物心つく前の乳幼児がテレビを見る行動から何がわかるか(自閉症の科学 第43回)
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物心つく前の乳幼児がテレビを見る行動から何がわかるか(自閉症の科学 第43回)

2020年4月25日

私たちの子供の頃と違って、ほとんどの家庭にテレビやビデオがあり、乳児がいても、かなりの時間試聴されていると思う。とすると、私たちの世代と、テレビ以降の世代で、物心つく前の乳児期の経験はかなり違っている様に思える。

もしテレビがただの風景と同じなら、何の差も生まれないが、テレビやビデオ画面上での映像が物心つかない乳児にとって、風景とは全く違う内容を持つとすれば、その影響を知りたいと思う。

今日紹介するフィラデルフィアにあるDrexel大学からの論文は、米国で生活環境の幼児の発達への影響を調べる目的で追跡されている子供たちの中から2152人を選んで、乳児期にテレビやビデオ画面に興味を持つことが、性格にどのような影響を持つかを調べた研究で、4月20日JAMA Pediatricsオンライン版に掲載された。

研究は極めて単純で、12ヶ月時点で、保護者(92%は実の親で、他祖父母など)に、「お子さんはテレビを見ますか?」「お子さんと一緒に絵本を見ますか?」と聞いた後、18ヶ月時点でもう一度「この1ヶ月を振り返って、1日何時間ぐらいテレビをみていますか?」と聞く。

そして2歳児になった時、M-CHAT(日本語版:https://www.ncnp.go.jp/nimh/jidou/aboutus/mchat-j.pdf)で自閉症スペクトラム(ASD)様症状を示すか、あるいは将来のASDリスクを調べ、乳児期でのテレビの試聴や、保護者との遊びの時間と、M-CHATによる性格診断との相関を見ている。

結果は明瞭で、12ヶ月時点で、保護者がテレビやビデオを見ていると答えた子供は、より多くのASD様症状を示すが、ASDになるリスクスコアは変わらない。しかし、18ヶ月時でテレビを見ている時間とASD症状やリスクはほとんど相関がなかった。これに対し、12ヶ月時点で保護者と一緒に絵本を見たりする時間が長いと、ASD様症状は低下することもわかった。

以上をまとめると、

  • 物心つく前にテレビを見る様になる子供は、ASDリスクが高まるわけではないが、ASD様の症状が現れる、すなわASD様の性格が現れる。
  • 一方、保護者と一緒に遊ぶ時間が長いほど、この様な症状の出現を防ぐことができる。
  • 18ヶ月を越すと、テレビを見ることとASD症状とは関係がなくなる。

くれぐれも間違わないでほしいが、1歳までにテレビを見る子供は、ASDのリスクがあるという話ではない。今の所言えるのは、私たち世代の経験したことのない乳児期のテレビという風景が、ASD様症状の出現と何らかの関係ありそうだという観察結果だけだ。もちろん、テレビが原因でASD様症状が出るとも、ASD様傾向を持つのでテレビに興味を示すとも結論できない。しかし、できる限りテレビという人工的風景を避け、子供との時間を持つことはASD症状の出現を防げる可能性を示していると思う。簡単な観察研究だが、典型児、ASD児を問わず、乳児期のあり方の一つのヒントを示している様に感じたので、自閉症の科学として紹介することにした。

自閉症の科学 42  コロナウイルスによる学校やケア施設の閉鎖状況を乗り越えるために、ASD児をもつ家庭が心がけるべきヒント。

2020年4月12日

緊急事態宣言が出され、大都市圏では学校や施設閉鎖が延長された。もちろんASDの子供も例外ではない。この時、ASD の子供と自宅でどう過ごせばいいのかについて、10のヒントが4月1日号のBrain Scienceに掲載されていたのでそのまま訳して掲載する。

もちろん米国とわが国では事情も異なるし、またASDの症状は多様なので、 「米国ではこんな対応が指示されているのか」と、何かの参考にするという気持ちで読んでいただければ幸いです。

  • 新型コロナウイルスについて子供によく説明する。

ASDの子供は具体的な事象に即して認識して、抽象的なことを理解するのが苦手なことが多い。また、言葉でのコミュニケーションが苦手だったり、周りの現象を理解することも難しい子供達がいる。それでも、何が新型コロナウイルスか、なぜ家にとどまる必要があるのかを説明することは重要。説明は単純で具体的でなければならない。この目的で、意思伝達装置(例えば:https://ogw-media.com/medic/cat_it/4377)を使う可能性もある。また、新型コロナウイルスとは何かについてのパンフレットがあれば使える(例えば藤田医科大学の資料:http://www.fujita-hu.ac.jp/~microb/Final_version.pdf)。言葉で説明するときには、概念をわかりやすく示した図を使うことも重要(わが国でもこのような準備はできているのだろか?)。

  • 毎日の生活の時間割を作る

ASD児は実行力に問題があることが知られており、特に日常性が破壊されると毎日の過ごし方を計画できなくなる。このため、できるだけ早く毎日の活動を構造化することが重要。この状況では、家庭が活動の唯一の場になる。そこで1日の活動をいくつかに分けて、部屋を変えて行うことも役にたつ。このような時間割は知能に障害がある子供だけではなく、知能は正常のASD児にも役に立つ。また、この時間割を家族全体で行うゲームのように仕立ててもいい。黒板に、家族がその日何をするのか計画を書き入れてみたらどうだろう。

  • ある程度自由度を持った遊び

ASD児は遊ぶのが好きだが、感覚のトラブル、あるいは行動の反復性などから、苦手な遊びがある。いずれにせよ、1日のうち、遊びの時間を持つことは重要。これは一人で遊ぶことでも、だれかと一緒に遊ぶことでも良い。例えばLEGOを用いた治療は知能を問わずASD児には良い遊びの方法になる。この治療方法は子供の社会性を高める目的でますますポピュラーになっており、特に社会性に問題を抱えるASD児のような子供に適している。これを子供と親が一緒に遊ぶ、ある程度自由を持たせた遊びとして、自宅で行うことができる。(レゴセラピーについてはhttps://www.kango-roo.com/sn/a/view/4311を参照)。

  • シリアスゲームを使ってみる

シリアスゲームについてはウィキペディアを参照してほしい:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0

