Autism Speaksから、ASDと家族に役に立つ新型コロナウイルスの情報
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Autism Speaksから、ASDと家族に役に立つ新型コロナウイルスの情報

2020年3月20日

様々な疾患の支援団体のウェッブサイトでも新型コロナウイルス感染(Covid-19)に関する情報が提供されるようになってきた。ワクチンが開発されていない今、感染予防には日常の習慣が大事になるが、昨日送られてきたAutism SpeaksからのメールマガジンにはASDと家族のための様々な情報が掲載されていた(https://www.autismspeaks.org/covid-19-information-and-resources)。今後は、多くのビデオライブラリーも加えて充実させるということなので、少なくとも書かれた内容については、google翻訳でも使って、読んで欲しいと思う。ただこの中からASDのコミュニティーが知るべきこととして書かれていた短い文章については(3月4日付で少し古いが)簡単にまとめておくことにした。

まず当然のことだが、全ての人が理解しておくべき米国疾病対策本部のアドバイスが書かれている。

  • 手の衛生が最も重要。何度も石鹸とお湯で手を少なくとも20秒以上かけて洗う。もし石鹸とお湯がない場合はアルコール消毒液を使う。
  • コロナにかかわらず、体調の悪い人と接触するのはできるだけ避ける。Covid-19の感染は接触が一番危険。
  • 目、鼻、口には触らない。特に子供にはこのことをよく言い聞かせる。
  • もし気分が悪い時は、自宅から出ない。もし外出が必要ならマスクで鼻と口を覆って、飛沫が飛ばないよう注意する。
  • 咳やくしゃみをする時は、口をティッシュでおおい、速やかにティッシュは廃棄する。ティッシュがない場合は、腕や肘で覆う。
  • 家族が触れる家具やドアの取っ手、手すり、スイッチなどはいつも消毒を心がける。

その上で、ASDの家族がいる場合のアドバイスとして、

  • コロナについては、どこかから聞いてくるより前に話して聞かせる。こうすることで、子供の年齢や理解力に合わせた形で情報を与えることが可能になる。
  • 子供の入りやすい方法、例えば絵を描いたり、あるいはお話にしたりして教える。例えば風について教えるための絵本がAutism Speaksに用意されている(https://www.autismspeaks.org/sites/default/files/flu_teaching_story_final%20%281%29.pdf
  • 情報を子供が自分で十分消化するよう時間をかける。これにより子供が頭の中で内容を繰り返したり、恐ろしい話でもちゃんと話せることを意味します。もちろんその時一緒に手をとって、質問に答えられるようにすることが重要です。
  • 子供の毎日に変化がないか、あるいはストレスがかかっていないかよく注意してください。ストレスや不安を感じている時は支えてあげる必要があります。
  • 子供はこの恐ろしい事態の中で安心できるよう、正しいポジティブな情報を伝えて安心させましょう。

これだけの情報だが、さすがと思えるアドバイスだ。

最初の頃、子供は新型コロナウイルスにかかりにくいという話が流布したが、最近Pediatricsに発表された中国からの論文では、中国疾病対策センターが把握している小児の症例は、ウイルス検査が終わっていないが疑わしいケースは2145例にのぼり、平均年齢が7歳であることが示されており、おそらく重症化する確率は低いと思うが、是非Autism Speaksからのアドバイスをもとに、子供をCovid-19から守って欲しい。

さらに重要な情報が発信されれば、また報告する。

新型コロナウイルス感染機構とACE2

2020年3月7日

新型コロナウイルスで大騒ぎだが、インバウンド客という目先の利益に目が眩んで初動が遅れ感染が広がってしまった上に、現在の感染状況の科学的把握ができていない状況では、新しい科学に基づく政策は打てない。現れるクラスターのモグラ叩きがどこまで有効なのか?その間に、経済は極端に収縮しているが、取り返しがつかなくなってから、科学を信じたせいだと責任転嫁されては大変だ。偶然が悪い方向へ向かないように、今は天に祈るだけだ。

