現在小児のピーナツアレルギーや卵アレルギーを抑える目的で、逆に乳児にピーナツオイルや卵オイルを食べさせてトレランスを誘導する治療がスタンダードの治療になりつつあるが、この方法でトレランスが誘導されるメカニズムのカギを握るのが、坂口志文さんが発見し、定義した制御性T細胞Tregの誘導だ。
TregがIL-2受容体CD25を発現しておりIL-2で増えることは、もちろん坂口さんの研究で今や疑う者もいないが、最初の頃は論文を通すのにも苦労していた時代があった。試験管内でTregの機能を証明した重要な研究もなかなかトップジャーナルに受理されなかったようで、嬉しいことに1998年京大の教授をしていた私にInternational Immunologyにトランスミットするよう依頼され、掲載にこぎつけたことがある。当時ほとんど免疫学から離れていたので、これが最後のエディターとしての仕事になったが、世界のTregの記念すべき論文掲載のお手伝いができて今でも懐かしく思い出される。
今日紹介するスタンフォード大学からの論文は腸管でTregを誘導する細胞が、現役時代私たちが研究していたリンパ組織誘導細胞を含むILC3と呼ばれる細胞集団が作るIL-2により誘導されるという論文でNatureオンライン版に掲載された。本来坂口さんとは研究上では特につながりはなかったが、それぞれが研究していた細胞がつながるとは、なんとなく因縁を感じて紹介することにした。タイトルは「Innate lymphoid cells support regulatory T cells in the intestine through interleukin-2 (内因性リンパ球が腸管での制御性T細胞の調節をIL-2を通して行なっている)」だ。
この研究は極めて古典的な実験、すなわちIL-2中和抗体の抗体をマウスで調べることから始まっている。こんな研究はずいぶん昔から行われていると思うが、とにかく腸管でのTregの減少と、その逆にCD4細胞による炎症性サイトカインの強い発現を認めている。
すなわち、腸管でTregはIL2依存的に誘導されることがはっきりしたので、次にTreg誘導に関わるIL-2分泌細胞を探索し、腸管ではパイエル板を誘導する能力を持つILC3aを特定することに成功している。
次に、ILC3でIL2が誘導されるメカニズムを探求し、腸内細菌叢により活性化されたマクロファージが分泌するIL1βがIL2誘導因子であることを特定する。すなわち、無菌動物や抗生物質で処理したマウスではILC3のIL2分泌は起こらない。
腸管内でのTreg誘導のシナリオが明らかになったので、次に抗して誘導されるTregが口から摂取した抗原に対するアレルギーを抑える機能を持つかどうか、ILC3のみでIL2が欠損したマウスに卵白アルブミンを食べさせる実験を行い、予想通りILC3からのIL2分泌がないとTregが誘導されず、卵白アルブミンに対するトレランスは誘導できないことを示している。また、ILC3のIL2分泌ができないマウスでは、腸管全体にわたる炎症が起こることも示している。
最後に、今度は人間のクローン病の患者さんのILC3細胞を取り出して培養する実験でIL2分泌が低下していることを示し、人間の腸管の炎症もIL-2分泌不全によるTregの抑制にあることを示している。
まとめると、腸内細菌がマクロファージの自然免疫系を刺激して、IL1βを分泌、これがILC3のIL2分泌を誘導してTregを誘導、腸内での炎症を抑えるというシナリオになる。ILC3は登場しなかったが、このシナリオも最初に紹介した奇しくも私がトランスミットした論文で示されたシナリオを腸管に移していることがよくわかる。次はこのシナリオをもとにアレルギーや腸炎の多くの治療戦略を開発してほしい。
試験管内でTregの機能を証明した重要な研究もなかなかトップジャーナルに受理されなかった.
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『がん免疫療法の誕生』(MEDSi出版)によりますと、
T細胞生物学全体が瓦解し、全員がTreg研究から手をひいた大変な暗黒時代も経験されたそうで、頭がさがります。
追伸です。
今日、ご教授頂いた論文、再読し考えたら、
腸内細菌→自然免疫→ILC3細胞→獲得免疫→自己免疫疾患
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腸内細菌→自己免疫疾患の鎖を繋ぐ興味深い仕事ではないかと思いました。北里柴三郎先生、紙幣に採用されました。
坂口先生の名前を確認して下さい。
志文と違いました?