2020年4月30日
どこの国でも、一つの病気で1ヶ月に1万人近い死者がでれば、医療現場は対応しきれない。それでも救える命なら一人でも救おうと世界中で医療従事者たちは奮闘している。この様子は多くのメディアにより報道されているが、この窮状は専門の医学誌に投稿された論文からも伺える。
今日紹介する2報の論文は、胸が詰まるほど悲しい論文で、covid-19感染大爆発が起こったイタリアと米国からの論文だ。いずれもOpen Accessで多くの医師と情報を共有するために書かれた論文だ。
最初はボローニャの大学病院から胸部疾患の専門誌Thoraxに発表された論文で、一台の人工呼吸器を二人の患者さんに同時に使うための方法を説明している。
よく読んでみると、このアイデアはSARS流行時に提案され、動物実験で可能であることも確かめられている。また、イタリアだけでなく、米国の病院でもすでに実施されており、マニュアルについてはウェッブでも公開されている。ただ、Thoraxのような専門誌に正式に発表されたのはこれが初めてだろう。
実際には二人の患者さんを1台のベンチレーターにつなぎ、様々な条件を調べて、同じ体格など対象を選べば、十分可能な方法であることを示している。とはいえ、医学的にはこれは決して標準ではなく、一種の苦渋の選択であることも強調しており、辛い選択は続いているのだろう。何れにせよ、イタリアだけでなく多くの病院で同じ治療が行われており、今後結果が集められ報告されるように思う。
個人的印象だが、このようなデータを集めて、例えば4人の患者さんに同時に使えるベンチレーターは現代の技術で開発できる気がする。
もう一報も資材不足に医療現場がどう対応すればいいのかについての論文で、アメリカ外科学会の雑誌にワシントン大学から報告された。
内容だが、高性能医療用N95マスクを病院全体で回収し、過酸化水素蒸気でウイルスを除去する再生サイクルをどう設計すればいいのかについて詳しく述べており、情報共有として論文発表をしている。
いずれの論文も、先進国の医療体制の脆弱性を物語る悲しい論文だが、この状況を自ら改善しようと医師たちが不断に努力していることもよく分かる、励まされる論文でもあった。
2020年4月27日
COVID患者と濃厚接触した可能性が高くて、でも症状がないから自宅待機、後から発熱しても、 「熱が一週間程度続いてるくらいではPCR検査しない。検査体制も崩壊寸前なんだから医療者なら協力して我慢しろや。」 と、言われたら
自分なら
1. 家族や猫ちゃんとのスキンシップは控えて、別室で過ごす。寝るのも別室。食事も別の部屋で食べて、食器は紙の食器に割り箸。ゴミは自分でゴミ袋に詰めて、次亜塩素酸をしゅっしゅしてから廊下に出して捨ててもらう。 トイレも家族とは共用しない。シャワーは最後に浴びて、窓を開けて換気扇もまわす。洗濯物は次亜塩素酸をしゅっしゅしてしばらくしてからお願いする。
2. アルコールと精製糖質の摂取を控えて(ま、できる範囲で(・_・;)食物繊維とタンパク質をしっかり摂取する。ストレスをハイボールやカップ麺やチョコレートで解消しないようにね。
3. 亜鉛、ビタミンC、ビタミンDなどの免疫力を上げる可能性のある薬やサプリメントを意識的に摂る。納豆や豆腐などの大豆製品を意識的に摂る(ニコチアナミンにちょっと期待)。しっかり寝る。
4. 体温と併せて酸素飽和度をこまめにチェックして記録する(パルスオキシメーターは自宅用を買いました)。トイレまで歩く程度で95%下回るようなら重症化しかけてるからとすぐに連絡して検査、対処をお願いする。
発熱や咳などの明らかにCOVID感染を疑う症状があるけど重症化の兆しはないから引き続き自宅待機しなきゃ、なら
5. 氷冷、カロナール、麻黄湯で対症療法する。 凝固亢進がよろしくないのでトランサミンは服用しない。トランサミン入りの総合漢方薬も避ける。NSAIDsも避ける。
6. 肺の微小血栓による重症化予防に抗凝固剤、イグザレルト10mgを内服開始(血小板数が落ちてないことは前提)
7. TMPRSS2の阻害剤、カモスタットを600mg分3で内服開始(ナファモスタット注射の方がいいけどとりあえずこれで)
これだけやれば自宅待機中に重症化が一気に進む可能性は低いかなと期待する。
ただし、自宅待機に入る前に上述の内服薬は準備しておく必要がある。 自宅待機に入る前に血液・生化学検査も済ませておくこと。
