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1月27日がんのエクソーム検査はつらい真実も告げる(1月13日号Cancer Cell掲載論文)

2014年1月27日
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これまでがん細胞の持つ遺伝子の中で蛋白質へ翻訳される部位(エクソンと呼ばれる)のDNA配列を全て決定するエクソーム研究の急速な進展を紹介して来た。これはほとんどのがんが遺伝子の変化によって起こる事、そのため出来るだけがんについて知る事が治療戦略を練るのに役立つと考えるからだ。事実悪性黒色腫、乳がん、肺がんの一部などではエクソーム解析が治療戦略に役立つという勇気づけられる報告が相次いでおり、がんのエクソーム解析を20万サンプルまで行い、完全なカタログを造ろうと動きが加速している。しかし研究が進む事で、逆に一筋縄では行かない腫瘍が存在する事もまた明らかになって来た。元旦に自戒も込めて紹介した低グレードのグリオーマがその例だが、今日紹介する論文もがんの難しさを思い知らされる研究だ。ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学のグループが1月13日付けのCancer Cellに発表した論文だが、またボストンからかとため息が出る。タイトルは「Widespread genetic heterogeneity in multiple myeloma:implications for targeted therapy (多発性骨髄腫に見られる遺伝的多様性:標的治療に対する含意)」がタイトルだ。この研究では200を超す多発性骨髄腫のエクソームが調べられ、その中の17腫瘍についてはエクソームだけでなく全ゲノムを解読して、この腫瘍の発生に共通のメカニズムがないか調べている。多発性骨髄腫とは、抗体を造るリンパ球が最終分化した形質細胞の腫瘍だ。進行は比較的ゆっくりしているが、根治がなかなか難しい。12月8日にこのホームページで紹介したレナリドマイドなどが効果を持つ事が知られているが、更に多くの薬剤の開発が期待される。あまりに専門的になるので、結果の詳細について紹介する事は差し控えるが、この腫瘍の共通の弱点を見つけて治療すると言う点では、残念な結果が報告された。もちろん多発性骨髄腫でも他の腫瘍と同じ細胞の増殖に関わると思われる遺伝子の突然変異が見られる。その中には、黒色種の半分以上に見られるBRAFと呼ばれる遺伝子や多くのがんで見られるRAS遺伝子の突然変異も含まれている。ただ問題は、多くの患者さんで、一人の患者さんの中に既に違った突然変異を持つ数種類のがんが混じっており、共通の分子経路が見つけられない。結局、薬剤だけでは全ての腫瘍を殺す事が期待出来ない事になる。治療戦略を考えるため、この研究でも試験管内で薬剤の効果を調べる実験を行っているが、予想通り一部の腫瘍細胞にしか効果がない事が示されている。このように、腫瘍についてよく知る事が逆に治療の困難を予測する結果に終わることもある。科学は時に残酷だ。私見だが、それでも私はがんのエクソームを知る事は、何も知らずに治療を行うより大事だと思う。もちろん現在でも幾つかの遺伝子に狙いを絞って遺伝子検査が行われるようになって来た。ただ、エクソーム解析では情報のレベルが格段に違う。例えばこの研究でも、患者さんの中には共通の機序で発生した一種類の腫瘍だけしかない場合もある事が示されている。特定の遺伝子だけについて調べてこの分子の変異が見つかっても、他の全ての遺伝子まで情報が得られるエクソーム解析と比べると、他の遺伝子はどうなのか不安が残る。また、異なる突然変異が混じっている場合も、エクソーム全部がわかっていると、そのデータから薬剤を組み合わせる事で効果的戦略を立てる事が出来る場合もあり、実際そのような例がこの論文でも示されている。現時点では検査が失望に終わるとしても、腫瘍の事を出来る限り知る事は意味があると私は思う。現時点でエクソーム解析はまだ大きな大学でだけ可能な検査だ。また、現在50万円程度かかる検査コストも問題だろう。ただこの費用は普及が始まれば急速に低下することは間違いがない。私は余裕のある人から調べて行く事で、普及が促進すると思っている。このため、まだ自分でコストを負担する必要があるとは言え、希望すればこの検査を受けられるようにする事の意味は大きい。検査はDNA配列を決定すればそれで済む事ではない。配列に現れる意味を正確に理解するための情報解析が必須だ。この分野の人材が我が国には不足している。特に将来サービス提供の主体になる民間企業の人材についてはほぼ無いに等しい。私も公的な職は辞したが、民間セクターの確立のために努力したいと思っている。
  1. Okazaki Yoshihisa より:

    遺伝子解析で腫瘍の共通の弱点を見つけて治療する。

    多発性骨髄腫の多くの患者さんでは、一人の患者さんの中に既に違った突然変異を持つ数種類のがんが混じっており、共通の薬剤標的分子経路が見つけられそうにない

    分子標的治療の弱点でしょうか

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