一方で科学は力強く新型コロナウイルスと戦っている。そんな例がCell4月号に掲載予定のドイツ類人猿研究センターからの論文で、SARS―CoVと新型コロナウイルスSARS-CoV2の細胞内への感染経路を調べている(図1)。

おそらくこのグループは、SARSウイルスの感染経路の研究を行なっていたのだと思う。そこに新型コロナウイルス騒動だ。ドイツでは1月28日には患者さんが発生しているが、ミュンヘンの病院に入院中の患者さんから分離したSARS-CoV-2を用いて、このウイルスの細胞内への感染経路を、これまでSARS-CoV研究に開発してきた試験管内感染実験系で大急ぎで調べてみたという研究だ。

驚くことに論文は2月6日に投稿されており、2月25日には受理され、2日前にオンライン出版されるというスピードだ。

おそらく実験に1週間はかかっていないだろう。当然それほど難しい実験はできない。結果をまとめると、

  • 新型コロナウイルスは、SARSと同じで、細胞表面上のアンギオテンシン転換酵素(ACE2)を細胞に接着する受容体として使っている。
  • ACE2に接着したウイルスはエンドゾームに取り込まれ、そこで膜と融合してRNAを注入するが、このときホストの細胞のタンパク分解酵素によって処理される必要がある。この研究では、この処理をカテプシンとTMPRSS2が行えること、そしてTMPRSS2阻害剤がウイルスの侵入を食い止める。
  • SARSウイルスに対する抗体は、力は落ちるが新型コロナウイルスの感染を抑える。

通常なら到底Cellには掲載されないが、緊急にワクチンや、治療法を開発する上では、貴重なデータだということで掲載されたと思う。

この研究で示されているように、新しいコロナウイルスも細胞に接着するときにACE2を使っていることが確認されたが、このACE2はACEがアンジオテンシン Iを分解してアンジオテンシンIIに変換し、血管収縮、ナトリウム代謝などを通して血圧上昇に関わレニンアンギオテンシン系に関わるコトが知られてきた。すなわち、ACE2はこのアンジオテンシンIIをさらに短くするエンドペプチダーゼで、こうしてできたアンジオテンシン1−7は血圧抑制効果があることが知られている。実際、ACE2がノックアウトされると、心不全になりやすく、さらに代謝異常がおこることが報告されており、コロナウイルス感染をACE2を核として眺め直すことは面白いかもしれない。

高血圧や糖尿病などの基礎疾患があると重症化すると一般的に片付けられるが、これはインフルエンザでも同じだ。しかし、新型コロナの場合子供は不思議と感染が少ない。これは私が勝手に考えているだけだが、ACE2の発現分布や、スパイクの分解酵素TRPMSS2などの分布の違いを調べてみるのは面白い。

もちろん専門家も「ACEは臭うぞ」と感じているようだ。そこで最後に、中国武漢の北にある鄭州大学循環器内科の医師がNature Review Cardiologyに発表したコメントを簡単に紹介して終わろう(図2)。

  • MERS, SARSそして今回のコロナウイルス感染症では心筋炎や心不全の確率が高い。
  • 今回のコロナウイルス感染で亡くなった中国人の12%は、新たに心臓障害が認められる。
  • ACE2は心臓にも発現しており、コロナウイルスは心筋に感染できる。
  • SARSの患者さんの12年にわたる追跡で、感染から回復した68%の人が高脂血症、44%が何らかの新血管異常、そして60%が糖代謝異常にかかっており、ウイルス感染による様々なダメージは後々まで続く。
  • たしかに新型コロナウイルス感染は高血圧の患者さんほど重症化するが、治療に使用されるACE阻害剤については注意が必要。
  • 抗ウイルス薬は心不全の原因になるので注意が必要。

