10月8日:旧人類・現人類相関図(10月5日Scienceオンライン版掲載論文)
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10月8日:旧人類・現人類相関図(10月5日Scienceオンライン版掲載論文)

2017年10月8日
ゲノム解読から有史以前の歴史を解明する研究が着々と進んでおり、2−10万年前に地球で暮らしていた我々の先祖である現人類(modern human, present day human)と旧人類(ネアンデルタール人や、デニソーワ人)で、少なくとも一部のゲノムが解読されたのは何十体にも及んでいると思う。しかしこの中で精度の高いゲノム解読となると、数は10分の1に減る。

同じゲノムを何回も繰り返して、しかも読み落としがないように解読することで、各ゲノムの比較精度が上がるだけでなく、両親から由来した各染色体を別々に再構成することが可能になり、昔から問題になっていた旧人類の近親相姦の程度や、あるいは集団のサイズなど、様々な情報が得られるようになる。従って、できるだけ保存状態のいい旧人類のDNAを探して高い精度でゲノム解読を行うことが地道に進められている。

今日紹介する論文はこの分野の創始者と言ってもいいドイツ・マックスプランク進化人類学研究所のペーボさんの研究室からの研究で、クロアチアのVindijaから出土した5万年前のネアンデルタール人のゲノムを30回繰り返して読むのに相当する精度で解読している。論文のタイトルはズバリ「A high coverage Neandertal genome from Vindija cave in Croatia(クロアチアVindija洞窟で出土したネアンデルタール人ゲノムの高精度解読)」だ。

これまで生きている人間のゲノム解読と同じ精度で解読されたネアンデルタール人ゲノムはアルタイ出土(12万年前)及び、デニソーワ人が発見された洞窟から出土(7万年前)した2体に限られていた。この研究はこれにVindijaで発見された(5万年前)を加えたと言うだけの話と受け取られるかもしれないが、精度が高いゲノム解析数を増やすことの重要性がよくわかる重要な貢献だ。

まず、この目的のために、着実に方法の開発が進んでいる。この研究では、古代DNAでは避けられないDNA分子の修飾をカウントして、最も可能性の高い塩基を推定するソフトが開発されている。このようなソフトが可能になるのも、30coverageという精度で配列が読まれたおかげだ。

次に、30 coverageの精度は、両親由来の染色体を分別することを可能にする。この結果、対立染色体の類似性から、集団のサイズ、近親相姦の有無などを正確に決定することができる。特に、アルタイ出土のゲノムには、極めて長い重複が見つかり、近親相姦がネアンデルタール人の多様性を奪ったのではと騒がれた。今回、デニソーワ、Vindijaのゲノムが調べられ、確かに対立染色体同士の類似性は、現人類と比べると高いが、アルタイで見られたような長い領域の重複は発見されず、ネアンデルタールと近親相姦を結びつけることは間違っていることを明らかにしている。しかし、対立遺伝子の類似性は、交流のある集団サイズが大体3000人であることを示しており、この結果としてゲノムの多様性が低下していることになる。

次に、ヨーロッパに分布したネアンデルタール人誕生後の歴史も推定できる。結論を述べると、約40万年前に誕生したグループが、この3箇所に分布し、その過程で民族とも言える多様性が生まれたことがわかる。以上の結果は、ネアンデルタール人として十羽一絡げで論じることの危険を示唆しており、「ネアンデルタール人もいろいろ」と考えることの重要性を示している。

最後に、我々現代人が最も興味の有る、旧人類・現人類の交雑による相関関係だが、今回解読されたVindijaゲノムは最も現人類と似ている。すなわち交雑によるゲノム交流が進んだ結果だが、現人類から旧人類へのゲノム流入は、Vindijaとアルタイが分離する以前に限られたいる一方、旧人類から現人類への流入は決して珍しいことではなく普通に起こっていたのではと結論している。その結果、我々東アジア人ゲノムの2.3-2.6%はネアンデルタール由来になっている。

最後に、ではどんなネアンデルタール遺伝子が我々現人類ゲノムに残っているのかだが、これまでの自己免疫抑制、うつ病、光皮膚反応などに加えて、高コレステロール血症、内臓脂肪蓄積、ビタミンD欠乏、摂食障害、リュウマチ性関節炎、統合失調症、向精神薬に対する反応異常として発見されていたSNPが新たにネアンデルタール由来であることが明らかになった。

この分野をウオッチしていると、いずれもなかなか意味深の結果で面白いが、それについての解説は、またいつか。
カテゴリ:論文ウォッチ