緊急事態宣言が出され、大都市圏では学校や施設閉鎖が延長された。もちろんASDの子供も例外ではない。この時、ASD の子供と自宅でどう過ごせばいいのかについて、10のヒントが4月1日号のBrain Scienceに掲載されていたのでそのまま訳して掲載する。
もちろん米国とわが国では事情も異なるし、またASDの症状は多様なので、 「米国ではこんな対応が指示されているのか」と、何かの参考にするという気持ちで読んでいただければ幸いです。
- 新型コロナウイルスについて子供によく説明する。
ASDの子供は具体的な事象に即して認識して、抽象的なことを理解するのが苦手なことが多い。また、言葉でのコミュニケーションが苦手だったり、周りの現象を理解することも難しい子供達がいる。それでも、何が新型コロナウイルスか、なぜ家にとどまる必要があるのかを説明することは重要。説明は単純で具体的でなければならない。この目的で、意思伝達装置(例えば:https://ogw-media.com/medic/cat_it/4377)を使う可能性もある。また、新型コロナウイルスとは何かについてのパンフレットがあれば使える(例えば藤田医科大学の資料:http://www.fujita-hu.ac.jp/~microb/Final_version.pdf)。言葉で説明するときには、概念をわかりやすく示した図を使うことも重要(わが国でもこのような準備はできているのだろか?)。
- 毎日の生活の時間割を作る
ASD児は実行力に問題があることが知られており、特に日常性が破壊されると毎日の過ごし方を計画できなくなる。このため、できるだけ早く毎日の活動を構造化することが重要。この状況では、家庭が活動の唯一の場になる。そこで1日の活動をいくつかに分けて、部屋を変えて行うことも役にたつ。このような時間割は知能に障害がある子供だけではなく、知能は正常のASD児にも役に立つ。また、この時間割を家族全体で行うゲームのように仕立ててもいい。黒板に、家族がその日何をするのか計画を書き入れてみたらどうだろう。
- ある程度自由度を持った遊び
ASD児は遊ぶのが好きだが、感覚のトラブル、あるいは行動の反復性などから、苦手な遊びがある。いずれにせよ、1日のうち、遊びの時間を持つことは重要。これは一人で遊ぶことでも、だれかと一緒に遊ぶことでも良い。例えばLEGOを用いた治療は知能を問わずASD児には良い遊びの方法になる。この治療方法は子供の社会性を高める目的でますますポピュラーになっており、特に社会性に問題を抱えるASD児のような子供に適している。これを子供と親が一緒に遊ぶ、ある程度自由を持たせた遊びとして、自宅で行うことができる。(レゴセラピーについてはhttps://www.kango-roo.com/sn/a/view/4311を参照)。
- シリアスゲームを使ってみる
シリアスゲームについてはウィキペディアを参照してほしい:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0
シリアスゲームはASD児の社会による認知の促進、表情に現れる感情、感情的な仕草、感情的な状態の理解に役立つ。シリアスゲームはASD児の基本的教育資源として利用できる。多くのシリアスゲームは無料でウェッブからタブレットやPCにダウンロード可能。シリアスゲームは教育目的でビデオゲームやウェッブサイトの代わりとして使える。
- 親とビデオゲームやインターネットセッションを共有する
ASD児はビデオゲームやインターネットに強い興味を示すことが多いが、現在のように子供達が家庭から出られない状況では、逆にはまり込んでしまう危険がある。子供がPCで遊ぶのを避けることは難しいが、現在のように親も家庭にいる機会が増えた場合、ビデオゲームやインターネットを親や、兄弟、あるいは介助者たちと共有できるよう過程でルールを作ることを考えてみると良い。これによって、子供が一人で孤立しインターネット中毒に陥るのを防げる。
- 独自の興味の対象を見つけて親と共有する。
特定のものへの興味を持つことはASD児の特徴。このような興味を持つことの重要性については現在ますます理解されるようになっている。このような興味を持つことについては、親や介助者も積極的に励ますことが重要。興味の対象例としては、乗り物、地図、動物、漫画、地理、電子機器、そして歴史などを挙げることができるが、他にも多くの可能性がある。親と子供が自宅で過ごすようになった現在の状況は、このような興味に関する活動を一緒に行ういいチャンスになる。
- 正常知能の子供のためのオンライン治療
ASDには、ASDとは別の精神的な脆弱性や病気を高頻度で抱えていることがよく知られている。これらの病気の中でも不安神経症は最も報告が多い。このような精神疾患が青春期に起こると精神発達崩壊につながる恐れがある。特に新型コロナウイルスによる非常事態はASDの子供にとって自分のこととして理解しにくい出来事と言える。このため、新型コロナウイルスの非常事態宣言が出る前から精神治療を受けていた場合、それを続けることは大変重要。ところが外出自粛状態では殆どのセラピストは対面での治療を中止せざるをえない。そこで、ビデオやオーディオを用いての遠隔精神治療を、毎週予約して受けることは大変大事なことになる。これにより、不安が解消され、気分をチェックし、子供が専門家と話す機会が得られる。
- 親や介護者のため、毎週オンライン相談の機会を持つ。
ASD児の親は典型児や他の障害を持つ親より強いストレスにさらされており、また影響を受けやすい。現在のような事態になると、親だけで子供の面倒を見なければならない。この結果、それでなくとも疲れきっている親のストレスはますます高まる。この問題は子供の知能レベルとは関係ない。これに対し、子供のセラピストに毎週オンラインで相談の機会を持てると、かなり改善する。知能の遅れのある子供の場合、子供が自由に遊んでいる様子や、あるいは決められた課題を行なっている様子をホームビデオにとって、セラピストに見せることは役に立つ。また、知能が正常な子供の場合、この難局をどう乗り切ればいいのか対話形式で相談し、子供への対応方法の知識レベルをアップデートする時間にできる。
- 学校とのコンタクトを保つ
学校で先生や友達と関係を保つことが学習の助けになることがわかってきている。毎日決まった時間を学校が指示するホームワークに、日課として続けることは重要だが、学校の社会的付き合いを維持するためには、少なくとも1週間に一回は、先生を含むクラスの誰かと接触を保つことが示唆されている。コンタクトを取る方法は子供の症状や性格による。問題なければ、オンラインでのコンタクトは重要な可能性だ。オンラインによる接触が嫌なASDの子供に対しては、先生やクラスの誰かに手紙を書いたり、あるいは直接電話で話すこともよい。子供と親の両方にとっても、特定の先生とオンラインや電話で接触を維持することは強く推薦できる。
- 計画しない時間も重要
すでに1−9で述べたように、ASDの子供が積極的になるよう刺激することは重要だが、1日のうち適当な時間を予備の時間として残すことも大事(例えば家の近くを散歩する)。というのも、緊急事態では子供の行動は型にはまってしまう可能性が高い。もちろんだからと言って心配することはないが、習慣が変化すると、ASDの子供のストレスレベルは高まり、紋切り型の行動が増えることがある。これは、ストレスを感じていることの現れで、決して退行ではない。
我が国では支援が進んでおらず羨ましいと思える点もあるかもしれないが、参考になる論文だと思い紹介した。