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2月27日:腸内細菌叢:木を見るのか森を見るのか(2月23日号Cell掲載論文)

2017年2月27日
    腸内細菌叢に関する論文は相変わらずトップジャーナルを賑わせている。この賑わいを支えるのが、無菌マウスの開発、次世代シークエンサーによる細菌叢のメタゲノムなどの技術だ。ただ、技術だけがこの賑わいを作っているわけではない。腸内細菌叢の変化が生活習慣病や慢性炎症、あるいはアトピーなどに関わっていることが明らかになり、介入可能な標的として考えられるようになったからだ。
   しかし、とはいえ細菌叢は何百、何千もの異なる種類の細菌からできている。いくらメタゲノムが可能だと言っても、病気との因果性を特定できる変化は少ない。結局メタゲノムの研究も、個別の細菌に関する研究を引き合いに出して意味づけをせざるをえない。この「木を見るのか、森を見るのか?」の問題をいかに克服するのか、腸内細菌叢の研究も曲がり角にきているように思う。
   今日紹介するハーバード大学からの論文は、森を見るためには一本一本の木をしっかり理解する必要があるとする還元論の立場から腸内細菌叢に迫った研究で2月23日号のCellに掲載された。タイトルは「Mining the human gut microbiota for immuneomodulatory organism(免疫システムに影響する要因としてヒトの腸内細菌叢を調べる)」だ。
   個々の細菌の免疫システムへの影響を調べた「木を見る」研究は我が国も強い分野で、繊維状の形態を持つバクテリアが炎症性T細胞を強く誘導するなど、多くの優れた研究が行われてきた。これらの研究は無菌マウスに、特定の細菌を移植して、純粋に個々の細菌の作用を調べる方法で進められている。今回の研究はこの方法を53種類の別々のバクテリアに広げ、ホストの反応も免疫細胞サブセットを大腸、小腸だけでなく、パイエル板、中枢リンパ組織にまで広げると共に、腸管での遺伝子発現、バクテリアの定着などについて網羅的に調べた研究だ。
   このような研究は、研究過程で何か問題が出てきた時調べるデータベースとしては利用価値が高いが、論文として何か特定の結論を導き出すのは難しい。この分野に興味のある人は今後ぜひデータを参照して、自分の研究に役立ててほしいと思う。
   それでも幾つかこれまで知らなかったことを勉強することができたので、いくつか列挙しておこう。
1) 驚くことに、バクテリアを個別に移植した場合、ほとんどのバクテリアが腸内に定着する。バクテリア同士の競合は手ごわい問題のようだ。
2) 腸内に定着しなかったバクテリアは、口腔内、あるいは胃内に定着し、バクテリアに適した環境がある。
3) 腸内に定着したバクテリアの多くは(88%)腸間膜リンパ節に生きたまま定着する。バクテリアは体内に浸潤するのが当たり前?
4) 一部のバクテリアを覗いて、抗原特異的免疫反応に関わる細胞への影響はほとんどない。もちろん代謝への影響は調べなおす必要がある
5) システミックな反応と局所反応が相関する免疫細胞が存在する(おそらく循環に乗りやすい)。これらはマーカーとして検査に使える。
6) 同じ種のバクテリアでも、免疫システムへの影響は大きく異なる。
7) 免疫細胞や腸管の転写に影響を及ぼすことが報告されていなかったバクテリアが新たに見つかった。
などだ。
   各細菌が免疫システムに個別の影響を持つことがわかったが、この53本の木から森が見えてくるのか?おそらく今度は組み合わせの研究が必要で、木から森を見るのがいかに難しいかわかるだろう。今こそ新しい発想の、頭を使う細菌叢研究が求められており、若手研究者にもチャンスが巡ってきたように思う。