これ、あくまでも医師である自分用の覚え書きです。お勧めしているわけではありませんのでご了承くださいね。
2020年4月24日
多くの国で新型コロナウイルス感染の勢いが少し落ちてきたようだが、今日の時点でcovid-19でPubMedを検索すると、この病気(以後covid-19)に関する論文は6500で、最初の論文が今年の1月だったことを思うと、指数関数的に増殖中といっていいだろう。隠居していても論文を追うだけで、世界の医学者が一つの目標を共有しているのを感じられる。
特に最近感じられるのは、臨床や病理についての論文が増えて、徐々に症状からメカニズムまで頭の整理ができてきた点だ。整理がつくと新しい課題もわかってくる。そこで自分の頭を整理する意味で、時間軸に沿ってcovid-19感染症についてまとめてみることにした。
三密とか、social distancingなどはすっ飛ばして、感染してからを考えてみる。
最も重要なのは、感染がどこから始まるか?だが、よほどの濃厚感染でない限り、おそらく鼻粘膜が最初の入り口になるのだろう。以前紹介したように、SARS-CoV-2(V2)が感染するためにはホストの細胞にACE2とTMPRSS2が発現していることが条件になる。
4月23日にオンライン出版されたNature Medicine(上図)によると、この条件を満たす臓器は、鼻粘膜、肺、大腸、胆嚢で、例えば飛沫を吸い込んだとすると、ほとんどは上気道でトラップされることを考えると、鼻粘膜の分泌細胞や繊毛細胞が最初のウイルス増殖の場になると考えられる。
この可能性は、最近ドイツ・シャリテ病院がNatureに発表した、covid-19に罹患した9症例の詳しい検討からも裏付けられている。
この研究によれば、症状が現れてから5日程度は鼻粘膜のシュワブに最もウイルスが検出されており、その後10日にかけて減っていく。おそらく初期に嗅覚や味覚が失われるのは、この時期を反映しているのだろう。
少ない症例ではあるが、この研究で最も驚くのは、半分の患者さんがIgM,IgG抗体を7日までに作るようになり、14日までにはほぼ全員が抗体を作っている点だ。すなわち本来なら、ここで感染は収束してもいいことになる。ほぼ8割の人が、症状が出ても軽症で終わるというのはこれを反映している。
この研究でも2例が軽症の肺炎まで進んでいるが、残りはこの第一段階で回復している。重要なのは、抗体の量だけで第二段階の肺炎まで進むかどうかは予測できない点だ。何れにせよ、肺の感染が起こると、さらに長期間感染性のウイルスRNAが痰の中に検出され続ける。
一方肺炎期も含めて、便にもPCRでウイルスRNAが検出されるが、感染性のウイルスが全く検出できないことから、大腸や胆嚢に感染条件が揃っていても、ウイルスは上部消化管(おそらく胃で)不活化されるのだろう。
ここで最も知りたいのは、上部気道から肺への感染が広がる経路だが、おそらく気道を通ってと考えるのが一番自然だろう。この場合、血清中の抗体がまだ役に立たないことも十分考えられる。また、前の論文に戻ると、肺で感染条件を備えている細胞の比率は上気道と比べると極めて低いことがわかる。とすると、上気道を伝わってウイルスが伝播しようとしても、確率は高くないはずで、この時運悪く肺の分泌細胞に感染した人が2段階へと進むことになる。
鼻の細胞もそうだが、肺で感染条件が揃った細胞は、自然免疫にかかわる分子を発現していることから、ウイルスの刺激によりサイトカインやケモカインを分泌する。当然これが、重い肺の症状につながっているのだろう。悪いことに、V2はSARSと同じで、STAT1を抑制することで1型インターフェロンの転写を抑える仕組みを持っている。これはエボラウイルスも同じだ。このため、ウイルスを叩こうと自然免疫がより強い反応を起こして、重度のサイトカインストームを伴うARDSへと発展するのだと思う。
以前紹介したが、ARDS段階でもウイルスに対する抗体治療はかなり効果を示す(https://aasj.jp/news/watch/12765 )。従って、肺で新しい細胞へ感染が続くことがARDS維持の大きな要因になっていると考えられる。さらに、抗体治療後かなり短期間でサイトカインストームも抑えられていることを見ると、ウイルス粒子自体が細胞表面状のTLRを介してサイトカインストームに寄与しているかもしれない。
