3月29日 最近報告された気になるCovid-19 論文
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3月29日 最近報告された気になるCovid-19 論文

2022年3月29日

読んだあと、論文ウォッチで紹介するのはスキップという論文の中で、それでも気になる最近のCovid-19関係の論文をまとめて紹介しておく。

  • オミクロンBA.2に使えるmAb

我が国でもオミクロン株の中でも、BA2と呼ばれる新しい株の感染が増えてきているようだが、パリ大学が3月23日Nature Medicineにオンライン発表した論文(上図)は、現在臨床に使われている9種類のモノクローナル抗体薬の、オミクロンBA1、BA2に対する効果を調べたタイムリーな研究だ。

現在我が国でオミクロンに対するスタンダードになっているソトロビマブはBA1には効果があるが、驚くことにBA2には全く効果がない。逆に、オミクロンには効かないとされていたアストラゼネカ社のCilgavimabはデルタ株に対するのと同等の効果を示す。

 これまで個人的には、ソトロビマブで決まりかと思っていたが、どっこいそうはいかなかった。今後、いくつかの抗体を用意して、新しい株に対してはその都度効果がある抗体を探すことが必要になる。実際、オミクロンには効果がないとされたリジェネロンのImdevimabは一定程度の効果が期待できる。厚労省はこのような状況に対応できるだろうか。

  • 新しいレムデシビル投与法

抗体治療がダメでも幸い、モルヌピラビル、パクスロビドなど、SARS-CoV2(CoV2)の活動を抑える薬剤が開発され、我が国からもシオノギのS217622が承認申請中で、抗体薬以外の治療法が確立してきている。これをうまく使っていくためには、インフルエンザ並みに患者さんが開業医さんに直接受診できるようにする必要があると思う。

当然多くの会社が同じ方向に動いているが、Covid-19の抗ウイルス薬として実績のあるレムデシビルも、中等症の患者だけでなく、家庭でも利用できる方法の開発へ舵を切っている。

一つの方向は、レムデシビルをそのまま吸入する治療法で、薬剤を開発したLovelaceとGilead Scienceはサルを用いた感染実験で、レムデシビル吸入薬の方が、静脈注射より十分の一の濃度で気道や肺のウイルス量を抑える効果があることを示している。(2月23日号Science Translational Research:上図)

レムデシビルを初期治療に使えるようにするもう一つの方向が、経口摂取可能なように分子構造を修飾する方法だ。ノースカロライナ大学とGilead Scienceのグループが、3月22日号Science Translational ResearchにGS-621763という化合物が、マウスの感染実験で有効であることを示している。

結果を一言で表すと、マウスの感染モデルでは、モルヌピラビルより高い効果を示すと言える。ただ、マウス段階なので、臨床応用にはまだ時間がかかるように感じる。しかし、Gilead Science もなんとか初期治療に割って入ろうと力を入れているのがわかる。

レムデシビルもモルヌピラビルも、コロナウイルス以外にも利用できるので、Covid-19に間に合わなくても十分勝算はあるのだろう。

  • TMPRSS2阻害ペプチドの吸入治療

Covid-19感染がパンデミックになり始めた2020年2月に、ドイツ・ゲッティンゲンのドイツ類人猿研究所のグループがCoV2感染時のウイルス膜とホスト細胞の融合にTMPRSS2と呼ばれるセリンプロテアーゼが必要で、我が国で開発されたカモスタットが感染を抑えることをCellに発表した(https://aasj.jp/news/lifescience-easily/12537)。残念ながらその後の治験で、カモスタットが感染者の治療には有効性なしと結論されたが、TMPRSS2阻害分子の吸入であれば効果が見られるのではと考え、新しいペプチド阻害剤を開発した論文がカナダ・ブリティッシュコロンビア大学などから3月28日Nature にオンライン発表された。

TMPRSS2の機能をナノモルレベルで阻害し、試験管内でカモスタットより効果が高い3つのアミノ酸がつながった分子を開発し、マウスの感染実験系で、感染1日前から鼻腔に投与すると、肺炎の発症を強く抑制できることを示している。しかし、感染後の投与では12時間後の投与で、効果が低下するので、一般臨床で使えるかどうかは疑問がある。ひょっとしたらカモスタットでも、予防的吸入であれば効果があるかもしれない。

  • 強い光で肺炎の重症化を防げる?(付録)

最後はCovid-19に関する論文ではないが、ひょっとしたら治療に利用可能かもしれないというコロラド大学が3月10日American Journal of Physiology にオンライン発表した論文だ。

まず全てマウスの実験であることを断っておく。この研究ではマウスを強い光が当たる部屋で1週間飼育すると、肺の2型上皮細胞で時計遺伝子の一つPer2の発現を誘導することができ、この転写因子が緑膿菌感染とそれによる肺炎を抑えることができることを示している。これがウイルス感染症に当てはまるかはわからないが、まずマウスCovid-19感染モデルで確かめてほしい。