これらの結果は、ACE2ノックアウトマウスの結果とも一致して見える。すなわち、ウイルスがなにかACE2の機能を変化させている可能性はある。この論文ではコロナウイルス感染症一般に心筋感染の可能性があり注意が必要という以上の言明は避けているようだ。もちろん結果は臨床医にとっては重要な示唆だが、それ以外にも「ACE2とコロナの関係はなんとなく臭うぞ、ひょっとしたら様々な臨床症状を説明できるぞ」と言っているのが感じられる。臨床例や病理例が報告されてきたら、私も老いた頭を巡らせてみよう。

いずれにせよ、混迷する政策も結局科学が後始末してくれると私は確信している。感染は止められなくても、それを普通の日常にできるのは科学だけだ。

国際治験登録サイトからみる新型コロナウイルス治療法開発:我が国の治験体制は大丈夫か?

2020年2月23日

新型コロナウイルス感染の広がりをニュースとしてみていると、少なくとも我が国では情報の氾濫だけが目立つが、世界規模で医学という点から見ると着実に進展している。最も知りたいのは治療の進展だが、2ヶ月で漏れ聞こえてくる話で一喜一憂することは厳禁だ。代わりに、国際的治験登録サイトが存在し、治療法の計画段階から登録して、その計画に従って治験を行うことで効果を科学的に確かめるのが国際標準になっている。

登録サイトの中では最も信頼性があるのが米国のClinicalTrials. Govなので、新型コロナウイルスについて登録された治験がどのぐらい走っているのか、covid-19で検索をかけると、驚くことにすでに49の治験が登録されている。中にはまだ始まっていない計画段階のものも含まれるが、2ヶ月という短期間にこれだけの治験が登録されたことは、中国を中心に医学界が総力を挙げ、新しい治療法の開発に挑んでいることがわかる。今見ているサイトはhttps://clinicaltrials.gov/ct2/results?cond=&term=covid-19&cntry=&state=&city=&dist=だが、明日になればもっと増えるだろう。

どんな治験が走っているのか紹介しよう。

  • スマフォでの自己診断法 2件
  • サリドマイド 1件(肺の障害を防ぐ)
  • 臨床経過観察研究 7件
  • 検査法研究    3件
  • 漢方薬  2件
  • フィンゴリモド 免疫細胞移動抑制剤 1件
  • 副腎皮質ホルモン  2件
  • 一般薬の治験(痰の融解、インターフェロン、ビタミンなど) 4件
  • チェックポイント治療 2件
  • 抗体治験     2件
  • 抗ウイルス剤   11件
  • 細胞治療     5件 
  • 肺線維症治療剤  2件
  • マイクロビオーム移植 1件
  • 抗インターロイキン治療 1件

かなり大雑把に分類したので間違っている点があればお許しいただきたいが、中国がすべての情報を公開して、科学的治験を行おうとしている姿がよくわかる。中には、非接触型の体温測定までその効果を治験研究として申請している。当然のことながら、抗ウイルス薬の治験は多い。同じものを組み合わせたりで、薬の種類が多いわけではないが、あらゆる可能性が確かめられようとしている。チェックポイント治療やサリドマイドまであるのは驚くが、少し考えるとなかなか正しい方向だと思う。

エボラウイルス治療の知見では結局抗ウイルス薬はだめで、ウイルスに対するモノクローナル抗体が効果を示した。その意味で、回復患者さんの抗血清の結果はそのままモノクローナル抗体開発につながるだろう。

さてなぜこんな話をする気になったかというと、今日の新聞で厚労省が備蓄している日本製の抗ウイルス薬の投与を始めるという報道を見たからだ。もちろん重症化した患者さんを前に、何か治療手段をと思うのはわかる。しかし、結果がわからない治療については、すべて治験として科学的に効果を確かめないと、世界から相手にされないことは間違いない。ClinicalTrialに49の治験が登録されたという事実は、中国医学の大きな変化を物語っているが、我が国の治験は登録して行う気があるのだろうか?

