究極の遠隔医療:スペースミッション中に発生した頸静脈血栓症
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究極の遠隔医療:スペースミッション中に発生した頸静脈血栓症

2020年1月9日

我が国でも遠隔医療に対するガイドラインが制定され、徐々にオンラインで医療を提供する機関が増えている。しかしほとんどは病気についての相談で、例えば医療従事者が全く存在しない地域で、緊急の診断、治療を行えるような体制が取れるまでは、時間がかかるだろう。

しかしこんなケースが最近国際宇宙ステーションで突発したようで、この時の経過が1月2日号のThe New England Journal of Medicineに発表されたので紹介する。

何か症状が現れて見つかったわけではなく、宇宙での血管状態を調べる研究で超音波検査を宇宙飛行士同士で実施している時、左頸静脈に血栓が発見されたのが発端だ。

(これからわかるのは、遠隔医療に頼る場合は、超音波診断器は強い味方になるので、一般の人でも使えるようなシステムが開発されることは重要だ。)

画像は地上の専門家により精査され、極めて大きな血栓で治療が必要と判断された。血栓破壊術などは不可能で、普通こんな場合経口抗凝固剤を用いるが、常備されていたのがヘパリンだけだったので、診断翌日にはヘパリンの静脈注射を始めることに決まった。

(無重力状態でバイアルから注射器に移すのは至難の技らしい)

この間、血栓の大きさが減ることを確認し、ヘパリンの量を減らしながら43日間静脈注射を続ける一方、次の補給船で経口抗凝固剤を届けることに成功し、ミッション終了の4日前まで服用を続けている。船上の検査では、血栓は縮小しても、最後まで自然血流は強く障害されていた。

着陸時に大きく血流が変化することが予想されたので、抗凝固剤投与を中止した後、着陸している。驚いたことに、着陸直後の検査で、自然血流が回復し、血栓もかなり消失していることが確認された。その後24時間経って再検査した時には、血栓はほぼ消失してその後全く問題がない。

健康人にこれほどの頸静脈血栓が発症することは普通予測できない。おそらく血流が大きく変化する無重力空間のせいだと思われるが、だとすると今後も同じようなケースが出る可能性がある。

しかし今回のケースは究極の遠隔治療と言える。このような経験が積み重なって、医師のいない地域の遠隔医療でできること、できないことが仕分けされ、システムを完成させることができるようになるのだろう。今後高齢化が進む我が国にとっても重要な問題だ。

電子タバコによる肺損傷の原因がビタミンEアセテートに絞られてきた。

2020年1月5日

Nature Medicineが昨年の医学トピックスとして真っ先に挙げたのが、電子タバコによる肺の損傷が英国や米国で報告されたことだ(図下)。

米国ではなんと2400人の患者さんが病院に緊急入院し、そのうち半数が集中治療室での治療が必要で、すでに52人が死亡し、大変な問題になった。

この原因が電子タバコによることは聞き取り調査などからわかっていたが、最終的な原因物質については特定に至っていなかった。

これに対し米国CDCが全力をあげて調査した結果が1月3日号のThe New England Journal of Medicineに発表された。

研究では患者さんの肺の洗浄液を集め、電子タバコに含まれており、しかも肺損傷を起こした患者さんだけに存在している化合物を探索し、51例中48人でビタミンEアセテートが含まれていることが明らかになった。

聞き取り調査などから、このビタミンEアセテートはテトラヒドロカンナビノールと呼ばれる大麻成分を溶かすために使われており、8割の人がこの大麻成分を蒸気化して吸っていたことを告白している(Wikipediaに典型的製品が公表されている)。

以上のことから今回の肺損傷の原因は、電子タバコというより、大麻成分を溶かしていたビタミンEアセテートが限りなく黒に近く、ビタミンEアセテートが含まれない電子タバコは他の害はともかく、肺障害については問題ないと結論されたと思う。いずれにせよ、ビタミンEアセテートが含まれているかどうか、各社早急に声明を出したほうがいいと思う。

ビタミンEアセテートはもちろんサプリメントとしても使用され、皮膚のクリームにも使われている。なのにどうして肺でこのような激烈な症状が出るのか不思議だ。現在のところ、長い脂肪鎖を持っており、これが肺を膨らませるのに必要なサーファクタントに潜り込んで機能を障害するのではと考えられている。