肺炎段階は多様性が高く、重症ではあるがそれでも多くの患者さんは回復できる。問題はその中の一部の患者さんが、ショック状態を来して亡くなられることだ。これについては、重症の患者さんで、d-ダイマーと呼ばれるフィブリンの分解産物が高く、DICと呼ばれる血管内凝固が起こっていることがヒントになるだろう。そのため、マサチューセッツ総合病院では、抗凝固剤治療を入院時のルーチンとして行うべしというマニュアルを作っている。
これに加えて、個人的に気になるのが、最近続いているACE2の発現が見られない細胞へのコロナウイルスの感染だ。例えば、4月17日にチューリッヒ大学のグループがThe Lancetに発表した3例の剖検例では、全員で血管内皮へのV2の感染を確認している。この論文では低いレベルでもACE2が血管内皮に発現しているからだと結論している。
しかし、同じ4月17日The Lancetに中国のグループが発表した仮説は、他にも感染経路があることを教えてくれた。
この論文では、一部の人で病状が急速に悪化し、全身性ショックに至るメカニズムについて考察している。考察自体は断片的で、ウイルス敗血症という概念だけを強調した仮説だが、この中でウイルスが全身に広がるメカニズムとして、ACE2を発現しないT細胞やマクロファージにウイルスが感染していることを示した論文が引用されており、本当なら面白いと思った。
というのも、抗体によってウイルス感染が急速に悪化するケースが知られているが、一つの可能性はウイルスに結合した抗体が、マクロファージやリンパ球のFc受容体を結合して、これがウイルス感染を助ける可能性だ(これは想像しているだけで、エビデンスに基づいて言っているわけではない)。もちろん、直接貪食によって取り込まれることもあるかもしれない。しかし、一旦マクロファージやリンパ球にウイルスが取り込まれると、全身性の感染症へと発展してもいい。この経路ができてしまうと、肺炎と同時に着々と全身性感染の準備が整っていく。これはウイルスが血中に出てくるという単純なものではなく、ウイルス感染の拡大と、その結果としてのサイトカインストームが全身で起こるようになり、その結果としてDICによるショックが予想以上のスピードで起こるのかもしれない。
最後の段階は本当かどうかはわからない。今後、血球も含めたウイルス検査や、DIC予防などのデータが集まることで、可能性は確かめられるだろう。何れにせよ、これがcovid-19についての私の頭の整理だ。
2020年4月5日
新型コロナウイルスに関する論文の数をPubMedで調べると、今日の時点で2000を越しており、このウイルスに対する情報が急速に蓄積されていることがわかる。ただ、このような混乱期の論文は、厳しい審査で選択するより、一定の基準があればともかく掲載して、情報を伝えたいというのが多くの雑誌のポリシーだろう。したがって、査読雑誌に掲載されたからといって、内容については鵜呑みにすることは危険を伴う。幸い、重大な指摘はすぐに反論や修正を求める論文や意見が寄せられるため、評価が定まるのにそう時間はかからない。
そんな一つがレニン・アンジオテンシン系の阻害剤を用いて高血圧治療を行なっている人は、新型コロナウイルスが重症化するリスクがあるのではという,ルイジアナ州立大学の研究者がJ.Travel Medicineに発表した指摘だろう。
この論文では、アンジオテンシンやその受容体の阻害剤の静脈注射を受けた動物の心臓や肺で、新型コロナウイルスの受容体であるACE2発現が上昇することを指摘し、この上昇がウイルスの細胞内への侵入を助け、感染の重症化につながるのではと懸念を表明した。
新型コロナウイルス感染の重症者の3割近くが高血圧ということが報告されていたため、多くの患者さんが服用する高血圧に対する薬剤により重症化が起こるのではと、この分野に衝撃が走った。
ところが中国の英文誌Science China3月号では、新型コロナウイルス感染患者さんの解析に基づき、ACE2機能がウイルスで抑制されるるため、アンジオテンシン2の濃度が上昇し肺血管の収縮で症状が重くなる可能性を指摘、アンジオテンシン受容体抑制剤を新型コロナウイルス治療に使えるという研究が発表された。またこの仮説に基づき実際治験が行われていることがわかった。
このように、レニンアンジオテンシン系高血圧治療について、相反する可能性が示唆されたわけで、実際患者さんに処方している医師達の混乱を招くことになった。
