AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 7月21日 腸内細菌叢を指標に栄養失調治療食を設計する(7月12日号Science掲載論文)

7月21日 腸内細菌叢を指標に栄養失調治療食を設計する(7月12日号Science掲載論文)

2019年7月21日
SNSシェア

腸内細菌叢に関する論文は溢れかえっており、メディアもその重要性を伝える報道を行なっているが、あまりに増えすぎてただ流行りを追いかけている様な論文が圧倒的に多い。逆に流行りを追いかける泡沫研究が多いほど、優れた研究者が目立つことになる。そんな中の一人で、論文を読んでいつも一味違うことを感じるのがワシントン大学のJeffrey Gordonの研究で、特に開発途上国の低栄養に関する研究は地球を救うという強い意図が感じられる。

今日紹介する彼のグループの論文はバングラデッシュの低栄養の子供を徹底的に研究して治療食を開発する膨大な研究で7月12日号のScienceに掲載された。タイトルは「Effects of microbiota-directed foods in gnotobiotic animals and undernourished children(腸内細菌叢を標的にした食品の無菌動物と低栄養児童への影響)」だ。

この研究では、まずWHOなどが推奨する食事療法で治療されたバングラデッシュの急性栄養失調の幼児343人を解析し、現在の食事療法では症状は一旦改善するが、完全に正常化せず、様々な指標で検出できる慢性的低栄養状態に移行してしまうことを発明らかにし、新しい補助食の開発の重要性を認識している。

ただどの様に補助食を開発するかが重要で、この研究ではそれを慢性的な低栄養に移行した幼児の腸内細菌叢の中の特徴的な細菌の組み合わせを移植した無菌マウスの成長を指標に、バングラデッシュで用いられている補助食を中心に作成した14種類の補助食をスクリーニングし、どの様な構成成分が良いかを調べ、地元にあった補助食を完成させている。書くのは簡単だが、細菌叢から生化学検査まで徹底的に調べており、調べる対象は少ないが、パラメータが多く薬剤開発と同じぐらい膨大な作業だと感心する。

また薬剤開発と同じ様に、プロトタイプにさらに細かい微調整を繰り返して最終的に補助食を完成させている。もちろん植物成分で開発途上国でも十分賄える値段を目標に開発されている。

さらに驚くのは、無菌マウスでの様々な検証に加えて、前臨床の最後に、無菌ブタに14種類の菌を移植して開発した補助食の効果を確かめ、体重の増加とともに血中アミノ酸の上昇が高まることを示している。

そしていよいよバングラデッシュの子供に対して3種類の補助食の効果を調べ、最終的にMDCF-2の開発に成功している。

なん度も繰り返すが膨大な実験と、この研究室ならではの多くのテクノロジーやノウハウの詰まった論文で、おそらくここまでのことができる研究室は他にはないだろうと思う。しかし、これだけの資源と努力を開発途上国の子供を守る研究に惜しげも無く投入しているのには本当に頭がさがる。

  1. okazaki yoshihisa より:

    これだけの資源と努力を開発国の子供を守る研究に惜しげも無く投入できる

    真の超大国アメリカ。余裕が違い過ぎだといつも感じます。最先端ガン治療、遺伝子治療の開発もトップランナー。その他の科学分野も常に1位か2位。まともに競ってはだめですね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。