今日の日本経済新聞では新型コロナウイルスの感染感受性や、病気の重症度と相関する遺伝子を特定するためのゲノム研究コンソーシアムが始まったことが報道されていた(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58510850V20C20A4EA1000/)。ただ、この様なコンソーシアムはさらに精度の高い研究を目指す話で、感染者が300万人に達しようかという新型コロナではおそらく早い時期からゲノム研究は行われてきたと想像する。そう思って毎日、PubMed検索サイトで、Covid-19 and SNPとかGWASとかを検索しているが、今のところは明確なhitはない。少し範囲を広げて、covid-19 and genetic susceptibilityで検索すると、いくつかヒットするが、結局ヒトゲノムとの関わりがあるのはまだ3報しか発表されていない。
ゲノム研究とは全くいえないが、最も印象に残った論文はAmerical Journal of Tropical Medicine and Hygieneにオンライン掲載されたイランからの論文で、何と血を分けたそれまで全く健康だった兄弟三人が新型コロナに感染し、同じ様なコースで重症化し死亡したという症例報告だ。
残念ながらこれ以上のことは全くわからないが、家族性の存在はゲノム研究の重要性を示唆している。
もう一報はイタリアミラノからの論文で、ゲノム研究と言えば言えるが、まだ実際の患者さんとの相関は全く調べていない。今後ゲノム解析は重要になるのは間違い無いので、ともかく今わかっていることをゲノム研究の目で見てみようという論文で、イタリア国民についてのデータベースを用いて新型コロナウイルスが細胞に侵入する時に利用するACE2とTMPRSS2の肺での発現に相関する遺伝子多型を探索し、TMPRSS2の発現に関係するかもしれない多型が存在することを示している。この点については、大規模ゲノム研究が進むことで間違いなく、病気との関係で明らかになるはずだ。不完全なデータで、一種の火事場泥棒と非難する人もいるかもしれないが、それでも何でもやってみようとするミラノ在住の科学者の切実さを感じる論文だった。
最後の一報はオレゴン健康科学大学からの論文で、前の2報より重要性は高く、ウイルス抗原に対するキラーT細胞活性を決めている組織適合抗原(MHC)と、ウイルス抗原との結合係数をデータベースを用いて計算し、ウイルス感受性をMHCから説明できないか調べた研究だ。おそらく世界中で同じ試みが行われていると思うが、このグループが先陣を切った。新型コロナウイルスに対する抵抗力についていくつかのヒントが示されていたので紹介する。タイトルは「Human leukocyte antigen susceptibility map for SARS-CoV-2(SARS-CoV-2に対するヒト白血球抗原感受性マップ)」で、4月7日号のJournal of Virologyに発表された。
以前に紹介した新しいインフルエンザワクチンについての論文では、ウイルスに対する免疫にはキラーT細胞の役割が大きいことが示されていた(https://aasj.jp/news/watch/12433)。実際、抗体を誘導するワクチンより、T細胞を誘導するウイルスペプチドで免疫するワクチンすら開発されようとしている。
この研究では、新型コロナウイルスがコードする10種類のタンパク質からできると想定される48,395種類のペプチドから、HLA-A,B,CそれぞれのMHCと結合して提示される可能性があるペプチドを32,257種類選び出し、現在得られる145種類のHLAそれぞれとの結合性を計算している。
結果は、多種類のペプチドと結合できるHLAから、ほとんどコロナ由来ペプチドとは結合できないHLAまで極めて多様であることが明らかになった。もう少しわかりやすくいうと、H+Aによって、ウイルス抗原を捕まえてT細胞を刺激する力が大きく違っていることを示している。もしウイルスペプチドと反応できないHLAタイプを持っていると、T細胞免疫が成立しないので大変だ。
ただ多くの人では6種類のHLA分子が存在しているので、それぞれが互いにカバーしてくれてあまり心配はないと思うが、今後実際の病状とHLAの関係がわかってきた時このデータは重要だ。
