AASJホームページ > 新着情報 > 自閉症の科学(連載) > 自閉症の科学53回 自閉症と母親の炎症性腸疾患(6月2日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

自閉症の科学53回 自閉症と母親の炎症性腸疾患(6月2日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2022年6月14日

だいぶ間が開いてしまったが、自閉症の科学として紹介したい論文が溜まってきたので、連続で紹介したいと思っている。

最初は、6月2日 Nature Medicine にオンライン掲載された、炎症性腸疾患(IBD)と自閉症の関係について調べた英国ブリストル大学からの論文だ。

多くの方は「IBDと自閉症?どんな関係があるの?」とその取り合わせを不思議に思われるのではと思う。ところが、両者の関係はこれまで何度も議論の的になっており、なんと捏造スキャンダルまで発生しているのだ。

1998年臨床のトップジャーナルThe Lancet に、麻疹ワクチン接種により、回腸の炎症性疾患と自閉症が合併して誘導されるとする論文が発表された。しかも記者会見まで行いこの論文が大々的に宣伝された結果、当時英国で麻疹ワクチン拒否がおこり、接種率が5割に低下、その結果多くの児童が麻疹にかかり、死者が出た。

これだけなら、リスクとベネフィット問題で終わるのだが、その後一人のジャーナリストの執念により、この論文が全くの捏造であることが明らかになり、12年を経てThe Lancetもようやく論文を取り下げることになる。

おそらく自閉症と炎症性腸疾患が簡単に結び付けられる要因の一つは、自閉症児に慢性の便秘や下痢が高頻度に見られること(https://aasj.jp/news/watch/6791)だが、これ以外にも統計的解析から、自閉症児は典型児より5割多くクローン病になりやすく、潰瘍性大腸炎に至ってはほぼ2倍なりやすいという報告が発表されている。

この原因については、自閉症に関わる遺伝子の中にIBD発症とリンケージする遺伝子があるとする考え方と、母親の持つIBD(当然子供も同じゲノムを受け継ぐが)が、妊娠期から授乳期にかけての子供の発達に影響を及して、独立に子供の自閉症発症を助けるという考えが提唱されてきた。ただ、どうしても調べる対象の数が少なく、はっきりとした結論を得るまでには至っていない。

これに対し、自閉症についての情報も含まれている、現在得られる最も大規模なデータベースを駆使してこの問題を解こうとしたのが、今日紹介する英国ブリストル大学からの論文で、6月2日Nature Medicine に掲載された(下図)。

この研究では自閉症の、1)自閉症の親がIBDと診断される頻度、2)IBDと自閉症と相関するゲノム多形のリンケージ、3)母親のIBD発症に相関する遺伝子多形と、子供の自閉症発症に関わる遺伝子多形の相関、などが調べられている。2)、3)は、要するにIBD と自閉症に関わる共通の遺伝子があるかについての検討と言っていいだろう。

スウェーデン人大規模家族調査、50万人UK バイオバンク、AVON大規模親子コホートなどのビッグデータをもとに、私も理解が難しいビッグデータ処理法を用いた研究なので、詳細は全てすっ飛ばして、結論だけをまとめると、

  • 親のIBD、特に母親がIBDと診断される場合、子供に自閉症が発症する率はオッズ比で1.32倍で、明らかな相関がある。
  • 一方、自閉症とIBDのリスク遺伝子が、リンケージや相関している可能性はほとんどない。

となる。すなわち、ゲノムから見た時IBDと自閉症は全く独立した状態だが、しかし母親のIBDは妊娠中、あるいは乳児期の幼児の脳発達に影響する可能性が高いという結論だ。

おそらくIBDに限らず、妊娠中の母親の炎症は胎児の脳発達に影響すると考えられるので、妊娠を希望する場合は、歯周病も含めできるだけ炎症の元を遮断する必要がある。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

*