私たちの脳の多くの領域は視覚の処理に向けられている。パソコンに向かっている自分の脳を考えてみるだけでも、当然のことだと思う。いつも驚くのは、極めて大きなダイナミックレンジを持つ光の量を、的確に調節している点で、これが形の認識と同じ回路でできるわけはない。実際には、光の量を感じて瞳孔の調節を行い、視覚にとっての最適な光量を維持することが重要になる。このプロセスに、光を直接感じることができる網膜ガングリオン細胞が重要な役割を演じていることはこれまで何回かこのブログでも紹介してきた(例えば:https://aasj.jp/news/watch/7543)。
今日紹介する米国ノースウェスタン大学からの論文は光を感じるガングリオン細胞(RGC)に関する研究で、5月1日号のScienceに掲載された。タイトルは「A noncanonical inhibitory circuit dampens behavioral sensitivity to light (特別な抑制回路が光に対する行動の感受性を低下させている)」だ。
メラノプシンなど光を感じる粒子を持っているRGCは、光を感じて他の神経を活性化する興奮性神経として研究されてきた。ただ、視覚には必ず抑制性の回路が必要であることが知られており、RGCにも同じように抑制機能を持つ部分が存在するのではないかと着想し、調べたのがこの研究だ。
抑制性RGCを特定するために、GABA合成に関わる酵素Gad2陽性のRGCを、遺伝子操作を用いてラベルし、抑制性RGCが存在するのか?投射する脳領域はどこか?について検討し、間違いなく光を感じるRGCが存在し、像の認識には関わらない、上視覚交叉核を始めいくつかの領域に投射していることを確認している。
あとは、遺伝子操作法で特定した抑制性RGCが、本当にGABAを分泌して抑制神経としての機能を持っているのか、光遺伝学と脳のスライス培養を組み合わせて確認している。
その上で、最後に抑制性RGCでGABA合成を止めた時に、何が起こるかマウスの行動解析で調べている。
これまでの研究で、光を感じるRGCがなくなると概日周期への調節能が失われることがわかっていたが(https://aasj.jp/news/watch/8959)、抑制性のRGC機能が喪失しても周期自体は保たれる。また、暗い部屋での瞳孔拡大や、行動性などほとんど変化がない。
しかしよく調べると、1.5ルックスという弱い光の部屋では、行動性が低下し、また光が弱いのに瞳孔が散大しにくい。さらに、弱い光の中でも概日周期がシャープに維持されることもわかった。
以上が結果で、ネズミの話が私たちにも当てはまるかどうかはわからない。薄暗い中で必要なこの機能を私たちがどれほど維持できているのか、ぜひ知りたいと思った。
メラノプシンなど光を感じる粒子を持っているRGCにも同じように抑制機能を持つ部分が存在した。
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網膜を構成する細胞は多彩。
遺伝子治療の効果は、どれくらい期待できるのでしょうか?