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10月8日:虫下しが糖尿病に効く(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2014年10月8日
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高血圧、高脂血症と並んで糖尿病は今でも最も重要な創薬標的疾患だ。高齢化に伴い患者数上昇が予想される一方、これまでのメカニズムの薬剤の特許切れが続き、それを埋めるべく新しいメカニズムに基づく薬剤開発が加速している。特にインシュリンに感受性がなくなるインシュリン抵抗性と呼ばれる状態を改善する薬剤の開発は最重要課題だ。おそらく大きな投資が行なわれている事だろう。そんな中、今日紹介する論文は4人という小さなグループが糖尿病治療の様々な可能性について論理的に考えを進めてたどり着いたのが、すでにFDAにより抗寄生虫薬として古くから認可されている薬剤だったという痛快な研究だ。アメリカニュージャージ州、ルトガー大学からの論文でNature Medicineオンライン版に掲載されている。タイトルは「Niclosamide ethanolamine-induced mild mitochondrial uncoupling improves diabetic symptoms in mice(Niclosamide-ethanolamineによって誘導されるミトコンドリアのアンカプリングによりマウスの糖尿病症状が改善する)」だ。この研究では細胞代謝の中心ミトコンドリアの膜の水素イオンの勾配を下げてエネルギーの元ATPを作らずにブドウ糖や脂肪酸を燃やしてしまうアンカプラー機能を持つ薬剤に注目した。原理的には細胞内から糖代謝を改善すると考えればいいだろう。実際1930年にはアンカプラーの一つDNPが肥満の治療に使われていたらしい。ただ副作用として発熱作用が強いためその後使われなくなっている。このグループは色々検討した結果、寄生虫に対する薬剤Niclosamide-ethanolamine(NEN)に着目した。この薬はサナダムシに効果があるとして認可され、安全性も確かめられている薬剤だ。アンカプラー機能で寄生虫の代謝を変化させて弱らせるのが作用メカニズムだ。もしこれが寄生虫だけでなく私たちの細胞にもアンカプラーとして効けばインシュリン抵抗性を改善できる。そうにらんだ所がこの研究の全てだ。後は、1)分離したほ乳動物のミトコンドリアのアンカプラーとして働く事、2)マウスに経口投与すると基礎代謝が上がるが、DNPのように発熱はしない事、3)高脂肪食によるインシュリン抵抗性を改善する事、4)インシュリン分泌が低下する遺伝的糖尿病マウスでも発症を送らせ、症状を改善できる事、5)高脂肪食による脂肪肝を完全に防げる事、6)インシュリンクランプ測定によるインシュリン抵抗性の発生が起こらない事の証明、7)人間のガン細胞を使った実験で、予想通りヒト細胞内でも代謝改善が起こる事、8)他にも特定の酵素が活性化され、脂肪酸の酸化が促進される事、など全ていい事づくめの結果になっている。勿論これほどうまく話が運ぶと少しは疑いたくなるが、安全性も確かめられてる薬であり、臨床研究も既に進んでいる事だろう。結果を待ちたい。このように既に使われている薬剤の使用目的を変える事をリパーパスと呼ぶが、これを実現するには広い知識を持つとともに、研究のパーパス(目的)をはっきり設定する事が一番重要なのかもしれない。片端から薬剤を試すと言う主流に対して、目的を持って考える事から始める研究スタイルの勝利だろう。余談になるが、オペラ歌手のマリアカラスは体型を保つためにサナダムシを腸内に飼っていたと聞く。サナダムシもその虫下しもともに体型維持に良く効くとするこの論文の結論は、ブラックジョークとしても面白い。。

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