報道にリークして特効薬がもらえるのではと勘違いさせ、プラセボ効果を最大限に利用するような愚かな治験をもし医療行政の府が行なっているとしたら、由々しき事態だと思う。医療先進国を自負する我が国の厚労省が、科学的治験の重要性を認識して、正しく治験を進めることを願いたい。

化学戦争を乗り切るための遺伝子治療:考えてみると恐ろしい研究

2020年2月3日

化学兵器として使われるガスには様々な種類があるが、我が国で最も知られているのが、オウム真理教が無差別テロに使用したサリンをはじめとする有機リン化合物だろう。イラクではクルド人虐殺や湾岸戦争に使われたのではと疑われているが、実際のところ明確に戦争に使用されたという証拠は無いらしい。しかし、オウム真理教でも合成できるということは、密かに生産が行われており、戦争やテロに用いられる可能性は常に存在する。

これに対して、私のような平和ボケ人間は防毒マスク以外に避ける方法は無いと思ってしまうが、同じ生命科学でも、軍の研究者は私たちが思いもかけない対処法を考え付くようだ。今日紹介したいのは、米軍の化学防衛研究所からの論文で、有機リンを分解する酵素を肝臓に導入して神経ガスを耐え抜く身体を開発しようとした研究だ。タイトルは「Gene therapy delivering a paraoxonase 1 variant offers long-term prophylactic protection against nerve agents in mice(paraoxonase1変異遺伝子を導入する遺伝子治療によってマウスは神経ガスに対して抵抗性を獲得する)」で、なんと1月22日Science Translational Medicineに掲載されている。

有機リンガス兵器は呼吸器官から吸入した後血液中に溶け脳内でアセチルコリンエステラーゼを無毒化し、最終的に呼吸を支える筋肉が麻痺して死に至る。この研究の発想は単純で、有機リンを分解する酵素遺伝子をあらかじめ肝臓で発現さて、末梢血中で有機リンを分解させるというアイデアだ。

このグループはすでに無毒化分子としてparaxonase1を選び、機能を高めた変異分子IF11を開発している。この研究の目的は、この分子をコードする遺伝子を導入してガス攻撃に耐えるマウスを作れるかだ。様々な条件を検討した結果、アデノ随伴ウイルスを用いた遺伝子ベクター(導入のための運び屋)としてAAV8、遺伝子の発現を誘導するためにTGB遺伝子プロモーターを選び、これをマウスに注射している。

この方法だと、遺伝子は肝臓細胞に導入され、5ヶ月以上大量にparaoxonase1を合成し続ける。また注射するウイルスベクターの量に応じて血中のparaoxonase1の濃度を上げることも確認している。

あとは、この遺伝子を導入したマウスは、毒ガスに耐えるか調べるだけだが、予想通りだ。

有機リン化合物には様々な種類があり、処理効率(必要な血中のparaoxonase1濃度で代表されている)は異なるが、一定濃度さえ確保できれば全ての化合物に暴露しても、マウスはビクともしないで、普通の活動を続けることを示している。

実際には他にも様々な実験を行なっているが、詳細は省いていいだろう。要するに、ガスマスクなしに神経ガスをものともしない体を作ることができるという話だ。テロや戦争から身を守るために、ウイルスを予防的に注射する時代がこないことを祈りたい。

コロナウイルス感染拡大のシミュレーションからわかること

2020年2月2日

この前コロナウイルスの症例報告について紹介した時から1週間も経っていないが、今やメディアもコロナ報道一色になってきた。と言っても、結局人混みを避けよ、手洗いを徹底せよ以外に、なんの具体的指示は出しようがない。様々な会社が有効な薬剤の治験を進めていると思うが、多くの人は軽い症状で終わりそうなこの病気に、パニックに後押しされて予防投与が行われるような事態が来ないよう、医療側も薬剤や抗体薬などが開発された時のプロトコルについて、現在わかってきた感染者と発病者、発病者と重症者の正確な調査を元に用意する必要があると思う。

