新型コロナワクチンに対する米国市民の期待度
AASJホームページ > 新着情報 > 生命科学をわかりやすく

新型コロナワクチンに対する米国市民の期待度

2020年7月3日

昨日ロイター通信は、トランプ大統領が新型コロナウイルスに対する3種類のワクチンが米国で近く投与可能になることを記者会見で述べたことを報告していた。あの反ワクチン論者のトランプも新型コロナについに白旗を上げたかと、痛快な気分になるが、ワクチンを待ち受ける市民の気持ちはそう単純でないことを、今日発行のScienceを読んで初めて知った。

フリーランスの記者Warren Cornwallさんの記事で、これほど市民の自由を制限している新型コロナウイルスに対してさえ、ワクチンに強い期待を抱く市民が50%を切るという報告だ。

米国の多くの都市でロックダウンが行われた5月中旬、「もしワクチンが利用可能になったら接種を受けますか?」という質問に対して、受けると答えた人が49%、わからないと答えた人が31%、そして行かないと答えた人が20%に達するという結果だ。

60歳以上の高齢者では67%が受けると答えている一方、60歳以下で受けると答えた人は40%にすぎない。そして最も驚くのは、新型コロナで死亡率が最も高かった黒人層で受けると答えた人が25%、受けないと答えた人が40%にも達する事だ。

我が国でもワクチンの効果についてはSNS上で議論が行われているが、あまりワクチンが危険だという議論は見かけない。しかし米国では、新型コロナウイルス感染が始まった初期から、反ワクチン運動が「感染してもほとんどの人が回復する新型コロナウイルスに対するワクチンは意味がない」とか、「新しいワクチンの安全性は長期的には全く担保されておらず、これまで開発された中では最も危険なワクチン」などと、SNSを通してキャンペーンを行なっていることがこの結果に反映されているようだ。

実際、Youtubeに新型コロナワクチンによる死者が、感染による死者を超えると訴えた反ワクチンビデオは700万ビューを記録し、削除しても削除してもアップロードされ続けているということが5月初めに報道されていた(https://www.cnbc.com/2020/05/07/facebook-youtube-struggling-to-remove-plandemic-conspiracy-video.html)。

ワクチンに対する米国の複雑な事情がよくわかる記事だが、我が国には関係のない対岸の火事と静観していいのか少し気になる。トランプですらワクチンを声高に叫ぶご時世だ。大阪府知事が「ワクチンで新型コロナウイルスに対して反転攻勢」と言うのも理解できるが、世界的に普及し多くの女性を子宮頸がんから守ったことが明らかなパピローマワクチンの副反応問題を、今もなお解決できていない国が我が日本であることも忘れてはならない。

間違いなくワクチンは新型コロナウイルスに対する重要な武器になる。だからこそ、一方的に宣伝するのではなく、ワクチンの可能性と想定される問題について、科学者の言葉で語り始めることが大事だと思う。

新型コロナ感染と出産

2020年6月16日

6月の終わり、短い時間だが妊婦さんたちと対話をすることになった。これまで、妊娠と新型コロナ感染についてはあまり論文を読んだことがなかったので、まずPubMedでCovid-19 & Pregnancyとインプットすると、なんと340もの論文がリストされた。そこで6月に発表された論文に限ってざっと目を通すと、何事についてもまだ結論を出す段階ではないと言える。ただ当然とはいえ、多くの妊婦さんが新型コロナウイルスに感染し、出産されていることはよくわかった。

もちろんしっかりとした統計を待つ必要があるが、日本産科婦人科学会の英文誌に、アイルランド、イスラエル、インドの研究者が発表した総説(5月7日に論文が受理されている)を読むと(上掲論文)、妊婦さんの心配に少しは答えられる次のような結果が示されていた。

  • 妊娠していることで感染リスクが上がる可能性を示す証拠はない。
  • 感染により発生異常が発生した報告はほとんどない。
  • 胎児期および出産時に母親から胎児へ感染が広がる確率は低い。

とは言え、妊娠しているからといって病気の重症化が防げるわけではないので、産科医の側で利用できる治療方法を決めておく必要があるとおもう。

この総説で積極的に推奨しているのは、血栓防止のための低分子量ヘパリンの服用だけで、あとは薬剤の紹介でとどめている。副作用を考えると、当然の結果だ。しかし重症化する患者さんがいる以上、薬剤を用いる治療は重要になる。

個人的意見として聞いてほしいが、これまで様々な治療論文を読んできて、胎児に影響がほとんどないと思えるのが、中和抗体による治療だ。回復した方々からの血清、ガンマグロブリン、そしてモノクローナル中和抗体などが利用可能になると思うが、是非産科学会レベルで、これらの治療法の可能性を優先的に検証して欲しいと思う。

さて、論文を探している時、出産のために入院された妊婦さんの新型コロナ感染率を調べた4編の論文が気になった。

最初はニューヨークコロンビア大学から5月28日The New England Journal of Medicineに掲載された報告で、3月22日から4月4日までに入院した215人の妊婦さん全員にPCR検査をしたところ、驚くことに13.5%の方が無症状だがPCR陽性、1.9%の方はPCR陽性で発症していたことがわかった。

この論文で示されたニューヨークの高い感染率を裏付けているのがAmerican Journal of Obstetricsにオンライン発表された論文で、ニューヨーク大学ロングアイランド校附属病院に3月30日から4月12日までの間に出産のために入院した妊婦さん161人について行ったPCR検査の結果で、なんと32例(19.9%)がPCR陽性、そのうち11例が発症していたという結果だ。

一方、もう少し感染が落ち着いた時期で、しかもボストンになると感染率は低いことがハーバード大学からInfection Control & Hospital Epidemiologyオンライン版に報告された論文からわかる。マサチューセッツ総合病院を始めハーバード大学に属する病院に4月18日に入院していた出産を控えた妊婦さん757人全員にPCR検査を行ったところ、なんらかの症状を訴えたのが139例(18.4%)で、そのうち7.9%がPCR陽性だった。一方無症状の妊婦さんは618例(81.6%)で、そのうちPCR陽性は9例(1.5%)という報告だ。このことから、ニューヨークの感染状況の深刻さがうかがえる。

では我が国ではどうか? 6月4日慶應病院の産科からInternational Journal of Gynecology and Obstetricsオンライン版に発表された、慶應大学病院に入院した患者さんについての報告が参考になる。

この報告によると、4月6日から27日に慶應病院産科に入院した患者さん52人にPCR検査が行われ、2例(3.8%)が無症状だがPCR陽性だったという結果だ。

それぞれの研究で、陽性者は別の病室に移され、出産しているが、これまでのところ新生児への感染や目立った影響は認められていないという結果だ。いずれにせよ、流行期には妊婦さんも同じように感染する。感染が落ち着いた今こそ、妊婦さんが感染し、場合によっては発症した時の対処方法を決めておくことが重要だと思う。

最後に4編の論文を読んで、我が国の未来を背負う子供達が生まれる産院では、当分全員にPCR検査をしたほうがいいのではと個人的には感じた。

新型コロナウイルスの動物への感染

2020年5月15日

昨日、東大の河岡さんたちがThe New England Journal of Medicineに発表した、猫が新型コロナウイルスに感染しやすいことを示した論文がメディアの話題になっている。

