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4月13日 便の細菌叢移植による自閉症の治療(4月9日Scientific Reports掲載論文)

2019年4月13日
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先日マウス自閉症モデルで見られる社会性の低下を、乳酸菌の一種ロイテリ菌が改善できること、そしてこの作用が迷走神経刺激を介したオキシトシン分泌によることを示したテキサス・ベイラー医科大学からの論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/9990)。ただ、これらの結果はすべてマウスでの話なので、是非ヒトでも早く研究を進めてほしいと期待を述べた。それから何日も経ってはいないが、自閉症を健康人の便から分離してきた細菌叢を服用させて治療できる可能性を示した論文がアリゾナ州立大学から4月9日号で報告された。タイトルは「Long-term benefit of Microbiota Transfer Therapy on autism symptoms and gut microbiota (自閉症の症状と細菌叢に対する細菌叢移植治療の長期効果)」だ。

腸内細菌叢が自閉症の症状に寄与している可能性は従来から指摘されていた。とくに、自閉症の多くで消化管症状がみられ、生活を阻害していることは周知の事実で、以前自閉症の健康と題して、Autism Reportsによる論文を紹介した時(http://aasj.jp/news/watch/6791)、多くの家族の方から、消化管症状で困っていると言うメールをいただいた。このように、毎日の生活を悩ませる慢性の消化管症状を治療することは生活の質を上げるために必須で、対応が望まれていた。さらに、ロイテリ菌などの結果から、消化管症状を改善させることが、自閉症の症状を改善させる可能性もある。

この消化管症状を便から分離した細菌叢を用いて治療できないか調べたのがこの研究で、細菌叢を投与後18週目までの結果はすでにMicrobiome 5:10, 2017に報告されている。この論文には全く気づかなかったが、読んでみると健康人の便から分離した細菌叢の投与で消化管症状は著しく改善し、さらに自閉症の診断指標も有意に低下するという素晴らしい結果だ。

今回の研究はこのときの18人をさらに長期間追跡した2年目の経過報告だ。結果を紹介する前に、まずどんな治療かを短く述べておこう。ずいぶん昔このブログで、クロストリジウム感染を健康人の便から分離した細菌叢を用いて治療するマサチューセッツ総合病院からの論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/6791)。これまで健康人の便の移植は行われていたが、カテーテルで腸に直接投与するので、医療としての普及が進んでいないが、これを飲み薬にしてしまうという発想の治療だ。

この研究でも、同じように調整した細菌叢を-80℃で保存し、同じ最近叢を全員に使っている。そして、投与前にすでに存在する腸内細菌叢を徹底的に抗生物質で処理し、また細菌叢を服用するときは胃酸を抑えて腸まで細菌が到達できるようにしている。そして最後に一回、大腸にも細菌叢を移植している。

18週目の結果も印象的だが、消化管症状の改善は2年目まで続いている。実際、この治療を受けた全員、消化管症状に悩まされていた人たちだが、半分以上で大きな改善が続いて生活の質が高まっている、もちろんこれだけでも素晴らしいと思うが、自閉症の症状、特に専門家が検査するスコアでは、18週よりさらに改善がみられるという結果だ。そして、患者さんごとに消化管症状と自閉症の改善度をプロットすると、消化管症状の改善と自閉症の改善がほぼ相関している。

以上の結果は、消化管での細菌叢の変化が、消化管症状だけでなく自閉症症状にも寄与していることを強く示唆しており、ロイテリ菌の結果も含めて腸内細菌叢が自閉症治療の重要な標的になる可能性を期待させる。とはいえ、この研究はオープンラベルで、対象者に対するプラセボ効果でこのような改善がみられていることは否定できない。そのため、できるだけ早く、適切な対象を選んだ治験を進めてほしいと思う。

しかし個人的には、ロイテリ菌といい、この治療といいかなり有望な可能性ではないかと期待している。

  1. Okazaki Yoshihisa より:

    消化管症状の改善と自閉症の改善がほぼ相関

    腸内細菌叢→迷走神経?→脳→消化器症状+自閉症症状改善

    2019年4月9日号など、腸内細菌叢と生体内ネットワークは密に繋がっているような気が。。
    生体内ネットワーク現代科学の射程内に入っているのか?未来の科学のテーマなのか?

  2. 衛藤貴子 より:

    はじめまして。
    自閉症の息子のことで数年前からオキシトシンや腸内細菌などの記事を追っていました。まだこの治療法は確定されていませんが、病気を早く治したいと口にする息子のためにも、この治療を行ってくれる病院がみつかれば治療してほしいと思っています。
    札幌にあるオキシトシンの製薬会社も数年前に問い合わせたときは、来年治験を行う予定だと伺い、その翌年問い合わせたときは、もう少しかかりますと言われました。あれから数年経ちます。
    今年4月からの移植治療の結果を見て、早く行わないと息子には効かないのではないかと非常に不安でなりません。(年齢的に)アメリカのどの大学が安全で確実に行ってくれるかを知りたいのですが、教えていただけますか。
    どうかよろしくお願いいたします。

    1. nishikawa より:

      我が国ではこの治験は行われないと思います。現在アリゾナ大学で第2相の治験をリクルート中ですが(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03408886?term=microbiome&cond=ASD&rank=8#contacts)診断基準の問題から、日本語の子供は対象にならないと思います。
      すぐにできるのは、ロイテリ菌カプセルとかヨーグルトです。また、お母さんによってはケトンダイエットをトライされている方もおられるようです。消化器症状は重要な症状なので、本当は石のレベルで提供して欲しいと思っています。あまり役に立たず申し訳ありません。

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