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自閉症の科学22 自閉症と表情

2019年8月25日
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今年も毎月1回をノルマに、「自閉症の科学」と題して、最新の自閉症研究を紹介したいと思っている。自閉症研究といっても、ゲノム、動物モデル、脳科学、行動学、心理学、そして臨床医学まで極めて幅広い。そのため、脳科学やゲノムとなると、よほどの専門家でないとよく理解できないと言われてしまうだろう。それでも、分野を問わずいい研究は紹介していくつもりだ。というのも、自閉症は私たち人間を理解する鏡であると共に、今後多くの治療法が開発できると予想できる分野だからだ。是非今年も期待してほしい。

今年最初は、それでも大変わかりやすい論文紹介から始めたいと思う。

表情は言葉やジェスチャーと並んで、私たちの重要なコミュニケーション手段だ。当然社会性や他人との関係に障害を持つ自閉症スペクトラム(ASD)の人たちは、表情による表現に何らかの問題を持っているのではと直感できる。実際、ASDの様々な表情を典型人と比べた論文が多く出版されている。ただ違いがあるとわかっても、表情の評価は簡単でなく、方法論がバラバラのため、そのまま表情を客観的な指標として診療や治療に使うことは難しい。

さてこんなとき研究者はメタアナリシスという方法を用いて、多くの論文から客観的指標を探し出そうとする。今回は、この自閉症スペクトラムの表情についての多くの文献をもう一度まとめ直したメタアナリシス論文を取り上げる。カナダ、シモンフレーザー大学からの論文で、昨年のAutism Research12月号に掲載された(Trevisan et al, Facial Expression Production in Autism: A Meta-Analysis (自閉症での顔の表情の表現:メタアナリシス)Autism Research 11: 1586, 2018)。

論文のメタアナリシスでは、様々なキーワードをもとに多くの論文を集め、その中から著者の視点でデータを抜き出し、そのデータをもとに様々な問題を解決しようとする方法だ。「オリジナルなデータを集めないとは邪道だ」と敬遠する向きもあると思うが、異なる視点で集められたここの論文データを改めて見直すことは重要で、特に臨床現場では必要な手法だと思う。さらに最近では、ウェッブ上に多くのゲノムデータが蓄積されてきているので、これらのデータを集めて計算し直す、メタゲノム論文も多く見受けられるようになった。臨床研究に関わっている若者に講義をするときは、いつもぜひトライして欲しい方法だと強調している。

ちょっと脱線したが、この研究では1967年からの自閉症と表情に関する研究論文1309編から、安心して使えるデータを利用できる論文37編を拾い出し、これらの論文を自分の目でまとめ直している.以下に述べるように結論は単純だが、実際にはそれぞれの論文で使われている概念を統一し直し、研究の仕方をカテゴリー化し、最終的に同じ土俵で比べられるようにする作業は大変で、十分オリジナリティーの高い研究だと私は思う。

この努力の結果を箇条書きにすると以下のようになる。

1) まず、ASDと典型的な人の間には、質的にはっきりした差が認められる。ただし、急な感情的刺激に対する反応の強さや速さなどには差が認められない。

2) 質的な差異についてみると、自然に振舞っている時、ぎごちないとか機械的などと記述できる表情を示すことが多い。また特定の表情を意図的に作ることは苦手だ。

3) 社会的な慣習に従って表情を作る(例えばみんなでお祝いの意を示す)のはうまくなく、また他の人に合わせて表情を作るのも困難を伴う。

4) 一般的に、自然に出てくる表情の差の方が、何かに反応して出てくる時の差よりも大きい。

5) 表情の差は、年齢を重ね、知的に成長することで解消に向かう。

これらの結果から、ASDの表情の変化は、社会性や他人とのコミュニケーションの問題をそのまま反映する窓になると結論している。至極当たり前の結論で、わざわざ研究する必要もないのではと思われるかもしれない。しかし表情をより客観的な指標で評価することで、画像解析や、ほかの生物学的検査との相関研究も可能になる。その上で、より個人に即した記述を重ね、脳の多様性の背景を知り、アレキシサイミアとして知られる感情認知障害の理解にも大きな貢献ができると締めくくっている。

表情を調べることでも自閉症の理解にどれほど重要かがわかっていただけたのではないだろうか。今年もできるだけ多くの研究を紹介したい。

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