一方、少し安心できるデータもある。この研究では新型コロナウイルスから生じるペプチドと、一般的な風邪などで私たちが感染するコロナウイルスから生じるペプチドを比較して、564種類のペプチドが4種類の一般的コロナウイルス由来のペプチドと完全に一致するこをと示している。
この結果は、もし風邪などのコロナ感染ですでにT細胞免疫ができておれば、その一部は新型コロナの抵抗力として働くことを示している。この新型、旧型コロナ共通のペプチドと結合するHLAを計算すると、最も結合力の強いHLAの分布は嬉しいことにアフリカに多い。一方、ほとんどコロナのペプチドに結合できないHLAはヨーロッパ、中国 オーストラリアなどで頻度が高い。
この指標だけで見ると、日本は全て中庸で、これはアメリカも同じだ。ただ、このランキングは、多くのペプチドと結合できるトップ3、およびペプチド結合能のないトップ3のHLAの分布を示しているだけで、本当の抵抗力の分布は6種類のHLA能力の総和から計算できる能力がどう分布しているのか示す必要がある。
結果はこれだけで、実際の抗原提示実験は全く行われておらず、今後実際の免疫誘導実験系で、この結果は検証されていくと思う。その上で改めて、HLA感受性マップができることだろう。
多くの病気でそうだが、MHCはヒトゲノム多様性研究の原点で、しかも免疫に関しては最も重要な分子の一つだ。その意味で、この論文に続いて今後多くのMHC とコロナ感染の論文が発表されるだろう。この様な地道なデータをしっかり提供していくことが科学の使命で、その上でより精密な将来予測が可能になる。今は抗体検査だけが話題になっているが、この様な多因子を加えた推計学手法も磨いてほしいと思う。
ウイルス抗原に対する組織適合抗原(MHC)と、ウイルス抗原との関係をデータベースを用いて計算し
MHCの多型を調べた研究(先陣を切った)
Imp:
昨日の論文ワッチは、膵臓癌とMHC-1の話題でした。
今日は、コロナウイルスとMHC-2の話題でしょうか。
MHC分子:抗原(異物)提示分子にて、感染症、腫瘍免疫、自己免疫疾患etcと医学的に重要な項目とリンクしますね。
話は変わりますが、武漢ウイルス研究所でコロナウイルスが研究されていた可能性の報道を聞き、
コロナウイルスの遺伝子治療用ベクターとしての可能性?にも興味沸きます。。。。
人類に災禍をもたらしたウイルスが、遺伝子治療ベクターとして注目されている現実。。
(例えば、HIVウイルス、ポリオウイルス)
”視点を変えてものを見る”ことの重要性を教えてくれます。
コロナウイルスとMHC-1の間違いでした。すみません。
HLA遺伝子多型性
ウイルスが侵入してからMHC class I との関連について
感染した細胞も、マクロファージ、樹状細胞の同じくToll like receptor を持ってるのでウイルスを飲み込んだ後、ウイルスの核酸を感知して、INFα、βを産生。これらがNatural killer cell, NK細胞、cytotoxic T cell,Tc cellの殺傷能力を高める。感染したウイルスの増殖、複製を阻害。NK細胞はMHC class Iを認識して、それがあると細胞障害を起こさないように働く、ウイルス感染細胞、がん細胞はMHC class I の発現が低下、もしくは消失している。 ここでHLA遺伝子多型より違いにより、アジアンはMHC class Iの発現が亢進しているので、感染細胞は破壊され、コーケイジアンはMHC class Iが消失、減弱しているので、ウイルスは増殖する。アジアンではさらに、Cytotoxic T cellにも過去のコロナ感染の抗原をMHC class I と一緒になって提示して、感染細胞を破壊する、ここでも遺伝子多型の違いによりヨーロッピアンは破壊できない。
魅力的な説明です。
すると、抗体作らなくても、アジアンの大半はコービッド19にかからない。抗体作る前の段階で、やっつけることができる可能性もある。いつまでたっても抗体保有者が増加しなかったとしても、怖がらなくてもよいということにならないのか?Innate immunityの段階で門前払いするので、adaptive immunityを使う必要がないのか?
