昨日ミクログリアで活性が高まると断片化したミトコンドリアができると紹介したDrp1分子は、ミトコンドリア膜上で様々なアダプター分子と会合することで、ミトコンドリア分裂の核を形成する。昨日の論文はDrp1が悪い分子のような印象を与えるが、Drp1自体は正常なミトコンドリアの維持に必須の分子で、実際ノックアウトすると神経細胞が最も影響を受ける。ただ、ミトコンドリアの分裂や融合は細胞の代謝にリンクして、絶妙のバランスで調節される必要があり、ミクログリアでDrp1の発現量が上昇しすぎた結果が、昨日の話になる。
そこでDrp1の機能を知る意味で、ちょっと古くなったが8月13日号のCell Reportsに掲載された、Drp1がK-rasによる発癌に必須の分子であることを示したバージニア大学からの論文を選んで紹介する事にした。タイトルは「Drp1 Promotes KRas-Driven Metabolic Changes to Drive Pancreatic Tumor Growth (Drp1はK-rasによる代謝変化を促進し膵臓ガンを増殖させる)」だ。
研究は、K-rasによる線維芽細胞のtransformation、あるいは膵臓ガン細胞株のコロニー増殖にDrp1が必須であることの発見から始まっている。一つ覚えておいて欲しいのは、Drp1がなくとも細胞は生存できるという点だ。ただ、ガンのように急速に増殖する細胞には様々な異常が起こり、この一つの表れがtransformation効率の低下や、ガンの増殖の低下だ。
細胞増殖の低下の原因として様々なメカニズムが考えられるが、K-ras活性化によるガン化には代謝の活性化が重要であることがわかっているので、糖代謝を調べるとDrp1がノックアウトされるとヘキソキナーゼ2の発現が低下し解糖系が回らなくなることが明らかになった。すなわち、K-ras活性化による解糖系活性の上昇は、Drp1を介していることがわかった。
膵臓ガンからDrp1を除くと、同じように解糖系の活性が落ち、増殖が低下するが、もちろんこれだけではなく、Drp1欠損に備えて大きな遺伝子発現のリプログラムが起こり、この結果脂肪代謝、ミトコンドリアの呼吸機能、さらにはミトコンドリアへの脂肪酸の輸送まで障害される。すなわち、ガンの増殖は低下しても、このストレスに合わせて生きるためのリプログラムが進んでいる事になる。
逆に考えると、K-ras活性化はまずDrp1を介して、細胞の代謝を高めている事になる。問題は、なぜミトコンドリア分裂の調節が細胞の転写レベルのリプログラムまで進むかだが、この研究ではこの点が詰めきれておらず、現象論で終わっているため中途半端な印象を受ける。
ミトコンドリアが細胞代謝の核になっていることを考えると当たり前かもしれないが、それが形態の調節と密接に繋がって行われる点が面白い点で、ガンにせよ、変性疾患にせよミトコンドリアの研究がいかに重要かがわかる。
膵臓ガンからDrp1を除く⇒
解糖系の活性が落ち、増殖が低下するし、Drp1欠損に備えて大きな遺伝子発現のリプログラムが起こる。
Imp:
Drp1欠損という状態変化に合わせて、細胞内法則がリプログラム=変更される。エピジェネティクスが背景に関与しているのでしょうか?こうした環境変化に対する柔軟な変化が可能な点、生命と物質を分ける重要な点のような気がします。