1型糖尿病は自己免疫病なので、当然膵島は免疫性の炎症にさらされる。ともすると炎症が起こり、さらにキラー細胞でも出てくれば、β細胞は変性すると済ましてしまうところだが、実際炎症時に何が起こっているのか正確に把握することは、新しい治療法の開発に重要だ。
今日紹介するスペインバルセロナ大学からの論文はヒトの膵島の炎症性サイトカインに対する反応を、ここまでやるかというほど様々な方法を統合して調べた論文でNature Genetics11月号に掲載された。タイトルは「The impact of proinflammatory cytokines on the β-cell regulatory landscape provides insights into the genetics of type 1 diabetes (β細胞の調節システムへの炎症性サイトカインの影響は1型糖尿病の遺伝学に示唆を与える)」だ。
この研究の基本目的は、インターフェロンやIL-1のような炎症性サイトカインにさらされた時におこる膵臓のβ細胞のクロマチンレベルの変化だ。とくに、新しい遺伝子発現につながるクロマチン変化を調べるために、ATAC-seqでクロマチンが開いた場所を特定し、ヒストンH3K27のアセチル化が起こっているサイトを調べ、遺伝子発現たが高まっている場所を特定している。
期待通りクロマチンの開いた場所と転写がアクティブな場所は一致し、一般的に炎症で変化する場所に加えて、β細胞の発生や分化に関わる重要な遺伝子の上流が変化することを発見する。
このように新しくクロマチンが変化して遺伝子制御に関わる場所はメチル化されていることが多く、一方クロマチンがもともと開いて遺伝子発現が高まる場所はメチル化されていないことから、2タイプの転写調節が並行して起こることもわかる。また、このクロマチンの変化は同時に染色体の3次元構造の変化と一致することも示している。
以上の実験から示されたのは、結局β細胞が炎症に反応する時の遺伝子リストでしかないが、最後にこのリストから機能的意味を見出す目的で、これまで調べられている1型糖尿病と相関するSNPを、今回リストした遺伝子調節領域と対応させている。この論文では詳しい対応は示さず、見つかったSNPだけがリストされているが、転写に直接関わるSNPであることが明らかになる意義は大きい。
話はこれだけで、何か新しい遺伝子が見つかったわけではない。しかし、今回集めた膨大なデータは全て公開されているようなので、この分野の研究に関わる人たちは是非データベースを眺めたり利用したりすることが大事だと思う。是非他の臓器についてもこのようなデータが欲しい。
今回集めたボーダイナデータは全て公開されている。
Imp;
最近、生命科学分野の大規模Wet実験データ、門外漢のヒトでも自由に利用解析できる状況になりつつあるんでしょうか?WetとDryの完全分業??