臨床のトップジャーナルに掲載された、新型コロナウイルスに関する気になるニュース

2022年2月4日

我が国のメディアにあふれるCovid-19ニュースは、これまで経験したことのない様々な社会現象を生み出している。おそらく多くの社会学者によりこれらの現象が分析されることで、日本の社会や文化について、新しい理解が生まれることだろう。

ただ一般メディアだけでなく、科学雑誌にもCovid-19についての科学論文以外の記事や意見が掲載されている。一応、科学ジャーナルというブランドがあることと、読んでみると結構面白いので、今回3つ紹介してみることにした。ただこれらは一般メディアと同じ意見や記事の扱いなので、そのつもりで読んでほしい。

まず治療薬だが、ようやく新型コロナウイルスの分子に特異的な薬剤、ファイザーのパクスロビドが認可された。この薬剤は昨年11月にScienceに紹介され(図)、PCR診断後3日までに服用すると、偽薬の場合27/385(7%)が入院したのに対し、3/389(0.8%)しか入院する必要がなかったという輝かしい結果を報告している。

この薬剤は先月承認申請がなされ、2月厚労省と購入契約が締結したと言うことで、自宅でも可能な治療手段がそろってきたという実感がある。パクスロビド報道で投与される薬剤の写真が掲載されているが(例えば朝日新聞:https://www.asahi.com/articles/photo/AS20211217000659.html)、おそらく多くの方が少し違和感をもたれたのではと思う。すなわち、一回分のパッケージに二錠のピンクの錠剤とともに、白い錠剤がセットになっている点だ。この白い錠剤はリトナビルで、服用したパクスロビドが腸や肝臓で壊されないよう、薬物代謝酵素CYP3A4分子をブロックする作用を持っている。

もちろん投与量は安全性を確保した上で決められているのだが、この両剤併用に対して、一定のリスクを認識すべきだという英国NHSの研究者を中心とする意見が、1月1日Lancetに掲載された。

内容だが、この併用戦略は、HIVにも使われており安全だが、使用に当たってはいくつか留意点があり、禁忌も含めて使用ガイドラインを明確に示すことが必要であることを強調している。

私も全く知らなかったのだが、この薬剤がCYP3A4だけでなく他の薬剤代謝酵素を阻害すること、逆にリトナビルで誘導される薬剤代謝酵素が存在することは重要だ。このため、他の薬剤(スタチン、ステロイド、精神安定剤、抗凝固剤、抗不整脈剤)を服用中の患者さんの治療は、他の薬剤(例えば作用機序の異なるモルヌピラビルや、あと少ししたら認可申請が行われる期待する塩野義のプロテアーゼ阻害剤)から始めた方がいい。今のように、医療が混乱しているときは、医師だけに周知させるだけではなく、一般の人にもこのような情報を提供し、自分でも注意してもらうことが必要な気がする。

次は世界中で議論の的になっている薬剤、イベルメクチンについてのニュースだ。もちろんこのニュースを紹介して、論争を蒸し返そうとなどと毛頭思っていない。結論は、我が国でも進んでいる治験結果が出てから判断すればいいことだ。ただ、米国でイベルメクチンが使用され、医療保険が支払われていたケースがあると知って驚いた。

米国医師会雑誌JAMAに掲載されたResearch Letterに結果が書かれている。2020年12月から、2021年3月に申請された米国の医療保険請求の中から、イベルメクチン処方の数と、そのうち請求が通った数を調べている。ちなみに、FDAは未だイベルメクチンを認可はしていない。

この調査から、米国ではCovid-19の治療は普通の保険診療の枠で行われているようだ。全体で5939のイベルメクチン処方に対する請求が出ており、支出額のうち、個人保険で61%、メディケアで74%が支払われている。著者らは、これが米国の無駄な医療費の例として糾弾しているのだが、イベルメクチンが世界中で議論の的になっていることはよく分かるレポートだ。

最後は、The New England Journal of Medicineに掲載された、Covid-19症状の多様性についての一つの考え方だ。

Covid-19の病状を決める大きなファクターは、ウイルスに対する抗体産生反応であることは間違いない。このとき、体内で誘導されてきた抗体がウイルスに結合して感染を予防するだけでなく、ADEと呼ばれる感染を助ける働きを持つ可能性についても、ワクチンへの懸念として議論されたことがあった。

この意見論文では、スパイクに対する抗体が誘導されるときもう一つの問題が起こる可能性、すなわち抗イディオタイプ抗体による、ACE2機能阻害、あるいは促進の可能性について意見を述べている。専門家でも、イディオタイプと聞いて覚えられている人は多くないと思うが、かくいう私も留学中はこの領域で研究を行っていた。

抗体はそれぞれ対応する抗原に結合する。このために抗体の抗原結合部分はそれぞれ異なるアミノ酸配列を持っており、自己分子(生まれついて持っている)とは言えなくなる。実際、抗体の抗原結合部分(これをイディオタイプと呼んでいるのだが)に対する抗体を実験的に誘導することが出来る。さらに個体の中に自然に誘導されることも観察されている。

