T細胞依存性の抗体産生にはCD40とCD40Lの相互作用が必要で、ノンカノニカルNFkB経路も含めて、その生化学的基盤はよく解析されている。実際、CD40Lの欠損した患者さんではクラススイッチが起こらず、IgMの血中濃度が上昇する。当然この分子を標的にすれば、自己抗体の産生を抑えることができるはずで、PD-1と同じような抗体治療が考えられる。実際、昨年抗CD40抗体を用いた治験がドイツから報告された。
CD40Lに対する抗体も同じ効果を持つと考えられるが、血小板に発現しているため、抗体投与により血栓ができることがわかっていた。今日紹介するベンチャー企業Viela Bio社、アストラゼネカ社、Medimmune社から共同で発表された論文は、ファージライブラリーでCD40Lに対する中和ペプチドを特定し治療に使う研究で4月24日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「A CD40L-targeting protein reduces autoantibodies and improves disease activity in patients with autoimmunity(CD40を標的にするタンパク質は自己免疫病の患者さんの自己抗体を低下させ病気を改善する)」だ。
昨年のノーベル化学賞受賞者の一人はWinterだが、彼はファージウイルスの表面にランダム配列を持ったペプチドを表現させ、目的のタンパク質に結合するタンパク質を特定する方法を開発してきた。この研究でも基本的にこの方法でCD40Lの機能阻害をするタンパク質を探索し、最終的に342と名付けたタンパク質を特定している。
このペプチドはCD4Lの機能を阻害するが、血中ではすぐに分解されてしまうので、この分子を血清中で安定なアルブミンに結合させ、VIB4920と名付けた阻害剤を開発している。
あとはVIB4920の安全性と効果を確かめるための臨床試験を行い、
- VIB4920は血清中の半減期が9.27日で安定している一方、血小板の凝集作用はなく、1500mgまで問題なく利用できること。
- VIB4920に対する抗体が100-300mg投与では誘導されるが、これは3000mg投与群ではほとんど見られなかった。
- T細胞依存的抗体産生を抑制する。
- リュウマチ患者さんの症状を改善し、自己抗体を抑制する。
ことを明らかにしている。
以上の結果から、ファージライブラリー法を用いて開発した機能阻害タンパク質も、今後抗体治療を補完する方法としてかなり有望であることが示されたと思う。完全に把握しているわけではないが、これが臨床で利用されるようになれば、このファージライブラリーから生まれた薬剤としては早い方ではないだろうか。個人的にはこの方法にあまり期待していなかったが、考えを改めることにする。
タンパク-タンパク相互作用の阻害は、医薬品開発における中分子アプローチとして最近の話題です。今回はペプチドですが、アプタマーもいくつか見出されつつあります。
いずれも、物性改善と安定性獲得のため最小化や化学修飾が必要なり、活性の主体となる部位の同定が必須です。
そのために、共結晶構造解析による相互作用部位の確認が行われています。
小職は、そのサポートを行っており、ISSでの宇宙実験も可能です。
ノンカノニカルNFkB経路、カノニカルNFkB経路:複雑に交差しているようですが、入り口(CD40-CD40L相互作用)をターゲットにすれば、後は自然がうまく調節してくれるようです。