詳しくは記事を読んでもらえばいいと思うが、このウイルスが私たちの身近にいる動物にも感染できるとすると、今後のコロナ対策も全く違ったものになるだろう。

この問題は中国でも強く懸念されており、35種類の動物から1,300以上の血清を集めて、抗体検査を行った論文すら発表されている。

幸い結果は全て陰性で、動物がこのウイルスのキャリアーとなる心配はないと言う結論だ。事実、先の猫への感染実験でも、河岡さんたちは、猫が感染しやすいとはいえ、ウイルスを排出する期間は短く、発症もしないので普通の状態で猫がキャリアになることはないだろうとコメントしている。すなわち、現在のコンセンサスは、ペットから新型コロナウイルスがヒトへと伝搬する危険性はほとんどないと言うものだが、話はそれほど簡単ではないことを示唆する論文が、香港大学から5月13日Nature Medicineにオンライン掲載された。

この研究では、ヒトとコウモリの腸上皮細胞をオルガノイド法と呼ばれる方法で培養し、ヒトの鼻粘膜から採取した新型コロナウイルスを感染させる実験を行なっている。

このオルガノイド培養は、現在慶応大学医学部の佐藤(俊朗)さんが開発した方法で、細胞から立体的な腸組織を再構成する方法で、フレッシュなヒト組織の代わりとして消化管の研究にはなくてはならない方法になっている。

この研究では、同じオルガノイド法で、コウモリの腸組織を試験管内で一定期間維持することができることをまず示し、試験管内で新型コロナウイルスを感染させた。驚くなかれ、ヒト鼻粘膜から調整したばかりの新型コロナウイルスはコウモリの腸組織に感染し、ヒトの腸オルガノイドを用いたのと同じぐらいの効率でウイルスを排出する事が示された。すなわち腸上皮細胞であれば、猫どころか、コウモリの細胞にすら新型コロナウイルスはそのまま感染する事になる。この結果は、コウモリのACE2とTMPRSS2も、新型コロナウイルスの感染の入り口として機能する事を示している。要するに、新型コロナウイルスは、そのままで広い範囲の哺乳動物に感染できる可能性が示された。

恐ろしい話だが、十分可能性がある事を示す論文が南京大学から5月13日にJournal of Virologyにオンライン出版された。

この研究では、ウイルスが細胞に感染するときに使うスパイクタンパク質と、その受容体ACE2との結合について構造解析を行い、ヒトACE2と比べた時、他の動物のACE2にもウイルスのスパイクが結合できるか、アミノ酸配列から理論的に考察している。

研究で行われたのは、構造解析からわかっているヒトACE2がスパイクタンパク質と直接コンタクトする20アミノ酸について、他の種のACE2と比較している。理論的可能性だけで、直接結合を調べた研究では無いので評価は難しいが、ヒト感染性の新型コロナウイルスを発生させた主として疑いをかけられているコウモリも、センザンコウも含めて、新型コロナウイルス感染は広い種に感染する可能性があると結論している。

以前、中国のグループがイヌ、ブタ、ニワトリ、ガチョウ、ネコ、フェレットに新型コロナウイルスを感染させる実験を行い、フェレットとネコ以外はほどんど感染できない事を示していた。

しかし、これは経鼻的に感染させた時の感染効率を調べた実験で、動物コロナウイルスのほとんどは消化管感染の方が多い事を考えると、消化管も含めて新型コロナウイルスの動物への感染がないのかは、しっかり調べた方がいいように思う。

新型コロナウイルスは、不顕性感染が多い事、発症から重症化までの時間が短い事、血管炎を伴う事など、インフルエンザなどとは全く質の異なる扱いにくさを持っているが、この上に様々な動物への感染のし易さが加わるとすると、ポストコロナに備えたこれまで以上の対応が必要になるだろう。

例えば鳥インフルエンザのように、新型コロナの場合も私たちの周りにいる動物の感染状態については、定期的なモニタリングが、次の流行に備えるために必要だと思う。その時、様々な動物の消化管や呼吸器のオルガノイド培養が重要な鍵を握るような気がする。わが国のもう一つのお家芸が役に立つ時がきたようだ。

ポストコロナを支える技術:隠居の無責任な独り言 3 ワクチン

2020年5月8日

世の中は新型コロナウイルスの憂鬱なニュースであふれているが、一つだけ溜飲が下がるニュースが「ワクチンに再選の望みをかけるトランプ」だ(https://mainichi.jp/articles/20200227/k00/00m/030/224000c)。というのも、トランプは、はしかワクチンが自閉症を誘導するとする世紀の大捏造論文の主導者ウェークフィールドをいただく反ワクチン運動の支持を受け、ウェークフィールド自身と選挙前に会っているほどの反ワクチン論者で(https://news.yahoo.co.jp/byline/nishikawashinichi/20161210-00065338/)、コロナ騒ぎの前にはCDCやNIHの感染症予算削減の号令をかけていた(https://news.yahoo.co.jp/byline/nishikawashinichi/20161204-00065124/)。そのトランプが、今やワクチン開発の成否に自らの再選をかけざるを得ない。これは痛快という以外表現のしようが無い。

もちろんトランプだけでなく、コロナの完全終息を諦め、第2波、3波に身構える各国政府は、新型コロナワクチンを、我々を感染の恐怖から解放し、人と人とが距離を保つことが強いられる異常な状況を解消する切り札として大きな期待を寄せている。そしてこれが実現した暁には、イエローカードならぬ、Covid-19ワクチン証明書が出され、海外への渡航にこれが要求されるかもしれないと議論が進行中だ(The Lancetのコメンタリー参照)。

では、新型コロナウイルスに対するワクチンは可能か?

答えは単純明快、「新型コロナワクチンは可能に決まっている」だ。というのも、以前紹介した様に回復患者さんの多くが試験管内でウイルス感染を中和し、また重症の肺炎の患者さんを回復させる力がある抗体を持っていることが報告されている(https://aasj.jp/news/watch/12765)。すなわち、ウイルス増殖を止める抗体を人間は作ることが出来ることが証明されている。当然ワクチンでも同じような免疫を誘導することは可能なはずだ。実際、covid-19とvaccine developmentでPubMedをサーチすると、驚くなかれ328編の論文(87編のreviewを含む)が発表されており、心強い限りだ。

感染防御能力を持った抗体が多くの人で誘導できているなら、つまるところ問題は、感染防御に有効な免疫システムを、必要な時に、できれば長期間誘導するための方法の開発と、安全性の問題に尽きる。この目標に向けて現在では、抗原タンパク質+アジュバント、RNAワクチン、DNAワクチン、ベクターによる遺伝子導入、不活化ウイルス、生ワクチンなど、多くのプラットフォームを用いたワクチン開発が進んでいる。現状については多くの総説が発表されているのでわざわざ紹介する気はない(例えばImmunityに発表された総説を示しておく)。

長期間続く免疫獲得は難しくとも、インフルエンザのように必要な時に抗体価を高めることが出来れば、それで十分だ。次のパンデミックに有効なワクチンが開発され、私たちの手に入る可能性は十分ある。

では手放しで安心できるのか?確実に抗体価を上昇させるワクチンができたとして、個人的に懸念することを2点あげておく。

最初の懸念は、ワクチンの治験の進め方だ。今各国は感染を鎮めようと経済を犠牲にして対策を打ってきた。すなわち、感染者数は減少に転じてきた。このため、ほとんどのワクチンは、第1相や、健常人の抗体誘導ぐらいまでは到達できても、次の流行時までに本当の効果が確かめられていない可能性が高い。結局、次の流行がきて初めて治験が可能になる。もちろん効果が検証されていなかったとしても、一般の人はワクチンを求めて殺到する。この時まで、何十種類ものワクチン候補が残っていたとすると、どれを選ぶかおそらく混乱は避けられないと思う。

