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自閉症の科学9 瞳孔反射で自閉症発症を予測する

2019年8月22日
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「目は口ほどに物を言う」と言われているように、瞳孔は私たちに様々な事を教えてくれます。医師が死亡診断を下す時、必ず瞳孔反射を調べるのがその例ですが、実際には私たちが見ているものに興味を持っているかどうか、どのように物を認識しているのかどうかなど、様々な事を知る科学的手段として使われています。例えば、言葉でのコミュニケーションが取れない赤ちゃんの場合、興味を示しているかどうかは瞳孔の大きさで判断します。

とすると、当然外界への関心が低下するASDでも瞳孔の反応に何らかの変化が起こると考えられます。実際そのような研究がこれまでも行われ、ASDの児童や成人では瞳孔反射が遅くなっていることが報告されています。

今日紹介する論文を発表したウプサラ大学のグループも同じようにASDリスクと瞳孔反射の関係に興味を持ち、乳児期という早い段階にASDのリスクを予測する手段として使えないか調べていたようです。そして、2015年に発表した論文で、家族歴からASDのリスクが高いと推定される10ヶ月齢の乳児では、児童や大人とは逆に、光に対する瞳孔反射が早いことを報告しています(Nystrom et al, Molecular Autism, 6:10, 2015 )。

しかしこの論文で調べられた乳児は、あくまでもASDリスクが高いと想定されるだけで、本当にASDが発症するかどうかは追跡しないとわかりません。そこで最初の研究で調べた乳児をASDと診断できる3歳児まで追跡したのが今日紹介したい論文です(Nystrom et al, Enhanced pupillary light reflex in infancy is associated with autism diagnosis in toddlerhood (乳児期の瞳孔反射の亢進は幼児期の自閉症診断と相関する)Nature Communications 9:1678, 2018, DOI: 10.1038/s41467-018-03985-4)。

乳児が自然に行動している間に瞳孔反射を調べるのは簡単ではありません。この研究ではトビー社の視線追跡装置を用いて、自然状態で反射を繰り返し測定するのに成功しています。

最初の論文では、先に生まれた兄弟がASDと診断されている場合をハイリスク群、全くASDの家族歴がない群を通常群としてデータを比べ、ハイリスク群で瞳孔反射が高まっていることを報告していますが、この研究では147人のハイリスク群の中から3歳時でASDを発症した29人(20%)、ハイリスク群でもASDが発症しなかった118人、そして通常リスクで発症もなかった3群に分けています。

まず10ヶ月時の瞳孔反射をこの3群でプロットし直し、瞳孔反射とASD発症の相関を調べています。結果はシンプルで、ASDを発症した乳児は、ASDを発症しなかったハイリスク群の乳児と比べても瞳孔反射速度が高まっており、通常児と比べるとその差はさらにはっきりし、平均で20%ぐらい反射速度が上がっています。また瞳孔反射の数値は、2種類のASD診断指標を用いた重症度と正の相関を示します。そして、ASDの子供だけ発達に伴い瞳孔反射が大きく変化します。

もちろん他の臨床検査と同じで、実際には通常児とASDの間での検査値のオーバーラップは大きく、傾向は見られても、これだけで診断するとなると、かなりな異常値を示す乳児に限られるように思います。しかし、「瞳孔反射が高めで、次の年に変化が大きい場合は要注意」といった具合に一つの指標として使っていくことは可能だと思います。おそらく、個人差の原因を取り除いた検査の開発ができると、もっと正確な診断が可能になるかもしれません。

いずれにせよこの研究は、1)ASDという複雑な状態が、様々な神経活動の変化が総合された結果であること、2)ASDでは瞳孔反射のような感覚系の変化が強く見られること、3)このような変化は生まれた時には用意されており、発達を通して特徴的な状態が形成されること、を教えてくれます。

今後乳児期のこのような単純な反応がASD発症に関わるという発見を、現在進むMRIなどの脳構造研究と相関させることができると、ASDのメカニズム理解や診断に大きく貢献する予感がします。今後に期待したい研究です。

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