この混乱を鎮めるべく、臨床研究の雑誌をリードする3雑誌がこの問題についての見解相次いで発表した。
他にもHypertensionなども同じ趣旨の論文が発表されている。
詳しくは紹介しないが、いずれの雑誌も基本的には同じ意見で、
ACE2はレニンアンギオテンシン系の抑制システムで、新型コロナウイルスの細胞接着を媒介する。 動物実験でレニンアンジオテンシン系阻害は、確かにACE2の発現を上昇させ、重症化の原因になる懸念は存在する。 しかし、人間については、動物実験結果がそのまま当てはまるか証拠は乏しい。 しかも、レニンアンギオテンシン系阻害剤を用いる新型コロナの治療治験も走っている。 このような状況で、高血圧のレニンアンジオテンシン系阻害薬を急に中止する方がはるかに危険性は高い。 従って、これらの薬剤で血圧や心臓機能が安定に保たれている患者さんは、新しいデータが出るまで服用を続けて問題はない。
と結論している。
ただ、それでも心配な場合として、The BMJでは
現在重度の血圧や心臓病をレニンアンジオテンシン系阻害剤でなんとかコントロールしている場合は新型コロナに感染してもそのまま続ける。 軽度の高血圧でレニンアンジオテンシン系阻害剤を服用している場合、コロナ感染がはっきりした時点で服用を中止。 同じく軽度の患者さんで、コロナ感染の可能性が高いばあい(家族、医療スタッフなど)は、感染前に中止を考える。
という3種類のガイドラインを出している。患者さんに聞かれた時の参考にしてほしいとまとめてみた。
今後も進展があれば論文紹介する。
2020年4月2日
今日の朝刊で日本経済新聞は、我が国の新型コロナ感染検査をもっと増やせと、立場を明快にしていた。しかし、今も我が国では、PCR検査を増やした方がいいのか、それとも陽性の患者さんが押しかける医療崩壊を抑えるため、検査を絞った方がいいのか議論が続いている。この議論は、今後多くの人が感染すると予想される状況でも我が国の医療システム維持するための政策論争なので、世界を見渡した時、多くの検査を実施している、していないに関わらず、うまく抑え込んでいる国と、抑え込めない国がある以上、最終結論はこの流行が終わった後で正確に検証する以外に判断できないと考えている。
しかし感染の広がりを正確に捉えるという科学的目的のためには、特定の地域でランダムサンプリングを行い、正確な感染率を明らかにすることが重要で、これをシミュレーションで全て置き換えるのは、まだデータがない以上ギャンブルだと思う。
ただ、出来る限り多くの検査を行うという方針をとってこなかった我が国で、ランダムサンプリングを一定規模で行い感染率を調べることは大きな抵抗が予想される。またそんな余力はないと思う。ところが、この問題を思いもかけない方法で解決する可能性が、Environmental Science and Technologyに中国科学アカデミーから提案されていた。
この論文では、各個人の感染を個別に調べて感染率を算出する代わりに、特定の地域の下水にウイルスが存在するかどうか調べれば、その地域での感染の広がりを量的に推定できるのではと提案している。
こんな提案を聞くと、「コロナウイルスが本当に下水中に残存しているの?」と一般の方は疑問に思われると思う。しかし、コロナウイルスは便や尿にも排出されることはわかっており、またウイルスは被殻に守られており、一定期間下水中でも分解されることなく維持されるので、この提案が十分妥当であることはほとんどの専門家も同意するだろう。
この論文では、さらに進んで抗体をベースにした短時間でウイルス検出が可能な検査法が下水中のウイルス量を測定に使えることを宣伝しているが、この提案は気にすることはない。まずしっかりとPCRを用いて、下水中のウイルスが検出できるか、また感染の広がりと相関するか調べればいい。この提案が正しければ、例えばクラスターが発生した施設の便所から出る下水で検出できはずだ。もちろん、下水に一定量のウイルスを混合して、感度を調べることもできる。これでうまくいけば、あとはそれぞれの地方の下水に検査を広げていけば、感染マップが書けるのではないだろうか。
この方法の重要な点は、個人の診断に使うわけではないので、正しい処理の知識があれば、どこでも、誰でも実施可能な点だ。福島の事故の時、様々な場所で一般の人々が放射線のモニターをしたのと同じことが可能になる。すなわち、政府とは独立に感染を調べることが可能になる。
