3月13日:記憶力アップの脳科学(3月8日号 Neuron掲載論文)
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3月13日:記憶力アップの脳科学(3月8日号 Neuron掲載論文)

2017年3月13日
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    アマゾンの本の検索で記憶力と入力すると、予想どおり記憶力を高める方法に関する本がトップに並ぶ。これほど多いと、どの本が役に立つのか選ぶのは難しそうだが、記憶力を高める方法は古くから経験的に確立していると言っていい。効果があると確認された方法では、トレーニング時に私たちの記憶で最も信頼性が高い空間視覚記憶と、覚える内容を関連させ、内容を構造化することで記憶を確かにしている。また、これを機能的MRIを用いて脳科学的に確かめる試みも行われており、この方法で記憶を構造化しているとき、確かに空間視覚領域が活性化されているのが確かめられている。
   今日紹介するオランダ・ナイメーヘンのラドボウド大学からの論文はこの記憶力アップのトレーニングにより脳に起こる変化を調べた論文3月8日号のNeuronに掲載された。タイトルは「Mnemonic training reshapes brain networks to support superior memory(記憶力トレーニングは高い記憶力をサポートする脳内ネットワークを再構成する)」だ。
   この研究の最大の特徴は、記憶力ランキングで世界トップの23人の脳を機能的MRI(fMRI)で調べ、これを参考に記憶力トレーニングにより普通の人の脳が記憶力チャンピオンに近くのかを調べている。このとき利用した記憶力トレーニングテストはMemocampにより提供されているトレーニングで、英語版はYouTubeで紹介されている(https://www.youtube.com/watch?v=OX5sHZk5XQQ)。

   研究ではまず、安静時のfMRIにより脳の71領域間の結合を調べ、記憶力チャンピオンで特に変化が大きい25結合を特定している。これは調べた全結合の1%に過ぎないが、最も記憶力と相関している。このネットワークでは、内側前頭前皮質と右側の背外側前頭前皮質が結合のハブになって、脳内各領域と空間視覚に関わる視覚野をつないでいる点が特徴としてあげられる。
   次にMemocampが提供するプログラムの効果だが、6週間続けると、72の単語を覚えるテストで、なんと35単語分余計に覚えられるようになっている。またこの効果は4ヶ月間続いている。要するに、このプログラムは信頼がおける。
   そして驚くことに、このプログラムによって記憶力チャンピオンで発達している結合が特に強くなっている。このことは、この回路を訓練できれば誰もが記憶力チャンピオンになれることを示している。
   最後に、ではトレーニング中にどの回路が使われているのか調べると、トレーニング中は各領域の結合ではなく、視覚野、内側前頭前皮質、背外側前頭前皮質内の回路が活発に活動していることがわかった。
   以上の結果から、古来確立している記憶を高める方法は確かに脳科学的に理にかなったものであることが確認された。記憶力を高めたい人にとっては挑戦に値する科学的プログラムだと言える。
   最後に印象を述べると、記憶力世界チャンピオンをよく集めたと感心する。
カテゴリ:論文ウォッチ