シリアスゲームはASD児の社会による認知の促進、表情に現れる感情、感情的な仕草、感情的な状態の理解に役立つ。シリアスゲームはASD児の基本的教育資源として利用できる。多くのシリアスゲームは無料でウェッブからタブレットやPCにダウンロード可能。シリアスゲームは教育目的でビデオゲームやウェッブサイトの代わりとして使える。

  • 親とビデオゲームやインターネットセッションを共有する

ASD児はビデオゲームやインターネットに強い興味を示すことが多いが、現在のように子供達が家庭から出られない状況では、逆にはまり込んでしまう危険がある。子供がPCで遊ぶのを避けることは難しいが、現在のように親も家庭にいる機会が増えた場合、ビデオゲームやインターネットを親や、兄弟、あるいは介助者たちと共有できるよう過程でルールを作ることを考えてみると良い。これによって、子供が一人で孤立しインターネット中毒に陥るのを防げる。

  • 独自の興味の対象を見つけて親と共有する。

特定のものへの興味を持つことはASD児の特徴。このような興味を持つことの重要性については現在ますます理解されるようになっている。このような興味を持つことについては、親や介助者も積極的に励ますことが重要。興味の対象例としては、乗り物、地図、動物、漫画、地理、電子機器、そして歴史などを挙げることができるが、他にも多くの可能性がある。親と子供が自宅で過ごすようになった現在の状況は、このような興味に関する活動を一緒に行ういいチャンスになる。

  • 正常知能の子供のためのオンライン治療

ASDには、ASDとは別の精神的な脆弱性や病気を高頻度で抱えていることがよく知られている。これらの病気の中でも不安神経症は最も報告が多い。このような精神疾患が青春期に起こると精神発達崩壊につながる恐れがある。特に新型コロナウイルスによる非常事態はASDの子供にとって自分のこととして理解しにくい出来事と言える。このため、新型コロナウイルスの非常事態宣言が出る前から精神治療を受けていた場合、それを続けることは大変重要。ところが外出自粛状態では殆どのセラピストは対面での治療を中止せざるをえない。そこで、ビデオやオーディオを用いての遠隔精神治療を、毎週予約して受けることは大変大事なことになる。これにより、不安が解消され、気分をチェックし、子供が専門家と話す機会が得られる。

  • 親や介護者のため、毎週オンライン相談の機会を持つ。

ASD児の親は典型児や他の障害を持つ親より強いストレスにさらされており、また影響を受けやすい。現在のような事態になると、親だけで子供の面倒を見なければならない。この結果、それでなくとも疲れきっている親のストレスはますます高まる。この問題は子供の知能レベルとは関係ない。これに対し、子供のセラピストに毎週オンラインで相談の機会を持てると、かなり改善する。知能の遅れのある子供の場合、子供が自由に遊んでいる様子や、あるいは決められた課題を行なっている様子をホームビデオにとって、セラピストに見せることは役に立つ。また、知能が正常な子供の場合、この難局をどう乗り切ればいいのか対話形式で相談し、子供への対応方法の知識レベルをアップデートする時間にできる。

  • 学校とのコンタクトを保つ

学校で先生や友達と関係を保つことが学習の助けになることがわかってきている。毎日決まった時間を学校が指示するホームワークに、日課として続けることは重要だが、学校の社会的付き合いを維持するためには、少なくとも1週間に一回は、先生を含むクラスの誰かと接触を保つことが示唆されている。コンタクトを取る方法は子供の症状や性格による。問題なければ、オンラインでのコンタクトは重要な可能性だ。オンラインによる接触が嫌なASDの子供に対しては、先生やクラスの誰かに手紙を書いたり、あるいは直接電話で話すこともよい。子供と親の両方にとっても、特定の先生とオンラインや電話で接触を維持することは強く推薦できる。

  • 計画しない時間も重要 

すでに1−9で述べたように、ASDの子供が積極的になるよう刺激することは重要だが、1日のうち適当な時間を予備の時間として残すことも大事(例えば家の近くを散歩する)。というのも、緊急事態では子供の行動は型にはまってしまう可能性が高い。もちろんだからと言って心配することはないが、習慣が変化すると、ASDの子供のストレスレベルは高まり、紋切り型の行動が増えることがある。これは、ストレスを感じていることの現れで、決して退行ではない。

我が国では支援が進んでおらず羨ましいと思える点もあるかもしれないが、参考になる論文だと思い紹介した。

自閉症の科学41 気になる治験 III ASD児の言葉の能力を高める学校プログラム

2020年3月12日

社会性障害、言語能力低下、繰り返し行動がASDの三大症状などと言われると、何か最終宣告のように聞こえてしまうが、全くそんなことはない。今まで2回にわたって、絵本を通してのコミュニケーション、スポーツクラブに入って他の子供たちと運動する、などのプログラムで少しづつ新しい能力が開発できる可能性を示す論文を紹介してきた。

3回目の今日はバージニア大学のグループが学校で使えるようにデザインした言葉の能力を高めるためのプログラムについての治験研究で3月2日にJournal of Autism and Developmental Disordersに発表された。

このグループは長年にわたってASD児の言葉に関わる能力を高めるためのプログラムや材料を開発しており、この治験は彼らが2014年に開発した「Building Vocabulary and Early Reading Strategies 」というプログラムを小学校の課外授業として実施し、1)話し言葉の能力が改善するか、2)聞き取り能力が改善するか、3)教師がこのプログラムを実行できるか、の3つの問題を調べている。

具体的には5−9歳のASD児43人の参加を募り、まず年齢、背景、ASDの症状を揃えたペアに分けて、そのあとで無作為にペアの一人をプログラムを受ける群、もう一人を受けない群に振り分けている。

プログラムの内容だが、本に書かれた物語を大きな声で音読させることを基盤にして、読んでいる物語の内容を理解する、これまでの知識と比較する、物語をもう一度語る、物語から想像する、などの能力を途中で質問したり、文字に書せたりして意識させていくことで、言葉を使う能力を高めるようデザインされている。

重要なことは、このプログラムを学校で国語(?)の補修科目として組み入れている点で、このためにこのプロジェクトに協力してくれた先生を訓練している。

この補修プログラムは1日30分、週4日続き、全体で平均65セッション行うように計画している。そしてプログラム前後で様々な言語能力をテストして、改善が見られるかどうか調べている。

もちろん二重盲検、プラシーボなどは不可能な治験だが、プログラムを受けたグループは、ボキャブラリーのテスト、語る能力、言語全般の能力などで、受けなかったグループと比較して明確な改善が見られることから、効果は高いと結論している。