この問題を解決するためには、あらかじめ人間で感染実験を行い、ワクチンの効果を確かめる必要がある。ただ、現在までに得られた知識だけで、絶対重症化しないと予想できない以上、これは許されない実験だ。とすると、弱毒化されてはいるが、身体の中で増殖できるような、例えば黄熱病ワクチンのような弱毒ウイルスを用いた感染実験が必要になる。そう考えると、結局ワクチンにも使える弱毒化ウイルスを手にした研究者が、一番成功に近いところにいるのかもしれない。

もう一つの懸念は、ADE(抗体依存性増強)と呼ばれる現象だ。抗体と結合したウイルスが、抗体の一部Fc部分と結合する受容体を介して、本来感染できない白血球に侵入し、感染白血球を通して予想外の場所に感染が広がる現象を指す。この現象が起こると、どれほどウイルスの標的細胞への感染が防げたとしても、抗体自体がFc受容体を持つ白血球への感染を誘導し、感染が全身に広がることになる(例えば以下の総説参照)。

以前紹介したように(https://aasj.jp/news/watch/12972)、新型コロナウイルスによる感染症の重症化に白血球の特別な細胞死、Neutorophil Extracellular trapsによる血栓症が強く関わっているとすると、本来コロナウイルスに感染しない白血球に、わざわざ感染のチャンスを与えるADEの可能性は慎重に考えておく必要がある。

考えてみるとADEの関与は、現在も新型コロナウイルスの重症化のきっかけになっている可能性すらある。例えば、私たちは様々な旧型コロナウイルスに感染しており、それに対する抗体の中に、新型コロナウイルスと交叉反応する抗体があると、白血球への感染が起こって様々な場所で血栓症の引き金を引く可能性は否定できない。また感染後、せっかく抗体が誘導されたのに、それがADEの引き金になる可能性すらある。その意味で重症化をADEが決めている可能性はまだ否定できず、重症化例の免疫動態を、経過に沿って詳しく解析することは、重症化の原因を理解し、ワクチンの効果や副作用を予想するためには重要だ。

この意味で注目すべきは、最近重慶医科大学からNature Medicineに発表された、感染者の抗体反応についての論文だ。この研究ではエンベロップ外のスパイクタンパクと、内部の核タンパク質を抗原として抗体を検出している。この方法では、早い時期からほとんどの患者さんで抗体反応が誘導されるのだが、不思議なことにIgMもIgGもほぼ同じ時間経過で誘導されてくる。IgG反応が早い人すら存在する。そして最も驚いたのは、重症化した人ほど初期のIgG反応が高い点だ。IgMではこのような差は見られない。

症例数を重ね、症状が全くでなかった人も含めた詳しい検討が必要だが、この結果が一般化できるなら、新型コロナウイルスに対する反応は、ナイーブな免疫系が初めて抗原に出会った結果誘導されるという単純なものではなく、感染以前に出会った他の抗原に対する反応にも影響されている可能性がある。

そして何よりも、抗体価が高いことは単純に喜べることではなく、重症化につながる可能性があることが示された。これはADEの危険が抗体誘導と隣り合わせである可能性を示唆している。

以上のことを考えると、ワクチンに過度の期待を寄せる前に、まず新型コロナに対する免疫反応を理解する必要がある。幸いワクチン開発時に、様々な抗原を用いて、抗体反応が調べられるだろうが、このような免疫実験の結果は、コントロールされた条件での反応を調べるためには極めて貴重だ。ワクチン開発には莫大な公費が投じられている。ぜひ公費を受けた開発では、抗原刺激実験結果の公開を義務づけるようにしてほしいと思う。今メディアでは、ワクチン競争でどこが先陣を切っているかばかりを話題にするが、ポストコロナこそ、これまでとは全く異なる協調による開発が進むことを期待する。

感染後のIgM vs IgG反応が典型的でない一つの理由は、私たちの免疫システム、特にT細胞システムが、すでに新型コロナウイルスと共通の様々な抗原と出会っている可能性を示唆している。以前紹介したように(https://aasj.jp/news/watch/12923)、新型コロナウイルスと旧型コロナウイルスは、500以上の抗原ペプチドを共有している。この結果、旧型コロナウイルス感染の歴史は、新型コロナの免疫反応に大きな影響を及ぼす可能性がある。日本人で重症者が少ない理由の一つは、日本人のHLAの分布と、旧型コロナに対する免疫記憶の結果かもしれない。

残念ながら、まだ新型コロナ感染過程で見られるT 細胞免疫反応を調べた論文は少ない。最近Immunityにプレプリントが北京清華大学から発表されたが、細胞免疫についてはお粗末な解析に止まっている。しかし2月に紹介したように、インフルエンザに関して言えば、完璧なワクチンはT細胞免疫をしっかり誘導できるワクチンであることが動物実験で示されている(https://aasj.jp/news/watch/12433)。

最近メディアはT細胞免疫というとすぐにサイトカインストームによる免疫反応の暴走が話題なるが、ウイルスに対するT細胞反応は感染細胞を除去するのに重要で、長期間有効なワクチンには、必ずT細胞免疫を誘導できる方法の確立が必要だ(例えば以下のNature Review Immunology総説)。

そこで提案だが、ワクチンが完成した時点で必ず行われる接種実験では、必ず感染細胞に対するT細胞反応もモニターし、公開し、新しいポストコロナの知の財産にしてほしい。ただ、T細胞免疫は、各個人独特のHLAのタイプに依存しており、個人個人で反応が違うと予想される。すなわち、必ず一つの答えがあるという幻想は捨てる必要があるが、それでも反応のばらつきは、ワクチンの効果の多様性を教えてくれる。

色々述べたが心配しすぎで、これらの懸念が全て杞憂に終わることを願う。ただ、ワクチンだけは蓋を開けてみるまでわからない。政策を預かる人たちは、全ての人に有効で安全なワクチンが実現できない可能性も常に念頭に置いて、ポストコロナの世界を示してほしい。個人的には、早期発見、早期治療に基づく治療法の開発が感染の恐怖から解放された社会の必須条件だと思っている。

ただ、もしユニバーサルなワクチンが難しいとわかっても、ワクチンという概念は重要だ。そこでポストコロナでは全く発想を変えて各個人のHLAなどを考慮したテーラーメイドワクチンを考える機会にするといい。先進国の贅沢と言われそうだが、ポストコロナを考える時、このぐらい思い切った発想の転換が必要に思う。実際、ガン・ワクチンでテーラーメイドの重要性は誰も疑わない。もちろん究極は、開発途上国の人たちにも行き渡るワクチンの開発だが、感染症のワクチンもこれまでとは全く異なる発想から考えるいい機会になる。

ポストコロナを支える技術:隠居の無責任な独り言 2

2020年5月7日

ポストコロナを支える技術第2弾は、治療ついて考えてみる。

わが国で自粛を訴えるための最大の根拠は、感染数でも、PCR陽性数でも、正確に把握された感染の広がりでもない。もともとこれらを正確に測定しようという努力は示されたことがない。専門家委員会から出てくる再感染を示す指標もあるが、結局は、いわゆる医療崩壊が起こっているかという、時間的には最後の結果を指標として市民に自粛を要請することになる。

