私たちの子供の頃と違って、ほとんどの家庭にテレビやビデオがあり、乳児がいても、かなりの時間試聴されていると思う。とすると、私たちの世代と、テレビ以降の世代で、物心つく前の乳児期の経験はかなり違っている様に思える。
もしテレビがただの風景と同じなら、何の差も生まれないが、テレビやビデオ画面上での映像が物心つかない乳児にとって、風景とは全く違う内容を持つとすれば、その影響を知りたいと思う。
今日紹介するフィラデルフィアにあるDrexel大学からの論文は、米国で生活環境の幼児の発達への影響を調べる目的で追跡されている子供たちの中から2152人を選んで、乳児期にテレビやビデオ画面に興味を持つことが、性格にどのような影響を持つかを調べた研究で、4月20日JAMA Pediatricsオンライン版に掲載された。
研究は極めて単純で、12ヶ月時点で、保護者(92%は実の親で、他祖父母など)に、「お子さんはテレビを見ますか?」と「お子さんと一緒に絵本を見ますか?」と聞いた後、18ヶ月時点でもう一度「この1ヶ月を振り返って、1日何時間ぐらいテレビをみていますか?」と聞く。
そして2歳児になった時、M-CHAT(日本語版:https://www.ncnp.go.jp/nimh/jidou/aboutus/mchat-j.pdf)で自閉症スペクトラム(ASD)様症状を示すか、あるいは将来のASDリスクを調べ、乳児期でのテレビの試聴や、保護者との遊びの時間と、M-CHATによる性格診断との相関を見ている。
結果は明瞭で、12ヶ月時点で、保護者がテレビやビデオを見ていると答えた子供は、より多くのASD様症状を示すが、ASDになるリスクスコアは変わらない。しかし、18ヶ月時でテレビを見ている時間とASD症状やリスクはほとんど相関がなかった。これに対し、12ヶ月時点で保護者と一緒に絵本を見たりする時間が長いと、ASD様症状は低下することもわかった。
以上をまとめると、
- 物心つく前にテレビを見る様になる子供は、ASDリスクが高まるわけではないが、ASD様の症状が現れる、すなわASD様の性格が現れる。
- 一方、保護者と一緒に遊ぶ時間が長いほど、この様な症状の出現を防ぐことができる。
- 18ヶ月を越すと、テレビを見ることとASD症状とは関係がなくなる。
くれぐれも間違わないでほしいが、1歳までにテレビを見る子供は、ASDのリスクがあるという話ではない。今の所言えるのは、私たち世代の経験したことのない乳児期のテレビという風景が、ASD様症状の出現と何らかの関係ありそうだという観察結果だけだ。もちろん、テレビが原因でASD様症状が出るとも、ASD様傾向を持つのでテレビに興味を示すとも結論できない。しかし、できる限りテレビという人工的風景を避け、子供との時間を持つことはASD症状の出現を防げる可能性を示していると思う。簡単な観察研究だが、典型児、ASD児を問わず、乳児期のあり方の一つのヒントを示している様に感じたので、自閉症の科学として紹介することにした。
励ましありがとうございます。年齢を重ねるにつれて、一度にできることの限界を感じている毎日ですが、木下さんの励ましを聞いて、ぜひ復活させようと決意しました。もう少しお待ちください。
これまで大変興味深く拝見させて頂いていた、自閉症児の親です。いつも最先端の論文を平易に解説、公開頂いておりありがとうございます。
現在 まだコロナの影響の冷めやらぬ中、恐縮ではありますがまたお時間が許されればこちらもご更新頂けたらと思い、コメントだけさせて頂きます。
当方 しがない建築の実務技術者で論文を紐解く様な能力はありません。ただやはり少しでも理解を増やし、子供の成長に繋がればと思い拝見しておりました。
先生もご理解頂いてるとは思いますが、この発達障害は共に生活するのも大変な事が多々あります。また僕の偏見かも知れませんが、この世界は個々のお医者様の判断、お考えで大きく対応も変わり、科の中でもエビデンスに基づいた、明確な基準的な診療が遅れている?難しい?分野だと感じます。もちろんその上に個々の当事者の差異の幅広さも有るのは理解しております。なのでより対応が難しいと常に感じます。
論文に書かれた事がすぐ出来る訳でも無く、意思も自我もある当事者に論文などの記述が出来るか、すべきか等は別問題として、支援者たる親としての勉強、理解と、悩める時の納得度を高める為にこの場を利用させて頂いておりました。
嫁を亡くして一人親でちょくちょくと追い詰められる(すみません)当方の励みにもなっていると言う所で心底からの感謝と共に、またお時間出来ましたら更新ご検討頂きたく書かせて頂きます。
よろしくお願い致します。