私も専門家でないので、言語能力測定に使われたEVT-2テスト、NEPSY-IIテスト、CELF-4テストで見られた改善が、実際にはどの程度なのかイメージすることはできないが、全てのテストでしっかり改善していることが示された。

詳細は専門家に任せることにして、学校で週4日、1回30分のコースが、ASD児の言葉の能力を改善できたことに感心した。おそらくわが国でも同じようなプログラムが開発されているのではないだろうか。大事なことは、これほど多面的な効果が得られるなら、学校での学習過程の中にそのようなプロジェクトが組み入れられ、多くの子供たちがプログラムを受け、その効果が常に検証されることだと思う。

以上、3回にわたって紹介した気になる治験論文は、家庭、スポーツクラブ、学校と異なる場所でのプログラムが少しづつではあってもASD児の能力を高めることができることを示している。思いつきでも、まだまだASDに対しては対症療法が重要であることが良くわかるが、それを治験として検証し、多くの人に使えるようにすることが最も重要だと強調して、ASD児に関する気になる治験シリーズを終える。

自閉症の科学40 気になる治験 II サッカークラブ参加によるASDの社会性改善

2020年3月9日

前回はASD児に絵本を読み聞かせたり、説明したり、質問したりする行動が、ASD児の言葉に対する注意を促すことを示す研究を紹介した。2回目の今日は、運動の効果だ。ASD児ではしばしば運動症状が認められる(例えば視覚と手の運動の連携が悪いなどの症状)。また、これらの運動症状とASDの心の問題とは密接に関連していることも知られている。もしそうなら、ASDの子供たちの運動能力を高めるプログラムは、運動能力にとどまらず、社会性や性格の変化をもたらしてくれる可能性が高い。

今日紹介するオーストラリアDeakin大学からの論文は、ASD児にオーストラリア全国で活動している子供を対象にしたサッカークラブAuskickのプログラムに参加させて、社会性や様々な性格に変化が起こるかどうか調べた研究で2月27日Journal of Autism and Developmental Disordersに掲載された。

研究は単純で、61人のASDと確定された5−12歳のASD児を2グループに分け、半分はAuskickクラブ(https://play.afl/auskick)が提供するプログラムを最低12回受けさせ、残りのグループは自宅で普通の生活を送らせる。そしてプログラム終了時に、知能、社会性、性格などを一般的な方法で調べている。

どのようなプログラムを受けるかはそれぞれのクラブに任せており、ハンディキャップを持った子供たちのプログラムに入る場合も、全く普通の子供のためのプログラムに入る場合もある。

結果だが、様々なマニュアルに従った検査については専門的なので、ここは著者らを信用して結論だけを手短にまとめると、次のようになる。

  • 子供も行動を診断するCBCLチェックリストの様々な項目について調べると、全項目を総合した結果、内向性を評価する結果、そして米国精神医学界のDSMマニュアルによる不安神経症の程度が、サッカークラブでプログラムを受けることではっきりと改善した。
  • サッカークラブを経験したASD児は、サッカークラブセッション終了後も、他のプログラムに参加する傾向があった。
  • チームスポーツではあるが、コミュニケーションや社会性の改善ははっきりしない。ただ、CBCLによる社会性の問題は明らかに改善している。
  • 上記の変化はプログラムの強とあまり関係はなく、一般児と同じプログラムでも、ハンディキャップ児と同じプログラムでも同じ程度に改善が見られた。

結局最後までプログラムを受けられたASD児は20人足らずになってしまったため、統計的に結果を信用できるのかどうかなどいろいろ問題はありそうだが、おそらく上手にプランされたチームでやるスポーツは受けさせてみる価値があるという結論になる。

しかしこのためには、上手に管理されたプログラムが必要だ。日本のサッカークラブの現状は知らないが、サッカーの上手な子供を育てることが目的になっていて、なかなかASDの子供まで受け入れる余裕はないのではないかと思う。また、一般児のプログラムにASD児が参加するのを、クラブや親が許すかどうか疑問だ。しかしわハンディキャップを持った子供たちの身体機能や精神機能の促進にも一肌脱いでこそ、我が国もプロ野球大国、サッカー大国になれるのではないかと思う。そんなスポーツクラブが増えることを望んでいる。

自閉症の科学39 ASD児に関する気になる治験 I 絵本を読み聞かせる効果

2020年3月6日

自閉症スペクトラムについての医学生物学的研究は急速に進んではいるものの、ようやく早期診断のための方策が見えてきた段階で、まだ治療の決め手はなく、一見思いつきとも言える手作りの治療法の効果を探っている段階と言えるだろう。大事なことは、これらの手探りの多くが論文として公開されている点で、論文を見ていると「こんなことまで調べているのか」と本当に感心する。これから3回に分けて、こんな気になる治験について紹介しようと思っている。

1回目の今日は、絵本の読み聞かせとASD児の言語反応との関係を調べたオーストラリアGriffith大学の研究で、Journal of Autism and Developmental Disorderに発表された(上図)。

両親との言葉を通したコミュニケーションが子供の言語能力に大きな影響がある事はよく知られている。その典型的な例が、絵本を前にして子供にその内容を読み聞かせる行動で、これが子供の言語能力を発展させることについてはすでに多くの報告がある。

しかし、社会性と言語能力の低下が見られるASDの子供たちに絵本を読み聞かせることで言語能力や社会性が改善するか調べた研究は不思議なことに殆どなかったらしい。

この研究では47人のASDと診断された4歳から6歳の子供とその家族に参加してもらい、この研究のために選んだ2種類(一冊ははっきりした物語、もう一冊は絵が飛び出すカラフルなビジュアル系)の絵本を、ASD児と一緒に見ながら親が説明する課題を行ってもらい、その一部始終をビデオに撮影してもらっている。

このビデオを解析して、親の行動と子供の反応や能力との相関を調べ、社会性や言語能力を改善させるヒントを得ようとしたのがこの研究だ。従って、この研究だけからは本を読み聞かせることがASDの社会性や言語能力に効果があるとかないとかは結論できない。

本を読み聞かせる時間の平均は高々一冊の本で6-7分で、短い場合は3分、長い場合は20分と大きくばらつく。この間のお母さんの行動を、

  • 本に書かれている絵を指差したりして言葉を教える行動、
  • 物語の構築についてもう一度わかりやすく説明する行動
  • 子供への質問、
  • テキストに書かれている文を読みながら、その中の単語を教える行動。