このような状況が続かないよう、昨日隠居の頭でも考えられるポストコロナの診断や感染状態の把握のための技術の可能性を示しておいたが、この状況が迅速に改善されるという保証はない。これから迎えるポスト・コロナでも、結局感染を恐れよという呼びかけ以外、何も分かりやすい指示が政府から出ない可能性は十分ある。

もしこの状況が続くとすると、医療崩壊しか指標がないわが国のポスト・コロナで最も重要なのは、感染症を重症化させない医療技術を準備することになる。例えば東京などで医療崩壊がなぜ起こるのかを考えると、一定の割合で重症者が発生し、それがICUやベンチレータを占拠することが、崩壊の最大の原因になっているようだ。しかし肺炎に限れば年間10万人近くの人(月に1万人以上の人が重症化していることになる)が亡くなっていると思うが、それでも医療崩壊が問題にならないのは、亡くなるにしてもICUやベンチレーターが最終地点ではないからだろう。要するにARDSへと変化するときの臨床過程にこの差が生まれる原因があると思うが、ポスト・コロナに備えるためにはまずこの点を詳しく分析する必要がある。

こうしてARDSへの経過の特徴が整理できると、これに基づいて感染者にICUやベンチレーターが必要にならないよう自宅療養、入院治療など各ステージでの治療法開発が重要で、もしこれができれば、20万人という患者数になっても、医療崩壊を防ぎ、感染自体を恐れる必要はなくなる。幸い、パンデミックが、世界を顧客にできる大きなビジネスチャンスになるという確信が広がったため、新しい技術開発に火が付いた。

まず確認しておく必要があるのは、レムデシビルでもアビガンでも、今使われている薬剤は新型コロナウイルスに対して開発された訳ではない。ポスト・コロナで一番重要なのは、ウイルスの様々な活性に最もフィットした薬剤の開発を進めることだろう。このための研究プラットフォーム作りは急速に進んでいる。

例えば、分離したウイルスを、いちいち培養細胞を使って維持しなくとも、必要な変異を持ったウイルスをいつでも酵母菌から作成して利用できるようにする技術をスイス・ベルン大学のグループがNatureに発表した。もちろん、研究室から漏れ出ないよう厳密に管理する必要はあるが、ウイルスやその部分を自由自在に改変し、感染させたり、部分的に活性分子を合成したりと、創薬には欠かせないウイルスを用いた研究が加速される。

他にも、コロナウイルスゲノムがコードする全タンパク質と相互作用する人間の分子を網羅的に調べたカタログが、米国のcovid-19研究コンソーシアムから発表された。

こうして出来たマップには、これまで考えもしなかったようなヒト分子が、新型コロナウイルスタンパク質と相互作用する可能性が示され、現在治療に使用されている薬剤を含め、様々な治療薬の可能性が示されている。このような網羅的なプラットフォームがこのスピードで出来上がってくるのは、これまで誰も経験したことはない。

網羅的なプラットフォームだけではない。クライオ電顕法のおかげで創薬標的になると思われる重要なウイルス分子の立体構造は続々明らかになっている。ウイルスの感染に重要なスパイクタンパクの構造解析に始まって、例えば日米の政府が承認を急ぐレムデシビルとウイルスのポリメラーゼタンパクの構造解析が報告された。

恐らくアビガンとの結合も明らかになっているだろう。これらの解析結果は、スクリーニングを飛ばしてさらに高い活性を持つ薬剤の開発につながる。タミフルの時のように、WHOの号令のもと各国政府が備蓄に走り、再び3兆円という金が転がり込むことも夢ではないとすると、抗ウイルス薬開発競争はますます加速すると思う。

重要なのは、副作用の問題はあるが、このようにして生まれる薬剤は原理がわかっていることだ。その意味で、レムデシビルやアビガンを現在コンパッショネート使用することは問題ないと思う。オープンラベルでもいいので、これらのデータは集めて詳しく分析することが重要だ。このデータが、さらに高い活性の薬剤の開発に役立ち、ICUやベンチレーターの必要性を減らすことにつながる。

しかし、一種類の抗ウイルス薬だけでウイルスを撲滅することが難しいのは、単剤でHIV治療を行なっていた頃の経験からわかっており、現在ではメカニズムの異なる多剤併用が当たり前になった。またC型肝炎ウイルス薬ハーボニーは最初から標的の異なる二種類の合剤になっている。したがって、ポストコロナでは早期かつ短期に多剤併用を行い、ARDSの阻止が図られると思う。

多剤併用を考える時、ウイルスの細胞への侵入阻害は重要な戦略だが、このことはエボラウイルス治療からも学ぶことができる。以前紹介したがレムデシビルを含む4種類のエボラウイルス治療薬の比較では、通常の方法で作成された2種類のヒト型モノクローナル抗体が死亡率を下げる効果を発揮した(https://aasj.jp/news/watch/11936)。

まだモノクローナル抗体を用いた治療薬が利用できる段階ではないが、すでに紹介したように新型コロナウイルス肺炎の重症者に、回復患者さんの血清が高い効果を示すことが明らかになっている(https://aasj.jp/news/watch/12765)。この時紹介した3編の論文を合わせると20人の重症者のうち19人が退院している。しかも1回の投与で高い効果を示すことを示すようだ。

もちろん早期治療に回復患者さんの血清を用いることは現実的ではない。しかし、回復患者さんからのガンマグロブリンを治療薬とする開発は武田薬品などで行われているし、何よりもすでに新型コロナウイルスの感染を防ぐモノクローナル抗体の報告が始まっている。まずオランダのグループからSARSに対するヒト型mAbが新型コロナ感染を抑えることが報告された。

さらに驚くことには、ラマから調整した一本鎖の中和抗体すら開発されている。

ラマ抗体は何度も注射するとアナフィラキシーの心配はあるが、大腸菌や酵母で大量生産できるので、極めて安価な抗体として利用価値が考えられる。

これは手始めで、今後高い抗体価を示す回復者のB細胞から直接遺伝子を取り出して合成した抗体は1ヶ月以内に報告が続くだろう。製薬会社でも例えばAmgen社は抗体薬開発が進んでいることをアナウンスしている(https://pharmaintelligence.informa.com/ja-jp/resources/product-content/amgen-adaptive-partner-in-covid-19-neutralizing-antibody-research-and-development-effort)。おそらく多くの会社が、モノクローナル抗体の開発にしのぎを削っている。

これから予想される進歩を総合すると、ポストコロナでは症状が出た後、遺伝子検査で確定診断を行い(昨日述べたように感染についてはすぐに診断可能になる)、その時利用できる最も有効な多剤併用(感染阻害のmAも期待している)を短期間行うことで、ICUの必要性を大きく減らせるように思う。ARDSへの進展がかなりの程度阻止できれば、感染自体は医療コストはかかっても、インフルエンザレベルの疾患として扱えるし、感染しても治療可能なら、社会に及ぼす感染の恐怖は大きく軽減されると思う。

とはいえ、今後開発される様々な薬剤の治験をどう進めるかという大きな問題がある。すなわち、次の流行を待って治験が行われるとすると、社会へのストレスは計り知れない。諦めて「ウイルスと共存」などと警告を発する科学者は多いが、私は諦めずに策を講じるべきだと思う。

まず既存薬の転用も含め、開発できた薬剤はできるだけ早く第1相治験を済ませておく。そして、メカニズムの異なる2−3種類の組み合わせセットをいくつか決めて、エボラ治験で行われたように、無作為にそのセットの中から選んで、完全なコントロールのない治験を行なったらどうだろう。また、短期決戦なので、1週間目でウイルス量も含めた検討を行い、効果がなかったグループは、効果があった方に組み入れていけばいい。