私は可能性は高いと思うが、可能・不可能の議論をするより明日から始めれば、科学的に感染を調べ、それに基づき政策を立てることが可能になると思う。
2020年3月20日
様々な疾患の支援団体のウェッブサイトでも新型コロナウイルス感染(Covid-19)に関する情報が提供されるようになってきた。ワクチンが開発されていない今、感染予防には日常の習慣が大事になるが、昨日送られてきたAutism SpeaksからのメールマガジンにはASDと家族のための様々な情報が掲載されていた(https://www.autismspeaks.org/covid-19-information-and-resources )。今後は、多くのビデオライブラリーも加えて充実させるということなので、少なくとも書かれた内容については、google翻訳でも使って、読んで欲しいと思う。ただこの中からASDのコミュニティーが知るべきこととして書かれていた短い文章については(3月4日付で少し古いが)簡単にまとめておくことにした。
まず当然のことだが、全ての人が理解しておくべき米国疾病対策本部のアドバイスが書かれている。
手の衛生が最も重要。何度も石鹸とお湯で手を少なくとも20秒以上かけて洗う。もし石鹸とお湯がない場合はアルコール消毒液を使う。 コロナにかかわらず、体調の悪い人と接触するのはできるだけ避ける。Covid-19の感染は接触が一番危険。 目、鼻、口には触らない。特に子供にはこのことをよく言い聞かせる。 もし気分が悪い時は、自宅から出ない。もし外出が必要ならマスクで鼻と口を覆って、飛沫が飛ばないよう注意する。 咳やくしゃみをする時は、口をティッシュでおおい、速やかにティッシュは廃棄する。ティッシュがない場合は、腕や肘で覆う。 家族が触れる家具やドアの取っ手、手すり、スイッチなどはいつも消毒を心がける。
その上で、ASDの家族がいる場合のアドバイスとして、
コロナについては、どこかから聞いてくるより前に話して聞かせる。こうすることで、子供の年齢や理解力に合わせた形で情報を与えることが可能になる。 子供の入りやすい方法、例えば絵を描いたり、あるいはお話にしたりして教える。例えば風について教えるための絵本がAutism Speaksに用意されている(https://www.autismspeaks.org/sites/default/files/flu_teaching_story_final%20%281%29.pdf ) 情報を子供が自分で十分消化するよう時間をかける。これにより子供が頭の中で内容を繰り返したり、恐ろしい話でもちゃんと話せることを意味します。もちろんその時一緒に手をとって、質問に答えられるようにすることが重要です。 子供の毎日に変化がないか、あるいはストレスがかかっていないかよく注意してください。ストレスや不安を感じている時は支えてあげる必要があります。 子供はこの恐ろしい事態の中で安心できるよう、正しいポジティブな情報を伝えて安心させましょう。
これだけの情報だが、さすがと思えるアドバイスだ。
最初の頃、子供は新型コロナウイルスにかかりにくいという話が流布したが、最近Pediatricsに発表された中国からの論文では、中国疾病対策センターが把握している小児の症例は、ウイルス検査が終わっていないが疑わしいケースは2145例にのぼり、平均年齢が7歳であることが示されており、おそらく重症化する確率は低いと思うが、是非Autism Speaksからのアドバイスをもとに、子供をCovid-19から守って欲しい。
さらに重要な情報が発信されれば、また報告する。
2020年3月7日
新型コロナウイルスで大騒ぎだが、インバウンド客という目先の利益に目が眩んで初動が遅れ感染が広がってしまった上に、現在の感染状況の科学的把握ができていない状況では、新しい科学に基づく政策は打てない。現れるクラスターのモグラ叩きがどこまで有効なのか?その間に、経済は極端に収縮しているが、取り返しがつかなくなってから、科学を信じたせいだと責任転嫁されては大変だ。偶然が悪い方向へ向かないように、今は天に祈るだけだ。
一方で科学は力強く新型コロナウイルスと戦っている。そんな例がCell4月号に掲載予定のドイツ類人猿研究センターからの論文で、SARS―CoVと新型コロナウイルスSARS-CoV2の細胞内への感染経路を調べている(図1)。