にわけている。

これに対する子供の行動としては、親とコミュニケーションを取ろうとする発語と、発した単語の数を記録し、親の行動との相関を調べている。

わかりやすく言うと、ASD児の言葉の反応が、親のどの行動に対して起こるかを調べている。詳細を省いて結果をまとめると次のようになる。

  • 本を読み聞かせる時の親の行動は多様。
  • しかし、個々の行動と子供の反応との相関を調べると、本の内容に基づいて、その意味を伝えようとするときに子供はより強く反応する。
  • 本に書いてある単語について説明すると子供の文字の知識が増える。

かなり単純化したが、結果は以上で、本を読み聞かせることはASDの子供の言葉の使用を高め、文字を習得するのに役立つと結論している。しかし残念ながら、この読み聞かせがどの程度の症状改善をもたらせるかなどの臨床的検討は全く行われていない。

それでも、両親が絵本を読み聞かせるとき、子供のどんな行動に注意すればいいのか、参考になるのではないだろうか。

明日はASDの子供をサッカークラブに入れたらどうなるかを調べた論文を紹介する。

自閉症の科学38:頻度の低い変異(Rare Variant)から自閉症スペクトラム障害(ASD)を考える

2020年2月18日

「自閉症の科学」では、繰り返し繰り返しASDに関わる遺伝子変異の論文を紹介してきたが、これは21世紀に入ってこの分野の研究が急速に進展し、今も多くの論文が発表されつづけているからだ。しかもこれで十分というレベルには到底達しておらず、知識は今もアップデートされ続けている。これを裏返すと、それほどASDの遺伝的背景が複雑であることを物語っている。これまでの研究から見えてきたのは、ASD状態は、多くの遺伝子が合わさって形成される性格と同じような脳の多様性とともに、その多様性が最後に「異常」として表現されるために必要な遺伝的変異が組み合わさって形成されることで、この二つのタイプの変異の質が大きく異なっているという認識だ。

今日紹介したい論文は、ボストンのMITを中心に1万人以上のASDのゲノム配列を調べ、特にASDが異常として表現される遺伝子変異を特定しようとした探索研究だが、論文をいきなりそのまま紹介したのでは、おそらく医学部の学生さんでもすぐ理解するのは難しい内容だと思うので、まず遺伝子変異の質についての基礎知識から紹介してみたいと思う。

私たちの細胞は外界からのストレスがなくても、細胞が分裂するたびにDNAが複製され、そのたびに様々なタイプの複製ミスが生まれるようにできている。このような個人レベルのゲノムの違いが、環境要因に影響される遺伝子の使い方(エピジェネティックス)と合わさって一人一人の性質や性格の違いを生み出している。図に示すように、こうして生まれる遺伝子変異は、大きく頻度の比較的高いコモンバリアントと、稀にしか見つからないレアバリアントに分けることができる。この、コモン、レアを決めている要因が、遺伝子変異への選択圧力で、例えば個体の生存に関わる多くの変異は、子孫が残せないため集団内の頻度は必然的に低くなり、レアバリアントになる。一方、現在個人の病気の遺伝的リスクを調べるために提供される個人ゲノムサービスの多くは頻度が比較的高いコモンバリアントを調べる検査だ。例えば、身長などはこのようなコモンバリアントがいくつか合わさって決まることがわかっており、最近ではこのようなコモンバリアントの組み合わせから身長を推察することも可能になっている。要するに私たちが一般的な性質や性格と呼ぶものは、コモンバリアントの複雑な組み合わせからなるといっていい。

ASDも、コモンバリアント(CV)、レアバリアント(RV)の両面から調べられてきた。例えば脆弱性X症候群、RETT症候群など特定の遺伝子機能が失われるRVは、発達遅延とともにASD様症状を示すことが知られており、異常状態が発生させる過程を理解するために重要な変異だ。実際このようなRVは、動物に導入するとASDに似た症状を示すことが多く、ASDモデル動物として研究されている。ただ、発達障害のような目立つ症状が出る場合以外は、RVを発見することは難しく、調べるためには千人以上のゲノムを調べることが必要になる。

一方頻度の高いCVのほとんどは個体の生存に直接関わることは少なく、個々のCVは変異というものの、性質の大きな変化につながることはまずない。すなわち変異への選択圧は弱く、結果その変異が一定の頻度で維持されてきたと考えられる。個々のCVの影響は大きくないが、他の様々な変異と合わさることで様々な病気の発症に関わることも確かで、全ゲノムレベルでCVを調べる検査(GWAS検査)で疾患との相関を調べることでリスクを計算することができる。ASDについても多くの研究が行われ、100を超すCVがASDのリスク因子として相関することが明らかになっている。ASDと相関するCV がこれほど多く見つかったと言う事実は、ASDがまさに様々なタイプを包含するスペクトラム障害で、性格と同じようにCVの組み合わせで決まる脳の多様性を反映している根拠として考えられるようになった。

その後次世代シークエンサーの利用により、個人ゲノムのDNA配列を読むコストが急速に低下した結果、千人を越す人のゲノム配列を調べる研究が可能になり、自閉症という一枚のコインを、CV,RV両面から一体的に調べる研究が進み始めた。その典型が前回「自閉症の科学」で紹介した「父親の精子に見られる遺伝的変異のモザイク」(https://aasj.jp/news/autism-science/12266 )についての論文で、この研究では図でde Novoの変異として示した、両親、兄弟にはなく自閉症児本人だけにみられるRVを調べている。

さて、今日紹介したいMITを中心とする国際チームからの論文では1万人を越すASDについて、ゲノムのうちタンパク質に翻訳される部分(エクソン)を解読し、ASDだけに存在し、一般人には見つからないRVを探索している。RVを特定したい場合、対象が多ければ多いほど新しいRVを見つけることができる。これまでの研究では千人規模だったので、1万人規模にスケールアップすることでさらに稀なRVも見つけることができる。ただ、この探索には終わりはなく、次は10万人、その次は100万人と、すべてのASDリスクRVがリストできるまで研究は続くと思う。従って、この研究も中間報告として考える必要がある。