これは全てコンパッショネート使用になるが、パンデミックの薬剤効果判定を今まで通りの治験手法で行うかどうか、一度議論してみればと思う。例えば今報告されている治療法のほとんどは、オープンラベルで、医療統計学的に信頼できないという話がすぐ出てくる。私は、この機会にパンデミックに限って、新しい有効判定の可能性を議論してもいいのではと思っている。

以上が、ポストコロナの抗ウイルス薬だが、新型コロナの2、3波はこれで対応できても、全く新しいパンデミックについては、別の対応が必要になる。今回の経験から、ウイルス特定についてはかなり迅速にできることはわかったので、国際協調さえしっかりしておれば、効果のある薬剤候補は比較的早期に決められるかもしれない。

また、インフルエンザのように様々な動物内のウイルスをモニターして新たな感染をAIなどで予測できるようにするのも重要だろう。例えばコロナウイルスについてミャンマーに生息のコウモリを調べると7種類のコロナウイルスが見つかったという報告がある。このようなモニタリングは、国際協調で情報開示のもとで行えば、今回武漢の研究所に向けられたような疑惑も解消するだろう。

何れにせよ、新しいパンデミックに備えるためには、私たちはウイルス感染による体のダメージについて深く理解する必要がある。多くのウイルスは、細胞内で増殖すると、ホストの細胞は死ぬ。神経細胞の場合は代換えが効かないため、そのまま麻痺が残ったりするが、上皮などは再生能力を持つため、新しい細胞に置き換えられる。しかし、ウイルスに対するホストの強い反応が誘導されてしまうと、いわゆるサイトカインストームが起こり、これが重症化の原因になる。

ただ致死的なサイトカインストームを起こすウイルスは、自分自身この嵐を避ける特殊なメカニズムを持っている。このメカニズムは、エボラ感染症と、新型コロナウイルスも含めたSARSでは共通で、いずれもインポーチンの作用を阻害して、STAT1の核内移行をブロックして、インターフェロン産生を止め(https://aasj.jp/news/watch/2023 およびhttps://aasj.jp/news/watch/12749)自身を守る仕組みが、さらにウイルスを叩こうとするサイトカインストームの原因になっている。

他にも薬剤過敏症候群のようにウイルス感染が併発するアレルギー(https://aasj.jp/news/watch/12272)や、遺伝子欠損による悪性自己免疫でも進行性のサイトカインストームが起こることがある(https://aasj.jp/news/watch/5669)。このように、このHPで紹介しただけでも、致死的なサイトカインストームの原因のいくつかは特定され、それぞれに対する新しい治療法も開発されてきた。新型コロナウイルスの場合、IL-6に対する抗体、アクテムラが著効を示すことが示されているが、今後は他のサイトカインストームに対する薬剤の報告も集まるだろう。このように、典型的サイトカインストームを示す病態についての知識を整理しておくことは、ウイルスを直接叩く方法がない時期でも、新しいウイルスパンデミックに対応できる。現在の可能性としては、IL-6抗体、Jak阻害剤、IL-1β阻害剤などが利用可能だが、このレパートリーを増やしておくことはポストコロナの新しいパンデミックに対応するには重要だ。この時重要なポイントは、診断基準を整備し、ウイルス名がはっきりしなくても、サイトカインストームとして治療可能にすることだろう。

同じように、強いサイトカインストームと、血栓症の関係が今回のパンデミックでも注目されているが、重症化という共通項を理解するには極めて重要なぽいんとだ。ただ今回は、長くなるので割愛する。ぜひこれまでこのHPに書いたブログをお読みいただきたい(https://aasj.jp/news/watch/12972)。

大事なことは、治療法開発により、感染による社会的恐怖を除くということで、今回のパンデミックでこの開発に火がついたことは心強い。

今回ワクチンまでと思ったが、ワクチンは次回に回す。

ポストコロナを支える技術:隠居の無責任な独り言 1

2020年5月6日

昨日年甲斐もなく頭に血が上ったせいで、隠居の身を顧みず、ポストコロナを支える技術について最新の状況を説明すると言ってしまったので、2回にわけて私が面白いと思った技術を紹介してみたい。1回目は、公衆衛生、診断についてで、2回目は治療についてだ。適当に論文のタイトルをペーストするが、他にも多くの論文があることを前もって断っておく。

さて医療で重要なのは、早期発見、リアルタイムの実態把握、治療資源の集中投入だ。当然公衆衛生でも同じだが、政策を伴うので、データをわかりやすく翻訳して政府に進言することが必要になる。全国レベルで資源の集中投入などあり得ないことを考えると、全国一律に緊急措置を出したにせよ、同じ対策を全国に強いることは間違いだ。

都市のロックダウンが馴染むかどうかは別として、もし感染が始まったら、問題のある対象地域を特定し、そこに資源や人を集中させることが重要になる。現在医療崩壊の危機が訴えられているが、集中のためのプランがなく、全国一律に同じペースでクラスター探しや、隔離政策を進めてきた結果だと思う。

いずれにせよ、ここでは収束後を考えている。今回の学習をもとに、第二波に備えて、集中的に資源を投入すべき地域を特定して(これに科学が必要だ)、そこに人や資源を投入できる体制を構築し直さなければならない。しかし第二波に備えるにしても、武漢のように1000ベッドの感染症専門病院を我が国で用意することは、大都市圏以外は難しい。すなわち、緊急時への備えをどの規模でやるか様々なアイデアが必要になるだろう。一つヒントになるかなと思うのは、以前訪問して印象に残った、レバノンからのミサイル攻撃に備えて、病院の地下駐車場がいつでも病室に変換できるようパイプを張り巡らせていたHaifaの病院だ。(http://jerusalemworldnews.com/2012/06/08/worlds-largest-underground-hospital-opens-in-haifa/)。日本では戦争に備えることはないと期待できるので、地上の駐車場改造で十分だ。これは一例だが、これまでベットの回転率だけを重視してきた厚労省の方針は見直されるだろう。ただ、緊急時に向けた用意を最小コストで行う工夫を早急に議論して間違っても平時には使わない病院を林立させるのはやめてほしい。そして余裕のための資源の管理は、国レベルの備蓄として準備することで、資源の集中投入のための準備を整えてほしい。

いずれにせよ緊急状態は、場所と時期両方の把握が重要で、これが的確に行える備えが必要になる。私には専門外の資源の集中についての議論はこのぐらいにして、早期発見、現状把握についてみていこう。

今回初動の遅れが問題になっているが、専門委員会のメンバーの中には極めて早い時期のロックダウンの必要性を示唆していた人がいたと聞いている。すなわち、今回我が国で初動が遅れた原因は、科学でもなんでもなく、科学者と政治家の関係の未熟さに尽きる。しかしそれでも、はっきりとしたデータがあれば安倍内閣や役所でも決断できたかもしれないし、あえて決断しない場合も科学データを無視したというはっきりとした証拠が残る。

したがって、初動のための早期感染検出法の開発は必須だ。新型コロナ第二波の場合、相手がわかっているので、外国から感染が持ち込まれる場合は、国際協調による情報の収集と、検疫が重要になる。ただ、入国時に全員検査をしたり、入国後14日間隔離などと言った方法は平時には取れない。したがって、飛行機の場合は乗る前に感染していないこと、あるいはすでに感染して抗体を持っていることを迅速に検出し、個人や旅行会社に通知するシステムが必要になるだろう。このような迅速な方法については現在続々開発が進んでおり、いずれも1時間以内に診断できる。費用は飛行機のサーチャージと同じでもちろん個人持ちになる。