他にも、蒸気化するための高温に晒されて、肺障害性の化学物質に変化する可能性も示唆される。

いずれにせよ、ここまでくればあとは動物実験ではっきりと真偽が確かめられるだろう。論文が発表され次第報告する。

気になる治験研究2:インフルエンザに対するタミフルの効果 ( The Lancet オンライン掲載論文 )

2019年12月30日

タイトルを見て「タミフルがインフルエンザに効くかどうかを今更調べることもないはずだ」と驚かれる人も多いだろう。

調べたわけではないが、おそらくインフルエンザウイルスが検出されると、我が国では患者さんの状態に関わらずタミフルなど、抗インフルエンザ薬が投与されのが普通で、実際テレビメディアでも処方が当たり前のこととして報道されている。

しかし、例えば米国の疾病コントロールセンターのガイドラインで投与を推奨している対象は、1)入院が必要な重症患者、2)2歳未満の幼児、3)65歳以上の高齢者、4)妊婦、5)様々な合併症のある患者、6)免疫抑制中の患者、などに抗インフルエンザ薬投与は限られ、それ以外は様子をみて重症化しそうなら投与とされている。しかし、様子を見ているうちに多くは軽快し、また悪化を予測するのは難しいため、欧米では結局抗インフルエンザ薬を投与しないことの方が多いらしい。

タミフル治験の論文を集めて効果を計算したら、健康人の場合インフルエンザからの回復が17.8時間早くなるという推定があるが、欧米ではこの程度の差なら吐き気などの副作用の方が問題で、わざわざ高い薬を飲む必要がないと判断されるが、我が国では「どの程度の差でも効果がある」ならともかく使おうということになっている。

今日紹介する治験論文は、現在はほとんど抗インフルエンザ薬が処方されない欧米で、タミフルの効果をもう一度確かめようとした研究といえる。個人的には、何を今更という気がするが、タミフルもすでにジェネリックの安価な薬剤も利用できるので、もっと気軽に使ったらどうかという考えが背景にあるのかもしれない。

治験だが、インフルエンザのシーズンに病院を訪問した患者さんを無作為にタミフル投与群と非投与群にわけ、その中でインフルエンザウイルスの感染が確認された患者さんについて、回復までの時間や、逆に症状の悪化による再診や入院などの経過を調べている。

様々な項目について調査が行われており、一般の人にはわかりにくいので要点だけを紹介すると次のようになる。

  • 全患者さんで見たとき、インフルエンザで生活が制限される期間は平均6.5日だが、タミフルを処方した群では平均1.02日は回復が早まる。
  • 高齢者や基礎疾患により悪化のリスクの高い患者さんでは、回復までの日数が2−3日早まる。
  • タミフルでは吐き気や嘔吐を訴える人の数が増える。

以上が結果で、はっきり言ってこれまでの研究とほぼ同じで、タミフルは間違いなく効果がある。特に健康に問題ある患者さんには投与が望ましいという結果だ。結局判断はこの効果の程度が見合うだけのコストパーフォーマンスがあるかどうかの評価の問題になる。

この治験グループは、「使うべきだと強く宣伝はできないが、1日でも早く治りたいのが患者さんなので、幼児や高齢者、さらには悪化するリスクが少しでもある患者さんは当然のこと、健康人が感染した場合も使ってもいいのではないか」と結論している。言い換えると「値段も安くなったことだし、もう少し使ってもいいよ」が結論だ。

