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11月3日:自閉症は突然変異病?(Natureオンライン版掲載論文)

2014年11月3日
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自閉症はこのホームページでも何回か取り上げたが、間違いなくゲノム解析の重要な対象になっている。これまで自閉症の発症と関わるとされた遺伝子は千近くになる。おそらく自閉症の子供のご両親は、遺伝子が異常と言うだけで暗い気持ちになられるかもしれない。しかし、遺伝子異常と言っても、親から遺伝して来た異常もあるが、子供の世代で新しく起こった突然変異もある。自閉症の家族歴を調べると確かに遺伝傾向があるが、子供に選択的に発症するケースが多く、おそらく子供の代で起こって来た突然変異の寄与が大きいと予想されていた。この可能性を確かめるために、2千人規模で家族の全エクソーム解読を行ったアメリカの研究が2報Natureオンライン版に掲載された。アメリカ国内だけで競い合ってこれほどのゲノム研究が2つも進んでいるのを目の当たりにすると、ゲノムと人間の脳に対するアメリカの本気がわかる。結果は2報ともほぼ同じなので、ここでは私にとって読み易かった、Cold Spring Harbor研究所を中心とする多施設共同研究の方を紹介する。タイトルは「The contribution of de novo coding mutations to autism spectrum disorder (自閉症に新しく起こった突然変異が寄与している)」だ。研究では両親と自閉症の子供のタンパク質に翻訳される全部分(エクソーム)を解読し、様々な情報処理法を駆使して比べ、子供にだけ見られる突然変異を特定している。この様な検査をすると、正常な子供でも7%−10%近くに親にないアミノ酸変化を伴う突然変異が起こっている。ただ、自閉症の子供ではこの確率が倍になる。更に病気の発生との相関を調べると、新たに突然変異が起こった遺伝子の方が、親から受け継いだ遺伝子より強く病気と相関しており、自閉症のかなりの部分を子供に起こる突然変異病として位置づけることが出来ることが確認された。同じ突然変異は勿論発生初期の分裂でも起こるが、卵子や精子が作られる過程でも起こる。この結果は、自閉症の確率が高齢出産で上昇すると言うこれまでの報告とも一致する。ではどのような遺伝子異常が起こっているのか。先ず、自閉症の子供では予想通り、これまで自閉症に関わるとされていた遺伝子に突然変異が見られる。その中で男の自閉症には脆弱X染色体症候群の原因遺伝子に突然変異を示す場合が多い。もともと脆弱X染色体症候群は原因遺伝子がはっきりとしたまれな知能障害を示す病気であることを考えると、自閉症をこの観点から診断し治療する意味は大きい。実際、この遺伝子に突然変異を持つ自閉症の子供には知能障害が見られることも両方の病気の共通性を示唆している。一人の患者さんに遺伝子異常がどの程度集まって病気になっているのかも調べられて、特に知能の低い子供では多くの自閉症関連遺伝子が集まっていることを示している。他の突然変異が見られた遺伝子には、染色体を調節する遺伝子、神経間の伝達に関わる分子、神経発生に関わる分子をコードする遺伝子に自閉症に関わる突然変異が新たに起こっていることが確認された。

  詳細は割愛して、この論文から結論できることをまとめると以下のようになる。1)多くの自閉症の患者さんは親から傾向は引き継いでいるかもしれないが、新しい突然変異が引き金になって病気を発症している。2)ほぼ全ての突然変異は片方の遺伝子でだけ起こっている。3)新しい突然変異は精子や卵子の発生過程で起こることが多く、高齢出産も発症に寄与する。4)新しい突然変異の起こった遺伝子を調べることで、自閉症を更に詳しく分類できる。5)突然変異が引き金になっていても、多くの遺伝子が積み重なって発症する。6)IQの高いグループと低いグループでは発症に関わる遺伝子のタイプが違う。

 これだけ聞いてしまうと、手の施しようがないように思えるが、ほぼ全ての患者さんではもう片方の遺伝子は正常だ。従って、自閉症は質の病気と言うより、量の病気と言っていい。今後残った遺伝子の機能を高めることで治療法が開発される可能性もある。その意味で、自閉症とひとくくりにしないで、遺伝子診断をして病気を知ることがいかに重要かを示す論文だと思う。

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