おそらくこのグループは、SARSウイルスの感染経路の研究を行なっていたのだと思う。そこに新型コロナウイルス騒動だ。ドイツでは1月28日には患者さんが発生しているが、ミュンヘンの病院に入院中の患者さんから分離したSARS-CoV-2を用いて、このウイルスの細胞内への感染経路を、これまでSARS-CoV研究に開発してきた試験管内感染実験系で大急ぎで調べてみたという研究だ。
驚くことに論文は2月6日に投稿されており、2月25日には受理され、2日前にオンライン出版されるというスピードだ。
おそらく実験に1週間はかかっていないだろう。当然それほど難しい実験はできない。結果をまとめると、
新型コロナウイルスは、SARSと同じで、細胞表面上のアンギオテンシン転換酵素(ACE2)を細胞に接着する受容体として使っている。 ACE2に接着したウイルスはエンドゾームに取り込まれ、そこで膜と融合してRNAを注入するが、このときホストの細胞のタンパク分解酵素によって処理される必要がある。この研究では、この処理をカテプシンとTMPRSS2が行えること、そしてTMPRSS2阻害剤がウイルスの侵入を食い止める。 SARSウイルスに対する抗体は、力は落ちるが新型コロナウイルスの感染を抑える。
通常なら到底Cellには掲載されないが、緊急にワクチンや、治療法を開発する上では、貴重なデータだということで掲載されたと思う。
この研究で示されているように、新しいコロナウイルスも細胞に接着するときにACE2を使っていることが確認されたが、このACE2はACEがアンジオテンシン Iを分解してアンジオテンシンIIに変換し、血管収縮、ナトリウム代謝などを通して血圧上昇に関わレニンアンギオテンシン系に関わるコトが知られてきた。すなわち、ACE2はこのアンジオテンシンIIをさらに短くするエンドペプチダーゼで、こうしてできたアンジオテンシン1−7は血圧抑制効果があることが知られている。実際、ACE2がノックアウトされると、心不全になりやすく、さらに代謝異常がおこることが報告されており、コロナウイルス感染をACE2を核として眺め直すことは面白いかもしれない。
高血圧や糖尿病などの基礎疾患があると重症化すると一般的に片付けられるが、これはインフルエンザでも同じだ。しかし、新型コロナの場合子供は不思議と感染が少ない。これは私が勝手に考えているだけだが、ACE2の発現分布や、スパイクの分解酵素TRPMSS2などの分布の違いを調べてみるのは面白い。
もちろん専門家も「ACEは臭うぞ」と感じているようだ。そこで最後に、中国武漢の北にある鄭州大学循環器内科の医師がNature Review Cardiologyに発表したコメントを簡単に紹介して終わろう(図2)。
MERS, SARSそして今回のコロナウイルス感染症では心筋炎や心不全の確率が高い。 今回のコロナウイルス感染で亡くなった中国人の12%は、新たに心臓障害が認められる。 ACE2は心臓にも発現しており、コロナウイルスは心筋に感染できる。 SARSの患者さんの12年にわたる追跡で、感染から回復した68%の人が高脂血症、44%が何らかの新血管異常、そして60%が糖代謝異常にかかっており、ウイルス感染による様々なダメージは後々まで続く。 たしかに新型コロナウイルス感染は高血圧の患者さんほど重症化するが、治療に使用されるACE阻害剤については注意が必要。 抗ウイルス薬は心不全の原因になるので注意が必要。
これらの結果は、ACE2ノックアウトマウスの結果とも一致して見える。すなわち、ウイルスがなにかACE2の機能を変化させている可能性はある。この論文ではコロナウイルス感染症一般に心筋感染の可能性があり注意が必要という以上の言明は避けているようだ。もちろん結果は臨床医にとっては重要な示唆だが、それ以外にも「ACE2とコロナの関係はなんとなく臭うぞ、ひょっとしたら様々な臨床症状を説明できるぞ」と言っているのが感じられる。臨床例や病理例が報告されてきたら、私も老いた頭を巡らせてみよう。
いずれにせよ、混迷する政策も結局科学が後始末してくれると私は確信している。感染は止められなくても、それを普通の日常にできるのは科学だけだ。
2020年2月23日
新型コロナウイルス感染の広がりをニュースとしてみていると、少なくとも我が国では情報の氾濫だけが目立つが、世界規模で医学という点から見ると着実に進展している。最も知りたいのは治療の進展だが、2ヶ月で漏れ聞こえてくる話で一喜一憂することは厳禁だ。代わりに、国際的治験登録サイトが存在し、治療法の計画段階から登録して、その計画に従って治験を行うことで効果を科学的に確かめるのが国際標準になっている。
