ミトコンドリアは細胞の分裂から独立して増殖しており、また母親の卵子を通してだけ子孫に伝わる独自のゲノム遺伝子を持っている。このため、ミトコンドリアゲノム自体も、この過程で突然変異を起こし、一つの細胞に遺伝的に異なる種類のミトコンドリアが共存するヘテロプラスミーと言う状態が生まれる。突然変異による機能異常のミトコンドリアが存在し、その割合が増えるとホストの細胞の機能が低下するが、これがミトコンドリア病で、異常ミトコンドリアを卵子発生で除去するメカニズムがないと、種の保存は不可能になる。
この卵子発生過程でどのように異常ミトコンドリアだけを見つけ出して排除するメカニズムを研究したのが今日紹介するニューヨーク大学からの論文で5月15日号のNatureに掲載された。タイトルは「Mitochondrial fragmentation drives selective removal of deleterious mtDNA in the germline (ミトコンドリアの分断が生殖細胞での異常ミトコンドリアDNAの除去に関わる)」だ。
この研究では幹細胞から生殖細胞と体細胞へ分化する過程を目で見ることができるショウジョウバエの卵巣を用いて観察している。詳細は省くが、もともと温度が上がると機能が低下するミトコンドリアを持つショウジョウバエに、正常のミトコンドリアを移植し、温度を上げた時に機能低下ミトコンドリアの割合が低下するかどうかで、選択が起こったかどうかを調べている。また、この時様々な分子操作を行い、この選択に関わるメカニズムを明らかにしている。
結果をまとめると以下のようになる。
- 機能低下ミトコンドリアの選択は、卵子発生の初期、卵子と体細胞が分離する時期にのみ起こり、正常ミトコンドリアがこの時増加する。
- 体細胞や、精子形成ではこのような選択は見られない。
- 異常ミトコンドリアの機能低下が検出できないように、外来遺伝子で機能を保証してやると、選択は起こらない。すなわち、機能異常が検出されて選択が起こる。
- この時期のミトコンドリアは、孤立して増殖せず、通常ならミトコンドリア同士で交換する分子も交換しない。すなわち、他のミトコンドリアから完全に区別できるようになる。
- この時、Mitofusinの発現量を高めて、ミトコンドリアの孤立化を防ぐと、選択が起こらない。実際卵子発生では、一時的にmitofusinの発現が下がり、ミトコンドリアの孤立が起こるようになっている。一方、体細胞ではミトコンドリアが長時間孤立化することはなく、互いにネットワークを維持している。
- ミトコンドリアのATP生産量が異常ミトコンドリアを区別する指標に使われている。
- 異常が検出されたミトコンドリアは、マイトファジーではなく、赤血球分化で見られるオートファジーのメカニズムを用いて、ミトコンドリア膜上のBNIP3蛋白を指標に除去される。
以上が結果で、ショウジョウバエの特徴を生かしたオーソドックスな研究だ。おそらく同じようなメカニズムは他の種でも見られるはずで、特にmitofusinを調節することで、異常ミトコンドリアを選択できるとすると、ミトコンドリア病の治療のヒントが得られるかもしれない。
mitofusinの発現量を高めて、ミトコンドリアの孤立化を防ぐと、選択が起こらない。
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mitofusin、数日前にNASHの原因の一つである可能性が示唆されてました。ミトコンドリアが関連した疾患では、暫く注目の分子かもしれません。