感染症、遺伝、免疫学は不可思議。
そういえば、糖尿病や拡張型心筋症の発症にもウイルスが関与していてHLAのタイプにより違いが出てくるとあったような気がする。
ウイルスは興味深い、生き物か物質か?不思議な創造物、人類の歴史を紐どいてくれることもある。Adult T cell leukemiaなど。
抗ウイルス免疫にCD8T細胞が重要であることはよくわかっています。ワクチンも、T細胞反応を誘導できるような方法が模索されており、これが実現するとどんなコロナウイルスにも抵抗力を獲得できる可能性が指摘されています。https://aasj.jp/news/watch/12433 をお読みください。
コロナウイルスとMHCの関連性を検索してこのページにたどりつきました
そもそもコロナウィルスの「毒性」とは何か?「弱毒化」とはどういうことか、生死を分けた根本原因は何かを考えた末、毒性(が強い)ということは感染者の免疫反応の強さに依存しているのではないか?という考えに至りました
他方、風邪をひいたことがないという人も結構聞くことから、同じ風邪関連ウィルスでも症状に個人差があると考え、MHCの型が原因ではないか、と推論しました
つまり風邪をひかないということは強い風邪の症状が出ないということであり、抗体を作る前に解決したか、さらには抗体が作られないペプチドがMHCに提示されていると考えることができます
一方、重篤化した人では抗体産生が起きる以上に自己免疫疾患のような状態になっているのではないかと推察します(もっと言うなら風邪の諸症状も自己免疫疾患的なのかもしれません)
攻撃の対象は個人差というかMHCの型で決定され、ウィルス感染で提示されたペプチドと同じか近い配列を有する臓器、組織と考えます
欧州というかネアンデルタール人のMHCがどうなっているのかわかりませんが、彼らに重篤な患者が多いのはネアンデルタール人特有の型が原因なのかもしれません
自己免疫疾患であれば、Dexで症状が抑えられるのも自然な気がしますし、欧州で開発中のワクチンで副作用が起きやすいことも何となくわかります
むしろワクチンなど無駄か害があるのではないかとも思いますがいかがでしょうか?
詳細についてお答えする時間はないですが、当たっているところもあり、的外れの点も多いと思います。zoomを使って新海さんと対話しても面白い気がします。
ご返信ありがとうございます
zoom を使える環境がないのと、研究者を辞めて10年以上経ちますので対話にはならないでしょう
的外れな箇所が理解できてありがたいとは思いますが
生物系の研究者(私は生物「工学」の研究者でした)は細胞に意思があるような表現を使いがちですが、そのような能動的な反応ではなく受動的なのではないかと考えています
例えばある種の細胞が別の組織に移動するとき、そこに居られない状況になったから移動せざるを得なくなった、加えて(準)安定状態を好むというものです
今回のケースの場合、究極の疑問としてコロナウィルスは排除しなければならないのか?ということは置いておいて、排除のためにT細胞免疫は必須なのか?ということが挙げられます
抗体が作られる人とそうじゃない人の違いはウィルス数の差ではないのではないかとも思うのです
人によって勝手にできてしまう、という表現が近いと思います
日本人のかなりが症状が出る前に治っていることを考えると結局のところマクロファージレベルで排除させる治療法を模索するのが良いと思います
以前、温熱免疫療法というのを研究していた時、ある研究者の方に、大きな癌を免疫で叩くのだとしたらそれは白血病の状態だ、と指摘されたことがあります
非常に印象的で、それが今のようなうがった見方をする原因なのかもしれません
(侵入したばかりか何らかの作用である程度排除され)数が少ない時点でT細胞が働くには良いが数が多い時には向かないというか副作用があるといったところでしょうか
zoomのアカウントは私たちのアカウントに参加いただければ、ネットに繋がったパソコン、あるいはスマフォでも参加可能です。面白い対談ができるように呼んで感じました。また、顔も出さずに参加できます。
ご返答ありがとうございます。
私は現在うどん屋の店主ですのでzoom対談への参加は辞退させていただきます。申し訳ありません。
ただ商売に影響あるのでこの騒動が早く収まって欲しいと願っています。
最後に今回の考察に至ったもう一つの事例を言いますと、数年前、母が自己免疫性膵炎を患いました。何故、ターゲットが膵臓なのか?ちなみに私の場合は体調を崩すと歯根が溶けます(X線写真上で見えなくなる)。炎症を起こす箇所が個人ごとに違うのは何故か?
このあたりが今回の重症化する/しないにも関わってるのかなと感じています
しばらく勉強はしておりませんので的外れなことをまた言っているかもしれませんが以上が私の意見です。ありがとうございました