膨大な研究なので詳細は省いて、RVを調べることの意味を中心に以下にまとめてみた。

  • 分子の構造変化につながるRVがASDでは3.5倍多く蓄積する傾向がある。逆から言うと、ASD発症には確かに分子機能の変化を伴うRVが関わっている。統計学的には、RVはASDで見られる変異の2%ほどで、50%以上はCV。
  • RVの頻度は女性のASDの方が2倍高い。ASDは男性が圧倒的に多いことを考えると、この結果は不思議に思われるかもしれない。しかし、女性がASDを発症しにくいということは、逆に発症のためには男性より多くのRVが必要であることを意味し、これまで考えられていた様に、女性はASDになりにくい事実の裏返しと見ることができる。
  • この研究では全体で102種類のASD特異的RVと特定されたが、そのうち60は新しく発見されている。即ち、対象の数を増やせばさらに新しいRVが発見できる可能性がある。
  • ほとんどのRVは神経細胞で発現しており、ASD特異的RVp(53種類)と、他の精神疾患にも見られるRVn(49種類)に分けることができる。他の神経疾患でも見られるRVを持つ児童は、歩く時期が遅く、軽度の発達障害が見られる事から、RVpとRVnの機能は異なることが推察できる。
  • RVの機能は、遺伝子発現調節に関わる分子か、シナプスなどの神経管結合に関わる分子に分けられる。また、101種類のRVは出生前の脳で発現が高い事から、神経発達に関わると推定される。

これ以外にも、いくつか面白い解析が示されてはいるが、あまりに専門的になるので割愛する。

要するに対象の数を増やすことで、ASD特異的RVを特定することができ、統計学的解析からこれらRVが確かにASD発症に関わることが証明できたと言える。

これまで自閉症と相関することが発見されたCVがあまりに多いため、ゲノムから新しい治療法を発見することは難しいのではと考えられてきたが、この脳の多様性が「異常」として表現されるために必要なASD特異的RVが明らかになることで、ゲノムからASD治療法を開発することも夢でないと思っている。

自閉症の科学37: 父親の精子に見られる遺伝的変異のモザイク

2020年1月27日

今日の話も一般の人には少し難しいかもしれないが、なるべくわかりやすく説明するのでお付き合い願いたい。

私たちのNPOで患者さんの団体の支援経験が最も長いのは藤本理事で、各団体に属しておられる患者さん一人一人についても本当によくフォローしている。あるとき彼から、日本だったか外国だったか、FOPの患者さんが2人おられる家族の話を聞き、驚いた。全身に骨ができてしまう病気FOPは山本育海さんを通して私たちも接点がある病気だが、通常の遺伝疾患ではなく、その証拠に両親には同じ遺伝変異は存在しない。おそらく父親の精子(理論的には母親の卵子も除外できないが)が作られる過程で新たな変異が起こることで発生する病気だ。従ってランダムな変異が独立に起こったとすると、2人の患者さんが一つの家族に発生することは奇跡に近い。またそう思うからこそ、患者さんのご両親から「もう一人子供が欲しいのだが同じ病気にならないだろうか?」と聞かれた時、全く心配せず妊娠していいですよと答えていた。

ただ、この様な奇跡が起こる可能性が一つ存在する。それは、生殖細胞が発生する過程の比較的早い時期に突然変異が発生し、正常の生殖細胞(精子や卵子)と変異を持った生殖細胞が一定の比率でずっと体内で維持される場合だ。この様な状態をモザイクというが、同じことは他の臓器でも見られる(図1)。

毎日作り続けられる精子の場合、生まれた後の精巣で起こる精子形成過程で変異が起こって、その精子で受精した変異を持つ子供が生まれることがあるが(図では4型)、この場合は一回きりの変異でモザイクとして変異が維持されることはないので同じ変異を持つ子供が同じお父さんから生まれることはまずないと言っていい。一方、発生過程で精子を作る元の細胞(精原細胞と呼ばれる)ができるとき変異が起こると、発生段階のいつ起こったかによって様々な割合の変異細胞を持つモザイクになる(発生過程の早期に怒るほどモザイク率も上がる)。こうなると同じ変異を持った子供が、一定の確率で同じお父さんから生まれることになる。

藤本さんから聞いたFOPの子供さんが2人同じ両親から生まれたということは、卵子か精子の発生過程で変異を持つ細胞がモザイクになってしまったと考えることができる。この場合、卵子を調べるのは難しいが、毎日作られる精子なら子供が繰り返してFOPになる確率を計算することはできる。

今日紹介したいと思っている論文は、自閉症を例にこの変異精子のモザイク状態の関与を調べた研究で、Nature Medicine1月号に掲載された。モザイク状態自体は自閉症に限らないが、ぜひこの機会に「自閉症の科学」として学んでもらいたいと取り上げた。

自閉症が遺伝的背景を持つことはもはや異論がないと思うが、これまで例として見てきたFOPのように一つの遺伝子で病気が決まるのではなく、ほとんどの場合多くの遺伝子の機能の小さな変化が集まって形成される状態と見ることができ、極端に言ってしまうと性格の一つとすら考えられる。これら遺伝子の多くは両親から受け継いだものだが、FOPと同じで、自閉症児には存在し、両親には存在しない新しい変異が10−30%のケースで存在し、自閉症発症過程で最後の後押しとなっているのではないかと考えられている。

この子供だけに見られる新しい変異が、実際には両親の生殖細胞のモザイク変異から由来する可能性を調べるためには、これまで両親の血液細胞のDNA解析が使われてきた。血液細胞と生殖細胞が別れる前に変異が発生すると、この変異モザイクは血液にも生殖細胞にも維持されることから(図で言うと1型)、この場合血液細胞を調べるだけで十分モザイク度を算定できる。実際、自閉症の場合子供だけに存在すると考えられる変異の3.8%が、実際には両親のどちらかでモザイク変異として末梢血細胞で維持されていることが、血液のDNA検査から明らかにされた。さらに面白いのは、兄弟に同じ変異が見られる場合、なんと両親の血液のモザイク変異として検出される確率が57%に跳ね上がることがわかった。

実際、両親には存在しない変異が同じ兄弟に生じる確率は限りなく0に近い。しかし同じ変異が複数の子供に見られ、しかも両親には存在しない場合は、100%両親の生殖細胞がモザイクになっていると考えていい。

ではなぜ血液のモザイクとの一致が57%にとどまるのか?これは発生過程のいつ変異が起こったのかの違いで、血液がモザイクになっていても精子や卵子がモザイクになっていない場合、あるいは逆も存在するためで(図で変異が起こる時期として示している)、血液にはなく精子にある型(3型)の場合は、血液検査ではモザイクが見落とされる。そのため実際に変異を持った子供が生まれるリスクを正確に判定するためには、生殖細胞で検討することが必要だ。