インフルエンザと抗インフルエンザ薬の統計を見ると、病気に対する我が国と欧米の間の大きな差を感じるが、一般の皆さんはどう考えられるのか、ぜひ知りたいところだ。

Scienceが選んだ今年のブレークスルー10選

2019年12月21日

昨日のNatureの選んだ今年のサイエンスニュースに続いて、今日はScienceの選んだ今年のブレークスルーを紹介する。今回は、個人的感想も加えた。

  1. ブラックホールのイメージ 今年の4月、ブラックホールのイメージを捉えたと言うニュースは世界中を駆け巡った。論文はオープンアクセスなので(https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ab0ec7)この写真を自由に閲覧することができる。見ることは信じることを絵に描いたような論文だが、どう撮影されたのかは天文学者に聞いてほしい。
  2. Deep impact過程の解明  今年10月Nature (574:242)に発表された研究は、ユカタン半島沿岸で今は海の下に眠る、6千6百万年前に起きた隕石衝突のインパクトを、ボーリングによって採取したコアに含まれるプランクトン解析により詳しく調べた研究。その時起きた津波でほとんどの生物が消滅した様子や、その後気温が急速に低下する様子が手に取るようにわかる。そして、千年もしないうちに植物が現れ、70万年後には哺乳動物が現れるなど、急速な回復が見られた。とはいえ、こんなことが今起きたら大変だ。
  3. デニソーワ人の解明が進む  このトピックスについてはAASJでも力を入れて紹介し、YouTubeで解説も配信したので、そちらを参照してほしい(https://www.youtube.com/watch?v=ngzOlfES7m4)。今年は重要なブレークスルーが数多くあったが、その中から2編の論文が選ばれている。一つは、これまで出自の明らかでなかったチベット出土の骨格がコラーゲン解析からデニソーワ人と特定されたことで、今後同じ地域から出土した骨の解析から、急速に骨格が明らかになると期待される(https://aasj.jp/news/watch/10139)。もう一つは、実際の骨格が明らかになる前にそれを予想しようとしたイスラエルの研究で、インフォーマティックスを駆使して骨格を予測する論文をCellに発表した(https://aasj.jp/news/watch/11407)。予測が当たっているか、すぐに明らかになると思う。
  4. エボラウイルス感染症の克服  最近HPで紹介したように(https://aasj.jp/news/watch/11936)、2種類の新しいモノクローナル抗体薬は、感染初期であれば、9割の患者さんを救えるという治験結果がThe New England Journal of Medicineに発表された。
  5. 量子コンピュータ  今年10月GoogleのチームがNatureに量子コンピュータに必要な条件をクリアしたと発表した(これはオープンアクセスなので興味のある人は読んでほしい*https://www.nature.com/articles/s41586-019-1666-5)。ただすかさずIBMからのクレームがついたようだが、今後世界各国で開発競争は加速すると思う。私が以前アドバイザーとして関わった京都大学白眉プロジェクトでもこのテーマに取り組む若手研究者がいたが、我が国の現状はどうなのか、正確なレポートがほしい。
  6.  真核生物の起源Asgardの培養 我が国からは産総研からの論文が選ばれた。(オープンアクセスなので興味のある人は直接読んでほしい:https://www.biorxiv.org/content/10.1101/726976v2)。嬉しいことに、真核生物進化に関する重要な貢献だ。真核生物は古細菌から進化したと推察されているが、その後深海のメタゲノム解析からより真核生物に近いAsgardの存在が知られるようになった。しかし、これはゲノムだけの話で、本当に存在するかどうかは明らかでなかった。産総研のチームは深海の沈殿物の培養にチャレンジし、十二年かけてついに生きたAsgardsと言える生物を単離することに成功した。古細菌と比べて多くの真核生物特異的と考えられていた分子や構造を有しており、将来、真核生物の進化を試験管内で再現することが可能になるかもしれない。
  7. 星の融合が捕らえられた  NASAのNew Horisonが海王星の向こうのカイパーベルトから送ってきた映像は、説明するより見てもらったほうが早いが(http://pluto.jhuapl.edu/News-Center/News-Article.php?page=20190222 、2つの星がこれから融合する有様を捉えていると考えられる。
  8. 嚢胞性線維症の治療薬の開発  遺伝病というと、治療には細胞や遺伝子自体が必要だと考えるが、嚢胞性線維症については、変異を持つクロライドチャンネルの機能を補完する薬剤の開発が進み、今年になってほぼ9割の患者さんの治療が可能になった(HPの記事を参照:https://aasj.jp/news/watch/11671)。しかし、同時に1年間の治療コストが3000万円を超えることも明らかになり、新たな問題を提起している。
  9. 栄養失調に関わる腸内細菌叢 J.Gordonのグループは栄養や代謝と腸内細菌叢の関係についての研究のトップグループだが、バングラデッシュでのフィールドワークで栄養失調を抑える腸内細菌を特定し、これを指標に腸内細菌叢を成長させ栄養失調を防ぐ食事の開発に成功した。食品の開発についてはHPで紹介しているので参照してほしい(https://aasj.jp/news/watch/10582)。科学で貧困に立ち向かうこのグループの活動にはいつも頭がさがる。
  10. AIギャンブラー 一年前AIギャンブラーというタイトルで、Libratusと名付けたAIが、論理だけでは割り切れないギャンブル、ポーカーに勝てることを示した論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/7990)。同じno-limit Texas holdsゲームだが、今年はFacebookが開発したPluribusと名付けられたソフトが、ポーカーのトッププレーヤーを打ち負かすことができたという論文が発表された(Science 365,885)。AIは碁や将棋のような対面ゲームだけでなく、複数を同時に相手にするゲームでも勝てることを示し、AIが単純な論理アルゴリズムとは異なることを示した(と私は思っている)。