登録サイトの中では最も信頼性があるのが米国のClinicalTrials. Govなので、新型コロナウイルスについて登録された治験がどのぐらい走っているのか、covid-19で検索をかけると、驚くことにすでに49の治験が登録されている。中にはまだ始まっていない計画段階のものも含まれるが、2ヶ月という短期間にこれだけの治験が登録されたことは、中国を中心に医学界が総力を挙げ、新しい治療法の開発に挑んでいることがわかる。今見ているサイトはhttps://clinicaltrials.gov/ct2/results?cond=&term=covid-19&cntry=&state=&city=&dist =だが、明日になればもっと増えるだろう。
どんな治験が走っているのか紹介しよう。
スマフォでの自己診断法 2件 サリドマイド 1件(肺の障害を防ぐ) 臨床経過観察研究 7件 検査法研究 3件 漢方薬 2件 フィンゴリモド 免疫細胞移動抑制剤 1件 副腎皮質ホルモン 2件 一般薬の治験(痰の融解、インターフェロン、ビタミンなど) 4件 チェックポイント治療 2件 抗体治験 2件 抗ウイルス剤 11件 細胞治療 5件 肺線維症治療剤 2件 マイクロビオーム移植 1件 抗インターロイキン治療 1件
かなり大雑把に分類したので間違っている点があればお許しいただきたいが、中国がすべての情報を公開して、科学的治験を行おうとしている姿がよくわかる。中には、非接触型の体温測定までその効果を治験研究として申請している。当然のことながら、抗ウイルス薬の治験は多い。同じものを組み合わせたりで、薬の種類が多いわけではないが、あらゆる可能性が確かめられようとしている。チェックポイント治療やサリドマイドまであるのは驚くが、少し考えるとなかなか正しい方向だと思う。
エボラウイルス治療の知見では結局抗ウイルス薬はだめで、ウイルスに対するモノクローナル抗体が効果を示した。その意味で、回復患者さんの抗血清の結果はそのままモノクローナル抗体開発につながるだろう。
さてなぜこんな話をする気になったかというと、今日の新聞で厚労省が備蓄している日本製の抗ウイルス薬の投与を始めるという報道を見たからだ。もちろん重症化した患者さんを前に、何か治療手段をと思うのはわかる。しかし、結果がわからない治療については、すべて治験として科学的に効果を確かめないと、世界から相手にされないことは間違いない。ClinicalTrialに49の治験が登録されたという事実は、中国医学の大きな変化を物語っているが、我が国の治験は登録して行う気があるのだろうか?
報道にリークして特効薬がもらえるのではと勘違いさせ、プラセボ効果を最大限に利用するような愚かな治験をもし医療行政の府が行なっているとしたら、由々しき事態だと思う。医療先進国を自負する我が国の厚労省が、科学的治験の重要性を認識して、正しく治験を進めることを願いたい。
2020年2月3日
化学兵器として使われるガスには様々な種類があるが、我が国で最も知られているのが、オウム真理教が無差別テロに使用したサリンをはじめとする有機リン化合物だろう。イラクではクルド人虐殺や湾岸戦争に使われたのではと疑われているが、実際のところ明確に戦争に使用されたという証拠は無いらしい。しかし、オウム真理教でも合成できるということは、密かに生産が行われており、戦争やテロに用いられる可能性は常に存在する。
これに対して、私のような平和ボケ人間は防毒マスク以外に避ける方法は無いと思ってしまうが、同じ生命科学でも、軍の研究者は私たちが思いもかけない対処法を考え付くようだ。今日紹介したいのは、米軍の化学防衛研究所からの論文で、有機リンを分解する酵素を肝臓に導入して神経ガスを耐え抜く身体を開発しようとした研究だ。タイトルは「Gene therapy delivering a paraoxonase 1 variant offers long-term prophylactic protection against nerve agents in mice(paraoxonase1変異遺伝子を導入する遺伝子治療によってマウスは神経ガスに対して抵抗性を獲得する)」で、なんと1月22日Science Translational Medicineに掲載されている。
