11月23日にカスパーゼ8がピロトーシスのスイッチとして働いていることを示す論文を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/11765)、ピロトーシスに最も熱い視線が注がれているのが、アルツハイマー病などの神経変性性疾患だろう。すなわち、アミロイドもTauも凝集するとミクログリアのピロトーシスを誘導し、この結果さらに神経細胞死が誘導される悪循環が始まるという可能性が2015年ぐらいから報告されるようになってきた。事実、マウスモデルでピロトーシスの核になるシグナル系であるNLRP3やカスパーゼ1をノックアウトすると神経変性が抑制される。
今日紹介するドイツ、ボン大学からの論文は、この機構をもう少し詳しく調べた研究で11月20日発行のNature オンライン版に掲載された。タイトルは「NLRP3 inflammasome activation drives tau pathology (NLRP3を核とするinflammasomeの活性化がtauによる神経変性を駆動する)」だ。
βアミロイドの蓄積から始まるアルツハイマー病でも、アミロイドの影響が神経細胞内のTauタンパク質のリン酸化に及ぶと神経変性が起こるという2段階で進むと考える人は多い。すなわち神経変性にはTauの病理、Taunopathyが必要であるとする考え方だ。
この研究ではTauのリン酸化が起こる過程に、ミクログリアのピロトーシスが普遍的に関わることを示そうとしている。まずアミロイド沈着のないtaunopathyから始まる前頭側頭型認知症の患者さんの脳を調べ、NLRP3を介するピロトーシス型炎症が起こっていることを確認し、あとはTauの変異を導入したマウスを用いて、Taunopathyの進行とミクログリアでのNLRP3を介するピロトーシスが一致することを示している。また、NLRP3やASC分子欠損マウスとかけ合わせるとTauのリン酸化が抑えられ、神経変性が抑えられることを示している。すなわち、これまで考えられていたように、Tauが神経内で沈殿するとそれが吐き出されてミクログリアに取り込まれ、ピロトーシスが起こり、それによる炎症でTauリン酸化が起こって神経細胞が死ぬというシナリオを確認している。
これらのマウスでの結果をさらに確認するため、試験管内で活性化されたミクログリアの分泌液を神経細胞に加えるとTauとCaMKIIのレベルが上がると同時に、tauのリン酸化が上昇していることを確認する。また、変異型tauを発現している脳の抽出液や、βアミロイド繊維でミクログリアのピロトーシスを誘導できることも示している。
以上の結果から、アミロイドの存在にかかわらず、taunopathyが起こる場合は、必ずミクログリアのピロトーシスが関わっており、これが治療の標的になるというのが結論になる。さて、どこまで臨床にトランスレートできるのか、期待したい。
アミロイドの存在にかかわらず、taunopathyが起こる⇒、必ずミクログリアのピロトーシスが関わっており、これが治療の標的になる可能性あり
Imp:
新たな視点から新たな治療標的。ADに限らず認知症は大問題!なんとかしないと。。。
認知症の人の資産をどう守り、どう活用するか。その資産額は2030年に、今の1・5倍の200兆円になると試算されている。
おそらく症状の改善についても、以前の研究では見られているのではないかと推察しますが、確認していません。
さて、ReCode法は現在Clin.Trial.Govに登録され、治験が始まり、来年の11月に終わることになています。理屈より、本当に効果があるかこの結果を待つ方がいいと思います。ただ、軽度の認知障害が対象です。
今回のNLRP3のKOも、神経変性の抑制が本当に症状緩和、改善に繋がるのか心配です。先生はD.ブレデセン氏のReCODE法については、どう思われていますか?大抵の病と異なりこれほど時間が敵になっているのに、それが考慮されない治療は、どこかで破綻するとは考えられませんか?