このような検査は常に偽陰性や感染経過による検出ミスがつきまとうが、100%を追い求めても意味がない。この時、個人の検査だけでなく、飛行機、あるいは空港といった領域にいた人たちの感染状況を、トイレの下水などを利用してより厳密な方法でモニターすることは役に立つ。飛行機ではないが、居住地区の下水でモニターする可能性については((https://aasj.jp/news/lifescience-easily/12703))論文を紹介した(以下の論文)。

https://aasj.jp/wp-content/uploads/bbb3bc791018d4a9d637b67b87be5a59-1024x457.png

幸いコロナウイルスの断片なら便に排出されることがわかっているし、また無機物の表面中に数時間は存在している。おそらく下水だけでなく、室内の空気をエアートラップ採取してもモニターができるだろう。この場合個人の検査と違って誤診は許されないが、アラートが出ることで、市民の注意を喚起できる。

ただ我が国での流行状況を考えると、新型コロナの第二波は国内から起こる確率が高い。この場合、できるだけ早く感染流行が始まる場所と地域を特定することが重要になる。現在このモニタリングは病院を訪問した時の診断で行われる。ただ、これ自体が感染を広め医療崩壊を招くという懸念が今回よくわかった。従って、ここが工夫のしどころで、収束後も感染が疑われる患者さんの動線をできるだけ分離する発熱外来の維持と、迅速な検査体制が必要になる。しかし個別の受診から感染地域の特定まで、大きな時間のズレが生じる可能性がある。

これを補うのがウェッブ検索や、SNSでの会話に出てくる単語のモニタリングだと思う。例えばずいぶん昔になるが「疫学はWiKi学になる?」と紹介した論文(https://aasj.jp/news/watch/1429)では、インフルエンザ流行をほとんど1日程度のずれで察知できることが示されている。

また最近も、嗅覚や味覚がなくなることに関わる検索数が新型コロナ感染数とリアルタイムで一致しているという報告を紹介したが、SNSのモニタリングは、特定領域で感染症が始まっていることを知るアラートとして大いに役立つ(https://aasj.jp/news/watch/12806)。要するにビッグデータに基づくアラート体制を取ることが重要だ。

とは言え、この方法で病気の特定は不可能だ。その時は、先ほど紹介した下水や環境のモニタリングを組み合わせて、リスク評価をすることが重要だ。

さて、感染がキャッチされれば、感染状態の正確な把握は政策にとって必須になる。我が国ではいまだにPCR数についての議論が続き、4日の緊急事態延長宣言では、PCR数増加を阻む目詰まりについて問い詰められた委員会や政府が責任転嫁をしている有様だが、感染状況の把握をおろそかにしたことを反省すべきで、PCR数の増加の問題ではない。いずれにせよ、収束後同じ問題が再燃しないよう手を打つ必要がある。

今回十分学習したので、収束後は各診療単位で疑われたケースは速やかに検査を行うということに支障はないだろう。さらに、SNSのモニタリングや下水のモニタリングも組み合わせて感染の広がりを把握できるようになる。また、地域でのランダムサンプリングによるウイルスや抗体の検査による状況把握もできるだろう。

この時必要な技術が、現在議論の的になっているPCRかどうかは考えておく必要がある。第二波が新型コロナウイルスと決まっておれば、より迅速な方法が必要になるだろう。保健所のキャパシティーなどというボヤキが出ない方法を定着させることが重要で、例えばサーマルサイクラーを使わない技術など、理研林崎さんの方法も含めて目白押しだ。他にも国立感染研の開発した技術もある。

しかし、これらの技術は多くのウイルスを同時に検出したり、あるいは将来増幅が必要ではない方法への発展性に問題がある。個人的には以前紹介したように(https://aasj.jp/news/watch/12887)、クリスパーを用いる技術に期待している。

https://aasj.jp/wp-content/uploads/67496e6ffb6945580a92cf39ba867909-1024x369.png

上の論文はまだ、新型コロナウイルスの検出法としてクリスパーを使うという話だが、可能性のあるウイルス全体に網をかけて検出するという可能もすでに議論され、一つの方法がNatureに発表された。

ガイドRNAだけを増やせば病原性ウイルスを一網打尽に検出できることから、新しいウイルスが発生しても、ゲノムデータがあれば、迅速に対応できる。

このように、ポスト・コロナについて言えば、新型コロナウイルスの第二波だけではなく、新しいウイルスにも対応でき、しかも迅速診断可能な技術が必要だが、多くの技術がすでに実用可能になっている。PCRが少ないという批判がトラウマになって、ただただPCRにこだわって将来を計画するのではなく、どの技術を選ぶのか今から議論することが必要だと思う。

これまでの議論は全て、従来の公衆衛生政策の効率化、すなわちトップダウンの政策の延長として考えてきたが、ここで大きな発想の転換をして、ボトムアップの公衆衛生が可能かを考えたら面白いと思う。というのも、感染症の場合、感染者も健常人も全て「Stay Home」が原則になる。とすると、Homeで病気を判断できるようになることが究極の解決になる。

遠隔診療が解禁された今こそこの転換のチャンスだ。おそらく感度は問題だとしても、ウイルス抗原検査なら自宅でもできるようになるだろう。またどこででもできるウイルス検査法の開発競争は凄まじく、選択肢は大きい。

自宅でウイルス診断をすると最初からゴールを定めればリーズナブルなコストの検査が可能になるように思う。さらにAIも駆使して、かなりの判断が自宅で可能になり、遠隔医療で医師に相談できるとともに、そのまま公衆衛生プラットフォームにデータが蓄積できれば、ボトムアップの公衆衛生が可能になる。このような仕組みは、かかりつけ医制度の再構築という厚労省の目的にも合う。

ボトムから感染症に対応する仕組みは、我が国にゲノムサービスなどの新しいチャンスももたらす。たとえば、コロナ感染や重症化と相関する遺伝子は必ず明らかになってくる。前に紹介したように個人のHLAタイプからT細胞免疫を予測する方法も開発されている(https://aasj.jp/news/watch/12923)。他にもコロナウイルスの感受性に関して多くのゲノムデータが集積するはずだ。このようなデータを自覚症状リストなどと統合して、個人の判断をより正確にすることは可能だ。

このような話をすると、「自宅では難しい、不正確だ、偽陽性をどうするのか、プライバシー侵害」と言った批判が専門家から湧き上がる。しかし、感染症という隔離が必要な「個人の病気」は、新しい仕組みを必要としている。

我が国でも、検診データ、服薬記録など、様々な個人医療データを統合する仕組みができつつある。まだまだ入り口とは言え、遺伝子検査サービスを受けた人たちも数十万人いるのではないだろうか。米国では2千万人に上っており、我が国でも必ず同じようになる。とすると、思い切って感染症も、社会問題としてだけでなく、個人の問題として解決する方法を模索することで、感染症でも医療に対する満足度が高まり、新しい医療システム構築すら可能になる気がする。

次回は治療とワクチンを取り上げ、感染の恐怖を医療を通して解決する方法を考えてみたい。

ウイルスと闘う人類の多様性:以前紹介したネアンデルタール遺伝子研究を再読して、科学技術会議の提言について色々考えた(2018年10月4日号 Cell 掲載論文)

