脳の体積は脳室近くに存在する幹細胞がまず水平に分裂し、その後この幹細胞から作られた分化細胞が垂直に移動して分化細胞が縦に並んだ皮質を形成することがわかっている。このことを考慮すると、上に述べた研究は自閉症では神経幹細胞の増殖が余分に続き、その結果皮質表面が拡大し、脳体積が増大することを強く示唆している。
今日紹介するノースカロライナ大学を中心とする米国・カナダ合同チームからの論文は自閉症リスクの高い子供の脳を6、12、24ヶ月時にMRIで撮影、実際に自閉症を発症した子供と、発症しなかった子供の脳の構造変化を比べた論文で、脳構造の変化から上記の論文の結論を確認した画期的な研究だといえる。タイトルは「Early brain development in infants at high risk for autism spectrum disorder (自閉症スペクトラムのリスクの高い児童の脳発達)」で、2月16日号のNatureに掲載された。
この研究では米国、カナダの4センターで個別に、自閉症を発症した兄弟を持つ高リスク乳児318人、及び兄弟・親戚に自閉症発症が見られない低リスク乳児117人をそれぞれリクルートし、6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月齢時点で、自然睡眠時のMRI検査を行うとともに、自閉症診断基準ADOS-WPによる診断と、社会性についての診断基準(CSBS-DP)による検査を行っている。
乳児のMRI検査で完全なデータを採取するのは難しいため、最終的に高リスクグループ106人、低リスクグループ42人が全プロトコルを終了している。24ヶ月時点のADOS-WPによる自閉症は高リスクグループのみで15人診断されている。実に13%の発症率で、自閉症に強い遺伝性が認められることがわかる。
こうして得られた高リスク・自閉症発症群(一群)、高リスク・自閉症非発症群(二群)、低リスク・自閉症非発症群(三群)のMRI画像を比べ、
1) 6ヶ月の脳体積は各群で大きな違いはないが、12ヶ月にかけて1群のみで脳体積の著名な増加が認められること、
2) 皮質の厚さについては各群で差がないこと、
3) 全体積の増大は、両側の後頭回、右側楔状葉、そして右側舌状回の表面積の増大の結果であること、
4) 脳体積の増大の程度は、ADOS-WP及びCSBS-DPで測定したスコアと強く相関すること。
を明らかにしている。
最後に、これらのデータをコンピュータに学習させ、最終的に6ヶ月と12ヶ月のMRI検査により、81%の確率で高リスク群の自閉症発症を予測できること、及び97%の確率で自閉症でないと診断できることを示している。
この結果は、細胞レベルでわかってきた神経幹細胞の増殖が自閉症では持続するという結果と一致するだけでなく、この変化が生後6−12ヶ月の発達期に起こることを示した点で画期的だと思う。さらに、MRI検査で異常が起こる6ヶ月時に診断できる可能性も示唆しており、早期介入による治療に道を開いた。実際、細胞レベルの研究ではIGF-1により増殖を抑える可能性が示唆されており、6ヶ月齢で100%近い診断が可能になれば、介入治験が行われる可能性も出てきた。また、皮質の拡大が著明な部分は感覚に関わる場所が多く、子供の感覚をコントロールする介入も可能かもしれない。