ここで図を見てもらおう。Covid-19感染で重要なのはウイルスのスパイクと、ホストのACE2分子に対する反応だ。この反応を阻害しようと、感染やワクチンで両者の結合を阻害する抗体ができる。これが中和抗体だ。

さて、スパイクに対する抗体、特にスパイクとACE2の結合を阻害する中和抗体が誘導されると、この中和抗体に対して抗体が誘導されることもあり得る。このスパイク抗体に対する抗体、すなわち抗イディオタイプ抗体は、スパイクのACE2結合部位を阻害する抗体に対して誘導されたため、スパイクのACE2結合部位と構造的に似る可能性がある。すなわち、スパイク自身と似た結合活性を持つ可能性がある。これが起こると、ウイルスが除去されても、この抗イディオタイプ抗体がACE2に結合して、機能を促進したり、阻害したりする可能性が示されている。

ワクチンも、感染とは関係なく中和抗体を誘導することなので、これに対する抗イディオタイプ抗体を誘導し、これがACE2に結合してその本来の機能を変化させることも考えられる。ACE2はACEに拮抗し、血管保護に働いているので、感染後やワクチン接種後の血管障害の原因になる可能性があるというわけだ。

取り越し苦労ではないかと思うが、このようにあらゆる可能性を述べる自由な環境があることが、Covid-19との戦いを支えている。

12月5日 怒りは卒中を呼ぶ:小ネタ (12月1日 European Heart Journal 掲載論文)

2021年12月5日

怒りの感情がこみ上げると、血圧が高まって、下手をすると卒中に陥ると誰もが思っている。しかし、それが本当かどうか結論するには科学的な手続きが必要だが、この課題に真面目に取り組んでくれる医師はそんなに多くない。

今日紹介するカナダ・マクマスター大学からの論文は、卒中に関する大規模研究で、対象者に丹念な聞き取り調査を行い、卒中と感情的興奮や怒り、あるいは強い運動との関係を統計的に調べた研究で12月1日、European Heart Journal に掲載された。論文URL:(https://academic.oup.com/eurheartj/advance-article-abstract/doi/10.1093/eurheartj/ehab738/6447061?redirectedFrom=fulltext).

1万3千人あまりの心臓および脳卒中の患者さんに丹念な聞き取り調査を行い、発症前一時間以内に経験した、1)強いエクササイズ、あるいは 2)強い感情的動揺や怒り、の卒中確率への影響を、オッズ比を計算している。

結果はウェッブで見ることが出来るので見ながら読んで欲しい(https://academic.oup.com/view-large/figure/316602638/ehab738f4.tif)。

まず怒りや感情的動揺は、卒中をオッズ比で1.3まで引き上げる。特に、脳出血については確率が2倍に上がる。

一方、強いエクササイズは、脳出血のオッズ比を1.5に引き上げるが、ほとんど影響はないと言える。

すなわち、予想通り怒りや動揺は、卒中の危険を高めるという通説は証明された。

4月28日 新型コロナウイルス感染は、妊婦さんに対してどれだけ危険か?(JAMA Pediatrics 4月22日号掲載論文)

2021年4月28日

少なくとも関西では、遅れるワクチン接種を嘲笑うかのように、新型コロナウイルスが猛威を奮い続けている。大阪ではなんと自宅待機者が1万人を超えているということで、当然家族内の伝播は必至だ。しかも今回のタイプは子供にも同じように感染するとなると、新しいフェーズに入ったと言えるのかもしれない。

この状況を見て心配になるのは、様々な弱者への感染拡大だ。そこで、今日は妊婦さんへのCovid-19感染の問題、明日は自閉症児のマスク着用の問題について、急遽論文を紹介することにした。

今日紹介するオックスフォード大学を中心とする10カ国以上の病院が集まった国際チームからの論文は、各国でCovid-19に感染した妊婦さんと胎児の経過を、非感染の妊婦さんと比べて、感染が及ぼす妊婦さんと胎児への影響を調べた研究で、4月22日号のJAMA Pediatricsに掲載された。タイトルは「Maternal and Neonatal Morbidity and Mortality Among Pregnant Women With and Without COVID-19 Infection The INTERCOVID Multinational Cohort Study (Covid-19感染の妊婦さんや胎児の合併症や死亡率に及ぼす影響を非感染妊婦さんと比べる:Intercovid 多国間コホート研究)」だ。

なぜ最初にこの論文を取り上げることにしたかというと、昨年6月、このHPで「新型コロナ感染と出産」というタイトルで、いくつかの論文を紹介し(https://aasj.jp/news/lifescience-easily/13331)、

  • 妊娠しても感染リスクが上がることはない、
  • 感染により胎児の発生異常が生じる確率はほとんどない、
  • 母親から胎児への感染はない、

とまとめておいた。

そのまま読むと、感染しないに越したことはないが、間違って感染してもクヨクヨすることはないという結論になる。

ところが、今日紹介する論文は、ほぼ1年の経験を経て、もう少し深刻な結果になっているので、注意を促す必要があると感じ、緊急で取り上げた。

この研究では、706人のCovid-19に感染した妊婦さんと、条件を合わせた1424人の非感染の妊婦さんを、妊娠期間、出産入院、退院まで追跡、その間に見られた様々な合併症、死亡率などを、妊婦さんおよび胎児について調べている。

