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12月31日:甘いものは別腹の分子機構(Cell Metabolism2月号掲載予定論文)

2015年12月31日
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明日から正月。どうしても食べすぎる日々が続く。
さて、満腹になった後でもデザートが出ると、甘いものは別腹とついつい食べてしまうのはなぜだろう。こんな疑問の手がかりになる論文が、デンマーク・コペンハーゲン大学とアイオワ大学のチームから発表された。タイトルは「FGF21 mediates endocrine control of simple sugar intake and sweet taste preference by the liver(FGF21は肝臓から分泌される単糖と甘いものへの好みを調節するホルモン)」だ。
  現役時代は内分泌や代謝の研究論文を読むことはほとんどなかった。この論文のタイトルにあるFGF21を見ても、まさか線維芽細胞増殖因子の一つが代謝や脳のコントロールに効くとは想像もしなかった。しかし、飽食の時代だ。私たちの食欲についての研究はかなり進んでいる。
この論文の目的は、甘いもの、すなわちショ糖を中心とした単糖を私たちが取りすぎないようにしているメカニズムにFGF21が関わるのではという仮説を検証することだ。
  マウスに、甘みのある餌と、甘みのない餌を自由に摂取させ、FGF21が欠損すると甘みのある餌を取りすぎることを突き止めている。この抑制は、甘みだけで、脂肪や多糖の摂取には影響がない。FGF21は肝臓で分泌されるが、マウス、ヒトともにショ糖、ブドウ糖、果糖を注射すると分泌量が上がるが、人工甘味料のサッカリンでは上昇しない。次にFGF21発現調節に、肝臓細胞が発現しているChREBPと呼ばれる単糖を認識する転写因子が関わることを明らかにしている。すなわち、甘いものを取りすぎると、肝臓のFGF21分泌が上昇して単糖の摂取を抑えるという仕組みだ。面白いのは、FGF21によって抑えられるのは甘みとして感じる食べ物で、投与してもFGF21分泌に影響のない人工甘味料も、FGF21が上昇すると摂取が落ちる。
  最後に、FGF21が甘みの摂取を抑制するメカニズムを調べ、受容体であるFGFR1とβクロトー複合体を発現する視床下部室傍核にある細胞が甘いものを取らないようシグナルを出していることを明らかにしている。残念ながら、では下垂体がどのように甘み摂取行動を調節しているのかについては明らかにできていない。味覚を変化するわけではなく、甘いものに対して満腹感を感じるようになるためであることは示しているが、それを媒介する分子についてはこの論文では示されなかった。とはいえ、甘いものに対する満足感が普通の満腹感とは別の調節を受けているとは、食べ過ぎのお正月を迎えるのにふさわしい論文だった。ひょっとしたら何年後かの大晦日にはこの回路を抑える薬を手にしてお正月を迎えることになるかもしれない。
  今年はガラパゴス滞在中に報道ウォッチのアップロードが遅れることはあったが、1年休みなく論文を紹介することができた。皆さん良いお年を。