パーキンソン病、レビー小体認知症、そして多系統萎縮症は、それぞれ障害される部位が異なる脳変性疾患だが、いずれもαシヌクレイン分重合してできる沈殿が細胞内に見られることがわかっており、全体をシヌクレイン症として把握されるようになってきている。しかし、もし全ての病態が同じシヌクレインから起こるのだとすると、なぜシヌクレインの沈殿が見られる部位が異なるのかが大きな謎として残っている。
今日紹介するトロント大学からの論文は、シヌクレイン症がプリオン病と同じように、鋳型となるシヌクレインの構造が再生産されること、この時鋳型となるシヌクレインの形が病気の分布や進行度をきめることを示し、同じシヌクレイン症でも病状が異なる理由を示した研究で、12月2日号のNature Neuroscienceにオンライン出版された。タイトルは「α-Synuclein strains target distinct brain regions and cell types (αシヌクレインの系統により蓄積する脳の領域や細胞が異なる)」だ。
繰り返すが、この研究は
- シヌクレイン症は狂牛病のようなプリオン病と同じで、沈殿型のシヌクレインの構造を鋳型として、同じ立体構造を持つシヌクレインが再生産される、
- そして、同じシヌクレインでも鋳型となる分子の立体構造違いから、異なる構造のシヌクレインができることで、蓄積場所や病状などの違いができる、
という2つの作業仮説を立てて進められている。
遺伝性のシヌクレイン症の変異を持つシヌクレインを合成し、これを100mMの食塩の存在、非存在条件で沈殿させる。すると、長さや物理化学的性質の異なる繊維状の構造が形成される(食塩存在下をS繊維、非存在下をNS繊維とする)。
こうしてできたS 沈殿、NS沈殿を変異型遺伝子を発現するマウスの脳に注射すると、いずれも神経変性症状を示し、プリオンと同じで脳から脳へと継代が可能だが、
- S繊維は鋳型としての能力が高く、異常分子の再生産が早い結果、早く病気が進行すること、
- NS繊維は脳の様々な場所に分布するが、S繊維は海馬や中脳に限局して蓄積する、
- S繊維は神経細胞にしか蓄積しないが、NS繊維はアストロサイトにも蓄積する、
- S繊維によるシヌクレイン症は、多系統萎縮症患者さんの脳に存在するシヌクレイン繊維と似ている。
- 一方NS繊維によるシヌクレイン症はM83マウスモデルの脳や、パーキンソン病、レビー小体認知症の脳を移植したシヌクレイン症に似ている。
- これらの違いは、構造の分子的安定性と相関しており、S繊維や多系統萎縮症のシヌクレインのように不安定だと、広い範囲に広がる。一方、NS繊維やパーキンソン病のシヌクレインは中程度に不安定で、その結果蓄積が限定する。しかし、レビー症体痴呆症のシヌクレインのような安定した構造の場合、プリオンのような拡大する性質がほとんどない。
などが明らかになった。
結果は以上で、全てのデータがαシヌクレインの変異分子の一部が、プリオンと同じような感染性を持つことを示すとともに、これまで明確でなかったαシヌクレイン症の多様性を説明した面白い結果だと思う。特に、試験官内で合成したシヌクレインを感染性タンパク質として使うことができるようになり、プリオン仮説のより精密な検証が可能になると思う。