結果は深刻で、Covid-19感染により、

  • 妊娠による子癇リスクが1.76倍に上昇する。
  • 妊婦さんの妊娠中の死亡率(当然Covid-19によるものも含まれる)が22倍に上昇する。
  • 早産のリスクが1.59倍に上昇する。
  • 低体重児のリスクが1.58倍に上昇する。
  • 新生児の重症合併症リスクが2.66倍に上昇する。
  • 新生児死亡率が2.14倍に上昇する。
  • 13%で子供への感染が見られる。特に帝王切開児でリスクが高い。幸い、母乳からの感染はほとんど認められない。

以上、1年を経過して、Covid-19の妊娠経過への強い影響が示されたので急遽紹介した。

重症化はともかく、新しい変異型ウイルスの感染性は間違い無く高いので、妊婦さんは緊急事態宣言の有無にかかわらず、感染しないためのあらゆる努力を払って欲しいと思う。混乱するだけかもしれないが、将来を担う子供を考えると、妊婦さんもワクチンの優先接種対象にしてもいいぐらいだ。

4月23日 Covid-19ワクチンの副反応1: mRNAワクチン接種によるアナフィラキシーに関する問診(米国アレルギー、喘息、免疫アカデミーからの勧告)

2021年4月23日

今日の論文ウォッチはあまりにマニアックだったので(https://aasj.jp/news/watch/15431)、Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practiceに掲載された、米国アレルギー、喘息、免疫アカデミーが発表したCovid-19ワクチン接種時の問診についての勧告をエクストラで紹介することにした。

この勧告を読んでいると、先手先手を打つことの重要性がよくわかる。現在、米国ではなんと1日200万人のワクチン接種が行われている様だが、これがバイデン新政権とかぶって、政治のリーダーシップの重要性が印象づけられる。

一方、我が国では、来週から3回目の緊急事態宣言だ。必要なら緊急事態宣言を発することは当然のことだが、この事態に対応する準備が1年前と全く異なっていないことに驚かされる。なぜ1万人以下の感染者で医療崩壊が起こるのか、聞こえるのは言い訳と責任転嫁ばかりで、政治も行政も無能を曝け出している。しかも、医療崩壊目前になって初めてアクションを起こすと言う体たらくだ。

この無能をカバーできるのはワクチンだけだと思い知った様だが、最初の頃「我が国の感染者は少ない」、「ワクチン開発には10年かかる」「国産が安全」「他国の様子を見てからで良い」などと、間違った意見を耳にした結果の初動の遅れで、今になってもワクチンが足りず、医療従事者すらまだ接種が終わっていないという有様だ。実際には、ウイルスゲノムが発表された1月10日の遺伝子配列を参考に、1月14日にはモデルナは人に接種できるワクチンを用意していた。

最近白井聡さんの「主権者のいない国」を読んだが、そこで述べられていた、我が国の政治家にとっても、また彼らを選んでいる国民にとっても、「向き合うべき社会が存在しない」、という観点はコロナ問題で露呈した我が国の問題をうまく説明していると首肯する。

呆れて非難する気も失せるが、なんと連休はしっかり休んでから接種スタートと言う悠長な話とはいえ、ともかく一般へのワクチン接種はようやく始まる。この時、ファイザーであれ、アストラゼネカであれ、問題は以前紹介したアナフィラキシー副反応だ(https://aasj.jp/news/watch/14641)(アデノウイルスワクチンによる血栓は接種時の問題ではない)。

これに対応するため、現場で問診をしながらワクチンを打つと言う話を聞くが、おそらく時間だけかかって混乱するだろう。前回紹介した同じ米国アカデミーからの勧告では、4つの質問、

  1. 以前注射を受けた時強いアレルギー反応が起こらなかったか?
  2. ワクチン接種でアレルギー反応が起こった経験はないか?
  3. 食べ物、ハチ刺され、ラテックスに対してアレルギー反応を起こしたことがあるか?
  4. PEGやPolysorbateを含む注射に対するアレルギー反応の経験はあるか?

