲノムデータベースの中に、バクテリアが自ら進化させたCRISPR/CASの様々な姿を見いだせることを示した論文でダウドナさんも共著者に加わっている。タイトルは「New CRISR-Cas systems from uncultivated microbes(培養しない微生物から得られる新しいCRISPR-Casシステム)」で、Natureオンライン版に掲載された。
   現在利用されているCRISPR-Casは全て培養された細菌から分離されたものだ。しかし、地球上には無限と言っていい微生物が存在し、現在ゲノム解析データが急速に蓄積している。この研究では、CRISPRがひとつのシステムとしてクラスターを形成していることを利用し、細菌のゲノムデータベースから、ほとんどの種共通に存在するCas1の近くに存在するタンパク質をコードする15億種類の遺伝子を解析して、遺伝子切断に関わるCas9に相当する分子を探索している。こうして特定した分子中のなかから、これまでには見られなかった特徴を持つ面白いシステムをいくつか選んで紹介したのがこの論文だ。
   まず最初、これまで全くCRISPRの存在が確認されなかった古細菌にもCRISPRシステムが存在することを初めて明らかにしている。このうちARMAN-1古細菌で見つかったシステムでは、通常のウイルスに対する防御としての配列にとどまらず、なんと古細菌同士でのトランスポゾン伝搬に対する防御にも関わることを示している。
   さらに面白いのは、ARMAN4古細菌には他のシステムには数多く見られるはずのCRISPR配列が一個しか存在していないことだ。また、この配列に対応する標的が見つからないことから、全く新しい機能が予想され、今後の研究が期待される。
   これ以外にもこれまでとは全く異なるメカニズムで働くシステムの同定にも成功している。この中のCasXは標的配列に結合するRNAと、このRNAと相補的なRNAの両方をガイドとして使っている。このことから、将来より複雑なオン、オフの制御を可能にする遺伝子操作に使えるかもしれない。
   最後はこれまで発見されているCasと相同性が欠如しているCasY分子についてもPAM配列を特定し、これを用いて遺伝子編集が可能であることを示している。
   要するに、私たちが知らないCRISPR防御システムの存在、CRISPRメカニズムの予想もつかない利用方法がデータベースに眠っていることを示している。読んでみると、進化のダイナミズムに感心するとともに、ひとつの細胞を異なるCasシステムで順番に遺伝子操作するための新しい技術の目がゴロゴロしていることを実感した。
カテゴリ:論文ウォッチ