NatureのNews&Viewsで紹介された論文から選ばれた今年の10選

2019年12月20日

今年も各紙が今年の研究を総括する時期がやってきた。まず第一弾として、NatureはNews&Viewsとして紹介した論文の中から10報を選んで今年の注目論文としてリストしている。

  • 変異型Huntintinタンパク質を細胞から除去する薬剤の開発(Zoghbi博士の紹介記事Nature 575, 57:本文575,203)AASJでも紹介した(https://aasj.jp/news/watch/11661)中国からの論文で、ポリグルタミンが細胞内に沈殿して神経細胞変性を誘導するのを抑制する薬剤の開発の話だ。本当なら、ハンチントン病だけでなく、CAGリピートで起こる多くの病気に光明がもたらされる。
  • 海王星の新しい月の発見(Verbiscer博士の紹介記事 Nature 566,328:本文Nature 566, 350)  海王星の他の月の軌道の内側に存在する7番目の月で、写真はハッブル望遠鏡で捉えられていたが、今回明確に確認されたということらしい。
  • 常温超電導(Hamlin博士の紹介記事Nature 569:491:本文 569,528) 一時この話題を一般メディアでも盛んに目にしたが、この論文は大きな進歩のようだ。要するに気圧を100万倍にするとLanthanum hydride化合物がなんと−25度程度で超電導を達成するらしい。
  • ビタミンやミネラルの摂取に魚は最適(Pauly博士の紹介Nature 574,41:本文 574,95) 開発途上国でも、漁業が盛んな地域から100Km以内では、魚を食べることで必要なビタミンやミネラルが摂取され、欠損症の確率は低い。すなわち、日常魚を食べることは開発途上国の健康を守る重要な要因だが、多くの国では取った魚を外国に輸出するようになり、この供給システムが破壊されつつある。
  • 完全なゲノム編集法(Platt博士による紹介記事 Nature 576, 48:本文 576, 149)つい最近このブログでも紹介したばかりだ(https://aasj.jp/news/watch/11863 )。目的の場所に切れ目を入れて、挿入したい配列を持った一本鎖RNAを鋳型にして逆転写酵素で読ますことで、正確にホストゲノムを変更する方法の開発だ。言ってみれば、普通の遺伝子クローニングで行うプロセスを細胞内で行うことに対応する。
  • グリーンランドの氷河に閉じ込められていたメタンが放出される(Andrews博士の紹介記事、Nature 565,31:本文565, 73)氷河の下に閉じ込められた生物の沈殿には多くのメタンが含まれている。この量を初めて正確に測ったのがこの論文で、進む温暖化がこの過程を介してさらに悪化する可能性を示唆した。
  • 父親由来のミトコンドリア(McWilliamらの紹介記事Nature 565,296:本文PNAS 115,13039)この論文もこのブログで紹介した(https://aasj.jp/news/watch/9318)。 「ミトコンドリアは母親の卵子由来」が現在のドグマだが、ミトコンドリア病の多発する家系のメンバーを詳しく調べて、父親からのミトコンドリアが世代を超えて伝えられているケースを発見したことを報告している。まさに次世代シークエンサーによって初めて可能になった研究だ。
  • ロボットを走らせる(Lipson博士による紹介記事 Nature 568, 174: 本文Science Robotics 4, 2aau9354)専門外で全く理由はよくわからないが、足を持つロボットが実際の動物のように歩いたり走ったりすることは簡単ではなかったようだ。この研究では、データを蓄積して学習する新しいアルゴリズムでこれを可能にした。
  • クリック化学(Topczewski博士の紹介文Nature 574,42:本文 574,86)一度の反応で様々な化合物を合成することをクリック化学と名付けたのは野依先生と同じ時にノーベル化学賞を受賞したSharpless博士だが、その典型がCuAAC反応と呼ばれるアジド化合物合成反応だ。この論文では、どんなアミノ酸とも反応して1200種類以上のアジド化合物を作る方法を示している。上海からの論文だが、今は上海の研究所におられるSharpless博士も共著者になっている。
  • フィリピンで発見された新しい人類 (Andrews博士の紹介文Nature 568,31:本文 568,73) 骨のデータだけだったので紹介しそびれた論文だが、フィリピンのルソン島で、これまでの人類とは異なる骨や歯の形をした人類が発見されたという報告だ。この論文は読者の投票で一位に選ばれたので、10番目に掲載している。ただ、明日紹介しようと思っているが、ジャワでは10万年という新しい時代に直立原人が生きていたという発見が最近報告され、この研究も現実味を帯びてきた。