を予め読んでおいてもらって、質問4がyesでなければそのまま接種、yesの場合も30分経過観察で良いとしている。

今回はその後の経験を通した改訂版になるが、我が国でも見られた医療従事者にアナフィラキシーが多いと言う結果を考慮して作られたバージョンになる。

まず、アナフィラキシーの経験があるか(質問1)を聞いて、Noであれば文句なく何も聞かずに接種。

次に、あると答えた人には、ワクチンに関連するアナフィラキシーの危険がある具体的抗原を提示する

1、ポリソルベート80、2、ポリエチレングリコール、3、ポリエチレングリコール入りワクチン(mRNAワクチン)、そして4)ポリエチレングリコール入り経口剤(便秘に用いるミララックス)、

(質問2)。

この質問に対し、ポリソルベート80に反応したと自分で特定できる人は、これが含まれていないmRNA ワクチンへ誘導する。とくに、この分子に対する反応を繰り返した病歴がある場合は医師に相談。いずれにせよ接種すると決めれば30分経過観察。

ポリエチレングリコールが含まれる製品に反応した経験がある場合(例えば1回目のmRNAワクチンに反応した人)、米国の場合ヤンセン(我が国ではアストラゼネカなど)といったポリエチレングリコールを含まないワクチンに回し、30分の経過観察。

最後にポリソルベートにも、ポリエチレングリコールにも反応した場合は、医師に相談する。ただ医師に相談した場合も、ワクチンのベネフィットは大きいので、接種の方向で考えると言う勧告だ。

医療関係者ならともかく、一般の高齢者にこのような質問は混乱を招くだけではないかと心配はあるが、ポリエチレングリコールやポリソルベートが含まれている製品は多いわけではないので、日本人の民度であれば自己判断する工夫はあるように思える。

いずれにせよ、接種の基準をきめる我が国のガイドラインも必ずできているはずで、この様な新しいガイドラインも参考にして、安全かつ迅速に、mass shootingをすすめることで、政治家や一般市民ですら向き合うべき社会を失った我が国でも、医学会には「向き合うべき社会は存在する」と胸を張って言ってほしい。

新型コロナウイルスに対するスウェーデンのギャンブルの影(10月9日 Nature Communication オンライン掲載論文)

2020年10月15日

今回の新型コロナウイルス・パンデミックでは、メディアやSNSを舞台に、医師や科学者たちの様々な議論が飛び交い、現在もマスクやPCRについての議論が続いている。しかし、この議論から本当に新しいコンセンサスが生まれるかどうかは疑問で、例えばBMJ Global Health に発表された南カリフォルニア大学からの論文では、CNNを贔屓にするアメリカ人は、Foxニュースを贔屓にするアメリカ人よりマスクを着用し、手洗いも頻回にすることが示されている。すなわちこれらの問題に関する考え方が、米国の大統領選挙では政治的立場の象徴として国民を二分している。

私個人の意見を問われれば、最終的に何が正しいかどうかきめるためには、皆が合意できる科学的エビデンスが必要だが、それがはっきりしない以上、原理的に良いと思われることはその効果に限界があっても、なんでもやればいいと思っている。例えばウイルス感染は確率問題で、それぞれの地域に存在するウイルスの流通量により、感染確率や感染時のウイルス暴露量が影響される。とすると、自分の感染は予防できなくとも、他の人にうつさないという点で、私の飛沫の一滴でもマスクで吸収できれば(実際にはもっと多く吸収できる)流通ウイルス量の減少に貢献できると思っている。PCRも同じで、連日検査を受けていた(実際には簡易検査だったようだが)トランプが感染してしまったとしても、確定診断の方法がない以上、希望者にはいつでも検査ができるようにするしかないと思う。要するに、いいと思えることはなんでもやればいい。

同じことは、政策レベルの判断でも言える。よく言及されるのが、スウェーデンと他のヨーロッパ諸国の比較だろう。最新号のScienceにコレスポンデントの一人Gretchen Vogelが「Sweden’s Gamble」という記事を発表した。

皆さんもご存知のように、スウェーデンは新型コロナに対して、他のヨーロッパ諸国のようにロックダウンなどの過激な感染防御措置をとらずに、個人の自主性に任せる政策を貫いた。図はSTATISTAと呼ばれるサイトから転載したスウェーデンの感染者数の変移だが(https://www.statista.com/statistics/1102193/coronavirus-cases-development-in-sweden/

ロックダウンなど厳しい措置を取ったヨーロッパ各国と比べて、感染者が一方的に増えたわけではなく、第一波、第二波と同じような経過をとっている。強いていえば我が国のパターンに近い。ある意味でロックダウン政策の無力を示すことになるが、この政策は本当に成功したと言っていいのかと、Vogelさんはスウェーデンでこの政策に反対の声を上げ続けた科学者を紹介しながら、疑問を投げかけている。

この記事でも、スウェーデンの最初のピークで多くの死者、特に高齢者の死亡例が発生したことは、反省されるべきではと指摘している。そして、ここに書かれた実態をより詳しく分析した研究が先週Nature Communicationにオープンアクセス論文として発表された。

スウェーデンは医療記録がしっかりしており、今回のパンデミックで死亡した各個人のデータが保存されている。この研究では、スウェーデンでの第一波のピーク時、5月7日までにCovid-19で亡くなった全症例を詳しく調べ、年齢、性別、そして様々な社会的階層の指標との相関を調べている。これまで指摘されていたように80歳以上の死亡率が42.5%と高い。しかしこれほどではないにしても我が国の80歳以上の死亡率は28.5%で、医療制度などの違いで高齢者の致死率が高いという一般傾向がすこし拡大したと考えてもいい。