今必要なのは、ニュースよりできるだけ科学的な把握だろう。この時、将来の予測には冷静なシミュレーション研究が重要だ。その意味で、香港大学から1月31日The Lancetにオンライン発表された研究は、参考になると思う。

香港大学からThe Lancetに発表されたシミュレーション論文

シミュレーションには信頼おけるデータを集めることがまず大事だが、武漢内の発表に頼るのではなく、武漢以外の都市で発生した確実な発病者の数、実際の人の移動などから逆算する手法で計算するというスマートな方法を取っている。この時、伝染する強さを一人から2.68人、感染者数の倍加する時間を6.8日として計算すると、1月25日時点で武漢には75000人の感染者がいたと推定している。また、武漢と最も交流が多い順番に、重慶、北京、上海、広州、深圳へ、1月25日時点でそれぞれ、435人、98人、111人、80人の感染者が移動したと計算している。

その上で今後の予想を計算すると、特に感染力を落とす手立てを講じなかった場合は4月1日をピークとする大流行が起こると予想している。

これについてはいくつかのメディアでも紹介されているが、この研究の重要な点は、人の動きと感染力を抑える手段の影響を計算している点で、

  • この流行は各都市間の移動を50%ぐらい制限しても、ほとんど変化がなく、例えば他の都市での流行が一月ずれる程度で終わる。
  • しかし、もし感染性を50%減らすことができれば(隔離、早期の治療、今言われている手洗いなど様々な対策)、パンデミックのピークは起こらない。

をシミュレーションで示している。すなわち、現状では感染を抑え込む努力を限りなく進めることがパンデミックを防ぐ唯一の手段というわけだ。

もちろんインフルエンザで見られるような季節性があるか、感染源の動物は駆除できるか、など多くの不確定要素はあるが、まだ感染者の多くない我が国では、隔離と患者のトラッキング、感染しないための注意を繰り返して、ウイルスの感染性をなんとか50%落とすことで乗り切れるのではと思う。

新型コロナウイルス感染者の症例報告

2020年1月25日

新型コロナウイルス2018-nCoVに感染した患者さん41例の臨床経過についての論文が最新のThe Lancetに発表されたので、簡単に紹介しておく。

経過

武漢海鮮市場で原因不明の肺炎が発症したという報告を受け、まず1月1日市場は閉鎖、その間に59例の疑わしい症例が、12月31日より隔離体制が整った指定病院への入院が始まった。これと並行して、医師、疫学、ウイルス学の専門家チームが編成され治療と研究に当たっている。

1月2日にはウイルス配列に基づく診断法が確立され、59例中41例が新型ウイルス感染と確定されている。最初の41人は全員成人で子供はいない。半数が、海鮮市場で直接働いていた。

症状

SARSなどと同じで、呼吸器症状で始まる。鼻水が出たり、頭痛がしたりという風邪症状はほとんどなく、発熱(98%)、咳(76%)、筋肉痛と疲労感(44&)が主症状。恐ろしいのは、入院後早期に半数の患者が呼吸困難を訴え、重症の肺炎であることがわかる。さらに、21%では急性呼吸逼迫症候群ARDSが起こる。今回報告された41症例のうち11症例がARDS、最終的に6例(15%)が亡くなっている。

検査としては、白血球減少、リンパ球減少、GOT、GPT上昇、凝固障害などがみられ、血栓が進行している可能性が示唆される。また、炎症性サイトカインの上昇が見られるが、エボラの様な強烈なサイトカインストームではなさそうだ(イタリック部分は西川の勝手な想像)。

対策

現在のところ、感染症に対してははっきりした対策はない。レスピレーターによる呼吸管理だけが可能な対策になる。

SARSなどの経験から、コルチコステロイド治療は、病気の進行を遅らせても、死亡率を改善できないこと、核酸アナログのレムデシビルの治験を進めていること、そしてMERSで治験中の抗エイズ薬の結果に期待を寄せている。

X線写真所見は省いたが、普通の医師なら見落とすことはまずないだろう。コンパクトにまとまった論文で、この病気をよく理解できた。

新型コロナウイルスに関する5つの質問

2020年1月23日

今日Natureにも、Ewen Callaway とDavid Cyranoskiが、中国の新型コロナウイルスの現状についてうまくまとめてくれているので紹介する。この記事でも、科学者たちが大車輪でウイルスの本態を捕まえようと努力しているのが伝わってくる記事だが、5つのquestionに分けて解説している。

  1. どの様にウイルスは伝染するのか?