気になる治験研究 1 自動車運転中の音楽 (2019.12.2)

2019年12月2日

一般の人むけに、今日から気になるの治験研究を探して別枠で紹介することにした。第一回目は、自動車を運転するとき音楽をかけた方がいいか実際に調べた結果を報告したブラジルの研究で、Complementary Therapies in Medicine: vol 46 p158に掲載されている。

研究ではたった5人だが、ラッシュアワー時でイライラする時間に、同じコースを同じ車で運転してもらう。さらに運転席に座った後10分間気持ちをしずめてゆっくり呼吸をしてもらい20分同じコースを運転してもらう。この20分の間、音楽を聞いたときと、聞かなかった状態で、連続的に心拍数の変動を調べている。それぞれの被験者は音楽あり、音楽なしで1回づつ同じコースを運転するが、いつどの順番でテストするかは無作為化してテストしている。

結果だが、心拍数の平均で見ると音楽を聞いていても、聞いていなくてもそれほど変わらない。しかし、フラクタル次元解析と呼ばれる方法で時間・時間の変化を解析すると、やはり音楽を聴いた方が心臓にはいいという計算結果だ。

はっきりいって、単純な方法で見られなかった差も、複雑な解析方法で見れば差が出てくるという結果だが、なににせよ5人だし、音楽の種類や民族性で結果も異なることは間違い無いので、信じるかどうかは皆さんにお任せする。

このような変わり種の治験は問題も多いが、しかし何事も思いつきで決めないで、統計学的に調べてみようという考えは重要だ。その意味で、ドライブ中に音楽を聴く方がいいかどうかすら治験対象になる。ただ、統計学だからそのまま信用できるかどうかについての個人的感想は、今後積極的に述べていく。

降圧剤は寝る前に飲むのがいい(2019.11.1)

2019年11月1日

高齢になってからは別として、血圧は必要なら薬剤を積極的に使用して低めに保つという考えが一般的だ。では降圧剤を服用するとして、いつ飲むのが一番いいのだろう。個人的経験から言うと、忘れることが少ないので就寝前にしている。

しかし効果の方はどうなのだろう。意外なことに、この点についての徹底的な臨床試験は行われていなかったようだ。

そこで今日紹介したいのは、スペイン・ビーゴ大学のグループがEuropean Heart Journalに発表した論文で、なんと2万人近い降圧剤の服用が必要な患者さんを、起きている時間に服用する群と、寝る前に服用する群に分け、その後の経過を少なくとも6.3年追跡した研究だ。

結果は驚くほどはっきりしており、様々な補正をした上でも、就寝前に飲むほうが、心筋梗塞など心臓発作の発生率が低く、さらに死亡率で見てもはるかに低いことが明らかになった。

もちろん民族性など様々な要因が高血圧には絡んでいるので、日本人に当てはめる時には少し割り引く必要があるかもしれないが、それでもその差は大きく、就寝前というのが答えだと思う。私も安心した。

