我が国での普及は5%に達していないと思うが、閉経による様々な症状を、エストロジェン、あるいはエストロジェン+プロゲステロンのホルモン補充によって治療するホルモン補充療法(MHT)は、欧米で広く普及している。自覚症状だけでなく、動脈硬化、骨粗鬆症、肌の老化などが防げ、気持ちも前向きになるなど、いいことづくめに思えるが、ホルモンを補充することで乳ガンの発症リスクがあるという指摘がなされた。
今日紹介する英国を中心とする国際共同チームが英国の医学誌The Lancetに発表した論文は、MHTの乳ガンリスクについてのほぼ決定版と言える論文で、閉経後乳がんを発症した約10万人の患者さんについての調査研究だ(The Lancet: http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(19)31709-X)。
結論だけをまとめると、MHTは間違いなく乳ガンのリスクを高める。特に、エストロジェンにプロゲステロンを加える治療法はさらにリスクを高める。
様々な統計数値が計算で示されているが、最も分かりやすい例だけ説明すると、
- 毎日プロゲステロンを服用するMHTを5年以上続けた場合、20年後に乳がんを発症する率は、MHTを受けない場合の6.3%から8.3%に上昇する(すなわち100人あたり2人多く発症する)。
- 一方、エストロジェンのみのMHTの場合、リスクは上昇するが6.3%から6.8%に増加が止まる。
- 10年以上MHTを続けると同じ条件でのリスクは倍加する。
以上が結果で、まず間違いなく乳ガンリスクは高まると言っていいだろう。
ただこれは全て欧米での調査結果で、これをそのまま日本人のリスクに当てはめられるかどうかわからない。
またMHTの多面的な効果はすでに実証されており、乳ガンリスクを理解した上で、MHTを続ける意義は十分ある。今後この治療を説明するために重要な統計は、MHTを受けた場合の疾患を問わない生存率で、これがわかれば更年期の女性も自分でMHTを受けるかどうか、十分考えて決断することができる様になるのではないだろうか。
乳がんの約70%を占める ERα陽性乳がんは遺伝子レベルの異常によって
luminal-A:ERα陽性で、PgRが陽性、Her2が陰性
luminal-B:ERαが陽性で、PgR+Her2が陰性 に分類されているそうです。
エストロゲン受容体:ERα、プロゲステロン受容体:PgR、がん細胞表面にある:Her2R
乳癌で、治療方針決定や予後予測等で需要なようです。
今回の論文報告:エストロゲンやプロゲステロンのホルモン追加療法が乳腺細胞の分裂増殖に影響を与える可能性は十分考えられると思います。