パーキンソン病の運動障害はドーパミンを分泌する神経細胞が変性により失われることで起こるが、これを治療するための最も重要な薬剤がL-dopaだ。ドーパミンではなく、L-dopaにするのは、ドーパミンが脳血管関門を通過できないためで、L-dopaが脳内に入った後AADC と呼ばれる酵素で脱炭酸化されてドーパミンになる。問題は、末梢にもAADCが存在するため脳に入る前にドーパミンになるL-dopaの方が6割近くあり、脳内には1−5%しか到達しない。また、末梢でドーパミンが上昇すると血管緊張性を変化させ、立ちくらみや、不整脈がおこる。
このようにもともと摂取量の調節が難しいL-dopaの効果をさらに複雑にする要因として最近腸内細菌叢が着目されるようになった。今日紹介するハーバード大学からの論文は腸内細菌によるL-dopaの代謝経路を明らかにした研究で6月14日号のScienceに掲載された。タイトルは「Discovery and inhibition of an interspecies gut bacterial pathway for Levodopa metabolism (腸内細菌の種間が協力するLevodopa代謝経路の発見と阻害)」だ。
研究ではまずデータベースからL-dopaの脱炭酸化能力のある細菌を検索し、E.Faecalisのチロシン代謝システムがL-dopaの脱炭酸化能力を持つ可能性を突き止める。そして、小腸に存在するE.Faecalisを培養して、この能力を確認している。
もし細菌叢により変換されたドーパミンがそのまま吸収されると先に述べた循環系の副作用の元になる。ただ、さらに脱水分解が進んでm-tyramineになれば問題はなくなるので、この経路を持つ細菌を腸内から分離することと次に試みている。
実際には、ドーパミンだけが電子受容体として働く培地で便を培養し、最終的にE lentaを分離し、この細菌がdopamin delydroxylaseを確かに持っており、ドーパミンをl-tyramineに変換できることを確認している。ただ、腸内に存在するこの種類の細菌のドーパミン脱水化の能力は極めて多様で、細菌の種類の検査だけではこの活性が予測できないことも明らかにしている。
次に人間の腸内でこれらの細菌が働いてL-dopaを分解しているかどうかを、便中の細菌叢の培養を用いて調べ、17例中12例の便でl-dopaがm―tyramineへ分解することを確認している。また、この活性がE.Faecalisの量と比例することも明らかにしている。またドーパミンからm-tyramineへの分解は、脱水化酵素の506番目のアミノ酸がアルギニンである系統のみが人間の腸内での分解と相関していることを示した。これにより、L-dopaを服用した時のドーパミン産生とその分解についてある程度予測可能であることが明らかになった。
最後に、L-dopaの脱炭酸化を阻害する薬剤をスクリーニングし、現在人間の脱炭酸化酵素を阻害する薬剤は細菌には効果がないこと、また新しく開発したAFMTでは腸内細菌叢特異的にL-dopaの脱炭酸化を抑えられることを示している。
以上の結果は、L-dopaが腸内細菌叢によりドーパミンになる経路を明らかにしただけでなく、患者さんたちが必要量のL-dopaを正確に摂取できるための腸内細菌叢の寄与度を確かめる臨床検査法開発、またこの活性を抑える薬剤開発までカバーした重要な貢献だとおもう。
まずデータベースからL-dopaの脱炭酸化能力のある細菌を検索し、E.FaecalisがL-dopaの脱炭酸化能力を持つ可能性を突き止める
→複雑怪奇な生体の謎解き、情報戦が威力を発揮する場面も多くなってきているようです。
今回の研究も最終目標のヒトまで解析されており興味深いです。