年初ということで、自らを奮い立たせる意味で、最も苦手な電気生理学分野の論文を選ぶことにした。はっきり言って、よくわかっていないところもあるが、しかし自分が習った神経生理学が何十年も経って大きく変わっている予感がする論文だった。
オランダロイヤルアカデミー、神経学研究所からの論文で、ミエリンで被覆された神経伝導についての新しいモデルを検証する研究で1月23日号 Cell に掲載予定だ。タイトルは「Saltatory Conduction along Myelinated Axons Involves a Periaxonal Nanocircuit (ミエリン化軸索で見られる跳躍伝導には軸索周囲のナノ回路が関わっている)」だ。
「ミエリン化された軸索では、ミエリンで被覆されていない場所(ノード)だけで脱分極が見られ、ここで生まれる大きなイオンの変化はミエリン化された軸索を普通のイオンの流れとして伝搬し、次のノードに集中している電位依存性イオンチャンネルを開いて脱分極させ、これが例えば1mの神経なら飛び飛びに続くので跳躍伝導という」ことについては、50年前私たちが習った教科書も、今の教科書もあまり変わらないのではないだろうか。実際この概念は、1934年慶應大学の田崎、加藤らにより示されており、当然私たちの習った生理学の教科書でも重要な事実として記載されていた。
この概念のカギは、絶縁体ミエリンによって完全に絶縁されることで、ノード間の軸索は一本の電線としてモデル化できる点だった。
ただ電子顕微鏡による観察や、神経の詳細な活動測定などにより、実際には軸索とミエリン鞘の間に存在する細胞外液も考慮したモデリングが必要ではないかと考えられるようになってきていたようだ。また、ミエリン鞘も生きた細胞である以上完全絶縁などあり得ない。この研究では、軸索の電流、神経細胞膜の電位依存性のアクションポテンシャル回路(医学生にはおなじみの抵抗とコンデンサがセットになった回路)、軸索とミエリン鞘の間の電流、そしてミエリン膜のアクションポテンシャル回路を全て加えたモデルを構築している。モデル自体は生理学を習っておれば理解できるが、この新しい回路を加えることで実際のシミュレーション計算はスーパーコンピュータが必要な大変な作業になるようだ。
いずれにせよ、それぞれの回路の抵抗、コンデンサのキャパシタンスを変化させてシミュレーションすると、やはり軸索街の経路を考慮した方が実際の観察に適合することを確認した後、このモデルから計算される抵抗などの数値が、実際の形態観察に一致することを示している。また、このモデルではアクションポテンシャルこそおこらないが、ミエリン被覆の領域でも電圧の変化が見られることが予想されるが、実際にそれが観察できることも、長い神経を分離して培養し、軸索の電圧を可視化する方法で確認している。
自分が理解できるところだけつなぎ合わせて紹介すると以上が結果で、新しいモデルの方が実際に跳躍伝導が減衰せず早く伝わることを説明できる。軸索とミエリン鞘の間が広いほど抵抗が低くなることから、跳躍伝導の速さはこの広さを反映すると予想できるが、その好例として、最も早い神経伝達が可能なウシエビの神経では軸索ミエリン鞘の間が100ミクロンもあることを示している。
今後はさらにミエリン鞘が切れる場所の特殊性も考慮した回路を加えてさらに精緻な跳躍伝導モデル形成することの重要性を強調して論文は終わっている。
言われてみれば当然の結果で、回路図だけをみるとなんとか理解できた気分にはなったが、実際にはこの上に様々なチャンネルの局在、樹状突起のなどが加わってくるはずだ。それを考えると、新しい技術のおかげで脳全体での活動がよくわかったような気になっても、その背景の一本の神経軸索の複雑さを考えると、理解するとはなんなのか、ゴールは何なのか、立ちすくんでしまう気分になる。
今年もそんな生命科学をめげずに紹介していきたい。
1952年に定式化された、Hodgkin – Huxley モデル(ヤリイカの神経軸索実験が元)が、生理学教科書に載ってます。もっと詳しくモデル化すると、スパコン解析が必要になる程複雑とは。。。ヤリイカ人工飼育法開発、ヤリイカ巨大神経軸索解析etcで著名な業績を挙げられていた、松本元先生を思い出しました。最終目標は、脳型コンピュータ開発だったとか。。次世代コンピュータ開発、量子コンピュータがクローズアップされているようですが、脳型コンピュータ(生物型)も目が離せません。
当方の1/5付けのWordPressへのcommentsを参照して下さい。
追加を2/2に投稿しました。
私は過去数年の研究を経て、跳躍伝導を否定してます。今日投稿の記事で其れを簡潔に纏めました。
又又、お邪魔します。
着想して丁度1年の記事を昨日投稿しました。長い英語のtitleです。
そろそろ2周年なので、最後の訪問として、私の最近の記事を紹介させて戴きます:
2021/12/13
私に採っての、脳科学の分野での(創造的な)発見集(?!)、その6
私の表題の発見の理論を知る(理解し、納得する)為に、数百の記事を読む暇は無いが、十報未満ならば時間を割いても佳いと云った人の為に以下のlistを提供します:
(1) Rapid bipolar propagation of action potential difference in the internode of the myelinated nerve fibre, working as a floating double coaxial cable, part 5 (13), 15,
(2) Proposal of a new terminology ‘relay conduction’ to replace ‘saltatory conduction’, part 3,
(3) Further comment on the article “saltatory conduction along myelinated axons involves a periaxonal nanocircuit (Cohen et al.)”, parts 1 – 4,
(4) The evolution of the axon initial segment by myelination, part 2.