お茶を飲む習慣は脳の機能を高めてくれる。

2019年10月25日

お茶が健康にいいという研究は疫学から栄養学まで数多くあるとおもうが、さすがにお茶を飲んでいる人と飲まない人の脳の構造を比べた研究は見たことがなかった。

、ところが、英国とシンガポールのグループがお茶をよく飲む生活を送ってきた人と、あまり飲まない生活を送って来た人(平均70歳、1日3回以上を6点、全く飲まないを1点、それに生活年数をかけて計算したスコアで分けている)をそれぞれ15人、21人集め、なんとMRIで脳の機能と構造を調べたた論文をAging 11月号に発表した。

詳細は専門的なので省くが、お茶を長年飲んで生活してきた高齢者は、

  • 右脳と左脳の構造的神経結合のバランスが取れているが、機能的な左右の差に大きな変化はない。
  • お茶を飲む人は、安静時に調べる脳全体の機能的結合が強まっている。しかし、構造的には両者で大きな差はない。

以上が結果で、お茶を飲む習慣はMRIレベルでわかる脳の変化をもたらすことを初めて示した面白い論文だと思う。

犬を飼っている方が心筋梗塞からの回復が良いことがほぼ証明された(2019.10.10)

2019年10月10日

(紹介論文 Circulation: Cardiovascular Quaity Outcome 12:e005342. 掲載論文)

様々な病気の患者さんにとってペットが孤独を癒し、心の支えになることで病気の回復を助けることが知られている。例えば、血圧ですらペットと一緒に暮らしていると下がるという報告もある。これらを受けて、米国の心臓病学会では2013年、ペットを飼うことは心臓病の予防や治療に役に立つ可能性を述べているぐらいだ。ただこの可能性を大規模調査で確かめた研究はなかった。

今日紹介したいのは、スウェーデン・ウプサラ大学からの論文で、スウェーデンの疾患レジストレーションから心筋梗塞や狭心症の発作を起こした患者さんを抜き出し、予後を調べるときに犬を飼っているか、飼っていないかの2群に分けて、犬を飼うことの効果を調べている。論文はCirculationのCardiovascular Quality and Outcomes に掲載され、タイトルは「Dog Ownership and Survival After a Major Cardiovascular Event(重大な心臓発作後の生存に犬を飼うことの影響)」だ。

国の疾患レジストレーションなので数は多く、心筋梗塞が18万人、虚血性発作が15万人で、それぞれ5.7%、4.8%が犬の飼い主と特定されている(私の予想よりは低い感じだ)。

結果はいずれの心臓発作でも、発作後の死亡のリスクが犬を飼っている方が優位に低下している。特に、一人暮らしの患者さんの場合危険度(hazard ratio)が心筋梗塞で0.67、虚血性発作で0.73とかなり低下している。

おそらく犬に限らないとは思うが、ペットと暮らすことの心の安らぎ、あるいは散歩などの運動は、心臓発作からの回復を助けることは確かなようだ。

聞こえが悪いのに補聴器を使わないと認知症リスクが上がる (2019.9.22:米国老年学会誌掲載論文)

2019年9月22日

私自身は40代から特に右耳の難聴があり、65歳の引退を機に補聴器を購入して使っている。音楽会も含めて日常生活は補聴器なしで済ませることができるが、会議や会話になるといまや補聴器はなしで済ませない。

これまでの研究で、聞こえが悪くなり周りとの関わりが減ると認知症になったり、うつ病になるリスクが高まる可能性が指摘されていた。この可能性を検証するため、ミシガン大学のグループは10万人を超す難聴と診断された66歳以上の高齢者について調べた論文を米国老年医学誌にオンライン発表したので紹介する。

この研究では、米国で2008年から2016年にかけて難聴と診断され医療保険が利用された113862人の66歳以上の高齢者を追跡し、アルツハイマー病、うつ病、そして転倒による外傷の発症頻度を、補聴器を使い始めた人と(女性11.3%,男性13.3%)と、使わなかった人で比べている。

結果は明確で、難聴と診断され補聴器を使い始めた人たちの方が、アルツハイマー病、うつ病と不安神経症、転倒による外傷の相対危険度がそれぞれ0.83、0.86、0.87と優位に低かった。

以上の結果から、難聴と診断されればやせ我慢しないで補聴器を使うべきだと結論している。

「ごもっとも」と納得できる論文だが、それならもう少し補聴器が安くなることを期待する。