すでにヒトからヒトへの感染は確認されている。あとはどの程度流行するかだが、ロンドン王立大学の疫学者Fergusonは、今後の経緯を科学的に分析することが、今後の広がりや流行期間の推定に必要だと述べている。

2、ウイルスの致死性?

最初、高い頻度で肺炎が併発するのを観察して武漢のウイルスが極めて悪性ではないかと心配されたが、この心配は少し和らいだ。500人の患者さんのうち17人が亡くなったが、これはSARSの致死率11%よりは良さそうだ。ただ、結論するのは早計だ。

3、ウイルスの由来

SARSはジャコウネコに由来したと推定されいるが、武漢ウイルスもDNA配列から、動物からではと考えられている (これについては最も最初のオリジンは蛇だとする中国からの論文を紹介した:https://aasj.jp/news/lifescience-easily/12238)。蛇が最初にしても、配列から様々な動物を経て進化してきたのではと推察されている(http://virological.org/t/preliminary-phylogenetic-analysis-of-11-ncov2019-genomes-2020-01-19/329)。ただ蛇も含めてウイルスに感染している動物は特定されていない。

4、ウイルスのDNA配列からわかること

中国とタイの研究者が、19系統の武漢コロナウイルスの配列を決定している。たしかに2週間でここまで進むことは、迅速な体制がアジアでできていることを示している。これまで決定された配列は多様性が少なく、11月に発生してから突然変異はまだ蓄積していないことを示している。今後、ヒトからヒトへと感染したケースを調べることで、人間にとってさらに危険なウイルスへと進化するかわかると期待されており、ウイルスの配列決定をできるだけ多く集めることが重要。

5、抗ウイルス薬は開発できるか?

SARSも武漢の新型コロナウイルスも同じ受容体を使って細胞内に侵入することが突き止められており、うまくいくとこれを抑制する薬剤や抗体の開発が可能かもしれないと、中国国立技術研究センターで開発が試みられている。

以上よくまとまったタイムリーな記事だ。

新型コロナウイルスは蛇に由来する。

2020年1月23日

新型コロナウイルスの話は今やニュースの見出しトップに踊り上がっている。しかしヒトからヒトへの感染が可能になったという話以外に目新しい話はない。結局米国CDCのアドバイスに従って、なるべく人混みは避ける、家では石鹸で丹念に手を洗う以外、今のところ感染予防の方法はない。

しかし科学者は緊急体制で研究を続けており、刻々と新しい情報が入ってくる。例えば新型ウイルスの遺伝子配列はWHOから1月10日に発表され2019-nCovと名付けられた。

中国は正確な患者数を隠していたが、国際的圧力で慌てて正確な数を発表したという話が流布している様だが、ウイルスゲノムが1月10日に発表されたとしたら、それまでは正確な患者数など出せるわけがない。それから2週間の間に正確な診断が可能になったということだと思う。

ウイルスゲノムの特定により急速に研究は進んでおり、なんと今日Journal of Medical Virologyに中国北京、武漢、南寧のグループから、新しいウイルスが蛇由来ではないかという論文が発表された。おそらく一般の皆さんは、このスピード感に驚かれるのではないだろうか。