この論文の最大の驚きは以下の図に凝縮されている。

図右は高齢者の死亡率で、Covid-19と他の理由による死亡を比べると、経済格差や教育格差との相関にそれほどの違いはなく、老後のケアは貧富の差なく行き届いていることを示している。

ところが現役世代で見ると(左図)、教育格差、経済格差が高い死亡リスクに直結しており、今回の新型コロナ感染がスウェーデン社会の問題を浮き彫りにしていることがわかる。すなわち、現役世代ほど格差が激しい。同様に、世代を問わず、移民の死亡リスクが高いことは、移民が本当の意味でスウェーデン社会に溶け込めていないことを示している。

以上のように、一つ一つの政策には必ず光と影があり、感染状況を把握するパラメータが限られている以上、感染機会をできるだけ減らすことを目標にしてその時その時の政策を決める以外に方法がない。従って現時点で一番重要なことは、できるだけ多くの記録を残して、この論文のように後から評価できるようにすることだと思う。是非新型コロナウイルスがあぶり出す我が国の社会問題を冷静に分析してほしいと思う。

ネアンデルタール人遺伝子の呪いが新型コロナウイルス感染重症化に関わる(本日Natureオンライン掲載論文)

2020年10月1日

今日の論文ウォッチをアップロードした後(こちらも臨床的には重要な論文なのでぜひ目を通して下さい:https://aasj.jp/news/watch/13990)、新しいNatureを読み始めたら、ゲノム人類学の父とも呼べるSvante Pääboさんの研究室から驚くべき論文が目に飛び込んできた。

論文を要約すると、新型コロナウイルス重症化の遺伝的リスク探索から特定されてきた3番染色体の領域の人類学的由来を調べると、Vinjaで発見されたネアンデルタール人ゲノムにほぼそのまま残っており、このネアンデルタール人グループとの交雑を通して、我々ホモサピエンスに流入した領域であるというのだ。

そして、このリスク遺伝子が最も保持されているのが南アジア、特にインド、バングラデッシュの人たちで、次がヨーロッパ、米国ときて、我々東アジア人にほとんど存在していないことを示している。もちろんネアンデルタール人との交雑が見られないアフリカの人たちには全く存在しない。

以上が結果で、最初に特定された新型コロナウイルス重症化のリスク遺伝子がネアンデルタール人由来であるという話は話題を呼ぶと思う。ただ、私は偉大なゲノム人類学者Pääboさんの論文を読んで、新型コロナウイルスとの戦いが、全ての生命科学分野を動員する戦いとして行われていることを実感した。

最後に強調しておきたいのは、ネアンデルタール人由来領域は新型コロナウイルス感染重症化に関わる一つの要因でしかなく、全てをネアンデルタール人の呪いのせいにしない様お願いしたい。

しかしPääboさんに脱帽。

ロックダウンで地震計のノイズが世界中で消えた(9月11日号 Science 掲載論文)

2020年9月12日

宇宙背景放射という言葉をご存知だろうか?ビッグバンの決定的証拠とされる宇宙の全方向からやってくる弱い光のことだ。専門外なので、このマイクロ波について解説する気は無いが、この発見の経緯は面白い。ベル研究所で高感度アンテナの性能を調べていたところ、微小な連続的ノイズの存在に気づく。ノイズの元は何か、鳩の糞まで調べてもその原因は見つからず、しかもあらゆる方向から届いていることがわかった。最終的に、このノイズこそが宇宙背景放射と呼ばれる天球からの電波であり、決してノイズではないことがわかるのだが、この話は観測にとって何がノイズで、何がシグナルなのかを決めることの難しさを示す有名な物語だ。

地球上は人間であふれている。このため、物理的観測にとっていちばんの難問は、人間活動により生じるノイズだ。結果、天文台は山奥から、今や宇宙にまで場所を移している。そして、今日紹介する論文では、人間の活動が不断に大地を揺らし続けていることが示された。新しいサイエンス誌を開いた時にまず目に飛び込んできた論文で、タイトルには地震というウイルスとは全く関係のない単語がCovid-19と一緒に並んでおり、思わず手に取った。

ベルギー・ブリュッセルを中心に世界の地震研究所が集まって発表した論文のタイトルは「Global quieting of high-frequency seismic noise due to COVID-19 pandemic lockdown measures(地球規模の高周波数の地震計ノイズがCovid-19によるロックダウンで静かになった)」だ。

「seismic:地震」と「新型コロナ:Covid-19」という2つの単語を見て興味を惹かれない人はいないだろう。新型コロナウイルス感染症と地震の間にどんな関係があるのか? しかしタイトルを読んでしまえば全ての疑問は解消する。要するに、Covid-19によるロックダウンが世界規模で起こったことで、地震計で検知されるノイズが減ったということだ。

この研究では世界に散らばる268機の地震計記録を集めて、実際の地震波とは異なる高周波の振動だけを取り出し、2019年12月から2020年5月まで分析したものだ。驚くことに、新型コロナウイルス感染とは関係なく、高周波振動記録は、各地での人間活動を反映するのがよくわかる。すなわち、クリスマスから新年にかけて、世界中で振動が減少する。(オープンアクセスなのでこのチャートを見ることができる:https://science.sciencemag.org/content/369/6509/1338 )。

