デニソーワ人に関しては2つの大きな謎があった。一つは、現代人の中でメラネシア人が5%という例外的に高いデニソーワ人ゲノムを受け継いでいる点、そして現代のチベット人やヒマラヤのシェルパの高地順応遺伝子の一つがデニソーワ人由来であることだ。
最初の謎については、先日紹介したように、デニソーワ人がポリネシアに直接進出して、14000年ぐらい前までそこで生活していたことが明らかにされ、今後この地域でのデニソーワ人の遺跡を探す研究が進むように思う。
一方、チベット人の高地順応遺伝子の由来がデニソーワ人だったという謎は、今日紹介する中国蘭州大学とドイツ マックスプランク研究所の共同論文により大きく前進した。タイトルは「A late Middle Pleistocene Denisovan mandible from the Tibetan Plateau(チベット高地で発見された中更新世後期のデニソーワ人下顎)」で、Natureに掲載された。
中国チベットの夏河洞窟から1980年に出土していた、アイソトープを用いた年代測定で16万年前後の骨と特定されていた、下顎骨と歯がすでに出土していたが、DNAはすでに破壊されており、ゲノム解析が困難だった。そこに登場したのが、最近古生物学で利用され始めたコラーゲンのアミノ酸解析技術で、たんぱく質自体は核酸より経時的変化に強いので、系統解析に使えると期待されている。
この研究では、この骨から6種類のコラーゲンを取り出し、そのペプチドの配列から系統樹を解析し、これまで発見されている人類の中ではデニソーワ人に最も近いことを明らかにしている。
新しいデータはこれだけだか、これが正しいとするとインパクトは極めて大きい。
- 同じ形状の下顎と歯はチベットを含む中国で中更新世人類として既に多く発見されており、今後の解析で、それらがデニソーワ人であることが確認される可能性が高い。
- 今回解析された歯の形状は初期ホモ・サピエンスと、中更新世人の中間に位置しており、デニソーワ人と考えても問題はない。
- デニソーワ洞窟以外のデニソーワ人が初めて発見され、今後骨格についてさらに研究が進む期待が持てる。
- 3000mの高地で発見されており、高地順応遺伝子の謎が解ける。
などだ。しかしでデニソーワ洞窟の歴史に関する論文やポリネシアへの移動から、デニソーワ人は暖かいところが好きかと考えていたが、氷河期の寒い時代に高地で生息していたとすると、極めて高い適応能力があった人類かもしれない。
デニソワ人、ネアンデルタール人、ホモ・サピエンスの3種が、ユーラシア大陸で数万年間共存していた可能性がある
Imp:
現代人の遺伝子にも、デニソワ人、ネアンデルタール人の痕跡が。。。文明の起源(最古の文明はシュメール文明とか)やシュメール人の起源などと絡めて空想しだすと、興味がつきません。
“現代人ゲノムとの比較から、3-6%ものデニソワ人ゲノム(全遺伝情報)が残っている。ただ低くともデニソワ人ゲノムはアジア人にも残っており、特にチベット人の高地順応遺伝子はデニソワ人由来であることが判っている。”
と記載されています。日経サイエンス2018年12月号に、ネアンデルタール人の間の遺伝学的研究結果が掲載されています。
“現生人類とネアンデルタール人の間の遺伝学的研究から、両者の間に混血があった。非アフリカ系の人々のゲノムの最大3%がネアンデルタール人由来だ。現生人類が受け継いだネアンデルタール人の遺伝情報の総和は3%よりはるかに高く、最近の計算によれば少なくとも20%にはなると考えられている。”
これらの記事は新人類ホモ・サピエンスとネアンデルタール人、デニソワ人との間に交雑があった事を示しています。しかし、現生人、ホモ・サピエンスの染色体は23対46本で、ネアンデルタール人、ホモ・エレクトス、ゴリラ、チンパンジーは24対48本です。普通、染色体の数が合わないと、子孫は残せません。
遺伝学的研究は今後盛んに行われると思われるが、染色体の数の論議がなおざりにされています。
まず総和の問題と、ここの人間に存在している断片は分けて考える必要があります。どう選択されたのかなど解析は進んでいます。
次に、現在の方法で染色体数はわからないと思います。テロメアと近くの遺伝子の関係がわかればなんとか数を算定できるかもしれませんが、今は難しいです。
あと、3世代前がネアンデルタールのおじいさんという現生人類ゲノムも見つかっているので、おそらく我々と染色体数は同じでしょう。