今日紹介する研究は、6人の自閉症児とその家族の参加を得て、子供だけに見られる変異をまずリストして、これらの変異がお父さんの精子、あるいは血液でモザイクとして存在しているかを調べた研究だ。

この論文の結論は自閉症には限らないので、一般的な話としてまとめ直してみると次のようになる。

  • 子供に見られる新しい遺伝変異の2.5%が父親の精子や血液のモザイクとして検出できる。
  • 血液と精子を比べると、両方の組織でモザイクになる場合が多いが、精子だけで見られる変異(3型)も多い。従って、血液細胞でのモザイク検出だけでなく、精子のDNA解析を行うことが、変異を持つ子供の発生リスクを算定するために重要。

ということになる。

結論としては、もし変異を持つ子供が生まれた時、これが一回きりの変異か(4型)、それともお父さんの精巣で変異を持った精子が作り続けられているのか(1型と3型)は、精子のDNA検査で可能だという話になる。

では自閉症スペクトラムを持つ家族でこのお父さんの精子の検査がどれほど意味があるかと考えると、まだまだ専門的すぎて、誰もが調べられるという検査ではない。しかし、両親にはなくて、子供にだけ存在する遺伝子変異の中には、両親の生殖細胞の中にモザイクとして維持されているものがあることを知っていてもいいのではないかと紹介した。

自閉症の科学36 自閉症児の発熱は、一過性だが社会性を回復させる

2019年12月28日

自閉症スペクトラム(ASD)児が発熱すると一過性に、症状(特に社会性に関わる症状)が改善することが報告されていた。おそらく経験されている両親や医師の方には「そうそう!」と頷かれるかもしれないが、私も含めて多くの人は、本当にそんなことがあるのか疑問に思うのが普通だ。

ところが、コーネル大学、コロンビア大学、そしてカリフォルニア大学サンフランシスコ校が集まって、本当にこのような現象があるのかシモン財団データベースにに登録しているASD児について調べ、確かに発熱でASDの症状が一過性に改善する事を示した研究が昨年1月、Autism Researchに掲載された(Autism Res 2018, 11:175-184)。

研究では4歳から18歳までのASD児を持つ2156家族に「ASDの症状が発熱で改善したと思ったことはあるか?」と質問したところ、驚くことに362家族(17%)が「確かに改善したことがある」と答えた。

どのような症状が改善したのかさらに聞いたところ、コミュニケーション能力と答えた人が166人、気分や行動と答えた両親が199人に上った。

次に、発熱の影響があったASD児と影響のなかったASD児を比べ、症状の違いを調べると、完全に有意差があるとは言えないものの、症状の重いASDほど改善が見られる傾向が見られた。例えば、適応性が悪く、行動異常が強い子供ほど発熱による症状の改善が見られる。一方、遺伝的な影響についても調べているが、特別の関連は認めていない。

以上の結果から、確かに発熱がASD児の症状の改善につながることがあること、そして症状の重い児童ほど発熱により症状改善が見られる確率が高いことが確認された。

一過性でも症状改善が見られるというこの結果は、治療法開発という観点からは勇気付けられる結果だ。ただ、この研究結果だけでは、なかなか糸口はつかめなかった。

ところが先週、マサチューセッツ工科大学の研究グループが、ASDの発熱と社会行動を研究できるモデル動物システムを開発し、減少の背景にあるメカニズムを探った論文を発表した(Reed et al, IL-17a promotes sociability in mouse models of neurodevelopmental disorders (神経発生異常モデルマウスの社会性をIL17aが促進する), Nature, 2019: https://doi.org/10.1038/s41586-019-1843-6)。

発熱を誘導するといった研究を人間で行うことはできない。そこで、モデル動物が必要になる。このグループは、何種類かの遺伝的ASDモデルマウス(一つの遺伝子の変異によりASD症状を示すマウス)を使っている。マウスで社会行動を調べる様々な方法が開発されているが(例えば他のマウスと一緒にいる時間を測る)、遺伝的な変異だけでは症状がはっきりしないことが多い。そこで、このグループは妊娠時に炎症が起こるとASDが発症しやすいという現象を動物モデルで再現する方法を組み合わせ、背景の遺伝的要因は問わず、ほとんどのASDモデルで社会行動の低下を誘導することに成功している。

こうしてできた社会行動低下モデルマウスを用いて、次は発熱の影響を調べることになる。発熱誘導には感染症と同じ状態を誘導する方法と、発熱中枢を刺激する方法があるが、この研究ではまず感染で発熱する状態を再現するため、バクテリアの発熱誘導物質をマウスに投与する実験を行なっている。結果は期待通りで、LPSと呼ばれるバクテリア膜のポリサッカライドを投与された自閉症モデルマウスで社会性の回復が見られる。ところが、神経刺激のみで発熱だけを誘導すると、全く回復は見られない。すなわち発熱というより、炎症が社会性の回復に関わることが示された。

ここまでわかると、炎症時に分泌され社会性を回復させる分子を特定するのは現在の技術があれば難しくない。様々な探索を行い、最もパワフルな炎症物質の一つIL17aを注射することで社会性が回復することを示している。

結果は以上だが、もう少しわかりやすいようにこの研究の意義をまとめてみると、

  • 人間で見つかった現象(発熱すると社会性が改善する場合がある)を研究するための動物モデルが見つかった。
  • IL-17は強い炎症性サイトカインなのでむやみに注射するわけにはいかないが、脳だけでこの回路を刺激する方法がわかれば、少なくとも社会性については改善できる可能性がわかる。
  • IL-17a受容体陽性神経細胞という細胞レベルのヒントが見つかったことで、新しい介入手段の開発が期待できる。

研究というと、基礎から始めて、臨床に進むと思いがちだが、このように臨床的観察から始めて、動物に進むことも重要で、今後も基礎と臨床がうまく連携して、ASDの社会性を回復させる方法の開発を期待する。

自閉症の科学35 自閉症スペクトラム(ASD)と注意力欠如/多動症(ADHD)の遺伝的共通性

2019年12月9日

今日は久しぶりにゲノム解析の話を取り上げる。少し難しいかなとは思うが、ASDやADHDを病気ではなく、脳の多様性として捉える時のカギになる分野で、まだまだ研究は始まったばかりだ。その意味で、多くの読者が無理してもフォローして欲しいなと願っていいる。