ただ、ロックダウンによる影響はクリスマス休暇に見られる程度で済まないことがチャートからわかる。1月の終わり中国でロックダウンが始まると、高周波の振動はほとんど止まる。そして3月に入るとイタリアから急速に振動が停止していき5月まで続いている。

場所によっては、振動が続いているのも観察される。チャートを眺めて得た個人的印象なので正式な結論とは考えないでほしいが、一般的にヨーロッパでは振動の低下が激しく、米国では振動が残る傾向がある。我が東京でも、完全には振動は止まっていない。今後このデータと人出や経済活動データを照らし合わせれば、地震計で人間の活動を定量することがわかるだろう。とすると、ロックダウン解除による人間活動の再開も、地震計の記録から定量できると思う。

要するに、人間の活動が常に大地を揺らしているのだ。この影響が到達する距離など詳しく調べているが詳細は省く。この揺れが低下した半年、これまで望んでも望めなかった、地殻活動としての高周波の記録が可能になったと思う。その意味で、Covid-19は地震学に大きな貢献を果たすかもしれない。

新型コロナ感染の将来予測モデル:占いを超えられるか (7月23日号 The New England Journal of Medicine 掲載論文)

2020年7月30日

古今東西、人間は重大な決断に当たって占いや予言を大事にしてきた。卑弥呼からラスプーチンまで、占い師の予言が政治を左右した事例は枚挙にいとまがない。しかし、真面目に考えれば予言がそうそう的中するはずはないから、不確かな予言で行えた政治の方が、いい加減だったと思う(今でも予言や占いを信じる人は多く、異論も多いと思うが)。

なぜこんな話から始めるかというと、新型コロナ感染の拡大に対する政府・市民(メディア)と科学者たち(専門家委員会に限らず全ての)の議論を見ていると、「第2波です」とか「10万人の死者が出ます」とか、「すぐ収束します」などと語る科学者は、かっての占い師のようにとらえられているのではとフッと感じてしまったからだ。

一度収束したかに見えた新型コロナ感染者数が、日本中で再びジワジワと拡大し始めた今、誰もが明日、来週、来月、そして来年の予測を心待ちにしていることは間違いない。もちろん現代の予測は、占い師の時代とは違う。科学者による科学的データに基づいた予測が期待されている。しかし、的中したのか、間違っていたのか、今も確信が持てずにフラストレーションだけが残る西浦さんの「放置すれば40万人死亡」仮説が唯一のモデルとして示され、大きなリセッションを経験したわが国は、当時を超える感染者数が出ても、どの予言を信じればいいのか途方に暮れているように思う。

この感覚は決して一般の人だけではない。かく言う私も、流布している科学者の御宣託が、現状では根拠のない予言と変わることがないと感じていても、それを明確に指摘できないというフラストレーションを感じていた。

ところが、The New England Journal of Medicine 383; 4(2020)に掲載された論説を読んで、感染モデルについて頭の整理がつき、フラストレーションは解消されたので、私と同じように感染モデルにフラストレーションを感じておられる皆さんにぜひ紹介することにした。

タイトルには、感染モデルは「何か間違っているぞ」と感じつつ、「利用せざるを得ない」という我々の気持ちが表現されており、著者には私たちのフラストレーションがわかっていると期待できる。

事実期待通りで、まず感染モデルは、1)統計的予測モデル、2)メカニズムベースのモデルの2種類に分けてうまく説明してくれている。

統計予測モデルはこれまでのデータを、新しいデータに当てはめ、未来を予測する手法で、例えばIHMEモデルでは、中国やイタリアの統計を、例えば日本にあてはめることに相当し、統計に現れる実際の感染過程については情報として含まれていないため、長期の予想は全く不可能であると断じている。NYではこうだから日本も同じになるという予想は今も記憶に新しいし、西浦さんのモデルもこの範疇といっていいだろう。

一方、メカニズムに基づくモデルとは、ウイルスの性質、感染性、抵抗力、社会的接触度、など出来る限り多くの要素データを集め、そこから予測する方法で、パラメータがうまく集まれば、長期の予測も可能になる。例えば、全ての人に抵抗力があることが証明できれば、ウイルス感染は拡大しようがないといった具合だ。ただ我が国の場合、現時点でわからないことが多すぎる。そもそも、このウイルスについての様々なパラメータはほとんど明らかでないし、無症状感染者の行動履歴といった行動学的パラメータもほとんど集まっていない。

この論説では、メカニズムに基づく予測が可能になるための最低条件として、

  • 新型コロナウイルスに対する免疫反応の正確な理解と、免疫状態の正確な測定。
  • 無症状感染者の感染性、免疫状態の把握。
  • 感染者、非感染者の行動記録に基づく接触のデータの取得。