2020年5月5日

京大皮膚科の椛島先生のおかげで、皮膚科の授業の一環として学生さんに講義させていただいている。皮膚科でもない、しかも現役引退した私なので、この機会を皮膚科疾患を進化の視点から学び直す機会にして、それを学生さんと共有することにしてきた。ところが今回のコロナ騒ぎで貴重な学生さんとの「対面」講義が禁止された。語りかけることができない問題をなんとか補おうと、今年はより時間をかけて準備し、録画として提供することにした。

そんな準備をしている中で、以前このHPで紹介したネアンデルタール人から我々に伝わったゲノム遺産の多くがRNAウイルスに対する抵抗性に関する遺伝子であるという論文が目に留まり、今年の授業でも使うことにした。

詳しい内容はすでに紹介しているので(https://aasj.jp/news/watch/9071),ぜひそちらを読んで欲しいと思うが、ネアンデルタール人との交雑を通して私たちのゲノムに流入し、遺産として保持されてきた遺伝子の多くは、ウイルス抵抗性に関わる遺伝子で、それもRNAウイルス(HIV、インフルエンザ、C型肝炎ウイルス)に対する抵抗性に関わる遺伝子が多いという結果だ。

何をウイルス関連遺伝子とするかなど様々な問題はあるが、この論文がレフリーを通った最大の理由は、私たち科学者が、人類はゲノムの多様性を生み出すことでウイルスと戦ってきたと確信していたからだろう。この確信にピタッとはまったおかげで、Cellに掲載された(通常このような場合は問題が起こることも多いのだが)。

この論文を読みながら今年の講義の準備をしている時、緊急事態宣言延長のニュースを聞いた。この決断については、判断材料を持たない私も文句はないが、同時にメディアで流れた専門家会議の提案する「新しい生活スタイル」には、耳を疑った

この提言では、私たちは感染を恐れる社会を形成すべきで、そのために彼らが示す決まった生活スタイルを出発点とした未来=new normalを築く必要があると例を挙げて示している。そしてそこで提示されたスタイルは例えばライブハウスの否定だ。要するに多様性を排して、感染に備える統一的生活スタイルだ。レストランでの過ごし方などを読むと、まさに習近平中国が行なっている統一的生活の勧めとほとんどオーバーラップする。

要するに、科学者が自らの職務を忘れ、「感染をおそれよ」という知識だけを社会にフィードバックしている有様を見て、暗澹たる気持ちになった。安倍政権や政府が統一的生活を勧めたとしても私は驚かない。しかし、文化の多様性を排する世の中を科学者が提言することで、科学への不信がどれほど増すのか、専門委員会はわかっていない。

科学者にとって大事なことは、健康とともに文化の多様性を守るために科学ができることを提示することだ。新型コロナについての論文が1万に近づいているということは、世界中の科学者が科学研究でこのウイルスに立ち向かっていることだ。今の時点で、この1万編の論文とそれぞれの経験から何を提言できるかが問われている。

これらの論文に接しておれば専門外の私でも、コロナ以降の世界に必要な新しい技術が想像できる。3密やsocial distanceは旧来の感染症の知識から導かれる指標で、そこから一つの文化が生まれることは否定しないが、それだけでは人類文化の多様性は維持できない。専門家委員会には世界から尊敬される科学者も入っている。その人たちの意見が全く見えずに、「感染をおそれよ」というメッセージ以外出てこないのは、おそらく全てを役所が仕切ろうとしているからだろう。今こそ科学者は科学者としてもっと発言すべきだと思う。

「批判だけでは何も出ない」という声が聞こえるので、次はポストコロナを支える技術として私が期待している候補を解説することにした。乞うご期待。

医療現場の窮状がわかる悲しい2論文

2020年4月30日

どこの国でも、一つの病気で1ヶ月に1万人近い死者がでれば、医療現場は対応しきれない。それでも救える命なら一人でも救おうと世界中で医療従事者たちは奮闘している。この様子は多くのメディアにより報道されているが、この窮状は専門の医学誌に投稿された論文からも伺える。

今日紹介する2報の論文は、胸が詰まるほど悲しい論文で、covid-19感染大爆発が起こったイタリアと米国からの論文だ。いずれもOpen Accessで多くの医師と情報を共有するために書かれた論文だ。

最初はボローニャの大学病院から胸部疾患の専門誌Thoraxに発表された論文で、一台の人工呼吸器を二人の患者さんに同時に使うための方法を説明している。

よく読んでみると、このアイデアはSARS流行時に提案され、動物実験で可能であることも確かめられている。また、イタリアだけでなく、米国の病院でもすでに実施されており、マニュアルについてはウェッブでも公開されている。ただ、Thoraxのような専門誌に正式に発表されたのはこれが初めてだろう。

実際には二人の患者さんを1台のベンチレーターにつなぎ、様々な条件を調べて、同じ体格など対象を選べば、十分可能な方法であることを示している。とはいえ、医学的にはこれは決して標準ではなく、一種の苦渋の選択であることも強調しており、辛い選択は続いているのだろう。何れにせよ、イタリアだけでなく多くの病院で同じ治療が行われており、今後結果が集められ報告されるように思う。

個人的印象だが、このようなデータを集めて、例えば4人の患者さんに同時に使えるベンチレーターは現代の技術で開発できる気がする。

もう一報も資材不足に医療現場がどう対応すればいいのかについての論文で、アメリカ外科学会の雑誌にワシントン大学から報告された。

内容だが、高性能医療用N95マスクを病院全体で回収し、過酸化水素蒸気でウイルスを除去する再生サイクルをどう設計すればいいのかについて詳しく述べており、情報共有として論文発表をしている。

いずれの論文も、先進国の医療体制の脆弱性を物語る悲しい論文だが、この状況を自ら改善しようと医師たちが不断に努力していることもよく分かる、励まされる論文でもあった。

AASJの友人 吉田尚弘さんからの特別寄稿:医師が新型コロナウイルスにかかったと思ったらどうするか?

2020年4月27日

COVID患者と濃厚接触した可能性が高くて、でも症状がないから自宅待機、後から発熱しても、
「熱が一週間程度続いてるくらいではPCR検査しない。検査体制も崩壊寸前なんだから医療者なら協力して我慢しろや。」
と、言われたら

自分なら

1. 家族や猫ちゃんとのスキンシップは控えて、別室で過ごす。寝るのも別室。食事も別の部屋で食べて、食器は紙の食器に割り箸。ゴミは自分でゴミ袋に詰めて、次亜塩素酸をしゅっしゅしてから廊下に出して捨ててもらう。
トイレも家族とは共用しない。シャワーは最後に浴びて、窓を開けて換気扇もまわす。洗濯物は次亜塩素酸をしゅっしゅしてしばらくしてからお願いする。

2. アルコールと精製糖質の摂取を控えて(ま、できる範囲で(・_・;)食物繊維とタンパク質をしっかり摂取する。ストレスをハイボールやカップ麺やチョコレートで解消しないようにね。

3. 亜鉛、ビタミンC、ビタミンDなどの免疫力を上げる可能性のある薬やサプリメントを意識的に摂る。納豆や豆腐などの大豆製品を意識的に摂る(ニコチアナミンにちょっと期待)。しっかり寝る。

4. 体温と併せて酸素飽和度をこまめにチェックして記録する(パルスオキシメーターは自宅用を買いました)。トイレまで歩く程度で95%下回るようなら重症化しかけてるからとすぐに連絡して検査、対処をお願いする。