今日紹介したい論文(Autism spectrum disorder and attention deficit hyperactivity disorder have a similar burden of rare protein-truncating variants, Nature Neuroscience, 2019: https://doi.org/10.1038/s41593-019-0527-8 )

自分の小学校時代を思い返すと、「じっとするのが苦手、思ったことを口にする、整理整頓が苦手で、忘れ物が多い」という、注意欠如/多動症(ADHD)ともいえる性格を持っていた。担任の先生も心配したのか、一度だけだが学校の指示で児童相談所で診察を受けた覚えがある。今ならADHDと診断がついていたと思うが、幸い学業や学校での生活には全く問題を感じておらず、その後いくつかの症状は治ることなく続いて今に至っている。

実際、現在ADHDの発症頻度は5%を超えていると言われており、普通にみられる性格のタイプと言ってもいい。あまりに普通で境がはっきりしないためか、ASDについては多くのゲノム研究が発表され、100を超す遺伝子多型が発見されている一方、ADHDに関連する遺伝子多型の解析は遅れていた。しかし、一卵性双生児を用いた研究からADHDの一致率は高く、精密な多型解析の必要性は高い。また、片方がASDと診断されたケースで、もう片方がADHDと診断されることも多く、両者の状態の遺伝的背景に何らかの共通性があるのではと考えられてきた。

これらの問題を解決しようと、デンマーク・オーフス大学と、ハーバード大学を中心とする国際グループは、各国の多型解析データベースを統合してASD、ADHDの遺伝子多型解析を行い、今年相次いでNature Geneticsに発表した。詳細は省くが、ADHDも多くの遺伝領域の多型が重なり合った結果生まれる神経多様性の一つの状態であることが確認され、またADHDと診断される高いリスクに関わる多型も12種類特定された。しかし期待に反して、こうしてリストされた高いリスク遺伝子多型の中にはASDの多型とオーバーラップするものはほとんど存在しなかった。

ただ、これまで疾患のリスクに関連するとして特定されてきたほとんどの遺伝子多型は、タンパク質に翻訳されない部分(イントロン)に見られる多型で、特定の一つの多型を取り出してその意味を調べても、その意味はほとんどわからずじまいで終わることが多い。そのため、2種類の病気の遺伝背景を知ろうと思うと、多くの小さな変異を積み重ねた結果を計算して関係を推測する必要があり、まだまだ時間がかかると思われる。

そこで著者らは、小さな遺伝的変化を基礎にした遺伝子多型の研究から少し離れて、タンパク質の大きさが変化するような稀な変異に絞って、ASDとAHDHで調べたのが3番目の論文だ。一部の明確な遺伝子変異が原因のASDと異なり、ほとんどのASDでは、まずタンパク質の大きな構造変化を伴うような変異は存在しないと考えられてきた。このグループは、よく調べればそんな変異も見つかるのではと、何千人もの血液サンプルから、タンパク質に翻訳される部分を全て解読して、大きな変異を探索した。

詳細は省いて結論だけをまとめると、

  • 典型児と比べると、ASDもADHDもこのような稀な変異が見られる頻度は高い。
  • ASDとADHDでリストされる変異遺伝子にはほとんど差がなく、稀で大きなタンパク質の構造変異に限ればASDもADHDもほぼ同じ。
  • もっとも多くのケースに見られたのが、神経発生時の細胞骨格の形成に必要なMAP1A遺伝子の変異で、ASDやADHDに神経発生時の変化が関わる可能性が示された。

となる。「視点を変えれば、ADSとADHDは高い遺伝的共通性を持っている。おそらく、タンパク質の構造変化を伴う様々な遺伝子の変異の上に、小さな遺伝的変化が積み重なって特徴的な症状が形成される」が結論だろう。

これまでタンパク質に翻訳される遺伝変化が原因で起こるASDのケースは、稀とはいえ知られている(例えばレット症候群)。これらの遺伝子変異ほど高い決定性はないとはいえ、今回トップ15にリストされたASD,ADHD両方に見られる変異も、神経細胞機能に何らかの影響を及している可能性がある。とすると、それぞれの分子の機能を丹念に調べることで、ASDやADHDの新しい理解へと進展するような予感がする。

「だからなんなの?」と言われそうだが、タンパク質の構造が変化する変異は研究が易しい。その意味で、私はこの研究の重要性は大きいと感じている。おそらく、理系の学生さんにとっても難しい内容かもしれないが、今後もできるだけASDのゲノム研究の進展は紹介していくつもりだ。


自閉症の科学 34 : 睡眠障害に対する家庭での対処

2019年11月30日

今月も自閉症スペクトラム(ASD)に関する多くの論文を読んできたのですが、これは重要だと思える論文を見つけることができませんでした。そこで、ASD児を持つ多くの親がおそらく共通に感じていると思われる、睡眠障害を取り上げ、自閉症の治療を目指す米国の団体Autism Speaksが作成した眠りにかんするガイドラインを紹介することにしました。

ASD児の多くは睡眠障害を抱えている

2015年に発行されたSeminars in Pediatric Neurologyに掲載されたZimmermanの総説を読むと(Vol22, Pages 113-125: http://dx.doi.org/10.1016/j.spen.2015.03.006)、ASDの子供を持つ両親のなんと50-80%が、子供の睡眠異常に気づいていることを報告しています。症状ですが、「寝つきが悪く、就寝中なんども起きるので、睡眠時間が短くなる」とまとめられます。

なぜ睡眠障害がおこるのか、様々な仮説に基づいた研究が行われていますが、はっきりしたことはまだまだよくわかっていないと言っていいでしょう。原因がわからないということは、根本的治療はまだ開発できていないということです。このため、現在行えるのは症状に合わせた治療法だけです。例えば米国では重症の子供に対して、睡眠サイクルに関わる脳内物質メラトニンを睡眠前に投与することが行われていますが、おそらくメラトニンが買えない我が国では、薬物を使う治療は一般的ではないと思います。

しかし、睡眠時間が足りないことは、ASDの症状に影響するという報告があります

今年の10月に発表された台湾での6832人の調査研究によると、ゴール達成のために自分の行動や周りの状況を判断し、適切な行動を選ぶ時に必要な実行能力が、睡眠不足により障害されることが示されています(Tsai et al, Psychological Medicine 2019: https://doi.org/10.1017/ S0033291719003271)。