報道にもある様に、最初の患者さんたちは武漢の海鮮市場で様々な動物に触れていた人たちだ。しかし、どの動物からもまだ新しいコロナウイルスと同じウイルスは発見されていない。ただ、新型ウイルスの配列でのコドンの使われ方(核酸に対応して3つの核酸の並びがコドンとして使われますが、1つのアミノ酸に対するコドンは複数存在します。ただ、動物ごとにどのコドンを使うかのくせがあるので、このくせから動物の由来を特定できる場合があります)と新型ウイルスでのコドンの使われ方を比較することで、ウイルスの最初の由来を特定することが可能だ。この研究では新型ウイルスと多くの動物でのコドンの使い方のクセを調べ、なんと蛇のクセに最も近いことを明らかにした。

人間に感染するために変化した場所もわかっているので、今後蛇から人間への経路も明らかになると期待される。

気になる治験研究 4 学校教育で使える健康的な食に関するビデオ

2020年1月17日

考えてみると、私たちの子供時代は「食べること=善」で、裕福な家庭は別にして、おそらく不健康な食というと、好き嫌いなどの、食べないことだったと思う。しかし現在、子供の周りの食環境は大きく変わって、食べることによる肥満などの様々な問題が発生し、「健康な食」を自分で選ぶことの重要性が認識されている。

この問題を学校教育として解決できないか調べた治験研究がJ.Nutr Educ Behav 11月号に掲載されたので紹介する。

この治験では、子供に公共テレビとして制作された、健康な食を用意するクッキング番組を学校で見ることが、その後の子供の食べ物の選択に好影響を及ぼすかを調べている。

実際には、異なる5カ所の小学校の中から8クラス、10〜12歳の学童を選んでいる。この8クラスを無作為的に、健康な食を用意するクッキング番組を見せるクラスと、食とは関係のないクイズ番組を見せるクラスに分け、それぞれの番組を見た後4種類の食べ物のうちどれを選ぶか調べている。結果は期待通りで、健康な食に関するビデオ番組見たクラスの子どもが健康な食を選ぶ確率がずっと高まる。

おそらく、一人でビデオを見て学習するより、仲間と一緒に正しい食について習うことの方が影響が大きいのだろう。教育の場の重要性を示す、子供の感受性をよく理解した面白い治験研究だと思う。

「ひきこもり」は万国共通の医学用語になるか?

2020年1月11日
World Psychiatryに掲載された加藤さんたちの論文

長期間自分の部屋や自宅から出られなくなると、我が国では引きこもりと診断され、様々な公的・私的支援を受けることができる。各地域に支援センターが設置され、様々な機関が共同して本人や家族を助けている。しかし、今後この症状を一つの精神疾患単位として研究していくことも重要で、この要請に応えるため九州大学病院・精神科では引きこもり診療部を設立し、本人や家族の教育プログラムの治験を始めたようだ。

今日紹介したいトピックスが、この診療部門の加藤先生たちによってWorld Psychiatryに発表された意見論文で、引きこもりが日本の文化的風土に根ざした特殊な状態ではなく、多くの国で報告され始めた一つの疾患単位であるとして研究することの重要性を訴えている。すなわち、「引きこもり」が日本発の診断名として今後世界的に利用されるようになる。

ちなみにPubMedでHikikomoriと検索すると85編の論文が検索され、そのうち17編が2019年に発表されているが、我が国からの論文は5編だけで、すでに世界的な用語として多くの研究者に使われ始めているのがよくわかった。

また同じ雑誌に加藤さんたちは、1)引きこもる場所が自宅に限られる、2)6ヶ月以上続くことが多いなどの特徴に加えて、例えば社会とのコンタクトを避けているわけではないことなど他の病気との区別について述べてもいるが、これは専門家に任せたほうがいいだろう。

我が国の研究者の名前がついた病気は多いが、「Hikikomori」のような状態を示す日本語が病名になることは珍しい(例えばイタイイタイ病)。ぜひ世界的な疾患単位として発展してほしいと思うし、我が国でのHikikomoriが1%を超えたと聞くと、その可能性はじゅぶんあると思う。

とするなら、引きこもりという言葉が使われるようになった経緯を30年前に遡って誰かはっきりさせる必要があると思う。