有機リンガス兵器は呼吸器官から吸入した後血液中に溶け脳内でアセチルコリンエステラーゼを無毒化し、最終的に呼吸を支える筋肉が麻痺して死に至る。この研究の発想は単純で、有機リンを分解する酵素遺伝子をあらかじめ肝臓で発現さて、末梢血中で有機リンを分解させるというアイデアだ。
このグループはすでに無毒化分子としてparaxonase1を選び、機能を高めた変異分子IF11を開発している。この研究の目的は、この分子をコードする遺伝子を導入してガス攻撃に耐えるマウスを作れるかだ。様々な条件を検討した結果、アデノ随伴ウイルスを用いた遺伝子ベクター(導入のための運び屋)としてAAV8、遺伝子の発現を誘導するためにTGB遺伝子プロモーターを選び、これをマウスに注射している。
この方法だと、遺伝子は肝臓細胞に導入され、5ヶ月以上大量にparaoxonase1を合成し続ける。また注射するウイルスベクターの量に応じて血中のparaoxonase1の濃度を上げることも確認している。
あとは、この遺伝子を導入したマウスは、毒ガスに耐えるか調べるだけだが、予想通りだ。
有機リン化合物には様々な種類があり、処理効率(必要な血中のparaoxonase1濃度で代表されている)は異なるが、一定濃度さえ確保できれば全ての化合物に暴露しても、マウスはビクともしないで、普通の活動を続けることを示している。
実際には他にも様々な実験を行なっているが、詳細は省いていいだろう。要するに、ガスマスクなしに神経ガスをものともしない体を作ることができるという話だ。テロや戦争から身を守るために、ウイルスを予防的に注射する時代がこないことを祈りたい。
2020年2月2日
この前コロナウイルスの症例報告について紹介した時から 1週間も経っていないが、今やメディアもコロナ報道一色になってきた。と言っても、結局人混みを避けよ、手洗いを徹底せよ以外に、なんの具体的指示は出しようがない。様々な会社が有効な薬剤の治験を進めていると思うが、多くの人は軽い症状で終わりそうなこの病気に、パニックに後押しされて予防投与が行われるような事態が来ないよう、医療側も薬剤や抗体薬などが開発された時のプロトコルについて、現在わかってきた感染者と発病者、発病者と重症者の正確な調査を元に用意する必要があると思う。
今必要なのは、ニュースよりできるだけ科学的な把握だろう。この時、将来の予測には冷静なシミュレーション研究が重要だ。その意味で、香港大学から1月31日The Lancetにオンライン発表された研究は、参考になると思う。
香港大学からThe Lancetに発表されたシミュレーション論文
シミュレーションには信頼おけるデータを集めることがまず大事だが、武漢内の発表に頼るのではなく、武漢以外の都市で発生した確実な発病者の数、実際の人の移動などから逆算する手法で計算するというスマートな方法を取っている。この時、伝染する強さを一人から2.68人、感染者数の倍加する時間を6.8日として計算すると、1月25日時点で武漢には75000人の感染者がいたと推定している。また、武漢と最も交流が多い順番に、重慶、北京、上海、広州、深圳へ、1月25日時点でそれぞれ、435人、98人、111人、80人の感染者が移動したと計算している。
その上で今後の予想を計算すると、特に感染力を落とす手立てを講じなかった場合は4月1日をピークとする大流行が起こると予想している。
これについてはいくつかのメディアでも紹介されているが、この研究の重要な点は、人の動きと感染力を抑える手段の影響を計算している点で、
この流行は各都市間の移動を50%ぐらい制限しても、ほとんど変化がなく、例えば他の都市での流行が一月ずれる程度で終わる。 しかし、もし感染性を50%減らすことができれば(隔離、早期の治療、今言われている手洗いなど様々な対策)、パンデミックのピークは起こらない。
をシミュレーションで示している。すなわち、現状では感染を抑え込む努力を限りなく進めることがパンデミックを防ぐ唯一の手段というわけだ。
もちろんインフルエンザで見られるような季節性があるか、感染源の動物は駆除できるか、など多くの不確定要素はあるが、まだ感染者の多くない我が国では、隔離と患者のトラッキング、感染しないための注意を繰り返して、ウイルスの感染性をなんとか50%落とすことで乗り切れるのではと思う。