また、比較的症状の軽い7-13歳のASD児についての調査ですが、英国ヨーク大学のグループは、脳波を測る装置を睡眠中に装着してもらって(通常のASD児では寝ている時にこのような検査を行うことは簡単ではありません)睡眠の状態を測るとともに、聞き言葉を判断する検査を行い、ASDの症状の中でも、睡眠、特にREM睡眠の量が言葉の学習効果と相関することを示しています(Victoria et al, Journal of Speech, language, and hearing research 2019: http://eprints.whiterose.ac.uk/149777/ )。

このように、ASDの子供の睡眠時間を少しでも延ばすことは本当に重要です。言い換えると、睡眠が不足することでよりASDの症状が重くなる心配があるのです。ではどうすれば睡眠時間を伸ばせるのでしょうか?もちろん簡単なことではないのですが、家庭でできる方法についてAutism Speaksはうまくまとめてくれているので、以下にまとめてみます。

図1ASD児の睡眠を改善する方法についてAutism Speaksから発行されているパンフレット

1、快適に眠れる環境をつくる

  • 寒すぎず、暑すぎず、外の光がカーテンなどで遮られた、暗い部屋(すこしは薄明かりはあるほうがいい)。
  • ASD児はちょっとした音の変化に敏感なだけでなく、普通なら睡眠を誘うwhite noiseにも敏感なので、兄弟からも離れた静かな部屋で睡眠できるのが望ましい。
  • パジャマを着た時の感触も睡眠に影響するので、タイトなパジャマがいいのかルーズなパジャマかなどいろいろ試してみる。

2、決まった時間に寝起きする習慣をつける

まず、寝る時間と起きる時間をできるだけ守る習慣をつける。そして、寝る前はなるべく身体的な興奮を避け、テレビやゲームをやめて、寝る準備を15-30分かけておこなうようにする(例えば1歳児では15分ぐらい、もう少し大きくなると30分ぐらい。ただあまりに長すぎると逆効果で、準備に1時間もかけるのは間違い)。

3、寝るための準備についてのコツ

パジャマを着る、トイレをすます、手を洗う、歯を磨く、水を飲む、本を読み聞かせる、ベッドに入ると言った寝るまでのセットを決めて、毎日その順番を変えずに、静かに行う習慣をつける。

この時、トイレや手洗いの後のセットは全て寝室で行うようにする。

この順番を絵に描いて部屋に貼って子供にもわかってもらうとより有効。

それぞれの行動の中でどうしても子供が興奮しやすい行動がある場合は、その行動を寝る準備のセットから切り離す方がいい。

4、寝起きの時間を決めることの重要性

決まった時間に寝て、また起きることは大変重要。しかし、子供が成長すると寝る時間は遅くなっていく。しかし、出来るだけ寝起きの時間が1時間以上遅くならないように教える。

子供の習慣にあわせて、親も同じようにできる限り規則正しい生活をおくるよう心がけるのも重要。

昼寝をする場合も、できるだけ決まった時間に取るように心がけ、また可能なら昼寝も同じ寝室で行う。

昼寝の場合は4時までには起こす。十分成長して昼寝が必要なくなったら、昼寝は逆に夜の寝つきを妨げるので避けた方がいい。

規則正しい睡眠にとって、食事の時間が一定していることも重要。夜遅い時間のおやつなどはできるだけ避けるが、炭水化物の多いスナックなどは眠りを誘う効果があるので、ほどほどに使うことはよい。

5、子供が一人で寝られるよう辛抱強く教える

大人も子供も睡眠中に何回も目が覚める。そんな時、普通はまた寝入ってしまうが、一人で寝られない子供は、その度に誰かを頼ることになる。その意味でも、自分一人で寝られるよう教えることは大事。

ではどのように教えればいいのか?

添い寝が必要な子供の場合、自分で寝る習慣がつくには何週間もかかる。まずは添い寝をする時、横に寝るだけでなく、ベッドに座る時間を設けるなど、少しづつパターンを変えてみる。それが成功したら、次は添い寝をやめてベッドの横に椅子を置いて見守るようにする。この間、話しかけたり、見つめたりする時間を減らしながら、椅子を徐々にベッドから離していく。これで様子を見ながら、最初から部屋にいない日を増やしていく。

途中で子供に呼ばれても、部屋にいる時間をできるだけ短くするよう心がける。夜中に起きた場合も、同じようにふるまう。

図2 一人で寝る習慣をつける時に使うクーポン(Autism Speaksのパンフレットより)

成長した子供の場合、就寝中に両親に何かしてもらう時には、図のようなクーポンを使うのも一案。寝る前にこのクーポンを何枚か渡して、夜中に親を呼んだり、抱いてもらったり、親に頼った場合は親にクーポンを返すようにさせる。もしクーポンを使わなかったら、朝に褒美が貰えるようにして、徐々にクーポンを使わず一人で寝る習慣をつける (このようなクーポンも使ったASD児の睡眠プログラムの効果を確かめる、科学的な臨床治験がカナダで進められています(Papadopoulos et al, BMJ Open 2019: doi:10.1136/ bmjopen-2019-029767 )。

6、日中も夜の睡眠を考えて行動する。

睡眠に最も効果が高い行動は日中の運動で、もし学校では運動が足りないと感じたら、家に帰った後も運動するよう指導する。ただ、就寝前の運動は興奮して逆効果になるので、少なくとも身体的運動は睡眠の2−3時間前にはやめるよう教える。

コーヒーやお茶だけでなく、ソーダやチョコレートにもカフェインが入っており、食べた後3−5時間効果を発揮するので、夜はカフェイン入りの食べ物は口にしないよう指導する。

7、兄弟姉妹への影響

一般的に、規則正しい生活を一緒に続けることは、典型児の兄弟姉妹にとってもいい影響がある。また、ASD児の兄弟のために何ができるのか一緒に考えさせることも重要で、できるだけ多くの時間を一緒に過ごした上で、それぞれが就寝しやすい環境を探ることが重要。

以上、私なりに脚色して書いています。同じことが日本の住環境で十分可能かどうか、様々な工夫が必要だと思いますが、ぜひ参考にして自分の家族用のプログラムを作ってください。オリジナルの文章はAutism Speaksのホームページよりダウンロードできます(https://www.autismspeaks.org/tool-kit/atnair-p-strategies-improve-sleep-children-autism)。英語もわかりやすく書かれていますので、Google翻訳なども使いながらぜひ読んで欲しいと思っています。