を挙げている。

この論説を私なりに解釈すると、

  • 統計による予測モデルは、例えば「経済と感染防御の両立」といった長期計画には向いていない事。
  • 長期予測のためには、感染者数だけでなく、ウイルス伝搬に関わる多くのパラメータを集めるメカニズムに基づく予測手法が必須であること。
  • ただ、メカニズムに基づく予測のためには、まだまだデータが集まっていない事。

と理解した。

ただこれでは予測モデルを信頼するなといっていることに等しいので、この論説では予測モデルを受けとる側が以下の質問を問い続けることで、予測モデルが「useful」になるとまとめている。その5つの問いとは;

  • モデルの目的と、予測可能な時間レンジは明確か?
  • モデルが寄って立つ仮定は正確に示されているか?
  • モデルの不確実性要素を正確に把握して、提示できているか?
  • 統計モデルの場合、どのデータをモデルに使ったのか?
  • モデルは普遍的か、あるいは特定の対象を設定しているのか?(例えば都市と農村)

以上、この論説を上手く紹介できたかどうか自信はないが、私はこ今後どのように感染モデルと接していけばいいか頭の整理がついた。是非みなさんも自分で読んでみられればと思う。

翻って我が国の状況を考えると、メカニズムを取り入れた長期予想がもとめられているが、これを可能にするには、あまりにも利用できるパラメータが存在しないと言えるように思う。論文を読んでいるとわかるが、この点に関しては先進国とは言えない状況だ。とすると、当分我が国では、他の統計をそのまま並行移動して利用するか(西浦型)、限られたデータをもとに「エイ!」と占うかしか方法はない。この状況を超えるには、本当の科学的データ収集が必要になるが、PCRの検査数がまだ議論の焦点になっている我が国でいつこれが実現するのか?心は晴れない。

新型コロナウイルスの拡大状況をゲノム配列から推定する(7月16日号 Nature Medicine 掲載論文)

2020年7月23日

現在急速に新型コロナウイルス(Covid-19)感染が広がりをみせており、緊急事態宣言時を超える勢いだ。ただ発表される感染者数なるものは、外野の私には何の指標なのかさっぱり理解できない。もしウイルス感染の広がりを把握したいなら、特定の地域でランダムサンプリングによるPCR検査をおこない、その感染状況から推定するしかない。ただ、我が国でそこまで手が回るようになるにはまだまだ時間がかかるだろう。

幸い、ウイルスは人から人へと感染を繰り返すたびに変異する。したがって、この変異を追いかけていけば、バイアスがかかったサンプルでも、ある程度社会全体の感染の広がりを推定することが可能になるのではと思っていた。ネアンデルタール人のゲノムの多様性から、当時の人口を推察するのと同じだ。例えば現在、感染経路が、追跡可能か、不可能か、が問題になっているが、ウイルスの系統樹データがあれば、予測精度は格段に高まることは間違いない。

そのためには刻々変化する感染者から得られるウイルスゲノムをリアルタイムで解析し、それぞれのウイルスの系統樹と個性を計算できるグループが必要になる。当然我が国の感染症研究所でもゲノム解析を行っているが、報告を読むと政策決定のための(例えば神戸のウイルスは東京由来とか)リアルタイムデータ提供を目指している計画とは思えない(間違っていたらごめんなさい)。

しかし今からでも遅くない。データに基づき感染の拡大を把握するため、PCR陽性者が感染しているウイルスゲノムをできるだけ多く調べることで、感染状況をとらえ、正しい政策判断につなげることができることを示した論文が、オランダからNature Medicineに発表された。

この研究ではオランダで2月最初の2症例が報告されて以来、クラスターや、医療施設で働く人たちを中心にモニターし、3週間で189種類のウイルスの全ゲノム配列が決定されている。

この結果、オランダでの感染は1月の終わりに遡れること、おそらくイタリアのスキー場由来の、すでに異なる2株のウイルスに由来していること、持ち込んだ人から地域単位で流行が起こっていることなどが明らかにされている。この研究の対象になった3週間ほどの間にオランダで分離され解析されたウイルス間で、平均の変異数は7.39であり、ランダムサンプリングによる感染拡大を調べる代わりに、ウイルスの側から感染拡大を推測できる可能性が高いことを示している。

要するに、ウイルスの系統樹は感染拡大を知るために極めて重要なデータになることが示された。とすると、現在の我が国のように、感染源を特定できない感染者が拡大し、都市から地方へと感染が拡大している状況の把握に必要なデータが、ウイルスゲノム解析から得られることを示している。

政策決定にも使えるデータとして重要なのはリアルタイムにデータが出ることだが、現在の次世代シークエンサーでは、どうしても解析が終わった時点で2週間かかる。とすると、政策決定には間に合わない。

この研究では常に配列を至適化するプライマーでウイルスを増幅し(ここまでは他の研究と同じだと思う)、それをナノポアフローセルで解析することで、時間の短縮に成功している。要するに、なんとか政策決定に役立てようと一工夫した結果だ。

ぜひ我が国でも、このスピード感でウイルスの解析が進むことを期待する。Go to Travelの評価も、これにかかっているような気がする。