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2月15日:結果を先に知りたい気持ちのルーツ?(2月4日号Neuron掲載論文)

2015年2月15日
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2月半ばといえば入試シーズンたけなわだ。本命の受験を終えた受験生は発表まで不安な時間を過ごすことだろう。実際は試験を受けた後は、合格発表まで何もできない。それでも、なんとなく結果を早く知りたいと思うのが人の気持ちだ。この結果についての情報を得たいという気持ちはどこで生まれているのだろう?この課題にサルのモデルで挑んだのが今日紹介するロチェスター大学からの論文で、2月4日号のNeuron誌に掲載された。タイトルは「Orbitofrontal cortex uses distinct codes for different choice attributes in decisions motivated by curiosity (眼窩前頭皮質は、好奇心に基づく意思決定時の選択に対応する別々のコードを使っている)」だ。タイトルにある眼窩前頭皮質(OFC)は眼窩のちょうど上にある前頭葉皮質で、情動や意思決定に対する報酬といった複雑な機能に関わっているために、研究は進んでいない。さて、サルが具体的結果でなく、情報に対する期待を持っているか調べるのは至難の技だ。この研究では、喉の乾いたサルが実際に水を得るという具体的な報酬と、選択が正しいかったかどうかの情報を得る報酬を区別できる課題を設計し、次にこの課題を脳内でどのように処理しているのかを研究している。課題では、一回のトライアルで得られる水の量を、テレビ画面上のパネル上に与えられた情報から選択させている。訓練さえすれば、サルは当然多くの水を示す方のパネルを必ず押すようになる。この水の量についての情報とともに、今度は結果を前もって知ることができるかどうかの情報をパネルに加えておく。ただ、情報を知ったところで、結果は変わらない。もちろん情報が得られるかどうかにかかわらず、サルは多くの水が得られる方のパネルを優先的に選択する。しかし、同じ量の水が提示されて選択する場合、先に情報を知ることできるパネルを選ぶ。この傾向は、選択により多くの水を得られる場合ほど強い。即ち、報酬の価値が高いほど早く知りたがる傾向が強くなる。この、具体報酬と、報酬に関する情報への期待を別々に測定するための実験デザインを開発できたことがこの研究のキーポイントだ。あとは、この意思決定の過程に、OFCの個々の神経細胞がどう関わっているかを調べている。詳細は省いて結果だけ述べると、OFCでの神経活動は、具体的報酬はもちろん、結果に関する情報を前もって知ろうとする判断に対応して興奮する。行動学的には、具体的結果の価値が高いほど、早く情報を知るための選択が行われるため、具体的結果に対する判断と、その情報を得るという判断は統合されている。しかし、OFCの個々の神経細胞の活動を数多く調べて、両方に相関があるか調べても、ほとんど相関は認められない。このことから、具体的結果とそれについての情報への期待は、OFC神経細胞ではまだ統合されておらず、別々の神経活動として表現されているという結果だ。今後の課題はOFCでの別々に起こっている神経活動が、脳のどの場所で統合されているかを知ることだろう。またOFCの神経活動は、感覚情報や経験などが複雑に統合された結果として表現される。したがって、感覚情報がどう報酬系の活動とつながったのかも重要な課題だ。しかし、結果のいかんにかかわらず、先に結果を知りたいという情報に対する欲望は、動物本来の本能のようだ。受験生の皆さんは、当分この本能を押さえつけるため苦労することだろう。しかし脳研究の課題は尽きない。