発熱や咳などの明らかにCOVID感染を疑う症状があるけど重症化の兆しはないから引き続き自宅待機しなきゃ、なら

5. 氷冷、カロナール、麻黄湯で対症療法する。
凝固亢進がよろしくないのでトランサミンは服用しない。トランサミン入りの総合漢方薬も避ける。NSAIDsも避ける。

6. 肺の微小血栓による重症化予防に抗凝固剤、イグザレルト10mgを内服開始(血小板数が落ちてないことは前提)

7. TMPRSS2の阻害剤、カモスタットを600mg分3で内服開始(ナファモスタット注射の方がいいけどとりあえずこれで)

これだけやれば自宅待機中に重症化が一気に進む可能性は低いかなと期待する。

ただし、自宅待機に入る前に上述の内服薬は準備しておく必要がある。
自宅待機に入る前に血液・生化学検査も済ませておくこと。

これ、あくまでも医師である自分用の覚え書きです。お勧めしているわけではありませんのでご了承くださいね。

新型コロナウイルス肺炎:最近気になった論文をもとに頭の整理をしてみた。

2020年4月24日

多くの国で新型コロナウイルス感染の勢いが少し落ちてきたようだが、今日の時点でcovid-19でPubMedを検索すると、この病気(以後covid-19)に関する論文は6500で、最初の論文が今年の1月だったことを思うと、指数関数的に増殖中といっていいだろう。隠居していても論文を追うだけで、世界の医学者が一つの目標を共有しているのを感じられる。

特に最近感じられるのは、臨床や病理についての論文が増えて、徐々に症状からメカニズムまで頭の整理ができてきた点だ。整理がつくと新しい課題もわかってくる。そこで自分の頭を整理する意味で、時間軸に沿ってcovid-19感染症についてまとめてみることにした。

三密とか、social distancingなどはすっ飛ばして、感染してからを考えてみる。

最も重要なのは、感染がどこから始まるか?だが、よほどの濃厚感染でない限り、おそらく鼻粘膜が最初の入り口になるのだろう。以前紹介したように、SARS-CoV-2(V2)が感染するためにはホストの細胞にACE2とTMPRSS2が発現していることが条件になる。

4月23日にオンライン出版されたNature Medicine(上図)によると、この条件を満たす臓器は、鼻粘膜、肺、大腸、胆嚢で、例えば飛沫を吸い込んだとすると、ほとんどは上気道でトラップされることを考えると、鼻粘膜の分泌細胞や繊毛細胞が最初のウイルス増殖の場になると考えられる。

この可能性は、最近ドイツ・シャリテ病院がNatureに発表した、covid-19に罹患した9症例の詳しい検討からも裏付けられている。

この研究によれば、症状が現れてから5日程度は鼻粘膜のシュワブに最もウイルスが検出されており、その後10日にかけて減っていく。おそらく初期に嗅覚や味覚が失われるのは、この時期を反映しているのだろう。

少ない症例ではあるが、この研究で最も驚くのは、半分の患者さんがIgM,IgG抗体を7日までに作るようになり、14日までにはほぼ全員が抗体を作っている点だ。すなわち本来なら、ここで感染は収束してもいいことになる。ほぼ8割の人が、症状が出ても軽症で終わるというのはこれを反映している。

この研究でも2例が軽症の肺炎まで進んでいるが、残りはこの第一段階で回復している。重要なのは、抗体の量だけで第二段階の肺炎まで進むかどうかは予測できない点だ。何れにせよ、肺の感染が起こると、さらに長期間感染性のウイルスRNAが痰の中に検出され続ける。

一方肺炎期も含めて、便にもPCRでウイルスRNAが検出されるが、感染性のウイルスが全く検出できないことから、大腸や胆嚢に感染条件が揃っていても、ウイルスは上部消化管(おそらく胃で)不活化されるのだろう。

ここで最も知りたいのは、上部気道から肺への感染が広がる経路だが、おそらく気道を通ってと考えるのが一番自然だろう。この場合、血清中の抗体がまだ役に立たないことも十分考えられる。また、前の論文に戻ると、肺で感染条件を備えている細胞の比率は上気道と比べると極めて低いことがわかる。とすると、上気道を伝わってウイルスが伝播しようとしても、確率は高くないはずで、この時運悪く肺の分泌細胞に感染した人が2段階へと進むことになる。

鼻の細胞もそうだが、肺で感染条件が揃った細胞は、自然免疫にかかわる分子を発現していることから、ウイルスの刺激によりサイトカインやケモカインを分泌する。当然これが、重い肺の症状につながっているのだろう。悪いことに、V2はSARSと同じで、STAT1を抑制することで1型インターフェロンの転写を抑える仕組みを持っている。これはエボラウイルスも同じだ。このため、ウイルスを叩こうと自然免疫がより強い反応を起こして、重度のサイトカインストームを伴うARDSへと発展するのだと思う。

以前紹介したが、ARDS段階でもウイルスに対する抗体治療はかなり効果を示す(https://aasj.jp/news/watch/12765)。従って、肺で新しい細胞へ感染が続くことがARDS維持の大きな要因になっていると考えられる。さらに、抗体治療後かなり短期間でサイトカインストームも抑えられていることを見ると、ウイルス粒子自体が細胞表面状のTLRを介してサイトカインストームに寄与しているかもしれない。

肺炎段階は多様性が高く、重症ではあるがそれでも多くの患者さんは回復できる。問題はその中の一部の患者さんが、ショック状態を来して亡くなられることだ。これについては、重症の患者さんで、d-ダイマーと呼ばれるフィブリンの分解産物が高く、DICと呼ばれる血管内凝固が起こっていることがヒントになるだろう。そのため、マサチューセッツ総合病院では、抗凝固剤治療を入院時のルーチンとして行うべしというマニュアルを作っている。

これに加えて、個人的に気になるのが、最近続いているACE2の発現が見られない細胞へのコロナウイルスの感染だ。例えば、4月17日にチューリッヒ大学のグループがThe Lancetに発表した3例の剖検例では、全員で血管内皮へのV2の感染を確認している。この論文では低いレベルでもACE2が血管内皮に発現しているからだと結論している。

しかし、同じ4月17日The Lancetに中国のグループが発表した仮説は、他にも感染経路があることを教えてくれた。

この論文では、一部の人で病状が急速に悪化し、全身性ショックに至るメカニズムについて考察している。考察自体は断片的で、ウイルス敗血症という概念だけを強調した仮説だが、この中でウイルスが全身に広がるメカニズムとして、ACE2を発現しないT細胞やマクロファージにウイルスが感染していることを示した論文が引用されており、本当なら面白いと思った。

というのも、抗体によってウイルス感染が急速に悪化するケースが知られているが、一つの可能性はウイルスに結合した抗体が、マクロファージやリンパ球のFc受容体を結合して、これがウイルス感染を助ける可能性だ(これは想像しているだけで、エビデンスに基づいて言っているわけではない)。もちろん、直接貪食によって取り込まれることもあるかもしれない。しかし、一旦マクロファージやリンパ球にウイルスが取り込まれると、全身性の感染症へと発展してもいい。この経路ができてしまうと、肺炎と同時に着々と全身性感染の準備が整っていく。これはウイルスが血中に出てくるという単純なものではなく、ウイルス感染の拡大と、その結果としてのサイトカインストームが全身で起こるようになり、その結果としてDICによるショックが予想以上のスピードで起こるのかもしれない。

最後の段階は本当かどうかはわからない。今後、血球も含めたウイルス検査や、DIC予防などのデータが集まることで、可能性は確かめられるだろう。何れにせよ、これがcovid-19についての私の頭の整理だ。